アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました。

今月中にもう一話いけるかな?頑張ります。


インハイ予選1回戦

いよいよ県予選が始まる。いつも通りに6時に起きて下へ降りる。前に嗅いだ酸味のある香りがする。

リビングに入り、朝の挨拶をする。

「おはようございます。」

「「おはよう千夏ちゃん。」」「おはようございます千夏先輩。」

将史さん、智さん、優君が挨拶をしてくれる。

ここもいつも通り、リビングの椅子に座って新聞を読んでいる将史さん。キッチンで朝食を作っている智さん。

そして前みたいにキッチンでパスタを作っているのだろう優君。

「千夏ちゃん、いよいよね!今日は私もパパも観に行くから。」

「えっ!本当ですか!?」

智さんと将史さんが観に来てくれる事に驚いた。

「午前中に千夏ちゃん、午後に優の試合を見に行くから二人共頑張ってよね!」

「はい!」「分かってる。」

返事をすると、よろしいと言わんばかりに大きく頷いた。

「さ〜て千夏ちゃんは朝食はどうする?いつもの和食もあるし優のパスタもあるわよ?昼前の試合だからシリアルや果物なんかの軽いのでもいいし、どうする?」

そう尋ねられる。

「優君お手製のボロネーゼでお願いします。大事な試合の時の勝負飯にしたいので。」

「了解。麺はいつもの量を茹でちゃって大丈夫?」

「はい、お願いします!」

10分もせずに両手に皿を持った優君がやってきた。私の前に皿を置くと、綺麗に盛られたボロネーゼがそこにあった。

「では、いただきますか?」「うん!」

「「いただきます!!」」

手を合わせ、声を合わせて挨拶をする。

早速フォークでクルクルと巻いて口に運ぶ。

トマトの酸味と肉の旨味、玉ねぎの甘さがやっぱり美味しい!

でも…前に食べた時と何かが違う。何だろう?

「これ、前に食べたのと同じ?何処か違うような?」

美味しいけどどこか違うと疑問を呈すると、優君が驚いた顔をしていた。

「まさか気付かれるなんて………今日のはトマトの酸味が強くて甘みとコクを追加するために黒糖を入れたんです。」

不思議そうにしている優君、何か可愛いな。

「前に食べたのと違和感があっただけで、何が入ってるかは分かんなかったよ。こっちも美味しい。」

そう言ってもう一口と口に運ぶ。うん、美味しい。

卵入りのコンソメスープも気持ちが落ち着く。

食べ終わると準備をしに部屋に戻る。ジャージに着替えて部屋を出ると優君も出てきた。気合が入っているのが分かる。

「いよいよ始まりますね。」

「うん、頑張らないと。その為に日本に残ったんだし。」

いつもの様に右手を掲げてハイタッチをしようとすると優君が指を絡めて握ってきた。

そして反対側の手を背中に回し、抱き締めてきた。優君の体温と匂いを感じる。

急で反応が出来なかった。固まっていると耳元で願うような柔らかく優しい口調で囁いてきた。

「Chinatsu,You'll be fine.May you be blessed with happiness. (千夏、貴女なら大丈夫。貴女が幸せに恵まれますように)」

固まって何も出来ずにいると、身体を離してくれた。

「大丈夫です。千夏先輩は全国に行けますよ。俺が保証します。」

英語で、多分大丈夫、君に幸運をって言われたんだと思う。もう優君にそんな優しい声音で言われたらお告げのように思うじゃない。

「優君に言われると、何か不思議とそうなりそう。」

「そうですか?千夏先輩の頑張りは一番近くで見てたのでいけますよ。」

「私もだけど優君もだよ?一緒に行こうって約束したよね。」

約束覚えてるよね?って聞くと当然と言わんばかりに大きく力強く頷いてくれた。

「一緒に全国行きましょう!」

「うん!」

2人で集合場所である学校に向かった。

 

 

 

 

 

9時に学校に集合だが私と優君はいつも通り7時に朝練をしに、学校に向かう。守衛さんに挨拶をして、私は体育館、優君はピッチに向かう。

別れ際に腕相撲の様に手を差し伸べてきた。それを見て優君の顔を見ると澄んだような顔と目をしている。

手を握ると、スッと耳元に顔を寄せてきた。

「Good Luck,Chinatsu.」

そう言うと手を離し、優君はピッチの方に逃げるように駆けていった。

全く、恥ずかしいならやらなきゃいいのに。あんなに顔を真っ赤にして、慌てて去るなんて。

でも勇気もやる気も元気ももらった。先ずは1回戦、行こう!

