アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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渚先輩に弟がいるのは漫画でも書かれているけど何歳かは分かんなかったので渚先輩の2つ下にしました。
晴人と同い年という設定です。

次の更新は来月半ばにしたいな………ムリかな?最低年内にもう一回は………!


来年

ゴールデンウィークが終わり、今日からまたいつもの日常が始まる。

朝のタイム走からシャワー、朝食、千夏先輩と登校し、朝練と朝の日課になりつつある過程を終えて、サッカー部の面々と部室に戻ろうとすると、監督の岡本先生に呼ばれた。

「はい、何でしょう?」

「すまんが着替えたら、職員室に来てくれ。」

急に言われたので、困惑しつつも“分かりました”と答えて、その場を離れた。

いつも通り手早く着替えて、同級生や先輩達と別れて職員室に向かう。何だろう?何かあったのかな?

「失礼します。」

職員室に入り、真ん中位にいる岡本先生の元に向かう。

「如月です。ご用は?」

端的に用件を聞くと、俺の淡々とした対応に苦笑しながら、傍にあった紙束とDVDが入ったケースを束ねたのを渡された。

「お前の入学で来年のサッカー部の特待生の枠が3人に増えることになった。お前の名声のお陰で栄明に入りたいという中学生、学校、クラブから多くの問い合わせが来ている。そこで来年の特待生を適用する生徒をお前さんが決めろ。」

急に大きな内容に困惑する。何て答えようか戸惑っている俺の様子を見てとった監督は、俺に決心させる言葉を放った。

「今年のチームは悪いが、お前におんぶに抱っこのチームだろう。練習を根本から変えたがそもそもの基礎技術が低いし、スタメン組と控え組の能力差がありすぎる。全国に行けてもトップクラスの高校と戦うにはお前が十全に能力を発揮するしかない。」

そんな事はないと言いたいが、今のメンバー編成を見てもどうしても俺の活躍ありきなチームでないと勝ち上がるのはしんどいだろう。

「来年、抜本的にチーム改革をする。お前、五輪代表狙ってるんだって?ならお前を中心に据えつつ、お前が不在の時も機能するチームの核となる選手が必要だ。」

監督の言葉を聞いたら、思わず苦笑と云うか失笑と云うか、取り敢えず笑いが溢れた。その様子を見た監督も確かにとんでもない事を言ってると思ったのだろう。

「贅沢な注文ですね。そんな選手、そうはいませんよ。」

「確かにそうだよな!」

2人で声を出して笑ってしまった。2人満足するまで笑った。

「俺の希望としては、真面目で練習熱心、攻守に渡って活躍してくれる奴がいいな。」

監督が笑いながら要望を言ってくる。それに俺は更に笑いながら付け加えた。

「それで技巧派で、献身的で、パスもシュートも上手くて、フィジカルも強い万能型なら更に良しですね?」

監督が大笑いしながら上を見上げた。そして顔を戻して一言。

「そんな奴いね〜よ。そうそういてたまるか。」

「ですね。分かりました。資料は貰ったので見てチョイスしときます。」

「ああ、よろしく頼む。それともう一つ話があってな。………ここじゃあちょっとマズイから移動しよう。」

そう言ってから立ち上がった。何だろう?ここで話すのがマズイ事って?

職員室の出口に向かっていると、監督が急に入り口付近にいる人に声をかけていた。

「おお、鹿野。すまんが少し話がある。ちょっといいか?」

千夏先輩?何で職員室にいるのかと思ったが入り口付近にある鍵箱に返却している所のようだ。

直ぐ傍の一室に3人で入った。そこに座ってくれと言われたので2人顔を見合わせてから座る。特別疚しいことはないので俺達2人は大人しく椅子に座った。

「昨日、お前さん達水族館に居ただろう?俺も子供と嫁さん連れて行っていてな。」

言われた内容に驚いて言葉が出なかった。そして横目で千夏先輩を見ると、先輩も驚いて此方を見ていた。

「ああ、いや、別に怒るとか指導するとかの話ではなくてな。まあ付き合ってるのかどうかも知らんし、隠れて付き合ってるってなってても別に俺はどうでもいいしな。ただ、お前さん達は影響力がある立場だから色々と気をつけろよって、老婆心ながら忠告しとこうと思っただけだ。」

