アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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大喜と雛の予選を裏としました。いい表記あれば教えてくれたら。

所々、名前をひらがな表記してますが間違いではないので。


インハイ予選1回戦 裏

9時から試合が始まるから7時に学校に集合し、揃って会場に向かう。

今日はダブルスだ。4ブロックに別れ、ブロック優勝ペアを決め、最後は4組で総当たりの結果で優勝ペアを決める。

地区予選でかなり絞ったとはいえ、そこそこの数のペアがいる。ざっとブロック優勝するまでに5回、そして総当たりで3回試合をすることになる。

柔軟、ランニングで9時の試合に備える。

「大喜、わかっていると思うが相手はお前を狙ってくるだろう。だから辛抱強く、一つ一つ丁寧に返していけよ。相手とお前の我慢比べと思え。」

「分かっています。針生先輩とペアを組んだ時から勝敗の結果は俺が何処まで粘り強くプレー出来るかだって。」

「いいねぇ。気合い入ってんじゃん。」

針生先輩がポンッと背中を軽く叩いてきた。

「さぁ行こうか。」

「はい!」

先ずは1回戦だ。コートに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

3回勝ち、少し間が空いたのでゼリー飲料を飲んでエネルギー補給をする。バドミントンなので窓が空けられず、体育館の中は蒸し暑い。

内輪で扇ぎながら、さっきまで試合の反省会を手短にする。といっても今日は意外と小言が少ない。

それどころかよくやっていると褒められた。

「大喜、今から次の対戦相手の試合を観に行く。この試合が最大の正念場になる。相手のプレーをよく見ておけ。」

移動する針生先輩に大人しく付いて行く。あの針生先輩がそんな事を言うなんて。

「前で見ようか。」

「はい。」

針生先輩と並んで最前列に座り、次の対戦相手の試合を見学する。

「針生じゃないか!わざわざ負けに来たのか?ご苦労だな。」

「まさかっ!今回はマジで勝ちに来ましたよ。」

「ほう?隣の奴がペアだろ?」

去年のインターハイ優勝者の兵藤さんが俺をジーーーっと見てくる。どこか気圧される視線だ。でも次に戦う相手だ。臆していられるか。

「中々やりそうだな。針生!楽しみにしている。少しは俺達のプレーを見て対策を考えるんだな!」

サッと手を上げて去っていった。

「凄い自信ですね。」

「実際凄いからな。兵藤さんはバドに必要な能力全てがカンストしているからな。」

試合が始まった。兵藤さんの力量が突出しているのが分かる。なるほどこのパワフルなスマッシュは強烈だ。

「針生先輩と仲の良かった……え〜〜〜と誰でしたっけ?あの人より凄いスマッシュですね。」

仲が良かったと言うと凄く嫌そうな顔をした。

「あいつと比べんな。あの人は文字通りレベルが違うよ。それでもお前とならチャンスがあると言ったのは嘘じゃない。やってやろうぜ大喜。」

またこの人はこんな時にそんな事を言う。

「はい!勝ちましょう!」

「よし強いのは分かったし、大喜にも兵藤さんのプレーを見せれた。アップしに行くか。」

「はい!」

針生先輩が言う正念場の試合がもうすぐ始まる。

 

 

 

 

「よろしくお願いします。」

対戦相手の兵藤ペアと握手をする。

針生先輩からのサーブで試合が始まった。兵藤さんのペアの館山さんを狙うも流石は佐知川で兵藤さんのペアになるほどの実力者だ。中々崩しきれない。

ネット際に落とされたのをギリギリ拾う。しまっ!

バシュッ!!兵藤さんの強烈なスマッシュが俺と針生先輩の間に叩きつけられた。稲妻のようにコートに一瞬で突き刺さった。

「大喜、仕方ない。切り替えろ。」

「はい。」

そうだ。まだ始まったばかり。兵藤さんの強烈なスマッシュを見ることが出来たから無駄じゃない。

そこからは兵藤館山ペアが2点取れば俺達が1点取る状況で試合が進み、12対6と差が開き始めた。

「大喜、大丈夫か?」

「ええ。館山さんのプレーには慣れてきました。上手く館山さんと打ち合う形に持っていきましょう。」

目をパチクリさせている。えっ、俺変な事言った?