 

 

 

 

体育館に到着すると9時からの1試合目が始まっていた。

「さあ、私達もアップ始めるよ!」

キャプテンの声に、“はい!”と皆が返事をし、アップ用に空けられているコートに向かう。

みんな着々と試合に向けて準備を進めていると男女2人が並んで此方に向かって歩いてきている。

前を歩く女性はサングラスをかけているものの、この場にいるバスケをしている女性の大半が気づいているのかヒソヒソと話している。

「ど〜も、陣中見舞いに来ました。良かったらこれ飲んで。」

そう言って将史さんが両手に持っているビニール袋を差し出した。袋の中にはスポーツドリンクが大量に入っていた。

私には分かる。家にあった優君がサッカーの親善試合で貰った最優秀選手賞や優秀選手賞の副賞の景品のドリンクだということを。飲み切れずに大量に家にあり、在庫処分の意味合いもある。

口に手をやって笑うのを隠すと、智さんが口に人差し指を一本立てて、“し〜〜〜”としている。将史さんも苦笑している。

代表でキャプテンがお礼を言い、みんなで唱和する。

「ありがとうございます!」

「「「「「ありがとうございます!!」」」」」

「頑張ってね。上から応援してるから。」

栄明全国制覇のキャプテンで全日本でもキャプテンを務め、五輪銅メダルの伝説のキャプテンが観戦して、更には応援もしてくれている。否が応でもテンションMAXだ。

 

 

 

 

 

眼下で母校が試合をしている。私達の時と変わらないユニフォームで千夏ちゃん達が試合をしている。全員がゴールを狙いながらも相手の隙を、フリーの味方を活かして着実に得点を重ねていく。守備も積極的にマークに圧を掛け、味方のフォローも忘れていない。このまま問題なく勝つだろう。

それにしてもアレね。まだまだ私の知名度も馬鹿にならないらしい。クオーターの合間で記念写真を頼まれる。

よし、終わった!無事1回戦突破だ。全国出場、全国制覇が目標なら当然だけど。

さて、優の試合に向かいたいんだけど………この写真撮影の大量の待ち人を処理しないと向かえそうもない…………。

 

 

 

 

 

目の前でスタメン組がアップをしている。体力、気力が漲っているのか声も出ているし、表情も明るい。

ベンチ組はピッチ周りに飲み物の準備をする。この気温だ。7月入ったばかりなのに30℃を朝から軽く越えてくる。

日本独特の蒸し暑い夏だ。埼玉だからか更に暑い。

スタンドには何校かのサッカー部の偵察、両チームの保護者、そして国内海外のスカウトが大勢来ているのが分かる。

1回戦にしてはあまりに多い観客に驚いた。まさかこんなに来るなんて。

さてそろそろ始まるようだ。ベンチに戻ろう。

 

 

 

キックオフ。栄明からのボールで始まった。最終ラインとダブルボランチが上手くパスコースを作りながら相手のプレスを躱す。徹底的に仕込んだからこの辺りは俄仕込みとはいえ上手いな。

それに相手のプレスは攻撃的選手だけので、全体が連動していない。幾つも逃げ場というかパスの出し所がある。

2列目と3列目の間がポッカリと空いた。其処を沢先輩が上手く使ってフリーでボールを受ける。

この辺りは沢先輩と紅林先輩が頭一つ抜けている。前を向いた沢先輩に連動してFW陣が動き出す。裏のスペースを突く、横並びになってパスを受ける体勢になる。ダイアゴナルに動いてギャップを作る。SBが上がる。

