アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました。

前半の祭りと後半のバド部の地区予選で時間軸バラバラですが、そこは何となく察してくれると助かります。


祭り

土曜日、一日練習を終えた。フィジトレと基礎トレ、紅白戦を行ったので、ヘトヘトになったが初めてのお祭りということで、まだまだ気力がある。楽しみしかない。

あの千夏先輩がワクワクを隠しきれていない生活をしていたからな。

「如月、コンビニか飯に行かないか」

紅林先輩達、先輩方に誘われたが断った。

「すみません。今日は家の用事があるので。またお願いします。」

「分かった。じゃあまた誘うよ。」

「ありがとうございます。」

スマホに通知が着ていた。身体を影にしてロッカーの中でサッと確認すると今から公園に向かうと連絡が入っていた。

急がないとな。汗の処理をサッと行い、直ぐに着替える。来る時に着ていたのに急いで着替え、挨拶をして一番に部室を後にした。

他の部活の人にも挨拶をしながら早足で校門に向かう。出ると駆け足に移行して少し急いで向かう。チラリと後ろに付いてくる人がいないかも確認する。同居の件は基本的にバレないようにしないとダメだと蝶野さんとの一件で再認識した。お互いの生活を守る為にも。

公園が見えてきた。1人ポツンと立っているのが分かる。こんな所で待たして申し訳なく思う。

「優君!」

「すみません、お待たせしました。」

俺の姿を確認出来たのを嬉しそうに笑う千夏先輩と待たして申し訳なさそうにする俺の姿のギャップが凄いなと思った。

「ううん。5分位だから気にしないで。」

「そうは言いますが………。」

「そんな事より早く帰ろっ!今日は待ちに待ったお祭りの日だよ!」

俺の申し訳なさそうな言葉をぶった切る様に強引に話題を変えてきた。多分この話題はここまでにしようと言うことなのだろう。そういう優しさなのだろうな。

「分かりました。帰りましょうか。」

肩を並べて帰路につく。2人でいつも帰る時に話すのは今日の部活の話だ。どんな練習をしたのか誰々が調子が良かったなど他愛ないことだが今日は再来週の7月頭から始まるインターハイ予選の話になった。サッカーもバスケも抽選が行われた。

バスケは籠原との一騎打ちらしい。当たるのは決勝。今年こそ勝って去年の雪辱を晴らし、全国に行きたいと燃えている。

サッカーは準々決勝に優勝候補筆頭の浦和学院、準決勝で佐治川、決勝で私立浦和と所沢工業の勝者と当たると予想している。まあ戦力的にも順当に勝ち上がってくるだろう。この4チームは守りがしっかりしているからな。

この最初の大会で俺の真価が問われている。俺が何処まで凄いのか上手いのか強いのか。そして結果如何では代表も危なくなってくるだろう。

でも世界で戦ってきた俺が県予選で躓くなんて俺自身が許せない。それに五輪代表の予選も始まっている。俺自身の今年の最終目的地である五輪代表だが、2戦2敗と連敗スタートした。

1戦目は不運な形の失点から守りを固めた相手を崩せず逃げ切られた。2戦目は何処かチームがチグハグというかバランスが崩れていた。其処を突かれたカウンターで失点し、セットプレーで加点されて負けた。

次が早くも正念場だと言われている。勝たないと本大会の出場が危ぶまれる。まあ今の所は代表に選ばれていない俺に関係のない話だ。

まずは県予選を通過し、全国に行き活躍する。千夏先輩とも約束したからな。その事を言うと千夏先輩も嬉しそうに一緒に全国に行こうと言ってくれる。

そんな話をしていると家に着いた。千夏先輩と入るとリビングから母さんが出てきた。

「お帰りなさい二人共。」

そう言った母さんだが顔は千夏先輩に向きっぱなしだ。余程千夏先輩に浴衣を着てほしいのだろう。

「二人共早くお風呂入ってきなさい。それから着替えて行きましょうか。」

頷いて洗濯物を洗濯機に入れ、千夏先輩に先に風呂に入る様に促した。女性の方が準備に時間がかかるだろうから。

30分程して上がったと呼びに来てくれたので、代わって入る。練習がハードだったから風呂が身体が溶けるのではと思うほど気持ちいい。疲労回復機能とリラックス効果のある入浴剤のお陰か眠くなる。強張った疲れた下半身が解れていくのが分かる。だがあんまりのんびり入っている時間がない。

