アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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ダメだ、銀英伝のペンが乗らない。

書いては消し、書いては消しの繰り返し。

なのにアオのハコはスラスラいけるという不思議。

しばらくはペンの乗りに任せていきます。

すんません。


部内戦

月曜日の朝一の授業は全校朝会なった。

どうも校長、教頭が俺の日本代表をみんなに紹介したいようで体育館に全校生徒が集められた。

「え〜〜〜、この度我が校の如月優君がサッカーU-20日本代表に選ばれました。」

校長の俺を褒める言葉がダラダラと続く。面倒だけどこういった事も一つ一つしっかりやるのがプロフェッショナルだよな。紹介が終わり、壇上へ上がるように促された。階段を登り、校長がさっきまで立っていた場に立つ。

「如月です。今回日曜日と水曜日にある親善試合のメンバーに選ばれました。オランダ、ベルギーと今年の始めの欧州遠征で対戦した相手で、遠征では1勝も出来ず、非常に悔しい思いをしました。その時の悔しさを晴らす為にも頑張ってきます。」

前にいる生徒を見て、一呼吸置いた。

「両方とも夜にテレビで放送されますので、是非時間があれば応援よろしくお願いします。」

頭を深く下げて礼をする。拍手が起こって数秒で頭を上げる。

壇上から下がる時、大喜達の場所は分かっていたけど直ぐ後ろの方に千夏先輩がいるのを見つけた。

これほど大勢の人がいるのにまさか見つけられるなんて。それに目が合うなんて。おかしくて笑ってしまう。千夏先輩も笑っている。先輩が応援してくれているんだ。しょうもない試合、プレーは出来ないな。

今はただ、最高の相手と最高の試合を痺れる試合をしたい。その時が待ち遠しい。

 

 

 

 

他クラスの人に声を掛けられていた優がクラスに入ってきた。クラスメイトにも応援の言葉をかけられている。ありがとうと感謝の言葉を返しながら、此方に来た。

「優、試合頑張ってね。家族で応援してる。」

「ありがとう匡。俺、負けっぱなしは嫌だからさ。次は勝たないと。」

目がメラメラと燃えているような感じだな。漫画なら火が描かれるんだろうな。

「俺の事より………こいつだよな。大喜、どうしたんだ?」

「さぁ?今日の朝練もこんな調子だったよ。スマッシュ空振って針生先輩に怒られてたし。」

大喜の朝の様子を伝えると、何とも言えない渋い顔をして苦笑している。

「おかしくなった原因は?」

「多分だけど………いや、十中八九そうなんだろうけど蝶野さんが関係してるのは間違いないだろうね。」

肩越しに蝶野さんの方をチラリと見てから優に視線を戻すと、優も目だけで確認してから此方に向き直った。

「だろうね。蝶野さんはいつも通りだけど大喜がチラチラと確認して、明らかに不自然だ。体育祭までは何も変わりなかったから、その後だろうね。」

優の考察は流石だな。よく周りを見ている。まあ大喜が分かり易すぎるだけだろうけど………。

「男3人な〜に話してんのっ!?」

蝶野さんがやって来た。大喜をチラッと見てから俺達に目をやる。なんか分かると、こんなに分かりやすい2人もそうはいないよね。

「蝶野さん、大喜に告白でもした?」

「「えっ!!?」」

優、ストレート過ぎ。2人がびっくり仰天してる。

「な、何でそれを………!!」

大喜はテンパって認めてるし、蝶野さんは口をパクパクするしか出来なくなってる。

「いや、大喜が上の空で蝶野さんをチラチラ見てたからそうかなって。匡、言わないほうが良かった系?」

「だろうね。」

「ふむ………、まあ結局は2人の問題だからしっかり考えて答えだしなよ。」

大喜の肩をポンッと叩いて席に戻ろうとしている。場を荒らすだけ荒らして帰るなよな。

「じゃあ俺も。」

そう言って俺もその場をそそくさと去った。

 

 

 

 

 

