特務艦隊停泊地 護衛艦おわり
猪口「連絡員?」
副長から話を聞いた猪口は訝しんだ様子で聞き返した。
「はい。急遽決まったらしく、脱出に際して事前に基地と我々の連携できるようあちらから連絡員が来るというわけです」
猪口「要はパイプ役…か」
「まぁ敵が周りいる中での脱出と救助なのでそれくらいは必要でしょう。こちらが資料です」
猪口は副長から受け取ったプロフィールを一通り読んでみた。
猪口「…… 雁淵孝美…年齢18歳…扶桑海軍大尉……高校生とほぼ同じじゃないか……」
「まぁ人によっては成人してるという人もいますがね」
猪口「そりゃ
頬杖を突きながらプロフィールを副長に返した猪口は不満を漏らした。
彼の不満というのは道徳的な面からくるものだ。
ネウロイに唯一対抗できるのが魔法力を持つ10代の少女だから戦場にいるのは仕方ない、だがいくら志願性だからといっても無事で済むわけではない。《大人として何もしてやれないのか》《大人が守られていいのか?》《責任が重すぎる》というのが彼の中にはあった。
猪口「……で?何処で落ち合おうって?」
「えっと……キミト島沖となってます。日時は明後日…ですが夕方から時化る予報です」
猪口「となると…限界時間は一九〇〇あたりか……」
「護衛にはちとせ、かが、ゆうだち、いなづま、さざなみ、はるなが付きます」
猪口「確かに敵さんのUボートが気掛かりだしな、ちとせは正解だ。すぐ出港準備にかかるよう各艦に打電」
「了解」
翌日、準備を整えたおわり以下各艦はストックホルムを出港。
目的のキミト島沖へと向かった。
孝美「……今日に限って悪いわね……」
フィンランド湾を一人飛行する孝美は空を見上げて呟いた。
彼女が連絡員として選抜された理由としては、502の中ではパイプ役に的確とラルが判断したのと彼女自身が本来立っての希望だった。
502に妹であるひかりが正式に配属された事により、本来自身は508に転属するはずが第三帝国の出現と同時に行動を開始したUボートによって、母艦になる筈だったレキシントン、翔鶴、ヴィクトリアスが撃沈された事により508創設の話は白紙になった。
また帰国しようにも周辺状況の悪化により已む無く彼女は502に籍を残して妹や仲間達と戦っていたが、何処か申し訳なさを感じていた。
そんな最中に舞い込んだのが今回の一件であり、「奉仕したい」という感情に似た何かの影響もあり自ら志願。
ひかりに心配されながらも飛び立ったは良いもののこの天気では高度をあげようにもあげられない。
孝美「敵にも注意しないと…」
もうあと2、3時間飛べば到着する距離だったが隣はほぼ敵地。
空軍基地から飛び立って来たとしてもおかしくは無かった。
『魔眼』を使って辺りを見回しているとすぐそれに彼女は気づいた。
孝美「敵…!」
S-13を構えた先にはフォッケウルフ・タンクが3機、彼女の方に向かって来ていた。
相手が先に20mm機関砲を撃ってきたが彼女は動じること無く冷静に銃の引金を引いた。
放なたれた20mm弾は先頭にいたウルフの翼をもぎ取った。
両翼の2機はそのまますれ違ったが、孝美はそれを無視して全速力でその場から離れようとした。
だが残った2機は機体を翻して彼女を執拗に追いかけ攻撃を仕掛けて来た。
攻撃を躱しつつもう一機も難なく撃ち落とした。
孝美「あと一機…!」
孝美は高度を上げてその場に浮遊して止まり、銃口を最後の機に向けた。
向こうも同じ事を考えたのか真正面から勝負を挑んできた。
そしてお互いに射程距離に入った瞬間、一足早く孝美が引金を引いた。
だがコンマ数秒してウルフは30mm機関砲を発射した。
孝美「ッ……!」
彼女はシールドを展開しようとするが、持っているのが対物ライフルという重量物故一歩出遅れた。
孝美「あッ…‼︎」
すんでの所で頭を傾けたが弾は彼女の左側頭部ギリギリを掠った。
しかし口径が口径なだけあり、彼女は負傷した。
一方ウルフはエンジンに直撃を受けてそのまますれ違って落下していった。
孝美「……ッ!……行かなきゃ……」
痛みを堪えるように傷口を手で押さえながら孝美は再び進み出した。
キミト島沖
「艦長…もうそろそろ……」
猪口「…うむ……」
孝美の到着を待っていた猪口らであったが時刻は18時45分と撤収予定時刻まであと僅かだった。
既に雨は降り始め、波も高くなっていた。
おわりはともかく他の護衛艦には少々きつかった。
猪口(敵に見つかったのか……)
ギリギリまで待ちたかった所だが潮時と判断して彼が「撤収する」と言おうとしたそのときだった。
『こちらCIC!右舷後方に機影を確認、予定の連絡員のウィッチと思われます!』
「おぉ…!」
猪口「来たか……!収容次第直ちに引き上げるぞ。俺は出迎えに行ってくる」
「はッ」
猪口は足早に艦橋を後にし、雨合羽も着ずにそのまま後部飛行甲板へと出た。
猪口「ん……?」
雨に打たれながら誘導員らと共に見守る中で猪口は孝美の様子が変だと気がついた。
ふらついた様子でこちらに近づいてくるが何処か調子が悪くのか?
だが次第に近くに連れて彼は目にしたくなった光景を目の当たりした。
彼女は左側頭部から血を流しながら着艦しようとしていたがふらついた。
そして着艦したかと思えば体勢を崩した。
孝美「あッ……」
猪口「ッ‼︎」
魔法力が切れてストライカーが抜けた彼女を猪口は咄嗟に飛び出して受け止めた。そして受け止めた彼の右手には赤い鮮血がべっとりと着いた。
「艦長ッ‼︎」
彼女の顔を見れば意識が朦朧としているのか今にも目を閉じそうだった。
猪口は孝美が弱々しく出した手を優しく力強く握りしめた。
孝美「ぁ……ぁ………」
猪口「いいッ‼︎喋るな‼︎良く頑張った‼︎」
孝美「ー……」
猪口「ッ……」
そのまま意識を手放した彼女を抱えた猪口は大急ぎで艦内の医務室へと運んでいった。
猪口「絶対に……絶対に君は死なせんッ‼︎」