アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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過去最長………。

次は代表戦とバド部の部内戦、大喜と雛の仲を書こうかな?

色々と練りながら書きます。次は来年になると思います。

ゆっくりお待ち下さい。


体育祭

体育祭当日もいつもと変わらず5時に起きた。

ベッドの上で大きく一回深呼吸する。大きく吸ってゆっくりと息を吐く。

よしっ、身体を起こして机に置いたジャージに着替える。部屋を出ると隣のドアが開いた所だった。

「あっ、おはよう優君。」

「おはようございます、千夏先輩。朝早いですね?」

そう。いつも千夏先輩は1時間後の6時に起きていた。6時に朝ごはんを食べて、7時前に登校して体育館で朝練がパターンだった筈。それがこんなに朝早くになんて。

「うん。今日体育館使えないから朝練出来ないし、だったらちょっと頑張って早く起きて優君と走ろうかなって。」

と言われても………タイム走だから一緒に走るのは………。なら、“少し待っていてください”そう言って部屋に戻った。

直ぐに戻ってきて手に持っていたのを差し出した。

「これをつけてください。」

そう言ってスマートウォッチを渡した。

「えっ、いいよ。」

当然遠慮するが千夏先輩の手を取って取り付けた。

「タイム走するので30分でどれくらい走ったか、心拍数や走行距離、消費カロリー、走行速度何かが分かるので。」

「でも………。」

尚も遠慮する千夏先輩に伝えた。

「なんの為にタイム走をするのか分からなくなるので、付けてください。」

「……分かった。優君って意外と頑固っていうか強引だね?」

「父さんや母さんがただランニングするなら言わないですよ。でも俺も千夏先輩も部活をやってて相応の結果が求められる立場にいます。ならランニング一つとっても色々と効果がある方が良いと思うだけですよ。」

「うん、なら使わせてもらうね。」

「ええ、ここに身長、体重、性別何かも登録できるのでしといてください。飲み物とかタオルの準備をしておくので。」

そう言ってその場を離れた。流石に男の俺に体重とかは知られたくないだろうし、30分のタイム走を初めてするのはしんどいのは分かっているから準備出来るものは準備しておこうと思った。

「お待たせ。」

準備が終わり、そろそろ行きましょうかと声をかけようとしたタイミングで声がかかった。

「こっちも準備終わりました。行きましょうか。」

そう言い、2人連れ立って直ぐ傍の公園に向かった。

近くの公園にある池の外周をいつも走っている。

「30分でどれだけ走れるかを測るので、時間一杯で少しでも長い距離を走ってください。」

説明しながらウォームアップをすすめていく。お互いに準備が出来たのでスタートをする。

流石に男女の体力差、ストライドの差、速度差で差が出来ていくが、後方で必死に走っている気配は感じる。

周回遅れになるかと思ったが、ギリギリ抜くことが出来なかった。

タイマーを止め、距離を確認するとギリギリ10キロを越えていた。ハァハァゼェゼェと荒い息を吐きながら、呼吸を少しでも整える。千夏先輩もゆっくりゆっくりと歩きながら戻ってきた。

