更新は銀英伝、SEEDの後になるので時間かかります。
のんびりお待ち下さい。
練習試合の次の日、日曜日の午前中はミーティングを行うことになった。千葉経大との練習試合があまりの大敗だったこともあり、全員の意識の共有が必要と監督とキャプテンの紅林先輩は思ったようだ。
正直に云うと俺は、この結果は予想出来ていたから話し合うも何もって思ったが、指導者、リーダーとして色々と考えることがあるのだろう。
視聴覚室を9時から昼まで使い、昨日の試合を観ながら振り返りと改善の話し合いをすることになった。
監督とキャプテンから、年下だろうが思ったことは全部言えと言われたので、まあ遠慮なく言わせてもらうつもりだ。
「この一月一緒に練習してきて、皆さんの実力は分かっていたので、冬の選手権の津軽と千葉経大の試合を見たら、あの結果になるのは分かっていました。」
「知ってて言わなかったのか?」
「はい。キャプテンには伝えてましたが。そもそも一月程度、俺が所属してた前のチームと同じ練習をした程度で千葉経大に勝てると思ってたんですか?メニューは同じですがスピードもクォリティーもインテンシティも足りてない状態です。」
「…………………。」
俺のハッキリとした口調で断定した事実を伝えると皆さん黙り込んでいらしゃる。
「そもそも同じメニューをしている俺と同じレベルでしてると言える人この中でいます?」
周りを見渡しても誰も喋らず俯いている。
「このまま行けば今年の県予選も同じ結果に終わると俺は思います。それが嫌なら本気でやって上手くなるしかありません。その為のアドバイスなら喜んでします。」
周りを見渡すと今度は沢城先輩と目が合った。
「俺はこのまま行くなんて嫌だ。大差で負けて、こんなもんかよって目で下に見られるのも、如月って宝を錆びさせた何て言われるのも。」
沢城先輩の慟哭にも似た苦渋に満ちた声に皆も賛同した。正直俺も千葉経大のメンバー全員が栄明と試合する意味があるのかって思ってただろう。ぶっちゃけ俺が居るからしただけだ。
つまりここにいる俺以外は眼中になかったのだ。目で態度でプレーでお前達を相手にしてないってやられたら流石に気付くか。
「なら決まりだな。如月、俺達は上手くなりたい。お前を活かせるくらい、全国であいつらに勝てるくらい。」
皆の目に火が灯っている。あそこまでボコボコにされたら心が折れるか火が灯るかの2択だ。内心分が悪い賭けだったが勝ったみたいだ。
「分かりました。監督には本当のメニューを渡していたんです。皆さんが本気でやると分かったら変えようって。」
俺の言葉に皆が監督に視線をやると頷いて本当だと証明した。
「速く、激しく、厳しく、辛いメニューですが、やり切れば皆の力になります。」
「よし、やろう!」
「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」
気合の掛け声が視聴覚室に響き渡った。
「なら昨日の試合の振り返りをしましょう。めったクソのボロッカスに言うので覚悟して下さい。」
そう言って昨日の試合映像を流す準備をした。皆の渋い顔を前に。
朝練からサッカー部の凄く大きな声が聞こえる。練習試合で負けたのもそうだが、対戦相手に敵として見られていなかったのが堪えたみたいってマネージャーの子に聞いた。沢城君を筆頭に皆が本当に悔しがっていたようだ。
優君の怒鳴るような叫ぶような声量の指示が聞こえてきた。頑張ってるんだなと思うと私も嬉しくなる。いかんいかん、顔が緩んでいる。頬をぐにぐに解し触り、気持ちを入れ替える。
9時の練習開始前にトイレとか諸々準備しておかないと。体育館に戻ろうとすると途中にバド部の子2人と体操部の子が仲良さそうに話していた。微笑ましく視線をやったのに体操部の子が気付いて挨拶をしてきてくれた。
「あっ、おはようございます。」
「「おはようございます!」」
バド部の2人も続いて挨拶をしてきてくれた。
「おはよう。部活頑張ってね。」
「「「ありがとうございます。」」」
互いに挨拶をして去ろうとすると、反対側から生活指導の先生がやって来た。
「おっ、いい所に。この椅子をもう一つの体育館に運んでくれ。明日の入学式に使うんだ。」
「俺達も新入生何ですけど………?」
「ん?そうか、おめでとう。」
「聞いちゃいねぇ………。」
「頼むよ。」
「分かりました。」
2人のやり取りを横目に見ながら椅子を運ぶ為に椅子の所に向かった。
「鹿野先輩、俺持ちますよ。」
活発な方の子が持つと言ってくれたけど私在校生だし、頼まれた人に私も入ってるから持たないと。
「いいよ。私在校生だから。」
そう言って両手に椅子を持ってもう一つの体育館に向かって歩き出した。
後ろからカチャカチャと金属音が近付いて聞こえてきた。
「あの私新体操部の蝶野って言います。バスケ部の鹿野千夏先輩ですよね?」
隣に並んだ女の子が自己紹介と問い掛けをしてきたので答えた。
「うん。よろしくね、蝶野さん。」
「一つ質問してもいいですか?」
「うん?」
何だろう?
