次は間違いなく銀英伝です。
アオのハコの次の更新は来月になると思います。
お楽しみに!
もうすぐキックオフ。試合が始まると思うとワクワクする。こういう所が子供っぽいと自分でも思う。
一応、その前の円陣でも伝えた通りに戦おうと決めたので、後は皆がその通りに動けるかどうか………。まあ適宜指示出さないといけないんだろうな。
“ピーーーーー”っと笛が鳴る。前の3人がダッシュでボールホルダーにプレスをかける。
今日のフォーメーションは4―3―3。4バック、1アンカー、2セントラル、2ウィング、1トップだ。
俺はアンカーに入って、今日は守備専。
「チェイス!チェイス!」「プレス!プレス!」
「マークオッケー!」「セカンド〜!」
「ディレイ、ディレイ!」「コース切れ、コース!」
大きな声が彼方此方から飛ぶ。意外や意外、サッカー部って頭が良い生徒が多いらしく俺が教えた守備戦術の理解が早かった。しかも練習でも様々なパターンや状況の変化にも臨機応変に対応してくれ、分からない所や不安な所の質問も言語化されていて、此方も答えやすかった。
「へい!こっち。」
上手くボール奪取した味方からボールを呼び込む。それを相手のマークが出来ていない浮いた味方にパスをする。素早く各々の立ち位置に戻り、攻撃を組み立てる。相手もプレスに来るが彼方此方に俺が顔を出し、味方の安全地帯役をする。
「パスしたらすぐ移動してパスコース作って〜〜〜!」
声や身振り手振りで指示を出す。皆落ち着いてプレー出来ているな。前もって周りを確認して次のプレーの選択肢を一つでも多く持つようにする事を意識させる練習をしている事によって、慌てずに試合を組み立てている。
ただ攻撃に関しては精度が今一つだから、得点には至ってないが攻守の切り替えの速さには及第点をあげてもいい。
セカンドボールは俺が殆ど回収している。相手がどういう風にクリアしようか察する能力が高いから相手より早く動き出すことが出来る。そのお陰で2次、3次攻撃へと繋げることが出来ている。
試合も半分以上が過ぎ、スコアレス。どちらかと言えば此方の方が連動した守備で押している。相手の司令塔は俺が、トップは紅林先輩が抑えている。
だが別の意味で相手の司令塔が俺を苛立たせている。
「いや〜、あの子可愛いね。君の彼女って訳じゃないんでしょ?」
無視無視。相手にすんのもバカらしい。
「顔も良くて、スタイルも良い、胸もそこそこある。ああいう女とやりたいもんだ。」
とんでもなく下品な野郎だ。冷たく言い放った。
「大した事ない選手を相手にしないと思いますよ。」
「おっ、やっと反応してくれたな。お前だって代表って割に大した事ないじゃないか。」
俺の今日の仕事は“Eraser”、相手のチャンスの芽を摘むことなのにそれを分かってないとは。これが日本の強豪校の選手か。
千夏先輩がピッチサイドに立った。恐らく残り時間10分を教えてくれるのだろう。そう思った瞬間に“残り10分!”と伝えてくれた。
「へ〜〜〜、声も可愛いじゃん。」
そんな声が後ろから聞こえる。指笛を鳴らすとピッチの選手、ベンチの人、外でこの試合を見ているスカウト達も此方を見ている。両手の親指、人差し指、中指を立てて手を天に高く掲げる。
「それってバスケのスリーの指だよな?こっから3点取るってか?」
こいつ今日大したことしてないのに、口だけはよく回るな。こんな奴の相手をせず、スルスルと前へ上がり、ボランチから敵の左サイドへのパスを掻っ攫う。そのままの勢いでドリブルしていく。パスカットされたボランチが前に立ち塞がるがボディフェイントとスピードを使って一合で抜き去る。左サイドバックとセンターバックの2人で進路を防ぐ形になったがヒールリフトで間をぶち抜いた。もう一人のセンターバックがカバーに来るもその逆の方向にルーレットで入れ替わる。キーパーもシュートフェイントで冷静に躱し、無人のゴールに軽く蹴り込んだ。
いつものゴールパフォーマンスを行ってから、ベンチに向かって指を1本立てて、手を振った。先ずは1点。
やっぱりサッカーは点を取った方がリズムに乗る。もう試合の終盤なのにプレスの速度が上がる。奪ったボールをセンターラインとペナルティラインの右サイド寄りの中間で貰うと、絡んできていたオフェンシブミッドフィルダーとボランチが前に立ち塞がる。ジリジリと前に詰め寄ると相手はさっきのドリブル突破を警戒してか間合いを空けて対応してくる。
「ここまで警戒してると、流石のお前でも抜けね〜だろ。」
チャラい馬鹿が自信満々に勝ち誇ってくる。状況把握が出来てなさすぎる。仕掛ける振りをするとズルズル下がってるのによく言うよ。
「下がって対応するのは構わんが、そこは俺のシュートレンジだぞ。」
ボールを素早く動かし、相手との間合いを崩す。2人の間に出来た僅かな隙間に強烈な左足のミドルをニアに放つ。ファーの巻いたボールを警戒していたキーパーはディフェンダーがブラインドになったのと不意を突かれて殆ど動けなかった。これで2点目。いつものゴールパフォーマンスをした後に2本の指を立ててアピール。さあ後1点!
