あなたに忘れられない星になりたくて 作:ultimate!!
『明日は特に予定もないですし、いいですよ。』
この返答をもらった時、それは嬉しかった。時が止まったと思うくらいに体が固まった。
「あぁ、返信しないと…」
『ありがとうございます!!とりあえず明日の朝にミレニアムに集合しませんか?』
この告白が受け入れてもらえなくても。
『はい。じゃあ、そうしましょうか。』
私が伝えることが大事だと。そう思ったから。
早く着き過ぎてしまった。
9時待ち合わせだったのに今の時間は7時半。
「はぁ…楽しみ…」
息が白くなる季節になって、自分が冬に来たんだなと実感する。
そう考えているとちらほら見える人影の中に、私が待ち侘びている人を見た。
「ノア先輩!?」
「あら…トワちゃん?ずいぶん早いですね。まだ待ち合わせまで時間があると思ったんですが…」
「い、いえ!時間は大丈夫なんですけど、その…楽しみ過ぎて…。」
恥ずかしくなって、つい顔を下に向けてしまう。
「ふふっ、私も楽しみでしたよ?」
「それはそうと、今から朝ごはんを食べに行く予定だったんですが、よかったら一緒に行きませんか?トワちゃん。」
「はい!ぜひ!」
あぁ、早く来た甲斐があったかな。
だって、一日の初めからノア先輩といられるんだし。
「お待たせしました〜」
そう言って届けられるのは喫茶店のモーニングセット。
シャーレに通うようになってから私はすっかりコーヒーが好きになってしまったらしい。それまで飲むことなんてなかったのに。
「トワちゃんは相変わらず美味しそうに飲みますね。」
「いやぁ…いつの間にかコーヒーがめちゃくちゃ好きになってたんですよ…落ち着く…」
この暖かさと苦味が体に染み渡る。
モーニングセットを食べていると、ノア先輩が話しかけてくる。
「ところで、今日はどこに行くとか決めてありますか?」
「あー…それが…恥ずかしいことに決めてなくて…」
ノア先輩を誘って、了承されて。それが嬉し過ぎてついついどこに行くかを考えてなかった。
実際、前ゲームセンターに行ったことはあったけどそれ以外の場所には行ったことがない。
というか、ノア先輩って何が好きなんだろう…
「決めてないなら、少し行ってみたいところがあるのですが…」
「じゃあ、そこ行きましょう!」
そうして、私達は向かう。
「水族館…ですか?」
「はい。今までなんだかんだ行けていなかったので。一度、行ってみたかったんですよ。」
水族館かぁ。確かに私も行ったことなかった。
その一度目をノア先輩と…
「トワちゃん?早く行きましょう?」
「は、はい!」
そうだ。今はここを楽しもう。全力で!
「クマノミ…かわいい…」
「トワちゃんはクマノミ好きなんですか?」
「はい!小さいし、イソギンチャクの中からヒョコって顔だけ出してるところとか好きなんですよ!」
今まで写真とか映像でしかみたことがなかった生き物が今目の前にいる。
説明文だけでは足りないこの感動は、確かに来てもよかったと、そう思えるものだ。
「ペンギンですよ先輩!」
「角に固まって…可愛いですね。」
「本当に…かわいい…」
この時間は幸せで、こんなにゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりだった。
「おぉ〜クラゲだ〜」
「幻想的って言う言葉がここまで似合う生き物も少ないんじゃ無いですかね?」
水の中にふよふよと浮いているクラゲ達。
ぼーっとそれを見ていると、ふとノア先輩が声を出す。
「そういえば、このベニクラゲは不老不死、と言われているそうですよ。」
「不老、不死。」
心臓がドクン、と、一際大きく波打つのを感じる。
「はい。厳密には若返りだそうですが…食べられたりしない限り永遠に生き続ける、と考えられているそうですよ。」
別に、老化が原因で死ぬわけでは無いのに。
別に、若返ったところでどうにかなるものでも無いのに。
「私も、こうだったらなぁ…」
つい、口に出てしまう。
不老不死という言葉が。私に突き刺さる。
さっきまで楽しく聞いていたノア先輩の軽い雑学が。
今私に牙を向く。
「トワちゃん?どうかしました?」
「い、いえ!あ、あっちの方見に行きませんか!?」
咄嗟に水中トンネルの方を指差す。
別に嫌いになったわけでは無い。むしろ実物を見て大好きになったが、今は。今だけは離れたかった。
「そうですね、行きましょうか。」
私とノア先輩、2人で順路を歩く。
忘れろ。あれは私に関係ないと言い聞かせながら。
水中トンネルを通り、珊瑚やアシカなど、水族館ならではのものをノア先輩の解説付きで回った後、外に出ると時間はもう13時を回っていた。
「入った時は10時とかだったのに、時間が経つのは早いですね。」
「楽しい時間は早く過ぎると言いますし、それもあるんじゃないですか?」
笑いながら話を続けるが、ノア先輩が私との時間を『楽しい』と言ってくれたその事実が今はうれしい。
「お昼ご飯どこで食べますか?」
「んー…そうですね…とりあえずショッピングモールにでも行きますか?」
「そうですね!行きましょう!」
私たちは電車に乗り、近場のショッピングモールを目指す。
何か買うものはあっただろうか、ショッピングモールのサイトを見ながら店を探す。
あ、そうだ。
