アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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後半で〜〜〜す。

コロナにかかって大変でした。いや〜〜〜病院のワクチン接種の紙見たけど、コロナのワクチンたっか!!

一瞬見間違いかと思って2度見したよ。
皆さんもコロナ、インフル、風邪と弱った身体にバシバシと鞭打つ奴らがいるので気を付けてくださいね。


ゴールデンウィーク 後半

朝、いつも通りに起きて下に降りると、いつもと違う光景が広がっていた。

リビングのテーブルチェアに将史さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるのはいつも通りだけど、その隣に智さんがコーヒー片手にバスケットの雑誌を見ながら座っていた。

そしてキッチンには忙しなく動き回る優君がいた。

「お、おはようございます………。」

「「おはよう、千夏ちゃん。」」

私の朝の挨拶に声を揃えて返してきてくれた。ただ、そこからどうしたらいいのか分からず戸惑っている私を見て、将史さんはフッと笑って新聞に顔を戻し、智さんはクスクスと笑っている。

「ほら千夏ちゃん、こっちに来なさい。」

そう言って前の椅子を示した。私は大人しく椅子に座った。

困惑しっぱなしの私を面白可笑しそうに笑いながら優君がキッチンにいる理由を教えてくれた。

「千夏ちゃん、優の撮影について行くんだって?その後、公園でお弁当を食べるんでしょう?」

「えっと、はい……。」

智さんは、キッチンでパタパタと動き回る優君を楽しそうに見ている。

「そのお弁当を作ってるのよ、あの子。」

「はいよ。父さんのと母さんのあがったよ。」

そう言ってお盆を2つ持ってやって来た。2人の前に置くと、美味しそうな朝食が用意されていた。

「千夏先輩の分は魚が焼ければ整いますので、少し待って下さい。」

そう言い残してキッチンに戻っていった。

将史さんのお盆は、鰆の西京焼き、ほうれん草のお浸し、だし巻き卵、なめこと長芋の梅肉和え、葱とわかめのお味噌汁。

智さんのお盆は、トースト、オムレツ、カリカリベーコン、サラダ、ニンジンのグラッセ、ほうれん草とえのきのマリネ、トマトスープと豪勢な朝食だ。

「美味しそうでしょ?」

「えっと、はい。」

「何でも卒なくこなすのよ。ぶっちゃけ私より手際がいいまである。」

「えっと…それは………。」

智さんの自虐なのか謙遜なのかよく分からないセリフに戸惑っている。

「あの子に無い才能ってバスケのジャンプシュートくらいかな?リングには当たるんだけど、何故か入んないのよね〜。」

笑いながら言う智さん。将史さんが笑いながら頷いている。

「ゴール下からのもこっちが不安になるくらいリングの上で踊り跳ねてから入るから面白いよな。」

「ね〜〜〜。」

優君にそんな弱点があったんだ。はたと思い出した。

「なら優君とバスケの勝負するならジャンプシュートを撃たしておけば……?」

「先ず間違いなく勝てるわね。」

そんな事を笑いながら教えられた。

「学校案内した時に、1on1やって負けたんです。」

「あらあら。」

「身体能力の差を感じました。男女の差を………。」

あの時に感じた決定的な能力差。手加減されても埋められない程の差を。

「千夏ちゃんは、まだまだ伸びるわよ。自分の身体を理解して、その使い方が分かれば。」

「本当ですかっ!?」

「ええ。だから先ずはスリーサイっず!」

手に持ったお盆を智さんに叩き付ける優君がそこにいた。

「おいセクハラだぞ、オバさん。」

「アハハハ………。」

乾いた笑いしか出せなかった。

「だってだって!千夏ちゃん可愛いだもん!ここにいる息子は全然可愛くないし!」

「これ、千夏先輩のです。」

優君が私の前にお盆を置いてくれる。智さんを無視して自分の席にもお盆を置いて座る。目が合った時に何をしようとしているのか分かったので手を合わせた。

「「いただきます。」」

声を合わせてから食べ始める。おいしっ!パクパクとお箸が進む。食べ終わり、後片付けもして、着替えて準備万端、電車に乗って目的地へ案内してもらう。その最中に謝られた。

