因みにこの物語は10話くらいで終わるつもりでいます。
ではどうぞ。
「それじゃあ、行ってくる。行くぞ、マックス。」
「うん!」
朝の日差しが木々に遮られて、少し薄暗い寒々とした森の中。クロックとマックスは出発の準備が整っていた。スカーレットとエミリーは今日は留守番。見送りだ。
クロックとマックスはこれから人間の街に行って、明日の家族旅行のために下見を行う。危険が伴うたびであることは明らかなため、出発の挨拶にも力が入る。
「それじゃあ、元気に帰ってきてね。」
「うみゅぅ。いってらさーい...。」
昨日は遅かったからか、エミリーはまだ少し眠そうだ。クロックはそれを見て少し微笑んでから言った。
「ああ。必ず帰ってくる。家の事を頼む。」
「母さん、エミリー、行ってきます!」
その言葉を最後にクロックとマックスはもう振り返らない。昨日の夜も見た、人間が作り出す変な光を思い出しながら朝の森を駆けていく。クロックは大きな不安とほんの少しのわくわくを、マックスは大きなわくわくとほんの少しの不安を持って、2匹の猫が駆けていく。
2匹の旅路に何が待ち受けているのかも、知らないままに駆けていく。
野を超え、丘超え、森を越え、山の麓へ一直線。この山で長く生きてきたクロックにとっては容易い事だった。マックスは付いて行くので精一杯という様子ではあるが、なんとか喰らい付いている。クロックはそんなマックスの様子を見ながら、休憩をしたり、道を選んだり、なるべく気を遣いながら進む。
2匹が家を出てしばらく経った。今2匹がいるのは山の麓にかなり近い所、人間の街まではゆっくり行っても後30分ほどと言った所だろうか。
クロックが少し疲れたように言った。
「この辺りまで来るのは初めてだな...。」
「ふー...。父さんもそうなんだ。じゃあこのあたりのことはこの辺に詳しい猫に聞いた方が良いかも。」
「そうだな。心当たりはあるか?」
「ユーリンはこの辺りに住んでるって言ってたけど...って、父さん!なんか変な所がある!」
「むっ!これは、何だ...?森が、途切れている?」
その場所はこれまで培ってきたクロックとマックスの常識を明らかに逸していた。山の一部が消されて地面がカチカチに固められているのだ。まるで巨大な石を地面に敷いたように。更に、そのカチカチ地面は長細く伸びて、その存在感を遠くまで主張し続けていた。
「人間はこんなものまで作るのか...?これは、一体なんなんだ...。」
クロックがそう言った瞬間のことだった。突然2匹の耳が不思議な音を聞いたのだ。
2匹は咄嗟に警戒体制に入る。
「何だ...?この音は...!?」
「これ...!時々遠くの方から聞こえてた音だ。ほら、昨日の狩りの最中にも!」
ぶうぅううん!
音は目の前のカチカチ地面の奥の方から聞こえるようで、徐々に大きくなっているようだった。
「ぐっ...。かなりうるさいな...。っ!あれを見ろ、マックス!」
「え?何だあれ?こっちに来るよ!」
ぶうううぅぅううん!!
