もしヨン様に理解者がいたら   作:肩パルト

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◆:兄
◇:妹




日記②/因臥

 ◆ 神無月十五日

 

 何にせよ、力は必要だ。

 私たちは所詮霊力に縛られる矮小な存在にすぎない。

 今日から鬼道、それから白打と歩法の習得と習熟を目指す。

 

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 ◇ 神無月二十七日

 

 鬼道の習得は順調だ。

 兄上が編み出した効率的な方法を以てすれば習得は容易だった。

 課題となるのは習熟。

 最終的には全ての鬼道を詠唱破棄で扱えることが目標だ。

 

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 ◇ 霜月十二日

 

 霊圧が日に日に増していくのを、最近は顕著に感じる。

 なぜか私の成長は兄上のそれを大きく上回っていた。本来であれば力が増すことは喜ばしいことの筈だが、どこか不安を覚える。考えすぎだろうか。

 

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 ◆ 霜月二十日

 

 妹の霊圧が妙だ。

 明らかに通常の範疇を超える成長をみせている。

 既に御廷十三隊の席官クラスに匹敵する霊力が彼女にはあり、それでいて成長速度は衰える様子がない。

 調べた限りではまだ異常とは判断できない。しばらく様子を見ることにする。

 

 綱彌代時灘や周囲の者に目をつけられることのないよう、今後霊圧は抑制して過ごした方が良いだろう。

 

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 ◇ 師走二日

 

 鬼道を扱うたびに、どこか霊力に違和感を覚える。急速に霊力が成長したことによる弊害だろうか?

 

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 ◇ 師走七日

 

 体が痛む。特定の部位が痛む訳ではなく、強いて言うならば体よりもっと根幹的な、自身の核とも言えるようなところが酷く疼くような感覚。

 

 昨日鬼道を使用した時に突然痛みが身体を襲い、それ以来身動きが取れなくなってしまった。

 

 私の状況を聞きつけた綱彌代時灘が懇意にしている御廷十三隊の四番隊員を手配してくれた。明日、回診にやってくるようだ。

 

 力を持ち、真実を知っていながらも欲望のまま生きる畜生(ケダモノ)。そんな奴に借りを作るようで不愉快だけれど、今回ばかりは仕方がない。

 朝が来て目が覚めたら全て治っていれば良いのに。

 

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 ◇ 師走八日

 

 訪れたのは山田清乃介という男だ。

 彼は少し皮肉屋なところのある男だったが、治療に対しては真摯に向き合ってくれた。

 彼の言うには、私の魂魄は壊れかけているらしい。私の膨大な霊力に反して魂魄が脆弱すぎるゆえ、耐えられずに自壊してしまったようだ。

 

 回道で魂魄を修復してもらったが、根本的な解決は不可能で、また時が経てば霊圧によって自壊するだろうということだった。

 当然鬼道を扱うなど以ての外だ。

 

 安静にするよう告げて彼は帰って行った。

 何もできないことがもどかしい。

 それでもできることを探さなければ。

 

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 ◇ 師走十六日

 

 痛みで眠れないので、気を紛らわすために筆をとる。

 あれから兄上が習得した回道で定期的に治療を受けているが、日に日に増す霊力の影響もあってきっとこのままではジリ貧になるだろう。

 

 それでもいつまでも兄上を頼るわけにはいかない。

 

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**********

 

 

 

 

 「それで、どうだったんだ?」

 

 綱彌代時灘はちょうど藍染家から戻った山田清之介に尋ねた。

 

 「時間の問題かと。今はまだ回道で間に合っていますが、いづれ膨れ上がる霊圧に追いつかなくなり自壊するでしょうね。」

 「いつまで持ちそうだ?」

 「霊圧の成長速度が未知数なのであまり正確ではありませんが、このままいけばあともって半年ほどかと。」

 

 ──まさか片方が不良品だったとはな。

 聞きたいことを聞き終えると、時灘は足を踏み出した。

 

 「どちらへ?」

 「少し見舞いに、な。」

 

 

 

 

 「調子はどうだい?」

 「清之介さんの回道のおかげで、今はだいぶ楽になりました。」

 

 布団から起き上がり藍染美代は答えた。言葉に反して顔は青白く、霊力の流れにも乱れがある。魂魄が壊れかけているのだ、当然だろう。

 

 「お兄さんはどうしたのかな?」

 「兄は今、書庫に篭って回道を習得中です。」

 「まだ霊術院に入学してすらいないのに、もう鬼道を扱えるのか。全く大したものだ。」

 

 ──(出来損ない)と違ってな。

 そして己の嗜好を満たすために思いついたことをを彼女に提案する。

 

 「このまま死ぬくらいなら、兄のために死んでみる気はないか?」

 「………どういうことですか?」

 「私はね、今の霊王にとって代わる新たな霊王(人形)を造るつもりなんだ。そのためには数多の魂魄を必要とする。その核として、君の魂魄を使わせて欲しい。上手くいけば、君の意識も残せるかもしれない。」

 

 ──さて、どんな反応をする?

