切り捨て末席は死んだふりして国から逃げ出して傭兵になる   作:蓮太郎

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第7話 切り捨て末席、勧誘される

 

「うっわ…………これで20軒目。どこもダメか」

 

 ケイは項垂れていた。貯蓄もそこを見せ始めていても何処も雇ってくれないことに悲しんでいた。

 

 元々ただの騎士。戦い以外は基本的に素人な人間でしかない彼にできることはかなり少ない。

 

 それに山賊を大量に殺した際に噂の人物となってしまったため恐れにより誰も雇ってくれなくなってしまったのだ。

 

「マジでやばい。あと7日で全部尽きる。マジで流石に探さないと野宿生活になるぞ」

 

 賊になるならば自害する、それくらいの誇りだけは残してるので原始人生活をやむなく始める可能性がケイの頭の中で回り始める。

 

 今日も仕事が見つからないと酒場でヤケ酒を飲もうとひっそり席に座る。

 

 なお、今まで酒をロクに飲んだ事がないため味はあまり知らない。

 

 なので水とつまみだけ頼むという酒場を舐めた注文ばかりしている。

 

 そんな飲み方をしているので誰も寄らない、話しかけもしない。

 

 やはり殺しすぎたのが原因か、せめて四肢を落とすくらいに留めておいたら良かったのだろうかと毎日反省していたその時だった。

 

「やあ、お兄さん。少し相席いいかな」

 

 返事を返す間も無くどすん、と肉質がいい音と共に椅子に座る誰かが来た。

 

 つまみだけに目を向けていたケイが声の主に顔を向ける。

 

 女性だった。肌をそこそこ出すように見せつける所々穴が意図的な空いている衣服、そこから見える鍛えられた筋肉と歴戦らしい傷跡、そして肉食動物のような鋭い眼光がケイを見つめる。

 

「奢らないし、むしろ奢ってくれるならな」

 

「それくらい質素なやつなら構わない。私としては君にお近づきになりたくてね。エール2本ちょうだい!あと焼き鳥2枚!」

 

 大声で女性が注文をし、ここの焼き鳥は串焼きではなく鉄板で焼いた鶏肉のことを指す、再びケイと向き合う。

 

「まずアタシの話からだ。アタシはシャーレ、しがない傭兵さ」

 

「…………しがない傭兵が無職に何の用だ」

 

「なあに、あんたほどの腕の持ち主ならいくらでも仕事はあるんだよねぇ」

 

 こん、こん、と机を指でつつきながらシャーレと名乗る女傭兵は続ける。

 

「山賊退治は見事だった。まさかたった一人であの量を一人残さず始末をつけるとは、普通の始末屋じゃあ出来ない」

 

「何が言いたい」

 

「あんた、思ったよりもすっぱり行くんだね。ちょっと聞き込みしたけどおしゃべりが好きって印象だったけどねぇ」

 

「悪いが、そういう話はあんまり好きじゃないんだ。それに、ここは食事処だ。血なまぐさい事は話すべきじゃない」

 

「じゃあ何なら話してくれる?」

 

「いい職場の話。再就職先がほぼ全滅してるんだよ、マジで金がない」

 

「あっはっは、いいねぇ!現実的だ!そして俗っぽい悩みだねぇ!」

 

 くてんとケイがテーブルに顔を付けて嘆けばシャーレが笑い飛ばす。

 

 事実、あれだけの虐殺を行える人間が暴力以外の職につこうとする時点で傭兵のシャーレからすれば滑稽そのものでしかない。

 

「まあいいさ。金に困ったらうちに来な。傭兵業だけじゃなく金貸しもしてる。返済できなかったら戦場行きだけどねぇ!」

 

「笑えないな…………」

 

 ケイが顔を机につけたままつまみのソーセージを加えてポリポリ食べる。元が干し肉なだけあって刺激的な辛さをしていた。

 

 それと同時にシャーレの頼んだエールと呼ばれる酒と焼き鳥が2枚運ばれてくる。

 

 届いた際にウェイターにあらかじめ用意していた代金を渡し、最初にぐいっと酒を飲む。

 

「そんな飲み方してると早死にするぞ」

 

「傭兵やってたらいつ死ぬか分からないのに明日を気にする必要あるかねぇ?」

 

「二日酔いのことを言ってるんだよ。死ぬぞ」

 

「現実を見せつけてくるな」

 

 楽しそうな顔からすん、と真顔になり注意された。

 

 割と普通のことだと思っていたケイは理不尽だなと思いつつ、水をあおった。

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

「ってことがあったんだよ」

 

「親分、噂は聞いてますが本当にくるんですかい?」

 

「ま、それはあいつ次第ってところ。誠実さは聞き込み通りだからそう簡単に来るわけないさ」

 

「はー、親分のロクに成功したことないからなー。おかげで今じゃ親分とアタイだけの金貸しよ」

 

「これからメンバーを増やせばいい。幸いなことに資金はたんまりあるからねぇ」

 

「よ、親のすねかじり!」

 

「既に死んでるっての」

 

 傭兵二人、シャーレとその部下である赤毛の女が今日も買い取った小さな家で喋っていた。

 

 傭兵業と言っても使い捨てにされることが多く、ただし本当に使い捨てにされるのであれば前金が高いことが多い。

 

 シャーレは幸いなことに力はあった。ついでに金勘定できる幼馴染が居て親の遺産が思った以上に有ったので食っていけているという状況だ。

 

 ただし、しっかりと傭兵業はおろそかにせず度々戦場に出向いて売り込むことはある。

 

 幸か不幸か少し離れた場所に有名な戦地があり、王国が高頻度で戦争を仕掛けているので傭兵たちが集まりやすい。

 

 シャーレと幼馴染も何度も戦争に参加しており、その結果として経験を得たもののそこそこ仲間を失い二人だけとなってしまった。

 

 そのおかげで現在共に働く仲間を募集中。線が良さそうな人間を勧誘しているのだ。

 

「で、結局今日も収穫なしか。あー、また戦場に出たいなぁ。なんか帝国の動きがきな臭いし、絶対進展があっただろうねぇ」

 

 彼女達はまだ知らない、帝国と諸国連合が王国最大の要であった死神が(偽装して逃走したが)倒されて勢いづいていることに。

 

 この件を情報統制であまり広めないようにしているが、いつか話が漏れて彼女達木端傭兵にも伝わるだろう。

 

「ま、いつものこと。気長に借金取り立てながら待つとしますか」

 

 そう言って幼馴染が立ち上がり、債務者に借金と利子の取り立てに行こうと家から出ようとした。

 

 その時、玄関がノックされた。

 

「ん?客か?」

 

「ノックの感じだと、男みたいな荒さだな。誰か金を借りに来たのかねぇ」

 

 ここは幼馴染ではなく敢えてシャーレが出て威圧ついでに新たな債務者を引き込もうかと考えて玄関に立つ。

 

 そしてドアを開けるとそこには…………

 

「…………昨日の今日で虫がいいかもしれないけど」

 

「おう、言ってみな」

 

「……………………働くので、お金貸してください」

 

 明らかに意気消沈して表情がくしゃくしゃになったケイだった。

 

 勧誘から予想外の収穫に、シャーレは新鮮な餌を用意された肉食獣のようにニタリと笑いながら薄暗い部屋の中へと案内するのであった。

 

 こんな情けない姿が、王国最強と王国以外で認知されている死神だと思うまい。




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