アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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高校卒業後の話です。

思いつきなので本編完結の未来と一緒にならないかもしれませんが、箸休め的に見てもらえたら………。


future in a few years

1年ぶりに日本に帰国した。7月、8月のプレシーズンマッチのアメリカ遠征を無事怪我なく終え、チームに頼んでいた通り、8月の終わりに、休みを貰って帰国した。

朝9時過ぎに到着し、実家に顔を出すと“さっさと行け!”と追い出されるように家を出た。

実家に預けてあった車に乗り込むと、目的地まで車を走らせた。

時々、母さんが乗ってくれているようでエンジンもバッテリーも問題ないし、ボディも洗車してくれているのか綺麗だ。

蒸し暑い日本の夏にうんざりしながらも3年間通った高校時代を思い出す季節でもある。良い思い出ばかりじゃないけど、キラキラと光り輝いてみえる。

俺は高校を卒業してからイギリスに帰った。3月頭に帰ったから、もうシーズンの半分は過ぎていたがコンスタントに試合に使ってもらえたお陰で、ゴールアシストで合計10を越えるスコアを残せた。

そして1年フルに戦った今シーズンは日本で活躍した川添が新加入としてフォワードに入り、俺と息のあったプレーをし、チームは3冠を達成した。

国内リーグ、カップ、チャンピオンリーグと優勝し、チームとして最高のシーズンで終えることが出来た。

個人としてもリーグ20ゴール、28アシスト、シーズン36ゴール36アシストと抜群の成績を残し、世界ベストイレブン、世界最優秀選手賞に輝いた。

速度を守ってのんびり走らせていると、懐かしい音楽が流れている。多分母さんの選曲なんだろうがいやに若い子が好む選曲が癪に触るな。多分彼女の好みも反映されているから、こういった選曲になったんだろうなと思うと苦笑が漏れた。

1時間程で目的地に着いた。駐車場に車を止め、降りると注目を浴びていた。まあ仕方ないか……去年の大会で貰ったいい値段のする外車だからな。鍵をポケットに入れ、大学の敷地内に足を踏み入れた。すぐ入り口の事務室に声を掛けると、係の人が対応してくれたが、事務室に歓声があがった。軽くペコリと頭を下げる。手続きを終えて入館許可証を貰い、首から下げる。

“案内しましょうか”と好意で尋ねられるも、やんわり断った。のんびりと彼女が通う大学を見たかったからだ。高校卒業後直ぐにプロとなったことに後悔は微塵もない。なれるなら直ぐにでもなったほうがいいとも言われるサッカーのプロだ。

野球と比べて選手寿命が短いからそう言われるのだろうが、色々な考えがあるだろうが、確かにトップチームで活躍出来るならなったほうがいいだろうな。

夏休みだからだろう。あまり人が多くないが、所々で人とすれ違う。講義をする教室やカフェテリア、レストラン、資料室など色々ある。

彼女とここの大学に通うという選択肢があってもよかったなと思う程で、流石は日本でも有数の有名大学のキャンパスだ。

もう正午になる。そろそろ迎えに行こうと、体育館に足を向けた。暑いからか校舎とを繋ぐ入り口の扉が開いていた。バッシュのキュッキュッという音にボールが跳ねるドリブルの音、ガシャンというボールが当たったリングの音、そして人の声が聞こえる。

その中で彼女の声が聞こえてきた。その声を聞けて嬉しくて笑ってしまった。自分は大分浮かれていたようだ。

コートに入るのは邪魔になるなと思い、2階の席に向かった。最前列に座り、前の手摺に凭れた。

彼女の躍動する姿が眩しく見える。風の入りにくい体育館なのに彼女を見ていると、いつの間にか暑さを感じなくなっていた。

それからすぐに練習が終わり、解散になった。

すると“優!”と俺を呼ぶ声が聞こえた。体育館を周って2階に来ようとしたから呼び止め、降りるから待っててと伝えてすぐに降りた。コートに入ろうとした俺を待ちきれなかったのか、飛び込むように抱き着いてきた。夏のバスケの練習後だから汗だくなのも気にもせず、俺も抱きしめ返した。

俺と比べ、小さくて華奢で、柔らかくて甘く優しい香りがする彼女を大事に優しく、でも離すものかとギュッと抱きしめた。

「会いたかった………。」

「俺も……会いたかったです。」

しばらく互いの肉体と体温と匂いを感じていた。そして互いに顔を見つめ合い、キスをしようとした時、“ゴッホン”と大きな咳払いがすぐ傍から聞こえた。見ると1人の女子が顔を赤らめ気不味そうに近くで咳払いをしたのが理解できた。そして指で後方を周りを見てみろと言わんばかりにクイックイッとやったので2人揃って見遣ると、様々なポーズ、表情で何とも言えない雰囲気を作っていた。