紅さんがセンターサークル付近でボールをキープする。縦に動いた如月に素早く強い縦パスを送ると、左アウトサイドでピタリと勢いを殺して納めてしまう。随所にアイツのスキルの高さが垣間見える。あんな強いボールを難なくトラップするスキル。今の俺には無いものだ。今も2人に挟まれながら悠々ボールをキープし、左に流れていく。
一瞬如月と目が合ったと思った瞬間には身体が動き出していた。如月とは反対側のセンターバックとサイドバックの間を、センターバックの背後をダイアゴナルに入ると、抜け出した俺の足元にピタリとボールが来た!右のアウトサイドでカーブをかけながら最終ラインとキーパーの間に出てきたスルーパス。
相手が最も危険な如月に意識が向いた瞬間にパスが出てきた。相手がフリーズする程に見事なパスを冷静にトラップし、キーパーが前に出ることも出来ずポッカリと空いたシュートコースに冷静に蹴り込む。
ゴールを決めるとラストパスを出した如月に視線を向ける。するとアイツはフッと厳しかった顔を一瞬で崩し、柔らかい笑顔で俺を指差した。それはよく決めてくれたなのか、よくパスに反応してくれたなのかは分からなかったが、アイツが俺を少しは認めたんだと思うと嬉しかった。
センターサークルに戻りながら如月と肩を並べる。
「ナイスパス。」
「沢先輩こそ、よく反応してくれました。」
「一瞬目が合っただろ?その瞬間に“来るっ!”って反応してたよ。そしたらドンピシャで来るからな。」
如月が嬉しそうに笑う。そして一瞬で闘う顔に戻った。
「相手は連続失点でバタついてます。攻めまくりますよ。」
「流石に可哀想になってくるよ、相手が。」
勝負師のように鋭い眼光で、俺を睨んできた。
「相手は全国に出てくる強豪です。ここで苦手意識や格付けしておくのも大事です。全国で当たった時の為に。」
偶にこういうプロ意識と云うか、レベルが高いところが要所要所で出てくる。そんな硬い空気を解す目的で、コイツをからかってみるか。
「それにお前、3点取るって鹿野にアピってたからな。急がないと時間ヤバいぞ?」
すると如月が嫌そうな顔をした。
「まだ時間あるので何とかしますよ。」
コイツのことだ。何とかすると言った以上は何とかするんだろ?