何だったのかはわからない。
不思議な色をした光輝く巨大な石のようだった。
その巨大な石のような何かは臭い煙を出しながら、目の前を一瞬のうちに通り過ぎて見えなくなってしまった。
「い...いまのは...!まさか...!」
「ゲホ、ゲホ。父さん、何か知ってるの...!?」
「ああ。いや、俄かには信じがたい。だが、さっきの臭い煙は...いや、そういうことか!もしかしたらこのカチカチ地面は人間の...。」
「...!」
マックスが生唾を飲み込むのが聞こえた。緊張するのも無理はない。しかし残念だが、俺の推測は彼の予想を上回る衝撃を与えることになるだろう。
俺の親父は元々人間に飼われていた。俺がそのことを知ったのは親父が捨てられてから随分経った後のことだったが、親父は俺に人間についていろんなことを教えてくれた。情報は断片的だが、推測で繋げれば答えは見えてくる...。
「家だ!!このカチカチの地面は人間の家で、さっきの石の塊に見えたアレこそが人間なんだ!!」
「な...!そんな...!」
「信じられない気持ちもわかる。だが、間違いない!」
「でも、こんなのが家だと大変じゃない?雨風も凌げないし、冬は寒いよ。とっても長細いし...。」
「マックス。さっきのあの走り去っていったモノが人間だとするなら、きっと彼らは雨や風よりも早く動けるんだ。だからそんな心配はいらないはずだ。」
「そ、そうかなぁ...。で...でも、ユーリン、あぁ、僕の友達は、人間は足がそんなに早くないって...。」
「俺の親父は言っていた。『人間は時々、信じられないほど早く動くのだ。』と。『家の中でイタズラをした時はそれはもうとんでもないスピードで、俺を見つけ出して捉えて叱ってきた。』と。それを踏まえて考えれば、すぐに分かる...。これが、これこそが人間の家で、さっき走り去って行ったモノこそ人間...。」
それはあまりにも突然のことだった。
「これは人間の通り道よ?」
「っ!?」
「えっ!?...わわっ!」
後ろから、誰のものか定かでない声が聞こえたのだ。
その突然の声にクロックとマックスは咄嗟に前方に身を引いた。その拍子に不本意だが、そのカチカチ地面に乗ることになる。
「うわっ!しまった!人間の家に侵入してしまった!マックス、攻撃に備えろっ!」
「う、うん!でも結構歩きやすいね、コレ。」
カチカチ地面は見た目の通り石のような感触で、クロックは慣れないようだが、マックスはむしろ歩きやすそうにしている。
「うふふ。ごめんなさいね。驚かせちゃって。」
「あ、ユーリン。」
クロックとマックスに突然話しかけたのはユーリンという茶色に黒の縞模様、そして綺麗なグリーンの目が特徴のメスの猫だった。さっきの人間?に気を取られて気づかなかったがどうやら後ろから近付いてきていたようだ。
クロックは暴れる心臓を何とか抑えつけて言った。
「む、君がマックスの友人というユーリンか。俺はクロック、マックスの父だ。よろしく頼む。」
「ああ、貴方があの。マックスから聞いてるわよ?『厳しくて、頑固で、全然遊びに付き合ってくれないツンケン猫』だって。」
「っちょ!ユーリン!それは...!」
「む...。そう、か...。そっか...。そうだよね...。」
「ちょっ...父さん!これは違くて...。」
ユーリンの言葉にクロックは頭をガンッと殴られたような衝撃に襲われる。くらくらするような感覚はそのまま彼の身体を動かして、いつの間にかカチカチ地面の端で腰を据えて、遠くを見つめていた。
「いや...。良いんだよ...。確かに僕はいつも頑固で、意地を張っちゃう時もあるし...それに子供の遊びに付き合えないなんて父親失格だし...。時々獲物をつまみ食いしてる時もあるし...。エミリーにもマックスにも本当は強く言えないような猫なんだ...。だから、良いんだよ...。」
「ええ...。いや確かにつまみ食いはアレだけど...。」
「うふふ。ごめんなさい。ちょっと揶揄っただけよ。マックスは『家族のことを第一に考える、あの伝説のケット・シーよりも誇り高い猫だ。』とも言ってたもの。」
「ユーリン...。それもちょっと恥ずかしいって...。」
「む。むむむ。そっか...。いや、そうか!それは...嬉しいな!だが、マックス!あの誇り高きケット・シーよりもというのは少し言い過ぎだぞ?嬉しいけどな!嬉しいけど、言い過ぎだ!ふふふふ。」
「ええ...。父さん、なんかいつもと違くない?」
すっかり元の様子に戻ったクロックは、にやけた顔のまま、とすとすとマックスの方に歩いてご満悦。マックスの身体をぽむぽむと叩いている。
どうやらクロック、これまでとは違う環境、挑戦の中で昔の意識が引っ張られている様子。
そんなクロックの様子を見て、くすくすと笑いながらユーリンが言った。
「長話もいいけれど、だったらそのカチカチ地面からはどいた方が良いわね。」
「ん?どうして?」