「アンタ達、久し振りの逢瀬で嬉しいのは分かるけど、TPOを弁えなさい。するなら帰ってからにしなさいな。今日はもう帰っていいから。後片付けもこっちでやっとくから。」

「えっ、でも………。」

彼女の発言に、胸元にいる彼女が戸惑いの声を出すも。

「GO HOME!」

シッシッと追い払う様な手の動きをしてので顔を見合わせ、頷いた。

「ではお言葉に甘えます。ありがとうございました!」

「ありがとうございました。」

2人で礼を言い、その場を後にした。彼女に手を引かれ、更衣室に向かう。着替えてくるから待っててと言われた。待っているからシャワーを浴びてしっかりと汗なんかのケアをするように伝えた。仕方ない、一緒に女子更衣室に入るわけにもいかないからな………すぐ傍の自販機でお茶とスポーツ飲料を買った。20分程で出てきた。

“お待たせ”と言う彼女の髪がまだ湿気ているのが分かったので彼女の首に掛けてあるタオルを手にとって丁寧に拭き上げてあげた。恥ずかしそうに、でも嬉しそうにされるがままの彼女を愛おしく思った。

今回はキスはしない。………何故ならすぐ側の通路から片付けを終えた女子が覗いているからだ。彼女達にペコリと頭を下げ、2人並んで出口に向かった。すぐに彼女が腕を組んできた。嬉しそうにこちらを向いて笑う彼女に俺も嬉しくなって笑い返した。

また事務室に向かい、入館許可証を返し、車に向かった。エンジンをかけ、車に乗り込んだ。

夏の陽射しで暑かった車内もすぐにクーラーで快適になった。

会いたかったと伝えると恥ずかしそうに“私も会いたかった”と言ってくれる。

“いいかい?”と尋ねると恥ずかしそうに“うん”と頷いてくれたので車のスモーク機能をオンにして周りから見えないようにした。

彼女の後頭部に手を回し、グイッと引き寄せた。深く何度も何度も口付けを交わした。角度を変え、互いの口から吐息や声が漏れようがお構いなく。

互いに満足するまでし、唇を離すと熱を帯びた視線と赤く染まった頬が扇情的で、その色香にそそられた。

今じゃない我慢我慢と自らのなけなしの理性に言い聞かせ、買っておいた飲み物を差し出した。1口、2口と飲むと、落ち着きを取り戻したのか、彼女の腹がく〜〜〜と鳴った。

お腹を押さえて恥ずかしそうにする彼女にお昼に行きましょうかと言い、車を発進させた。行きつけのお店に電話する。今からだから20分かからずに行くと伝えた。

夜はいつものレストランでお肉だからお昼は海鮮。

店に着くと、奥の個室に案内され直ぐにお手拭きと冷たいお茶が出された。

舟盛りと魚の煮つけ、焼き物が出てきた。それと大盛りのご飯が。俺も彼女も嬉しそうに食べ始めた。

これが美味しい、あれが歯ごたえがいい、それが甘いと会話が弾む。美味しい食事で会話が楽しくなる。

互いの近況を報告しながら、ゆっくりと頂くと1時間近く経っていた。

ショッピングモールで秋冬服を見たり、試着したり、買ったりして、カフェでお茶をして、スポーツ用品店を周ったりした。

スポーツ用品店では壁に張られた俺のポスターを彼女は指差して笑っている。“有名人”って揶揄われたりもした。特設コーナーが作られ、俺モデルのスパイクやレガース、ヘアバンドなど数多くの商品が出ているのをどう思うか聞かれた。

俺も子供の頃は憧れの選手の商品を買ってもらって真似したりしたものだ。俺が今の子供達の憧れや目指す選手になれているなら嬉しいと答えた。

そんな事を言った俺を眩しそうに楽しそうに嬉しそうに見る彼女の顔を見ていると恥ずかしくなって照れ隠しに胸元に引き寄せた。

急にそんな事をした俺を見上げた彼女のオデコにキスをした。

最初ポカンとしていた彼女が、我に返ったら顔を赤面したのが嬉しくて楽しい一時だった。

 

 

 

 