「母さんがすみません。いつもいつも申し訳ないです。」

申し訳なさそうな表情をしている。多分、私が智さんの可愛がりを嫌がっているのではと思っているのが伝わってきた。

「うんん。全然迷惑じゃないよ。優君と智さんの掛け合い面白いから。」

優君は私の回答に苦笑している。いやだって、純粋に2人の遣り取りが面白いし。

「ならいいですが………。」

「心配し過ぎだよ。この生活楽しんでる自分がいるから。」

「分かり………ました。」

面白がられてるのが、多少不本意なのかな?微妙な顔をしている。本当に気にしないでいいのに、ウチはお父さんが寡黙でお母さんはのんびりしてるから家族のワイワイガヤガヤって無かったから新鮮で楽しんでいる。

それを伝えると何とか納得したのか、色々と飲み込んだのかは分からないけど、元に戻ってくれたので一安心だ。

そこからは、電車を降りて迎えに来ていた車に乗って移動した。直ぐ傍の公園だったのであっという間に到着した。

「おはようございま〜す。」

「おはよう!」「おはようございます!」「おはよう。」

優君がスタッフの人に挨拶をすると皆が笑顔で返してきてくれる。

「おはよう優坊。」

「おはようございます、あっちゃんさん。」

「そっちが連れの子かい?」

「はい、今ウチで同居している鹿野千夏先輩です。」

多分、この中で一番偉い人と優君が会話をしていると私を紹介してくれた。

「鹿野千夏です。今日は見学を許して頂きありがとうございます!」

「あ〜〜〜、いいのいいの。私は渡條敦子。今日はスチールだけだから騒いだって問題ないから。それよりも〜〜〜………。」

そう言って私を上から順に下へ視線をやる。

「貴女、何か部活やってる?」

「えっとバスケを………?」

突然の質問に困惑しながら答えると一つ頷かれた。

「貴女、ウチの製品のモデルやってみない?」

「あっちゃんさん。」

優君から制止の声があがるも、“聞いてみてるだけよ。無理強いする気はないわよ。それよりも優坊は早く準備しなさい。”

そう言って、優君に着替えを促した。優君は渋々着替えに車に向かっていった。

「やってみる気はない?」

「いえ、あんまり。」

「そう、ならいいわ。気が変わったら連絡してちょうだい。」

あっさりと話が終わった事に、ポカンとしてしまったのを見た渡條さんは、柔らかくフフッと笑った。

「しつこく勧誘なんてしないわよ。こういう事は縁だしね。やる気になったら教えてくれたらいいわ。それにしても………貴女、優と男女の関係じゃないわよね?」

「違いますっ!違います!!そんな関係じゃあ!」

「あらそう?なら何があったのかしらね?あんなに優しい顔をしちゃって………。」

本当に不思議そうに考えながら口にした言葉に驚いた。私の知っている優君はいつも綿のようにフワリと笑う男の子だ。

「そんなに違いますか?」

昔を思い出すかのように、目を瞑って上を見られた。

「ええ。10歳位までは今と一緒で楽しそうにしていたけど10歳を越えた時に会ったら一変していたわ。もうサッカーの時なんて不動明王の憤怒の形相で勝利に飢えていた。普段もピリピリしていて、周囲に緊張感っていうか緊迫感を振りまいてたの。」

「そんな事が………。」

「あの子の母親、智とは別の高校だったから高校日本代表からの付き合いで、あの子達がイギリスに行く前に独立してね。それ以来、あの子にはモデルとしてお世話になってるの。」

優君が着替え終わり、撮影が始まった。それを確認してから寂しそうにポツリと先程の話の続きを漏らした。

「最初はプロフェッショナルかと思ったけど、狂人の類だったわね。見ているのが痛々しい位だった。智に聞いても言を左右にして詳しい事は喋らなかった。」

「……………。」

「優の事をお願いしてもいいかしら?別に特段何かをする必要はないわ。ただ側にいてあげてほしいの。心配してくれる人がすぐ近くにいるって事は、普段は気付かないけどふとした瞬間に有り難みが身に染みるから。」

本当に労るように、気遣うように、心配そうに頼んでいるのが分かった。

「分かり、ました。何が出来るか分かりませんが、気に掛けておきます。」

「よろしくね。」

そこから着替えては、写真を撮ってを繰り返し、ギリギリ昼前には終わった。

スタッフの方達は片付けを終えると、挨拶をして帰っていった。それを見送ると、優君がいつもの笑顔で“お昼にしましょうか”と提案してきたので四阿に移動した。

家と違って対面で座り、お弁当を広げた。“わあっ”って声をあげたのは仕方ないだろう。凄く豪勢なお弁当だ。

だし巻き卵、唐揚げ、タコさんウインナー、ミートボール、ほうれん草のお浸し、ちくわキュウリ、鶏の照り焼き、春巻、えびチリ、鯖の塩焼き、きんぴらごぼう、ブロッコリーのチーズ焼き、彩りのプチトマトとおかずがたくさんある。