「それは人間の道だって言ったでしょ?人間はそのカチカチの地面を石みたいな塊の中に入って滑るの。そうして移動するのよ。それがもうとんでもないスピードで、それに潰されたらひとたまりもないわよ。」
「石の塊...。さっき走り去って行ったヤツか。確かに速かったな。」
「ええ、この辺の猫はアレの事を『くるくる回る人間移動岩』。略して『くるま』と呼んでるの。」
「『くるま』...。『くるま』か。なんかしっくりくるな。」
「略称の中に、『くるくる回る』以外の情報無いけど良いのかな...。」
閑話休題、とばかりにクロックは話を戻してユーリンに問いかける。
「しかし、その『くるま』に潰されると死んでしまうとは、何と恐ろしい...。なんて恐ろしいんだ、人間は...!」
「そう?気を付けていれば大丈夫よ?少なくともその石の塊はこのカチカチ地面しか走らないもの。このあたりの知り合いに身内が『くるま』に潰されて、人間のことを恨んでる子がいるけど、私に言わせればバカげてるわ。」
ユーリンは誘導するように2匹の間を通って、カチカチ地面から離れながら言った。
「だってそうでしょう?人間はただ移動しているだけ。ただの移動よ?私たちはこうして歩いているのと変わらない。私たちを害そうだなんて考えていないわ。だからこのカチカチ地面を作って、ここにしかその石の塊を走らせないのよ。」
「む。そういう考え方もできるのか。だが、殺された猫の家族はやり切れんな...。」
「そうだね...。でも、やっぱり凄いよ...!人間は!あんなに速いモノを動かせるんだよ?きっと人間はネズミも取り放題なんだ!」
「ま、正直避けるのはそんなに難しくないわよ。大きな音と、臭い煙を出してるし、夜はピカピカしてるもの。潰されたっていう猫もおばあちゃん猫で、生きてるのか死んでるのかもわからないくらいだったって話だしね。」
クロックとマックスはなんだか不思議な気持ちになりながらユーリンの後をついていく。
どっちが良くて、どっちが悪いのか、よくわからない。わからないから不思議な気持ちになっているのだろう。もしかしたらどちらかが一方的に正しいなんて無いのかもしれない。
ただ、もし自分の家族が『くるま』に潰されたら、そんなの関係なく、きっと人間を恨んでしまうと思う。クロックはそうならないように静かに祈った。
人間。人間か...。いろんな考えや意見があるが、結局彼らは猫にとって良い存在なのだろうか。
これまで彼らに多くの猫が殺されたのはきっと間違いではないだろう。それでも、彼らが本心から猫の事を害そうとしていないのなら、それはそれで少しモヤモヤする。
ただの移動であんなに速いモノに乗っているのだ。生きるための他の行動も俺には想像もつかない方法で行っているハズだ。きっと彼らの生活はその他の生き物にとって強すぎるのだろう。そのつもりがなくても害してしまうのであれば、一体我々猫は何と戦えば良いのだろうか...。
向こうは戦うつもりがないのに、こっちだけが恨んでいる。それは、何とも、滑稽なような気がしてならない...。
しばらくユーリンの後に続いて歩くと、一風変わった風景を見る事ができた。
それは、森のようであったが、生えているのは木ではない。遠目からではよくわからないが、四角い何かであったり、三角の何かであったりと、とにかく何か固そうなモノがごちゃごちゃと敷き詰められている。
一見して乱雑に散らかった凹凸が目立つが、そんな中にでも秩序はあって、森の中では見ることができない光景だった。
クロックとマックスはその景色を見て何故か、「きれいだ。」と思っていた。
「私はね。」
ユーリンが突然話し出す。目線はそのごちゃごちゃとした景色に向いていた。2匹は何となくあれが人間の街である事を直観する。
「どうしても、人間のことは嫌いになれないのよね...。」
その言葉にクロックとマックスはユーリンに目を向ける。ユーリンは変わらず人間の街に目を向けたままだった。まるで自分1匹しかいないように話を続けている。
「本当に死にそうな時、人間に助けられたから...。あの時食べた餌は今までで一番美味しかったから...。」
昔を思い出すように目を細めるユーリンを2匹はただ見つめていた。
「ほんとはね。多分人間は猫よりもずっと強くて、やろうと思えば私たちを簡単に殺せると思うの。...でも、しない。それはきっと、彼らがとっても優しくて、大きくて、誇り高い種族だからよ。」
マックスはユーリンの話を聞きながら目を輝かせた。何故だかとても嬉しい気持ちになったからだ。
一方、クロックは釈然としない面持ちで話を聞いている。ならば何故、俺の親父は捨てられたのか、『くるま』に潰された老猫は死ななくてはならなかったのか、分からなかったからだ。
2匹の気持ちを知ってか知らずか、ユーリンは最後に少し微笑んでから言った。
「もしかしたら、伝承にあるイタズラ好きの猫の王様『ケット・シー』は、人間なのかもしれないわね?」
クロックもマックスも何も言う事ができなかった。
