夕飯を終え、今日はリビングでまったりバスケを観ている。と言っても私は洗い物をしながらで、パパと優、千夏ちゃんが食後のお茶を楽しんでいる。
そろそろ解散しようと思った時に、パパが急に思い出した事を話し出した。
「ゴールデンウィークの最終日って2人とも休みなんだって?良かったら水族館に2人で行ってきたらどうかな?ちょうど会社の福利厚生で入場券を貰ってね。どうかな?」
パパ、ナイスよ!進展がなさそうな2人の関係に少しは刺激を与えないと!
「俺は良いけど、千夏先輩は?」
「私も優君がいいなら………。」
お互いに互いを気遣いながら尋ねる。
「先輩がいいなら行きましょうか。日本の水族館は初めてなので楽しみです!」
「そうなんだ!なら今から予定立てよっか。」
「はい!」
2人ともウキウキと予定を立てる話し合いをしようとするのを、悪いと思ったが口を挟んだ。
「優!悪いんだけど午前中は例のやつ、お願いね!」
「分かってる!行きましょう、先輩!」
和室にタブレットを持って行って施設を見ながら予定を決めるようだ。千夏ちゃんの手を引きながら和室へ向かう。
そんな事をしていると時間が過ぎ、10時を回って優と千夏ちゃんが勉強会をしている。私達はワイン片手につまみのチーズを食べながらニュースを観ている。
11時になると2人が勉強を終えて和室から出てきたから、そろそろお開きにしようと言って解散にした。2人は2階へと上がり、私達は寝室へ向かった。
横になりながらパパにさっきの話をする。
「まさかパパが2人の後押しするなんて思わなかった。」
「えっ?」
「えっ?」
しどろもどろで困った口調で戸惑いながら訊ねてきた。
「後押しって……2人が付き合うようにってこと?」
「えっ!?違ったの?私はそうだとばかり………。」
「いや……まぁ……2人がそういう仲になるのは好ましいのだろうが……優にそういった感情があるのかい?………ほらあいつあの子に迫られてもうんともすんとも無かっただろう?それを考えればどうなのかなって…………さ?」
困惑するパパが悩みながら、言葉を選びながら紡いだ言葉に思わず納得してしまった。
「確かに…………。あの唐変木に性欲とかあるのかしら………?」
「性欲って………智、あけすけ過ぎるから。」
“はあ〜〜〜”と私が大きく溜め息を吐くとパパは苦笑した。
「智、もう少しゆっくりと見守ろう。2人がそういった関係になるも良し、互いに高め合う関係になるも良し。それで良いじゃないか。外野の私達が引っ掻き回すのは良くないだろう?」
「………そうね。」
夜が更けていく。
水族館の展示内容を見ながら気になったのを見ようと言い合い、一段落ついた所で千夏先輩が気になったのを聞いてきた。
「そういえば智さんが言ってた例のって何なの?」
「えっ?ああ~〜〜。」
内容を言っていいのか一瞬考えたのを言い淀んだと思ったのだろう。千夏先輩が慌て出した。
「あっ、いや、言えないならいいよ。気にしないで!」
両手を胸の前で振って気にしていない旨を伝えてきたが、別段隠すことはないから言ってしまった。
「スポーツ用品のモデルをやってるんです。その撮影が午前中にあるだけです。」
頭を掻きながら伝える。
「えっ!?どこのメーカー?!」
「スターダストってとこです。」
千夏先輩が困惑した表情を浮かべた。有名なメーカーじゃないからだろう。ちゃんとそこを選んだ理由があるから。
「母さんの同級生がやってる会社なんです。で子供の頃からウェアやシャツ、トレーニングスーツなんかをくれてたんです。なので鶴の恩返し、一宿一飯の恩みたいな感じでそこそこ名前が売れ始めた今、無償でコマーシャルモデルをやってるんです。」
