切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
前日の戦は快勝であった。では、今日の戦はどうだろうか?
「暇だな」
「暇っすねぇ」
「ま、アタシらが昨日あれだけ暴れたんだ。今度は雇い主が見せ場を作らないといけないってもんよ」
帝国の本隊が王国の兵士を蹂躙する。
平時から戦場をやや舐めている節があった王国兵は練度の高い帝国兵にあっという間に倒される。
いくらなんでも弱すぎる、かつて所属していた味方はここまで弱かったのかと思ってしまうほどに惨敗していた。
それもその筈、帝国兵の士気は帝国騎士、それも優秀な者が戦線からやや真ん中あたりで指揮を執っている。
それに対して王国騎士は自軍の兵士と混ざり乱戦になったまま個人で活躍しようとしているのだ。
「こうして俯瞰すると、王国って弱かったんだな…………」
「弱い訳じゃないっす。個人の戦力差がかなり大きいっす」
「強い奴だけじゃ、いずれジリ貧だろ。統率された兵士、高い継戦能力、保証された質。どれも王国にはない育成方針だ。どうしても個人の武勇を尊重される場所だったからな」
たった一人を除いては、とケイは心の中で呟いた。
自分の功績は味方に一切知らされておらず、むしろ奪うばかりで足まで引っ張られる。自分のことを擁護する者は殆どいなかった。
いたとしても白眼視されるため避けられ続けていた。
そしケイをて慕うものは皆、前線へと送られて死んでいった。
「おい、ぼーっとしてないであっちを見てみろ」
シャーレが鎧越しに背中を叩いたことでケイの意識が現場へと戻る。
「あっちに隊列から漏れた王国兵が居る。どうみても耐え切れなくなった奴らだ、アタシらよりも玉が無いクソボケはアタシらの金になる」
「品がない言い方だな」
「戦場に、傭兵に品なんてあるものかい!ささ、一つでも首を稼いで褒賞アップだ!」
「へへへ、ついていくっすよぉ」
ドタドタと重い鎧を纏いながら走るシャーレとその後ろをついていく幼馴染。
襲撃に関しては間違いなくこっち側の人間が強いんだと実感しながらも、ケイはその後ろから並走する。
「やっぱ早くないかお前!?どんな足してるんだよ!」
「そういえばぁ、騎士を倒した時も一瞬で移動してたよねぇ」
「逃げ足は速いといいよな」
「どういうことだよ!?あ、いや、そういうことか、そんなつもりじゃ…………」
「おおっとぉ、シャーレの大将が新人をいびってるぅ」
「後で覚えとけよ」
急いで散らばって、やけくそになりながらこちらへと攻め込む王国兵の姿が徐々に広がっていく。
こう見えて歴戦の傭兵であるシャーレとその幼馴染、そしてケイの前でどれほどの自殺行為であるか、彼等には予想は付かないだろう。
フルフェイスの兜をかぶっている今ならケイが誰であるか、王国兵が分かるはずがない。騎士が混じっていたら分かる可能性はあるが、他の騎士とは交流が少なく、意外にも上位騎士との交流はそこそこあるため油断は出来ない。
ただし、上位騎士との交流はどれもこれも良いものではないが。
「く、くるなああああ!」
「こっちだって、意地見せてやる!」
「おうこくばんさーい!」
「ちくしょう、何が騎士だ!役立たずがよぉ!」
恐怖、奮起、怒り、憎しみ、多くの感情が押し寄せてくるがシャーレの大剣、幼馴染の短剣、そしてケイのショートソードの前では全くの無意味。
大雑把に叩き斬られてはずり落ちて、首を中途半端に斬られ血で溺れ呼吸が出来なくなり、あっという間に解体されて肉塊となる。
「いや、やっぱりおかしいっす。どうしたらそんなに細切れになるっすか」
「それはまあ、技量?」
「技でそこまでできる訳ないのに…………」
何かむすっとしたような顔をしている気がするが、兜によって詳しい表情は分からない。
ただし、どこか挫折したような言い方であるためケイはこれ以上何も言わなかった。
とにかく、討ち漏らしになりそうな王国兵を倒し続ける。
かつて味方であった者を斬ることに抵抗はない。というよりもケイが居た頃は前線で消耗すると分かっていても最低限の戦いは教えていたはずなのに、ほんの少しの期間で練度が格段に落ちているのを実感している。
相手は確かに強く、騎士でない限り騎士相手には絶望的な戦力差であることを理解させ、できるなら逃げることを出来る限り教えた。
ただ、大抵が逃亡防止の魔法をかけられた元犯罪者だったり、ちょっとヤバいほど忠義を尽くす異常者だったりしたので効果は薄かった。
薄かっただけで刷り込むことは出来ていたのだ。
「…………よっわ」
絶望的な状況になったらいい感じに逃げ出すことを指示していれば、逃亡防止の魔法に引っかからないという裏技が存在していた。
無論、逃亡後に見つかったらまた戦地に戻されるが、少なくともその時だけは生き延びることはできたはず。
密かに教えとして前線で広めていた筈なのだが、今の彼らにはそれが見当たらない。
やけになり特攻など、言葉はなくとも勧めないことは伝え続けていた…………筈。
戦場が過酷すぎてすぐ死ぬ故に、捨て駒扱いにされているのか。
大した気迫もなく、覚悟よりも恐怖が来ている時点で敵にすらなる事ができていない。
「…………新しい指揮官は何してんだか」
剣を振るいながら自分の穴埋めで配属されたであろう顔も知らぬ騎士を思いながら、王国兵の骸を跨ぐのであった。
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