アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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先にアオのハコが出来たので投稿します。

次はゴールデンウィークの話にしようかな。

ざっくりと話の流れは出来てるので後は文章にするだけ。
(それがめっちゃくちゃ大変なんですが…………(-_-;))


高校サッカーデビュー

朝いつも通りに6時に起きて下に降りると、優君が帰ってきたところのようだ。

「おはようございます、千夏先輩。」

「おはよう優君。」

階段を降りながら挨拶をする。優君も靴を脱いでこちらに向かってきている。

「きゃあっ!」

スリッパの後ろが引っ掛かり、足を踏み外した。落ちる、危ないと思ったも束の間、優しく受け止めるもしっかりと支える力強さを感じた。

恐る恐る目を開けると、胸元に手が差し込まれ、落ちる私の身体を支えてくれたようだ。

「あ、ありがとう優君。」

「いえ、無事なら良かったです。気を付けてくださいね。」

「う、うん。」

そう言って私の身体を支えながら立たせてくれた。

「いつも通りシャワー浴びてから降りるって母さんに伝えて下さい。」

「う、うん、分かった。ありがとう。」

「いえ。では失礼します。」

そう言って2階に上がっていった。優君が去ったのを確認すると、自分の胸に手を当てた。優君が右手で私を支えてた時、右手の平に左胸が当たっていたはず。

それでも顔色一つ変えずに去っていった優君。表情にも態度にも後ろ姿にも変わりが一切なかったよね?

一揉みし、自身の胸を確かめた。私、胸……あるよね?

 

 

 

 

自室に戻り、用意してあった着替えを持って足早にシャワー室に向かう。さっさと服を脱ぎ、シャワーを頭から浴びる。最初、冷たい水が出るがお構い無しに頭から浴びる。

段々温く、熱くなるシャワーを感じながら自分の右手を見つめる。しばらくじっと見た後、何度か閉じて開いてを繰り返す。

雑念を振り払うかの様に頭を横に振り、シャンプーで頭をガシガシと洗い始めた。気にするな俺!わざとじゃないんだ!

 

 

 

 

今日は父さんが朝から出張で母さんも新幹線の駅に早朝の送迎等でバタバタするので、俺と千夏先輩はお昼は学食か買って食べてと言われてお金を渡された。数日前から言われているから問題ないが、前日の夜に1500円渡されて、小銭ないから2人で分けてと言われた時は、流石に2人顔を見合わせて笑ってしまった。母さんに笑うな馬鹿もんと叩かれたが。

大喜と匡に、この日に学食に行くことになったと話すと俺達も付き合うと言ってくれ、学食に行くことになった。

始めての高校の学食にワクワクしているのが伝わったのか、大喜には笑われ、匡には少し落ち着いたほうがいいと言われた。

俺はカツ丼とサラダを、大喜は日替わり定食、匡はきつねうどんを頼んだ。

早速各々食べ始める。う〜〜〜ん、出汁が染みたカツと玉ねぎが美味い!それをまろやかに包んでいる卵が良い仕事をしている。

「イギリスの学食ってどんな感じなんだ?」

大喜にそんな質問をされた。まあ楽しそうにしている俺の様子にイギリスの学食に興味が出たんだろう。

「俺が行ってたとこは、パン屋みたいな感じでパンが20から30種類位並んでて、スープが3、4種類あって、それをトレイに取るって感じだったよ。パンって言ってもハムチーズやBLTのクロワッサンサンドに、スープもミネストローネみたいな具沢山のスープだから、結構お腹は膨れるよ。パン2つにスープ1杯で3£、日本円で大体600円くらいになるかな?」