20分くらいかな?それで上がる。脱衣所に置いておいたバスタオルで水気を取り、下着を履き、頭をドライヤーで乾かす。足にケア用のクリームを塗り、ラフ着に着替える。リビングに入ると水色の衣を纏った天女がいた。

「…………Amazing………。」

フリーズしてしまった俺が再起動したのは頭に強い衝撃を受けてからだ。いつの間にか傍に母さんがいた。一瞬そちらに目をやったが直ぐに千夏先輩の浴衣姿に目を向けた。

「あんたそんな所で千夏ちゃんに見惚れてないで、さっさと準備せんかい!」

母さんからの注意の言葉が飛んでくるが、俺は動けなかった。

「Sorry、It was so breathtakingly beautiful I couldn't move.

(ごめん、息を飲むほど美しくて動けなかった)」

未だに動かないそんな俺の正面に立ち、千夏先輩を見るのを母さんが邪魔する。そして両頬をバチンと挟み込むように叩いた。

「さっさと準備しろってさっきから言ってんのよ!行けっ!」

そう言ってリビング横の和室に押し出された。父さんと話している千夏先輩に目を向けようとした時、後ろから尻を蹴られ、“足止めんな”と叱責が飛ぶ。

和室に入ると千夏先輩の部屋着が端に置いてあった。ここで着替えたんだと直ぐに分かった。俺の浴衣も置いてある。ズボンとTシャツを脱ぎ、浴衣を着ていく。

群青色の浴衣で帯は更に濃い青になっている。小道具を一通り揃えてある。帯に扇子を差し、和製のショルダーバッグを肩にかけ、財布やスマホ、ウェットティッシュ、手ぬぐいを数枚入れておく。10分程で準備が整ったので部屋を出る。

「お待たせしました。」

直ぐ傍に千夏先輩が座って待っていた。時間が空いたからか俺の気持ちが落ち着いたのか見惚れることはなかったが、やっぱり綺麗だと思った。千夏先輩も俺の浴衣姿を見てくれている。

「ゆ、優君似合ってるよ!」

「そう…ですかね?千夏先輩もとても綺麗……です。さっきも見惚れてしまいました。」

無意識の内にずっと思っていた事を口に出していた。しまったと思った時に遅かった。

恥ずかしくなって俯いてしまった。

「あ、ありがとう………褒めてもらえて嬉しい。」

「い、いえ。似合っているのは事実なので。」

千夏先輩も照れているのが何となく声音で分かった。2人して照れ合って何してるんだか。

「ほらあんた達、なに何時迄も青春ごっこやってんのよ?時間押してるってさっきから言ってんでしょ?早く車に乗りなさい。」

母さんがそう言って外に出るように促した。

「優、千夏ちゃん。これ。」

そう言って一万円を差し出してきた。

「悪いが俺と智は同級生の集まりの方に行って、2人を放置することになると思う。だからこれで好きな物を買って食べなさい。店でも出店でも好きにしてくれたらいい。一応、社務所前のテントに椅子とテーブルがあるからそこで食べれる様にしてくれているそうだ。出店の食べるならそこで座って落ち着いて食べるといい。」

そう言って俺に一万円を握らせた。金額が多いと思ったが2人で割高な出店のを買うならそれくらいは一応持っておくか。自分の財布も持っていくけど。

両親が前に、俺と千夏先輩が後部座席に座り、お祭りへ向かって行った。

 

 

 

 