「先輩って彼氏とかいるんですか?」
とかって何だろう?
「?いないよ?」
「欲しいとは思わないんですか?」
「今は部活で忙しいからね〜。」
蝶野さんが後ろに目をやっている。ツンツン頭の子に視線をやっているところを見ると、蝶野さんは彼が気になるのだろう。と云う事は、私を牽制しているってことかな?
「なら気になる男子っていないんですか?」
「気になる子か〜〜〜………。蝶野さんはどうなの?彼氏や好きな男子、気になる男子はいるの?」
「はえっ!わ、私ですか!?」
私の質問にドキッ、キョロキョロ、アワアワしている。そして私とツンツン頭の子を交互に見ている。
ふふふ、初々しくて可愛いな〜〜〜。
目的地の体育館に着くと、入り口から椅子が置かれた一角があった。あそこでいいんだよね?とりあえずそこに置いておこう。
さて午前練習が始まる。戻らないと。
朝、いつも通り5時に起き、いつも通り10キロのタイム走をしてから家に帰り、シャワーを浴びる。鏡の前で全身チェックしてから部屋に戻る。6時になると隣の千夏先輩の部屋からアラームが微かに聞こえた。
俺もそろそろ下に降りないと。栄明高校の制服に袖を通す。ほんの少し大きいがいい感じ。姿見でチェックし、問題ないと分かってから下に降りる。
リビングに入るといつも通り父さんが席で新聞を読み、母さんがキッチンで朝食を作ってくれている。
「おはよう、優。」
「おはよう、父さん母さん。」
「おはよう、優。制服は大丈夫?着れた?」
「問題ないよ。サイズもいい感じ。」
朝の挨拶と制服の事を聞かれ、それに答えていると階段を降りてくる音が聞こえてきた。扉がしっかりと閉まっていなかったみたいだ。スッと開けてあげると扉の前で驚いた顔をした千夏先輩がいた。
「おはようございます、千夏先輩。」
「え、あ、おはよう優君。ウチの制服だね………。」
千夏先輩のセリフが可笑しくて笑ってしまった。それを見た千夏先輩が膨れっ面をしている。
「そりゃそうでしょ。栄明に入学するんですから。」
「そうだけど、私優君の制服見たことなかったから。」
「どうです?初制服。似合ってますか?」
千夏先輩に問い掛けると、上から下までゆっくりと見てきた。
「うん、ばっちり!カッコいいよ!」
「千夏先輩に言われると自信がつきます。」
そんなやり取りをしているとお盆を持った母さんが近づいてきた。
「アンタ達ね。今日は入学式で朝練ないんでしょ?なのにこんな朝早く起きてもう………。」
「俺はいつも5時起きだから。サイクル変えるのも面倒だし。」
「私もいつも通り起きないと次の日が起きれるか不安で………。」
俺達の言葉に母さんが溜め息を吐いた。
「まあいいわ。直ぐに朝ご飯持ってくるから席に着きなさい。」
そう促されたので席に着いた。
「千夏先輩、お茶は冷たいのと温かいのどっちがいいです?」
そう尋ねると“温かいのがいいな”と言ったので湯飲みに急須のお茶を注いで渡した。
俺は持ってきた水をグラスに注いで飲む。
「ほら、お待たせ。」
母さんお手製の朝食。御飯に味噌汁、鰆の味噌漬け、金平牛蒡、ひじき煮、サラダ、漬物。
