自由連合召喚   作:暁司令官

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第6話 エジェイ防衛戦

 

中央暦1639年 6月9日

クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

「ふむ、今日も異状なしか……」

 

 クワ・トイネ公国西部方面師団を束ねる将軍『ノウ』は、そう呟くと後ろを仰ぎ見た。

 そこには、クワ・トイネ公国軍の自慢であるエジェイの城壁が、まるで巨人の如くそびえ立っている。

 このエジェイは、ロウリアとの軍事的緊張が高まりつつあった頃に、首都への侵攻ルートを防衛するために作られたもので、街そのものが巨大な要塞と言っても過言ではない。

 建築技術では右に出るものがないクイラのドワーフ達の手によって、わざわざ山脈から切り出されて加工された花崗岩を原材料とする城壁は無論のこと、街の建物も全て石造りとすることで難燃性を高めている。またあちこちに大型のバリスタが据え付けられており、ワイバーンへの備えも万全だ。また城内にはきれいな水が湧き出る泉が何か所もあり、倉庫にも膨大な食糧備蓄があるため、敵は「兵糧攻め」という手段を取れない。

 

彼はこの日、ある客人達をもてなす事になっていた。

 

「閣下、連合軍の方がいらっしゃいました」

 

ノウ「通せ」

 

副官からの報告にノウはそう答える。副官と入れ替わるように大内田、牟田口、パットンの3人が入ってきた。

 

大内田「陸上自衛隊第7師団長の大内田です」

 

牟田口「第23軍司令官の牟田口です」

 

パットン「合衆国陸軍第3軍のパットンだ」

 

敬礼する3人にノウは、自分が着ている軍服よりも遥かにシンプルなデザインの軍服を着用した彼等が本当に大部隊の指揮官であるのかと疑問に感じたが、それを心中に留め社交辞令に沿った挨拶を行う。

 

ノウ「よくぞおいでくださいました。私は西部方面師団を率いるノウと申します。この度は援軍に応えて頂き、ありがとうございます」

 

挨拶もそこそこに、ノウは3人に現状についての話を始めた。 

 

ノウ「現在敵軍はギムの街を占領しており、そこを拠点に間も無くここへと攻めてくる可能性があります。しかし見ての通り、このエジェイは強固に作られた城塞都市であり、ここを陥落させるのは、敵にとっては非常に難しいでしょう。つきましては、連合軍の皆様にはダイダル基地にて我が軍の後方支援をしていただきたいのですが」

 

丁寧に説明するが、彼の言葉の中には『自分達でやるから、お前達は後ろに居ろ』『この戦いに手は出すな』と言う意味がに含まれている。

ノウには、自分達こそがこの戦争で雌雄を決する存在であると言う大きな誇りとプライドがある。無論、そんな事を他国の将軍の前にしてストレートに話すのは問題となるのを分かっているため、敢えてオブラートに包んでそう言い放ったのであった。

 

大内田(予想通りか)

 

 

それに対し大内田らは、元からそう言ってくるであろうと予想していたので、表情を変えずに応える。

 

牟田口「承知しました。では我々は閣下の要請に従い、ダイダル基地より支援に徹します。その上でですが、こちらからも要請を行いたいのですが」

 

ノウ「伺いましょう」

 

パットン「双方の連絡役と敵に対する攻撃位置を伝える必要がありますので、こちらから人員と機材をここに置かせて頂いてもよろしいでしょうか?決してそちらのご迷惑にならない事をお約束いたします」

 

ノウ「連絡役?まあ、貴国も戦局を本国に伝える義務があるんでしょうな。分かりました、こちらは構いません」

 

 

 

ノウは大内田からの提案を受け入れ、その場で現状と相互の安全のために備えて打ち合わせを行ったの後に、会談を終えた。

会談を終えて外に待たせていた73式小型トラックに乗り込み、エジェイの城壁を越えて帰路に就く。

 

 

牟田口「大内田さん」

 

大内田「…我々には手を出すなって釘を刺してきましたな。まぁ最初から分かっていた事ですが」

 

パットン「では我々は、当初の予定通り"後方支援"を?」

 

大内田「えぇ、手筈通りお願いします」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

ノウ「奴ら、何をするつもりだ?」

 