隣に座る人をチラリと見た。青色の浴衣を身に纏って座っている。スラッとしていてモデルのような体型だからとても似合っている。

チラチラと見ていると私の視線に気付いたのか此方を向いて、不思議そうに尋ねてくる。

「どうかしましたか?」

「えっ!?いや、その……優君って着付けできるんだね?」

「ああ。今は動画を観ながら出来ますから。その通りにしただけですよ。それよりお祭り、よろしくお願いしますね?本当に初めてなので色々と教えてください。」

いつものフワリとした笑顔に目を奪われた。なんだろう?優君の周りに爽やかな風でも吹いているのか、そんな印象を受ける。

車内で何を食べるか話したりしていると、少し離れた神社に到着したようだ。裏手の通用門に入り、車を止めた。

降りると直ぐ傍に神社の人がよく着ている白い服の人、多分神主さんが寄ってきた。

将史さんと知り合いの人なのか肩をポンポンと叩いて再会を喜んでいるのだろう。そして智さんが挨拶をしている。

そして優君と私が紹介された。息子と事情があって預かっている子だと紹介された。2人揃って頭を下げて挨拶をする。

「美人で気が利いて、優しい良い子だよ。優の嫁さんになってくれたらどれだけ良いかってくらいのね。」

そんな風に紹介されて此方が恐縮してしまうし、恥ずかしい。

そんな私の様子を見た神主さんが温かい目で見ている。

一通り挨拶をすまし、社務所まで案内すると言って先導してくれた。本堂の横を通り、直ぐ傍の社務所に連れて来られた。

ここで私達は食事でも休憩でも好きにしてくれたらいいと言ってくれた。首に下げる関係者パスを渡された。これを下げておいてくれたら問題なく使えるからと言われる。

ありがとうございますとお礼を言い、首に下げる。じゃあ2人楽しんでと言われた。3人が去るのを見送り、優君に目をやると此方を見ていた。

「さて、これからどうします?境内を散策しますか?」

尋ねられ、う〜〜〜んと悩む。少し考え込んでから答えた。

「参拝だけして出店に行こっか!流石にお腹ペコペコ。」

「ですね。俺もお腹空きました。」

賛同してくれたので参拝して、神社を出て買い物に向かった。

直ぐ傍でソースの焦げる良い匂いがする。お好み焼きが焼かれている。

「お好み焼き良い匂いがするね?」

「ええ。買いましょうか。」

「半分ずつして色々食べましょうか?」

「いいの?」

「折角なんで色々食べたいので此方からお願いしたいです。」

「ならそうしよっか?」

店主のおじさんに1枚お願いすると、店主が“はいよっ!”と活きのいい返事をして準備してくれる。

「俺が買ったの持つので会計をお願いしてもいいですか?」

そう言って優君が自分の財布を渡してきた。いいの?って視線を向けると優しく微笑んでいる。

「さ、次は何を買いますか?」

そう言ってエスコートをお願いしてくる。

そこから私達は焼きそば、イカ焼きなど色々と買った。途中でお腹が減ったので牛串を頬張りながら歩く。

「おいひ〜〜〜!」

流石に部活の後、お腹がペコペコ。優君がタン、私がカルビを買い、半分こしながら食べ歩く。横を歩く優君も幸せそうな表情をして食べている。

お互いの串を差し出し合って食べる。カルビの脂が美味しい、歯応えのある食感と塩コショウの効いたタンもだ。

他にも色々と買い込んで意気揚々と社務所前のテントに戻った。向かい合わせに座り、テーブルに買ってきたものを広げる。

私はコーラ、優君はレモンスカッシュで乾杯をした。

「「乾杯!!」」

ペットボトルをコツンと合わせて乾杯する。そして一口飲み、喉を潤す。さてお待ちかねの屋台の食べ物!

焼きそばにお好み焼きがおいし〜!ソースがたまらない!

イカ焼きの醤油が香ばしくて最高!唐揚げもジューシーでおいひい!じゃがバターもホクホクのじゃがいもとバター醤油が!!