「美味しそう〜〜〜!頂きます。」
嬉しそうにそう言って、手を合わせて食べ始めた前に座る千夏先輩。俺も手を合わせ、頂きますと声に出し、食べ始めた。
30分と掛からずに食べ終わり、食後のお茶を楽しんだ。そこから歯磨きや髪のセット、香水を付け、登校の準備を整えた。
もう8時になるというところで家を出ようとすると、待ったの声がかかった。
家の前で写真が撮りたいらしい。
母さんが玄関前で俺の写真、千夏先輩と一緒の写真を撮り終わると、千夏先輩一人の写真を撮り始めた。
千夏先輩の制服姿を熱心に撮る母さんの姿に、“今日って俺の入学式だよね”と隣で俺と同じ様に突っ立っていた父さんに尋ねたのはおかしくないと思う。
「ほら、もう時間だから智。その辺で。」
父さんの一声で不服そうだが撮影を止めた。そして何故かカメラを父さんに差し出した。
「千夏ちゃんとツーショットお願い。」
そのセリフに肩をガクッとしたのは悪くないと思う。千夏先輩も困惑顔だし。パパっと10枚程撮影すると解放された。
「気を付けて行ってらっしゃい。」
そう言って玄関前で手を振って見送ってくれた。
「行ってくる。」
何か朝から疲労感を感じながらの登校になった。
教室に入ると見知った顔があって安心した。
「おはよう大喜、匡。」
「おっ!おはよう優。」
「おはよう。」
「元気そうで嬉しいよ。バド部が練習していたのは知ってたけど体育館に行かないから、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね。この間の練習試合観に来てくれてたよね?」
「っ!ああ。優の初の練習試合って聞いて。」
気まずげに言う大喜は優しいな。
「気にしないでくれ。負けるの分かってたから。個人は別としてチームとしてのレベルが違うのは分かってたから。最後のドリブル突破からのゴールは見てくれたかな?あそこくらいだろう、見所。」
「凄かったよ。スピードもテクニックも。多分最後のワンプレーと見越してやったんでしょ?」
匡君は冷静な分析で導き出した事を聞いてきた。熱血漢の大喜に冷静沈着な匡か。正反対だけど良いコンビなんだろう。
「た〜〜〜いき、匡君。何してんの?」
2人の後ろから近づいて来ていた女子が大喜の肩を叩いて話しかけてきた。
「雛!?ビックリした〜!」
「何々、聞かれたらまずいことでも話してたのかい?」
「違うって。年明けに知り合った優と話してただけだよ。」
そう言って此方に視線を向けてくる。
「如月優です。よろしくお願いします。」
「私は蝶野雛!よろしくね、如月君!」
俺の挨拶に元気に返してきた。元気一杯、天真爛漫と言っていい人のようだ。
「私は島崎にいな。よろしく如月君。」
続いて一緒にいた子が自己紹介をしてくれたので、此方も行う。
「よろしく島崎さん。如月です。」
「如月君ってサッカー部でしょ?聞いてるよ、有名人!」
蝶野さんがニシシと笑いながら問い掛けてきた。
「確かにサッカー部に入る予定だけど有名人って?」
「お母さんは五輪メダリスト、本人はヨーロッパ1のサッカー選手。凄いよね〜。」