なんだ、そういう事だったのか。一先ず安心した。そしてどうしようかと横目で千夏先輩に問うと、頷いたので話すことにした。

「実は鹿野先輩、ウチで同居しているんです。」

岡本先生は、伝えた内容に驚きの表情で“なっ!?”と言って言葉を失った。何を言えばいいのか分からないのだろう。

「母親同士が高校時代からの親友で、ウチの家族が日本に帰ってきたタイミングで鹿野先輩の家族に海外転勤の話が出たそうで、鹿野先輩が日本に残って高校生活を送りたいなら預かるって提案したそうで…………それで同居を。」

「あ〜〜〜〜〜……………やっぱ聞かなかったことにしといていいか?」

「いや、ここまで聞いたんだから無理でしょ?」

右手で顔を覆いながらポツリと一言。

「だよな〜〜〜。」

千夏先輩と苦笑しながら岡本先生の様子を窺う。

「あ〜〜〜あ。余計な事に首突っ込んじまったな。これ知ってんのって誰?」

「校長、バスケ部の顧問、鹿野先輩の担任くらいの筈です。秘密は知る人数が少ない程バレにくいって言いますから。」

「分かった。なら俺も胸に秘めておくよ。と言っても誰かに言うようなことでもないしな。」

2人揃って“ありがとうございます”と秘密にしておいてくれる事に感謝を伝える。

「もうすぐ予鈴だから早く教室に行け。如月はさっきの件頼むな。何なら今日の練習中に見てもいいぞ?」

「分かりました。なら今日ざっと見て決めます。目星はつけてあるので。」

そう言い、教室前で解散した。千夏先輩にも“じゃあね”と言われたので軽く一礼し、階段のところで別れた。

 

 

 

 

月曜日の1限目のホームルームで来週の金曜日にある体育祭の種目別参加者を決める事になった。

金曜日に体育祭をする事に疑問を持ったが、スポーツ強豪校で土日が公式戦の試合等が組み込まれる事がある為に金曜日にやる事になっているそうだ。

中高一貫の栄明ではゴールデンウィーク明けに中学は土曜日に、高校は金曜日にするそうだ。

クラス委員長の俺と島崎さんが前に出て、黒板に種目別に名前を書くスペースを空けつつ記入していく。

話し合いで足に自信がない人は、単純な脚力勝負にならない借り物競走や障害物競走、知力を競うクイズ競争、玉入れ、綱引き、二人三脚、フライングキャッチ等に参加してもらう事になった。

百メートル走、クラス対抗リレー、組対抗リレーには体育会系の足の速い人が選ばれた。

俺は百メートルとクラス対抗リレー、組対抗リレーに大喜や匡と参加することになった。

栄明の怖い所は、体育委員会委員長とクラス委員会委員長、生徒会が企画する特別種目があることだ。クラス委員長を務める紅林先輩が入って3人で種目を考えるって思ったら溜息が出てくる。なんでだろう?借り物競走のお題もあの3人が考えるんでしょ?

フライングキャッチは、フリスビーを1人が投げてもう一人がキャッチするらしい。同じ場所からスタートなのでどれだけ高く遠くに投げれるか、どれだけ早く遠くに走れるかを競うらしい。距離が直接得点になるそうだ。50メートルなら50点と。