 時灘は己の胸に渦巻く嗜虐心を悟られぬよう、平静を保ったまま回答を待った。

 藍染美代は、丸々とした目をぱちくりさせて時灘を覗く。そして一拍の間を置いてから答えた。

 

 「いいですよ。」

 「ほう?」

 「でも、私が死ぬまで待ってもらえますか?」

 

 想定していなかった回答に思わず片眉を上げる。

 

 「このまま死ぬくらいなら試してみたいことがあるんです。それでダメなら、私を使ってください。」

 

 生きることを諦めていない目。

 困難を乗り越えんとする眼差し。

 ───つまらんな。

 壊れた玩具らしからぬ反応に失望の念を抱く。急速に目の前の物から興味が失われていった。

 

 「……そうか、礼を言うよ。それでは私はこれで失礼しよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 「はい。……山田さんの件など色々とありがとうございました。」

 

 ──まあ、霊王(人形)については兄の方に協力してもらうとしよう。それから────

 

 今後のことを考えながら時灘は屋敷へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 「はぁー。私を人形の材料にしたいってさ。よくもまあ子供相手にぶっ込んでくるよね。普通に引くんだけど。」

 

 時灘が去るのを見送った美代は、誰もいない部屋で呟く。するとどこからともなく返事が返ってきた。

 

 「全くだ。わざわざ人形なんかに使わずとも、もっとマシな使い道があるだろう。」

 「それ冗談だよね?」

 

 現れた藍染惣右介は美代の側に歩み寄り、彼女の胸に手を当てる。手からは暖かい光が滲み出ていた。

 

 「調子は?」

 「正直あんまりかな。まあでも、多分何とかなると思う。……っていうか何とかならなかったら実験材料にされちゃうみたいだしね。あの人、何か勝手に失望してたし、これでもう絡んでこなくならないかな?」

 「多分もうそれは難しいと思うよ。」

 「………まさか。」

 

 突如、玄関戸口を勢いよく開ける音が響く。

 

 「藍染殿!藍染惣右介殿か美代殿はいらっしゃるか!?」

 

 声の主が続ける。

 

 「伊左雄殿が亡くなられた!」

 

 

 

 

 

 

 

 藍染伊左雄及びに同行していた近藤真樹、松谷源五郎のが死亡が確認された。任務中、()()()()死角から(ホロウ)に急襲されたことによるものらしい。

 

 そして伊左雄亡き今、流魂街出身の者が家を継ぐことは認められず、藍染家は彼の代で潰えたのだった。

 

 残された二人の養子については、霊術院入学までの一時の間、当主の意向により綱彌代家の預かりとなることとなった。

 

 街の者は噂する。

 ──藍染家、結局一家全滅したらしいよ。

 ──やっぱり、藍染家にはきっと悪い何かが憑いていたのね。

 彼の死は風聞として人々の間に広まった。だがやがて噂をする者はいなくなり、彼の存在はいつしか人々の記憶から消えて行ったのであった。

 

 

 

**********

 

 

 

 

 とある屋敷の縁側にて、京楽春水は旧友と時間を共にしていた。

空を分厚い雲が覆っている。湿り気を含んだ風と土の匂いを感じながら、京楽は予感した。

 ──これは、降りそうだね。

 茶菓子を一口食べる。ここに来る道中に旧友が買ってきてくれた、氷砂糖でじっくりと炊いたあんこが売りの商品だ。すっきりとした甘みが口の中に広がる。

 

 「一体、どういうつもりなんだろうね?」

 

 不意に放たれた京楽の一言に旧友──浮竹十四郎は首を傾げた。

 

 「何かあったのか?」

 「いやなに、あの綱彌代時灘が子供を預かるなんて珍しいこともあるもんだと思ってね。」

 「ああ、藍染家のことか。彼ら、春から霊術院に通うんだろう?なら俺たちの方でもしっかり見ておけばいいんじゃないのか?」

 

 京楽とは違い、浮竹は時灘のことを本気で友人だと思っていた。少し忍びないなと思いつつも、時灘に対する疑念を口にする。

 

 「まあそうなんだけどさ。……この間綱彌代家で時期当主の座を巡ったゴタゴタがあっただろう?()()()()()が立て続けに起こったやつ。それで無事次代が決まったと思ったら今度は仇討ちだなんだのって、このお家騒動は分家から縁戚関係まで及んだようだよ。それで生き残った綱彌代時灘が当主となり、縁戚の養子を引き取った、と。」

 「彼が仕組んだと考えているのか?」

 「そうじゃないことを願っているよ。……何も起こらないといいけどね。」

 

 そう言って京楽は残りの茶菓子を口に頬張る。じめっとした空気せいか、それとも辛気臭い話をしたせいか、茶菓子は先程よりもどこか湿気っている気がした。

 

 「おっと、降ってきたな。」

 

 いち早く気がついた浮竹の声で景色に目を向ける。雨粒が一つ、二つと石畳に染みをつくり、次第に勢いを増していった。水の匂いが鼻につく。

遠くの方からは雷鳴が聞こえた。

 

 「………全く、くわばらくわばら、だねぇ。」

 

 そう呟いたのは雷除けのまじないか、あるいは未来の可能性を危惧してか。自分でもわからないまま、言葉は雨音の中に紛れて消えていった。

 

 

 

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