ワン・ツーでボランチを1人躱してバイタルエリアに迫る。そこからサイドに展開し、センタリングを上げる。相手が頭で弾き返し、サイドにクリアする。

そこから栄明がボールを保持し攻め、相手が守る形になった。

もう30分になる。中々攻め崩せないな………ペナルティエリアまでは行くが、そこからの精度と相手の対応が見事なものだ。

相手キーパーのパンチングをDFがクリアした。紅先輩の相方のCB山下先輩がクリアしようとした瞬間、相手FWが横から突っ込んできた。横向きに身体から落ちたが頭をピッチに叩きつけていた。

マズイっと思って立ち上がった。ファールの笛が鳴り、プレーが止まる。頭を押さえている。大丈夫なのか?

「担架の用意して!」

担架担当の人に頼み、様子を見守る。数分後、紅林先輩が頭上にバツを作った。多分脳震盪だろう。立てないようだ。

慌てる監督と代わりのCBである1年生でベンチに入った控えCBの横川は顔を強張らせている。1年生で俺と横だけがメンバーに入った。

それもそうか。いきなり出番が、それもアクシデントで来るとは思っていなかったのだろう。青白く顔色もなってきた。

こりゃあダメだな。仕方ない、そう思いジャージを脱いだ。

「監督、俺が行きます。」

監督が驚いた顔で此方を見た。俺は無理だと首を横に振り、横川を見ると監督が横川の顔を見た。その様子を見た監督は仕方ないと思ったのだろう。俺の顔を見て頷いてくれた。

「それで如月、どうする?」

「前半はこのまま俺がCBに入ります。後半から横川にCBに入ってもらい紅林先輩とバディで行きましょう。」

隣でまだ顔色が良くない横川の肩に手をやると、やっと俺の、俺と監督の存在に気付いたのか此方に顔を向けた。

「横、お前は後半頭からCBとして入れ。いいな、最終ラインとダブルボランチと連動して動き、チャレンジ&カバーを徹底しろ。50:50のボールに躊躇するなよ?」

肩を掴んで少し力を入れて握る。お前が出場するんだ、覚悟を決めろと言うようにだ。

横は俺にその時になってやっと俺に気付いた。そして俺の顔を目を見て、力強く見返してきた。

やっぱりコイツは強いやつだよ。エンジンをかけ直してやらなきゃならんが、すぐに気持ちが入り戦える男になった。

「行けるな、横川!」

「はい!!」

「ならお前は後半の頭から入れる!準備しておけっ!」

「はい!!」

そう言うとアップする場所に向かって行った。俺は交代の申請を第四審判に伝え、スパイクとユニフォームのチェックを受ける。そしてヘアバンドを装着し、戦闘態勢に気持ちも身体も入れる。

「ゆ〜〜〜う〜〜〜!!」

この大声。心当たりがあり過ぎる………後ろを見ると母さんが手を振っていた。苦笑するしかない。

ピッチに振り返ろうとする。その時、母さんが右手の手の平を下にして上下に何回か動かした。そして左手の親指を立ててグーのサインをした。

フフッと笑ってしまう。そっか、千夏先輩勝ったんだな。

そっか、なら俺も勝たないとな。母さんが祝いの料理を準備してくれるだろうからな。

主審が交代の合図をしたのでピッチに一礼してから入る。拍手を観客がまばらだがしてくれた。

「フォーメーションはそのまま!俺が左CBに入る!フィニッシュの精度の所を拘って行きましょう!」

ポジションの確認や指示に皆が頷いている。

さぁ、試合の再開だ!