傍にある袋から家にいつもストックされているスポーツ飲料を渡した。

「あ、ありが…とう。」

ハァハァと息を乱してもお礼を言うところに性格が出ているな。

「いえ。かなりしんどいでしょう?」

「う、うん。優君に周回遅れにされそうになったし………。」

「十分ですよ。俺は周回遅れになるだろうなって思ってましたから。さて帰りましょう。シャワー浴びて朝ごはんにしましょう。」

そう言ってタオルを渡して、汗の処理をしながらのんびり歩いて家に帰ろうと促した。

「あっ、こんな所にバスケのゴールがあるんだ?」

「ん?ああ、そうですね。ストリート用ですが。」

ランニング目的で、ここの公園に来ていたので知ってはいたが使ったことのないバスケットのゴールに興味を持っていなかった。

「ならさ、朝ごはんを食べたらここで1on1しよ!」

「いいですよ。また敗北の味を馳走しますよ。」

少し斜に構えた言葉を投げかけると、一瞬ポカンとしたがすぐにクスクスと笑い出した。

「わざと言ったんだろうけど、……堂に入ってて似合う。」

褒められてるのか分からないので、苦笑いするしかない。

「それって褒められてるんです?」

「う、うん。エリートの上から目線って感じでここで負けたら恥ずかしいんだろうなって思ったら…………。」

まだ千夏先輩はクスクス笑っている。どうもこの感じ、勝つチャンスがあると思ってるっぽいな。

「もしかして父さんか母さんに俺がジャンプシュート入らないの聞きました?」

俺が核心を突いた質問をすると、千夏先輩素直なのかギクッって顔を一瞬して固まった。その様に今度は俺がクスクスと笑ってしまった。

「全く、正直過ぎるのも問題ですよ?」

俺の指摘に照れるように笑う千夏先輩。悪戯が見つかったような感じで笑っている。

そんな話をしていると家に着き、シャワーを浴びてから朝ごはんにした。それからバスケットボールを持って、また公園に戻った。勝ったり負けたりを何度も繰り返していると、段々白熱してきて、のめり込んでいった。

そこから1on1を夢中でやっていると叱責の声が直ぐ傍から飛んできた。

「あんた達!何時までやってるの!もう8時過ぎてるわよ!」

母さんが何時まで経っても帰ってこない俺達を呼びに来たようだ。8時過ぎって!?千夏先輩と顔を見合わせた。千夏先輩の顔が引き攣っている。多分俺の顔もだろう。まずい!

バッと傍にあった荷物を引っ掴み、家に急いで走って帰った。

「千夏先輩は2階のシャワーを使ってください。俺は1階のを使います!」

「分かった!」

家のドアを開けると入り口付近に出勤前のピシッとしたスーツ姿の父さんが立っていた。

「ほら急げ急げ。遅刻するぞ。」

からかい混じりの警告をしてきた。

部屋に戻って制服一式を抱えて1階の風呂場に駆け込んだ。そこから頭、身体と上から順に綺麗にしていき、バスタオルで拭き上げ、制服を着ていく。

そして2階の部屋に置いてある体操着の入った袋を抱えて部屋を出た。その時、2階のシャワー室から千夏先輩が出てきた。

「優君、先に行ってていいよ!」

千夏先輩が俺を気遣ってそう言ってくれるも、流石に一緒にバスケやってて片方セーフで片方遅刻っていうのはどうも俺のプライド的に許せない。

先に下に降りて、弁当を鞄にしまい水筒に飲み物を入れる。準備が終わった時に千夏先輩が降りてきた。

弁当と水筒を渡して鞄に入れる様に促した。

「「行ってきます!」」

リビングの入り口で腕を組んで俺達がバタバタするのを眺めていた母さんが、“気を付けて頑張ってきなさい”との声を聞きながら家を飛び出た。

千夏先輩の荷物をヒョイっと奪い取り、“急ぎましょう”と声をかけた。

“に、荷物!自分で持つよ!”と声をかけてきたが、あんだけ1on1をしてヘロヘロになっていたんだ。下駄箱まで持つと伝えると大人しく俺について来てくれた。

いつも朝早くに挨拶する警備員のおじさんに、“今日は2人して、えらいギリギリだな”と言われながら横を駆け抜け、玄関口に到着した。フゥフゥと息が軽く乱れているのを整えながら少し後ろを走っていた千夏先輩を待つ。

到着すると荷物を手渡した。自分の靴箱に行き、急いで履き替え、千夏先輩と一緒に階段を一段飛ばしで登っていく。2年生は3階、1年生は4階だから3階で千夏先輩と別れる。

「じゃあここで。また後で会いましょう。」

そう言って後にした。

「うん。また後で!」

千夏先輩の声を受けながら自分の教室に急いだ。

シャカシャカと足を動かし、教室に向かう。教室に入ると同時にチャイムが鳴った。

「セーフ!」

間に合ったと思ったら担任から注意が入った。

「如月、セーフだがギリギリだな。もっと余裕持って登校しろ〜。」

「は〜〜い。」

素直に返事をしながら席に着いた。

「よし、今日知っての通り体育祭だ。皆も分かっているとは思うが優勝チームには特製焼きそばパンが提供される。なので意地でも1位になれ!俺も食いたい!」

担任の懇願にクラスはドッと湧いた。

「先生も貰えるのかよ!!」「先生も欲しいんだ!」「当たり前だろ!あれ食ったら他の焼きそばパンがショボく見えんだよ!」「マジか!!」「本当の話だったんだ!?」

ワイワイガヤガヤと騒がしくなる教室。

「如月!猪股!頼むぞ!俺の焼きそばパンの為に!!」

おい担任!自分の為かよ!