今度は右サイドでフリーでボールを貰う。相手の左サイドバックと相対する。ボールを足裏やイン、アウトで転がしながらジリジリと前に進むと、一定の間隔で下がっていく。相手のボランチが後方でサイドバックのフォローしている。
一対一の状況。ここは勝負する場面!スピードを少しずつ上げてシザースをすると相手が焦って喰い付いた。その瞬間にVターンで躱す。深くゴールライン方向に抉っていく。後方のボランチがフォローに来るも、そのままのスピードでマシューズフェイントを行い、更に抉っていく。ゴールライン上をボールが移動する。
キーパーがニアポストに並ぶように立ち、シュートコースを締める。更にセンターバックがキーパーの横に立ってペナルティエリアへのパスコースを防ぐようにしている。
右足のキックフェイントで股抜きでの中央へのマイナスのパスを警戒して脚を閉じた2人の間に隙間が出来た。軽くボールに触れて回転がかかっているボールに左足で隙間を柔らかいタッチで抜く。回転がかかったボールが反対側のサイドネットに柔らかく刺さった。
それを勢いがつきすぎたのとゴールライン外へ体勢を傾けすぎたせいでピッチ外を転がりながら確認した。
仰向けに倒れ直しながら指を3本天に掲げてから振り下ろした。スリーポイントが決まったポーズを行う。それと同時に前半終了のホイッスルが鳴った。ギリギリ間に合って良かった。
沢先輩が“ほら”と言わんばかりに手を差し出してきている。その手を握ると“グイッ”と引っ張ってくれた。上半身を先ず起こし、体幹に力を入れて起き上がった。
周りのチームメイトとハイタッチをしながらベンチに戻る。俺はこの試合は前半でお役御免なので上のユニフォームを脱いでしまう。汗でびしょびしょになるの嫌だし。
ベンチ前で後半の準備をしているレギュラー組に指示を出す。
「俺は後半下がるんで、代わりに横先輩が入ってください。守備の指示は紅林先輩が出して下さい。点差あるんで無理な攻めはしないでしっかりと守備の仕方を確認しながら、攻守の切り替えの早さを意識するように。」
伝える事を伝えると、後は出る人で確認し合うように言うと、後半出る選手でミーティングをし始めた。彼処はどう守る、ここは厳しく行くか、此奴は要注意だぞなど互いに意見を交わし合う。互いに要求し合ういい雰囲気だ。
そんな空気のベンチ前を後にしてタオルで汗を拭きながら、貰った水を口に含みながらベンチに向かった。
「ナイスハットトリック!」「凄かった〜〜!」
そんな声を掛けられた。手を掲げている渚先輩らとハイタッチをすると笑顔の千夏先輩に“約束通り3点取ってくれたね”と言われた。
「ギリギリ過ぎて危なかったですけど。」
スッと手を此方に差し出してきた。その手に軽く手を叩いた。軽やかなパチンという音が鳴った。
「はてさて後半はどうなるやら………。」
「何かいい雰囲気だよね。」
「組織的に守るって事に手応えを感じているんです。どんな事でもある一定量の手応えを感じたら人間、意欲的になるものです。」
「たま〜に優君って達観したこというよね?」
千夏先輩の言葉に、思わず失笑とも苦笑ともとれる笑いが溢れた。溢れてしまった。
「俺、サッカーに関しては主観的、客観的の両方で見ますよ。まあそれが他人事みたいに言うと言われたことはありますが。」
そんな話をし、後半の展望を女バスの人達に聞かれるので答えていると、後半が始まる時間が近くなったのでピッチに戻っていく。どうも俺が抜けるのでフォーメーションを変えるみたいだ。
後ろ4枚はそのままで、ダブルボランチにウィングが下がってサイドにトップ下に沢先輩、トップが1枚の4―5―1が基本フォーメーションなのだろう。まあ状況によって紅先輩が指示出すだろうから色々変わるだろうし、俺の守備を代わりの人一人で補うのは無理と判断したんだろう。流石紅林先輩、冷静で客観的な判断だ。
さてどう後半を戦うのかベンチでのんびり見させてもらおう。
12時過ぎに部活が終わり、片付けを1年に任せて午後から来る部活に場所を空ける。