「美味しいね?」

「はい!とっても!」

いい笑顔だ。雰囲気による割り増しで美味しく感じる。

プフッ!優君の歯と唇に青海苔がたくさんついてる。食べ終わったら注意してあげよう。気をつけないとダメだって。

「あ〜〜、食べた食べた!」

「ん〜〜〜!」

グーーーっと身体を伸ばした。買ってきたものはペロリと平らげてしまった。口周りが汚れていると教えるとショルダーバッグからウェットティッシュを取り出して丁寧に口を拭いた。私にもくれたので口を綺麗にした。

「次!次はデザート行こっか!」

手を引いてまた買いに出る。チョコバナナ、綿あめ、りんご飴、ベビーカステラを買った帰り道にかき氷屋を見つけて2人食べ歩きをしながら戻る。

優君はメロン、私はブルーハワイを買った。

「ん〜〜冷たい!まだかき氷は季節が早かったかも。」

6月の中頃、日中は暑くなってきたけどまだまだ夜は涼しい。サイズを小さいのにしといてよかった。

席に戻って落ち着いて食べ始めた。優君も少しずつ口に運び、食べ終わると幸せそうな表情をして笑う。

「美味しい優君?」

「ええ。とても美味しいです。冷たくて口の中が気持ちいいです。口の中がサッパリします。」

優君が美味しいならよかった。優君の顔を見ていると、スッとかき氷を差し出してきた。

「どうぞ一口。さっきから見てたので。」

もしかして欲しがってるように見えた?は、恥ずかしすぎる!美味しそうに、嬉しそうにしてたから見てただけなのに!それに私食いしん坊と思われてるっぽい!

「あ〜〜〜ん。」

なんかかき氷差し出してきた!間接キスになるけど………ええい、女は度胸!

「あ〜〜〜ん。」

差し出されたスプーンを口に含んで食べる。ん〜〜レモンが酸っぱくておいひ〜。これってお返ししたほうがいいよね?