「冷静だな。少しは調子が出てきたんじゃないか?」

「そう…なんですかね?ここからは少しずつ攻めていきます。」

「フォローはしてやる。思い切ってやれ!」

「はい!」

そこからは兵藤さんにスマッシュを打たせないようにし、館山さんと打ち合う。針生先輩の相手の身体を狙ったシャトルをギリギリの所で返してきた。だが此方のチャンス。

ジャンプスマッシュを打つと相手のコートにシャトルが音を立てて落ちた。

「よしっ!」

「ナイス大喜!その調子で行こう!」

「はい!」

まだまだ試合はここからだ。粘って粘って喰らいついてやる。

 

 

 

 

 

 

 

やるな針生。館山を集中的に攻めて俺には奥へのロブしか上げない徹底ぶり。あの位置からなら俺のスマッシュでもそうは決まらん。

それに相方の………確か猪股君と言ったか。も丁寧に確実に此方の攻撃を返している。所々で甘いのもあるがそれは針生がフォローしているし、猪股君も割り切って守ろうとしている。

一進一退の攻防になっている。前半でリードをしていて良かった展開になっている。

身体に向かって来るシャトルを館山は何とか返したが猪股君へのチャンスがいく。

パシュッという音と共にシャトルがくる。館山を狙うと思った時、俺の方のサイドを狙ってきた!ヤバい、抜かれたと思いながら眼だけでシャトルを追う。

“アウトッ!”、その審判の声で大きく息を吐き出した。

「21-19。」

第一ゲーム、かなり接戦だったが取れたのは大きい。なるほど針生があそこまで言ったのはハッタリではないようだな。技術的にはさほど上手く感じないが、最後の最後まで粘る気持ちがある。

確か1年生のはず。組んで半年ないはずなのにここまでやるとは、面白くなってきた。

「大喜、切り替えていけ!攻め方はあれでいい。次のセットは取るぞ!」

「はい!!」

なるほど、いいペアだ。猪股たいき君か。覚えたよ。

 

 

 

 

 

ぐっ!兵藤さんのスマッシュをギリギリの所で返す。ネット際に返ったのをプッシュされ、点を取られた。

第二ゲームは、兵藤さんに押されに押されまくっている。兵藤さんがコートの大半を担当しているせいで兵藤さんがプレーに関わる割合が格段に増えたせいだ。

ぐっ!今度はスマッシュを弾いてしまった。

「大喜っ、「すみません!次はキチンと返します!」」

針生先輩から叱責が飛ぶ前に謝ってしまう。そんな俺を何故かポカンとした様子で見ている。

「ばっか、ちげ〜よ。1年でお前はよくやってる。だがこのままじゃあジリ貧だ。だから勝つ為にスピードを上げる。今のお前があっぷあっぷなのは分かってるが勝つ為にはそうするしかない。振り落とされずに着いてこいよ!」

針生先輩のお前なら出来る。だから頑張れという期待と信頼に応えたい。そして何よりここで負けたくないと心底思った。

「分かりました。やってやりますよ。」

フンスッと鼻息荒く気合を入れ直し、覚悟を決める。雛や優、鹿野先輩や針生先輩がいる高みのステージに上がる。

 

 

 

 

 

 

「粘るな………中々決めきれない。」

「ああ。針生君が出来るのは分かっていたが相方が精度は今一つだけど兵藤さんのスマッシュも返せてる。」

ジワリジワリと点差を詰めてきている。

16-10と点差は十分開いている。このまま行けば問題なく勝つだろう。

「向こうの子、何かさっきから雰囲気が変わった。」

隣にいる奴がそんな事を言い出した。雰囲気?んなもんここから分かるか!?

「ああ!?」

「マジかよ!!あれ返すか!?」

栄明に点が入っている。何があったか分からないが差を詰められているのは分かった。

そこからドンドンと点差を詰めてきた。

兵藤さんのスマッシュも難なく返す。良いコースにレシーブするから此方の攻撃も単発に終わる。それを針生さんがしっかりと決める。 

コイツ、目の前のコートで試合をしている相手の選手がゾーンか何かに入ったのにあんな前から気付いたのか………。

「全く、嫌な奴ばかりだな。面倒な相手がまた1人増えやがった。」

悪態と一緒に溜息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

ふむ。流れは完全にあちらだな。中々此方にチャンスが回ってこない。針生は相変わらず巧いと言っていい。

予想外は相方の、確か猪股君と言ったか?覚醒したのか成長したのか。………恐らくゾーンに入ったというやつだろうな。

館山に一発で決めにいかず、粘って持久戦に持ち込む様に指示を出す。長い長いのラリーの末に猪股君のスマッシュが決まった。

くっ!まさか俺の脇の下を通すとはなっ!