「俺の場合はチームメイトと運に恵まれただけだよ。」
「それより2人は部活は何をする予定何です?」
ヨイショされる話はあまり落ち着かないので2人の部活を聞いてみた。
「私達は新体操なんだ。良かったら見に来る?」
島崎さんが見学に誘ってきてくれたけど………。
「いや……お誘いはありがたいけど俺も部活あるから………。」
「だよね〜〜〜。」
島崎さんはノリが良いな。友達として仲良くなれそう。
そんなやり取りをしていると予鈴が鳴った。楽しいけど話はここまでかな。
入学式が終わり、ホームルームで諸々の説明を受け、全員の自己紹介が終わった。次は部活動紹介ということで体育館に移動することになった。皆が移動するべく立ち上がろうとした時、扉が開いた。
「おっ!如月、居た居た。」
サッカー部部長の紅林先輩が教室に入ってきた。
「よっす、高ちゃん先生。如月借りてきますね〜〜〜。」
「高ちゃん呼びすんじゃね〜。」
そんな会話を担任としながら俺の席の前まで来た。
「部活動紹介でお前の力を借りるぞ。さぁ、来い!」
そう言って俺の腕を掴み、グイグイと引っ張る。
「ヘルプ大喜、匡!」
「いってらっしゃ~い」
「頑張ってこ〜い。」
「は、薄情者〜〜〜。蝶野さ〜ん、島崎さ〜ん。」
「が、頑張れ!」
「応援してる〜〜〜。」
何て冷たい奴らだ!友達甲斐のない冷血漢達め!(女子もいるが)
廊下を襟首を掴まれながら歩く。逃げ出すのは諦めたから離してと言ってもダ〜〜〜メと言われた。
「あの〜俺新入生何ですけど?」
「ああそうだな。サッカー部の部員として認めているから問題ない。」
「あの〜話聞いてます?」
何故か噛み合わない会話をしながら歩くと体育館が見えてきた。
「あっれ〜〜〜優君じゃん。なんでいんの?」
渚先輩が紅林先輩に連れられた俺に気付いた。
「何か部活動紹介手伝えって紅林先輩に拉致られました。」
「うわっ、せっこ。新入生の世代別日本代表を使うとか。」
猫目の先輩が紅林先輩の所業を非難する。
「うるせ〜〜〜。綺麗どころばっか用意してる女バスキャプテンに言われたくね〜〜〜。」
紅林先輩が多分おちゃらけながら、女バスキャプテンに反論する。
「お二人仲良いんですね?」
そう優香先輩が言った瞬間、2人ともが嫌そうな顔をした。
「腐れ縁よ腐れ縁。」
「幼稚園から高校まで一緒になるなんて。運命通り越して因縁だな。」
女性の方は嫌そうに、紅林先輩は可笑しそうに笑いながら言っている。
「あはは、大学まで一緒になるかもな。」
紅林先輩ののほほんとした言葉に、更に嫌そうな顔をしている。
「コイツ、こんなアホな事をするのに成績は学年トップなのよ。糞が!」
吐き捨てる様に言われると俺達は何も言えんな。
「で、紅林先輩。俺は何をすればいいんです?」
空気を変えるために、話題も変えると紅林先輩は嬉しそうに言い放った。
「何か凄いこと!何か凄いことをしてくれ。」
「「「「……………」」」」
あまりに大雑把で抽象的な言葉に絶句してしまった。
千夏先輩、渚先輩達にヘルプの視線を向けると目が合った瞬間に逸らされた。ここにも薄情者がっ!