「優君もあ〜〜〜ん。」

差し出すと急にキョドりだした。多分、今間接キスに気付いたんだろう。

「あ、あ〜〜〜ん。………甘くて爽やかで美味しいです。」

もう!私ばっかりドキドキさせられてるんじゃないかなっ。

もう限界っ!買い過ぎて余っちゃった。ベビーカステラが手付かずだ。仕方ない、これは明日のおやつにでもしよう。

それにしても優君って甘い物あんまり食べないんだ。尋ねてみると。

「Yes、両親とクリスマスにケーキを食べるくらいで日常的に食べる習慣はないです。」

カロリーが気になるのと家族皆、食べる習慣がないのが大きいそうだ。あ〜〜〜お腹一杯。

優君が腹ごなしにこの神社を散策しようと提案してくれた。

2人連れ立って参道を歩く。カランコロンと足元から2人分の乾いた音が鳴る。来た時から鳴っていたチリンチリンと気持ちのいい音が鳴る方にゆっくり歩いていく。

オレンジや黄色の光りに照らされた様々な模様が描かれた数多の風鈴が飾られていた。

「Wow、凄いです。こんな幻想的な空間、見たことないです。」

「凄いよね。この光景は何時見ても感動するよ。」

何回か来たことあるので私は知っているけど、初めての優君は周りを見回しながら興奮している。

風鈴が風で揺れ、音とともに光が反射してキラキラと光っている。

「もし。良かったら写真撮りましょうか?」

2人並んで幻想的な光景を見ていたら後ろから声をかけられた。近所の人かな?ラフな格好をしたおばあちゃんが傍にいた。

「まぁまぁ、美男美女のカップルだこと!折角浴衣を着てるんですもの。記念に撮っておきなさいな。思い出を形にしておくって大事なことよ。」

カップルじゃないんだけど………。困ったな。優君に目をやると仕方ないといった感じで苦笑していた。

「記念に撮りましょうか。折角こう言ってくれているので。」

「そうだね、折角だし。」

スマホを渡してお願いすると快く写真を撮ってくれた。

「こんな感じでどうかしら?」

撮ってくれた写真を確認する。2人が浴衣姿で並んでいる。大事な思い出だ。お礼を言いうと、“いいのいいの、気にしないで”と言って去っていった。

それから1時間くらいのんびり歩いていると、優君のスマホに連絡が入った。そろそろ帰るから社務所前に戻ってきなさいということだそうだ。

「楽しかった?」

「ええ、とても楽しかったです!いい経験ができました。」

本当に楽しかったのが分かる笑顔だ。良かった楽しんでくれたみたいで。

2人連れ立って戻ると、先に戻っていたのか智さんと将史さんが待ってくれていた。

「あ、2人とも帰ってきた!」

私達の姿に気付いたんだろう。

「2人とも、今日は楽しめたかい?」

優君に似た穏やかな顔で将史さんに今日はどうだったと尋ねられた。

「「楽しかったです。(楽しかったよ)」」

ハモって返事をしたのも可笑しくて優君と2人顔を見合わせて笑う。あ〜〜〜本当に今日は楽しかった!

家に帰ってシャワーを浴びて着替えると、やっぱりハードスケジュールだったのかウトウトしてきた。

そんな私の様子を見た智さんが今日は早く寝なさいと言うので、“お休みなさい”と伝えて2階に上がろうとする。

「優、あんたももう寝なさい。千夏ちゃんフラフラしてるから一緒に上がりなさい。」

「分かった。お休み。」

後ろでそんな会話をされているのを聞きながらフラフラと覚束ない足取りで2階に上がろうとする。

ヨロヨロ、フラフラと2階に上がり、部屋の前に来た。

「お休みなさい、千夏先輩。」

「うん………お休み…なさい……優君。」

2階の冷蔵庫から水を渡されて別れた。

ベットに潜り込み、身体を横たえると直ぐに睡魔が襲ってくる。それに抗うことをできず、夢の世界に旅立った。

 

 

 

 

 

「よっすー、大喜!」

「雛ッ!!」

後ろから声を掛けられて振り向くとまさかの奴がいて驚きの声が出た。

「匡君から聞いたよ。地区予選突破おめでとう!これお祝いの品。」

そう言って手に持った白い袋を差し出してきた。

「あ、あぁ。ありがとう。」

お礼を言いながら受け取る。何が入ってるんだろう?覗き込むとゼリー飲料や栄養バー、スポーツ飲料が一通り入っていた。

「相方が凄かったんだね。」

「いや、まぁそうだけど………俺も頑張ったよ。」

針生先輩にも指摘された色々な課題や欠点をどうにかしないと来月の県予選では足を引っ張る事になる。もっともっと練習頑張らないと。

「で、次勝ったらベスト何なの?」

「知らないんかい!」

あっけらかんとした感じで聞いてくる内容にビックリした。

「次勝ったらベスト16。とりあえずノルマの県予選には出れる。」

「目指すは優勝よ。頑張ってきんしゃい!」

調子に乗った口調での励ましに、俺は苦笑してしまった。全くコイツといる肩の力が良い具合に抜けるよ。

「おう。頑張ってくるよ。」

そう言って下のコートに向かう。さて、一丁頑張りますか!

コート前の扉に針生先輩がいた。周りの他の高校の人も去年インターハイに出た針生先輩の事を知っているのか近寄れないみたいで、ポツンと立っていた。

「お待たせしました。」

「おう。やっと来たか。」

なんだろう?針生先輩が上から下と見てから顔を見てきた。 

「気合が入ってるな。何があったか知らんが良いことだ。連携の確認をしながら1プレー1プレー丁寧にやっていくぞ。お前も課題を持ってやれよ?」

「分かっています。」

「ならいい。さ、行くぞ。」

試合をするコートへ向かって歩き出した針生先輩についていく。背中が大きく見える。この人に追い付き、追い越さないと目標のインターハイが見えてこない。まだまだもっともっと頑張らないと。

 

 

 

 