その日の夜、ロウリア軍東部諸侯団3万人は、エジェイの西5キロ地点に達していた。だが彼等はその場で進軍を止めて、夜営を開始したのだ

エジェイの西にある塀の上から、ロウリア軍の様子を見ていたノウは、敵の意図が読めなかった。

 

 

ノウ(ここまで来て何故進軍を止めたんだ?あの数ならエジェイを陥落させるなら充分な戦力の筈だが……………)

 

 

斥候に出していた偵察兵からも、敵が夜襲を仕掛けてる様子は無いとの報告があり、時々であるが小規模な敵部隊が嫌がらせのように自分達を貶すような言葉を大声で叫び、ある程度してから去っていく。

しかし、ある程度時間を置いてからまたその行為が繰り返し行われ、ノウを含めた西部方面師団の兵士達に苛立ちが目立ち始める。

 

ノウ「馬鹿にしおって………」

 

「閣下!連合軍の連絡兵がお見通り願いたいと!」

 

ノウ「何?通せ!」

 

「はっ!」

  

ノウの元に連絡要員として派遣されて来ていた陸上自衛隊第7師団第7特科連隊の観測員と無線員がやって来た。

 

「閣下、大内田師団長より提案があるとの事でお伝えに来ました」

 

ノウ「提案?」

 

「エジェイの西5キロ地点に布陣する武装勢力に対して、長距離攻撃を開始するので、周辺にクワ・トイネ兵が居ないか確認をしておきたいとの事です」

 

ノウ「長距離攻撃だと?ダイダル基地からロウリア軍の陣地まで直線距離で10キロはあるんだぞ。出来るのか?」

 

「はい。既に準備は完了していますので、後は閣下の許可が頂ければ、我々が目標位置の指示を送り次第、攻撃を開始します」

 

 

ノウは、彼等が言う長距離攻撃という言葉に僅かながら興味を抱いた。彼らは『ロデニウス沖海戦』で、敵艦隊を事実上「一隻残らず」殲滅し、あまつさえ増援に訪れたワイバーンも「全て」撃墜したというが、これとて信用できるものではなく、脚色が大幅に含まれているとノウは考えていた。軍内でもそんな噂となっている彼らの戦いを見れるなら見てみようと高見の見物を決め、あっさりと許可を出した。

 

ノウ「いいでしょう。貴方方の戦い方を見せてもらいたい」

 

「ありがとうございます。とっておきのSHOWをお見せしましょう」

 

観測員達は直ちに準備を開始し観測機材を使って5キロ先に布陣するロウリア軍陣地の詳細な位置の割り出して、無線でダイダル基地で待機している第7特科連隊に指示を送る。

 

 

 

 

 

 

 

牟田口「これは……一体……?」

 

 連合軍砲撃陣地に運び込まれてきた兵器群を見て、牟田口が発した疑問の呟きを、大内田は聞き逃さなかった。

 

大内田「ああ、あれは『MLRS』という兵器でして、直訳すると『多連装ロケットシステム』といいます。この兵器は広範囲の面積に展開する敵を制圧するために米国で開発されたもので、あの箱状の中に12発のロケット弾が装填されていて、1発あたり644個の子弾が内蔵されています。あれが空中で炸裂すると、1台で7728個の子弾が敵陣に飛んで行く計算になります。我々第7師団はこれを12台持ってきているので、総数9万発以上の子弾を目標に対してばら撒けることが出来るということになります」

 

パットン「なんと!一度に9万発以上ですか……」

 

大内田「ええ。でもこれは本来は国際条約で使用禁止にされている弾種なんです。しかし、我々自衛隊の懐事情はお世辞にも良いものではありません。なので廃棄処分待ちのものから使おうということになったんです」

 

パットン「確かに子弾が一度に9万発を降ったら敵の姿は酷いものになるでしょうな」

 

牟田口「パットン少将に同意します」

 

大内田「しかし牟田口さん。それは貴方方も同じ事は言えないのでは?」

 

牟田口「ははは、確かにそうですな」

 

牟田口がそう言いながら視線を送った先には帝国陸軍用の特設陣地が設けられていた。

 