いつも通り教室で大喜、匡と弁当を食べてる時も、大喜は変わらずだった。これこのまま放っといたら部活どころじゃなくなるな。

匡のどうにかしてくれの視線も困るんだけど………。それに俺こういうの専門外なんだけどな。

「大喜、飲み物買いに行くから付き合ってくれないか?」

肩を叩いて言うと、“あ、ああ”と返事をして立ち上がった。

こりゃあダメだ。ポンコツになってる。

1階の自販機がある所に行くと運よく誰もいなかった。

「大喜、奢るよ。何がいい?」

自分のコーヒーを買いながら尋ねると、“コーラ”と言われたので買って渡す。

「お前が何に悩んでいるのかは分かんないが、俺達はお前を待つ気は一切ないぞ。俺も蝶野さんも針生先輩も千夏先輩も。全国に行って、1位を目指す。ぼやぼやしてる暇なんかお前にないぞ!」

胸を握り拳でドンッと叩いてやった。ハッとした。やっと自分の目標を思い出したか。

「告白も蝶野さんは今すぐ返事くれって言ってないんだろう?なら答えが出るその時まで全部に全力疾走しろよ。大喜の持ち味だろ?」

目に力が宿ったのを見て取れた。

「朝練精彩がなかったらしいじゃないか。今度の土曜日、部内戦だろう?歩いてる暇も、ましてや立ち止まってる暇なんて大喜にはないぞ。」

目に火が灯った。直ぐに大炎になった。

「俺、昼練行ってくる!朝練の分取り戻さなきゃっ!!」

急いで部室の方に向かって行った。そうそう、この猪突猛進が大喜の本分だろう。今回はいい仕事したな、俺。

「如月、悪いな。大喜の事。」

「いえ、友達なんで。」 

「俺の事、気付いていたのか。」

「気配は感じてました。」

ちょうど曲がり角の所で隠れていた針生先輩が現れ、感謝されるが大喜は友達だし良い奴だからな。出来ることは何でもやってやりたくなるやつだ。

「あいつ、ブーストかかったんで次の部内戦ヤバいかも知んないですよ?」

からかう目的で言うと、微かに笑っている。

「かもな。でもまだアイツには負けないよ。」

「そうですか。まあ努々足を掬われないように。あいつ、結構やりますから。」

「フッ、知ってるよ。お前よりな。」

そう言い残して去っていった。去り際のセリフ、カッコいいな。バドも強くて頭もいいんだって?体育館の方に行ったから大喜の練習を見に行ったのか、一緒にやりに行ったのだろう。

そりゃそうか。中学の部活引退してから練習参加してんだから俺より知ってて当然か。

「ふう。さて俺も頑張んないとな〜〜。」

グーーーっと身体を伸ばして気持ちの切り替えを行った。

 

 

 

 

金曜日の放課後、俺は授業が終わると同時に家に帰っている。サッカー部は練習があるが俺は代表戦の前日練習に参加するために前泊しないといけなくて、帰って荷物を持ってホテルに向かうことになっている。

そんな俺の横を千夏先輩も歩いている。どうも体育館のメンテナンスとワックス掛けで部活が休みになったようだ。

卓球部が体育館を来月のインハイ予選で使うみたいでその前に諸々の準備があるみたいで、バド部やバスケ部、バレー部なんかの体育館競技は軒並み休みになっている。

家に着くと、挨拶をして、自分の部屋に行って代表のスーツに着替える。

準備していたキャリーケースを持って1階に降りて、リビングにいる両親と千夏先輩に挨拶をして家を出ようとする。

「駅まで送ってあげる。」

玄関で革靴を履いていると千夏先輩にそんな事を言われた。

「いや、いいですよ。」

「いいの!私が送っていきたいから行くの!」

いや、そんな子供みたいなことを…………まあいいか。俺を送って帰っても日が暮れる前には帰れるだろうし。

今回の対戦相手。オランダ、ベルギーの事を聞いてくる。

この2カ国。実は秋のU-20W杯に出てこない。ヨーロッパ予選で負けて終えたのだ。そんな国に負けるとなると出る俺達の立場がない。その2カ国が出ればいいのにと云う声が上がるだろう。日本、ひいてはアジアの枠っているのか?って声が。それを思うとマジで気合い入れてやんないとな。

