アルーより北へ30キロの地点にある、グラ・バルカス帝国陸軍最前線基地『バルクルス基地』では、陸軍第8旅団と第4師団所属の戦車や装甲車が整列し、暖気運転を行い、出撃準備を整えていた。
出撃前にカーキ色の戦闘服にヘルメットを着用した兵士達が装備の点検を行っている最中、焦げ茶色の陸軍将校服と略帽を被っている第8旅団長のガオグゲル少将が、部下の第4師団長ボーグ中佐と話をしていた。
ガオグゲル「ボーグ君、帝国陸軍は強い!帝国陸軍はユグドでも、今世界に於ても最強だ!」
ボーグ「その通りであります!」
ガオグゲル「その中でもボーグ君が指揮する第4師団は我が陸軍で一番の精鋭師団だ。今回のムー国侵攻作戦では君達に掛かっている期待は大きいぞ!帝軍兵士として誇りを胸に、敵を殲滅してみせろ!」
ボーグ「はいっ!」
ガオグゲルはボーグに激励の言葉を述べて、一呼吸置いて更に続ける。
ガオグゲル「だがボーグ君、いくら最強の帝軍とはいえ兵士達の精神面を疎かにしては元も子もない。最強師団を率いる上では従来の考えを改める必要がある。そこでだ………耳を貸せ。」
ガオグゲルの言葉にボーグは耳を寄せ、ガオグゲルは小さな声で話す。
ボーグ「なんですと!それは………」
ガオグゲルの言葉にボーグは驚いた。
ガオグゲル「アルー侵攻作戦に於て発生した難民の扱いについては、私は関知はしないし咎めるつもりもない。ここには前世界のような国際法などないからかな…」
その台詞にボーグは到底軍人とは思えない不敵な笑みを浮かべる。
ボーグ「分かりました」
ガオグゲル「よし。では全員に命令を伝えろ!直ちにアルーへ向けて進撃を開始し、敵を殲滅しろ!」
ボーグ「はい!」
ガオグゲルの命令は直ちにボーグを通じて第4師団全部隊に伝達され、バルクルス基地から第4師団が戦車を先頭にアルーへ向けて出撃していく。
レイフォルとムー結ぶ街道上にある国境の町『アルー』
今この町に民間人の姿はなく、ムー陸軍と自由連合による前線基地が置かれ、連合軍兵士らしか居ない。
町の役所として利用されていた中央庁舎には、ムーと日本の連合部隊の本部が置かれ、会議室は司令部として利用されていた。
大内田「敵が先に動いたか」
会議室内に大内田の声が響く。
「相手も人間だったと言う事だな。基地に籠りっぱなしで痺れを切らした上での暴挙だろう。陸将、グラ・バルカスの目的は何だと思いますか?」
そう言って彼に声を掛けたのは、帝国陸軍第16軍司令官『今村均』中将であった。
大内田「陸将はやめてください。ともかく敵の狙いは、このアルーをムーへの侵攻の足掛かりにするためでしょう。地理的にも此処はムー本土への侵攻には都合が良いですし、もし私が敵ならそうします」
今村「では予定通り、我々はここを明け渡し我々は後方の空洞山脈まで後退、敵を所定の位置まで引き付け袋叩きにする……と」
大内田「はい」
今村「分かりました、では将兵らには私から伝えておきます。米陸軍にもそのように」
大内田「お願いします。ムーには私の方から」
この日のために備えて、連合軍は事前に敵侵攻作戦を頓挫させる作戦を練り上げていた。
アルーは元から地形的に防衛戦には向かないため、敵が侵攻してきた場合に備えて、後方のマルムッド山脈、通称『空洞山脈』と呼ばれる、魔石で構成され、そこかしこに穴がある特徴を持つその山に敵を誘い込み、待ち伏せ攻撃で敵機甲師団を一網打尽にすると言う作戦だった。
今村「いよいよ
今村はそう言いながら兵舎の横から並んだ自軍の戦車に目をやる。
その名は『七式中戦車』凡そ一年前の魔王退治の際、森の神殿から発見された別世界の帝国陸軍の戦車である。
別世界で使用されたとはいえ、既存の技術でそれも日本からの援助がなくて帝国単独の技術だけで再現可能ではあった。
とはいえ「それだけでは面白みが無い」と言ったある技術士官が自衛隊で退役した74式戦車に搭載されていた105mm砲を搭載したり、車載機銃にライセンス生産が可能であったM2重機関銃を載せたり、発煙筒発射器を取り付けたり、戦車照準用暗視装置付を付けたりとやりたい放題やった為自衛隊からは「形が違うだけの74式」と呼ばれるようになった。