おにぎりもとろろ昆布で巻かれたのや炊き込みご飯、しそわかめに梅とじゃこを混ぜたの、定番の鮭がラップに包まれていた。

「すご〜い、おかずが一杯でパーティーみたいだね!」

「俺も千夏先輩も結構食べるので、多めにって思って作ったら作り過ぎちゃいました。」

“アハハ”と笑いながらお箸を渡してくれ、“食べましょうか”と手を合わせたので、私も合わせた。

「「いただきます!」」

一目見て気になったとろろ昆布のおにぎりを手に取って頬張った。

「ん〜〜〜、おいし〜〜〜〜〜!」

「うん、美味しい。」

優君は自分で作った物の出来を確かめるように、ゆっくりと味わいながら食べている。

天気もいいし、たまに吹くそよ風が心地いい、青々とした緑の香りも落ち着く。そこに美味しいお弁当があって、端的に言ってサイコーです。

食べ終わり、温かいほうじ茶を2人で飲みながらまったりしていると優君が手元のカップをクルクルと回しながら話しかけてきた。

「あっちゃんさんに何か頼まれました?俺の事で。」

顔が下に向いているから表情は伺いしれなかったけど、微かに笑っているのが口調や雰囲気で伝わってきた。

「何かあったら助けてあげてって…………。」

優君の笑みが深くなったと思ったら彼は空を見上げた。数秒で顔を戻し、私の顔を見つめた。

「10歳になる前かな?その時に友人が所属クラブをリリース、所謂クビですね。になったんです。それでそれまでは楽しくやっていたサッカーが怖くなったんです。」

眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべている。

「プロの下部組織に所属するってこと、プロになるってことのリアリティを持った初めての経験でした。皆上手いのは当たり前だったので、そこから振り落とされるっていう事があるって現実を友人がリリースされる事で知りました。」

諦観のような表情に変え、ポツポツと話の続きを紡ぐ。

「そこからは死に物狂いです。クビになった友人の為に、そして何より自分がクビになりたくないって一心で。落とされた友人の為に、このチームでプロになる。それが俺の誓約です。」

寂しそうに笑う優君が痛々しかった。思わず立ち上がって身体を前に倒して腕を伸ばした。そして優君の頭を優しく撫でた。

「優君は頑張ってるよ。私は知ってる。毎朝私が起きる前に走ってるし、サッカーの研究も欠かさない凄い子だって。」

そんな私の行動を受けて、唖然と云うか呆然と云うかポカンとした表情で固まってしまった。そして身体を震わせて笑い出した。それも“アハハハハハハ”と声を出してだ。

「心配しないで大丈夫ですよ。そこからは直ぐに上手くなっていきましたし、周りの評価も付いてきました。クビの心配なんてしなくていいくらいに。」

「そりゃあ代表に選ばれるくらいだもんね。」

「ええ。それに千夏先輩が今のチームメイトとやりたい。今の仲間と高みを目指したいって聞いて、羨ましいなって思ったんです。そういう考え、生き方もあるんだって。」

眩しいものを見たかのように目を細めている。

「先ずは千夏先輩と約束した全国出場、全国制覇を果たさないといけませんね。ミサンガにかけて。」

最後は明るく私との約束を果たさないとって。笑ってくれた。

「私も頑張らないと。去年は悔しい思いをしたから。」

「ええ、頑張りましょう。」

そう言って手の平を差し出してきた。私は思いっ切り手を叩いた。気持ちいいくらいに晴れた青空にパンッて音が響いた。

 

 

 

 

 

今回の最終目的地、水族館に辿り着いた。父さんから貰ったコードをチケット売り場の機械に打ち込み、発券する。高校生2枚で5000円だ。お小遣いの半分が消える計算をパッとしてしまう自分が嫌になるな。何か小さい男みたいで………。