千夏先輩は父さん母さんと3人で観るそうだ。

そんな他愛ない話をしていると駅に着いた。

「じゃあ頑張ってね。テレビでだけど応援してる。」

“んっ。”と手を掲げてくれる。いつものハイタッチをしようと思ったが気が変わった。

手を合わせて、千夏先輩から気を注入してもらう。貰うだけ貰ったら目を開ける。するとそこに嬉しそうに笑う千夏先輩がいた。

「頑張ってこい、如月優!」

俺の手を力強くパンッと叩いて俺を送り出してくれる。本当にいい先輩だよな。

 

 

 

 

 

部内戦も午前が終わり、昼食後に後半戦が始まる。今の所は全勝だけど午後の2試合目に針生先輩との試合がある。ここが大一番だよな。

「大喜、ここまで全勝だろ?」

「ああ、匡は1敗だろ?まだまだチャンスあるよ。」

2人で昼メシを食べながら午前中の試合の結果を報告し合う。といっても体育館に置いてあるボードに書かれてあるから知ってはいるけど。

「あ、大喜に匡君。調子はどうだね〜?順調に勝っておるかな?」

雛がからかうような調子で結果を尋ねてくる。雛はいつも通りだけど俺は…………。

「俺は1敗で、大喜は全勝。このままいけば大喜はシングルスも選ばれるよ。俺はもう1敗も出来ないかな?」

匡が結果を雛に教えた。

「大喜凄いじゃん!?このまま頑張んなよ!」

匡が“俺トイレ行ってくる”と言ってその場を離れようとする。多分俺達に気を使ったんだけど、俺もどう対応すればいいか困るって。匡、いなくならないでよ!?

「まだ決まってないよ。午後に針生先輩との試合もあるし、3年生とも2試合ある。2敗したら厳しいから1敗しか出来ない。」

俺の置かれている現状を雛に伝える。正直、シングルスの代表は厳しいだろう。

「大丈夫だよ。大喜は大丈夫!」

「雛っ、簡単に言うなよ。」

軽く言う雛にちょっとした反発心みたいなものが出た。

「私は大喜の頑張りをずうっと見てきたから!大喜ならいける!私が保証する!今まで頑張ってきたのを全部出してくればいけるよ!」

そんなに自信満々に言われると何も言えないじゃないか。

「だから大喜負けないでよね。私の見る目が疑われるから。」

「おいっ!自分の見る目の心配かよっ!?」

“あはははは”と笑う雛の笑顔が可愛く見えた。そして“じゃあね”と言うことを言ってから去っていった。

確かにそうだよな。今まで頑張ってきたんだ。勝ち負けはあるけど、先ずは自分の全力を出し切れないとダメだよな。

雛のくせに良いこと言うじゃんか。

 

 

 

 

 

