ようやく小説版を読み終えました……。
◆:兄
◇:妹
◆ 師走二十日
魂魄の限界。
彼女の
この限界を超えるには、それこそ霊王を創り出すくらいの発想と技術が必要になるはずだ。
妹は嫌がっていたが綱彌代家に来れたのは僥倖であった。ここには他所にはない情報がある。
**********
◇ 師走二十日
さて、自身の状況について打開しなければならない訳だが、考えている手段は至極単純なものだ。
そう、壊れてしまうのなら常に治し続ければ良い。
ということで自身で回道を扱って回復できないか試してみた訳だけれど、そう上手くいくわけもなく、痛みでうまく霊力を扱うことができなかった。
回診にきた山田清之介に教えを乞うたところ、そもそもこの魂魄の状態で霊力を扱えることがおかしいと一蹴されてしまった。
それでもやるしかない。
**********
◆ 睦月六日
霊王を創るには霊王の欠片に加えて死神、人間、
だが恐らく、創り出すだけでは霊王足り得ない。やはり魂魄の限界という壁にぶつかる筈だ。
**********
◇ 睦月十日
今日は危うく死にかけたが、そのおかげで要領は掴めた。
次こそは、必ず。
あとは恐怖を乗り越えるだけだ。
**********
◆ 睦月十八日
魂魄の限界を乗り越えるには、存在そのものを変質させる必要があると考える。
そう例えば、
死神も
**********
◇ 睦月二十三日
成功だ。
なんとか自身で回道を扱えるようになった。
あとはこのまま回道を常にかけ続ければ良い。
一般的な怪我の治療とは違い、魂魄を治すだけであれば大した技術は必要ない。
要するに私の魂魄の治療には霊力が物を言うのだ。
霊力が増すことで魂魄への負担が増しているのであれば、その増えた霊力で以て魂魄を治せばよい。
今のところは身体の動きに差し障りはない。
これからは鬼道を捨てて、剣術と白打の鍛錬に打ち込むことにする。
**********
◆ 如月四日
理論上、死神を
そしてそれを成すための道具を創り出す必要がある。これを私は──崩玉と名付けた。
あと必要となるのは研究と実践だ。
どうやら綱彌代家は代々霊王の欠片の保有に執着していたようで、設備には事欠かなそうである。
綱彌代家なしではここまで至るのにもっと時間を要したことだろう。彼には感謝しなければ。
**********
◇ 如月十九日
あれからも体調に問題なく過ごせている。
瞬歩や空中での足場作り程度であれば回道と並行して霊力を扱うことができるようになった。
**********
◆ 弥生九日
崩玉の材料として、凡庸な魂魄では不十分な可能性がある。
その場合、特異な魂魄が必要になるだろう。
例えば、次の二つなような。
“無間”に収容されている不死なる者の魂魄。
“地獄”に囚われる霊子の循環から外れた魂魄。
これらの特性や所在についても並行して調べていく必要がある。
**********
◇ 弥生三十一日
明日から霊術院での寮暮らしが始まる。
綱彌代時灘の興味は完全に兄上に移ったらしく、あれ以来私に絡んでくることはなかった。
最近、邪教の集会でも開かれているのか、夜半に二人でコソコソと何かしているようである。
取り敢えず私は気づかないフリを続けることにする。
**********
**********
棚に立ち並ぶ様々な器具や標本、うず高く積まれた何らかの資料と思われる書類。液体の満たされたガラス管の中には正体不明の肉塊が浮かんでおり、時折気泡が不気味な音をたてて昇っていく。
まさに怪しい
そんな部屋の中央に置かれたガラス容器の中に“それ”はあった。
「これは……。」
「死亡した綱彌代家の一族の魂魄と、保管されていた霊王の欠片。それらを一つにまとめたものだ。」
そこには、人間の胎児のような一欠片の肉が蠢いていた。繋がれた管を通じて霊力を送り込まれているからか、僅かにだが霊圧を感じる。
「君には唯の肉片でしかないこれを、
綱彌代時灘は、自らの成果を示しながら部屋に招いた少年───藍染惣右介に説明した。
「様々な魂魄をさらに繋ぎ合わせて、今の霊王に取って代わる存在を───意思を持たぬ生贄の山羊を新たに私たちの手で創り上げるのだ。」
時灘は目の前の少年の覚悟がどれほどのものか、それによって彼がどこまで到達できるのかに関心を寄せていた。
───そして最後にはその覚悟を踏み躙ってやろう。
藍染惣右介はその瞳に使命感を宿しながら静かに頷く。しかし、次に発せられた言葉は時灘の予想に反するものであった。
「ですが──これを霊王とするには、一つの課題があるはずです。」
「ほう?それは何だ?」
その話に興味を抱き、続きを促す。
「どんなに混ざっても、魂魄それ自体は凡庸なままです。存在としての壁を越えなければ、霊王には成り得ない。そのための道具が必要です。───僕はそれを、崩玉と名付けました。」
そして彼は説明した。崩玉に関する仮説と、それを裏付ける理論を。時灘は終始興味深そうに、時には感心したように相槌を打つ。
「君は本当に聡明だな。これからも、その頭脳を私に貸してはくれないだろうか。」
───試みが成功しようが、失敗しようが、どちらでも構わんのだよ。所詮は遊びに過ぎん。
「……光栄です。」
───綱彌代時灘、君には研究の被験者になってもらうとしよう。
二人は互いの目的を確かめ合うかのように微笑みを交わす。腹の内を隠したその表情は、良き友同士が親交を深めているかのように、その場にそぐわぬ穏やかな雰囲気を漂わせた。
“悪”と“志”がそれぞれ異なるものを胸に、同じ道を歩み出す──────。
**********
川向こうより 流るるを
待つ
豊富な水が雄大に、ゆっくりと地を這っている。大きな川が静かに流れていた。水面からは靄が立ち上り、辺りは朧げにしか見渡せない。当然川の対岸は見えることなく、川辺に咲き乱れる曼珠沙華の赤だけがこの景色に彩りを加えていた。
どこからか声が聞こえる。
透き通るような少年の声であった。
『対の子らよ。世に挑まんとす子らよ。』
「対の子らよ。大志抱きし子らよ。」
少年の声に連なるように聞こえたのは厳粛な響きのある老齢な女性の声であった。
川辺には揺らぐ靄があるばかりで、人影はない。
それでも声は続く。
『常に求め続けよ。』
「常に砕き続けよ。」
『力あれども器足らず。』
「器あれども力足らず。」
『故に喰らい糧とし、』
「故に壁を打ち壊さん。」
『「──双方満ちてば、神へ至らむ」』
────此処へいらっしゃるのを、いつまでもお待ちしております。
そして声は消える。
川の流れる水音だけがその場に残り続けた。
鏡花水月&???「出番まだかなー」
序盤の説明パートがこれでやっとひと段落した気がする。。