「頑張りま〜す。」「は〜〜い……。」

俺も大喜も熱量満載の周囲に押され気味で返事をするしかなかった。

男子は教室で、女子は更衣室で体操着に着替えてグラウンドに出た。大喜と匡、サッカー部の横川の4人で歩いている。

「イギリスって体育祭あるの?」

「あ〜〜〜、そもそもイギリスって年中天気悪いからこういった行事を外でやるってあんまりないかも?俺の通ってたスクールは屋内球技大会をやったかな?種目は卓球、バレー、フットサル、バドミントン、バスケくらいかな?」

「へ〜〜〜外ではやんないんだ?」

「ああ、突然雨が降るから晴天のイベントは企画しづらいんだ。生徒や保護者が雨に濡れて風邪を引いたら困るから学校としてもやりたくないみたい。」

匡の質問に考えながら答えていると赤組の集合場所に到着した。

「きさ〜〜らぎ〜〜。部活対抗リレー、アンカー頼んだ!」

着いて早々に紅林先輩を見つけたから挨拶しようとしたら、とんでもない事を頼んできた。

「ファッツ!!えっ、俺アンカーっすか!」

「おう、頼んだ。」

軽っ!ちょっとした用事頼むくらい軽い。

「優勝したら食堂のトッピング全乗せうどんorそばが食える。サッカー部の命運を君に託す。」

「部長なんですから自分でやってくださいよ。」

両肩を掴まれて一言。

「お前が一番速いから頼む。」

痛い痛い。肩をギュッと力強く握ってくる紅林先輩。

「分かりました。分かりましたよ、アンカーやればいいんでしょ!」

「そうか!快く引き受けてくれるか!」

無理やりのくせによくもまぁぬけぬけと。

今年からサッカー部のピッチを使ってする事になったのでピッチの周囲にテントや機材が準備され、生徒の待合所も作られている。

大喜と匡は針生先輩達の所へ挨拶しに行ったみたいだ。俺も側にいる沢先輩に挨拶しに行くか。

「おはようございます、沢先輩。」

「おう、おはよう。如月今日は頼むぞ。」

そんな会話をしていると体育祭が始まった。最初の競技の準備がされているグラウンドを見る。女子の玉入れが始まる。

始まると赤組がどんどんリードを広げていく。千夏先輩、渚先輩、優香先輩がすぱすぱと玉を入れていく。そのままぶっちぎりで1位に輝いた。

赤組にとっては幸先の良いスタートを切ることが出来た。次は男子の二人三脚。帰ってくる赤組女性陣を出迎えながらグラウンドに目を向けると、スタート地点に仁王立ちしている紅先輩がいた。

「お疲れ様でした。凄かったですね。」

千夏先輩や渚先輩、優香先輩が近くに来た時に声を掛けると、“ありがとう”とお礼返してくれ、グラウンドに目を向けた。

「紅林先輩か。相方は野球部のレギュラーだね。こりゃあ勝ちかな。」

渚先輩の呟きに千夏先輩も優香先輩も賛意を示した。俺はそれにどこか懐疑的に見ていた。

「何?優君は気になる所があるの?」

「いや、まあ、気になるっていうか。紅林先輩って変な所ありますから不安が………。」

口籠る俺に女子3人が顔を見合わせた。いや、俺の心配のし過ぎではあるんだけどね。

「何か気になるの?」

千夏先輩が近寄って聞いてきた。

「いや、ん〜〜〜、たまに紅先輩ってズレたこと言うんです。サッカーでも。だから………。」

紅林先輩が相方と話している。そして相方が互いの足を結んだ方をパンパンと叩いた。ああ、こっちの足から動かそうって合図か…………。

一走目が並び、スタートの合図を今かと待つ。ピーーーという音とともに一斉にスタートした。皆がいちっ、にっ、と掛け声をかけて走っていく。その後方で地面とキスしているペアが一組。それが分かった瞬間大きな溜息が出た。

