切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる   作:蓮太郎

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第1話 切り捨て末席、死んだふりする

 ここは激しい戦場。鎧を着こんだ者たちが争い、たまに人でない獣が入り混じる中で彼らは戦い続けていた。

 

 理由はさまざま、国の為、人の為、世の為、金の為…………そして制約の為。

 

 喜んで戦う人間は少ないとは思う。だが、戦い続ける生涯が染みついて戦場でしか居場所が見つけられない悲しい人間が存在する。

 

「末席を殿にしろ!一時撤退だ!」

 

「ちっ、覚えてろよ帝国の野郎ども!」

 

「末席!精々時間を稼げ!」

 

 味方の騎士たちが次々と撤退していく中、末席と呼ばれた一人は唯一戦場に残って攻め続ける敵を押しとどめる。

 

 全身を鎧で着こみ、寡黙かつ大胆に剣を振るいながら何十人と迫りくる敵を切り伏せていく切り札…………と味方以外から思わている。

 

 何故なら末席、彼は前線の指揮官の1人でありながら地位が非常に低く使い捨てような扱いをされている。

 

 そのため、戦場ではいつも最後に取り残されては数多の敵を切り倒し修羅と化しながら辛うじて生き延び続けた。

 

 最後尾で唯一の生き残りとなり、辛うじてただ一人生還するが死神扱いされたり不吉扱いとされて早く死んで消えて欲しいと願う者も多くいた。

 

 気味悪がられて言う者も居る。だが、彼と共に最後に残って命を散らせた仲間の親族が彼を言葉で突き放す。

 

 故に、彼はもう疲れていた。

 

 だが死にたいという訳ではない。碌でもない故郷を離れて何処か別の場所で心機一転、新たな人生を歩みたいと若い身でありながら戦い続けていた。

 

 隊長格でも末席故に給料は低く、何なら早死にするようわざと削られていた。

 

 それでもコツコツと隠し財産を作り、時はきた。

 

「死ね、死神ィィィィィ!」

 

 複数の術者が放つ怨念が込められた超巨大火球が彼の眼前に出現する。

 

 多くの敵兵を屠った彼を葬るべき渾身の一撃。回避しようにも予測される爆発の余波が大きいため敢えて受け取め弾き返すことを選んだ。

 

 豪、と唸り続ける火球は全てを焼き尽くさんと迫り、受け止めた彼を焼き尽くそうとするが爆発していない時点で彼の鎧に一切の傷を負わせられていない。

 

 それどころか火球をじわじわと押し返しているではないか。

 

 これが死神、切り捨てられる末席の力。最前線で戦う者しか知りえぬ恐怖の象徴。

 

 その恐怖に立ち迎える者こそが勇者である。火球を受け止める彼に蒼き鎧の騎士が突撃する。

 

「うおおおおおおお!」

 

「馬鹿っ、お前まで!」

 

「私にかまわずやれえええええ!」

 

「くっ、すまない!」

 

 突然の突撃に両手と剣で火球に対応していた末席はやむを得ず片手で火球を受け止めつつ空いた手と剣で蒼き騎士を受け止める。

 

 蒼き騎士の槍捌きに片手とはいえ凌いではいるが火球の相手もしなければならないため徐々に押され始める。

 

「いくぞ!」

 

「奴さえ倒せば後は何とかなるんだ!」

 

「うおおおおおおお!」

 

 火球は爆破するまで力が高まり、蒼き騎士とその仲間だった屍たちを巻き込みエネルギーを解き放つ。

 

 恐ろしいまでの熱量に全てが焼かれていく。その光景はまさに地獄、全てを焼き尽くす大爆発が巻き起こる。

 

 そしてしばらくした後に残された爆炎が晴れ、その中心に黒く焦げた鎧をまとった騎士のような物が膝をついて立っていた。

 

 あの爆炎でも生きているのか?それとも死んでいるのか、死んだふりか?

 

 近づかなければ確認は出来ない。それでも死神の死を確認するために誰かが勇気をもって近づかなければならない。

 

 誰もが顔を見合わせて近づきたくない雰囲気を出していたその時、跪いて動かぬ騎士の横の地面が盛り上がる。

 

 そこから現れたのは煤けた上に土で汚れて分かりづらいが、死神を足止めしていた蒼き騎士だった。

 

 かろうじて生きていたようで、立ち上がるのもやっとの思いではあったが奇跡的に溶解していない剣で死神の首を刎ね飛ばす。

 

 その行動に、抵抗は全くなかった。

 

「はぁ……はぁ……死神、打ち取ったぞ!」

 

 堕ちた首を拾い、蒼き騎士は高らかに掲げた。

 

 それを理解するのに蒼き騎士の仲間は数舜時間を要した。だが、理解した瞬間に大歓声が上がり全ての戦に勝利したかのような盛り上がりを見せる。

 

「奴ら王国の最強たる守りは落ちた!残るは恐るに足らず!此度の戦、我らの勝利だ!」

 

「「「「「「「「「「

    うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

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 蒼き騎士は兜に顔を覆われて顔はほとんど見えないが、達成感で涙と笑顔が混ざったかのような変な顔をしていた。

 

 ようやく多くの仲間を屠ってきた怨敵を打ち取れたことで彼らは全く気付いていなかった。

 

 焼け焦げた首と兜だけになった屍が、本人の物であったかを。

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

一方そのころ、戦場からかなり離れた場所にて。

 

「よし、マーキングも声帯に掛けられた魔法も解除ヨシ。隠し財産も全部ある。無いのは伝手だけ、ヨシ!」

 

 一人の男が少し焦げた下着から一般市民が着るようなややぼろい服に着替え、その上に軽装に近い鎧を身に着けていた。

 

「これでそこらに居る傭兵っぽさはあるだろ。後はもっと逃げるだけだ」

 

 彼は自らの死を偽装した。最期の火球が爆発した瞬間は耐えきった。少々の火傷を負ったが問題なく彼自身の力で治療は出来たので気にしていない。

 

 そして爆発を耐えきった後に近くに転がっていた元仲間の屍に自身の焦げた鎧を装着させて逃走。幸いにも蒼き騎士は地面に潜って爆発のダメージを減らしていたため目撃者はゼロ。

 

 つまり、彼からしたら完璧に死を偽装で来たという事だ。

 

「もうやめだやめだ!実家もロクに支援とかないし、針の筵にいられるかっての!」

 

 今までの鬱憤を吐き出すかのように散々同僚や上司、それだけでなく部下からもないがしろにされていた不満を誰にも聞かれない。

 

 なんなら饒舌すぎて立場だけ上位の騎士に声を封じられていたので愚痴すらも吐けず、コミュニケーションすらろくに取れていなかった。

 

 絶対それが原因で余計に気味悪がられたり評判が悪くなったと彼は思う。

 

「よし、名前も新しく考えないといけないな」

 

 彼は気楽に新たな人生を考えていた。ストレスから完全に開放された彼を止められる者は居ない。

 

 既に友人も前線で失い、残ったただ一人だけなのだから。

 

「帝国は…………やめておくか。連合のとこに傭兵として転がり込んでみるか」

 

 最低限の荷物を持って彼は走り出す。

 

 疾風の如き素早さで戦場から離れ、もう少し遠い場所で新生活を目論む。

 

 そしていずれ王国は滅ぶだろう。最前線を唯一押しとどめて相手に大損害を与え続けていた死神が消えたことで戦場は大きく押されることになる。

 

 だが、彼にとって再び関わることとなるのは先のお話であった。




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