切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
何だこれは、ケイの胸の中はこの言葉でいっぱいだった。
途中で目を逸らして王国前線からはみ出た兵士を倒し続けていたが、それて来る兵士があまりにも多すぎる。
王国の兵士は、言ってしまえば帝国兵よりも弱く、騎士の数は他より多くとも質の振れ幅が非常に大きく、帝国と比べたら見劣りするような騎士ばかりしかいない。
たとえ一般兵士の脅威であっても数で何とか出来る可能性がある程度にまで質が落ち気味であった。
何故なら当時、修羅場の様な戦いの殆どが前線に集中しており、敵の名のある騎士と交戦して栄誉をとるより特徴のない一般兵を狩って数を競うことが醜流となり実践の質が落ちていたのだ。
本来、修羅場で得られるはずの質をリスクとして全て末席騎士に押し付けていたのだ。
無論、そのようなことは他との交流が減っていたケイが知ることもなく、いつの間にかただひたすらに質が極まっていた。
よって、帝国からしたら最強の敵であり最大の懸念であった死神こと末席騎士が居ない戦場は死のリスクが非常に薄まった状況であった。
戦場である以上、死のリスクはある。だが、以前のそれと比べ物にならないほど生きやすい環境でもあった。
よって、帝国側に勢いが付くのは当然であった。
「うっわぁ…………大壊走…………」
「あーっはっはっはっ!いい気味だ!」
「積年の恨みが籠ってますねぇ」
「あ、やっぱり?」
「死神が頭角を現して以来、帝国は敗色濃厚だった。前の団長もその戦いで…………ううっ」
妙に湿っぽい演技を見せるシャーレであるが、着ている鎧はとても厳ついためぶりっ子にしか見えない。
というか鎧である以上、いかなる巨乳美女であっても男と間違われる可能性の方が高かった。
既にシャーレ率いる傭兵団(3人)と他の傭兵団の連携によって散り散りになった兵士はあらかた片付いている。
帝国領に逃げる兵士はほとんど残っていないだろう。もし、生き延びたとしても帝国領内でやり直せるかは全くの別問題である。
そんな中、間違いなく恨まれているであろう身でありながらやり直しを決行したケイは遠くを、前線の最前線という遠くを見ていた。
とんでもなく押されている、過去に自分が死守していた地点よりも遥か後方まで帝国の兵士と騎士がなだれ込んでいる。
「うおおおおおおお!」
「前に!前に!」
「帝国に栄光あれ!」
「太陽をご照覧荒れ!」
「1人なんか毛色違うくないか?」
何故か遠くまで聞こえる赤い騎士の声に難癖をつけながら、ケイは己の剣をおろす。
今のところ、斬る敵は居ない。他に狩り尽くされ、王国兵が居なくなったからだ。
「いやー、こりゃ儲けっすねぇ。死神が居ないだけでこうもやりやすい」
「基本的に前にいるけど、突っ込んできた時に巻き込まれかねないからな」
シャーレとその幼馴染の言葉を聞き、兜の中で冷や汗をかく。
死にたくないがために死に物狂いで戦い、どうせ敵しかいないのだからと派手にやらかしてきたのだ。
汗びっしょりで早く水浴びがしたくなったケイであるが、戦場はまだ止まらない。
「どうする?もう少し稼ぐか?」
「いや、ここは一回お開きにするべきっす。深追いはほら、死神が出てくるかもしれないっすよぉ」
「あの死神はいなくなっても、別の死神がいるからなぁ」
この別の死神というのは不慮の事故の事を指していた。
戦場で不意を突かれた際に起こる事故、または死が唐突に起きる現象。一般の兵士が突然敵の騎士と戦う羽目になったり、騎士とて油断していたら流れ矢に当たり致命傷を負うこともある。
ケイは近寄る物すべてが敵であったために死神を意識することはなかった。
自分自身が死神である以上、他社にとって最も恐ろしい厄災は彼だったのだから。
「ケイも気を付けるんだぞ。死神は常にみている…………なんてな」
別の死神は今もお前を見ているぞ、と言いたくなったケイは口をつぐんだ。
確かに油断して変な死に方をする奴は昔も今も変わらない。ケイも意気揚々と戦おうとした結果、素っ子論で頭をぶつけて死んだ騎士を見たことがある。
流石に一瞬呆然として隙が出来てしまったと感じたが、周囲もあっけなく硬直していた為に命拾いしたこともあった。
だが、その死神は当分来なさそうにない。
「うわあ…………」
このような雑談をしている合間にも前線が大きく進んでおり、後方で待機している部隊が陣地を徐々に前へと押し出していく。
王国から上位騎士が出張ってないとはいえ、確実に惨敗と言わざるを得ない結果だ。自分が居ないだけでここまで瓦解するとは、そう思わずにいられない。
「まあ、自業自得だよな…………」
全て自分に頼りっ切りで、手柄も何もかも奪ってきた相手に同情を抱くのは傲慢となるのだろうか。
いい気味と思う反面、どこか切ない気持ちになるが頭を振って気持ちを切り替える。
今の自分は傭兵、上の者に付き従うべきなのだ。
責任から逃れたせいか、それとも責任という言葉に未だに囚われているからこそ胸の中にもやもやとした感情を抱えながらも、2回目の戦場が終わりに近づいていた。
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