「すみません、お待たせしました。」

ゲートの傍で待ってくれていた千夏先輩に片方のチケットを渡しながら謝る。

「うんん。こっちこそチケットありがとう。」

「気にしないでください。何せタダですから。」

カラッと笑い、“ほら、行きましょう”と促すと嬉しいに歩き出した。

小型の水槽に入った様々な魚や甲殻類を順々に見ていく。熱帯魚を楽しそうに見る千夏先輩をスマホのカメラで撮ると、それに気付いたのか近寄ってきた。

「さっき写真撮ってたでしょ。」

「ええ。母さんに送ろうかと。」

「変な顔になってないよねっ!?」

「いつも通り可愛いですよ。」

千夏先輩が変な顔になってないか心配するけど、いつも通りだと伝えると急に恥ずかしそうにした。

「どうしました?」

「えっ!?いや、何でも。」

直ぐ傍の水槽を覗き込むとオレンジに白のラインが入ったカクレクマノミがふよふよと水の中を漂っている。顔を近づけると更に近くに寄ってきた。こいつ〜、可愛いやつめ。

するとパシャと音が鳴った。そちらの方を向くと、今度は千夏先輩がスマホで撮影していたようだ。

「先輩も撮ってるじゃないですか。」

「だって楽しそうに見ているから。」

クラゲのコーナーになると、暗闇の中でカラフルにライトアップされた水槽が幾つもあった。一つ一つに違うクラゲが入ってるようだ。

「すご〜い!幻想的〜〜〜!」

一番近くにある水槽をクルクル回りながら見る千夏先輩が面白い。真面目で一生懸命でひたむきに頑張る性格なのに、こういったふとした瞬間に子供っぽいというか無邪気というか、年相応の幼さが垣間見える。

「ほら、優君も来なよ!綺麗だよ。」

「今行きます。」

水槽の周りから光が出ていて、クラゲの不規則な輪郭に当たって色の濃淡が出来ていて、それがより一層幻想的に見える。

「綺麗だ……………。」

上へ屈伸するように漂うクラゲ。光を浴びたクラゲが美しく見える。見せ物にされているクラゲは面白くないかもしれないけど、やっぱり綺麗だな。

青や緑、紫、黄色など様々な光源によって照らし出されたクラゲがキラキラと輝いている。

クラゲのコーナーを過ぎ、いくつかの展示コーナーを見物すると広い通路に出た。何人かの家族連れがその通路に引かれた線に沿って座っていた。

不思議に思って周りを確認すると、どうやらペンギンが散歩をするコースのようで、もう間もなくペンギンが昼過ぎの散歩をするらしい。

千夏先輩にその事を伝えると、なら折角だし私達も観よっかと提案し、俺もそれに一、二もなく頷いた。空いたスペースに2人並んで座る。ペンギンを生で見るのが初めてだと伝えると驚かれた。映像で見たことはあれど、目の前で見たことは記憶の中ではない。楽しみだ。

直ぐにペンギンがペタペタと音を鳴らして歩いてきた。

子供、大人関係なく歓声が上がった。何匹?何羽?も行進していく様は確かに可愛い。それを見守っていると一羽が俺と千夏先輩の前に立っていた。ジーーーッと俺の顔を見ている。

「この子、優君をジッと見てるね。」

隣の千夏先輩も気付いたようだ。こいつ、全く俺から目を離さないな………。…………うおっ!!

急に片膝を立てた胡座で座っていた俺の足に飛び乗ってきた。

嘴を顔に近付けてくるペンギン。何っ!何こいつ!怖いんですけど!

咬もうとしているのではと思って、上半身を反らして避けるように倒していく。すると少しずつペンギンが上半身の方に移動しているのを重みで感じる。我慢できずに上半身を床に横たえた。と思った瞬間、顔にとんでもない重さの物が載っているのが理解できた。

「ちょっ、千夏先輩!!これペンギンですよね!頭載ってますよね!!」

慌てて隣にいるはずの千夏先輩にヘルプを求める。ちょっ、マジで早く助けて!

「………プッ、アッハハハハハハ!!」

何故が隣から爆笑する声が聞こえてくる。これ十中八九千夏先輩の笑い声ですよね。

「すみません!ペンペン、ほらこっちに来なさい!」

そんな声が耳元で聞こえてきた。多分このペンギンの散歩を仕切っていた係員の人だろう。顔を横に向けているので声しか頼りになるものがないので胸中は不安で一杯だ。

フッと頭に伸し掛っていた重さが消えた。どうやらペンギンを回収してくれたようだ。お腹に力を入れて上半身を起こすと直ぐ傍にいるとある女性が目尻に涙を溜めて笑っているのが分かった。