「えっ!高っ!!パン2つとスープ1杯で!?」

大喜が驚きの声を上げ、匡も目をパチクリさせている。

「と言っても俺は成績優秀者の恩恵で昼食代は免除だったけどね。」

「そうなんだ?」

「うん。元々知識欲があるから勉強が苦にならないってか、好きなんだよね。」

「うへ~ーー、勉強が好きって分かんない感想だわ〜。」

げんなりしながら言う大喜にクスクスと笑ってしまった。

「勉強嫌いでもいいけど、テストでそこそこ点取らないと補習や追試もあるよ。先生に聞いたら合格するまで部活動禁止らしい。」

「えっ!!!?そうなの!?」

「うるさっ。」

「って聞いたよ。入学前の学校説明で。」

大喜の驚愕の声に、匡は苦言を呈し、俺は知っている事を淡々と答えた。

食べながら話していると、視線を感じたのでスッとそちらを向くと千夏先輩が遠巻きに此方を見ていた。軽く頭を下げるとフリフリと手を振ってきたので、苦笑した。

その様子を見た大喜が質問してきた。俺との関係性が気になったのだろう。

「優って、鹿野先輩と仲が良いのか?」

「この学校で唯一の入学前の知り合いだからな。挨拶くらいはするさ。」

「そんな関係じゃないような………。」

大喜はどこか不満気な感じがありありだな。

「なら俺がイギリス流のハグをしての挨拶かフランスのハグをして頬にキスでもすれば満足なのか?」

からかい気味にそう言ってやると慌てだした。

「ち、違っ、違うって。そんなことは………。」

「なら問題ないだろう。知り合いに会釈程度、普通の挨拶だろ?」

匡に確認すると、“そうだな”と頷いてくれたので一安心だ。

「俺はいつも通り一眠りするから予鈴に起きる。」

「分かった。お休み。」

匡が食べながら言ってくれたので、いつもの様に目を閉じて俯いた。

 

 

 

 

「いつもと変わらずだな。」

「ああ、こういうところが凄いよな。マイペースっていうか自分の世界を持ってるっていうか。」

目の前で寝いった男。今年、栄明に来た運動系新入生の中で一番の注目選手。サッカー世代別日本代表でU-21に選ばれたこともある日本で有数のスーパー高校生だろう。

この間の体力測定でも全ての項目でぶっちぎりで上回られた。着替えの時に肉体を見た時に、“ああ、これが世界と戦える身体”なんだと理解させられた。

男としてもカッコよくてスマートで優しさもある。頭もいいし。

神はこの男に何物も与えるだって言いたくなるような男だ。でもそれは誰よりも様々な面で努力しているのが分かる。勉強もサッカーの練習時間を圧迫しないように授業をしっかりと聴いているみたいだし、休み時間もトイレに行くかサッカーの事をノートに書いたり、授業の予習復習に充てている。

俺はインターハイに行きたいと思っているけど、優は俺のこの目標にどう思っているんだろうか、馬鹿にするなんてことはないんだろうが………。

「あれ?優君寝てるんだ?」

いつの間にか近くに来ていた鹿野先輩が優を見ながら尋ねてきた。驚いた俺がしどろもどろ答える。

「は、はい。い、いつも食後に30分位寝るみたいで。」

優の傍に行き、寝顔を見ようとして覗き込む様に腰を屈め下から見上げようとする。

「しっかりと寝てるね……。」

ぽつりと呟いた瞬間に。

「起きてますよ。」

急に目を開け、呟きに言葉を返すと鹿野先輩が驚いたのか声を上げ、身体のバランスを崩した。危ないって思った瞬間には、優が鹿野先輩を両手で抱き寄せて支えていた。

「大丈夫でしたか鹿野先輩?」

「え、あ、うん。ありがとう優君。」

「いえ、俺が急に声を掛けたせいでもあるので。」

そう言って何故か抱き締め合い見つめ合う2人。あ〜〜〜モヤモヤする!

「あの〜〜〜お二人さん。いつまでその体勢でいるのかな?皆さん見てますよ〜〜〜?」

鹿野先輩と一緒に食事をしていたバスケ部の先輩が声をかけると、自分達の体勢を見て周囲に目を遣ると、慌てたように離れた。

「Sorry、ごめんなさい千夏先輩。」

「ううん。私こそ気づかなくてごめんね。」

そのまま優の顔を覗くために置いたトレイを持って去ろうとした。

「じゃあ私達は戻るから。優香行こう。」

「うん、じゃあお先にね。」

そう言って足早に去っていった。

「これは相当頑張らないとまずいな、大喜?」

「うぐっ、確かに。」

俺達の会話が再び寝入った優に聞こえているのかいないのか、兎にも角にもバドを頑張ってレギュラーになり、2人と同じ立場にならないと駄目だ。頑張ろうと心に誓った。

 

 

 

 

 