ベスト8まで残った。次は横のコートで試合しているペアと試合をすることになる。先に終わったので見ようと針生先輩に言われたので邪魔にならない位置に移動して観戦する。

「うりゃあ!!」

強烈なスマッシュを威勢のいい掛け声とともに打っている。相手はその勢いに押され気味だ。多分相手は俺を狙ってくるだろう。それを確実に返す。しかも相手のチャンスにならないようにだ。

「スマッシュ強烈ですね……。」

「ああ。体重の乗せ方が上手いからな。」

「あれを俺がどう返すかが勝負の鍵になりそうですね………。」

針生先輩が俺の頭に手をポンポンと当ててきた。

「分かってるじゃないか。そこが勝負の分かれ目だ。お前が良い所に返せるか、相手に決められるか相手のチャンスにするかで決まるだろうな。頼むぞ。」

「はい!」

ここで負けるわけにはいかない。

目の前の試合が終わった。下富高校のペアがそのままの勢いで勝った。次の試合は10分後。コートが片付けられたら針生先輩とアップ代わりに軽く打とう。

「ハリー先輩?」

誰かを呼ぶ声が聞こえた。声の方を向くと下富高校のソフトモヒカンの人が此方を、何なら俺の隣の人を見ている。ただ見られてる人は無視して準備に勤しんでいるが………。

「あの………呼ばれてないです?」

「気にするな。俺には聞こえない。」

どうしても無視したいようだ。

「この薄情者〜〜〜!!」

おうわっ!宙を舞い、跳び蹴りを針生先輩にお見舞いするも慣れたものなのかヒラリと躱している。

「何だよ。これから俺達試合だろ?あんまり話すのもおかしいだろう?」

「ジュニアからの仲でそれは冷たくない。ねぇ?」

今度は俺に絡んできた。

「あの〜針生先輩。どういった関係で?」

ジュニアからの仲とは言っていたが………。

凄く答えなくなさそうな表情と雰囲気を醸し出している。

「あいつも言ったがバドのジュニアの時のダブルスのペアだ。」

「そして試合に勝ったら鹿野千夏さんの連絡先を教えてくれる約束をしたのに教えてくれない酷い先輩でもあるのです!」

はっ??針生先輩、そんな約束したんですか!?

「そんな約束したか?」

したんですか!?してないんですか!?

「この間のダブルス勝ったのに!」

「公式戦でだよ。それにこの間のはペアを順番に変えての練習試合だろ?」

ぬぬぬっと唸っている。

「なら今日勝って聞いてやる!!約束だからな!」

フンスッと鼻息荒く反対側のベンチに向かって行った。そして相方に絶対勝つぞと言っているのが聞こえてくる。

「元気な人ですね………。」

「ああ、そして結構強いぞ。まあ俺には及ばんが。」

この自信。俺もこれくらい持てればな。

「お前がこの間の部内戦での俺との試合くらいやれればあいつにも勝てるさ。ほら大喜、行くぞ。」

「はい。」

こんな時に分かりにくい励ましというか応援というか、俺の実力を少しは認めてくれているような発言をするなんて。

絶対に勝つ。ここで負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

「おりゃーー!」

力一杯振ったラケットから放たれたシャトルが相手のコートへ向かう。それをしっかりと此方の嫌な所に返してくる。

「くっ。」

ネット際に返ってきたシャトルを相方の横山はロブを上げるしか出来ない。ハリー先輩の方に上げなかったが相方の猪股君が力強いスマッシュを此方に打ってくる。

「ぐっ!?」

身体に向かってきたシャトルを上手く返球出来ず、相手の得点になる。もう1セット取られている。そしてこれで相手のセットポイントになった。

ファーストゲームの前半は俺がスマッシュで猪俣君を狙うことで加点していったが、段々と粘られるようになり、後半になると中々決まらなくなっていった。

そしてそのまま逆転され、リードを広げられて1stゲームを取られた。ハリー先輩がフォローやケアをするが積極的に攻めてこない。多分相方の練習と連携の確認に重点を置いてこの試合に臨んでいるんだろう。

