原作では余り描かれなかった在留外国人についても触れさせてもらってます
国交締結から約二週間後
日本国と日帝・米・英の間では使節団が双方に向かい、互いに情報交換が為された。
日本帝国
帝都 政府官邸
広々とした会議室には内閣の閣僚から軍の将校が集まり、資料を片手に方々に何かを語っている。
議題はやはり『日本国』についてだ。
頃合いを見計らって、首相の近衛文麿が立ち上がると、周りは一斉に静まり返った。
近衛「お集まりの皆様。本日お越しいただいたのは二週間程前に国交を締結した我が国の未来たる日本国について、意見をお聞きしたいと考えたからです。この国と今後どう接する事が必要か皆さんの意見を賜りたい」
近衛が座ると、海軍大臣の米内光政が立ち上がって言った。
米内「我々海軍としましては、信頼に足る国家だと考えております。歴史に大幅な違いがあるにしても同じ日本民族であることに変わりは無い」
米内に合わせて陸軍大臣の東條英樹も立ち上がる。
東條「私も米内さんに賛成です。彼の国は我々三カ国とはまるで別次元の技術力を有している。我々としても彼らから是が非でも取り入れたいとの考えであります」
二人が座るのと入れ替わり外務大臣の東郷茂徳が立ち上がる。
東郷「先日寄せられた情報によりますと、民間技術に関しては概ね輸出が決定されております。しかし軍部の皆さんが熱望している軍事技術に関してはあちらは、少々難色を示しているそうです」
それを聞いた同席していた陸海軍の将校は苦い表情をして悔しさを露わにした。
東郷「ですが悪い話ばかりではありません。詳細は検討中だそうですが、段階的に軍事技術の開示は行う…とそのような事が仄めかされたそうです」
「本当ですか⁈」
驚いた表情でそう言ったのは連合艦隊司令長官の山本五十六であった。
東郷「はい。これは私の推測によりますが、恐らく彼方さんが使っている噴進弾・噴進機は現段階では無理でしょうがそれでも現行の兵器を上回るようなものは望めそうかと」
それを聞いた軍部の人間達の顔に再び生気が蘇り、年長者達は子供のように目を輝かせ始めた。
山本「最新の技術は無理か…だがこれで新型艦戦・艦攻の開発が捗りそうだ」
「例の十七試艦戦と十六試艦攻ですか?」
隣の嶋田繁太郎が言うのに山本は満足そうに頷く。
山本「うむ。あれが完成すれば我が海軍は晴れて機動艦隊として生まれ変わることができそうだ」
嶋田「長官、それは聞き捨てなりませんな。確かに彼方の歴史には戦艦が攻撃機に撃沈された例もありますが、この世界では戦艦の戦闘力も捨てられては困りますぞ。日本国の紀伊型の51cm砲の技術があれば海軍は今以上に強くなります!」
山本「そうかな?」
米内「まぁまぁ二人ともそう言うのは海軍省に戻ってからにせんか?」
米内に窘められた二人もこれは失礼といった表情で大人しくなる。
「それにしても…やはりソ連は脅威てあったか。北海道に土足で踏み込むとはいい度胸をしとる」
日本国の歴史で北海道へと侵攻したソ連に対して憎悪を口にするのは永田鉄山陸軍大将であった。
永田「東條さん、やはりソ連…いや露助は信用なりませんでしたな」
東條「そうだな…もしこの世界に来る事なくあのまま奴らが我が国に侵攻していたらと思うとゾッとする。だがもし日本国からの技術が導入されれば…」
永田「私としてはこの『61式』いや『74式』も良いですな」
東條「『86式』というのは無理そうか?」
永田「こちらはまだ現役で稼働中だそうです。流石に難しいかと……」
二人は手元にある資料写真を見ながらファッション誌を見る女性のようにあれやこれやと話していた。
いい年をした男たちが、顔を子供のように輝かせて議論しているのを見て、近衛首相はため息をついた。
近衛(全く、これだから軍部は……しかし、民生技術は此方としても欲しいな。そうすれば国民をもっと富ませることができる。そうすれば、陛下もお喜びになるだろう……)
後日、詳細が詰められた技術の輸出に関する話し合いでは、軍事技術に関する物は太平洋戦争にて配備・開発が間に合わなかった物やそれに関する情報や自衛隊で既に退役した物の輸出が、民生技術に関しては50〜60年代の中核技術の輸出が承認された。
2025年
日本国 東京都
「以上が、『大日本帝国』『アメリカ合衆国』『大英帝国』に関する報告になります」
使節の一員として帝国を訪れた、外交官はそう締めくくった。
周りがざわめく中、報告会に参加している防衛大臣が力なく笑って言った。
「唯でさえ『異世界転移』で頭が一杯なのに、今度は『パラレルワールド』か……それも『八八艦隊』に『ダニエルズ・プラン』だと?俄かには信じがたいな……」
彼が言うと、経済産業大臣がそれに相槌を打つ。
「同感です。ここまで様々なことが重なると、もう何にも驚きませんよ。しかし、よくそんな艦隊を建造・維持する資金があったもんだ。下手すりゃ国ごと破産だぞ」
「あちらでは日露戦争で陸軍の立場が弱体化した事により『韓国併合』も『満州事変』も『日中戦争』も起こっていないんです。それくらいの予算は捻出できたんでしょうよ。おまけに樺太での石油の大規模な採掘と輸出、国内の産業基盤強化も平行して進めているっていうんですから、大したものです。この時代でアメリカ・イギリスと同盟を結んでいるのはうらやましい……」
外務大臣がため息をつきつつ言う。
藤堂「ともあれ、『大日本帝国』がどのような国かは概ね理解した。ぜひともかの国とは友好関係を保っていきたいと思うが、どうだろう?」
藤堂の言葉に真っ先に賛成したのは防衛大臣であった。
「自分は賛成です。かの国とは3000kmしか離れていませんし、国土の安全を保つためにも友好関係の構築は必須です。また彼らは『もう一つのアメリカ・イギリス』とも密接な関係を持っているため、無視することはできないと考えます」
するとふと外務大臣が何かを思い出したように立ち上がる。
「総理、実はその『もう一つのアメリカ・イギリス』から先日とある提案が」
藤堂「提案?」
「はい。我が国の転移に巻き込まれた観光客や在留アメリカ人・イギリス人についてです。両国からは"彼らに新しく我が国の国籍を取得させてはどうか?"と」
「つまり……1940年代のアメリカ・イギリスに帰化させるということか?」
文部大臣が疑問を口にすると外務大臣は頷く。
「そう見て間違いないでしょう。総理」
藤堂「なるほど……」
日本としてもこれはありがたい話である。
意図せずして転移させられたアメリカ人やイギリス人の処遇に関しては日本政府としても頭を悩ませていた内容であった。
ここに来てこの提案はまさに救いの手であった。彼らがいずれ40年代のアメリカ本土・英本土に帰ればそれこそ産業発達にも繋がる為悪い話ではない。
「最も、土地や職業・資産についてはまだ詳細を詰める必要がありますが。またそれ以外の外国人に関してはカナダが引き受けてくれるそうです」
藤堂「実にありがたい話だ。両国には"是非そうさせてもらいたい"と返答を頼む」
「分かりました」
藤堂「話が逸れたが、彼の三カ国との友好関係の構築・維持していくことに異論はあるかね?」
藤堂は会議室をぐるりと見回す。
閣僚や大臣たちも多少悩む素振りを見せる者も居たが、満場一致で賛成となった。