沢先輩に聞いたけど、あれだな…………。犬のフリスビーの取ってこい!ってのみたいで、何か嫌な気持ちになる競技だな………。

「大喜、あんたここでしか活躍出来ないんだから頑張りなさいよ!」

「おいっ!ここでしかってなんだ!ここでしかって!」

「だって体を動かすしか脳がなさそうで、…………これ以上は言えないっ!ただの悪口になっちゃう!」

「もう十分悪口だわ!雛だって走る系は苦手だろ?頑張れよ。」

蝶野さんがむ〜〜〜っとしている。それにしてもあの2人は相変わらず仲が良いな。

「私は蝶野雛よ。蝶の様に鳥の様にグラウンドを横断して見せてあげる。」

フフンと自信たっぷりに宣言する蝶野さんの言葉に、隣にいる島崎さんがボソリと一言。

「鳥の雛って飛んでるイメージないんだけど…………?」

意外や意外とクラスに響いた一言だったようで、痛烈な一言にドッと沸いた。

「確かによちよち歩いてるイメージ!」

「ああ。ひよこのピヨピヨってやつ!」

「あっ!それ俺も!」「私も〜!」

ワイワイガヤガヤと騒がしくなった。

「ほらほら!うるさいぞ!静かに!じゃあ如月と島崎は紙に清書して提出よろしく。他の皆は静かに遊んでろ。」

担任の適当すぎる職務放棄に、苦笑しながら出走順を黒板と照らし合わせながら書き込んでいく。

といっても上から名前を書くだけだから5分ほどで終わった。書いた紙を汚さないようにファイルに挟んで鞄に入れておく。

「勝った組は、栄明高校食堂謹製の特製体育祭限定デリシャス焼きそばパンが貰えるって話だ。」

「めっちゃ美味いらしいぞ!」

「普通の焼きそばパンじゃあ満足出来なくなるらしい。」

「そんなに美味いのかよ!」

「それは是非喰いたい!?………如月っ!!頼むぞ!!」

幾人もの男子に迫られても、全く嬉しくない。顔近づけんな。

グイッと顔を押して、距離を取る。

「いや、そもそも頼むって言ってもウチのクラスだけじゃないし…………。上級生の成績も関与するから俺1人でどうこうできなくね?」

「確かに。」「ウチ、A組だから他の学年もA組だな。」

「誰いたっけ?」「A組なら2年は鹿野先輩、船見先輩じゃね?」「何でそこで女子が出んだよ!」「だって俺男だし!異性に興味あるし!」「加藤サイテー!!」

ドンドンとわちゃわちゃしてきたぞ。

「お〜〜〜い、また五月蝿くなってきてるぞ!」

「「「「「は〜〜〜い(へ〜〜〜い)。」」」」」

先生の注意にみんな仲良く返事をする。こういう時は息が合うのか。

「ぶっちゃけ他にいる?」「バド部の針生先輩と西田先輩は?」

「あ〜〜〜針生先輩は万能そう。」「サッカー部の沢城先輩もいるよな?」「2年は大丈夫そうじゃね?」

2年の話は一段落ついたのか3年の話に移った。

「3年は?」「紅林先輩じゃねえ?」「えっ!?あの破天荒な人もかよ!?」「まじか〜〜〜!?」「無事に体育祭終わるんだろうな?」「それな!!」

紅林先輩の人徳を染み染みと感じるよ。碌な評価が出てこないじゃないか!

そんな馬鹿話をしているとチャイムが鳴った。

「じゃあ如月と島崎、紙の提出忘れるなよ。」

「は〜〜〜い。」

返事をすると、先生は“よろしく〜”と声をかけて教室から出て行った。

 

 

 

 

 

体育館のソファーがある所で貰った資料とポータブルプレイヤーで動画を見比べながら特待希望の選手の能力を確認していく。と言ってもまだ始めたばかりだから二人目の映像を確認している最中だ。

選手の所属クラブやチームを見てもよく分かんないんだよな。日本のチームに馴染みないし。

「あっれ〜〜〜!優君じゃん!?もう練習始まるよ?サボり?」

大きな声が右手から響いてきた。まあ気配で誰か来ているのは分かっていたけど。顔を上げて確認すると渚先輩を先頭に女バスの人達が着替え終えたのだろう。体育館にやって来た。

「サボりじゃないですよ。来年の特待生の選考です。希望出してる選手のチェックをしてたんです。」

「そんな事も優君がやってんの?」

「ええ、まぁ……。監督から来年は俺を中心にチームを構成する事になる。でも俺は世代別日本代表に度々呼ばれるから俺と共存でき、俺がいなくても俺の代わりにチームの中心で活躍出来る人を希望だそうで。」

そこまで言うと、渚先輩、優香先輩、千夏先輩、他の人達も顔を見合わせた。

「いや、いね〜わ。優君ってU-21に選ばれるくらいの選手でしょ?他にいるの、そんな人?」

「いませんね、そんな人。」

「足が早くて、パスもシュートも上手くて、守備も上手くて、出来ないことはない万能型ミッドフィルダー?いね〜わ!そんなの下の年代に!ピザのトッピング全盛りみたいな選手!」