いつものホテルの上層階にあるレストランに行く流れだったのだが、何故かスイートルームを優がとっていたらしく、部屋へ連れて行かれた。

そこに用意された薄いピンクのサマードレスに着替えるように頼まれ、夏の中歩いたのでシャワーを浴びてから着替えた。

私の後に優がシャワーを浴び、用意してあったタキシードに着替え始めた。

私の準備が終わったのを見て取った優が腕を差し出してきたので絡め、レストランに向かった。

こういう所が良いとこ育ちなのかスマートでカッコいいんだよね。

いつも優が日本に帰ってくると行くレストランに行くと、個室の奥まった席に案内された。

鉄板焼のお店で、いつも通りお肉を数種類と夏野菜を頼んだ。

お肉、野菜と順々に提供してくれるのでゆっくりとのんびりと食事を楽しんだ。リブロース、サーロイン、ヒレ、ランプは赤身も脂もいい感じだし、夏野菜のナス、ピーマン、トマト、ズッキーニ、オクラも瑞々しくて美味しかった。

最後に鉄板で作られたクレープを食べてご馳走様でした。

クレープもリキュールでフランベされ、得も知れぬ薫りとのせられたアイスによる温冷の調和が美味しくてあっという間に食べてしまった。

部屋に戻ってからも誕生日を祝ってくれた。シャンパンとフルーツ盛り合わせで祝ってくれた。

人心地つくと、優が姿勢を正して真剣な表情でこちらを見てきたので、思わず私も姿勢を正した。

「去年1年フルシーズン戦ってみて、イギリスと日本で中々会えなくて、思ったんだ。千夏に傍にいてほしいって。朝起きたら一番に千夏に会いたいって。だから大学を卒業したら俺と結婚してほしい。」

そう言って胸ポケットからリングケースを取り出して、此方に向けて開けた。綺麗なシルバーリングで中央の台座には青い宝石がキラキラと光っている。あまりの美しさに見惚れてボーーーっとしていると。

「あの………プロポーズしたんですけど………その、返事をいただきたいのですが………?」

戸惑いと緊張で落ち着きなく答えを聞いてきた。

「フフ、よろしくお願いします。」

ペコリと頭を下げ、お受けすると返事すると、恭しく指輪を私の左薬指に付けてくれた。優が天を仰ぎ、身体をブルブルと震わせていた。そして突然、ガバっと抱き締めてきた。急な行動に呆気にとられていると耳元で囁いていた。

「絶対に幸せにします。……いや、絶対に一緒に幸せになりましょう。」 

一緒に幸せになろうという言葉が嬉しくて私もギューーーっと抱き締めた。しばらくそのままだったが、少しするとこちらを覗き込んできた。

この情欲が溢れた、熱病にかかったように私を欲する目と私の躰を背中から腰、お尻へと弄る手が、これからのことを理解させた。

これほど情熱的な彼を知っているのが私だけ。それが嬉しい。

いいかと熱い目で問い掛けてきている彼に頷くと、ヒョイと抱えられ、ベットへと誘われた。

そこからはただ男女のこれまで溜まった滾りを発散させた。

 

 

 

 

身体を揺さぶられて微かに目が覚めた。頭も身体も動かないから視線を周りにやると、頭と腰に手を回されているみたい。

多分抱え直した動作で私の目が覚めたんだろう。プレシーズンで疲れていたのだろう。私の頭を胸元に抱え、ぐっすりと眠っている。どうにも動けないので仕方ないから左手を伸ばして昨日貰った薬指に嵌った指輪を見る。朝の光を浴びてキラキラと輝いている。宝石に詳しくないからよく分かんないけど青い石が綺麗だ。

眺めていると、彼が身動ぎをした。段々と意識が覚醒してきたのが分かったので、彼にプロポーズを受けて最初の挨拶をした。

「おはよう、あなた。」

ポポポッと顔が真っ赤になった。私の顔を胸元に抱え直した。多分顔を見られないようにしたんだろう。

「おはよう千夏。愛してる。」

耳元で囁くように言われ、今度は私が赤面するのが分かった。

その後は、ホテルで朝食を取り、デートを楽しみ、お昼に中華を食べ、またデート、夕方に優の実家に顔を出した。

智さんが出迎えてくれた。将史さんは日本懐石を取りに出掛けていると言われた。報告は揃ってからにしようとアイコンタクトで伝わった。

両親がまだ海外赴任なので日本で保護者代わりを務めてくれており、なので月1くらいでお宅に訪問し、お世話になっている。昨日、今日とどこ行ってきたのと質問され、答えている間に帰ってこられた。