ゾーンは下地となる基礎能力がないと入れないし、実力がないと意味がない。

中学上がりからの有力候補で名前が上がっていなかったから、高校に上がってから針生に鍛えられて伸びたんだろうな。

今度も長いラリーから針生がきっちりといいコースに決めてきやがった。

これで19-18か。最悪このセットを取られることも覚悟しないとな。くっ!またか。俺のスマッシュを問題なくレシーブしてくる。館山とラリーが続き、我慢出来なくなったのかロブを奥に上げようとする。

だが思ったより力が入らなかったのか浅い。猪股君が後ろに下がって助走からスマッシュを打つ。館山は返せず、追いつかれた。

が………自分の汗に滑ったのか尻餅をついていた。怪我とかはしてなさそうだか………周囲に目をやっている。これは………多分、ゾーンから現実に戻ってきたのか。

 

 

 

 

 

ぐっ!兵藤さんのスマッシュが決まった。

クソっ、目では追えてるのに腕が反応しない。さっきまでの感覚があれば取れていた。

急に身体が重く感じ、周りの景色が早く感じる。

兵藤さんのスマッシュを返すも相手のチャンスに。館山さんがジャンプスマッシュを打ってくる。それは針生先輩が何とか返してくれた。

“あっ”と思った時には兵藤さんにプッシュでシャトルをコートに叩き落とされていた。

「ゲーム佐知川。2ー0。」

ネット際に寄り、握手をする。

「「ありがとうございました。」」

匡や先輩達、佐知川の人も拍手してくれている。ペコリと一礼してベンチに向かう。次も試合がある。空けないと。

「大喜、昼飯食いながら反省会するぞ。」

針生先輩にそう言わられた。確かに午後も直ぐに試合があるから軽い物。ゼリー飲料くらいしか食べてない。とりあえず弁当持ってきているからそれを食べよう。

針生先輩と食べながら間に置いたビデオでさっきの試合を確認する。

「今日は良かったよ、大喜。レシーブもきっちり良いコースに返せていたし、スマッシュも狙った所に狙えてただろ?」

「はい。2セット目の中盤からは身体も動けてたし、コート全体を俯瞰的に見れてたと思います。」

「お前、あの時のプレー内容覚えているか?」

突然そんな事を聞いてきた。あの時のプレー?どうだろう?

「あんまり覚えてないです。身体が反応するままプレーした感じです。」

「だろうな。部内戦で俺とやった時の感じだろう?多分ゾーンに入ってたんだよ。」

「ゾーン!!あの強い人しか入れない超感覚のことですかっ!?」

「まぁどうなんだろうな?ゾーンは科学的に解析されてないからな。それなりの選手ならなった経験があるって言うし。」

「あっ…そうなんですか………。」

「あんまりそれを追い求めるなよ。お前は先ず基礎能力をもっと伸ばせ。まだまだフットワーク、スタミナ、テクニック、フィジカル、スピードと未熟な所、鍛えれる所が沢山あるんだ。其処を伸ばせれば、お前はもっと強くなるよ。」

「あ、ありがとうございます。」

素直な褒め言葉に言葉が詰まった。

「反省会はここらで止めるか。明日はシングルスもあるし。敵にアドバイスするのもな。」

「そんなっ!」

「分かっているとは思うが、お前が俺と当たるには兵藤さんや他の佐知川の人を倒して、ブロック優勝しないとダメなんだ。我武者羅にやらないとあっという間に終わってしまうぞ?」

折角貴重なアドバイスをもらえていたのに。そうか…針生先輩と今から敵になるのか…………っ!

「ブロック予選で負けないでくださいねっ!」

笑いながら言うと、いつもの様に笑ってくれた。

「生言ってんじゃねぇよっ!お前が兵藤さんに勝てるかよっ。俺でも勝てないのにっ!」

額を小突いてきた。お互いに笑い合い。よし、行くかと言われたので“はいっ!”と返事し、応援席に戻って応援しに行った。

残念ながら栄明バドミントン部はダブルスでブロック優勝したペアがおらず、全ペア予選敗退に終わった。

 

 

 

 

 

もうすぐ私の順番になる。大丈夫、今日の占いも身体の感じも良かった。そのまえのにいなちゃんの演技を見て、私もやらないとって気分も上々。いつも通りにやればいい。

前の人が終わった。私の名前がコールされると会場がざわめいている。私の番を待っていたのだろう。大きく息を吐き出した。

目を瞑り、成功イメージを頭に思い描く。大喜が頑張れって言ってくれた。言わせたかもしれないけど………。

よしっ、行ける!!