渚先輩のツッコミが炸裂してる。

「ええ。なので3人に分散して負担してもらおうと考えてます。ディフェンダー、ミッドフィルダー、フォワードの3人を獲得して俺の役割を少しずつ負担なら何とかなるでしょう?」

まあ俺も大概変なことを言ってる自覚はあるが、今年来年の目標の五輪代表に選ばれれば度々試合前合宿やアウェイの試合で長期に渡ってチームを離れることになる。

それを考えれば有能な選手を各ポジションに配するのは必要だろう。

そんな事をつらつらと考えていると、渚先輩が少し真剣な表情で質問をしてきた。

「ねえ、私に2つ下の弟がいて………中等部にいて外のクラブでサッカーをやってるの。高校はどうしようか悩んでいて、如月君はどう思う?」

渚先輩、弟いたんだ?で、進路どうするか悩んでるのか。

「来年、ウチはこの選手を取れたら可変フォーメーションを用いたりして、変幻自在に戦うことを個人的には構想しています。サッカー選手として知識や経験を積むなら良い環境だと思いますよ。ただ、選手権やインハイで優勝したいって言うなら分かんないです。」

勧めているのか、いないのかハッキリしない回答に困っているようだ。

「当然優勝を狙っていきますが、俺が抜ける時が多くなる可能性があるし、来年入ってくる奴らもU-17や19に選ばれるからチーム全体の能力が問われる時が多いかもしれないです。それを考えれば最善のチームかは何とも言えません。」

渚先輩、悩んでる悩んでる。

「栄明の中等部にいるなら最後の大会が終わってからでもいいし、暇な時にでも練習しに来ればいい。監督には話し通しとくので。多分8月に特待の推薦組も近場の奴らは練習参加する事になると思うので、そこで決めればいいでしょう。ウチに来るのか来ないのか。」

俺の進めに、渚先輩は一つ頷いた。

「分かった。弟に言ってみる。優君がそう言ってたって。」

「お待ちしています。」

話も一段落ついた。千夏先輩が皆を練習へ促した。

「さあ練習始まるよ。皆行こう。」

「頑張ってください。」

皆が思い思いに返事をするのを見ながら、応援すると“ありがとう”や“は〜〜〜い”、“うぃ〜〜〜”と色々な返事が返ってきた。

女バスの方々が去ったので続きをしようかな。後日、決めた3名にそれぞれ連絡をとり、本決まりではないけどお前達を俺は選んだと伝えた。

 

 

 

 

 

5月初めての雨で外が使えず、室内練習になった。といっても自主練になったので、レギュラー組はビデオで前の試合の反省会をするそうだ。

ボールを保持してる時のボール回しや縦パスの付け所、ポジショニングの圧縮、伸張のアドバイスを求められた。

ラインを高く保持して攻撃的スタイルで前からプレスをかけていくので、ちゃんと全体で連動していかないと躱されたらピンチを招く事になると、皆が理解しているから意見交換が活発に行われている。

サイドにボールを寄せさせて、圧縮して奪う。そして広がってボールを回して保持するのに素早い展開が必要なのを確認することは出来た。問題はそれが実戦で出来るのかって所は練習で詰めようとなった。

ミーティングを終え、筋トレに行こうとなった。サッカー部でぞろぞろ歩いていると、バレー部、バド部、バスケ部、新体操部が練習に励んでいた。

体育館奥にあるウェイトルームに行こうと通路を歩いていると、真ん中に差し掛かった所で音楽が流れてきた。目を向けると蝶野さんが演技を始めた所で、折角だし見ていこうと足を止めた。

技の名前や点数も芸術点も分からないが見事な演技だと思う。しばらくすると演技が終わった。なのでパチパチと拍手をした。詳しい事はよく分からなかったが凄かったので。

「如月君じゃ〜〜ないですか〜〜〜!?」

蝶野が楽しそうに、でもどこか思う所があるのか陰があるように見える表情で近寄ってきた。

「演技見てたんだ?どう?」

「80点!」

「いや新体操は1人20点満点だから…………。」

訂正が入った。新体操って20点満点なんだ………知らなかったな。

「なら16点で。」

「その心は?」

不思議そうに、何故と問うてきた。不満そうでないのは自分でも理解しているのか、本能的に分かっているのか、どっちだろうか?