「おまっ、こっちの足からだっつったろ!」

「だから左足を出したろ!?」

「馬鹿かお前!?二人三脚でおんなじ足を前に出せるか!!」

男2人がスタート地点から1メートルも前に出てない所で口喧嘩をおっぱじめた。

「どう考えても結んだ方の足からって意味だ!」

「お〜〜〜い、お前ら。喧嘩はいいからさっさとスタートしろ〜〜〜。」

スタートの合図を鳴らした先生がスタート地点で未だにごちゃごちゃしている2人に注意が入った。

2人が慌ててスタートした。軽快に走る2人の速度は速く、これなら1位も夢じゃなかっただろう。皆がゴールした後にスタートしなければ。

俺が女バス3人衆に肩を竦めてみせると、3人が何とも言えない渋い顔をした。

 

 

 

 

 

 

次は百メートル走。男女が各学年ごとに5人ずつ走る。

1年生の男子から女子、2年、3年と順番に走っていく。

先頭には、優君がいる。1年生で一番目立つから声援も一際大きい。

「如月く〜〜ん!頑張って〜〜〜!!」「如月〜〜〜!頑張れ〜〜〜!」「如月く〜〜〜〜〜ん!」

赤組の仲間の応援は勿論、他の組の女性達からも黄色い声援が飛んでいる。

「いや〜、如月君人気だね〜。」

渚が優君が周りから声援を受けている状況を見て、声を漏らす。優君は顔の前でパンパンと手を叩いてから声援に応えるように手を上げる。

するとキャーーーと歓声が上がり、女子が色めき立った。

各色の代表がスタート位置についた。

音が鳴ると同時に駆け出した。優君がグングンと速度を上げてリードしていく。ゴールする寸前にサッカーのゴールパフォーマンスの手を斜め下に広げながらゴールテープを切った。

「はえ〜〜〜な、おいおい。」

渚が感嘆の声を漏らした。確かにぶっちぎりで1位を獲得した。女子達が騒ぎ立つのも無理はない。智さんに似てクール系の顔立ちに、将史さんの柔らかい雰囲気を纏っているのに勝負事となると現役の時の智さんとそっくり真剣な顔を覗かせる。

「いや〜ホントに優君って優良物件だよね。狙っちゃおうかな?」

渚と反対側にいる優香の声に反射的に驚いて顔を凝視した。

「だって運動神経良くて、頭も良くて、語学も堪能、サッカーじゃあ世界レベルの有望株、母親はバスケの森川選手、顔も美形だし、身長も75くらいはあるよね?」

「まあ、針生とおんなじくらいだからそれくらいはあるかな?」

「それに筋肉ムキムキなのにスラッとしてるでしょ?私、細マッチョがタイプなんだよね。」

そ、そうだったんだ……………。

「いいよね、千夏?」

優香が私に尋ねてきた。

「い、いいよねって、何で私に…………?」

「だって千夏が一番仲が良いから。一応確認しておこうかと思って。」

確認って………私と優君はそんな関係じゃあ……………。

「優君お疲れ様〜〜〜!」

渚が帰ってきた優君に労いの言葉をかけた。多分、この場の固まった空気を払拭するためだろう。

「優君お疲れ様。」

渚や優香とハイタッチをしている姿を遠巻きで見守るしか今の私には出来ない。

初めての体育祭らしく楽しんでいるようだ。遅れてやって来た沢城君も輪に加わって楽しそうに話している。

「んじゃ、私達もそろそろ行ってきます。」

渚の合図で赤組2年代表に選ばれている私達も移動しようと促された。

「千夏先輩、頑張ってください!」

優君がわざわざ近寄って手を掲げてくれた。それを見た私は嬉しくなった。

「行ってくるね!」

そう言って手を力強く叩いた。優香との事は取り敢えず後で考えよう。今は優君に応援されたんだし、百メートルを頑張らないと。

 

 

 

 

 

午前のプログラムが取り敢えず終わった。綱引き、障害物競走が。問題は同じクラスの山内が障害物競走で足を捻ったそうで、午後一のフライングキャッチに参加出来なくなったことだ。相方の匡が大喜を指名するも大喜は大喜で次の借り物競走に参加するから俺にお鉢が回ってきた。