しかし、同じく陸自から退役した「64式対戦車誘導弾」を砲塔後部に二つ取り付けられるようにするなどオリジナリティがない訳ではないようだ。
アルー内に居た連合陸軍は撤退戦に向けて準備を始めた。
敵を引き付ける役の、陸上自衛隊が誇る
また、後方のキールセキにあるエヌビア基地からは、航空自衛隊第3飛行隊のF-3、陸軍第203飛行隊の月光が制空権確保と戦車連隊・ヘリ隊の支援のため次々と出撃していく。
大内田「今村中将、撤退の準備ができました」
今村「ありがとう、陸将。では後を頼んだよ栗林君」
今村はそう言って殿役を引き受けた参謀の栗林忠道に目を向ける。
栗林「司令・陸将、また生きて山脈で会いましょう。ここはお任せください」
今村「頼んだよ。君にはまだやってもらわなくてならない事が山ほどあるんだ」
大内田「御武運を」
トラックに乗った二人を敬礼で見送った栗林は司令部に戻る。
物資の引き上げでガランとなった司令部を見回す中ある物が目に入る。
栗林「ん?これは……」
そう言って彼は机に置きっぱなしだった一つの本を手に取る。
徐に見ていると陸軍の隊員が入ってきた。
栗林「おや?どうかしたかな」
「あぁすみません。ここに本を忘れて…」
栗林「本…というとこれかね?」
そう言って彼に持っていた本を手渡す。
「あぁこれです!失礼しました」
栗林「礼はいいよ。ところでこれは小説かい?」
「はい、《ソードアート・オンライン》という作品です。日本の書店に立ち寄った際に見つけて試しに買ってみたら凄く面白くて……」
栗林「そうか……それほど面白いのか。なら続きを買う為にもこの戦い生き残らねばならんぞ」
「はいッ‼︎」
間も無く、エヌビア基地から飛び立ったF-3と月光がアルー上空を通過。
接近していた敵航空隊を蹴散らすことに成功。
殿部隊に恰好の舞台を作り上げた。
アルーから北へ80キロ地点の草原をグラ・バルカス帝国陸軍第4機甲師団が移動していた。
師団を指揮する、旧ドイツ軍のSd Kfz 222に酷似した戦闘指揮車に搭乗していたボーグは、無線手に話し掛ける。
ボーグ「無線機の調子はどうだ?」
「周波数を変えてみてはいるんですが、一向に応答はありません」
EC-2による電子妨害は周辺のグラ・バルカス帝国軍に影響を及ぼしており、それは第4機甲師団も例外では無かった。
ボーグ「また電離層の問題か………この世界の"自然現象"には困るな」
ボーグ達には電子妨害と言う軍事的概念は頭には無かった。それは帝国の常識から考えれば有り得なくは無かったが、それを実現できる技術が無かったからである。それ故にボーグらには無線の不調も単なる自然現象による偶然としか考えてなかった。
「師団長、間も無く国境突破します」
ボーグ「うむ、障害があれば迷わず踏み潰せ」
第4機甲師団はレイフォルとムーの国境地帯に到達し、国境を示している有刺鉄線で繋がれた国境柵を工兵隊が破壊、地雷やトラップが無いのを確認し、師団は遂に越境した。
「国境突破。ムーの領土に入りました」
ボーグ「偵察隊をアルー方面に向かわせろ。我々はここで30分の小休止だ」
無線が使えないため、ボーグは航空部隊にばかり頼らず目視による敵状偵察のため、偵察隊をアルー方面へ向かわせ、本隊は小休止のため現場で停止させた。
ボーグ「全部隊に昼食を摂らせろ。終えたら直ぐに出発だ」
ボーグは全員に昼食を摂らせ、自身も昼食を摂ろうと、指揮車から降りる。
ボーグ「それにしても嫌な天気だな」
「本当ですね」
雨雲で薄暗い空を見上げるボーグ。
ボーグ「それにしても静かだな」
国境を越えても敵の姿がなく、異様な静けさに違和感を感じる。
『弾着………今!』
その時、前方に停車していた第4戦車連隊の2号中戦車ハウンドⅡが大爆発を起こした。
ボーグ「何だ!?」
『ヒット!全目標に命中!』
第4機甲師団より10キロ前方に第1対戦車ヘリコプター隊のアパッチが、低空をホバリングしていた。全機とも第4師団が居る方向へTADS/PINVSを向けており、彼らの動きを逐一捉えている。