 

 

 

 

今日のダブルスの試合映像を見ながら反省と自分の糧になる所を探していると電話がかかってきた。

「雛からか………。」

通話ボタンを押す。

「やっほ〜大喜。今日のダブルスどうだったの?」

「ダメだったよ。優勝したペアに負けた。」

淡々と結果だけを伝える。

「ありゃ?意外と凹んでない?何で?」

いやどストレートすぎる!まあ確かにそこまで落ち込んでないけどさ……少しだけ気を使ってほしい。

「まあ正直ペア組んで数カ月だから、しっくりきてないところもあったし、そもそも俺の実力が針生先輩に劣ってたから足引っ張った感もあったしな。」

「そっか〜………全国への道は遠いね〜〜。」

しみじみ言うな。年寄り臭いぞ。

「でも通用した所も結構あってさ。そこで勝負出来たら明日のシングルスも良い所まで行けるかもって。」

「そっか。」

「そういう雛はどうだったんだよ?」

「ふふん!私をどなたと心得る。蝶野雛様であらせられるぞ。県予選なんてチョチョイのチョイで優勝よ!来月の全国に向けてもっともっと磨いていくよ!」

「やっぱり雛は自信満々だな。結果も残してるし凄いよ。」

しみじみと言うと、何かムッとした口調で反論してきた。

「あのね〜、さっきのなんて虚勢に決まってるでしょ。私だって演技前は緊張するし、失敗したらどうしようって思うよ。でも大喜が応援してくれたから、私なら大丈夫って言ってくれたから。それを信じて今出来るベストを出すだけって。」

「雛………俺は大丈夫なんて言ってないぞ?頑張れとは言わされたが。」

「あ〜〜〜もう!細かいことはいいのっ!!そんなことじゃあモテないぞ!」

プンプン怒ってらっしゃる。

「いやいや、そんな俺に告白してきた稀有な方がいらっしゃるではあ〜りませんか〜。」

「あ、う。それはそうだけど………。いい、大喜!明日見に行ったげるから勝ちなさいよ。」

形勢不利とみて、話題を強引に変えてきたな。

「見に来てくれるのか?」

「そりゃあ、まあ、その、好きな人が頑張ってる姿は見たいものでしょっ!?」

なんか最後は怒ってる口調になりながらも、そう宣言した。

「そ、そうか………なんか改めて言われると……なんか照れるし、恥ずかしい。あっ!もちろん嬉しい気持ちもあるからっ!」

「〜〜〜〜っ!あ〜〜〜もうっ!私明日は朝九時から取材があって昼前からしかいけないから、それまでに負けんじゃないよっ!いいっ、大喜!じゃあねっ!」

あっ!と何かを言う間もなく切られた。

そっか、雛見に来てくれるんだ。あっさりと負けようものなら何言われるか分かったもんじゃない。気合入れないとな。

 

 

 

 

 

 

9時からの取材を終え、電車に乗って目的地である体育館の最寄り駅で電車を降りる。

9時前に学校に行くと、朝練を終えた如月君が汗を少し流しながらいたのに驚いた。

どうも如月君も取材らしい。秋のU-20W杯の取材って言っていた。別室に向かって行ったのを見送って、私も取材を受けた。

インターハイへの意気込みや目標、父親との関係なんかを聞かれた。いつも通り、卒なくこなした。ぶっちゃけ新体操をやり始めた時から聞かれる質問は、大体決まっているので答えるのに苦労はしない。

ほっほっほっ。足取り軽く小走りで会場の体育館に向かう。時間は10時を過ぎ、10時半前。この時間なら1回戦は終わっているけど、2回戦なら見れるはず。

会場に着くと、2階の観客席に行く。大喜の試合は何処でやってんのよっ!?キョロキョロと周りを見回すと栄明カラーの淡い青、水色のユニフォームを着た集団がいた。そこに特徴的な髪型の匡君もいる。