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「本当はこのまま人間の街まで案内してあげたいんだけど、今日はちょっとお母さんの手伝いをしなくちゃいけなくて...。」
「そうか。いや、気にしないでくれ。ここまで送ってくれてありがとう。これからもよろしく頼む。マックスを。」
「...!っ父さん!」
「ふふ。わかったわ。これからもよろしくね、マックス?」
「もう...。ユーリンも揶揄わないでよ...。」
どうやらユーリンはこれから用事があるらしく、帰らなくてはならないらしい。
彼女はいくつかのアドバイスを残して、「それじゃあね。」という言葉を最後に山の森に消えて行った。
クロックとマックスはしばらく人間の街を眺めたまま、動かなかった。
「...僕さ。この人間の街を見て、きれいだ、って、思ったんだ...。」
ふと、マックスが凸凹の街を眺めたまま言った。
「何で何だろうって思ってたんだけど、さっきユーリンの話を聞いて、人間の道や『くるま』を見て時のことを思い返して、気づいた。」
「...。」
「この凸凹の街は人間の営みの大きさを表しているんだ。僕らの家は大きな木の根元の小さな穴だよね。それに不満なんて一切ない。...けど、人間は、もっと大きいんだ。もっと強いんだ。そう考えたら僕らが随分ちっぽけに思えて、僕らが考えてる悩みとか、不安とか、全部吹き飛ばしてくれる。」
街を見ていたマックスの目がクロックの方に向く。マックスは一度にっこりと笑ってから言った。
「やっぱり、すごいなぁ...。人間は...。」
クロックは何故だか見ていられなくて、誤魔化すように街に目を移す。
太陽の光が反射して凸凹の街がきらきら光る。クロックは目を細めて一言だけ、絞り出すように言った。
「...そう、だなぁ...。」
人間は大きい。人間は速い。人間は強い。猫にできることは全部できるようなそんな種族なのかもしれない。
俺が人間なら、もっと家族をうまく守れたのだろうか。人間は、家族なんか一度たりとも失わないのだろうか。そう考えると、考えることは無意味であることは知っているが、やっぱり、人間が、羨ましい。
「そろそろ、行くか...。」
クロックは絞り出すように言葉を発した。
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幕間
「何でちゃんと起こしてくれなかったのー!!」
「起こしたわよ?いってらっしゃいも言ってたじゃない。」
クロックとマックスが出発してから少し経った後、朝早くに出発だった上に昨夜は遅くまで起きていたため、2匹は一度帰って二度寝をしよう、と寝床に戻った。
しばらく眠って起きた時、突然エミリーが言い出したのだ。
「あれー?にいちゃんとパパは?どこ?」
当然スカーレットはもうすでに出発したことを伝えたのだが、エミリーは納得せず。
それで冒頭のような言い合いになっているのだ。
「起こしてないー!おきてなかったのー!お゛ぎてながっだの゛ーー!」
「起きてたって...。」
「わあ゛あ゛ああああ゛ぁあー!!」
だいぶめんどくさい感じになってるわね...。スカーレットは耳を塞ぎながら思考する。
どうしたものかしら...。うまいこと誤魔化すには...。
スカーレットは思いついた端から試していく。
「あ、ほーら、エミリー。ネズミよー。あんなところにネズミが走ってるわよー。エミリーに食べられたがってるわー。」
「...。」
まずスカーレットは前足で石を蹴り出しながらエミリーの視線を誘導する。このくらいの年頃ならちょっと夢中なものを見つけたら、悲しいことや悩みなんてすぐ忘れるもの。
薄暗い洞穴の中のため、ぱっと見はわからないはず...。と何度も石を蹴り出す。しかし...。
「わあ゛あ゛ああああ゛ぁあー!!」
これは失敗に終わった。エミリーの狩猟本能よりも、置いてけぼりにされた悲しみの方が断然大きかったようだ。単純にネズミでない事に気付かれたのかもしれない。
次にスカーレットは落ち着いて説得することを試みる。
「大丈夫よー、エミリー。今日2匹が帰ってきたら、『おかえり』と一緒にさっき言いそびれた『いってらっしゃい』も言えば良いのよ!そうしたらプラマイ0!」
「...。」
エミリーはまだまだ子供だ。それらしい事を言えば何となく納得して折れてくれるかもしれない。今をうまく誤魔化せれば忘れるだろう。スカーレットはそう考えたのだ。しかし...。
「わあ゛あ゛ああああ゛ぁあー!!」
流石に無理があった。エミリーが小さいとはいえ、こんなめちゃくちゃな理論で納得はしない。
追い詰められたスカーレットはついにヤケクソになっておかしな手段を取る。
「大丈夫だぞー、エミリー...。まだわた...俺たちは出発してないからなー。」
「そうだよー、エミリー。まだいってらっしゃいは言えるよー。」
「...。」
それは2匹の声を真似ながら隠れて、まだ出発していない雰囲気を出す事だった。冷静に考えればすぐにおかしいと気付ける。だが今、エミリーは冷静とは対極にある。この方法ならいける!