「敵車両10両撃破を確認」
アパッチ隊から放たれたヘルファイアミサイルは最大射程距離から放たれても確実に命中する精度を誇る。
「ミサイル攻撃、第2射用意…撃て!」
再びヘルファイアミサイルが放たれ、撃ちっ放し能力と慣性誘導方式によりヘルファイアは音速に近い速度で、第4機甲師団の戦車に襲い掛かる。
『第2射全弾、命中!』
「敵10両撃破」
「湾岸戦争の時の先輩達はこんな気分だったのかな?」
尾上二等陸尉はモニターに写し出される第4機甲師団の戦車が吹き飛ばされる様子を見て呟く。
「イラク軍に比べれば彼等は前時代的な機械化部隊ですから、お返しの地対空ミサイルが飛んでこないだけマシですよ」
尾上「同感だ……さて、ちょっかい掛けに行くぞ」
アパッチ隊は後方のコブラ隊と入れ替わり、前進を開始した。彼らは自分の姿を第4機甲師団に姿を見せつけるように近づく。
尾上「チェーンガンスタンバイ!」
「了解!」
アパッチ隊はチェーンガンを用意し、軽装甲目標に照準を合わせる。
「射撃開始!」
チェーンガンが射撃を開始した。現代の主力戦車や装甲車にダメージを与える程の威力がある30㎜チェーンガンに使用されている多目的榴弾と焼夷榴弾は、帝国軍の戦車や装甲車の装甲を易々と貫通し内部から破壊していく。
尾上「よし、これだけやれば充分だな!」
敵を空洞山脈に誘い込む作戦のため、敢えて中途半端なダメージだけ与えて後退を開始した。
ボーグは悠々と去っていくアパッチを睨み付ける。
ボーグ「おのれぇぇ!これより敵を追撃する!全隊出発だぁ!」
第4機甲師団は無事な隊や車両を集めて再び前進を開始した。
「敵機甲師団が前進を開始しました」
栗林「作戦通りだ。戦車隊と各隊は直ちに戦闘態勢に入れ」
アルーで待機していた連合軍は戦闘態勢に入った。戦車連隊と歩兵部隊は塹壕に身を隠しながら、待ち伏せの形を取る。
上空には完全武装のコブラ隊が待機し、地上部隊の攻撃と撤退の支援のため待機する。
「目標確認!」
10式戦車のセンサーが第4機甲師団の2号戦車ハウンドⅡとシェイファーを捉えた。
「攻撃用意!」
戦車連隊と普通科連隊は攻撃態勢に入った。
10式戦車はFCSで目標をロックし、小銃小隊と迫撃砲小隊が備える。
「目標敵戦車!対榴、撃て!」
連隊指揮官による攻撃合図で、10式・86式・七式・M60の合計25両が攻撃を開始した。
3キロ先から放たれた対戦車榴弾は、時速20キロで進んでいたハウンドⅡとシェイファーの大群を吹き飛ばした。
「迫撃砲射撃用意……撃て!」
続いて自衛隊の81ミリ、120ミリ迫撃砲が攻撃を開始し、敵戦車隊の後方に居た歩兵部隊に降り注ぐ。
「我々も行くぞ、さぁてこれでも喰らえ!」
物陰に潜んでいたイギリス兵が運び出したのは何かとネタにされがちである「パンジャンドラム」であった。
《方向転換ができない》《推進用ロケットが堕落する》といった欠点を持っていたがその点を日本の技術で補う。
特にラジコンの技術が大幅に活かされた結果1.8tの炸薬を積んだ車輪付きの爆雷が時速100kmというスピードで、それも追尾機能を持って突進してくるという活かされる筈のない凶悪性がこうして形となったのだ。
日本側もこの事は承知しており、ミリタリー界隈では再びネタにされる一方で「一種のドローン兵器」として専門家の注目を集める事にもなった。
「な、なんだありゃ⁉︎」
「ドラム缶が突っ込んでくるぞぉぉ‼︎」
「逃げろぉぉ‼︎」
突進してくるパンジャンドラムを目にした歩兵部隊が逃げ惑う中、取り残されたハウンドⅡとシェイファーにパンジャンドラムが激突、それと同時に炸薬が点火・炸裂し第4機甲師団を次々と吹き飛ばす。
一部は燃料車に当たって大爆発を起こした。
栗林「よし、これだけやれば充分だ!撤収!」
足止めに成功したと判断した栗林は、撤収命令を出した。まず最初に歩兵部隊が後退を始め、トラックや輸送車に乗り込んでアルーから離れていく。
普通科が離れた後、戦車連隊も後退を開始し、上空のコブラによる援護の元、全速力で後退していき、アルーを脱出すると空洞山脈に向かっていった。