今日は明日がリーグ戦の為、早上がりになった。と言っても芝の手入れのため、元々早上がりになっていたのだが。

体育館競技も体育館の検査で校舎内の部活動以外は早上がりをさせられている。

自分へのご褒美に、いつもの抹茶ラテを買ってから校門に行くと出て直ぐのところで、沢先輩や針生先輩、大喜と匡に女バスの面々がいた。

「よっ。お疲れ如月。」

針生先輩が軽い感じで挨拶をしてきたので、こちらも軽く返した。

「お疲れさまっす。こんな所でどうしたんです?」

「俺らの近況報告会みたいな感じだよ。」

「ふ〜〜〜ん。」

ガシッと俺の首に腕を回し、針生先輩が悪い笑みを浮かべた。もうこの段階で嫌な予感しかしない。

「お前、今日の昼にちーと抱き締めながら見つめ合ったそうじゃないか?」

言われて直ぐに思い当たった。苦笑しか出てこない。

「驚かせてしまって、倒れそうになった先輩を助けただけですよ。色恋は欠片もありません。」

俺の反応に、今度は針生先輩が面白くなさそうに苦笑した。

「少しは慌ててみろよ。ちーみたいに。」

そう言って千夏先輩を指差すので、そちらに目をやる。

あわあわしながら髪を弄って誤魔化そうとしているのか、こちらから顔も視線を外している。

「あんまり誂うなよ、針生。で如月、岡もっちゃんと何話してたんだ?」

沢先輩が俺と千夏先輩の話から話題を逸らしてくれた。

「明日のリーグ戦、俺は後半からになりました。」

「おっ、初の公式戦か?」

「ええ午前に。」

「相手は?」

「横浜のユースです。アンダー日本代表の選手もいます。キーパーの葛城と司令塔の奥野が。」

「なら負けられないな。」

「ええ。来年トップリーグに上がるために負けられません。背番号も愛着のある10番をくれるみたいですし。」

「俺達は1日練習だから見にいけないけど頑張れよ。」

「Thanks、ベストを尽くします。」

ふと何かを感じ、千夏先輩の方を見ると先輩が口パクをしていた。す…ご…い…じゃん。が…ん…ば…れ。応援してくれてるのか。これは頑張らないと。

 

 

 

 

 

前半が始まって10分くらいか……。紅林先輩が統率する守備は上手く機能している。ラインの上げ下げ、ボールの狩り所の指示、攻守の連動がしっかり出来ている。

相手の司令塔の奥野はボランチとプレスバックしたトップ下に入っている沢城先輩が上手く挟み込む形で仕事をさせていないから危ないシーンが殆どない。

やっぱり沢先輩、守備が上手いな。寄せや身体の使い方が上手いからファールにならない。

ただ足元が特別上手い訳でもなく、脚も特段速いわけでもないし、フィジカルが強い訳でもない。可もなく不可もなくな選手ではある。スタミナあるし、サイドバッグとかやったら面白いんだけどな。

それにしても横浜、ユースの驕りかプライドかプレスが緩いし、プレスバックも遅い。向こうがガツガツ来たらこっちは劣勢になるのに相手がオレのいない栄明だからか全体的に寄せや当たりが緩いな。だから膠着状態になるんだよ。

ウチは前がかなり弱いな。いくら堅守速攻が持ち味の横浜相手とはいえ、こうもチャンスらしいチャンスが作れないとは。沢先輩がゲームメイカーになったらゴールゲッターがいなくなる。ジレンマってやつだな。

ピッチ脇で柔軟をしながら周りを見渡すと、フェンスの外には人、人、人だ。日本のスカウトに海外のスカウト、おっと世代別の監督達まで来てるよ。いいところ見せないとな。

そんな事を考えているとロスタイム。最後の1プレー、相手コーナーキックでやられた。上がったセンターバックをマークする紅林先輩がバスケのスクリーンの要領でマークを外され、フリーでゴールに叩き込まれた。

こういうところだよな。まだまだ甘い。紅林先輩が声を掛けている。ここで気持ちを切り替えれるかが分かれ目だな。

様子を見るにまだまだ行けそうだ。さて、そろそろ俺の出番かな………よし、前半終了。行こうか!