明らかなチャンス以外は本気を出して打っていないのが、このセット半分くらい点を取られた時に分かった。

この相方に期待しているのがヒシヒシと伝わってくる。ああ、悔しいな。俺とペアを組んでいた時よりも多くの事を要求している。

横山とハリー先輩のラリーからネット際スレスレに落とされたシャトルに横山はロブを上げるしか出来ない。

それを高く飛び上がってのスマッシュをする猪股君のシャトルを俺達は取ることが出来なかった。

ああ、悔しいな。やっぱり負けるのって悔しい。ネット越しに握手をする。

「俺達が勝ったから連絡先はなしだな。」

「あっ……。そうですね。」

そうだった。鹿野千夏さんの連絡先を賭けていたんだった。試合の勝ち負けに必死で忘れていた。

「来週のシングルスで勝負だ!」

「俺はシングルス、地区予選出ないぞ。」

「何で!!」

「新人戦上位者は地区予選パスだからな。」

「なら次戦うのは!?」

「来月の県予選だな。」

「ぐぬ〜〜〜、なら来月の県予選で勝負だ!俺達と当たるまで負けんじゃないぞ!」

次は絶対に勝つ!そして鹿野千夏さんの連絡先をゲットしてやる!

ベンチを空けないといけない。荷物を片付け、コートを後にした。

 

 

 

 

 

岸君が捨て台詞を言って去っていった。

「めげませんね?」

「いや、あれでも結構凹んでると思うぞ。大喜に粘られていいようにやられたからな。大喜もあれくらい出来るならダブルスでもシングルスでも良い所までいけるかもな。」

褒められたのだろうか?少しは認められたと思おう。県予選まで一月しかない。シングルスもダブルスももっともっと頑張らないと。針生先輩と比べると課題が山程ある。

「さて、このまま優勝するぞ大喜。地区予選は佐治川がいないからな。俺とペア何だから優勝はノルマだぞ。」

またこの人は!変にプレッシャーをかけてくる。わかりましたよ!やってやりますよ!優勝すればいいんでしょ!観客席から雛も応援してくれている。もう一回気合を入れ直した。

 

 

 

 

再来週には俺も千夏先輩も県予選が始まる。バスケは5日間で、サッカーは2週間と期間の差はあるがインターハイ出場が決まる大会だ。嫌でも気合が入る。

体育館から聞こえる声も、いつもより男女共に活気がある。勿論、屋外の野球、陸上、そしてサッカー部もだ。

千夏先輩といつも通り一緒に家路に就く。話す内容は勿論インターハイに向けての事一色だ。

家に着いていつも通り、風呂に入ってから夕食を食べる。食事中に母さんが爆弾を放り込んできた。

「来週の土曜日の夜に由紀の所でBBQをすることになったから。貴方達の大会前の決起集会みたいなものよ。」

由紀って誰ですか?疑問に思って尋ねた。一緒にやるってことは年齢近い子供がいるんだろうな。

「あんたと同じクラスの猪股君のお母さんよ。」

マジで!母さんと大喜の母親が同級生なの!?思わず千夏先輩と顔を見合わせた。千夏先輩も驚いた顔をしている。ということは大喜は千夏先輩が俺の家に居候しているのを知っているのか!?

俺と千夏先輩が驚いているのを余所に話は進んでいく。

「此方は肉。向こうは他を全部用意してくれるの。優とパパは荷物持ちお願いね。」

父さんは了解と軽く返事をしたが、俺はそれどころじゃない。大喜は今の今まで見て見ぬ振り、知っていて知らぬ振りをしてくれていたのか?

あ〜〜〜、マジでもう!大会目前に!明日、大喜と話さないと駄目だな。眉間に皺を寄せて深い溜息を漏らした。




優と大喜の母親が同級生なのをここで初めて知ったことにしてます。話の整合性取れるように過去の話を修正かけてます。

次は、大喜との話とBBQ編です。
その次は県予選の話になります。

今の所の予定ですが、アオのハコの更新が続くと思います。(2話か3話の予定)
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