アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました。

BBQ回です。次はいよいよ夏大会になります。

今月中に更新できるように頑張ります。


BBQ

いつも通りの朝を迎えた。千夏先輩と登校する。ちょうど反対側から大喜が来ているのが遠巻きに見えた。

隣にいる千夏先輩に目をやると心配そうにしている。そんな先輩にいつも通りに笑って頷いた。多分、いつもの俺じゃないのが分かったのだろう。

多少は不安は解消されたが幾分かの不安が顔を覗かせている。私も居た方がいいのではないかと思っているのだろう。

でもこの話は3人でしても良いことはない。俺と大喜の2人で話すことに意味があるんだろう。

「心配しないでください。」

「………分かった。先に行ってるね。」

「はい。」

俺が頷いて返事をすると、先に体育館に向かって行ってくれた。

大喜が傍に近づいてきた。

「おはよう大喜。」

「おはよう優。」

「少し話があるんだけど、少し時間くれないかな?」

俺が話したい内容に見当がついているのだろう。頷いてくれた。

誰かが来たら分かるようにグラウンドの近く、拓けた場所で話すことにした。

「大喜も多分知っているだろうけど……俺の家に鹿野先輩が居候しているんだ。」

「…………、そっか。」

「知ってたんだろ?何時から何だ?」

こういった事は淡々と事実を、本当の事を話して言ったほうがいい。変に言い訳がましくなると駄目な気がする。

「入学式前に母さんから聞いた。3月末だったかな?」

「っ、………そうか……。」

「気にしなくていいよ。優と鹿野先輩の事情は頭の悪い俺でも察しがつく。優が俺に言わなかったのも。」

「ごめっ「謝るのはなしなっ!!」」

俺の謝罪の言葉を遮られた。

「別に優が悪いわけじゃないだろ?隠しておかないと駄目なことってあると思うから。それで謝るのはなしだ。」

笑いながらもしっかりと自分の意見を言う大喜。やっぱりこいつは愚直な位に何処までも真っ直ぐでいい奴だな。

「分かった。なら俺は謝らない。」

「ああ。それでいい。」

「Thank you、大喜。」

感謝の意を伝えると大喜が照れたように笑う。

「……………」

「……………」

お互いに何も言わず、沈黙の時が流れた。

えっ、何この空気。ここで今日も部活頑張ろうぜ!の流れじゃなかったのっ!?

「優は鹿野先輩の事、………好きなのか?」

なんて答えたらいいんだろうと一瞬思ったが、大喜はストレートに向かってきている。それを俺が躱すような真似をしてどうする。俺も真剣に真っ正面から向き合おう。

「美人で可愛くて、優しくて真面目で、一生懸命で。そんな千夏先輩に俺は惹かれて行っているんだと思う。」

俺の今の気持ちを伝えると、大喜が目をパチクリとしていた。俺があっさりと千夏先輩の事を好きになってきていると伝えたのが予想外だったんだろう。

「……そっか………、なら俺達は恋敵ってことだな?」

「そう……なるな。」

「そんな暗い顔すんなよ。俺達が友達なのは変わらないだろ?」

大喜の言葉に俯いていた顔を上げた。

「俺達は友達で、恋敵。それでいいだろ?」

「ああ…、ああ。ありがとう大喜。」

「さ、早く部活行こうぜ!朝練終わっちまう。」

明るく言う大喜に感謝しかない。

「ああ、行こう大喜!」

連れ立って部活に向かった。途中に体育館の隙間から千夏先輩にOKマークを向けると、いつもように笑ってくれた。話し合いが上手くいって安心したんだろう。そんな彼女を見てから俺はピッチに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

県予選最後の土日の練習も、土曜日の練習最後のメニューが行われている。

と言ってもスタメン組と控えの紅白戦は終わり、今はメンバー外の選手の紅白戦をしている。大会前の大事な時期ということで大会メンバーを中心にした練習をしていたが、メンバー外の選手の息抜きというか気晴らしの意味を込めた紅白戦をしている。

そんな試合を俺達は後片付けをしながら観戦している。監督へのアピール、冬の選手権に向けた熾烈な競争が始まっている。

「激しいな〜〜。」

紅林先輩が中盤の競り合いの激しさに感想を漏らした。

「どちらのチームもボールホルダーへのプレス速度が高いですから。のんびりキープなんて出来ないでしょうね、」

試合を観戦した感想を俺も伝える。

「で、如月。俺達は全国に行けそうか?」

紅林先輩が本題の質問をしてきた。恐らくこれが聞きたかったのだろう。周りのスタメン組も聞き耳を立てているのが分かった。

「今回仕込んだ前線からの連動したプレスを皆さんがキチンと行えれれば相手を押し込むことが出来るはずです。俺が居なくても五分以上に有利に戦えるはずです。後はフィニッシュの所でどちらがチャンスで決めれるかです。」

