切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる 作:蓮太郎
戦自体は毎日行われる訳ではない。一度やるごとに人も金も吹き飛ぶものだ。
王国と帝国は長年戦争を続けており、どちらもかなり疲弊している。
最近は間隔が空くようになったとはいえ、兵士に出す金も馬鹿にできず、まして高給取りの騎士に出る金はごく一部除いて大変なこととなっている。
「っしゃあ!想定よりも褒賞あるぞ!」
「やりましたねぇ。今日は脾臓のお酒でも出しましょうかぁ」
「年代物か?」
「いえ、脾臓のお酒です」
「??????」
言葉遊びに惑わされるケイを揶揄うかのようにシャーレの幼馴染はケタケタとわざとらしく笑う。
純粋にからかわれるのは滅多になかったケイは目を点のように丸くしていた。
いつも悪意ばかりの環境故に、純粋な行為に混乱していた。
あまりにもな具合にシャーレの幼馴染は変な遊び方を知ってしまったようで、次に何を言おうか何度も頭の中で考えていた。
そんなときにぽかりと頭を殴られて、不意打ちに驚きすぎて涙目になりながらうずくまった。
「全く、馬鹿なことしてないで計算だ計算」
「計算?」
「今日は首一つに金勘定いるんだよ。微々たるものでも死活問題だからさ」
「そうか…………ん?」
どうやら本来の報酬に加えて小銭稼ぎに倒した頭数を数えるようだ。
ケイはいったいどれほどの王国兵を斬ったのだろうか?先日倒した騎士2人を含めて数えてみる。
あまりに
ひい、ふう、みい、よ…………
「どれだけ倒したっけ…………?」
今まで倒した数など覚えていない。死神時代を含めてあまりにも多く切り捨て続けてきたため数える習慣が無いのだ。
それに、どれだけ敵を倒そうと王国から褒賞が出ることはなく、生き延びるために必死であったため周囲を警戒する以外の頭は持ち合わせていなかった頃が災いした。
最初に切り捨てた王国兵の顔すら思い出せなくなっていた。
自分が確かに命を奪ったことは間違いない。殺した相手の事を忘れるというのも日常茶飯事であった。
だが、本当にそれでよかったのだろうか?
騎士として他者を軽んじることはあまりよくはない。まあ、王国の騎士はそのような傾向を持つ者の方が少ないが、最初の頃はケイもそういった志を持っていた。
だが、戦いに駆り出されるうちにそんなものは役に立たないといつの間にか割り切ってしまい、死者の事を軽んじていた。
そのことに気づいてしまったケイは背筋が凍る。
今になって実感する、人として大事なものを失ったこと。
「おいおい、53人殺しが今になって戦場酔いか?」
バシバシと背中を叩かれて現実に引き戻される。
思わず息を吐き出したが、まだ鎧を脱いでいないため高めの金属音が響く。
「ま、アタシも最初はそんなもんだったけどな。しっかし、割と歴戦だったんじゃないかい?あんな斬り方は見たことなかったし」
「我流ですかねぇ?」
「あ、ま、まあな」
流石に王国の騎士としての剣技は今のところ封印している。脱走したとはいえど死神のせいでヘイトが非常に高いからである。
ケイは自覚していないが、十階位の元にいる騎士の事をペラペラと喋った時点であの場にいた皆がケイが王国の騎士である可能性に、否、騎士だったということに気づいている。
そうでなければ内情に詳しくならないのだ。
帝国も王国に諜報は行なっているものの、何故か密偵であるものが高頻度で摘発されている。
なので、喉から手が出るほど欲しい情報の塊を持つケイを手放したくないからこそ敢えてスルーした。
確かにケイは強い。だが密偵にしては隙が大きすぎる。
前線が過酷故に脱走してきた騎士、そう思われている。
まさか、脱走したの死神だとは誰も思っていない。
「うし、今日は奢ってやる。借金は負けてやらんが、これからもよろしく頼むぞ?」
がっしりと肩を組み、シャーレはにこやかに言った。
顔に傷があるものの、元が良いだけに絵として映える笑顔であった。
思ったよりも期待されている、ケイはそう感じた。
元々の自己評価が低すぎたせいでもあるが、単純に環境が悪く余裕がなかっただけである。
「(こりゃあ優良物件が釣れた!今後とも、戦闘でも情報でもいい感じに使ってやるからな)」
シャーレの笑顔の裏には銭勘定がある事を見抜けないくらいにホカホカしていたのだ。
期待されるという思いは、虐げられていたという傷を慰める薬になるが、一歩間違えたら良くない方向へ転ぶだろう。
「とりあえず適当に数えておきましょうよぉ。私とシャーレで殺した数の2倍、いや10倍は乗せときましょうか」
「待て待て、流石にそれは盛りすぎじゃないか?」
「うーん、所詮は敗走してた奴らだからな。もうすこし少なく申請しよう」
「ちぇ、ちょっと誤魔化せたら懐に入れられたのにぃ」
「これが会計でいいのか?」
「お前も覚えていくんだぞ」
シャーレにいずれ業務分担させられる事を聞いたケイは顔を顰め、3人でどっと笑った。
笑えるうちに笑えたらい。3人それぞれの過去からくる、余裕ができた今だからこそ共通となった笑いであった。
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