獅子はいつも星を願う   作:fallere

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咲季√ 1話


「「「ありがとうございました」」」

 

授業を終え、蒼空はアイドル科の学舎に向かう。

目当ての人物はストイック故に、今日の授業が終わればどこを目指すかは目星がついている。

あるレッスンルームへの道のりで彼女を姿をとらえた。

 

「花海咲季さんですね」

 

声をかけられた咲季が振り返る。

揺れる赤い髪、小柄な体でも堂々と、幼さが残る可愛らしい顔に、

もし彼女が他の誰かなら、その顔に似合わないだろう自信満々の笑みを浮かべて。

 

「あらっ、プロデュース科の人がわたしに御用?」

 

どうにも既に粉を何度かかけられたのか、どこか慣れた反応をするが、

蒼空のやることに変わりはない。

 

「あなたをプロデュースさせてください」

 

アイドルとのファーストコンタクト。

調査で得たデータを脳内に広げ、咲季の反応を窺う。

 

「もー、その台詞は聞き飽きたわ。

 ま、仕方ないけどね! 私が魅力的すぎるのが悪いんだから!」

 

アイドル科、外部入学組学年主席。

それもこの数年の外部入学組でもトップの能力値(ステータス)。そんなことは誰もが調べている。

故に彼女に自分がそれ以上であることを証明する。

 

「ふーん、いいわ! じゃあ質問よッ!

 なんで私をプロデュースしたいの?」

 

もっとも単純な質問。

個人の事情は捨て置き、花海咲季の魅力を連ねる。

 

「顔の良さは言うまでもなく、短期間で歌唱などアイドルとしての技術を身に着けたセンス、

 中でもこれまでの運動経験を生かしたダンスは現時点でアイドル科の生徒にも並べるでしょう。

 あなたは間違いなく輝けるアイドルの逸材です。

 加えて学業なども疎かにしないストイックさ。

 プロデューサーとしてこれほど引き込みたいアイドルはそうもいない」

 

「わ、わかってるじゃない!

 えへへ……ふへっへへへ……♡」

 

照れて体を震わせる彼女は先ほどまでの堂々とした態度とはまた違った、

年頃の少女としては少々幼く見える振る舞いも魅力的に映る。

 

「……あなたに決めちゃおっかな」

 

その言葉にすかさず契約書を取り出し、判子を求める。

 

「うん! 拇印でいい?

 ……ん? って、ちょっと待ったぁ!

 なんかよくわからないけどダマされている気がするわ!」

 

打って変わって厳しい目を向けてくる咲季。

ちょろいとは知っていたが少し心配になるくらいだったのでこの方が有難い。

 

「運動神経抜群! 容姿端麗! 学業優秀!

 入学試験で主席を取って向かうところ敵なしのこのわたし!

 花海咲季には悩みがあるわ! それは何!?」

 

答えてみせなさいと、挑戦心と期待の混ざった視線がが蒼空を射抜く。

だが動じることはなく、蒼空も目を咲季に合わせ回答する。

 

「あなたは負けず嫌いな人だ。

 それも自分が一番じゃないと気が済まないほどに筋金入りの。

 勝つための努力を惜しまず、多くの競技で成果を残してきた」

 

彼女の過去をなぞるように語る蒼空の言葉に、

咲季も彼が本気でプロデュースに来たことを認める。

 

「そんなあなたはいま『このままでは負ける』と思っている」

 

「……は?

 ……なんですって?

 なぁんですってぇ~~~~~~~!」

 

ありえないこと言われたような、

否、普段の堂々とした態度からはきっと誰も読み取れないことを言われて、

咲季は咆哮した。

 

「このわたしが! この花海咲季が!

 そんな弱気なことを考えてるっていうの!?」

 

「そうです」

 

「……!」

 

間髪入れずに返されて、咲季も流石に驚いたようだ。

どこか怒りの混ざった瞳を蒼空に向けて咲季は続ける。

 

「ふんっ、大当たりよ!

 本当に……わたしのことをよく調べてきたのね」

 

称賛の言葉の割に忌々しさと怒りを織り交ぜた声で咲季は続ける。

 

「私は勝つのが好き! 負けるのが大ッ嫌い!