「おいおい、大喜のやつ………。」

「ああ、針生に追いつきやがった。」

ネット越しに大喜が大粒の汗を流しながら喰い下がり、何とか点をもぎ取った。3点差を大喜が連続で得点し追い付いた。

24対24。デュース。先に2点を先取した方が勝つ。

相手が点を取ると大喜が追い付くを何度も繰り返し、相手が30点になると大喜が連続で得点し、逆転した。

初めて大喜がリードした。荒い息を必死に整えようとしている。相手も袖で顔の汗を拭い、大きく息を吐き出している。

息の詰まる攻防を繰り広げているせいか、周りもプレーが止まり、固唾を飲んでこの試合の決着を見守っている。

先輩が2点を連取し、またリードされた。

苦しそうな大喜の顔。先輩の顔が変わった。多分決めに来る。

幾度ものラリーでシャトルがコートを行き交う。

大喜が左右に振られ、高く緩い返球をした瞬間に先輩が力強い打球を打ち、大喜の足元を貫いた。

審判が針生先輩が最初のゲームを取った事を伝える。

大喜が口惜しそうに天を仰ぎ、歯を食いしばっている。

「大喜、頑張れ!まだ終わってないよ!」

思わず大きな声を出して大喜を応援していた。私の声に気付いて驚いた顔で此方を見ている。

「そうだ!粘れ大喜!」「頑張れ大喜!」「まだ終わってないぞ!」

私の応援を皮切りに周りから大喜へのエールが飛び交った。大喜がその状況に驚いて周りを見渡した後、私に“見てろよ雛!次のセットは取るから。”そう言ってきた。

「ごめん、そろそろ練習戻んないと。まあ応援は心の中でしといてあげる。」

「おいっ!」

「じゃあね〜〜〜。」

ひらひらと手を振りながら練習に戻った。

大喜は結果的にこの試合に勝てなかったけど、何かを掴んだのかその後の試合はしっかりと勝ち切り、シングルス代表の座を1年生ながら掴み取ったようだ。

練習終わりに声をかけたら、大喜が飲み物を奢ってくれ、更には感謝の言葉を口にしてきた。

「自分の武器っていうか長所を再確認できたよ。ありがとう。」

「じゃあお礼に夏祭りにりんご飴ご馳走して。」

「え〜〜〜大分先だし、飲み物奢っただろう?」

「え〜〜〜だめなの?」

“ん〜〜〜”と考え込んでいる。大喜のシンキングタイムが長い時間に感じられる。

「分かった。いいよ。りんご飴だけだからな?」

「いいの!?やった!!楽しみにしてるね!!」

大喜は思ってないかもしれないだろうけど、デートにカウントしてもいいよね。男女が2人きりで出掛けるんだから!

 

 

 

 

土曜日の練習が終わり、後片付けをして帰る準備をしていると渚が話があると言ってきた。

珍しい。何だろう?ゴミ捨て場に移動するそうだ。誰にも聞かれたくない話の類なんだろう。

「ちー、昨日の夕方に優君と駅にいたでしょう?」

「えっ!!?」

「私、あの時弟と駅前のスポーツ用品店に行ってたの。その時に見かけて。もしかして付き合ってるとか?なら言ってよ〜!」

「ち、違っ、……くて。私、今優君の家に居候させてもらってるの。」

ここまでバレているなら正直に話そう。そう思って伝えると渚がフリーズした。

「えっ……………まじ?」

「う、うん。」

「大丈夫なの?」

渚が何を言いたいのか何となく察しがついたがここはとぼける方がいいだろう。

「何が?」

「何がって……分かっててとぼけてるでしょ?」

流石に付き合いの長い渚には通じないか。

「優君も一端の男なんだから、そういったのにも興味っていうか、まああるでしょ?ウチの弟なんてまだ中学生なのに本に動画とまあ色々持ってるわよ。」

「優君は………どうなんだろう?女子に興味あるのかな?知識としては授業なんかで知ってはいるんだろうけど?寝ても覚めてもサッカーサッカーサッカーらしいから…………。」

んーーー〜〜〜と考え込みながら所感を渚に告げた。

「なら千夏は?優君を男として意識はしてないの?」

渚にそう言われた瞬間、優君の裸を思い出した。細身なのにしっかりと筋肉がついていて、無駄なものが一切ない引き締まった肉体。それに処理をしてるからなのか産毛一つない彫刻の裸体像のように艶があり、色気も醸し出しているような肉体美に見惚れてしまった事を思い出した。