「えっ!?お金貰ってないんだ!?」
「ええ。代わりに新作の服を全部貰ってます。気になるなら見に来ますか?多分、問題ないと思いますよ。」
「いいの?」
「あっちゃんさんに聞いてみます。」
パパっと連絡すると、直ぐにOKの連絡がきた。写真撮影はいいけど、それを投稿なんかはしないようにしてくれるなら問題ないと返事がきたことを伝えると嬉しそうに笑って喜んでいる。
「なら当日は撮影に行って、そのまま遊びに行きましょうか。」
「うん!楽しみだな〜、何着ていこうかな。」
「せっかくならお弁当でも作りますよ。撮影場所が公園なんでピクニック代わりにそこでお弁当を食べましょう。」
「本当!?もっと楽しみになってきた!」
子供のように嬉しそうに燥ぐ千夏先輩って可愛いな。年相応の幼さと無邪気さが眩しい。母さんはこういった子供が欲しかったんだろうな。確かに不詳の息子だろうな、俺は………可愛げがない子供だっただろう。
埒も無い事を考えていると、千夏先輩が下から覗き込んでいた。
「優君、大丈夫?」
「ええ。お弁当に何を入れようか考えてました。」
「お弁当!何がいいかな〜、優君は何が好き?」
「だし巻き卵が好きです。」
「私も好き!一緒だね!」
「ええ、そうですね。他にも唐揚げやきんぴら、ミートボールなんかも作りますよ。」
そんな話で盛り上がっていると“ボーン、ボーン”と時計が鳴った。10時になった様だ。
「勉強しよっか。」
そう言って勉強道具を部屋に取りに行き、和室で勉強を始めた。
こういったON/OFFの切り替えがしっかり出来る千夏先輩といるの居心地が良いな。
自分もしっかりしないとって思わせてくれる。この関係性がずっと続けばって。
ゴールデンウィーク2日目に群馬に遠征する。リーグ戦があるので朝の6時に学校に集合し、バスで向かう。10時キックオフなので8時過ぎに着く予定で組んだようだ。
全員で40人程のサッカー部は皆揃って対戦する相手高校に行く事になっている。
如月は中列窓際に座っている。サングラスをかけ頬杖をついていた。目元が見えないが寝ているのだろう。
高速に乗って休憩もしなかったから予定通り8時過ぎに着いた。
バスから降りると挨拶に来ていた相手の前橋教育大付属がザワザワと落ち着きがなくなった。
俺の後ろにいる如月が降りてきたからだろう。どこか雰囲気があり、人の目を引くのだろうな。それに試合の時はオーラって云うか闘争心が身体から発散されているように思う。シャープな体躯から発せられる圧倒的な存在感が、その場を支配するような感覚を覚えるのだろう。
まあ、1人スポーツサングラスをしていて目立っているのもあるんだろうが。野球やテニス何かなら分かるが接触プレーが大いにあるサッカーで必要ないだろう、それ。
聞いたらあんまり寝顔とかジロジロ見られたくないのと、そういった時に視線を感じるとゆっくり休めないからだそうだが………うん、ぶっちゃけ不審者みたいだな。
直ぐに相手チームの多分一年生なんだろう。何処か慣れてない感じで荷物置き場や貴重品の管理なんかを教えてくれた。
それからアップをする。ランニング、柔軟、パスやトラップ等のボールタッチの確認をし、シュート練習をコートの半面を借りて行う。
如月がする時には相手チームだけでなく、周りの多分近隣県のプロチームのスカウトなんだろうが、それが一斉に見ている。
ペナ外からボールを転がし、ディフェンダーの紅林先輩を左右に揺さぶりながらスピードを上げていく。小刻みな切り返しの連続に紅先輩が体勢を崩した。それを横目に抜いてから左足で上隅を射抜く。いや、ライアン・ギグスかよ!
