切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
「さあ、かかってこい傭兵!」
「僕たちの美技に酔いしれ屈服するといい!」
勝負は決した。
油断、慢心、怒り、全てが出そろった王国騎士は何も理解していなかった。
何故、ここに傭兵団が現れて奇襲されたのか。
何故、普段なら2人でなく、それより多い集団で動くはずの騎士がこれだけしかいないのか。
後に分かることになったとしても、この2人は知る由もない。
かかってこい、そう言った時点で首を落とされていたのだから。
何が起きたか理解できていない表情のまま、胴から離れる首。
地面に落ちると思われたが首が離れた時点でケイが2つの首を引っ捕まえていた。
今更ながら何が起こったかというと、普通に異常な速度で王国騎士が反応する前に斬首しただけである。
なお、この速度は帝国や連合国の最前線で指揮を執っている騎士であるなら受け止められる速度であり、それに追いつけることすら出来なかった2人は元々寿命が長くなかったわけである。
振りぬいた剣を持つ手と反対の手で無駄に装飾が凝って雉の尾のように垂れさがる兜の装飾を掴んで2人分の首を確保したケイだったが、興味を失うようにぽいっとその場に捨てる。
一体何故、彼が堕ちる前の首を掴んだのかというと、王国上位騎士十階位クライン率いる『劇団』所属騎士は首が落とされた際の応急処置を必ず学んでいることを知っているからである。
王国騎士が脅威であるのは強者が技術を的確に伝えられることが大きい。
他の魔力を持つ騎士は大抵が一台限りであり、血を絶やさず存続させているのが珍しいくらいなのだ。
よって、首が落ちたら即座に繋ぎ合わせる技術も一部で継承されていたりするのだ。
その訓練を見たことのあるケイはドン引きした記憶があったため、首をつなぎ合わせられる前に絶命したことを確認したかったのだ。
「おいおいおいおい!」
ドスドスと恵まれた体格と筋肉から重い足音を鳴らしながらシャーレがケイへと走りながら近づいてきた。
「この馬鹿!うおお!?拳骨を剣で受け止めようとするな!」
殺気はないとはいえ暴力に対して無意識に防御を取るケイ。
しかも拳骨に対して頭の上に剣の腹ではなく刃を向けているあたり覚悟が決り過ぎている。
危うく刃の上に拳骨死相になったが寸でのところで止めることに成功して難を逃れたシャーレだったが、ケイが行った愚行をとがめる気満々でいる。
「バッカお前、首捨てるんじゃないよ!?」
「…………?」
「何首をかしげてるんだって!騎士を二人討ち取ったんだ、勝鬨を上げるよ!」
ケイが投げ捨てた首を拾い、無理矢理開いている方の手に装飾の尾を握らせて掲げさせる。
少々不格好であるものの、今まさに脅威であった象徴を排除したという明確な目印を掲げる姿は誰に目にも映っていた。
最も、王国騎士が戦うためにあえて場を広げていたこともあって余計に目立っていたりする。
「傭兵団『ライトハンド』、新入りのケイが王国の騎士を打ち取ったぞーーーーー!」
ケイの持つ首を掲げさせながら、シャーレがこれでもかというほど声を張り上げて戦場に声を響き渡らせる。
隣に居るケイが滅茶苦茶うるさいと思う中、その声が響いた瞬間に当たり全てがしんと静まり返った。
本来なら怒声と悲鳴が鳴り続ける戦場で異様な光景を目の当たりにしたケイは困惑した。
何故、誰も彼もが戦う手を止めているのだろうか。今にも襲い掛かってくるかもしれない相手に隙を見せるのはあってはならないことだ。
だというのに、だというのに。
「す、すげぇ、あいつやりやがった!」
「騎士2人討伐だとぉ!?大金星だ!」
「この戦、勝ったな!」
「俺たちの勝ちだ!」
「「「「うおおおおおおお!!!」」」」
ざわつきから雄叫びに、前線で撤退することしかしてこなかったケイにとって見たことがない光景であった。
「嘘だろ!?騎士様が死んだ!?」
「だからあんなナルシストじゃダメだって言ってただろ!」
「ここを放棄しろ!死にたくないだろ!」
「指揮官も全部あいつらだから逃げるしかない!」
「ちくしょう、騎士のバーカ!」
それに対して王国兵は完全な形勢が傾いたと断じて即座に撤退、いや、バラバラに逃走する。
もはや群れをなさないほどの敗走っぷりを見せつけた。
あまりにもあっさり形成を覆して退散していく様を見て、ケイは呆然とした。
確かに彼等王国兵の引いていく背中を何度も見たことはあった、だがこんなに情けなかったのかと思うくらいであった。
「え、なんだコレ」
思わず出た言葉であった。
自分が殿として残ったとしても誰もケイの戦いを見て喜ぶ者は居なかった。
何故なら対面には敵しかおらず、背後には逃げ惑う頼りない味方のみと隣に立つ者は居なかった。
王国騎士上位末席の隣に立とうと努力したものは、全員死んだ。
「なんだって逆に何だよ。大金星だ!」
ばんばんと背中を叩く衝撃が全身を貫く。
気が抜けていたのかもろに振動を受けてよろめくが、未だに血が滴る首を離してはいない。
敵を殺してこんなに喜ばれることがあるんだ、そう思いながらも視線は敵となる王国兵に向けられたままだった。
「おい、今はこっち向いて偉そうにしておけ。あの後ろを攻めたところで何も変わりもしない」
「根こそぎにしないといけないんじゃ?」
「あれは、あれだ。死神が誰かと組んで戦われたら厄介って言うレベルじゃなくなるから殲滅してただけだぞ」
「マジか」
通りで殿を纏めている自分よりも味方を徹底的に削ってきたんだなと兜の中で何とも言えぬ変顔をとってしまう。
適度に負けていたらよかったのかと、むしろやり過ぎていたから強制的に1対多数に持ち込まれ続けていたのかと心の中で悔やんでしまう。
そうしなければ彼らも、皆も全力で王国兵を削ってこず生き残れたものが居たんじゃないかと思ってしまう。
「よぉし!若いの、凱旋だ!今日は俺がお前に酒を奢ってやる!なに、これだけ戦果をあげりゃあ帝国の役人も喜ぶぞ!」
「たった二人だけなんだが…………」
「だが、王国の騎士も無限じゃない。死神が居なくなった今、チマチマ削ってりゃ補充する間もなくなっていくもんよ!」
「そういうものか?」
「それだけ死神に苦しめられてきたってことだ」
アンジャイが意気揚々とケイとシャーレの元まで走ってきては、突然の奢り宣言に困惑しか示さない。
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
この熱量も、常に孤独で戦ってきた彼には無縁であり、そして何故か照れくさい者であった。
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