「んじゃ匡、よろしく頼むよ。」

「よろしく優。で、俺はどうすればいい?」

「高く遠くに投げてくれれば、後はこっちで何とかするよ。」

「分かった。高く遠くだな?」

2人揃って競技の場所へ向かって行った。

『さあ〜〜〜午後の最初の競技。フライングキャッチ!』

紅林先輩が司会進行を楽しそうにしている。あの人、最後のリレー系まで出番ないから暇なんだろうな。

『ルールは簡単。ここに曳かれた線から1人がフリスビーを投げ、もう1人がそれを走ってキャッチ!その距離を得点として加算します。さあ〜元気にキャッチング!』

楽しそうに胸元でガッツポーズまでしてるよ、あの人………。

何組かが挑戦するも、長い距離を狙って失敗か短い距離での加点かフリスビー自体がどっかあらぬ方向に行く。その3パターンだ。

『さあ次に挑戦するのは山内、笠原ペア……だったのですが山内が負傷により如月がピンチヒッターで参戦!』

紹介も終わり、スタート位置で準備する。開始の笛が鳴り、匡が要望通り、高く遠くにスローしてくれた。

体感では結構走った。斜め前を飛ぶフリスビーを見ながらギリギリ届く所で前にジャンプして掴もうとした。

その時、一際強い風が吹き、フワリとフリスビーが上昇した。

ちょちょちょちょちょ、かっこよくキャッチの場面だろ。フワリと浮かんだフリスビーを追う。

一度浮き上がったものの、力なく落ちてくる。それをスライディングしながらギリギリの所で胸元に抱えた。

いや、マジでギリギリ。疲れた………。予想以上に走って疲れたので体を倒して息を整える。

『ナイスキャッチ!では早速計測。………得点は54点!』

紅林先輩の実況を聞きながら、いつまでも倒れているわけにもいかないから起こして立ち上がる。

『如月。この点数の感想は?』

近くに来ていた紅林先輩からインタビューをされる。ほれっ、答えろとマイクを向けてくる先輩に苦笑するしかない。

「匡…いや、ペアの笠原君がジャストの位置に投げてくれたからです。近くもなく遠くもないベストの場所に真っ直ぐ投げるのが難しいフリスビーで投げてくれたからですよ。称賛されるなら彼です。」

マイクを持つ手を押して、もういいでしょうとその場を離れた。

匡が歩いて来ていたので、拳を差し出すと匡が拳を合わせてくれた。

「ナイスキャッチ。」

「匡の方こそ、ナイススローだったよ。」

2人肩を並べて赤組の場所に戻りながら褒め合う。

戻ると大喜や横、蝶野さんや島崎さんとハイタッチしながら喜び合う。いや〜こういうの楽しいよね。

針生先輩、西田先輩からもお祝い代わりに頭をバシバシと叩かれる。沢先輩も喜び過ぎの西田先輩を宥めながら手を掲げてくれる。それにパチリと手を叩く。

渚先輩と優香先輩からも凄かったやナイスキャッチとお褒めの言葉を頂いた。

あれっ?千夏先輩は?と思い、周りを目だけで見ると少し後方にちょこんと立っているのを見つけた。

飲み物を取りに行くついでを装って、傍に行き声をかけた。

「千夏先輩、どうかしましたか?」

「えっ!?ううん、なんでもないの。」

どこかぎこちなく返事をする千夏先輩を不審に思いながらも、これ以上深く探るのもと思い、次の種目に出る千夏先輩を応援することにした。

「確か、次の借り物競走に出るんでしたよね?頑張ってください。」

そう応援すると、一瞬ポカンとしたがすぐに嬉しそうに笑う。

そのいつもの向日葵が咲いたような笑顔を見ることが出来るだけで俺もホッとして嬉しくなる。

「うん、頑張ってくるね!そうだ、優君さっきはナイスキャッチ!凄かったよ!」

そう俺に言って去っていった。ニヒッと笑って去って行く先輩を見ながら思った。ああ、彼女を好ましく思っている自分がいるって。これが恋愛感情かどうかは分からないし、ハッキリしないけどああいった姿を見せてくれて、嬉しく思っている自分がいる。

いつかこれが恋なのか愛なのか思慕なのか感情に名前がつくのかもしれない。それまではそっと大事にしておこう。

借り物競走へ向かって行く千夏先輩を見ながら思った。

 

 

 

 

 