 

 

 

 

「おい、あれ。浦学だよな?」

「マジで?あいつら1試合目だったよな?栄明見るために残ったのか?」

「だろうよ。」

周りにヒソヒソと話されている。

「あいつがCBか……。まああいつなら卒なくこなすだろうな。」

後ろに座るキャプテンでボランチの大谷先輩が言う。ウチで唯一のU-15日本代表候補合宿に行った経験がある人だ。

「ポジショニングもいいし、技術的にも問題ないな。」

CBでディフェンスリーダーを務める石田先輩が、眼下の栄明を観ながら感想を述べた。

「ラインの上げ下げ、ボールの競り合い、チャレンジ&カバーの徹底も出来ている。CBでも一流だな。」

ウチのFWでエースの島津先輩も如月を褒める。面白くない。

「そうですか?普通ですよ、普通。」

「そうか…お前さんは如月とやり合ったことないのか?なら覚悟しておけよ。あいつの実力に圧倒されるだろうが勉強と思うんだな。」

俺が負ける前提の話に不満が募る。1年でトップ下を務める俺、宇多洋治が劣る様な物言い。

サイドライン中央で1人が選手交代ボードを掲げた。9分が表示されている。選手の負傷交代、治療で試合が止まっていたからな。夏場の試合にしては少し長めだ。

如月にボールが入る。相手のFWがプレスをかける。SBにボールを出すと思ったその瞬間、FWが方向を変え、サイドに向かう。

如月は落ち着いてキックフェイントで相手のプレスを躱して、中央を上がっていく。相手ボランチが下がり目にポジションを取っているからポッカリと目の前が空いている。スルスルとボールを持って上がっていく。

40m程の距離からボールを少し前に出し、左足で強烈なロングシュートを放った!

流石にあの距離、入らないだろうと思ったが、相手のキーパーがポジショニングをフラフラと変えている。そして倒れ込むように防いだ。ボールはゴールラインを割り、得点にならなかった。

「ありゃあ、無回転だな。」

「あの距離からか?」

「ああ。それにしてもドリブルしながら打てるとはな………。」

後ろで先輩が話しているのが聞こえてくる。

如月がトップ下の7番の選手にコーナー蹴るように言っているようだ。

栄明のキャプテン紅林先輩と如月がゴール前に上がっていく。

「あいつの万能性が分かるぞ、宇多。よく見ておけ。」

ペナルティアーク付近で固まっている。上がったと思った瞬間に、スッと移動し、誰よりも高く飛び上がり、力強いヘディングシュートを打った。それは相手キーパーがピクリとも動けない完璧なものだった。

あまりにスムーズに点を取った栄明に観客は拍手をするが、俺達は黙り込んでしまった。あそこまで凄いとはな。

「後半あいつは多分本来のポジションであるトップ下に入るはずだ。宇多、よく見ておけよ。」

試合が再開した。

栄明が前掛かりでプレスをかけた。最終ラインも高く保持している。ボールを奪うと直ぐにキープに移り、如月に渡る。

すると一閃、相手の間隙を縫うようなパスが出た。完全に抜け出した。多分相手は点を取られたことで、先ずは同点と考えて自然とラインが上がったのだろう。

WG2人でパス交換をして、キーパーを躱し、無人のゴールに蹴り込んだ。ロスタイムで点を2点決め、2対0か。

再度試合を再開し、相手のキーパーが遠くにロングキックを蹴った瞬間、前半終了の笛が鳴った。

如月が凄いというのは認めざるを得ない。まさかあの位置からゲームメイクが出来るなんて。

 

 

 

 

 

ハーフタイムが終わり、ピッチに戻る。道中は左に横、右に沢先輩がいる。

「さっきも言ったが落ち着いて一つ一つ対応すればいい。お前の実力は分かっている。テンパらないで冷静に対処すれば何も問題ない。」

「ああ。」

「沢先輩はガンガン仕掛けてください。フォローはしますので。よろしくお願いします。」

「おう。」

円陣を組んで掛け声を出して、各々のポジションに散らばる。

さあ、始まった。

相手のボールから始める。前線の選手がボールホルダーへのプレスに行く。それを俺が後方からフォローする。

それに連動して後方の選手も前へ前へとプレスを掛けていく。

よし、沢先輩のプレスからCFWの3年福島先輩(通称 福先輩)がボールを奪取した。

「へい。」

そばにいる俺がボールを要求する。福先輩が俺に預ける。相手も俺にボールが入るのは分かっている。プレスに来たが軽く躱して、逆サイドにいる左WGのカトちゃん(加藤先輩)にサイドチェンジでボールを送る。