自衛隊はMLRSの他に「99式自走榴弾砲」を持ち込み、アメリカ陸軍は「M2A1 105mm榴弾砲」、「M1 4.5インチカノン砲」を準備させていた中、帝国陸軍は特に異彩を放っていた。

 

その筆頭にまず2024年3月20日に第104特科大隊の廃止により、全車退役したそれを買い取った「203mm自走砲」に混じって目を見張る程の巨大な砲台と、そこから延びる長い砲身の姿があった。

 

牟田口「しかしまさか、海軍さんがあれを貸してくれるとはな」

 

目の前に聳え立つ砲は、かつて紀伊・尾張建造に於いて、広島県の亀ケ首で試射に使用された51センチ砲の試作品だった。

 

この砲は試験終了後、長らく防衛省技術研究所の地下に保管されていたのであるが異世界転移後に日本海軍が51cm砲の研究にこの砲を要望して晴れて日本帝国本土へと渡った。

 

そしてロウリア王国の迎撃に際して他の自走りゅう弾砲やその他の長距離・中距離攻撃火器の数の少なさを懸念し、陸軍が海軍に貸し出しを依頼する。

 

海軍としては研究に役立てたいが苦渋の末データ計測を条件に貸し、持ち込まれたのである。

 

大内田「敵に動きは無いか?」

 

指揮所で大内田は副官に尋ねる。

  

「ありません。敵は現在位置からは動いていない様子です。報告では付近にクワ・トイネ兵は居ないとの事でした」

 

大内田「砲撃用意!」

 

要塞砲の砲塔が旋回し99式、105mm砲、4.5インチ砲、203mm砲の砲身が西へと向けられた。

 

「各砲榴弾、装填完了。砲撃用意よし!」

 

パットン「射撃用意………………Fire!」

 

「砲撃始め!」

 

号令を受けた特科連隊の連隊長の合図と共に警報が鳴り響くと、雷のような轟音と共に要塞砲が砲撃を開始し、巨大な榴弾を西の方向へ向けて撃ち出した。

 

 

 

 


 

 

 

エジェイより西5キロ地点にもうけられたロウリア軍東部諸侯団の野営地では、3万人のロウリア兵がクワ・トイネとの戦闘に備えてテント内にて仮眠を取っていた。

 

 

「……………」

 

 

只1人、東部諸侯軍を指揮するジューンフィルアは専用テントから、夜空を見上げながら、今後の事を考えていた。

 

 

 

ジューン(数日掛けて相手を精神的に疲弊させてから、隙を突いて一気に正面から仕掛けたほうが少ない損害で、エジェイ攻略が出来る…………あのアデムが考えそうな事だな)

 

 

 

今回の侵攻作戦に於いて、戦略の全てはアデムの考案が基になっている。その殆どが、人を精神的に追い詰める物が中心で、少なくともジューンフィルアの観点からすれば卑怯この上ない作戦ばかりである。

 

しかし、数で圧倒的に劣っているクワ・トイネとはいえ、数が多いだけの自軍では、質的に優れているクワ・トイネとの差が出てしまうのは当然であり、それを挫くためには相手を精神的に疲弊させるしか方法は無い。

 

ジューンフィルアは軍人であるなら、上の命令には絶対服従をしなければならないと教えられているため、このような作戦でも素直に首を縦に振って従う事しかできなかった。

 

ジューン「明日は晴れそうだな」

  

無駄な考えを捨てて、戦う事だけを考える事にした彼は、星が綺麗に見える夜空を見上げる。

 

しかしジューンフィルアは突如、言いようも知れぬ嫌な予感を感じた。

その嫌な予感はたちまち形を成して、彼の心に大きな影を落としてゆく。もしかするとそれは、生き物としての本能的な危機察知能力が、彼に与えた警告だったのかもしれない。それが「死」であるとジューンフィルアが気づいた、その瞬間だった。

 

耳の鼓膜が破れそうな轟音と共に、強烈な閃光と爆風が辺りに広がった。

 

ジューン「ぐおっ⁉︎」

 

直後にやってきた衝撃波でジューンフィルアの体は木の葉のように舞い上がり、近くにあった木に叩きつけられた。

 

ジューン「うぅ……い…一体何が…?」

 