部室に戻ろうと体育館を出ると出入り口近くの手洗い場に如月がいた。飲み物を持っているから休憩なんだろう。チラリと此方に視線を向けて時に視線が合った。
「お疲れさまです、針生先輩。」
「おう。如月は1日練習試合だろ?休憩か?」
「俺、全試合前半だけ出るんです。なので今休憩中です。」
そう言って手に持った抹茶ラテのボトルを見せてきた。
「今2試合目か?」
「はい。後半30分位です。なのでそろそろ戻らないと。」
“よいしょっと”と声を出してベンチから立ち上がり、自販機に空になったボトルを捨てに行くのだろう。動き出した如月の後ろ姿に問いかけた。
「なあ、何でお前はそんなに凄いんだ?」
馬鹿な事を……俺は何を聞いてんだ!怪訝そうな顔で後ろを振り返り俺の顔を見つめる。
そして小さく溜め息を吐いた。
「経験の量と質が今の俺を作ったと思っています。世界一の量と質の練習をずっと世界一のチームメイトと取り組んできた。負けたくない、負けられない、勝ちたいと本気で思い、死に物狂いで取り組んできた。何時クビになるか分からないクラブでずっとです。」
ビリビリと身体が痺れる様な感覚に襲われた。如月の身体から発するオーラなのか、それを感じたのだろう。
「悠長に経験を積むなんて時間はありませんでした。毎月毎月世界各地から有望な選手が来るんです。今は大丈夫でも来月は?来年は?そんな恐怖を常に感じながら。」
「……………。」
黙り込む俺を見ながら苦笑する如月。
「高校卒業後に戻るつもりですが、首脳陣からは力量が落ちていたら普通に契約見送りもあるから、心して高校生活をエンジョイするようにと言われています。俺はそこまで覚悟を決めてやってますが、針生先輩貴方はどうなんです?」
「俺はっ、……………!」
何か言わないと、でも何を言っていいのか。俺に言えることがあるのか。そのせいか言葉が出ない。
「あんまりのんびりしていると後ろから猛追してくる大猪に弾き飛ばされますよ。猪突猛進が如くね。」
からかうような口調の言葉に、空気が弛緩したのが分かった。
「大喜か?確かにアイツは強いがまだまだ課題も多い。」
「何時何処でどれ程伸びるかは誰にも分かりませんよ。それこそ覚醒や爆発的成長をするかも。さてそろそろ戻らないと。次も出ないといけないので。」
「そうか。着替えたら見学に行くから、これはってプレー見してくれ。」
「分かりました。では失礼します。」
そう言って一礼し、礼儀正しい去っていく如月の後ろ姿を見ながら、あいつの大喜が伸びる可能性を指摘したあいつの眼力を信じるなら、大喜は俺のインターハイのライバルになるか。
ピッチを仕切るフェンスにいる奴に声をかけた。
「針生、中に入って来いよ。」
戸惑いがあるのか怪訝そうな顔をした針生を誘う。
「いいのか、沢城?俺一応部外者だけど?」
そんな針生に一試合目の事実を伝える。
「一試合目の時に、女バスの奴らが普通にベンチいたからな。問題ないよ。」
「分かった。ならお邪魔するよ。」
ベンチに座ってる岡本監督に挨拶してる。此奴のこういう所が凄いよな。親の教育が良いんだろう。しっかりしている。
「あいつ、センターバックやってんのか?」
ピッチで戦う選手を見て呟くように言う。
「ああ、新入生だけで試合やってるんだけど、センターバックの数が足りなくてあいつが自分でやるって。」
「へ〜〜〜。」
「でも今のところ全く問題ないぞ。指示も的確、相手との距離を詰めるタイミング、チャレンジ&カバーもしっかりしている。」
俺のあいつのセンターバック評を聞いて感心する声が漏れた。
「前のチームでは様々なポジションの練習をさせられるらしい。キーパー以外はやったことがあるらしい。特にセンターラインのポジションは自信があるって言ってたよ。」
「そのポジションシャッフルって意味あるのか?専門性極めたほうが良くないか?」
針生の質問は正鵠を射る部分もあるが、間違っているところもある。
「あいつがいたチームは入団希望者が多いからな、自分より優れた奴がいたらベンチだ。ずっとベンチウォーマーかクビは嫌だろう?それなら多くのポジションが出来たら出るチャンスにもなるし、違うポジションをする事で相互理解が生まれるんだと。何でこの場面は上がるのか下がるのかとかな。」