「なら如月がいるなら楽勝か。」

楽観視したいのは分からなくないが。

「俺、準々決勝の浦学戦までは基本的に後半からの出場です。」

「「「「「「えっ!!!」」」」」」

俺の爆弾発言に驚愕の声を一斉に上げている。

「そもそも自力上げないと全国制覇は夢のまた夢ですよ。俺抜きでも少なくても五分五分の戦いが出来るようになってくれないと。」

俺の期待の言葉に皆の決心がついたのが分かった。

「そうだよな。やるからには天辺目指さないと駄目だよな。なにせ、お前さんがいるんだから。」

これで戦える集団になったな。獅子の皮を被った羊から、獅子の心を持った羊くらいにはなっただろう。

 

 

 

 

 

 

お待ちかねのBBQの日。部活から帰り、シャワーを浴びて身綺麗にしてから猪股家に向かう。

母さんと千夏先輩が少しお高いタレや塩を持ち、俺と父さんがお肉を持っている。ちょっと前に母さんがバスケの雑誌で受けた仕事の原稿料を丸々突っ込んだだけあって結構な量のお肉だ。

タン、カルビ、ハラミ、ロース、ヒレ、モモ、サガリ、ホルモン数種類と大量でめっちゃ重い。ビニールの持ち手が手の平に食い込んで、地味に痛い。

指3本分の金額のお肉だから、そりゃ重いよね。

道中の話題は大喜に千夏先輩の同居の件を話したことだ。知り合いとは知らずに言わずにいたからな。母さんはあっけらかんとしたもので、別に誰にバレても問題ないと言っている。

「別に優と千夏ちゃんが組んず解れつ乳繰り合ってるわけでも、ズッコンバッコンまぐわってるわけでもないんだから堂々としてればいいのよ。」

母さんのあまりにも明け透けな言葉に千夏先輩は恥ずかしいのだろう。赤面して俯いている。

「智、外だから。その言葉のチョイスは相応しくないよね?」

父さんが母さんに注意すると肩を竦めて少しだけ反省の態度をした。

「2人もわざわざ言い触らす必要はないし、普通に生活していればいい。君達にはしないといけないことがある。学校生活に部活。この2つが疎かにならないようにして、楽しく生活してくれればそれでいいんだ。」

父さんの言葉に、分かったと返事をして頷いた。

そんな話をしていると一件のお宅に到着した。母さんが呼び鈴を鳴らすと、“は〜〜〜い”という声が聞こえてきた。

そして少しの間があって扉が開いた。

「智!」

「由紀!」

ひしりと抱きしめ合い、久闊を叙す。

「元気そうじゃない。」

「あなたも変わらずにいるわね。」

そんな話をしてから室内に上がるのを促してくれた。だが俺には横の庭から聞こえる声が気になって仕方ない。母さんも気づいたのだろう。顎をしゃくって行ってこいと促してくれた。大喜のお母さんに軽く一礼して、手に持ったお肉を母さんに渡して庭の方に足を向けた。

恐らく大喜のお父さんだろう。火起こしに苦労しているようだ。

「手伝います。今日お世話になる如月優です。よろしくお願いします。」

そう挨拶をしてトングと軍手を借りて、ガチャガチャと炭を弄る。どうも風の通り道が狭いようで火がしっかりと起こらないようだ。調整し直して火を付け直す。すると5分位でしっかりと火が立った。小さい炭と大きいのを入れて、火を強くしていく。

「いや〜〜、上手いね。」

「いえ、空気の通り道が狭かったので少し調整しただけですよ。」

そんな会話をしていると後ろのドアから声がかかった。

「優、来てたんだな。」

「ああ、大喜か。うん、さっき着いたところだよ。女性陣に5分位で準備出来るって伝えてくれ。」

そう大喜に伝えて火の準備に勤しんだ。

 

 

 

 

 

 

