旅人のクラウスは火山のふもとの村を訪れ、ファムという少女と仲良くなった。ファムには、スライムを操るという特技があった。しかしファムは、火山に身を捧げる役目に選ばれてしまう。

※カクヨム、pixivにも投稿しています。

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何かを犠牲にするということ

「ようこそ、イスリート村へ」

 

 旅人のクラウスが馬に乗って村を(おとず)れると、村長が出迎えた。

 

 この村は、イスリート山という活火山のふもとにある。

 イスリート山は数年おきに噴火して、村に損害を与えていた。

 

 クラウスは、辺境をあてどなく旅していた際にこの村に立ち寄り、十日ほど村に滞在した。

 

 

 

「旅の御方(おかた)、どうぞファムの家をお使いください」

 

 村長の(すす)めで、クラウスはファムという少女が暮らす家で寝起きすることになった。

 彼女は三年前に身寄りをなくして以来、一人で生活をしていた。

 

「僕にも君ぐらいの妹がいてね」

 

 そんな理由から、クラウスはファムに親近感を(いだ)いた。二人はすぐに打ち()けた。

 

 ファムには、ある特技があった。

 

「――ミラ、もういいよ」

「これは……」

 

 クラウスの目の前に、全く同じタンスが二つあった。

 ファムの合図で、片方のタンスがどろりと(くず)れて、丸っこいスライムに姿を変えた。

 

「私の相棒よ。すごいでしょ」

「あ、ああ。驚いたよ」

 

 ファムは、スライム――魔物と心を通わせていた。

 ミラというそのスライムとは、かれこれ八年の付き合いらしい。

 

 クラウスは有益な技能だと思ったが、他の村人はファムの特技を嫌悪(けんお)しているようだった。この時代、魔物使いは馴染(なじ)みのない地域では、偏見の目で見られることも珍しくなかった。

 

 

 

 クラウスがイスリート村を訪れて九日目。彼は耳を疑うような話を聞いた。

 

「火山への生贄(いけにえ)だって!?」

「旅の御方、口を(はさ)まないでいただきたい。これはこの村の問題です」

「そんな……」

 

 イスリート村では昔から、定期的に火山に人身御供(ひとみごくう)(ささ)げていた。選ばれた者は火口(かこう)に身を投げ、命を燃やし尽くす。――そうすることで、火山の災禍(さいか)(まぬが)れると言い伝えられてきたのだ。

 

「――そんな話は、迷信だ!」

「クラウスさん、もういいよ。覚悟はできてた」

 

 (いきどお)るクラウスの腕を(おさ)え、ファムは淡々と言った。

 そう、次の生贄はファムだ。前回――三年前は、彼女の母親が生贄になった。

 

「くっ……」

 

 クラウスは握った拳を振り下ろした。どうすることもできなかった。

 

 

 

 翌日、ファムは村人全員が見守る前で、火口に身を投げた。

 それを見るのも忍びないと思ってか、クラウスは早朝に村から出発していた。

 

 村から十分離れたところで、クラウスは馬の背に乗せていた大きな荷物の袋を下ろした。山で狩った魔物の素材だ――と、村人には説明していた。

 

 クラウスがその袋の口を開くと、中からファムが現れた。

 

窮屈(きゅうくつ)だったろう? すまなかった」

 

 ファムはふるふると首を振った。

 

「全然。火山に身を投げるよりずっとマシ」

 

 そう言って、彼女はイスリート山を振り返った。

 

「ミラは上手(うま)くやり()げたかな」

「あの子は利口だから、きっと……」

 

 クラウスに応じるファムの声は、尻すぼみに消えていった。

 

 火口に身を投げたのは、ファムの姿に擬態(ぎたい)したスライムのミラだ。クラウスも見る機会があったが、その擬態は正に生き写しだった。村人は誰も、彼女がスライムだと疑うことはなかった。

 

 相棒を失ったファムが悲しみに暮れていたとき、クラウスが何かに気づく。

 

「ファム、それは何だ?」

「え……?」

 

 ファムの肩の上で、もぞもぞとゼリー状の何かが動いていた。ファムが手に取ると、それは甘えるように彼女の指に身をこすりつける。

 それが何者なのか、ファムの直感に響くものがあった。

 

「ミラ……?」

「細胞の一部を自切(じせつ)していたのか」

 

 大きく成長したスライムは、分裂して個体数を増やすという。もしかしたら、ミラはちょうどその時期を迎えていたのかもしれない。

 

 クラウスはファムに微笑(ほほえ)みかける。

 

「成長すれば、元の大きさに戻るかもな」

「ああ、良かった!」

 

 ファムは小さなスライムを胸で抱き()め、涙を流して喜んだ。

 

 

(完)


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