スッとあいつを指差すと針生もあいつに目をやる。
「分かりやすく的確な指示、全体を俯瞰出来る絶妙なポジショニング。サッカーを詳しく知っていなければ出来ないよ。あの動きは………。」
「そして長短の精密なパス。溜めを作るキープ、パスコースを作る素早く細やかな動きだろう?」
「ああ、こうやって見るとアイツが常にどれだけ多く深く考えてプレーしているのか分かる。アイツと俺との差が彼処まであると理解するとな、流石に凹むわ。」
「でもそれで良いとは思ってないんだろう?」
針生がからかう様な表情と口調で話してきたのは、多分俺が結構ガチで落ち込んでいると分かったからだろうな。
「当然だ。アイツに少しは頼られる先輩にはなりたいな。サッカーで。」
「如月が言ってたんだが、“経験の質と量が今の俺を作った”って。」
「アイツがそんな事を………はあ〜〜〜、どんだけ積めばいいんだよ………。」
「まあ頑張れ。あっ………!」
落ち込んで下を向いたが、針生の声に顔を上げた。
ボールが速く低い弾道で敵のゴールに向かって飛んでいっている。最終ラインとキーパーの間にドンピシャで落とした。逆スピンをかけていたのか絶妙な位置でボールが止まる。一試合目の如月の俺へのスルーパスみたいに完全に抜け出した。
が、相手が上手だったのか読まれたのか防がれた。腕に当たってゴールラインを割ったからコーナーだ。
どうやら如月と相方のセンターバックの2人が上がるようだ。両サイドバックとボランチに残る様に指示を出している。2人話しながら前線に向かっている。
「俺はファーに張るから、横川はニアに飛び込んで。でボールがファーに来たら折り返すからそれを狙う形で。」
俺の指示に不安そうな表情をしている。確かに難しいプレーではあるが、ぶっちゃけ失敗して元々のサインプレーだ。
「とりあえずチャレンジ精神だけは持っていきましょう。トッププロでもコーナーの得点率なんて10%ないんですから。失敗して元々です!」
知らんけど。パンパンと背中を叩いて鼓舞する。少しは不安が消えたのか“そうだな、やるか!”とヤル気にはなってくれた。
こっちはファーポスト側のペナ外に一塊になる。相手はそれを防ぐ形になる。ボールを蹴る瞬間に皆が中央やニアに走り込む。“来たっ!”と思った瞬間に、いやこれコース外れて今居る位置に飛んできてるじゃん。これは直接狙うのは無理だと判断し、高く飛び上がりニアにいる横川目掛けて折り返した。
俺の折り返しに敵はボールウォッチャーになるが横川は事前に伝えていたのか反応し、ニアに来たボールをまた反対側のファーにヘディングシュートする。キーパーは右に左にと振られている。決まるかと思うもファーポストにへばり付いていた相手にクリアされた。コーナー蹴る前からいた奴が一切動かずにいたので守られた形だ。サイドラインを割った。
サイドバックがスローインする瞬間にダッと駆け、ボールを貰いに行く。近づいていく俺に気付いたサイドバックがボールを渡す。
貰った瞬間にクルリとターンして遅れて付いてきていた選手を躱しにかかる。抜いた瞬間に前に入り、相手の進路を塞ぐ。
中を確認しながらペナルティエリアに侵入すると笑いがこみ上げてきた。ボンとボールをファーに蹴った。俺を警戒して前のめりになった相手の後方で来いと言わんばかりに手でボールを要求する横川がいたからだ。
ピンポイントに送ったボールを思いっ切り、力一杯ヘディングしてゴールを決めた。
「「「「「オオオ〜〜〜〜〜〜!!」」」」」
ピッチ内外から歓声が上がる。いや、そんなに目一杯ヘディングしなくても…………、まあ決めたからいいか。
揉みくちゃにされている横川の元に行き、祝福する。
「ナイスポジショニングにナイスゴール。」
スッと手を掲げると、それはもう嬉しそうに手を打ってきた。
「よし。よし!よし!!よっしゃーー〜〜〜!!!」
「うっさい!!」
俺に褒められたのが嬉しかったのかドンドン声を大きくしながら叫びだしたのがあまりに耳元で煩かったので、キレながら叱責した。