庭へと向かう優君を見送った後、家に上がらせてもらった。

リビングに向かう最中、智さんと猪股君のお母さんの会話が耳に入ってくる。

「いや〜、いい子ね優君。」

「視座が高いというか視野が広いというか。周りを見る目があるのは確かね。」

「ウチの大喜とはえらい違い。」

「そんな事ないでしょ。優が褒めてたわよ。真面目で明るくて優しいって。バドも課題に黙々と取り組む姿勢が勉強になるって言ってたわよ?」

「あら、めっちゃ褒めてくれてる。大喜にも意外や意外に見所があるのね〜〜〜。」

「えらく辛口ね。」

「そりゃアンタ。優君と比べたら月とスッポン位の差があるじゃない?」

「優に関してはイギリスでサッカーを教えてくれたら環境が良すぎたのよ。最高のチーム、最高のコーチ、最高のライバル達、そして最高の練習相手。その全てがあって、あの子の情熱と努力があったからあそこまでいったのよ。」

「本当に良い環境で、あの子は練習出来たよ。ハリーにジェーンの2人には感謝しかないよ。」

将史さんがイギリスでの思い出を口にした。2人の名前が出てきたけど誰なんだろう?女の人の名前も出てきたよね?不安が心に影を差した。

「あれだけ凄いなら優君、イギリスでもモテたんじゃないの?」

「あぁ、ないないない。」

猪股君のお母さんの言葉に被せ気味に否定する智さん。将史さんも苦笑いを浮かべている。どうやら優君に浮いた話はないみたいだ。でも智さんは爆弾を落とすのを忘れない。

「ジェーンって子が優にぞっこんなんだけど、優って全く興味なしのスルーよ。金髪青目のボン・キュッ・ボンの超絶美人なのに!!」

ハァ〜〜〜と大きな溜息を吐きながら、ポツリと呟いた。

「ホントあの子って異性に興味なしなのかしら?」

智さんがコチラを向いた。

「千夏ちゃんが優とくっついてくれたらな〜〜〜。」

「いやっ、その、どうなんでしょう?」

いつもの智さんの願望を此方に言ってくるのを、優君を意識し始めている私は上手く返せなかった。

「母さん、そろそろ始めようって〜。」

猪股君が私達を呼びに来てくれた。聞かれてたかも。もしそうだったら恥ずかしいな。

猪股君のお母さんが冷蔵庫から切られた野菜やお肉をリビングのテーブルに出してくれる。それを私と智さんが庭へ次々と運んでいく。庭にセッティングされたテーブルに優君が綺麗に並べていく。

猪股家、如月家が庭に勢揃いした。

「さて。これからBBQを始めますがその前に、一応大喜君、千夏ちゃん、優の決起集会の意味合いもあるので、各々目標を発表してもらい、達成の為に覚悟を持ってもらいましょうか。……んじゃ優から。」

優君が頭をガリガリ掻いている。少し考え込んでから話しだした。

「え〜〜〜、今回この様な場を開いて頂き、最初に感謝します。出るからには県で、そして全国でトップを取りに行く。その覚悟を定めて、やってきたつもりでいます。大喜、千夏先輩、競技は違うけれど一緒に全国に行こう。そして全国出場を決めて、またBBQをしてもらおう!」

最後の締めの言葉に皆は拍手するが智さんは慌てだした。“いや、ちょっ、この肉代幾らしたと思ってるの!来月もなんて無理だって!”と言ってるが優君は気にせず無視して、拍手している私に出番を譲ってくれた。

「優君も言ってくれましたが、この様な場を開いて貰え、ありがとうございます。私は去年決勝で負けてしまい、全国出場をあと一歩のところで逃してしまいました。あの悔しさをバネに、この1年必死になって練習してきたつもりです。その成果を来週からの県予選でしっかりと出して、全国に出て、智さんや由紀子さん、お母さん以来の全国制覇を狙います。」

皆が拍手をしてくれた。優君の方を見ると私なら出来ると信じてくれている。そんな顔で此方を見て軽く頷いてくれた。

「じゃあ最後に大喜だな。大トリだ、バシッと決めてくれよ。」

優君がからかうように言うと猪股君がワタワタと慌てている。

「えっ、いやっ、その〜、2人のように実績も経験もないけど、だからこそ当たって砕けても構わないという気持ちで、全力全開で戦ってきたいと思います。そして2人に負けず全国出場を目標に頑張ります!」

拍手をして、とりあえず3人の抱負を発表し終えた。

パンッと智さんが手を叩いて、空気を一瞬で切り替える。

「さあ、食べましょうか!子供達はお腹ペコペコのようだし。」

そう言ってトングを優君に渡した。

「ほら、BBQ奉行。仕事よ。」

するとサクサクと左手のトングでお肉を次々と置き、右手のトングで野菜を置いていく。何が凄いって左手で2本のトングを器用に操り、生肉と焼けたお肉を別のトングで挟んでいる所だろう。いちいち置かずに器用にくるりくるりトングを回して使っている。

周りのみんなから注文を聞いて捌いていくのは一種の仕事人のようだ。

それにしても優君って、多才な才能の持ち主だと常々思わされる。いけない!さっきから優君、焼いてばかりで食べてないっ!