「〜〜〜………分かり……ました。ペットボトルのお茶を用意してくれませんか。」
チラリと紅林先輩が他の部員を見ると、小走りで去っていった。恐らく買いに行ってくれたんだろう。
「で、何するんだ?凄いこと?」
こういう好奇心と期待感満載の目を向けてくるの困るな。これからすることを考えれば………ま、いっか。
文化系部活のアピールが終わり、屋外系部活が始まった。アピールと言ってもステージ上だけのアピールでは思い通りの何て出来ないだろう。活動実績と活動日、人数などの当たり障りのない内容の紹介とちょっとしたデモンストレーションで終わっているから、今一盛り上がりに欠ける。
いよいよサッカー部の出番だ。屋外系最後らしい。ステージ下傍に屋内系部活最初のバスケ部がスタンバイする。紅林先輩や俺はヘッドマイクを付けてステージに上がる。
「サッカー部キャプテンの紅林です。ウチの自慢は今年、世代別日本代表が入部したことです。如月、自己紹介。」
「皆さんと同じく今年栄明に入学した如月優です。そこにいるキャプテンに拉致られて何故か入部していないのにも関わらずステージ上にいます。何か凄いことをしろと言われたので何かします。」
そう言ってとりあえずリフティングにブレイクダンスを入れたようなフリースタイルフットボールを行った。
次々と軽快に複雑な技を決めると歓声や拍手が沸き起こった。見栄えの良い技をやっているから一安心だ。さて、そろそろやりますか。リフティングを止め、キャプテンを呼んだ。キャプテンのヘッドマイクを外して指示を出す。
「キャプテン、ここから動かないで下さい。」
そう言って違う部員から貰ったお茶をキャプテンの頭の上に乗せた。
「お、おい。まさかこれって………。」
キャプテンの動揺した声が聞こえたがマイクを外していたので新入生たちには聞こえなかっただろう。
「大丈夫です。………多分………。」
「おい!そこは絶対って言え!」
え、そこの心配?ピーピーギャーギャーーうるせ〜な。
「分かりました。絶対大丈夫です。………多分恐らくきっと。」
「余計に不安になる言葉を最後にボソッと言うの止めろ!!」
まだ騒ぐキャプテンは無視しよう。新入生たちはクスクスと笑っている。
「ではやりましょう。え〜〜キャプテンの頭にあるペットボトルにボールを当てて、男子がさっきからチラチラ見ているあそこにいる美人さんにお茶をプレゼントしたいと思います。」
千夏先輩が美人って私?って自分を指差すから頷く。
「もし万が一上手くいったらペットボトル飛んできますんでキャッチして下さいね。」
俺がお願いすると両手で頭上に丸を作ってくれた。
「ではやりますか。」
ボールをセットして、助走を取るとキャプテンがビビり始めた。勘弁してくれよ。
「こら、動くな!顔に当たる!」
そう言うと覚悟が決まったのか目をギュッと瞑り、一本の線のようにピンと立ってくれる。これで狙いやすくなった。
「いきま〜す!」
左手を軽く上げて合図をする。体育館がシーーーンと静寂に包まれた。ゆっくりと走り出し、優しく丁寧にしっかりと、かつフィーリングを大事にし、ボールを蹴る。ボールを蹴った瞬間に“あっ、いける”と確信する何かを感じた。
ボールがペットボトルの真ん中に当たる。キャプテンの頭頂部にはギリギリ当たらない絶妙なコース。
ボールに跳ね飛ばされたペットボトルがスロー映像のようにゆっくりと彼女の下へ行く。
そのペットボトルを大事にしっかりとキャッチした。その瞬間“オォ〜〜〜〜〜”、“ワァ〜〜〜〜〜”って歓声が体育館中に鳴り響いた。
「俺凄くね?那須与一とロビン・フッドとウィリアム・テルの生まれ変わりって呼んでくれ。」
「いや多いな、生まれ変わった人………。」
俺とキャプテンの掛け合いに笑いが溢れた。そしてサッカー部の紹介が終わってステージから降りる。
すれ違い際に女バスの面々から凄かったとお褒めの言葉を頂いた。恐縮であります。
放課後、何人の人が来てくれることやら。
「新入生諸君、入学おめでとう。新人の経験者組は半面で先輩達の練習を覚えながらやってくれ。在校生はいつも通りやれ。如月は新入生をみてやってくれ。」
「「「「「はい!!」」」」」
部員の元気一杯の声で動き出した。
俺は新入生に手本を見せながら指導していく。反対側からは大きな声が聞こえてくる。上級生として負けていられないのだろう。