次は、如月と同級の横川が相手するようだ。ボールを持った瞬間に急加速し、1合も相手にせず振り切った。前に詰めてきたキーパーをシュートフェイントで躱して、悠々無人のゴールに蹴り込んだ。次はギャレス・ベイルか………。
よく雑誌や漫画何かでボールを持ってる佇まいが美しいって言われてるのがあるのは知っていたが、正直馬鹿な話や与太話と思っていたが俺は唯一、様になっていると思ったのが如月だ。
俺はジュニアユースにいた時に幾つものチームの何人ものプロの選手を見てきたが、如月ほどにカッコよくて、美しくて、似合っていて、様になっていて、絵になっているのを知らない。
如月にふとした瞬間にポロッと零したら、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。珍しくサッカーで困惑した表情を見せた。
そしてボソリと、“それイギリスでもよく言われましたよ。俺はただ次のプレーを考えたらベストな所にボールを置いてるだけなんですけどね………”と困り果てた顔をしながら呟いた。
確かにアイツは、よく首を振って周りを確認している。それこそ周りを確認していない時がないんじゃないかってくらいに。だから他の選手より周囲の状況が頭の中に鮮明に残っていて、次のプレーをしやすくしているのだろう。そこには無駄なものがドンドン削ぎ落とされていき、洗練された形になった結果が所作に出るのだろうな。
試合が始まって10分も経たない時に、如月が相手のパスミスを掻っ攫い、3対3の状況でのショートカウンターになった。反対側の右サイドに沢城、トップに近藤が相手を1人引き連れながら上がっていく。如月が正面にいる相手を躱しにかかる。
独特なリズムと身のこなしでシザース、エラシコで相手の体勢を崩し、圧倒的なスピードでぶち抜いた。一瞬の攻防で抜かれ、フォローに入るも体勢が不十分なままの為に如月の鮮やかなまでのルーレットで入れ替わられて抜かれ、左足で右サイドネットに強烈なシュートをぶち込まれた。鮮やかなテクニックとリズミカルでトリッキーな動きがロナウジーニョみたいだな。
キーパーも一瞬で2人が抜かれたから前に詰めれなかったのでノーチャンスだっただろう。
そこからもボランチをワンタッチで躱し、フォローに来たセンターバックを引き付けて股の間を通したスルーパスを近藤に出して、難なく2点目をお膳立てした。
前半終わりに近藤目掛けて蹴ったロングボールで競り合いの時に肘が顔に入り、ファールになった。ゴール正面25m位の距離からのフリーキックを左足で縦回転を掛けて、速いボールで右隅を射抜いた。
後半は相手がダブルチームで如月を封じ込めに来たが、ボールのない方に引き連れて流れて行く。そこで出来た人数差からのギャップを突いて沢城が中に入っていき、グランダーのクロスを軽く浮かせて流し込んだ。
そこ以外はラスト10分までは一進一退でどちらも大きなチャンスを作ることが出来ずに時間が過ぎていった。
俺がボールを持って上がって、センターラインを越えた瞬間に如月が一瞬の隙をついて動き出し、ボールを要求する。そこへボールを付けるとワンタッチで遅れてマークに来た相手を躱し、近くのボランチに落とした。その落としたボールに釣られてマークマンが1人外れたのを見て取った如月がリターンパスをゴール方向に向かって要求する。そのパスを受けると右サイドに流れて行く。もう一人のマークマンとフォローに来た右サイドバック、剥がされたもう一人のマークマンが遅れてマークに付いた。1対3なのに迂闊に飛び込めずにいる。キックフェイントからの足裏で転がしてエラシコで相手との間合いを完全に崩して、ラボーナでゴール前にフワリとしたクロスを上げる。
そのクロスは、最終ラインからゴール前に走り込んだオレへの極上のボールでノーマークでゴールに叩き込んだ。
全くここまでされるとマジでコイツがいて全国行けなかったら俺らのせいだろうな。最初の如月への縦パスの時に上がれって合図があったから上がったが、まさかここまで上手くいくとは………、マジでやべぇなコイツは。
一人だけ、やってる競技が違うのではってくらいアイツにボールを預けると試合が落ち着くし、相手チームは警戒してピリピリ感が出る。
「ナイッシュー、紅先輩。」
「お前こそ、あんなとこをラボーナで通すなんて。」
「ボール一個分の隙間があれば通しますよ、俺は。」
喜んでいた表情が一瞬で真顔に戻り、平静な声で淡々と答える様は勝負師のそれだろう。
「このまま勝ち切りますよ。」
「当然!チャンスがあったらお前はガンガン攻めてけよ。」
「うっす。了解です。」
頼もしく頷く如月、一切の油断も隙もない野郎だ。可愛げがないが味方なら頼りになる。
ロスタイムの相手のコーナーをクリアするとセカンドボールを回収に来た如月が半身で中段蹴りの要領で前に蹴り出す。クリアかと思ったが、ボールの飛んだ先に沢城が走っていた。スルーパスかよっ!