 だけどこのままじゃ、絶対に負けたくない相手に―――

 絶対に負けたくないことで負けちゃうの!」

 

追ってくる恐怖を振り切るようにまくしたて、

これまでとは違った視線を、その青い瞳で向けてくる。

 

「あなた―――いいえ、プロデューサー。

 私はどうすればいいのかしら」

 

真剣な眼差し。だが、蒼空は彼女に確認しなければならないことがある。

彼女の来歴、多くの競技で成果を出したということは、

それだけ多くの競技を転々としてきたということだ。

 

「あなたは多才な人だ。例えばアイドル以外の道も―――」

 

「べーっ! イヤよ!」

 

間髪入れずにダメだしされる。

しかしあっかんべーが驚くほどよく似合う。

 

「夢ができたんだもの。

 世界一のアイドルになるって決めたんだもの。

 だから―――もう逃げない」

 

蒼空の言葉の意図もわかっているのか、

蒼空はその返答を聞いてわずかに口角を上げる。

 

「あなた、わたしの役に立てるといったわよね?

 ならさ、悪あがきに付き合ってくれない?」

 

そんな咲季からのオファーを蒼空は……

 

「お断りします」

 

「ふえっ!?」

 

まさか断れるとはいなかったのか、少し間抜けな声が出てしまった咲季に、

蒼空は笑みを浮かべながらながら答える。

 

「花海咲季に弱気は似合いません。

 勝つための手伝いなら喜んで」

 

「ぐぬぬ……」と忌々し気に睨んでくるが、

感情の整理もすんだのか、一呼吸をして再度真剣な視線を向けてくる。

 

「いいわ! 今日からあなたはわたしのプロデューサーよ!!

 見てなさい! ぜ~ったいに勝ってやる!」

 

蒼空との契約を認め、そして咲季は自分の終生のライバルとの宿命を謳う。

 

「私はあの子の、お姉ちゃんなんだから!」

 

 


 

 

蒼空がプロデューサーについてからの数日後、咲季はご機嫌だった。

初日は実力の再確認といった感じではあったが、

二日目からはアスリートとして過ごして来た咲季にはわからない、

アイドルとしての技術の穴を指摘され、埋めるという日々ではあったが、

明確に自分の実力が上がっていることが実感できている。

 

「ふふっ! 花海咲季、絶好調ね!」

 

加えて(宿敵)との対決を来週の予定として組み込み、

さらに勢いをつけようとしていた昼下がりのこと。

 

天気もいいので校庭で昼食を取ろうとしていた中で声をかけられた。

 

「ごきげんよう、花海咲季さん」

 

声をかけたのは金髪と風に揺れて所々見えるピンクのグラデーション、

アイドルとして抜群のルックスとスタイルを兼ね備えた美少女。

 

「こんにちは、十王星南会長。

 わたしに何か御用?」

 

初星学園生徒会長にして一番星(プリマステラ)、十王星南が立っていた。

 

「……入学式で会った時よりずいぶん成長しているようね」

 

「そうでなきゃ困るわ。毎日レッスンしてるんだもの」

 

当然のこととして毅然として返す咲季。

星南を前にして堂々と言えるのは咲季の胆力のたまものだろう。

 

「……仮にだけど、

 その成長がある日、ぴたりと止まってしまったら。

 あなたはどうする?」

 

その質問は仮定の話としてはあまりにも空気も言葉も重かった。

そしてそれは予言やたとえ話ではなく、

 

「訂正するわ。

 あなたは近い将来、絶対に越えられない大きな壁にぶつかるわ」

 

星南の目で()たアイドルとしての能力値(ステータス)の上限値の話。

咲季はそれはわからないまでも、確信をもって言われていることは理解した。

 

一番星(プリマステラ)がこんなに無礼な奴だったなんて、知らなかったわ。

 逆に聞くけど、あなただったらどうするの?」

 

そして咲季もそれを予感していなかった訳ではない。

何度もライバルとの戦いの中で限界というものは味わってきた。

もし目の前の相手から、解決のためのカギを得られればとも思ったが、

 

「成長限界を迎えたアイドルに未来なんてない。

 夢に届かなかった星は、ただ消え去るのみよ」

 

返ってきた回答は、あまりにも残酷なものだった。

それよりも目につくのは、悔し気な星南本人の表情だった。

 

咲季が思い返していたのは初星学園のパンフレットにあった星南の言葉。

自信、誇り、向上心に溢れた初星学園のアイドルの代表としての言葉にして、

咲季が目標としたアイドルの姿。

 

「がっかり。

 今のあなたは私の模範にならないみたい」

 

星南はその言葉に申し訳なさそうに相槌打つのみ。

そんな星南に咲季は、

 

「……まったく仕方のない先輩ね。

 私ああなたにお手本を見せてあげるわ」

 

胸を張って宣言する。

星南はそれに驚きの反応を示し、咲季はそのまま畳みかける。

 

「接待に越えられない壁とやらをぶっ壊してやると言ってるの!

