切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
「ところで、さっき討伐した騎士なんだが」
シャーレが黙々と粥を食べるケイに話しかけた。
キャンプ地故に安全であるためゆっくりと戦場飯を取れる貴重な時間であるが、心に余裕ができた今は食事の手を止めて話せた。
「王国の騎士の派閥はアタシも調べてるんだが、全貌までは把握できてない」
「ま、向こうに潜入するだけでもそこそこな苦労っすからね」
「意外と仲間割れしにくいとも聞いてる。けど、所属まで分かるみたいだな」
「分かるというか、どう見てもそうだったからな」
人形使いの騎士、クラインの元で戦う『劇団』のメンバーであった2人の顔を思い出す。
煌びやかな衣装に化粧までして、戦場を舐め腐ったかのような態度。今思い出しても腹が立った。
「アレが出てきたということは、全体指揮も『劇団』がやってるんだろうな」
確かに陰湿で人使いが荒かったが、指揮の手前は間違いないものだった。
騎士が出ない戦線において負けた事は少なかった。
なお、戦場には必ず相手の騎士が出張るため、彼はそれをイレギュラーと呼んでいた。
騎士の強さはピンからキリまで存在しているため、クラインは他の騎士と交流する角少ない故に過小評価する傾向が多く、それ故に前線はあまり任されていなかった。
ただ、イレギュラーが起きたらパニックを起こすとはいえ、割と的確な修正で乗り越えようとするため彼の部下からの信頼は厚い。
しかし、前線で命を削り泥臭く生き残るために戦う者達を『優雅ではない』と鼻で笑う姿の方がケイの印象に残っていた。
「劇団?なんだ、歌って踊って曲芸の、あの?」
「呼び名だけな。まあ、意図してそう言った芸風をしてるのは間違いない。全員が美意識過剰、ナルシスト、人形遊びが好きな連中だ」
「なんか聞くだけだと相当変態っぽいっすねぇ」
「変態というよりも奇人じゃないか?」
「変態の方が正しい、と思う」
偶に現れては前線の事を馬鹿にされ、喜劇じみた言動で茶化してくる奴らに対する殺意は覚えている。
騎士が出てきた途端に姿を消す癖に、もうちょっと戦えと陳情を出しても無視され続けてきた。
臆病な所だけは流石だと言えよう、戦死者は他の上位騎士と比べたら遥かに少ないのだから。
「大真面目に戦ってたら厄介なのは間違いなくあいつらだろうな。十階位のところは直接戦わず大量の人形だけを前線に送り込めるから」
「…………その言い方だと、まるで本人は前に出てこないみたいじゃないか」
「本質はそこなんだよ」
先ほどまで使っていた匙をシャーレに向けて言う。
「あいつら、本当は裏方の方が得意なくせに目立ちやがり屋なんだよ。だから自衛にリソースを割く必要があるから本来の力を発揮できていないんだよ」
「じゃあ、あの時にケイが殺った騎士は」
「あんなの未熟。操り糸が丸見えだし人形の練度も低い。多分、騎士になって2年もなってないんじゃないか?」
一応、王国からすると僻地よりな場所での陣取りは大した功績にはならない。
「もっと練度が高かったら1人につき2体じゃなくて5体くらいは居ただろう。そうなったらもう少し時間がかかった」
「時間がかかったって、一息で首を切り落としたのに?」
「奴ら、首を繋ぎ止めるくらいの技術はあるからな」
「く、首を?」
「ああ。俺が首を切った後に、すぐ取っただろ。あいつら、保険として全身に糸は巻いてた。斬られた後にすぐ縫合できるからだ。継戦能力は回復魔法抜きだと高い方だ、手足を切り落とされても無意識に繋がる訓練をしてるんだよ」
シャーレと幼馴染はドン引き、周りで聞き耳を立てている傭兵達もドン引きしている。
「でもなぁ、あいつら人形遊びに夢中だからちゃんと繋ぎ直せてるのか分からないんだよな。死ぬやつはすぐに死んでるから、あの感じだと最初の訓練だけやって後は怠けてるんだろうな」
「真面目じゃないと命がないっすねぇ」
「真面目でも死ぬ時は死ぬぞ」
合間に粥を食べていたため器は空になっていた。
野営地に置いていた水筒を一口煽り、酒も入った事で若干赤くなった顔のまま語る。
「逃げられる時に逃げられたらいいが、守るものがあったら引けない。そういう真面目な奴がドンドン死ぬ。あいつらは人形遊びは真面目にするが、下のことなんざ何にも考えてない。むしろ、自分の舞台を彩る小道具程度にしか思ってない。口からは自分中心な綺麗事しか出てこない連中を真似するのはやめておけ」
もう一口、水を飲む。
過去のことは秘密と言っていたが、すごい王国の内情喋るじゃん。
今まで喋られなかった故に喋ることが楽しくなっているのか、それとも酒が入ったせいで多弁になっただけなのか。
理由は定かではないが、王国で相当苦労してきたのは分かった。
だが、それ故に話を聞いていた者達はこうと思った。
「(シャーレ、死神が居たにしては話が暗くない?)」
「(アタシも思った。確かに王国が敗戦気味とは言え、『死神』1人で覆してきてたんだぞ)」
もう居ないとはいえ、それまで切り札である死神が王国の損失以上に帝国も兵士や騎士を失った。
前線にて最強である死神のことを、王国兵が知らないはずがない。
まさか、死神自身も敵からの評価を死ぬまで知らずに生きていたなんて、ここにいる面々は誰も知らないのである。
「なあ、じゃあ今回のは、その、劇団?って奴らが主軸になるのか?」
「だろうな。性格はともかく人海戦術にかけては王国一番だ。おそらくあの2人の物資の運搬に駆り出されてるんだろう。何せ、1人で何人分もの働きをするんだからな」
傭兵達が参加した戦に対して、大した人形使いではなかった。
まだ色々とあるのだろうが、そういった騎士は裏方に回され修行に励む事が多く、手柄を立てるために出しゃばった可能性が高い。
これからもっと人形を扱える騎士が出てからかもしれないと考えたらゾッとする。
「まあ、倒し方も分かりやすいんだけどな」
「詳しく!」
蛇の道は蛇、騎士のことは元騎士に聞く。これから戦場で出てくるであろう敵の話は聞き逃さない。
気づけば『ライトハンド』の面々だけでなく他の傭兵団の面々もケイの周りに集まっていた。
タダで情報が聞けるのはありがたい、そう思っていたのだが。
「じゃ、他の方々にお金を徴収するっす」
「おい、何でだよ!」
「僕たちの命綱をお金で買うのかい?」
「そうだそうだ!酒!アレで手を打たんか!」
「ダメっす。命綱は金で買えっすよぉ」
シャーレの幼馴染がちゃっかり他の面々から金を徴収し、ほくほくとした顔になるのであった。
なお、ケイはあまりにも貪欲だと苦笑いし、シャーレは大爆笑していた。
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