相手のディフェンダーが追走するも独走する沢城に追い付けない。沢が中央に寄りながら中を確認する。残っていたボランチがカバーに入り、沢の足を止める。
中を確認した沢が無造作にクロスを上げた。そこへ走り込んでいるのはこっちのゴール前でスルーパスを沢に出した如月だった。どフリーの如月は難なくゴールを決めて、アシストのラストパスを出した沢城へ寄っていき、ハイタッチをする。
スティーブン・ジェラードのようなボックストゥボックスの動きで、此方のゴール前から向こうのゴール前に顔を出して、ゴールを決めるまで仕事をするとはな。
結局、試合は7対0で完勝した。如月の活躍で去年全国に出たチームに勝っちまった。
整列後、礼と握手をしてピッチを後にすると、前教大付の選手達が如月に群がっている。サインや写真撮影をお願いされている。監督同士が話し合っているが、お互いに苦笑いしている。
クールダウンをし終え、帰る準備をして、最後に挨拶をして帰路に着いた。
相手チームから夏のインターハイに冬の選手権、全国に出て来い。今日のリベンジをしてやると言われた。
明後日はそのインターハイ、選手権の県予選で最大のライバルになる浦和学院が相手だ。ここでしっかりと勝って6月に始まるインターハイ予選に向けて格付けと弾みをつけたいものだ。
前橋教育大付との試合を終え、次の日は練習だった。前教大付との試合に出た人はリカバリーとケア、残りはトレーニングと紅白戦をした。白熱の試合内容にチーム内での競争意識や向上心が前面に出ている。
どの選手も細かいディテールに拘りながら、プレーしているのが分かる。いい傾向だ。
翌日の浦和学院の試合は、予想外の展開になった。前半始まって早々にクリアをしようとした浦和学院の選手が空振り、俺がフリーで最終ラインを突破。それを防ごうとした空振った選手が俺のユニフォームを引っ張って倒し、一発レッド。
開始5分と経たずに数的優位を得てしまった。相手チームは完璧に引いて守り、引き分け狙いの戦術を取ってきたことで更に混沌を極めた。エリア内に敵味方が居過ぎてミドルのコースが全然ないし、高さで勝負しようにもウチには競り合いに強い選手がいない。
そのせいで前半はスコアレス、0対0で終わってしまった。前のチームなら何とでもなるが、今のチームにはこれ程窮屈なエリアでの崩しは無理だろうな。
さてどうするか………一朝一夕で身に付くものでもないし、仕方ない。俺が1人でどうにかするしかないよな。
後半早々にサイドでフリーでボールを貰う、ボールを足元から離さずに細かいタッチと鋭い切り返しを駆使して、エリア内で仕掛ける。
相手はファールでのPKを恐れて脚を出すのを躊躇する一瞬で抜いていく。
4人、5人と剥がした時に、僅かな隙間が見えた。そこへ小さく鋭い振りでシュートを放つ。
それが決まり、やっと先制することができた。
いずれはこういったベタ引きの相手からも攻め崩すことを覚えてもらわなければ。