「優君、あ〜ん。」

優君が困惑気味に此方を見てくる。

「さっきから焼いてばかりで食べてないでしょ?だからあ〜ん。」

焼いてくれたお肉にタレをつけて差し出すと、おずおずと口に運び咀嚼する。美味しさに綻ばせた顔を見せる。こういった時に年相応のあどけなさが出てくるんだよね。

「美味しい?」

「ええ、とても美味しいです。」

そんな感じでBBQが進んでいった。

 

 

 

 

目の前で子供3人がモリモリとたくさん食べてくれている。

隣の智と一緒にビールを飲みながらの一杯が美味い!旦那と将史さんは今野菜を切り、ビールの追加を持ってきてくれている。

「千佳が居てくれたらなお良かったんだけどね?」

「まあしゃ〜ない。海外にいるんだから。そもそもアンタと千佳がそんなに会ってなかったのに驚きよ。」

「両方とも子供の世話に忙しかったからね。年1か2回のカフェくらいかな?」

「なにそれ、海外にいたアタシと変わんないじゃん。」

海外にいて、夏と冬の長期休暇の時に帰って来た時に必ず会いに来てくれてた智とそんなに変わらないのか。メールや電話で連絡は絶えず取り合っていたけど。

「確かにそうかも。」

笑いながら、高校みたいにくだらない話をしていた時に戻ったようだ。

さて9時も回った。そろそろ締めに入るか。

「お父さ〜〜ん、焼きそばしよっか〜〜!」

「は〜〜〜い。」

そのやり取りを聞いたのか、優君が焼きそば用の鉄板を準備し始めた。

「ホント、優君っていい子ね。目端が利くというか要領がいいというか。」

「ホント、どっちの親に似たのやら。病院で別の子に入れ替わりでもあったのかも。」

「あはは、それが本当なら大問題じゃないっ!」

馬鹿話をしていると家の中からおずおずとお父さんが話しかけてきた。

「あの〜〜〜、御歓談の最中、大変申し訳ないのですが、………すんません、焼きそばの麺買い忘れました!」

「ああん!?ちゃんと買ってくるものメモして渡したわよね?何忘れてんのよ!?」

ちょっとドスを効かせて返事をすると、お父さんが“すんません、すんません”と謝ってくる。

「いやいや、由紀だって2年のインハイ予選、バッシュ忘れて学校に来たじゃない!みんなで借りたバスに乗って由紀ん家に取りに行ったの覚えてる。あれはウケた!」

そんな過去の出来事を爆笑しながら智が大きな声でいうから将史さんは口を抑えながら笑い、子供達もプルプルと震えて背中を此方に向けて笑っている。

「忘れたなら買いに行けばいいだけの話でしょ?ねぇ優?」

智が自分の息子に問い掛けると優君が肩をビクリと震わせたのが分かった。買いに行かされると思ったのだろう。

「………分かった。焼きそばの麺だけでいいの?」

溜息を吐きながら、他にも注文が無いか聞いてくれる。ここらへんの気遣いが違うわね。

「ならアイスでも買ってきてもらおうかな?私モナカ、皆は?」

智が皆に問い掛ける。将史さんが抹茶味のアイス、おじいちゃんがバニラソフト、お父さんがミルクキャンディー、私がシャーベット系のレモン味と注文を言う。分かったと言って出掛けようとする。

“私も行くよ”と千夏ちゃんが一緒に行こうとする。大喜に近くのスーパーまで案内してあげなさいって言うと、“わかってる”と返事をしてきた。

“じゃあ、行きますか”と優君の一言で3人連れ立って買い物に出かけて行った。

「それにしても優君がライバルか〜〜。あの子に勝ち目あんのかしら?」

さっきから見ていて気付いたこと、本音を大きな息を吐きながら漏らす。

「いやいや、優も奥手かもしれないし、最後の最後で捲くるって可能性もあるわよ?そもそも優と千夏ちゃんが進展するかも怪しいし。」

「まっ、私達親はこういう時は黙って生暖かく見守るしかないわね?外野から面白楽しく見させてもらいましょうか。」

「そうね。」

2人顔を見合うと、どうしても笑ってしまう。とりあえず千佳にも連絡を入れて、母親3人で子供の恋路観戦と行きますか。

 