 

 

 

 

 

 

前半終了間際にデザインされたセットプレーで幸先良く先制することができた。前半終了の笛が鳴り、ベンチに戻ろうとするとザワリと周りがざわめいた。

相手ベンチで如月が着々と後半に向けて準備しているのが分かったからのざわめきだろう。 ベンチに座り、足元から準備している。レガースやソックスをパパっとして上のジャージを脱ぎ捨てた。そしてユニフォームを着た。

アイツとは色々と因縁がある。アイツ自身は何とも思っていないだろうが、アイツが来るまでは代表のトップ下は俺のポジションで俺を中心に回っていた。それが下から彗星の如く現れたアイツにポジションを奪られてからは控えに甘んじている現状だ。アイツが来られない遠征の時だけスタメンに起用か更に攻撃的に行きたい時に併用される時にしか使われなくなった。

面白くないが分かるんだ。アイツのテクニック、フィジカル、チームへの献身性、勝利への執念。その全てが及ばないと。

後半開始前にピッチ際で如月がスパイクのポイントのチェックを受けている。OKが出るとトレードマークのヘアバンドを付け直しピッチに入った。円陣に加わり、アイツが身振り手振りで何か話している。

もうチームの中心になったのが分かる光景だ。

「おい、如月を気にし過ぎだ。」

ガっと首に腕を回してきた。キーパーの葛城が如月を意識する俺に注意してきた。

「分かっている。」

「ならいい。このチームの攻撃の中心はお前だ。頼むぞ。」

「おう。」

俺の気持ちの切り替えを促す為だろう。こういう細かい部分では此奴に及ばない。だから葛城がキャプテンをしているのだろう。

「任せろ。俺は俺だ。」

円陣を解いて、ピッチに散らばる。後半は相手チームからのキックオフになる。ピーーーーっという音が鳴り、相手がボールを蹴って試合が始まった。

ゆっくりと最終ラインでボール回しを行なっている。此方はセンターラインからプレスを掛けることになっているので様子を見ている。

低い位置からのボール回しからラインを少しずつ上げてきた。ボランチがハーフラインに入ってきた。ボランチにボールが入るとフォワードがプレスに入った瞬間、如月がスルスルと下りていった。此奴は俺がマークする!

ボランチからの戻されたボールをセンターバックのキャプテンが下りてきた如月に縦パスを入れる。ボールをトラップした瞬間に奪う!

身体を思いっ切りぶつけた瞬間、ガンとコンクリートの壁にぶつかったような衝撃を感じ、弾き飛ばされた。

俺がふらついた瞬間に前を向かれる。そしてボールを大きく蹴った。これはっ、シュートだ!

低空を速く鋭く飛び、キーパーの頭上を襲う。そこまで前に出ているわけじゃないのに、アイツにはチャンスに見えるのかっ!

カーブで外からキーパーを避けるように飛び、ゴールに吸い込まれた。

決まった瞬間に周りから“おおおっ”という声が上がる。拍手が起こる。悔しいがやっぱりコイツは別格だと思わされた。

目の前で何度も見たゴールパフォーマンスをする如月を羨ましく、そして恨めしく思う自分が嫌だった。

 

 

 

 

彼奴の予想外の距離から予想外のシュートで同点にされてからは一方的な展開になった。一気に流れを持っていかれ、猛攻にあっている。今も彼奴がサイドに流れてボールを貰うとディフェンスに行った奥野を流れるように躱す。

サイドバックとボランチがマークに付き、シュートコースを消しながら距離を詰めようとする。

「くうっ!!」

ディフェンダーがブラインドになった瞬間に左足でファーサイドにシュートを放ってきた!思いっ切り身体を横っ飛びし手で弾いた。此奴、やっぱり油断も隙もない野郎だ。

「触んなよな。あそこは俺のテクニカルなゴールの場面だろうが。」

「ざけんな。俺のファインセーブでの見せ場だろうが。」

如月はふっと爽やかに笑って、“ナイスセーブ”と肩を軽く叩いてきた。

そしてコーナーに向かっていく。まだまだ彼奴の怒涛の攻めが続くようだ。

 

 

 

 

う〜〜〜む、駄目だ。相手が硬すぎる。全員180オーバーの最終ラインにダブルボランチ、両サイドもウィングバックとして守備に専念している。攻撃は奥野とトップの山崎の2人に任せている。

