アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました。

2期の情報が出てきましたね。楽しみです。

始まるまでに追いつければいいな………無理かな〜〜、頑張りま〜す


あと少し

朝6時。ピピピピッとアラームが鳴る。意識が覚醒してくる。微かにパンッ、パンッと音がする。何だろう?

身体を起こして、グーーーっと伸びをして本格的に意識を覚醒させる。

ふぅ~と息を吐く。さて準決勝だ。

1階に降り、リビングに入るとリビングに将史さんがいなかった。いつもは新聞を読んでいるのに。

キッチンには智さんが変わらずいた。

「おはよう千夏ちゃん。」

「おはようございます。あの将史さんと優君は?」

そう尋ねると笑いながら顎をしゃくって向こうにいると合図をしたので、そちらを見る。

パンッ、パンッと音がしている。

「2人、外でキャッチボールしてるのよ。」

そう言われて庭に向かうと少しずつ音が大きく聞こえてきた。カラリとスライドドアを動かすと夏の陽射しによる熱気がモアっと身体中を覆った。今日も暑いな〜。

外ではTシャツ、短パンで2人が汗を流しながら大きなフォームでボールを投げ合っていた。

「おはようございます。」

「おはよう千夏ちゃん。」「おはようございます千夏先輩!」

2人に挨拶をすると、いつもの様に返ってくる。この変わらない日常が、迫ってくる試合への高ぶろうとする気持ちを抑えてくれる。

「キャッチボールしてたんですね?」

「ああ、優が朝走りに行かないから代わりにキャッチボールをしないかと誘ったんだ。」

“よいしょっ”と声を出して優君にボールを投げる。優君が右に着けたグローブでボールを捕り、左手でボールを投げた。あれっ?優君ってサウスポーなんだ?

シュルシュルとボールが綺麗な回転をして横一閃で飛んでいった。将史さんが浅い放物線を描いているのに対し、優君は真っ直ぐな線になっている。

「優君って左投げなんだね?」

そう尋ねた。

「えっ?ああ、いや、両方投げれますよ。」

そう言ってグローブを外して右手にボールを持つと左とそっくりのフォームで同じ様に投げた。

「身体を上手く使うという点で両投げを練習したんです。」

まさかの理由とそれを実行できる器用さにいつも驚かされる。

「さて、そろそろ止めようか。朝ごはんも出来るだろうし。」

ヒョイッと優君にボールを投げてから終わりと言って、こちらに向かって来た。

「ああ、分かった。」

優君もボールをキャッチし、此方に向かって来た。サンダルを脱いでリビングに上がってきた。汗をかいたから顔を洗ってくると言って洗面所に歩いて行った。

直ぐに顔を洗って、サッパリした優君が来た。後ろに将史さんもいる。

「10時から千夏ちゃんは試合だから消化にいい海鮮粥にしといたわよ。具材は入ってないけど、海老、帆立、鰹の出汁を効かせたから美味しいはず。」

そう言ってお椀に入った粥を持ってきてくれた。優君も一緒にしてくれている。

それと果物が小さな皿に入っている。梨に桃、マスカットが少しずつ。

毎朝手を変え品を変え、少しずつ違った朝ご飯を用意してくれている。

「将史さんが野球やってたのは聞いたことあったんですが、優君も出来るんだね?」

「ええ。父さんがやってたから日本でも少しやってたんです。イギリスでも父さんとキャッチボールだけですが、ずっとやってましたよ。」

「才能あるよ、優は。日本で真剣にやったらプロには余裕でなれただろうね。ピッチャーでもバッターでもどちらでも大成しただろう。」

「バスケはシュートが入らないから野球に熱中しただろうね。」

優君が肩を竦めて言う。シュートセンスがないのを知っている私は口を押さえて笑うしかない。

食べ終わると優君がシャワーを浴びて準備をする。私も顔を洗って歯を磨いて、諸々の準備を整えていく。

玄関で8時集合の私を優君が見送ってくれる。優君は10時集合だからゆっくりだそうだ。

「お互い今日もベストを尽くして、勝って帰ってきましょう!」

「うん。勝とう!」

両手を掲げて手を打ち鳴らす。よしっ、気合が入った。

そして恥ずかしいけど前の時にしてもらって気合が入ったからと“んっ”と両手を広げて待つと、最初ポカンとしたが気付いたのか苦笑した後、そっと私の背中に手を回して抱擁を交わす。

「大丈夫、俺達なら勝てます。I believe,You believe。」

抱擁を止めて少し離れる。優しく笑う優君を見ると、自信が湧いてくる。

「行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。」

勝つ、そして絶対にインターハイに行く。

 

 

 

 

 