「サッカー人生初ゴールでつい………。」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言う横川。そんな背中をポンと叩いて“ナイスヘッド”と声を掛けると、更に嬉しそうに笑った。
残り10分の声と共にハイラインの前線からのプレスを指示した。体力的にも厳しいだろうがやってもらう。前線に指示を出す。前の選手達もハイプレスのやり方を理解したのか互いにフォローや指示を出し合い、連携がある程度とれたハイプレスになっている。
隣の相方の横川も積極的に指示を送り、俺にも指示を出す。ハイラインの特性上仕方ないのだが裏の広大なスペースへの放り込みも落ち着いて対応する。競り合う、相手の前に身体を入れる、キーパーや味方にパスをする、セーフティにサイドへ蹴る。
全試合前半出場すると流石に疲れる。ずっと指示出しっ放し動きっ放しだったから。
ベンチで汗の処理とストレッチをしながら観戦していると、互いに相譲らず後半はドロー。前半の1点を守り切り1対0で勝つ事が出来た。ピッチで喜んでいる同級生が眩しく見える。
そこからは山梨甲府学院がクールダウンをして帰るのを校門前で見送る事になった。まだ4時前だがここから帰ると日が暮れる時間ギリギリに到着するらしい。
続々とサッカー部のバスに乗り込んでいる。ピッチでバチバチにやり合った相手と挨拶をしている人もいる。そんな中、俺に挨拶をしてきた奴がいた。千夏先輩をエロい目で見てた奴だった。
「悪かったな。彼女を変な目で見て………。」
目を逸らしたり合わせたりしながら謝罪の言葉を口にした。
「あまり俺はそういう下世話なのは好みません。」
「そうか…そうだよな……。すまなかった。彼女にもお前から謝っておいてくれないか?」
「分かりました。伝えておきます。」
俺の了承の言葉にホッとした表情をした。
「またやろう。次は全国の舞台で。」
「分かりました。」
「じゃあな。」
そう言ってバスに乗り込んで行った。出発するバスを皆手を振りながら見送る。視界から消えるとパンッ!と手を叩いた。
皆が俺に注目する。
「さて、最後に元気よくフィジトレいきますか!」
「「「「「「「「「「エッ!!!」」」」」」」」」」
俺の言葉に皆が驚愕の表情で俺の顔を見る。
「まだ4時ですし、皆さん1試合しか出てないでしょう?さあ張り切っていきましょう!」
縋るような表情で岡本監督を見るも肩を竦めながら伝える。
「今日はアイツが監督だ。頑張れ。」
溜め息を吐く者、天を仰ぐ者、顔を横に振る者、様々な様相を見せている。
「行くか………。」
紅林先輩の一言に皆が大きく溜め息を吐いて動き出した。
晩御飯の準備をしている。千夏ちゃんが手伝ってくれてる。先にお風呂入って、今は優が入ってる。お風呂上がりの千夏ちゃんって中々に色香があるわね。高校の時のお母さんにそっくりね。
「今日も優君、練習試合だったんですけど凄かったですよ!」
キラキラ顔で息子を褒められると、何か擽ったいけど嬉しいものね。
「今日は守備的なポジションをしてたんですけど上手かったですよ。」
「あの子って攻撃はセンス、感性でやってるけど、守備は理論派なのよね。」
鍋やガスコンロは優が千夏ちゃんがお風呂入ってる間に準備していってくれたので、お皿や器、お箸何かの準備を千夏ちゃんがしてくれている。
「パパは大学までバリバリ野球をしてたの。結構凄い選手だったみたいで、実は高校は甲子園に行って準優勝してるし、打率と打点の大学記録も持ってるくらいなの。」
千夏ちゃんが驚いた顔をしている。そう、実はパパってスポーツマンなのよね。今はゴルフばっかりだけど………。
「理論派で研究熱心って云うか、オタクなのよ。初球はあの球が〜とか、この球の次は〜とか、ピンチの時はこのキャッチャーはこの球が増える〜とか調べるのが好きだったみたいでね。」
関心する声をあげている。
「練習も出来る時間が学生時代なら制限があるから、効果的、効率的を求めるタイプなのよ。ただのランニングとかダンベルなんかの簡単な筋トレはしたがらないのよ、部活中に。そんな練習家でやれよって。」