弁当を冷蔵庫に入れ、皆がテーブルに着いたので2人して姿勢を正した。

それを感じ取った2人も姿勢を正してくれた。

「俺達、千夏が大学を卒業したら結婚することにした。」

端的に伝えるとご両親2人、顔を見合わせて笑い合っている。

「君達の人生だ。それが2人にとって最良の選択なら私達は祝福する。おめでとう優、千夏ちゃん。」

「おめでとう2人とも。」

2人の祝福の言葉に頭を下げ、お礼を言った。

「ありがとうございます!不束者ですがよろしくお願いします。」

そこからは晩御飯にしようという流れになった。確かに将史さんが帰ってきた時には6時を回っていたし、順々にお風呂を頂き、7時が回って半分になる頃に食事になった。

有名な料亭のお弁当で、鱧や穴子を色々と使った涼しげな懐石料理だった。優が日本食を楽しみにしているから用意したようだ。

ビールに冷酒で美味しく、和やかに、楽しいひと時だった。

食事が終わると、私の誕生日ケーキが用意された。桃とメロンと苺が使われたショートケーキだ。

瑞々しいフルーツの甘みと酸味、スポンジのふわふわした柔らかさ、生クリームのフルーツと違った甘さが美味しかった。

全て綺麗に食べ終わり、各々シャンパンと白ワイン、コーヒー、紅茶と好みの飲み物でまったりしていると、私が貰った指輪の話になった。智さんが見してと言われたので、貰った指輪をケースで渡した。ケースから取り出さずに見ている。

嵌めてみてもいいですよと声をかけたものの、それは千夏ちゃんだけの特権だからやめておくと言われてしまった。

「優、これ一体幾らしたのよ?」

唐突に少し下世話な話になった。でも私も少し気になっていたから知りたい。

「えっ……、……あ〜〜〜……一億、くらい?」

「ブッッッッ!!」

智さんが口にしていたワインを噴き出し、将史さんは持っていたシャンパングラスを落とし、私もフォークを落とした。

「あんたっ……!!一億って……!一億って!!!」

「えっと、……いや…その〜〜〜こういうのって給料3ヶ月分って聞いたから…………。」

「「「……………。」」」

絶句して静かな私を含めた3人にボソボソと話す優の構図が続く。

「それで……俺の今年の給料5億だから………大体一億くらいかな〜〜〜って…………ダメだった?」

優を除いた3人顔を見合わせた。そして一つ大きく頷いた。

「あんた結婚したら千夏ちゃんが財布握るようにしなさい。」

「うん、俺もそれが良いと思う。」

「優、私がお金の管理諸々するね。」

3人揃っての言葉に意味を理解したのだろう、苦笑しながらも頷いた。そこでお金の話は終わり、また指輪の話に戻った。

「それにしてもこれが一億か〜〜〜?やっぱり宝石?これ何の石よ?」

「ブルーダイヤモンドって聞いた。」

智さんがへ〜〜〜〜〜と返事を返してスマホで検索しだした。

「はいや〜〜〜、いいおねだんするわね〜〜。」

そんな事を言って将史さんにスマホを見せた。

「そっちはどうなの?」

「こっちは普段使い用だから、その指輪のついでにくれたんだ。」

そう言って私達の薬指に嵌った指輪を見せた。2本の紐が結われている様な意匠で運命の糸が絡まっているのをイメージして作ったと恥ずかしそうに言った優が年相応に可愛く見えた。

「それにしても世界一の選手になるチャンスがいつかはあると思ってたけど、あっさりなっちゃったわね、あんた?」

「今回は完全に運が良かったよ。」

「やっぱりチャンピオンズリーグの決勝が大きかったのかい?」

「まあ十中八九そうだろうね。」

3対2で勝った試合。優がハットトリックを決めて勝って優勝した。それだけでも凄いのにコーナー、ピーケー、フリーキックと全て違うセットプレーから決めた。歴史的な珍事でこれが印象深いから決め手になったと言っている。

そんな事を話していると10時を過ぎ、そろそろ寝ましょうかとなった。

「あんた達、一緒の部屋で寝てもいいけど。夜中にアンアンいたして騒ぐんじゃないわよ。いいわね!」

智さんの物言いに恥ずかしくて顔を伏せた。

「いやせんて。実家でなんて。気付かれたら互いに気まずいわ。」

そんな下世話な話が飛び出てきた後、2階に行くと部屋の前で向かい合う。

「どうします?どっちの部屋で寝ますか?」

誘われていると思ってポポポッと顔が赤くなるのが分かった。その様子で慌てて訂正してきた。

「あっ!いや、そうじゃなくて。ただ寝るだけです。またしばらく会えなくなるから………その………少しでも傍にいてほしくて…………。」

「なら優の部屋!ほら、行こ!」

彼を引っ張って部屋に入り、2人並んでベットに横たわった。

「おやすみ優。」

「おやすみ千夏。」

近い将来こうして毎日一緒に寝るんだと思うと待ち遠しく思った。それにしてもプロポーズの言葉がお祖父ちゃんとそっくり。そこは何か笑える。




皆さんからの評判が良ければ続編を書こうかなと。

とりあえず次は本編を更新します。

閑話ないし未来話は分かりやすく英語タイトルにしようかな?

次の更新をお待ち下さい。
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