「74-58、栄明高校。」

最後の私のシュートが入って直ぐに試合が終了した。

ふぅ~、終わった。気を緩めた。

負けた相手の選手が泣いている。それを励ましている子もいる。去年の私を見ているようだ。

「な〜に黄昏てんの千夏。」

「渚………いや、去年の私だなって。」

負けて泣いている相手の方を見ると、渚も少し気まずそうな顔をした。

「明日は勝つよ。その為に日本に残ってくれたんでしょ?」

「うん。決勝はやっぱり籠原か。」

ベンチを空け、更衣室で着替えを済ませる。入り口近くの少し広いスペースで監督が話をする。

「明日はいよいよ決勝だ。勝ったほうが全国に出れる。ここまで来たら勝つぞ。」

「「「「「「「はい!!!」」」」」」」

「よしっ。なら今日は、これで解散。遊びに行くのは構わんが明日は大一番だ。疲れを残すような事はするなよ。」

みんなが帰って休むって言っている。とりあえずトイレに行こう。渚も付き合ってくれるようで肩を並べて少し離れたトイレに向かう。

「あそこはスイッチした方が良かった?」

「そうだね。スクリーンかけられてたから身長差あっても代わった方が無難かも。」

試合中に気になったプレーの話をしながら歩いている。トイレは其処を曲がって直ぐと思ったらトイレの入り口の反対側に籠原の人達がいた。

「これが今の栄明の試合?エースはやっぱり鹿野さんか。」

「大したことないですね。以前の練習試合の時から成長していない印象ですし………私がマークにつけば問題ないです。明日も楽に勝てますよ。」

渚が何か言おうと前に出ようとしたから服を掴んで止めた。

ここで私達が出たら気まずいよね。戻って入り口のトイレに行こうとする。渚が何か私に言いたそうにしたけど、声に出ず口をパクパクさせてから閉じた。

「貴方達、ここで余所のチームを貶すようなことを言うのは感心しないわね。ここは公共の場よ。」

聞こえてきた声に覚えがある。バッと振り返ると智さんが籠原の人達の近くで話していた。

「余所のチームの批評がしたいなら学校に帰ってからしなさい。ここには栄明の人達もまだいるだろうし、学校関係者、保護者も大勢来ているの。それを聞いてどう思う?」

気まずそうに、キャプテンが代表して“すみませんでした”と謝罪の言葉を口にした。

「明日は決勝。栄明全国制覇のメンバーと観戦する予定なの。良い試合を期待しているわ。」

そう言って此方に歩いてきた。私達に気付いたのか、あっちに引き返せと手をやった。大人しく引き返す。直ぐ後ろに智さんがいるのが分かる。そして後ろから話しかけてきた。

「悔しい?なら勝ちなさい。勝たないとあの言葉をひっくり返すことはできない。」

「「はい!」」

「私は千夏ちゃんの頑張りを近くで見てきた。貴女なら大丈夫。勝てるわ。」

後ろを振り向くと自信満々に、でも優しく微笑んでいる。言ってくれる表情が優君にそっくりだ。本人に言ったら両方とも嫌そうな顔をするだろうけど。

「私達はこの後、隣の競技場で優の準々決勝を観戦するけど2人はどうするの?」

「私も行きます。ここで解散になったので。」

私も行くと言うと、渚も付き合うと言ってくれた。

「いいの、渚?折角の午後休なのに?」

「あたしの弟も観に来てるはずだし、別に帰っても誰もいないから暇なんでね。」

「お昼はどうするの?」

智さんの問いに、“あっ……”と言葉を窮した。

「息子の試合を観に来てくれるならご馳走するわよ。」

智さんが男前なことを言い出した。

「あざ〜す。ゴチになります!」

調子がいいんだから、渚は。

トイレに行って戻ると優香やあかり、他にも後輩が3人いた。どうやら荷物番として待ってくれていたそうだ。

「ごめん優香。お待たせ。」

「いいよ。それでこの後どうする?」

「私達は隣の競技場のサッカー部の試合を観に行くつもり。」

「しかも森川選手がお昼ご馳走してくれるって!」

渚が嬉しそうに言うと、皆が“いいな〜〜”と言いだした。

「息子を応援してくれるなら、ご馳走するわよ。」

智さんがそう言うと、皆が応援するのでご馳走して下さいと言いだした。

こんな7人もいいのかと不安に思ったけど、ポンッと肩を叩いて構わないと笑う。

「なら行きましょう。」

皆で連れ立って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

黄色のチャンポン屋でお昼を食べた。一番近い店に入ったので其処になっただけだけど。

スタジアムに入ると、両チームがアップをしている。両サイドに別れてロングキックをしている。

「あ、いた。」

隣にいる渚がこっちこっちと手招きしている。1人の男子が近寄って来た。

「何、姉ちゃん?」

「特段用事はないけど、どう栄明は?」

“用事ないなら呼ぶなよな”と小さく愚痴ったのを耳聡く聞いた渚がパチンと軽く頭を叩いた。

“イッつ”と叩かれた頭を擦りながら、ピッチに目を向ける。

「正直レベルが違うよ、如月さんは。サッカーの技術は勿論そうなんだけど。ボールを持ってなくても佇まいや雰囲気って言うのかオーラや格が段違いで差があるって伝わってくるよ。」