そこからは点を取らないと負けてしまう浦和学院が攻めに出るも、数的優位と一度徹底的に守備的にしたマインドが足を引っ張り、此方の方が試合巧者ぶりを発揮し、着実にカウンターや焦った相手が不用意なファールをし、フリーキックで得点をしていく。
相手が攻めに出てくれば、守備に人数が減る分で流石に隙が出来る。そこを突くことくらいは朝飯前とまではいかなくても出来るようになっている。
最終的に試合は4対0で勝ちを収めた。
天を仰ぎ、大きく息を吐いた。何とか勝てたって感じだな。点差からは思わないだろうが。
ともあれ、リーグ戦は負け無し。このまま昇格したいものだな。オレが代表で抜ける期間があるからどうなるかは分からんが………。
「ちゃ〜〜〜す!」「ちゅい〜〜〜す。」「失礼しゃ〜す。」
そんな声を疎らに出しながら、サッカー部が体育館に入ってきた。沢城先輩が通り過ぎようとした時に針生先輩に呼び止められて話している。
ドリンクの近くで話していたので、飲むついでに気になったので傍に寄って、聞き耳を立ててみた。
「いや、まさか彼処まで梃子摺るとは思わなかったよ。開始早々に相手に退場者が出たから楽勝と思ったけど………。」
「守り切ろうとしてきたのか?」
「ああ。全員ペナ内でガッチガチに固めてきやがって。シュート撃とうにもな………そんなんで前半が終わっちまったよ。」
「でも勝ったんだろう?」
「ああ。如月がドリブル突破で強引に抉じ開けてな。あれが無かったら引き分けてただろうな。点取られた相手は攻撃に出るしかなくて、上手い具合にカウンターが嵌って、最終的に大勝したけど………如月がいないと引き分けで終わってたよ。」
何処となく遣る瀬無さそうな表情て入り口の方を向いた。そこにはサッカー部の監督と話している優がいた。話し終わったのか監督と別れて、体育館に入ってきた。深々と一礼し、“失礼します”と言ってから入ってくる辺り、礼儀正しいよな。
すると不意に胸元で右手親指を立てて、フワッとした柔らかい笑顔を浮かべて、グーポーズをした。
誰にしたのか視線を辿ると、千夏先輩が嬉しそうに笑ってグーポーズを返していた。
あれで付き合ってないんだよな……………、優が詰まらない嘘をつくとは思えないが。本当だよな………。
………んっ?不意に視線を感じて、顔を上げると針生先輩と沢城先輩が俺を見ていた。俺を見てから2人は顔を見合わせて、針生先輩は苦笑し、沢城先輩は肩を竦めた。
「大喜、お前分かり易すぎ。」
「選手としては難敵だろうが、恋敵としては未知数の相手だ。チャンスが全くないことはないと思わなくもない。」
「いや、どっちなんだよ。」
「だってあいつら両方とも色恋に興味なさそうだろ?どういった関係なのか分かんね〜し。だから猪股君が鹿野さんを狙うなら色々と頑張んないとな?とりま、部活頑張るんなら針生を倒して全国だな。」
最後の台詞は、針生先輩に簡単に負けんじゃね〜ぞって思いが入っているのが分かった。それを針生先輩は感じ取ったのだろうな。
「まだまだ大喜には負けないさ。」
此方を向いて不敵に笑っている。俺に足りないところが多いのは分かってるけど気持ちだけは負けられない!