相手SBと1対1。さぁ勝負と思ったら相手の多くがボールウォッチャーになっている。スルスルと中央に動き直すとカトちゃんが俺の動きに気付いた。

足元に強いボールを出してくれた。それを腰を捻って左足でニアではなくファーサイドを狙ってシュートを放った。

キンッと小さい金属音が鳴りながらもボールはサイドネットに突き刺さった。

「よしっ!」

さてゴールパフォーマンスと思った瞬間、カトちゃんが抱き着いてきた。早い早い早い。

「ナイッシュー如月!」

バシバシバシッと頭を叩いてくる。痛い痛い痛いっ!

そんな事をしているとみんなが集まってきて祝福してくれる。

「まだ後半は始まったばかりです。点は取れるだけ取れる内に取る。ガンガン攻めましょう!」

俺が喜ぶのはここまで、早く始めようと言うと何故かみんな苦笑している。

「お前、そういう所は流石だよ。」

沢先輩が俺の頭をポンポンと叩く。

「頼もしい限りじゃないか、次期副キャプテン。」

紅先輩が嬉しげに何か恐ろしく重大な事を言い始めたぞ!

「もう副キャプテンがどうって決めてんすか?」

「そりゃあ、夏大終わったら引退する奴も出てくるしな。次の体制は早めに決めておくに越したことはない。」

「そっすか………。」

「ああ、俺は冬の選手権までいるから心配すんなよ。」

ピピッと笛が鳴った。主審が早く戻ってリスタートの準備をするように促してきている。

紅先輩の行くかっ!という声に皆が散らばりながら各自ポジションに戻る。

その後もガンガン攻勢に出る栄明イレブン。俺が右サイドに流れて沢先輩とワン・ツーで抜け出し、深く抉っていく。福先輩の高さに合わせるフワリとしたクロスを上げる、………が相手CBとの競り合いで高く跳べなかったのか上を通過する。おいっ!

と思った瞬間、後ろにいたカトちゃん先輩が右で合わせるだけのボレーを放ち、ゴールを決めた。

しれーっとゴールを決めたカトちゃん先輩が人差し指を天に突き出し両手を上げてイエ〜〜〜イと喜んでいる。

全く調子の良い先輩だ。軽く手を叩き合い喜ぶ。今回は戻りながらだが。

 

 

 

 

目の前で如月選手がボールの位置を調整している。

ゴール前でファールを取られたことでフリーキックを与えてしまった。中央より右サイド寄りだ。ペナルティ横のラインから少し離れた距離にして35m位はあるだろう。今も反対側のペナ角に栄明の選手が固まっている。

恐らくファーから中央、またはニアになだれ込み、如月がそれに合わせたボールを入れてくる筈だ。手を4本指で立てている。

何かのサインプレーと思うが何か分からない。

助走からゆっくりと走り出した。恐らくボールは俺の上を通過する!蹴るタイミングを合わせてジャンプすると俺の左上を通過していった。

なっ!!着地した瞬間に振り返るとボールが右上隅を通過していった。この距離、この角度、右足であそこを狙うのかよ!レベルが違い過ぎる。

さっきからポロポロと5分に1回の感じで点を取られている。

これで10点目だ。その瞬間、ピッ、ピッ、ピーーーーーッと甲高く大きな音が鳴り、試合終了を告げた。ああ、負けた。これで高校3年間の部活が終わった。これで大学受験に向けて勉強しないと、っ、なっ、!

