切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
「美味いな、これ初めて食べたぞ」
「そうですかい?普通の粥ですが、そりゃあ泥水よりは美味しいでしょうよ」
「こいつは拗ねたら長いぞ。私でもなだめるには一日かかる」
「ふんだ」
粥を食べながらもケイの方を向かないシャーレの幼馴染、全面的にケイが悪いため擁護は全くされなかった。
それでもいい、馬鹿みたいな話ではあると自覚していても、全方位から後ろ暗い視線を浴びるよりはるかにマシなのだ。
せっかく生きて帰ってきても針の筵が如く罵られて一人死んだ目でぼそぼそと飯を食うよりかマシである。
その飯も、他の皆と同じものを頼んでいても大した味付けもされないのに。
それに比べて質素ながらしっかりと塩と何故か香ばしさを増す成分がある粒状の植物を混ぜ込み味の豊かさを倍増させている。
それだけでも戦場で唯一の娯楽となる食事を楽しむことは十分だ。
大抵、干し肉だったりガッチガチのパンだったりと味気のない物ばかりが前線で戦う兵士に配られていた。
後方で優雅にしている王国騎士はさぞかし美味いものを食べていたらしいが、前線の消耗品であった末席騎士も同じ扱いであった。
「…………しっかし、妙に美味そうに食うよな」
「こういう飯は滅多に食えないからな」
「そういえば、お前は自炊ばっかりしてたらしいが、そこまで腕は上手くないらしいな」
「まあ、今までは腹を満たせばいいって感覚だったから味はたいして気にしていなかった」
「どういう人生送ってんだか」
未だに拗ねたままのシャーレの幼馴染が呟くが、強さの割にろくなことが起こっていないことは察することが出来る。
だからこそ、何でここに流れ着いたのかが気になるところ。
今のところ、シャーレら2人の知る情報は「狩人になったが山賊53人殺したせいでクビになった」程度である。
理由なき強さは存在するが、そんな風に見えないからこそケイの出自が気になるのだ。
「おいおい若いの!なんだ、寂しく粥だけ食ってるのか!」
「げ、アンジャイのおっさん!」
「今日の功労者に酒を奢りに来た!ほれ、結構いいもんもってきたぞ!」
ガハハ、と常に豪快に笑っている気がするようなアンジャイが敷物を踏む、前にしっかりと靴を脱いで裸足になり3人のキャンプ地へと乗り込んできた。
「今日は死神のいない日だ。絶対勝てると思ってワインを持ってきた!」
「いつも水か茶ばかりだっただろ。どうしたんだそのワインは」
「今まで苦心させられた死神の死を祝うつもりでな!それはそうと、功労者を労うためでもある!」
「押し付けたいだけっすよ、このおっさん」
実際そうだろう。理由をつけては若いのにちょっかいをかけたいおっさんであった。
「ほれ、飲め!」
「本当に貰っていいのか?」
「安心しろ!一杯だけだ!」
それはそれとして線引きはしてるあたり、やっぱり絡みたいだけである。
荒っぽく木の容器に入れられた葡萄の香りがするワインを渡され、中身をのぞく。
やや埃っぽいのは野外故仕方ないとして、それを差し引いても上質なものだとケイは理解できた。
元々貴族でもあったゆえに品物の優劣は効く方でもあった。別に毒を入れる理由もないため遠慮なく一口含んだ。
「…………久しぶりの味だ」
「だろ!ん?久しぶりの味?」
「あ、いや、酒自体が久しぶりに飲んだから」
「そうか!酒は命の源だ!ばかすか飲んで寝てりゃ疲れはスッキリする!」
「二日酔いになる、いや、アンジャイのおっさんは飲めないもんな」
「飲んだらすぐに気持ち悪くなるからな!」
酔っ払うという意味で気持ち悪いのではなく、物理的に気持ち悪くなる方であろう。
見た目は酒豪そうなのに、変な弱点があるものだ。
そう思いながらもゆっくり、ちびちびと飲む。
騎士であったとき、酒を飲む機会がなかったわけではない。
ただ、激務で酒を入れてしまい仕事を疎かに出来なかったのだ。
前線で死亡した騎士や兵士のお悔やみを書くのは彼の仕事でもあった。いや、誰もやりたがらずやるしかなかったというべきか。
無論、他にも何人か雇ったりして定型分を何度も何度も書いた。
何故文官の仕事をやるのかという愚痴はあったが、声は封印されていたため黙々とやらざるを得なかった。
それに、こういうのは久しぶりだ。
誰もが勝利の喜びを噛み締め、現場の暗い部分から目を逸らしていないのは。
「もっとグイグイいけ若いの!」
「おい、自分が飲めないからってうちのやつに押し付けんな!」
「後で金をとらないっすよね?」
「そんなせこいマネはせん!追加報酬だって確定してるからな!」
「追加報酬?」
ケイが首を傾げたとき、全員が呆れたような視線を向けた。
「若いの、普通は策を練らん限り騎士は倒せんぞ!」
「誰が出るか予め知ってて、対策してようやくだからな」
「同じ騎士同士ならその限りではないっす」
つまり、偶然、奇跡的に騎士という相手の高級戦力を傭兵という低コストな人材が倒してしまった故に出す金らしい。
そういうものがあるのか、とケイは思った。
王国時代、自分が敵の騎士を狩ったところで褒章が出るところが手柄は取られていたので気にするまでもなかった。
「どうした!昔に何か嫌なことがあったような顔だ!」
「嫌なことがあったからここにいる」
「そうか!だがな、命あっての物種だ!無茶なことはするなよ!」
ガハハ、と背中を叩かれてケイは苦笑いをする。
昔もこういったことがあったっけ、と思い出そうとするも、兵士になりたての頃はもう思い出せなくなっていた。
同期、そして親友の死より前の戦場はもう思い出せない。
「…………いいな、暖かくて」
「おかわりはあげないっす」
「いや、やれよ。功労者だぞ」
談笑しながら温かい飯を食う、それだけでも気が持ち上がるのだとケイはしみじみと感じるのであった。
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