それに対して此方はセンターバックの2人とダブルボランチを残しているから人数で言えば9対6で人数的に不利だし、最終ラインが4CBとして絞ってゴール前を固めているからスペースも無ければシュートコースもない。遠目から闇雲に撃ちたいがあのカウンター狙いの2人が怖いな。チームとしての守備力は向上したが個人的な能力は幾ばくかの不安がある。

仕方ない、あまり趣味ではないが強引に仕掛けるか。マークマンを一瞬振り切りサイドバックからサイドでボールを受ける。挟み込もうとする相手を逆手に取って足裏でボールを2人の間に通し、ルーレットの要領で抜きにかかる。フォローに来たセンターバックがペナルティエリアに入る前にマークについた。それをクライフターンで避けるように躱そうとすると足がかかり、倒れた。

膝が当たったから痛いな〜。痛みを誤魔化すためにゴシゴシと膝を擦りながらゴールと蹴る場所を確認する。

まあ、これでペナ角付近27メートルくらいか。この角度的に左でニアに大きく落とすかファーに鋭く落とすかだな。

ボールをセットし、助走をとる。大きく息を吐き、ゴールを見据える。壁は5枚、ゆっくりと動き出し、ボールを優しく擦り上げる。壁を越え、大きく落ちて良いコースに行ったと思った瞬間、ぬっと伸びてくるものがあった。葛城の左手がボールを弾いた。

「おまっ、ざけんなよ〜。俺のファンタスティックゴールの場面だろうが。」

「甘い甘い、そんな簡単にゴールは許さんよ。」

キーパーグローブを叩くバスバスという音が響き、“マーク確認しろ”と指示を出している。後半も30分を回った。まずいかもしれないなと思った時に、主審がピーーーと笛を吹いた。

選手の交代が指示された。同級生の横川が入ってくるみたいだ。代わるのはサイドバックの人か。スリーバックにするのか思っていると、パワープレー要員として入ったようだ。

コーナーに行き、ボールをセットすると沢先輩が近寄ってきた。沢先輩にショートコーナーで渡し、俺がペナ角に向かって走ると俺に預ける振りをしてライン際に向かってターンして切り込む。そしてペナ外で待っていた俺にマイナスのリターンパスを送る。それをダイレクトでファーサイドに蹴り込むと、ゴールに突き刺さった。

ゴールの笛が鳴り、ようやく勝ち越した。180オーバーの横川が入ってきた時のパターンを練習しておいて良かった。

パワープレーで押すと見せかけてショート。俺が受け直して近付きながら精度の高いクロスを上げると見せかけて沢先輩がライン際を攻め上がり、皆の目線がぐっと沢先輩に集まった瞬間にフリーになった俺が決めるサインプレーだ。

相手がボールウォッチャーになった一瞬を射抜いた。

残り10分もない時間、相手はラインを上げ、攻めに出た。こちらもフォワードを下げ、中盤を強化し、4―3―1―2として足の速い2人を前線に張り付かせてカウンターを狙う。

ロスタイムに入った時にチャンスが訪れた。ゴール前に放り込んだ相手のクロスボールをキーパーが前に出てパンチングしてクリアした。それがセカンドボールに備えていた俺の下に降ってきた。プレスに来た相手をワンタッチで躱した瞬間に高く上がったラインの裏にスルーパスを放った。

沢先輩がタイミングぴったりに飛び出して独走する。キーパーと一対一でシュートを撃つ瞬間に追いついたセンターバックがプロフェッショナルファールを行なった。

する必要があったのか難しい判断だが、してしまった選手は一発レッドで退場となった。ゴール前にジョグでのんびり向かうと他のチームメイトは来なかった。俺達前の3人に任せるつもりの様だ。

「ナイスです、沢先輩。」

俺の褒め言葉にフンと鼻音を鳴らし、ボールを差し出してきた。

「沢先輩が蹴ればいいんじゃないんすか?沢先輩が取ったペナですし。」

「このチームのプレースキッカーはお前だ。だからこのPKはお前に任せる。」

そう言ってボールを押し付けてきた。葛城相手に蹴りたくないだけじゃないのかと思ったけど、チームでキッカーが決まっている以上は否やはない。

ボールをセットし、足場を均す。ゴール両隅を確認し、相手をチェックする。右足で蹴るので左側に距離をとる。笛が鳴り、ゆっくりと走り出し、鋭い振りでボールを蹴り、左側サイドネットに強烈なシュートを突き刺した。