堪らえようとした涙が溢れてきた。傍にいる如月が近寄って来た。手を差し伸べている。

「ありがとうございました。」

「あ、ああ。ありがとう。」

握手をし、センターラインに向かって並んで走り出した。少し話しながら一緒に歩く。

「これで引退なされるんですか?」

「ああ、受験に専念しないと。」

「そうですか。長い間、お疲れ様でした。」

立ち止まり、スッと頭を軽く下げて労いの言葉を言ってくれた。

「ありがとう。高校3年間は長いようで、過ぎてみれば短い。後悔しないようにな。」

「その言葉、胸に刻みます。」

「じゃあな。」

如月の背中をポンッと叩いて別れた。その背中は思ったよりも大きく分厚く、逞しいものだった。

「礼!」

審判の声で観客席に礼をする。正面スタンドしかないからそちらに一礼してベンチに引き揚げる。

何人かのチームメイトが話しかけてきた。

「最後如月と何話してたんだ?」

「ただ、ありがとうございました。次も頑張れよって言われて言っただけさ。」

そう返し、スタメン組がベンチを片付ける。ベンチ組がピッチ周りのドリンクの回収に向かった。

控え室でシャワーを浴び、身支度を整え、帰ろうとすると。栄明の人達と鉢合わせた。

向こうの人が少し先に出入り口にいたので、先を譲るとお礼の言葉をいい、外に向かって歩き出した。

最後尾に如月とハーフタイムで出てきたCBの奴が並んで自分の荷物とドリンクを持って去っていった。

去り際に、俺に気付いたのか軽く頭を下げた。あいつ、良い奴だな。頑張れよ、如月。

俺は今日お前のファンになった。先に、上に行け。どこまでも突っ走っていけ!

 

 

 

 

 

 

「ではでは、皆さんグラスを持って〜〜〜!千夏ちゃん、優、1回戦突破おめでとう!乾杯!!」

母さんの音頭でグラスを軽く掲げる。隣に座る千夏先輩とはグラスを軽くコツンとぶつけて、乾杯と言う。

「まぁ〜2人共、全国制覇目標にしてんだから1回戦位悠々と突破してくれないと困るけどね!」

アハハと笑いながらビールの入ったグラスを呷る。

「く〜〜〜美味い!暑い中の観戦だったからビールが美味い!」

やっぱ母さんオヤジ臭いよな。千夏先輩は楽しそうに烏龍茶を飲んでいるけど。

「さあ食べて食べて!今日はトンカツにささみカツ、アジフライに海老フライです!優、衣剥いだりしたらぶっ飛ばすかんね?」

「今日はカロリー消費したし、昼に何も食べてないからちゃんと食うよ。」

そんな心配しなくても。

「ささみは梅と大葉とチーズを挟んでみました。そのまま食べて。他はタルタルにトンカツソース、おろしポン酢、塩、醤油はあるから好きなのつけて食べて。お代わりもまだあるから!」

トンカツをソースにつけて一口。うっま、衣サクサクで豚が厚めなのに柔らくて噛み切れる。そうすると旨味脂が口に広がる。端的に言って最高です。

「ん〜〜〜、ささみカツ。梅が酸っぱくて食欲が出ます!」

「でっしょ!うっま!」

母さんもささみカツを食べている。テレビに千夏先輩のバスケの試合を映し、観戦しながらの食事と相成った。

ちょいちょい母さんの解説というか独り言が入っている。千夏先輩がなるほどと頷いているところを見るに、アドバイスか修整箇所に指摘にはなっているようだ。

1時間程で食べ終わると、次は俺の試合を映し始めた。

食後のお茶と果物。母さんが貰ってきたメロンを食べながらの観戦だ。

まあ今日は3ゴール3アシストだから見られても恥ずかしい試合じゃない。

そしていつも通り10時から勉強会をして解散となった。

部屋の前で少し話をした。

「明日、千夏先輩は2回戦ですよね?」

「うん。優君は2日後だよね?」

「はい。お互い油断せずに行きましょう!」

「うん。」

「「行こう全国!目指せ全国制覇!」」

2人の合言葉を言い、あははははと笑う。

「ではお休みなさい、千夏先輩。」

「うん、お休み優君。」

自分の部屋に戻り、眠りについた。




次は大喜、雛のインターハイ予選とその他の話をちょろちょろと書く予定です。
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