「素人目の俺でもまだまだ伸ばせる所があると思ったし、演技が終わった瞬間の蝶野さんの表情に不満気だったし、蝶野さんってまだまだ頑張らないとダメって言われた方が頑張るタイプでしょ?」

目を大きく見開いた。多分図星か嫌な所を指摘されたのだろう。

「分かったようなことを言うな〜?」

「分かるよ。俺もまだまだ現状に満足してない。チームにも個人的技量にもね。世界で戦うのに足りない所が多すぎる。」

ハッキリと俺の考えと現状を伝えた。飢えている自分がいるんだ。

「世界か〜〜〜。流石日本代表に選ばれてる人は違うね〜〜〜。」

ニシシッと此方をからかうような調子で俺を持ち上げてきた。

「蝶野さんはトップを目指さないの?日本一を?」

「えっ!?そりゃあやるからには目指すよ。」

俺が急にトップを目指さないの?って聞くと困惑しながらも目指すと答えが返ってきた。それに頷いた。

「日本一の選手になったら当然日本代表って話が出てくる。そうなったら必然的に世界と戦う選手になる。ただそれだけだよ。」

蝶野さんに最後笑いながら話すと呆気にとられていた。

「大喜!!足使え、足を!足も振りも鈍ってきてるぞ!」

「はいっ!!」

隣のコートから厳しい言葉が飛んできた。そちらに蝶野さん共々目をやる。

「頑張ってるな、大喜。」

「うん。ほんと頑張ってる。」

蝶野さんの横顔を見てピンときた。こっちからは何も言わないけど。それよりも。

「大喜はこれからドンドン伸びるよ。」

「えっ?」

「自分がまだまだって思ってて、出来ないことを理解して改善しようと努力しているのが分かる。向上心と継続性、自己分析、のめり込む位の集中力があるのは短い期間の付き合いだけどあるのは分かった。………後は何時伸びるかだね。高校生活の間に伸びればいいんだけど。」

「意外に大喜って如月君からの評価高いのに驚き………。」

蝶野さんの不躾かつぶっちゃけた内容に苦笑した。いや俺大喜の事は前から認めてたんだけどな。

「劣等感のある努力家は、何処かのタイミングでグンと伸びる時期があるよ。俺だってイギリスに行ってサッカーを初めてやった時は、ボールを真っ直ぐ蹴るのも上手くいかなかったよ。周りと比較してどれだけ自分が下手くそだったか………。そこからヨーロッパで知られる選手になるのにどれだけ努力が必要だったかは蝶野さんも想像に難くないでしょ?」

蝶野さんの顔を見ると、怯えたような表情をして身体が後退った。やべぇな、殺気が漏れてたようで怯えさせちゃったか。

「まあ、ああやって頑張ってる姿を見ると、俺も頑張んなきゃって思うよ。大喜は本当に頑張んないと、部活に勉強、それに恋愛も。」

最後の恋愛のくだりはどうにも面白可笑しくて笑ってしまった。

「蝶野さんも、ぼやぼやしてると置いていかれるよ。」

「………だよ、ね。そうだよね。」

蝶野さんの返事を聞いて、前に一歩踏み出す決心がついたのを感じた。そっか、蝶野さんも頑張るのか。何を頑張るのかは知らんが。

「じゃあ俺は筋トレに行くよ。サボってるって思われたみたいでお迎えが来たから。」

そう言って、此方に向かって歩いてきている沢先輩を指差して蝶野さんと別れ、沢先輩の方へ歩き出した。

「如月君、ありがとう。私も頑張るよ!」

後ろからそんな声をかけられ、右手を上げて返事代わりにした。

「何してたんだ?」

側に寄った沢先輩に尋ねられた。蝶野さんの言葉が沢先輩にも聞こえていたのだろう。

「いえ、若人にお節介な助言をね。」

「いや、若人って。お前も若いだろうが。」

確かに。沢先輩のツッコミに納得しながらウェイトルームに向かって歩いていった。




来年入ってくる新入生の話と優の大喜評を入れてみました。

次の話の予定は体育祭です。お楽しみに。
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