借り物競走の出走場所へ向かいながら優君と仲良く話をする優香を見て、どこか面白くない感情があった。

友達の恋を応援したい気持ちはある。でもその相手が優君って所に引っ掛かる。

真面目で優しくて、勉強熱心でサッカーも凄くて年下でも尊敬できる人だ。

好き、…………なのかな。私、優君の事が………。でもまだ会って半年だし、彼の事をそこまで詳しく知らないし、どうしたらいいんだろう………。

肩をポンッと叩かれて我に返った。

「どうしたの千夏?ボーーーっとして?」

あかりがいつの間にか側にいて肩を叩いたようだ。

「ううん。なんでもない。借り物競走、頑張らないとね。」

「だよね〜。あ〜〜何借りる事になるんだろう?紅林先輩が借り物考えたんだって。不安しかない。」

溜息混じりの言葉に私も笑うしかなかった。確かに紅林先輩が借り物を考えたなら不安しかない。一体全体何が書かれているのか。

第一走目がスタートした。

『さあ〜第一走目がスタート!サッカー部の沢城が一番に到着。紙を封筒から取り出して開ける。他の走者も到着、紙を開ける〜〜〜!沢城選手、一歩も動きません!何が書かれてあるのか〜〜〜!?他の選手達は動き出しているぞ〜〜〜!!?』

何が書かれてあるのか分からないけど、一歩も動かない沢城君を不思議そうに見ていると、やっと走り出した。

教員用のテントに向かって行く。すると最前列にいる人に声を掛け、何度も頭を下げている。そして下げられて人が苦笑しながら立ち上がり、2人揃って走り出した。

他の選手の借り物が中々に持ち運びが大変なのもあり、沢城君が一番にゴールした。その沢城君に紅林先輩がマイクを向ける。

『沢城選手。借り物は何でしょうか?』

『え〜〜〜、“学園で一番偉い人”です。』

『それで誰を借りましたか?』

『学園長をお借りしました。』

『お題、オーケーです。一番おめでとうございます!』

紅林先輩は言うだけ言って次にゴールした人に向かって行く。沢城君は学園長にペコペコと頭を下げて感謝しているのが見えた。何か哀れすぎる…………。

2番目の人は綱引きで使った大縄。かなり重いだろうな。

3番目は玉入れに使った籠。これもデカくて重い………。

結構ハード系な借り物だな。次々と男子の借り物競走が終わっていく。借り物は物か人で、人は教員や生徒、借り物は競技に使った物や設営された場所にあるものが中心になっており、難しいのと簡単に借りれる物の半々になっている。

人のお題は、尊敬する先輩、後輩や同級生、対象の部活動の人、担当科目の教員、厳しい先生など簡単な人からチョイスに悩むものまで、多岐多様になっている。

私………何になるんだろう…………。

『さあお次は女子の部門。借りる物が変わります。体力系は減り協力系を多くしています。第一走目は陸上部の池さんにバド部の高橋さん、バスケ部の鹿野さんと各部のエース級が勢ぞろい。白熱した勝負が見れそうだ!』

煽るような言葉を言われながら準備する。

そして笛が鳴り、一斉にスタートした。ほとんど同時に封筒を手に取る。中を開け、紙を取り出す。中に書かれたのを見て固まってしまった。

一瞬逡巡するも動き出した。赤組の方に向かって走る。そして。

「優君!!」

優君に手を差し出しながら声を掛ける。

優君は一瞬ポカンとしたが、“あ、はい”と言い、立ち上がり私の手を取った。

そして、“行きましょう”と声を掛けてくれ。手を繋いで走り出した。私の走るスピードに合わせながら走ってくれる。気遣うようにチラチラと私の様子を窺ってくれる。そういった小さな些細な気遣いが嬉しい。

そして一番に揃ってゴールテープを切った。

 

 

 

 

 

 

ゴールに向かって走る2人を見ながら隣にいるのに話しかけた。

「で、あんたどこまで本気なの?」

チラリとこちらを見て、視線を戻した。

「結構本気。理由はさっき言ったので大体本当の事だし、ワンチャン玉の輿だし。」

本気なのか千夏をからかい目的か焚き付ける目的か判然としない。どれだろう?