「ご、ゴメンね、優君。で、でも可笑しくって。」

まだアハハハと笑う千夏先輩。そんな笑い上戸と化している千夏先輩に呆れと諦めで大きな溜め息を吐く。そして直ぐにビクッと身体を震わせた。

何故ならペンギンが一匹此方を傍で見ていたからだ。今度は噛まれないように細心の注意を払いながら手を差し出してみる。

だがジッと手を見るだけで何もしてこない。

何なんだコイツ?手を少しずつ下げていくと、ペンギンの顔を下がっていく。左右に動かすと顔を左右に動かす。

コイツ、ちょっと面白いな。そう思って手を下の方に下げていく。ペンギンがあの小太りっぽい身体を必死に曲げて下を見ようとしている姿が何処となく愛くるしく思えてきた。

「千夏先輩、コイツちょっと可愛げありますよ。」

「うん、何か優君飼育員みたい。」

「ですよね!」

そう言いながら下に手を付ける。すると、ペンギンが一切の躊躇なく片足を乗っけてきた。おいっ!!

「おいっ!コイツ絶対俺の事格下認定してるって!!」

俺の魂の叫びに、千夏先輩が“プッ”と噴き出すと、周りも沈黙を破ったかのように笑い声が溢れ出てきた。

察するに、多分周りは俺に気を使って我慢していたのだろうが遂に限界点を突破したのだろう。

その様子を見て満足したのかペンギンは本来向かう場所へ歩き出した。な、何だったんだよアイツ……………。

そこからは、子供達が俺を見る度に“あっ、ペンギンのお兄さん!”や“ペンギンに踏まれた人”など、ちょいちょい俺が心にダメージを受ける呼び名で呼ぶ。

その度に、千夏先輩が横で笑うのを我慢する。何、何なのよ、この罰ゲーム。

そこからは大きな水槽に大小様々な海洋生物が泳いでいる姿に圧倒されたり、イルカショーを観たりと楽しめた………と思う。

ペンギンの着ぐるみとスリーショットを撮ったりした。俺は内心複雑だったけど。横のお姉さんにも“ペンギンのお兄さん”扱いをされた時は。千夏先輩は嬉しそうだったからいいけどさ。

最後のお土産コーナーで父さん、母さんへのお土産にイルカのバンドウ君を模したクッキーを買った。ついでに千夏先輩にイルカのキーホルダーをプレゼントすると驚いた顔をして、俺に袋を差し出した。

それを受け取って開けると、何と中にペンギンのキーホルダー。それを多分渋い顔をして見たのだろう。千夏先輩が口を押さえて震えていた。

いや、もういいけどね。

そんなこんなで、2人のお出掛けが終わり、家路についた。

 

 

 

 

 

6時を少し過ぎた頃に家に着いた。優君がスッと前に出て扉を開けてくれ、入る様に促してくれる。

お礼を言ってから入ると直ぐに醤油のいい匂いが鼻を擽った。

「ただいま帰りました。」

「ただいま〜〜。」

2人揃って、帰宅の挨拶をしながらリビングに入ると、既視感を覚えるような光景が広がっていた。

キッチンに将史さんが立っており、智さんがリビングのテーブルで作業をしていた。優君がいないけど朝見た光景みたい。

「お帰りなさい2人とも。楽しかった?」

智さんの問い掛けに私は満面の笑顔で“はいっ!”と返事したけど、優君は“午後は散々な目に合ったよ………でも楽しかった。”。そう言って苦笑いなのだろうが、しながら笑う。

