切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
「どうなっている!?何故こんなにも押されてるんだ!?」
一方その頃、王国の最前線で指揮をとる騎士が絶叫していた。
日頃は帝国にやや押され気味ではあったが、騎士の活躍により戦線を保ちつつあった…………筈なのに。
「おかしいだろう!?奴ら、こんなにも攻めてくるのか!?」
明らかに士気が高い帝国兵士及び騎士に、王国は圧倒されつつあった。
前線で最も嫌われていた末席たる上位騎士が戦死した事により配属された彼、名前すら呼ぶ価値もない騎士だが、前線を押し返そうと最初は息を巻いていた。
末席は上位騎士の中で最も能力が低く、喋る事が出来なければ育成能力もない。王国内で真相を知る極々一部のみはその認識であった。
前線での死者は数多く、末席の部下はほぼ全員が戦死している。
そもそもの話、能力が足りていなかったり元犯罪者を使っているため質が非常に低いのでそうなっているだけであり、末席がもう少しまともな扱いをされていたら王国が有利になっていた可能性の方が高い。
だが、切り捨て末席に質が良い兵士を与えることはついになかった。
「そこ!逃げるな、右翼へ広がりツッコめ!くっ、あのゴミですら4年も切り盛りしていたんだぞ、この私にできるはずがない!」
騎士の脳裏に浮かぶのは誰からも馬鹿にされていた末席騎士。
上位騎士でありながら育成能力は誰よりも低く、どの上位騎士よりも戦死者を出していた恥さらし。
一応ではあるが上位騎士として前線を保つ能力を持っていたらしく、何年も生き恥を晒し続けていたことはつい先日のように思い出す。
ようやくくたばって上位騎士の座を一つ明けたことが始まりだった。
王国の騎士はこぞって我こそ新たなる上位騎士となるべく立候補、そのために功績を稼ごうと躍起になり始めた。
先日、戦死した十階位騎士であるクラインの部下も実は同じような立場であった。
やや僻地よりな場所で任務を遂行していたのも己の地位を立てるほんの僅かでも高めるためであった。
「うわ、うわー!」
「もうだめだ!逃げ…………体が勝手に前にいくううううう!?」
「おい騎士様よぉ!これ無理だって!撤退の命令出せよ!」
前線は既に100m、200mと大きく、そして勢いよく押されている以上は指揮も士気もあるはずがない。
逃亡防止の魔法は逃げようとした場合に特定の行動を強制的に盗らせる魔法、敵前逃亡が多々起こる戦場にてこの魔法は、敵への強制的な突撃へと変えることが出来るのだ。
前線で戦わされる兵士の中で、元犯罪者や反抗的な態度をとることが多い者に掛けられる非人道的な魔法であったが、見えない負けが込みつつある王国に抑制する理由はなかった。
「ふざけるな!誰が逃げていいと言った!貴様らの命は国の為にある、国の為に散れ!」
「くそったれええええええええええええ!」
その魔法がかかっていても逃亡可能な裏技、それは彼等の指揮官が命令した場合ならその限りではないという者であった。
本来なら想定外の使い方であるが、指揮官が逃げる際に兵士だけが前に出て一人だけ逃げる、といった何とも情けない姿をさらすことになってしまうのだ。
そのため、最低限の体裁を保つために逃亡防止の魔法がかかっていても逃げることが可能になるのだ。
前任者であった末席騎士は言葉が喋れなくても身振り手振りで伝えており、万が一の時は逃げて良いと戦場に出る前から指示していたのだ。
絶叫しながら突撃せざるを得なかった兵士もそれを知る1人であった、のだがもうこの方法は通用しない。
何故なら何度もそれで命を救われた馬鹿が、末席騎士が居なくなっても同じようにそれとなく許可を得ようとして抜け道が存在すると発覚、そして強く禁じられてしまったのだ。
故に、もはや死ぬしかない兵士は絶望的な顔で前へ出るしかなかった。
よって、奇跡的に何度も末席騎士の下で戦った兵士はほぼ全滅、前線が元々どのような場所であったかは手柄を横取りするための嘘しか話が回っていないのだ。
「こんなはずでは…………!ええい、役立たずが!私が前に出る!」
しびれを切らした騎士は、逃げ惑うか強制的に死にに行かせられる兵士を押し出し、己の実力を知らしめるべく前へと踊りでた。
「貴様が奴の後釜か!」
帝国兵に混じって最前線で戦う赤い鎧の騎士が王国騎士が出てきたことに気づき、周囲に合図を送り人払いをさせる。
「我が二つ名は太陽騎士!死神を焼きし1人、貴様の首を討ちとり王国の剣がおられたことを示してやる!」
「なにをたわけたことを!」
こちらの上位騎士よりも少しかっこよさそうな名乗りをあげやがって、と嫉妬心が芽生える中で王国騎士は彼へと切りかかる。
一騎打ちに見えるため見栄えはいいが、かつて帝国は末席騎士という死神に多くの仲間がやられており、死神が無き今から新たな死神となるような王国騎士が出てくるのではないかと危惧していたのだ。
よって、太陽騎士は己が捨て駒になる覚悟で前線に出てきた王国騎士の試金石となろうとした。
「くらえ!
燃え盛る剣を振るい、王国騎士へと切りかかり。
熱したナイフでバターを切るかの如く両断した。
「…………ん?」
王国騎士は剣をぶつけ合う前に斬られてしまい、そのまま灼熱と化した傷から血を流すこともできず身体を二つに分けられた。
「ばか、な…………前に出る騎士が、こんなに、強いなんて…………!?」
最期に言い残すかのように驚愕をこぼし、王国騎士は絶命した。
「な、なんだ、拍子抜けすぎやしないか?」
敵の騎士を打ち取ったというのに太陽騎士は困惑していた。
太陽騎士も帝国内では強者に部類する騎士であるが、死神なら小手調べで放たれた
実際、太陽騎士は最終決戦だけでなく複数回も死神と交戦したが傷一つ与えるどころか死にかける大怪我を負う羽目になった。
それでも前へ出て戦うのは帝国への厚い忠義の為である。
だがしかし。
「死神と比べ物にならん弱さ…………いや、まだ奴らはなにか隠しているかもしれん!」
見当違いな勘違いを起こしてしまった太陽騎士は我が身を犠牲にしてでも何らかの秘密を引き摺り出そうとさらに進む。
「太陽騎士が王国の騎士を討ち取ったぞ!」
「俺たちも続け!」
「うおおおお!!!」
それに釣られて士気がさらに上がった兵士達も前に出る。
こうして死神が居なくなり、初めての戦場は帝国の圧勝で幕を閉じる事になる。
そして、王国は末席騎士が死神として恐れられていた事を知るのに更なる時間が必要となった。
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