クラス転移したけど見捨てられたので復讐します。   作:Talioata

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 深い森の中を、結城翔は黙々と歩き続けていた。

どこまでも続く原生林。頭上に広がる木々の枝葉が陽光を遮り、うっすらと緑がかった暗がりの中、翔の足音だけが静寂を破っていく。

 

 時折、見知らぬ鳥の鳴き声が響き、この世界が地球ではないことを否応なく思い出させた。大きな倒木を乗り越えながら、翔は数ヶ月前の日常を反芻した。

 

 窓から差し込む午後の日差しの中、確か…そう、英語の教科書を開いていた。なんてことのない授業間の休み時間に、他愛もない会話を交わしていた級友たち。あの教室での光景が、まるで遠い過去のことのように感じられる。永遠にも感じる時間割を見つめて、講義が終わったにも関わらず気だるさに負け片付けも準備もせず意識を飛ばしていた。ただ次のコマを告げる鐘を待っていた。

 

 そして、突如として教室全体を眩い光が包み込んだ。

 

「早熟……か」

 

 呟きながら、翔は左手の平を見つめた。異世界に転移した二年B組、その全員がそれぞれ特別な能力を授かっていた。剣術の才能、魔法の適性、治癒能力――クラスメイトたちが強力なスキルを手にしていたことが次々に判明していった。皆水を得た魚のように生き生きしていた。剣が銃に勝り、指先で雲を裂き、言葉を解さない猛獣と心を通わせる。体一つで世界を塗り替える様は、まるで夢をみているようだった。翔も、年相応に夢を見ていた。自分にも、と。

 

 そんな中、翔に与えられたのは「早熟」という、一見すると何の変哲もないスキルだった。

 

「覚えが早くなる……それだけかよ」

 

 歯を食いしばり、木の幹を叩く。確かに成長する速度は異常であり、一度目にすればどんな技でも再現ができた。しかし、光すら追う見切りや、地平線を越える鷹の目などない。どこまで行っても只人の身では追いつけない場所に、あいつらはいた。

 

 戦いが始まってからも、翔のスキルは目立った効果を見せることはなかった。魔獣との戦闘訓練では常に後方に下がることを強いられ、他のクラスメイトたちが着実に力をつけていく様子を、ただ眺めることしかできなかった。

 

そして今日、全てが変わった。

 

 突然の魔獣の襲撃。混乱の中、仲間たちを乗せた飛行船が翔を残し上昇していく。船上から投げかけられた申し訳なさそうな視線。そして、最後まで手を差し伸べることなく遠ざかっていく影。

 

 翔は立ち止まり、木漏れ日の差し込む空を見上げた。いくら目を凝らしたって飛行船の姿はもう、どこにもない。

 

「はあ……」

 

 深いため息が漏れる。これからどうすればいいのか。

 

 途方に暮れる思考の中、不意に微かな物音が耳に届いた。

 

 茂みの向こう、巨大な木の根元に、誰かが身を寄せているのが見えた。

 

 銀色の髪。尖った耳。翔はその姿を目にして、一瞬息を呑んだ。エルフ――この世界の住人である彼女は、明らかに負傷していた。白い衣装に血が滲み、苦痛に歪んだ表情で、根の上に半ば崩れるように寄り掛かっていた。

 

 彼女も同時に翔の気配に気付いたのか、緊張した面持ちで彼を見つめ返す。翠色の瞳が、警戒と不安を湛えていた。

 

時が止まったかのような沈黙。

 

 異世界に召喚され、仲間に裏切られ、途方に暮れていた翔の前で、運命の糸が新たに紡ぎ始められようとしていた。

 

 

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