『鹿野選手、とりあえずゴ〜〜〜ル!!さて、お題を確認します。………お題は何でしょうっか?』

『えっと、………“気になる人”です。』

『おっと〜〜〜、これは色々な意味でも気になるお題だ〜!!どういう意味で気になるのかお願いします。』

周りの男子だけじゃなく他の色の組の男子も色めきだった。ちーが男子を気になると言っただけで、この有様だ。全く罪作りな女の子だこと。

『えっと、高校生年代よりも上のカテゴリーでも日本代表として選ばれている秘訣なんかがあるのか気になってて、教えてもらえないかなって…………。』

『残念!恋愛の方じゃないのか〜〜〜!?』

あからさまにガッカリした口調の紅林先輩。明らかに面白がっている。

『えっ!?いや、私なんかじゃ………その優君の……相手は…その…………。』

まあ、この感じをみるに恋愛まではいってないけど気になる相手にはなっているのか。恋愛初心者のちーがどうなるのやら。

『さて如月。鹿野さんからの質問に答えをどうぞ。』

これ以上の深入りは色々と問題が出てくるとみたのか、話題をサッと変える。この辺りは流石は紅林先輩。

『練習の量と質、それを両輪として長く励んできたからと答えておきます。』

『ほう、量と質ですか。』

『はい。イギリスに行ってから始めたサッカー。入ったクラブは誰でも入れるけど一定期間で成長の見込みがないとクビになる世界有数のビッグクラブの下部組織。どれだけ頑張らないと頑張り続けないといけないかは、皆さんも想像がつくと思います。それをずっとしてきたってことです。』

周りから音が消えた。静寂が場を包んだ。本人からリアルな情報を聞き、その内容を想像できたからだろうが皆が口を噤んだ。

本人の才能もあるのだろうが、途方もない研鑽の果てに至った頂を実感した。

私達の頑張りは、如月優の頑張りと格段の差があるのだろう。

全国出場と全国制覇という目標の差なのか……

『いや、あんまり真剣にとられても……困るんですが。皆実力も違えば立場も違う。目標も違えば環境も違うんです。そこは自分、チームで答えを出せばいいんじゃないでしょうか?』

『何か深い話になって私も周りも困っています。』

『自分で振っといて………なんなんすか、それ。』

『ま、いっか。お二人お題クリアです。1位おめでとうございます。』

さっきまで深い話をしていたのに、あっさりと締めて次に行こうとする。この嫌な空気を読まずに流すように次へ移る所は、やっぱり上手いの一言。

2位のお題と選んだ借り物の説明を聞きながら、こっちに仲良く肩を並べながら戻ってくる2人を見て思った。少しはあの2人進展するのかどうなのか。

 

 

 

 

 

 

残すは2つの競技。部活動対抗リレーと組対抗リレー。

文化部は終わった。意外や意外、男子は軽音部、女子は美術部が優勝した。

これから女子運動部の決勝リレーが始まる。

やっぱり陸上部が速く、追い縋るもギリギリでゴールテープを切られた。5人一組で半周4人、一周1人の3周のリレーで最後の走者が1位を譲らず、そのまま負けた。

予選が女子男子の順番に行われ、次が男子の決勝レースになる。陸上部、野球部、バド部、サッカー部、バスケ部の5人一組で行われる。

始まった。足の速い人が選ばれただけあって5人が団子状態で競り合っている。優君は屈伸をしたり足を伸ばしたりしてる。緊張なんてしていないのか談笑しながら準備をしている。

第4走者にバトンが繋がった。バド部は針生君が、サッカー部は紅林先輩が走っている。バド部、サッカー部、野球部、陸上部、バスケ部の順に列が連なっている。

針生君が2位のサッカー部との差を広げていく。アンカーにバトンが繋がる。

遅れて紅林先輩から優君にバトンが繋がった。あちらこちらから応援に歓声が飛ぶ。

「優君頑張れ!!」

私も思わず手を口にやって叫んでいた。

グングンとスピードを上げていく。半周でバド部部長の真後ろにピタリとつく。最終コーナーを終え、最後の直線で直ぐに並び追い抜く。優君がゴールテープを切った。

流石の優君も疲れたのだろう、座り込んでいる。サッカー部の人達に囲まれて揉みくちゃにされている。そして何故か胴上げされている。凄く恥ずかしそうに嫌そうにしている優君の姿に笑ってしまう。