相手はダメ押しを喰らったことで、意気消沈のようだ。リスタートが遅い。リスタートして直ぐにボールを奪った所でタイムアップになった。相手の勢いを奪う3点目で相手の反撃を逃げ切り、リーグ戦の初戦を白星で飾った。

「負けたよ。」

葛城が整列後に話しかけてきた。

「お前にやられたのは確かだが他のメンバーも攻守に一生懸命だった。その差が出たと俺は思っている。」

「千葉経大にボッコボコにやられましたからね。俺を活かす為に皆必死ですよ。」

俺の言葉が可笑しかったのか笑い出した。

「そうか。そう……だな。お前ほどの男を錆びさせるわけにはいかないな。そりゃあ皆も必死になるか。」

「そうですね。」

「リーグ戦は始まったばかりだ。まだ1敗だし昇格のチャンスはまだまだある。」

「お互いに頑張りましょう。」

そう言ってから別れた。

 

 

 

 

 

部活が終わり、7時に帰ってくると直ぐにお風呂に入り、リビングにやって来た。冷たい飲み物が欲しかったからでもあるし、早く帰ってきた時くらいは智さんの手伝いでもしようと思ったからだ。優君達サッカー部は5時過ぎには練習を終えていた。

試合だったのもあるが、午後にハードなフィジカルトレーニングをしたのか、何人かの部員は這々の体で部室に向かっていたのを休憩時に見ていたからだ。

リビングに入ると、先にお風呂に入った優君の姿が見えずキョロキョロと探していると、将史さんにクスクスと笑われた。

「優なら和室にいるよ。」

そう言われたので智さんに差し出された冷たい水が入ったペットボトルを受け取って、そちらに向かう。

珍しくテレビの電源が入っておらず、ノートとテキストを開いて険しい表情で何かを書いていた。

「優君、何してるの?」

声を掛けると気付いていなかったのか、バッと此方に顔を向けた。

「ああ、千夏先輩。あ〜〜〜その〜〜〜勉強をしています。」

歯切れの悪い優君を不思議そうに見たのが分かったのだろう。頭を掻きながら困った顔と声で話し出した。

「古文と漢文が分からなくて困っています。」

そう言われて思い至った。

「あ、そっか。イギリスには古文も漢文もないのか。」

「ええ。なので初めて見た次第でして………解き方も今一分からなくて……………。」

「ふふ、なら私が教えようか?」

「えっ、いいんですか?お願いできます?」

いや、そんな救世主を見るような縋るような目で見なくても。

「どうせ私も勉強しないといけないし、ここで毎日勉強しようか。」

「お願いします!千夏先輩はソフィアかアテナのようです!」

大袈裟な優君に苦笑いをしてしまった。

「優君、言い過ぎ。」

「そんな事はありません。学校で聞こうにも時間が取れるのは放課後って言われましたから………でもサッカーの時間を削るのは……困るので。」

「そっか、そうだよね。なら毎日10時から1時間、ここで勉強しよっか。」

「そうしてもらえると助かります。」

「そうね、それがいいわ!」

急に話に入ってくる声に驚いて振り返ると智さんが入り口の所に立っていた。

「勉強をする。大いに結構!学生の本分だしね。」

「「はい。(ああ。)」」

「ただし、どちらかの部屋に2人きりで勉強はだめよ。千夏ちゃんが何処ぞの馬の骨に卑猥な事をされるかもしれないし。」

「おい。馬の骨って俺の事だよな。」

「うっさい骨。」

「もう唯の悪口!」

“あはははは”と2人の遣り取りを見ていると笑ってしまった。

「ふふふ、2人の遣り取りが面白くて。」

「さて馬鹿話はこの辺にして、晩御飯よ。今日はラザニア、おろしポン酢カツレツ、アクアパッツァにサラダよ。2人とも一日練習だったんだからしっかり食べなさい。」

「は〜〜い。ほら行こう、優君。」

そう言って立ち上がり、優君に手を差し出すと手を握り立ち上がった。

「行きましょうか。流石にお腹空きました。」




銀英伝が煮詰まってるので、此方が先になりました。

気分転換がわりになったので良かったのかも。

フリーキックの蹴り方の選手イメージは右足がメッシ、左足がクリロナです。

右が正確性、左が力強さをイメージしてます。
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