顔が紅潮し、全身に熱が入るのが分かる。恥ずかしい。無いと答えようとしたら渚が手をこっちに向けて止めた。

「いや、ちー分かりやすすぎ。顔が真っ赤じゃん。首も耳も真っ赤っ赤だから。」

「なっ!いや、ちがっ!!」

「照れるな、照れるな!」

「本当に、違うよ………。私なんかじゃ、優君も相手にしないだろうし………。私も優君の事は好ましくは思っているけど、恋愛的なのはまだ何とも…………。」

ポツポツと自分の気持ち、心の内を吐露すると幾分かスッキリした。

「そっか………。まあそこら辺は私が何かを言うのもおかしな話だからさ、頑張んなさいな?」

渚は自分が言った言葉に、“ん?頑張れって応援することか?”、“そもそも頑張るものか?”と頭にいくつも?マークを浮かべている。

「うん。」

「それにしてもさ、全く知らない人の家によく住めるよね?森川選手の事はお母さんから聞いてはいたけど会ったことはなかったんでしょ?」

そう。智さんとは結局この年になるまで1回も会うことがなかった。でも、優君とは………。

「全く知らない仲ではなかったから…………。」

「えっ、そうなの!?」

「うん。実はっ「君たち、いつまでいるんだね?早く帰りなさい。」」

警備員のおじさんが見回りに来たのだろう。見つかり帰宅を促された。

「帰ろっか。」

「うん。」

部活の荷物を抱え直し、校門へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

日曜日、練習が終わるといつもは自主練をするけど今日は優君の代表戦がある。だからみんなより一足先に帰る準備を整えて急いで帰った。6時を回り、7時前には家に着いた。

「ただいま帰りました。あの、優君の試合は?」

「ああ、お帰りなさい。千夏ちゃん、優なら今日はベンチスタートだからそんなに急いで帰ってこなくても良かったのに。」

智さんの言葉に驚いた顔をしたのだろう。クスクスと笑われた。

「だからゆっくりお風呂に入って一日の疲れをとってきなさい。」

お風呂を勧められ、大人しく自分の部屋に戻って着替えや部活着を準備する。洗濯機に部活着を入れ、服を脱いで浴室に入る。身体の汚れをざっとシャワーで流し、浴槽に身を沈める。

将史さんがお風呂が好きで色々な入浴剤を入れて楽しむそうで今日は発泡性の入浴剤で疲れを取る効果が期待出来る。

優君と私が一日部活というのもざらなので土日は疲労回復機能がある入浴剤にすると言っていた。平日は趣味の日本各地の名湯シリーズやリラックス効果のあるのや定番商品だ。

と言っても凄く種類が豊富で手を変え品を変え、楽しみになってもいる。

30分を過ぎたくらいゆっくりし、リビングに入るとホットプレートがテーブルに鎮座していた。蓋がしてあって何が入っているか分からない。

「千夏ちゃん、晩御飯にしましょう。パパを呼んできてもらっていいかしら?」

そう頼まれたので将史さんの部屋へ行きノックして声をかけたら直ぐに出てきた。

「ゴメンね千夏ちゃん。呼びに来てもらっちゃって。」

「いえ、そんなに手間ではないので。それより眼鏡………。」

そう眼鏡を掛けている。今まで掛けたところを見たことがなかったからびっくりした。

「ああ、忘れてた。置いてこないと。」

そう言って部屋に戻って直ぐにまた戻ってきた。

「いや〜年でね。パソコンで仕事してると目がショボショボしちゃって。それで専用のを掛けてるんだよ。」

そうなんだ。“千夏ちゃんのお父さんも悩んでると思うよ。お互いにいい年だし。”と笑いながら言う。

リビングに戻ると良い匂いがしている。ホットプレートの上に餃子が大量に鎮座していた。

「ナイスタイミング。さ、席に着いて。晩御飯にしましょう。」

普通の餃子、紫蘇餃子、チーズ明太餃子、海老餃子とあるようで列ごとに味が違うと説明された。

大盛りのご飯に将史さんお手製の漬物と十分豪華な晩御飯だ。

「さあさあドンドン食べてよ。優がいる計算で作っちゃったからたっくさんあるのよ。」

優君の話題が出たのでテレビの方を向いた。

「今日、優君ベンチスタートって。」

「みたいね。まあ何かしらの理由があんでしょうよ?バリバリレギュラーで10番で司令塔でエースで結果を残し続けてるのを何の理由もなく外す馬鹿じゃないでしょうよ。」

前半の半分が終わろうとしている。2対0で負けている現状主力を出さない選択をした監督の悪手ではないのか。

優君が映った。ベンチで厚手のコートを着てボードに貼り付いたマグネットを動かしている。

そして隣にいる選手と話し込んでいる。あの選手って前に栄明と練習試合をして、優君に自分の高校に来いって言ってた人だ。

オランダはフォーメーションが5-2-3らしい。守備的な布陣で後ろの5枚と中盤で守り、前の3人でゴールを狙うのが戦い方らしい。

んな無茶なと思うけど、前の3人が強烈でストライカー、ドリブラー、司令塔のタイプが違う3人が有機的、かつ効果的に絡み合う事で相手ゴールに迫る。そしてセットプレーでは後ろの5枚がターゲットとしてゴールを狙う。非常に考えられた戦術だそうで、そのカウンターが炸裂し、2失点をしたそうだ。