次は組対抗リレーだ。1年女子からスタートして男子、2年女子と繋いでいく。つまり優君から私はバトンを受け取ることになる。優君が私の傍に来た。

「次のリレー、1位で千夏先輩にバトン届けます。」

「うん、待ってる。」

「頑張りましょう!」

そう言って手の平を掲げる。パァーンと気持ちいいくらいの音を鳴らした。

組対抗リレーが始まった。1位女子が混戦の3位で優君にバトンを渡す。女子は半周、男子は一周のリレー。3位でバトンを受け取った優君は半周で1位に躍り出ると、後続をグングンと引き離していく。優君が最後のストレートに入ると少しずつ走り出し、バトンパスをする。

「「優君!(千夏先輩!)」」

パシッとバトンが渡った時の音がなり、握り締めて走る。

針生君にバトンを渡し、3年生が作ったリードを守り1位を獲得した。

優君がいるゴール付近でリレー参加者皆で1位を喜んだ。これで総合優勝も決まった。

その後は、結果発表と優勝チームに特製焼きそばパンの配布、後片付けと全て終わったのは6時を回っていた。

私はいつも通り、優君と待ち合わせ場所で合流して一緒に帰宅する。

智さんから“お疲れ様。お風呂沸いてるから順番に入りなさい”と促される。私、優君の順に入り、リビングに行くとお疲れ様会として焼き肉が準備されていた。

朝練から体育祭とハードなスケジュールでお腹ペコペコだ。

焼き肉屋さんみたいに色々な種類のお肉が大量に用意されている。優君も嬉しそうに笑っている。

 

 

 

 

 

晩御飯を食べ、まったりタイムも終わり、そろそろ寝ようかとなった。千夏先輩と2階に上がる。

それぞれの部屋の前でいつも通りに就寝の挨拶をする。

「お疲れ様でした。千夏先輩、お休みなさい。」

流石に今日は心身ともに疲れた。いつもなら直ぐに返してくれる千夏先輩が黙り込んでいる。何かあったのかな?気付いてないのかと思い、話しかけようとした時に此方を向いた。

「…………今日、優君カッコよかったよ。お休みなさい。」

早口で言うだけ言うと、直ぐに部屋に入っていった。声をかけようとした時には、もう扉が閉まっている。

不意打ち過ぎる。それにあんな顔をされると嫌でも意識するだろう。ゴンッと扉に頭を打ち付けてから俺も部屋に入る。

何か更に疲れた。さっさと寝よう。

体育祭の後に友人2人の関係性が微妙に変わった事を後日知った。

 

 

 

 

「大喜が好き。」

「えっ?」

「私。大喜の事が好きなの。」

「えっ、あ…の…それって……恋愛的な?」

「そう。恋愛的な。」

体育祭の後に、雛から少し話があると言われて少し離れた公園に行き、並んでブランコに乗っていると唐突に言われて驚いた。

色々な感情が混ざり合い、なんて言えばいいのか全く分からない。大層複雑で変な顔をしていたのだろう。雛から指摘されてしまった。

「予想外過ぎて困惑してるのと、告白されるのは人生で初めてだから正直照れる。」

いきなり過ぎてどう返事をしようか分からず戸惑っている。

「大喜が千夏先輩の事が好きなのは知ってる。今すぐ返事を貰ったら振られるのは分かってるからいらない。」

横でブランコを漕いでいる雛を見詰める。

「でも伝えないと、今の関係から何も変わらないと思ったから。これからは大喜の事を好きな1人の女の子として見てほしい。」

「…………………。」

あまりに真っ直ぐに、裏表なく屈託なく笑う雛を可愛い、綺麗だと思った。言葉を失って何も話せない自分と雛は互いの顔を見つめ合うしかなかった。

「じゃあ伝えたい事も伝えたし、帰るね。」

「えっ!?」

「私の告白、噛み締めながら帰ってね!」

バイバ~イと手を振って去っていく雛を呼び止めようとするも、なんて声をかければいいのか分からず口をパクパクするしか出来ず見送った。

ガシャンとブランコに座り込んだ。

「はぁ〜〜〜〜〜。どうすりゃいいだよ。」

大きな溜息を吐いた。母から早く帰ってこいと連絡がくるまでグルグルと思考の樹海に迷い込んでいた。




漫画より雛ちゃんの告白を早くしました。優の頑張れ、頑張んないとの言葉に、何故かそっち方面で触発されちゃった。

次の更新は間違いなく銀英伝、SEED、アオのハコとなります。

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