私はその様が可笑しくて、また笑ってしまった。 そんな私を見た優君は更に苦笑を深めた。

「そう、楽しかったなら何より!晩御飯、直ぐに出来るから順々にお風呂入っちゃいなさい。」

「「は〜〜〜い。」」

2人声が揃って返事してしまった。その事も面白くなって笑う。

もう如月家に来てから私笑ってばっかり。

「千夏先輩。今日は俺から先に風呂に入ってもいいですか?流石にペンギン臭くって。」

2階に上がりながら、今日は先にお風呂に入りたいと頼んできた。中に着ているTシャツは水族館で買ったのに替えていたけど、身体に付いた臭いがどうも気になるのだろう。

「う、うん……い、いいよ…っ、ぷっくく………。」

だ、だめっ。笑っちゃダメ。ペンギン臭いって。

「ツボに入ってますね。仕方ない……か。お先です。」

部屋から10秒と掛からずに出てきた。多分直ぐ傍に着替えを準備万端整えていたのだろう。

下へ降りていった。15分程で呼びに来てくれた。

私も直ぐに入って、テキパキと身体を洗い、直ぐに上がろうと思ったのに今日の出来事を思い出してしまい、ゆっくり温まってしまった。

「すみません、遅くなりました。」

謝りながらリビングに入ると、テーブルの上に塊肉が鎮座していた。

「うわぁ〜〜〜、すご〜い!でっかいお肉!!」

「ナイスタイミング過ぎるわ、千夏ちゃん!!」

将史さんがナイフとお肉を支えるフォークを構えていた。

「ほらほら!入刀式が始まるからこっちに来なさい!」

智さんにそう言われて席への着席を促された。

「では……参ります!!」

ナイフをスーーーッと引くと、切り口から赤みが顔を覗かせた。

“オオオ〜〜〜!!”、“美味そ〜〜〜!!”という智さんと優君の声を聞きながら、私はゴクリと唾を飲み込んだ。次々と適度な厚さに切り分けられていく。

「く〜〜〜、気持ちいい〜〜〜!この瞬間がサイコー!」

将史さんが普段の温和な雰囲気からかけ離れた様子をみせる。

それぞれの皿に盛り付けられ、多分玉ねぎをおろしたのが入ったソースがかけられて、渡された。

そして中央に置かれた鍋の蓋を開けると、湯気が溢れ出た。それが晴れると、そこにもお肉がデデンとあった。

こっちは豚の角煮だろう。ジャガイモと玉ねぎが入っているのも見て取れた。時間をかけて煮たのが分かる染み染み具合だ。

「今日はパパの肉肉肉の日です!ローストビーフと豚の角煮、気休め程度のサラダ、以上!!」

潔い宣言通りの晩御飯に圧倒される。“はい、千夏先輩”と優君に渡された大盛りご飯。

「では、「「「いただきます!」」」」

いただきますと唱和して、晩御飯が始まった。

「うっまっ!!」

「んんん〜〜〜〜〜!!」

優君と私が余りの美味しさに悶絶する。それを嬉しそうに見てる2人。それに満足したのか2人も食べ始めた。

「うん、美味い!」

「美味しいわね!」

2人がその美味しさに納得し、ビールグラスを打ち鳴らした。

ローストビーフの肉ッ!!って感じの厚さから出てくる旨味と角煮のホロホロとお箸で解せる柔らかさの中に染み込んだ甘辛いタレが強烈すぎるパンチを繰り出してきてる。

おかわりをしようと思った時に、優君がしようとしていた。私の様子に気付いたようで、スッと取り分けてくれた。

角煮とジャガイモ、玉ねぎに下に入っていたのだろう。煮卵も盛り付けてくれた。

卵を割った瞬間、中から黄身がトロリと流れ出てきた。卵を一口頬張ると、それほど煮込まれていないので普通の茹で卵みたいな感じだった。

角煮に少量の辛子をつけ、タップリの黄身を掬いつけて食べると甘辛いタレの強烈なパンチが、パンチンググローブで覆われたようにマイルドになった。

しばらくは皆が黙々と食べる時間となった。ジャガイモは染み染み、玉ねぎはトロットロに煮込まれて美味し過ぎる!

食べ終わった後は、温かい緑茶をのんびり飲みながらまったりする。口の中の脂やタレの濃い感じが洗い流されるのを感じる。

「今日は楽しめたかい?」

今日のお出掛けのきっかけをくれた将史さんが優しげに問いかけてきた。

「楽しかったよ、ねぇ?」

それに優君が楽しかったと答え、同意を求めたきた。

「うん、楽しかったです。」

それに頷いてから将史さんに楽しかったと答えた。

「そっか、なら良かったよ。また明日から勉強に部活と大変だろうけど気持ちをリセットして頑張りなさい。」

「はい、頑張ります!」「うん、分かった。」

2人同じタイミングで返事したけど、バラバラでごちゃごちゃに。それもおかしくて笑ってしまう。

そんなこんなで楽しい一日が終わった。




優のイギリス時代の話は追々いれていきます。色々と考えているので、気長に待っていてください。

アオのハコ、次の話の予定は体育祭を考えてます。

毎年あるはずなのに、漫画では触れられてなかったやつです。

間に日常回いれるかもしれませんが、そこは流れに身を任せます。

更新順はアオのハコ、銀英伝、SEEDかな?
アオのハコと銀英伝が逆になるかもですが。
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