「今はまだ勝てないですけど、そう遠くなく追いついて追い越しますから!」
“ほぉ〜〜〜”と沢城先輩が感嘆の声を漏らしている。
「口だけになるなよ。」
戒めの言葉を針生先輩に掛けられた。それは重々分かってます。
「こんなとこで何してんすか、沢先輩?もう皆ウェイトに行ってますよね?」
いつの間にか近くに来ていた優が沢城先輩に何でまだここにいるのか尋ねている。
「いや、針生に今日の結果聞かれたから答えてたら、そこの一年坊がお前さんに負けてられんと張り切ってたから、微笑ましく見てた所。」
「はあ?よく分かんないんすけど分かりました。」
困惑していたが、結局最後は流した。
「ベタ引きされた相手の崩し方を学ばないと、白星を取りこぼすことにもなりかねません。さっさと行ってミーティングをしましょう。」
「ああ、分かった。そういえば如月は監督と何の話だったんだ?」
「来月のインハイ予選前にU-20の試合があって、それに招集されたって言われただけですよ。秋にU-20W杯があるんで、選考会ですね。」
日本代表に選ばれる事を、特別大したことでもないかのように言う優が大きく見える。
「じゃあ針生先輩、失礼します。大喜も頑張れよ。」
そう言って沢城先輩を引き連れて、俺を応援して颯爽と去っていった。
「こりゃあ、お前相当頑張らないと土俵にも上がれんぞ?」
針生先輩のどストレートの言葉に、“うっ”と言葉に詰まった。
分かってますよ。俺は針生先輩にも、雛にも、千夏先輩にも、優にも遠く及んでいないって。
でもだからって、何もしないや諦めるなんてダサくてかっこ悪すぎるだろう。がむしゃらにやってやるさ。
7時少しを過ぎて優君と2人で帰ってきた。今日の試合の事や来月の中旬にある世代別代表に選ばれて岡本先生が興奮していた話を笑いながら話して帰ってきた。
家に着くと、リビングにいる智さんに帰宅の挨拶をして、2階に上がる。荷物を置いて、着替えを持ってお風呂の準備をする。
先に入ってと優君に言われたので、お先に失礼する。
お風呂を上がって、部屋にいる優君に声を掛けるも、反応がなかった。何度か繰り返しても無いので扉を恐る恐る開ける。部屋には誰もいなかった。
ならと、2階のシャワー室の戸を開けると、パンツ1枚の優君がいて、固まってしまった。
私が扉を開けたのに気づいた優君が、此方を見ると固まってしまった私に気付いたのか、掛けてあったウェアを羽織り、短パンを履く。
「すみません、今日の試合の傷をチェックしていたもので………。」
「ううん。私もノックすれば良かったのにいきなり開けてごめんね。」
「いえ、お見苦しいものを見せてしまったので……。」
「そんなっ!優君の身体綺麗で見惚れちゃっ、っ!」
私何を言おうとしてるのっ!バカバカバカ!
「綺麗って、嬉しいですけど結構傷だらけですよ。」
“ほらっ”と首元を開いて、鎖骨の下にある青痣を見せてきた。結構大きくて痛そう。
「大丈夫?痛くない?」
優君が軽く青痣を撫でる。
「全然痛くはないです。押したりされたら痛いですが。」
そう言って軽く押したのか、顔を若干顰めた。
「そういえばお風呂教えに来てくれたんですよね。直ぐに入ります。」
「うん、ゆっくり温まってね。」
「Thanks。」
そう言って、部屋に戻って着替えを持って、下へ降りていった。
一階では、智さんが晩御飯の準備に忙しなく動き回っている。そんな智さんを手伝っていると、20分とかからないでやって来た。
皆が揃った所で晩御飯になった。
今日のメニューは、鶏もも肉と手羽先、手羽元と卵の酸っぱ煮、カサゴの塩焼き、餃子、サラダ、薄揚げと葱のお味噌汁。
いつも豪華な食事だ。1時間で食べ終わり、団欒、勉強会をして、1日が終わる。そして優君と部屋の前での別れ際に。
「明日のお出掛け、楽しみにしてるね!」
「俺も楽しみです。目一杯楽しみましょう!」
そして眠りに就いた。
次の話は、撮影と水族館の2本立ての話になる予定です。
来週に出せたらいいな。