パタパタとそっちに小走りで向かう。階下で行われている試合を見ると大喜が戦っていた。前後左右に振り回されて得点を決められた。

「匡君。」

「蝶野さん、来たんだ。今、1stゲームを取られた所。次も取られたら敗退になる。」

「そっか。」

「気合入れてやってよ、大喜に。多分このままじゃあ、あっさり負けると思うから。」

下を見るとコートチェンジをしようとしている。汗だくでゼェゼェと息を乱し、肩を上下させている大喜と少ししか息も乱しておらず、微かにしか汗もかいてないだろう相手との対比が凄かった。

大喜、負けないで。あんた千夏先輩と釣り合う男になる為にインターハイに行くんでしょっ!ならこんな所で無様に負けんじゃないわよ!!

 

 

 

 

 

くっ!前に落とされたシャトルを間一髪拾う。それを狙われていたのか返しの奥へのプッシュで点を決められた。ゼェゼェと息が乱れる。プレーの合間に整えようにも、短いインターバルと相手のプレーに振り回される。

顔の汗をユニフォームで拭う。コートチェンジをしないといけない。少しでも息を整える為にゆっくりと歩いて、反対側のコートに向かう。

すれ違う時に対戦相手の人がボソリと呟いた声が聞こえてきた。

「昨日試合でもっとやれると思ったんだけど、期待しすぎか。」

バッと後ろを振り向いた。向こうは気にしてないのか、此方に気付きもしない。ギリッと歯を噛み締めた。相手にもされていない。悔しい。負けたくないと心の底から思った。

「大喜〜〜〜!!ガンガン攻めろ!もっと我武者羅にやらんかい!!」

突然の大声に俺も周りの人も観客席を見た。観客席の手摺りから身を乗り出して、此方に怒鳴るような声量で雛が俺に言っている。

そして言うだけ言って満足したのか腕を組んでフンスと鼻息を出していた。フハハ、確かに雛の言う通りだ。

さっきのゲームは守りに比重を置きすぎた。攻めの意識を持たないと押されっぱなしになる。冷静に考えると相手の方が技術は上だ。でも体力やフットワークなら負けていないはず。

そこの勝負に持ち込めれば、まだまだ勝機はある!

もっともっと我武者羅にやらなきゃ!ここで終わったら後悔する。

ピピッと笛が鳴り、雛が静かにするように注意されている。すんません、すんませんと頭を下げて申し訳なさそうにしている姿を見て、肩の力が抜けた。

肩に地縛霊か悪霊でもついていたのかと思うくらい軽くなった。

まだ負けてない。勝ちに行くぞ!

 

 

 

 

このゲームは五分五分になっている。俺が攻める、相手が守る形になってはいるが、相手も攻撃のことを考えて守っているのが分かる。俺の嫌な所か自分が有利になる所へ返すようになった。

試合を自分でコントロールしようとしているのが伝わってくる。前のゲームは脳死したかのように守備一辺倒で、昨日の兵藤さんに押されながらも喰らいついた相手と同一人物か疑ったくらいだったが、今は楽しい。

確か俺と同じ1年生の筈。県内にここまで出来る奴がいたとは思わなかった。

16-12。粘り強くプレーする相手を押しきれず、また失点した。

ふぅ~〜〜と大きな息を吐きながら、呼吸を整える。慌てる必要はない。点差リードしているし、着実に得点を重ねていけている。

………いや、ここは押さないと。兵藤さんと渡り合うのにこの相手に押しきれないのはダメだ。

攻勢を強めると相手が技術で返しきれないシーンが増えてきた。

手間がかかったがなんとか押し切った。

21-18。コートの中央、肩で息をしている相手。審判に促され、ネット際に着た。

「君、名前は?」

ゼェゼェと息をまだ乱しているが、キッと此方を睨んできた。

「いのまた、たいき。いのまたたいき。」

「漢字でどう書くの?」

俺の質問にポカンとした表情をしている。

「俺、漢字に変換しないと名前覚えられないんだよね。」

「猪に股で猪股。大きく喜ぶで大喜。」

「そう。猪股大喜君。またやろう。練習試合か大会か分からないけど。楽しかったよ。」

それだけ伝えて、握手を止めて離れた。

次は兵藤さんとだ。この試合で体力を使い過ぎた。少しでも回復させないと。

 

 

 

 

 