 一番星(プリマステラ)! 私があなたの模範になってあげる!

 私にアイドルを教えてくれた、かつてのあなたの代わりにね」

 

あまりに傲慢な宣言。

現在の彼我の実力差はもちろん、経験値の差も圧倒的。

だが星南はその発言を諫めることも嘲ることもなく、

 

「――やってみなさい。できるものなら」

 

先ほどまでの弱気な表情はなく、強気な笑みを浮かべ挑戦状を受け取ったのだった。

 

 


 

 

「お兄様! 生徒会のメンバーが集まったわ!」

 

咲季が星南に宣戦布告をした日の夕食。

互いにアイドルとプロデューサーとしての仕事がある中、

会話をする時間は平日では食事の時間くらいとなる。

 

もっとも、基本的に話を持ち込むのは星南であるが、

蒼空に話を持ち寄り楽しそうに話す姿は、学園での完璧な雰囲気と違い、

年相応に甘える少女に見える。

 

「あ、あと新入生に生意気な子が一人いてね。

 外部入学組主席の花海咲季さんなんだけど……」

 

蒼空は自分の担当アイドル名前が思わぬところで上がったとこで驚いたが、

それを表情に出すことなく、話のあらましを聞いていく。

 

「このわたしに模範になってやるという大口をたたいてくれたの。

 あまりにも無礼で思い出すだけでも怒りで胸が熱くなるわ」

 

怒りとは言うが、そう話す星南の表情はあまりも上機嫌で、

蒼空は上手くいきすぎていて笑いをこらえるのに困難していた。

 

「よく似ているな。咲季さんと星南は」

 

「どこが似てるって……咲季さん?

 お兄様、咲季さんと交流あったかしら?」

 

尊敬する兄が、自分の敵を名前呼びしていることが気に食わないのか、

冷たい視線を向けてきたが、彼女の妹も入学していることを理由に追及を避ける。

 

「相も変わらず情報収集はお手の物ね。補欠入学で生徒名簿にも載ってなかったのだけど。

 咲季さんの妹の祐芽には生徒会に入ってもらうことになったのだけど……。

 じゃなくて、私のどこが咲季さんと似てるっていうのよ!?」

 

「言葉の選び方、大口を叩くところ、誇り高く、努力家で、実力もある。

 星南にそっくりだな」

 

星南は褒められたこと自体は嬉しいのか、何とも言えない表情を浮かべながら、

 

「そういうお兄様は、プロデュースするアイドルはついたのかしら?」

 

「ん、今週の初日からもうついてるよ」

 

「それ聞いていてない!?」という星南に蒼空は淡々と「言ってないからな」と返す。

 

この兄妹ではよくあることで、星南も兄の秘密主義な一面は承知しているが、今回は話が違う。

プロデューサーとして優れる兄が選んだ(アイドル)は妹としても非常に興味がある。

 

「誰を選んだの。経験を積んだ2,3年にも優秀な人材はいるけど、

 今年の1年生は素晴らしい生徒が多いもの。

 成果を急がないなら1年生も十分に選択肢に入るわね」

 

プロデュース科の成績はアイドルのプロデュース結果にも左右される。

成果を早期に出し易いという理由で2,3年生を選ぶ人もいると聞くが、

蒼空の能力なら結果を焦る必要がないことも星南は確信していた。

 

「別にいいだろ。誰をプロデュースしていても」

 

星南は相も変らぬ兄の態度に「もうっ」と可愛らしく不機嫌を示すが、

 

「それに……どうせすぐ見ることになるさ」

 

蒼空の回答と、その目に移っていったカレンダー。

来週の土曜日に『ライブ!』と書かれた星南の予定を見ていたことに気づき、

その不満は消え去り、むしろ笑みを浮かべるのであった。

 




ということでまずは学マスの看板娘、咲季√です。
全員やっていくならやはり最初は咲季からいかないと学マスではない。
(過言オブ過言。けど二次創作創るなら先から始めたいよね)

親愛コミュ1話と生徒会結成イベコミュ4話を生地に、
蒼空と星南の会話が背景で進む。

という感じで進めたんですが、コミュのキャラの表情の動きがすごい。
感情の動きや字の分を加えるならどういうのがいいかってのが勝手に浮かんでくる。
(なお、筆者の表現力がそれに耐えうるとは限らない)

次回以降から降り種の要素強く……できたらいいなぁ。
本家様のシナリオが偉大だなぁ……。

でも二次創作はそういうもんだから恥を書きます。
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