 

 

 

 

行きはBBQが楽しかったなどの話で終わった。スーパーの中では目的の物を探し、焼きそばの麺を買い、アイスのコーナーに向かう。

注文されたアイスを優がテキパキと籠に入れていく。どうやら覚えていたようで5分かからずに買い物が終わった。

帰り道は何故かバドミントンの話になった。

「へ〜〜、なら県も全国も優勝候補は佐知川なんだ?」

「ああ、去年優勝したのが兵藤さんって言って、2年で全国優勝したんだ。針生先輩も歯が立たずに負けたんだよ。」

「なら大喜が全国に行くには、針生先輩やその兵藤さん、佐知川の人にも勝たないとだめなのか、大変だな?」

「ああ。でも優に鹿野先輩が全国優勝を目標にしてるのに俺だけ県ベスト8やベスト4とかなんて答えられないよ。」

優と並び立ちたい。そう思っているのに男としてダサい答えを言いたくない。

「俺は真剣に目標として掲げているなら笑わないよ。大喜がしっかりと練習しているのは針生先輩からも聞いているし、朝練に早くから来ているのを知っている。だから全国優勝を目標にしても笑わない。それに俺と同じ全国制覇を達成しようとする同志だって知って嬉しいくらいさ。」

「………優……。」

「私もそれが目標なら笑わないよ。」

笑みを浮かべながら言う千夏先輩に思わず突っ込んだ。

「いや、顔緩んでますよ。」

「えっ嘘っ!」

「千夏先輩、ギルティですね。」

笑いながら千夏先輩をからかう。

「もうっ!すぐ私をからかって遊ぶ!!私の方が年上の先輩でお姉さん何だから敬いなさい!」

鹿野先輩がプンスコと怒っている。なんか可愛いなこの人。

「わかりま〜した、せ〜んぱい。」

「またそうやって茶化すように言う〜〜〜!」

“あはははは!”と笑う2人。仲が良さげな2人を見ると恋敵としては何とも言えない気持ちになる。

そんな俺の様子に気付いたんだろう。優が話題を変えた。

「大会まであと一週間。リフレッシュも出来た。後悔なく頑張ろう!」

「ああ!」「うん!」

改めて実感する。俺はまだまだ頑張らないといけないって!

 

 

 

 

あのBBQから一週間。いよいよ県予選だ。

参加するペアも多いから朝から夕方までビッシリと予定が組まれている。俺と針生先輩も何試合もすることになるから気合入れていかないと。地区予選を突破した強豪ばかりだから。

4ブロックに別れ、各ブロックの優勝ペア、優勝者が総当たりをして順位を決める。先ずはブロックで優勝しないと全国へは行けない。

「行くぞ大喜。」

「はい!」

いよいよ始まる。針生先輩に声を掛けられてついていく。

今日はダブルス、明日はシングルスとあっという間に終わってしまう。負けて後悔しないように今出来る全力を出し切ろう。

 

 

 

「行くよ千夏!」

「うん。」

バッシュの紐を改めて結び直した。そして最後に足首に巻かれたミサンガを触る。優君とも約束したから。一緒に全国に行くって。落ち着いてやればいい。先輩に渚や優香と頼りになるチームメイトもいる。いつも通りにやればいいだけだ。

休養日を含めて1週間で決勝まで行われる。試合日は4日間で1回戦ずつ進み、最後の日だけ準決勝、決勝と2試合が午前午後と行われる。決勝の籠原との大一番が待っている。今年こそ勝って全国に行きたい。

立ち上がるといつもの嗅ぎ慣れた優君の爽やかな香りが漂った気がした。朝のアレのせいかな?その香りを感じると私なら大丈夫って言われている様な気がした。

 

 

 

午後の試合に向けて午前中は学校で軽く身体を動かした。

昼食はゼリー飲料や消化にいいものを各々用意して食べた。ユニフォームに着替え、準備を整える。

さあいよいよ2週間かかからずで終わる長いのか短いのか分からないが日本での最初の大会が始まる。ワクワクとドキドキが同居している。

指を組み合わせて、前に伸ばし、グーーーっと伸びをした。上半身の伸びているのが分かる。ふぅ~と大きな息を吐き出した。

さぁ、行こうか!千夏先輩との約束である全国出場を先ずは果たしに行こう。

 

俺達(私達)の夏が始まる。




話の中で出てきたハリー、ジェーンはいずれかのタイミングで出します。お楽しみに。
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