少し先のベンチで大喜が座っている。頭を下げて俯いている。

近寄る事は出来たけど、声をかけるのは憚られた。そんなこんなで大喜の傍でまごついていると、私に気付いたのだろう大喜が声をかけてくれた。

「別にそんなに気を使わなくても。雛がそんな事をするなんて、明日雨が降るぞ。」

最後は笑いながら言ってるけど、どこか痛々しい感じがする。

「降らないもんっ!流石の私でもズケズケと負けて傷心の大喜に絡んだりしないもん。」

「抉ってる、抉ってる。負けて落ち込んでる俺に追加ダメージ与えてるっ!」

「そこで落ち込んでないで、さっさと観客席に戻りなさいよ。私も如月君もアンタの立場なら負けた瞬間に切り替えるわよ。そして何で負けたのか、勝つにはどうしたら良かったのか研究するから。そこがアンタと全国に行く選手との差よ。」

厳しいかもしれないけど、ここは現実を突きつけといたほうがいい。一流とアンタとの差はそういった細かい姿勢から来るのが長い年月積み重なった結果だということを。

勝った負けた、一喜一憂して足踏みしている間に私達は進んでいる。その結果だと。

「……そっか、………そうだな。雛達が強いのはそれを長い間繰り返してきたからか………なら俺がそこに行くには俺もしないといけないよなっ!」

そう、大喜の良い所は前向きにがむしゃらに頑張れるところでしょ。そこに理論や経験、多くの事を入れていけばもっともっと成長するよ。頑張れっ大喜!!

「行ってくるよ雛。雛はどうする?」

当然っ!

「私も行くよっ!大喜が負けた相手が何処まで行けるかも気になるしっ!」

 

 

 

 

 

「匡、どうなってる?針生先輩は?」

「大喜。来たんだ?蝶野さんも。」

試合を見ていた匡に声をかける。

「針生先輩は苦もなくブロック優勝したよ。」

「後はあそこの試合終了待ち。」

そう言って匡が指を指した方に目を向ける。すると兵藤さんとさっき俺に勝った遊佐君が戦っていた。兵藤さんが1ゲームを取って2ゲーム目も押している。15-7。

予想以上に差がついている。

「差が出来てるな。兵藤さんと遊佐君の試合。」

「ああ。1ゲーム目も21-15だったよ。技術的なのは俺からは互角に見えたけど、大喜との試合の影響か動きが重い。そこが結果に出ているようだ。」

「そっか………。」

あの遊佐君が負けるのか………。

「もっともっと頑張んないとな。負けた時は悔しかった。勝ちたいと思った。もっともっとバドが上手くなりたい。」

「そっか。」

「もっと練習して上手くなって、遊佐君や兵藤さん、針生先輩にも勝てるようになりたい。」

「なら頑張んないとな?」

「ああ、練習手伝ってくれよ。」

「分かった。」

そのやれやれって仕草は止めてくれ。でも何だかんだ言いながらも付き合ってくれる匡には感謝しかない。

頑張ろう、もっともっと。

 

 

 

 

 

「明日は千夏ちゃんの準決勝と優の準々決勝。いや〜千夏ちゃんは午前、優は午後と試合時間がズレてるから観に行けて良いわ〜。日頃の行いの成果よね!」

母さんが嬉しそうに言っている。俺としては看過できない言葉が聞こえてきたので突っ込む。

「日頃の行い?母さんが?千夏先輩の間違いだろ?」

父さんはいつも通り笑っている。千夏先輩も何と言っていいのか分からず困っているのか苦笑している。

「ここまで来たなら勝ちなさい。貴方達は全国出場、全国制覇を目標にしているのでしょう?全国に行けなければ1回戦負けとそう変わらないわ。」

「分かってる。千葉経大には春の借りを返さないとオレの気がすまないからな。勝つよ。」

「私も去年のインターハイ、ウィンターカップと籠原に負けて全国に行けませんでした。あの悔しさは忘れられません。勝ちます!」

千夏先輩と顔を見合わせて頷く。千夏先輩も頷いてくれる。一緒に全国に行こうと言ってくれているのが伝わってくる。

「ならしっかり食べなさい。この暑い夏場の試合、食べて体力や体調を維持することも戦いよ。」

今日の晩御飯は穴子の白焼き、牛しぐれ煮、冷しゃぶサラダだ。相変わらず美味しそうな料理だ。苦手な料理をいつも頑張ってやってくれている事には感謝しかない。滅多に口には出さないが。

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