「優君と同じですね。効果的、効率的を求めてました。余った時間に別の練習が出来るだろうって。」
千夏ちゃんの言葉に苦笑してしまった。やっぱりどこまでいってもあの子はパパと私の子供だ。
「お風呂上がったよ。気持ちよかった〜〜〜。」
タオルを首に引っ掛けた優がリビングに入ってきた。ヒョイとペットボトルを放るとパシッとキャッチし、蓋を開けてグビグビと飲んだ。
「カ〜〜〜うまい!」
たかが水でも風呂上がりは美味しいけど。それにしてもいい顔で飲むわ、この子は。チラリと横の千夏ちゃんを見ると、眩しそうに楽しそうに優を見ている。男としては見てないわね。愛玩動物的な感じかしら。そう思ったら失笑してしまった。そんな事を思っていると優がキッチンに入ってきた。
「何か持っていこうか?」
「これお願い。」
切り終えた野菜の入った皿を渡すと、“はいよ”と言いながら受け取り持って行く。そのままテーブルに持って行くと私のビールグラス、自分と千夏ちゃんのコップも用意した。
「千夏先輩、自分の飲み物冷蔵庫から出してください。俺はこれでいいのでご自分の分だけで。」
そう言ってさっき飲んだ水のペットボトルを掲げて指示を出した。
「分かった、あっ………………。」
千夏ちゃんが冷蔵庫を開けて固まった。ふふふ、見ちゃったわね。
「千夏ちゃん、その箱を優に渡してちょうだい。2つとも。」
「えっあっはい!」
私の声にフリーズが解けて慌てた様子で箱を2つ取り出して、受け取りに来ていた優に渡した。
準備が終わり、ビールを持ってリビングに向かう。
「今日はパパが大学の野球部の同窓会で一人頭3万円の中華に行ってるので、此方も負けずに高級肉のすき焼きです!はい、拍手。」
優は苦笑しながらパチパチと拍手をする。千夏ちゃんは唖然としていたが優の拍手に反応しておずおずと拍手をし始めた。
「はい、ありがとう。優、お肉の紹介。」
顎をしゃくって指示すると嫌そうな感じで、箱を開けて渋々紹介をし始めた。
「え〜〜〜此方がA5の松阪牛1キロに、此方が同じくA5の神戸牛1キロになります。」
桐箱に入った綺麗なサシの入った牛肉を紹介し終わると、労いの言葉と後は優によろしくと全部任せた。
「うむ、ご苦労。さ、食べましょう。優、鍋奉行よろ〜〜〜。」
「……分かった………。」
仕方ないといった感じで肩を竦める優に、千夏ちゃんは苦笑していた。数枚割り下で丁寧に焼かれたお肉を食べ、満足満足。
「私はパパの事、全く怒ってないからね。」
目をパチクリさせている千夏ちゃん、可愛いわ〜〜〜。
「久し振りの日本で、同窓会何だから多少の贅沢くらい許すわよ。でも私達だけ普通のご飯なのは納得いかないし、癪に触るからこっちも豪勢にしただけ。」
優は私を理解しているのかシカトして割り下を大量に入れ、野菜や豆腐、白滝、お麩を綺麗に入れて炊き始めた。
つ〜かこの子、相変わらず盛り付け綺麗にするわね〜。プロかよ。
菜箸でスッスッといじりながら煮込んでいく。数分もすると出来上がったのか千夏ちゃんに手を差し出し、器をと言いながら朗らかに笑う。
「取りますよ。」
「えっ、いいよ。自分でやるから。」
慌てて自分でやると言うから、からかい半分で注意しておいた。
「この子鍋奉行だから綺麗に取らないと冷たい目で見てくるわよ〜。」
「………ならお願いします。」
観念して器を差し出した千夏ちゃん。器を受け取ると、丁寧に何がどれくらい欲しいか聞きながら器に綺麗に盛り付ける。料亭かよ。相変わらず何か、この息子キモいわね。
それぞれ取り終えると、またお肉を入れる。そんなこんなしていると、食べ盛り2人が綺麗に平らげた。
まあ可愛い息子もいいけど、やっぱり可愛い娘がいると華やぐわ〜。千夏ちゃん、優と結婚してくれないかしら。
チラリと優を見ると、何故か溜め息が出た。期待薄ね。
優のプレースタイルのモデルは、一昔前になりますが、ミランのカカ、セードルフ、ガットゥーゾ、ピルロを合わせたのをイメージしました。全員違うプレースタイルなので。全部盛りです。
チャビ、イニエスタ、ブスケツのバルサ。
クロース、モドリッチ、カゼミロのレアルも好きですが。