「さあ、こっちも負けずに声を出そう!速く速く!速く正確に!」
フィジカルトレとパス、ドリブルのボールを使ったトレーニングを行う。入学までろくに動いてなかったのかヘロヘロだ。
これから3対3、5対5、ミニゲームをするんだけどな。
監督に聞くと、怪我されると困るから外しておくかと言ってきたので新入生はセンターサークルで見学しておくようにと伝えた。
さ〜てお待ちかねの対人練習だ。張り切っていくか。
最後のメニューは4班に別れ、結果を競い合う。下2つは罰ゲームでゴールからゴールの縦に使った縦シャ(縦シャトルラン)をする。2番目は道具の片付け、1番は部室前に設置した小型プールでクールダウンを行う。プールに製氷機の氷を入れ、熱を持った下半身を冷やす。結構深くて立つと腰くらいまである。
「く〜〜〜冷てぇ〜〜。」
「気持ちいい〜〜〜。」
そんな声が漏れる。俺はそんな声を聞きながら上半身の汗のケアする。皆が真剣に取り組んでいる。それだけあの負けは大きかったということだろう。嬉しい誤算だ。
体育館の上に今日は多くのギャラリーがいる。多分俺と同じ新入生だろう。部活見学なのだろうが男子の多くは女バスを観ている。
お目当ては鹿野千夏先輩だろう。
「お前も上のギャラリーと大して変わらんぞ。年々ファンが増えていくシステムだな。」
隣の匡が千夏先輩を見ている俺にツッコミ、上のギャラリーを評した。
「で、残りの人のお目当ては。」
そう言って匡は反対側のコートに身体を向けた。
リボンを操る雛がいた。手足の隅々まで高い意識を持って動かしているのが分かる。不覚にも綺麗だと思った。
そんな俺に気付いたのかトコトコと近寄って来た。何だ?
「観覧料2000円ね。」
「払えるかあ!」
「熱烈な視線送ってた癖に。」
雛のからかいに、ついムキになってしまう。
「送ってないしっ!」
「美しいものに目が惹かれる気持ちもわかるよ。」
「自分で言うな。」
そんなやり取りをして、雛に言い返そうと思った時、外から女子のキャ〜〜〜〜〜って声が聞こえてきた。開いている窓やドアから聞こえてきたんだろう。
「何だ何だ?」
困惑の声を出すと、雛が答えをくれた。
「多分、サッカー部の如月君だよ。クラスの女子が観に行こうかって話してたし。そりゃあ日本代表でイケメンだからね〜〜。仕方ないよ。」
そっか優の応援か。凄いな。オレも負けてらんない。
「匡、練習に戻ろう。雛、またな。」
「うん。大喜も匡君も頑張ってね。」
「お前もな、雛。」
互いにエールを送り合い別れた。
部活が終わり、渚達友達と別れ、待ち合わせ場所に向かう。
智さんから日が暮れたら優君と一緒に帰ってくるようにと言われたので、先に部活を終えた優君が近くの公園で待ってくれている。
暗くなった公園の一角に1人立っているのが分かった。街灯に照らされた所に立っているので遠目からでも確認出来た。
スマホを見ていたが近付いていく私の足音か気配を感じたのか10メートルの距離で顔を上げた。
「お疲れ様です、千夏先輩。」
「ごめんね、優君。待たせたよね?」
「そんなに待ってませんよ。5分かそこらです。気にしないで下さい。」
いつもの優しげな笑顔を浮かべている。そしてスマホを差し出してきた。何かあったのか疑問に思いながら受け取り、画面を見る。
「わっ!!お肉!!」
スマホのメッセージに写真が添付されており、大きなTボーンステーキが写っていた。
そして“素敵な1年になります様にと願いを込めて、ステーキと入学、進級を祝って鯛を用意してます。早く帰ってくるように”と綴られていた。
「なら早く帰らないとね!」
ステーキに鯛!早く早く!気持ちが逸るそんな私を優君は苦笑して見ていた。は、恥ずかしい。はしゃぎすぎたかな?
「お腹も減りましたし、帰りましょうか。我が家に。」
そう言って歩き出した。少し歩くと後ろを振り向いた。
「ほら先輩。行きましょう。」
誘われるがまま隣に並び、家路についた。
因みに、優と千夏はお互いにいい人と思ってるだけで恋愛的感情は今の所ありません。
縦シャトルラン
ペナルティライン、センターライン、ペナルティライン、反対側エンドラインからのゴールになる長距離走です。
なんとなく皆さん理解してくれているみたいですけど一応。