そろそろクリスマスだし、それ用のプレゼントを用意しておこう。
「トワちゃん、降りましょうか。」
「はい!!」
ノア先輩に呼ばれて電車から降りる。
久しぶり…ではないか。確か数週間前にここに来た記憶がある。
なんだっけ。あぁ、そうだ。新しい服を買いに来てたんだ。
今来ている服も、その時買った服だったな。
「先輩何か食べたいものとかありますか?」
「んー…あそこだと…この店とかどうですか?」
「いいですね!そうしましょう!」
そう言って私達は店に行く。
「すいません、少しトイレ行って来てもいいですか…?」
「はい。じゃあ、私はここで待ってますね。」
そう言って私は中に入り、洗面台に手を着く。
「っ、はぁ…」
息を吐き出し、呼吸を整える。
体力の落ち方を顕著に感じる。
それでも、今は強がっていたい。
先輩の前でだけは。
「っよし。行こう。」
「いやぁ、美味しかったですね!」
「トワちゃん、すごく食べてましたね。」
「や、やめてくださいよ!恥ずかしい…」
ご飯を食べ終わった私達は、そんなことを話しながらショッピングモールを周って行く。
「ノア先輩、このマフラーとかどうですか?」
「確かに可愛いですね。なら、トワちゃんはこの手袋とか良さそうじゃないですか?」
「確かに…買おうかな…」
「んー…」
「どうしたんですか?」
「いや、そろそろモモイちゃんとミドリちゃんの誕生日じゃないですか。」
「せっかくなら何か買って行ってあげようかな〜と思ったんですけど、何を買っていったらいいのかわからなくて…」
「うーん、あの2人ならプレゼントをもらったらなんでも喜んでくれそうですけどね。」
「いやぁ、その光景は想像できるんですけど、せっかくなら心の底から喜んでくれるものを渡したいじゃないですか。」
「ゲームは考えましたけどどれを持ってるとかわからないし…」
「あっ、数日前部室に行った時このゲームはありませんでしたよ。」
「本当ですか!?先輩ありがとうございます!」
「ノア先輩、弾薬とか足りてます?」
「私はまだ大丈夫ですね。トワちゃんは大丈夫ですか?」
「私は…ちょっと買って来ますね。」
「弾薬以外も買いましたか?」
「あぁ、一応手榴弾も買っておこうと思いまして。」
「最近また少し不良が増えて来てますもんね。」
「本当ですよ!私あんまり戦闘得意じゃないのに…」
「そこはこれから練習していったらいいんですよ。」
「…そうですね。」
「トワちゃん、少し席を外しますね。」
「了解です!そこで待っておきますね。」
「…疲れたな。あれ、ネル先輩だ。おーい!ネルせんぱーい!」
「ん?おぉ、トワか!」
「はい!先輩はどうしたんですか?」
「私は仕事の帰りだな。トワは…あれか?デートか?」
「えっ!?あっ!?ばっ!?はいそうです!?」
「ハハハッ、そんなテンパるなよ!私からしたら結構バレバレだったぞ?トワがノアのこと好きなのは。」
「えっ…そんなに露骨でした!?」
「あぁ、かなりな。他にも気づいてるやつ数人いるんじゃねぇか?」
「うぅ…そうかぁ…隠してたつもりだったんだけどなぁ…」
「…それで?告白はするのか?」
「…なんで言わないといけないんですか」
「ハハっ、いいだろ聞かせろよ〜!」
「…しますよ。今日の帰りに…」
「頑張れよ。」
「…はい。」
「今日は楽しかったですね。」
「はい!ところでそろそろ時間もいい時間ですけど…」
「そうですね。そろそろ帰りましょうか。」
ショッピングモールから出た私たちを迎えたのはあまりにも綺麗な夕焼け。
少しの雲に、そろそろ半分沈みかかるくらいの太陽。
「あの、ノア先輩。」
「はい?どうかしましたか?」
そう言ってこちらを振り返るノア先輩。
その夕日に輝く姿が美しくて、一瞬ぼーっとしてしまう。
ただすぐに我に帰る。そして、軽く息を吸って、吐いて、覚悟を決める。
「先輩。ずっと、ずっと好きでした。」
「付き合ってください。」
色々と考えて来ていたのに、私の口から出たのは驚くほどシンプルな言葉。
お互いが顔をまっすぐ見つめ合い、そのまま私たちの間に沈黙だけが残る。
あれほど騒がしいはずの周りの音も聞こえない。
ただ、この瞬間、この空間だけは私たち2人だけの空間で、時間だった。
何分経っただろう。沈黙が破られたのは一瞬だった。
「…はい。よろしくお願いします。」
そう言って、少し微笑んでくれたノア先輩の顔は、ほんのり赤らんでいた。
その後、電車に乗った私達は一言も話すことなく、ミレニアムに着く。
そのまま駅を出て、私たちが別れる分岐点まで来る。
「トワちゃん。」
「はい。」
「また、明日。」
「…はい。」
言葉が濁った。
このことが言えても、ノア先輩には余命のことが言えていない。
一瞬、そのことを伝えるか迷った。
ただ、また明日と言ってくれたその顔が美しくて。
私が伝えることで、その顔が崩れてしまうのを見たくなくて。
言えなかった。
ノア先輩が去っていく。
その姿を見ながら。
あの笑顔を思い出しながら。
自己満足かもしれないけど。
私が生きている間に先輩を悲しませることがないように。
私は隠し通すことを決めた。
次回は明日か明後日には投稿します。
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