今も3人に翻弄されている。追加点が入らないのはアンカーの中村選手がギリギリの所でクリアやシュートブロック、フォローをして防いでいるそうだ。

攻撃の方も相手の3人は守備をほとんどしないからゴール前に運べるけどそこからが屈強なDFライン、そしてダブルボランチがブロックを敷いてチャンスらしいチャンスを作れていない。

日本は4-3-3のダブルボランチのシステムで戦っているがオランダの厚い壁に阻まれている。

『あぶな〜〜〜い!!シュートはバーに当たって外れました!日本押されていますね、山下さん。』

『ええ、トップ下に入っている大前君の所で潰されています。前の3枚を狙ったロングボールも弾き返されていますからチャンスらしいチャンスを作るのも難しいですね。』

日本が劣勢であることは見てもわかるけど、テレビの解説と実況の人の説明でも分かる。

暫くしてロスタイムに入った。

『後半で如月、川添と日本が誇る司令塔とストライカーを投入し、流れが少しでも変わればいいんですが………。』

『きっと彼らならやってくれると信じましょう!』

そして笛が鳴った。短いのを2回。前半が終わったのだろう。選手達がピッチを歩いてベンチの方に歩いている。

『前半終了。日本対オランダ、0対2で日本が追いかける展開!後半の日本の追い上げに期待しましょう。』

実況の人がそう言って締めくくり、CMにいった。

 

 

 

 

 

前半も半分が終わり、2点差をつけられている。

ボードで相手のフォーメーションを作り、此方のフォーメーションも作る。……………ふむ、なるほど。

「如月、何かあるのか?」

隣に座る川添が俺がカチャカチャとボードのマグネットを動かしているのを見て、声をかけてきた。

「いや、相手の攻め手を見ていた。」

「攻め手?なら相手の強力な3タイプのゴールデン・トライアングルだろ?」

何当たり前のことを言ってるんだって顔で聞いてくる。アホウ、あの3人が凄いのは最近までヨーロッパにいた俺の方がお前たちより知ってるわ!

「あの3人が強力なのは見てれば分かる。よく見ないと分からないが鉄壁の守備陣と強力な攻撃陣を上手く連結させている要の選手がいる。誰か分かるか?」

ピンときていないのが丸分かりだ。お前サッカー見てんのかよ!?

「あのサイドバック……いや、攻撃的要素を多分に含んでいるからウィングバックだろうな。あの両サイドがフリーでボールをあの3人に配球している。縦パスを入れるより斜めから入れてくれた方が前を向きやすいし、スピードにも乗りやすいから仕掛けるのも楽だ。ほらっ。」

そう言ってフィールドの方を指差す。そこにWBがダイアゴナルに走っているドリブラーにパスを入れる。プレスに来た日本のSBをスピードに乗った状態で躱す。そこへ中村が身体ごとスライディングでボールをクリアした。

口惜しがってるな〜。相手のスローイン。速攻が潰されて組み立て直す。と言ってもWBもダブルボランチもセンターラインを越えてこない。そこから先は3人でって事なんだろうけど。

「育成年代でこの戦術をするとはな………。」

「どういう意味だ?」

「W杯やチャンピオンズリーグならまだしも、この育ち盛りが多いこの年代で堅守速攻で戦う代表チームがあるとは思わなかったよ。」

「確かに見ないな?選手レベルの差でそうなることはあれど。」

「勝つ事に貪欲なのか、はたまた上の戦い方の模倣か、監督の趣味か。何にせよやってる事はシンプルだから選手に迷いがない。ある意味やり辛い相手ではある。」

2人で色々と話していると監督が戻ってきた。

「如月、川添、後半の頭から入れる。急いで準備しろ。」

やっと出番が来た。返事をしてウォームアップを始める為に移動した。




大喜と雛が2歩進む感じの話でした。

千夏先輩も少しずつ男として意識しているのが表現できていたら………。

そして実は優と千夏は初対面ではなかった事実がっ!?そこも後日話として拾っていけたらいいな。

次の更新予定は変更してアオのハコです。

代表戦を書きたいと思います。というか3分の1くらいは書いてるので年末年始に投稿できればといいな〜
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