突然起きた謎の大爆発にジューンフィルアは霞む視界の中、痛む体を起こして辺りを見回す。

 

ジューン「これは……」

 

最初の爆発で、陣地内で兵士が休息をとっているテントの半分が吹き飛び、多くの兵士が手足を吹き飛ばされるなどの重傷を負っていた。 

 

「目が……目が見えねぇ!!誰か!誰か!」

 

「腕は………俺の腕が………何処にあるんだよ!」

 

「おい!物資が燃えてるぞ!」

 

積み上げられていた武器や食料などの物資の大半が燃えていた。

 

ジューン「急いで消せ!あれが燃え尽きたら我々は……」

 

ジューフィルアは急いで消火の指示を出し、軽傷者と無傷の兵士が水や土を燃え上がる物資に掛け必死に消火に勤める。

 

 

 

 

 

 

 

ノウ「な……何なんだ……一体、何が起こっているのだ!?」

 

 エジェイにある城の作戦会議室から望遠鏡を使うことにより、戦場の様子を眺めていたノウは、正確無比な日本の攻撃を見て絶句していた。

 敵陣からは猛烈な爆発が立て続けに起こっており、土煙で詳しいことは分からない。しかし爆発の度に人間らしきものがなぎ倒されていくところや、折り重なっている死体が見えることから、敵が大打撃を受けているらしいことは辛うじて分かった。

 日本の連中がどんな風に戦うのか楽しみだ、と高みの見物を決め込んでいただけに、これは予想外かつ衝撃的な光景だった。

 

「バカな…10kmも離れているのにどうやって……⁉︎」

 

「な、何なんだ⁈爆裂魔法か⁉︎」

 

「いや、爆裂魔法でもあれだけの攻撃は不可能だ‼︎」

 

「だったら何だって言うんだよ⁈日本は神竜を味方につけているのか……⁉︎」

 

 

 

さっきまで、自分たちより下と見ていた自衛隊の能力にノウは戦慄した。それと同時に、彼等と敵対しなくて良かったとも思った。

 

「初弾近!諸元修正!」 

 

驚愕するノウ達を尻目に、特科連隊の観測員達は機材を使って着弾観測を行い、上空のOH-1偵察ヘリからの情報と照らし合わせて、基地に射撃と照準指示を送る。

 

牟田口「射撃用意、撃て!」 

 

続いてカノン砲、自走榴弾砲による射撃が始まる。

基地に持ち込まれている合計20門の155ミリ榴弾砲から1斉射につき20発が、4.5インチ砲・105mm砲合計40発、203mm砲10発の合計70発の防弾が撃ち出される。

そして仕上げにMLRSから大量のロケット弾も発射された。

 

『弾着……今っ!』

 

観測員から伝えられた諸元通りに、隊員達は日頃の訓練で培った技術を遺憾無く発揮し、素早く砲に砲弾と装薬の装填を行い次の射撃に備える。

 

『全弾命中!次弾同一諸元、効力射!』

 

「撃てぇ‼︎」

 

3斉射目を撃ち出し、砲弾を再びロウリア軍陣地に撃ち込んでいく。 

 

「うわぁぁぁ!」

 

「に…逃げろぉぉ‼︎」

 

TOT射撃と呼ばれる発射のタイミングをズラし、発射した複数の砲弾を目標に同時着弾させる射撃方法により、東部諸侯団はたちまちその戦力をすり減らされていく。

 

ジューン「何が………一体何が……」

 

爆音と衝撃により意識が朦朧としていく中で、ジューンフィルアはふわりとした浮遊感を感じた瞬間、爆発と共に空中高く放り投げられた。

ふと、彼は自分の体を見てみる。下半身と、右腕が無くなっていた。

そのまま、彼は意識を閉ざした。

 

 

 


  

 

 

「これが、彼らの強さだと言うのか……………⁈」 

 

砲撃が終わり、硝煙が立ち込めている敵陣地だった場所を見ていたノウ達は、敵には勝った筈なのに、大きな敗北感を味わった。

 

ノウ「敗けた…………」

 

膝を突いて大内田らの顔を思い浮かべた。

  

ノウ「彼等は……日本は……何者なんだ?」

 

 

 

 

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