念の為に言うが、スカーレットは真剣である。
「...ぱぱ?」
「そうだぞー。」
「...にいちゃん?」
「そうだよー?」
これはいけるか...?いや、いける!あとはうまく会話を誘導して...。
「昨日わたしが捕まえたのはバッタである。まるかばつか。」
「え?」
「昨日わたしが捕まえたのはバッタである。まるかばつか。」
「突然どうしたの...どうした?エミリー。」
「パパだったら答えられるでしょ?まるか、ばつか...。」
誤算だった。まさかエミリーがこんな手を打ってくるとは...。成長したわね...!スカーレットがしみじみと考える。
だが、エミリーはミスをした...。それは問題を2択にした事だ。これならワンチャン、当てられる...!
「ま、まる...?」
「ぶぶー。正解はばつ。わたしが捕まえたのはコオロギだもん...!う...うぅ...!」
やっべ。間違えた。千載一遇のチャンスだったのに。
打つ手なし。万事休すね。スカーレットは衝撃に備えた。
「わあ゛あ゛ああああ゛ぁあー!!」
全くどうしたものか。耳を塞ぎながらスカーレットは考える。エミリーは基本的に明るくて良い子だが、仲間はずれを嫌う。それだけなら当然と言えたが、それに加えて1匹で行動する事すら嫌うのだ。
今回のケースでは「いってらっしゃい」が言えなかった事ではなく(実際には言っているのだが)、みんな出発の際に挨拶したのに自分だけ、という風に思っているのだろう。残念ながら今更その過去は変えられない。
ならばどうするか...。
「わあ゛あ゛ああああ゛ぁあー!!」
いい加減うるさくなってきたな...。考えるのもめんどくさいし...。もういいや、自分の思ってる事全部言おう。
スカーレットは一度息を大きく吸ってから大きな声で言った。
「エミリー!!いい加減にしなさい!」
「!!」
「お父さんもマックスも今、家族のために頑張ってるの!何があるかわからない危険なところへ行って、あるかわからないものを探して!」
「...。」
「何でかわかる?それが家族のために彼らがやらなくちゃいけない事だからよ。そして、私たちにもやらなくちゃいけないことがある...。」
「...。」
「家を守ることよ!もしお父さんとマックスが帰ってきた時、家がぼろぼろだったらきっととっても悲しむわ!」
「...。」
「みんなそれぞれ任務を背負っているの。あなたの任務はわかるかしら?エミリー。」
「...ママといっしょに、いえをまもること...。」
「その通りよ。出来るかしら?あなたに。」
「出来る...!何が出てきたってこの爪でやっつけてやるもん!!」
しゃっしゃっしゃっしゃと素振りをしているエミリーは使命感で燃えている。さっきまでの感情は忘れて、家族みんなが背負っている任務を自分なりに果たすことにし集中しているようだ。
スカーレットは一度ふっと笑ってから、エミリーに言った。
「それじゃあ。まずは家の掃除からね?」
「...え?おそうじ?なんで?おそうじ?」
「あら。家をきれいにするのだって、家を守ることよ?まさかエミリー、できないのかしら?」
「で、できる、けど...。おそうじ?わたし、外で敵から家を...。」
「え?エミリーはできないの?この任務を達成できるのはエミリーだけなのに...。」
「!や、やるー!おそうじもおべんきょうもできるもん!」
「そう!エミリーはすごいわねー。」
4匹の猫の家族はいつも一緒である。誰かが戦っていれば、みんな戦っている。場所を変えて、形を変えて、それでもみんな戦っている。
「よーし!がんばるぞー!」
「うふふ。ぴかぴかにしてお父さんたちをびっくりさせましょうか。」
ここでもまた、家の中の小さな戦いが終わり、そして、始まった。
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