「目を引くって言うのかな?誰があの中で一番上手いって知らない人に聞いても多分当てられるよ。それぐらい存在感がレベチだよ。ボール持った姿がカッコいいんだ。………姉ちゃん、俺決めたよ。俺も栄明に行く。」

悩んでるって聞いていたけど、まさかこんな所でこんなあっさり決めるなんて。

笛が鳴り、シュート練と声が上がった。何本もシュートが打たれる。優君は次々としっかりと決める。

満足したのかリフティングを始めた。そんなに時間が経たずにピーーーッと笛が鳴り、上がる様に促した。

すると優君がボンッとボールを高く蹴り上げた。そして指を2本立ててキーパーに合図を送る。そして近くに置いてあるボトルを手に取り、一口飲んだ。

そして膝裏で上から落ちてきたボールを挟んでトラップした。

一回も上を見ずに決めた凄技に会場からオォ〜〜〜と歓声が漏れた。

トラップしたボールをピッチに転がし、前に軽く蹴り出した。そして右足でシュートをする。強烈なシュートはバーの上を直撃し、バイーーーーンと大きな音が競技場に響き渡る。

フワリと跳ね返ってきたボールを、左足ダイレクトで強烈なシュートを放つ。

今度もバーに当たった。しかしさっきと違いバーの下に当たったボールはそのままゴール下をワンバンし、上のゴールネットに突き刺さった。あまりにインパクトのあるシュートパフォーマンスに拍手、歓声が起こり、感嘆の溜め息が漏れた。

キーパーの人にありがとうのグーをして、こっちに向かって来た。多分更衣室に戻って着替えをするのだろう。

あっ、私達に気付いた。右手を上げて気付いた事を伝えてきた。そして両手指を3本立てて、スリーの合図をした。

ハットトリックをとると宣言したのを他の人も気付いたのだろう。ざわつく。

最後に拳を胸にドンドンと当てて、見えなくなった。

「今日も優がハットトリック決めてくれるって。」

智さんが自分の息子のパフォーマンスに苦笑している。

出来ない無茶は言わないだろうけど私は少し心配になった。

 

 

 

 

 

ロッカールームで着替えを行う。ソックスを下ろして、ミサンガに触れる。大丈夫、俺ならやれる。そう呟いてからレガースをソックスの間に入れる。

上のシャツを脱いで汗を拭いてからユニフォームを着る。

そしてヘアバンドを装着し、戦闘態勢が整った。

監督の岡本先生、キャプテンの紅林先輩が相手の注意点やプレーの注意点を言い、円陣を組み、声を出してから通路へ向かう。

浦学の方が先に来ていたようだ。キャプテン同士が互いに良い試合をしようと握手をしている。

相手のキャプテンが話しかけてきた。

「如月、今日はよろしく頼む。お前は俺の事なんか覚えてないだろうが「いえ、覚えてますよ。確か2年前の静岡の選考会合宿にいましたよね。」」

驚いた顔をしている。どうも俺が覚えていた事に驚いたようだ。

「申し訳ないのですが今日は俺達が勝たせてもらいます。」

「させね〜よ。俺達にも意地があるからな。」

今日審判を務めてくれる人がさぁ行こうと声をかけてきた。

握手をし、入場行進に備えた。

 

 

 

 

 

 

過去の試合映像で研究をしていたから分かっていたが、このチームは前からプレスをかけてこない。俺達が最終ラインでじっくりボールを回している。

最初センターサークル付近をウロウロしていたがボールを運ぶのに苦労はしないなと思い、相手陣地の真ん中付近に陣取る。ボランチの大谷選手とトップ下の宇多がマークについている。

「お前に勝ってアンダー代表に向けてアピールさせてもらう。」

宇多が俺をマークしながらそんな事を言う。何かみんなそんな事を言うな。俺を抑えたらアピールになるって………。

「客席の上の方、国内外のスカウトにU-17、19、21、23の監督が勢揃いで来てるよ。」

そう言って客席の方を指差して教えてやる。

「そして残念な事にアピールに成功した奴は一人もいない。ただの一人もだ。」

バッと動く。マークを一瞬外した俺に紅先輩が強いボールを出す。バッカ、ボールが浮いてる。アッていう表情してんじゃないよ。

右手で大谷選手を抑えながら左足アウトサイドでボールの勢いをピタリと殺す。

宇多が前に回り、挟み込んでボールを奪おうとする。勢いを殺したボールが地面につく前にシャペウの要領で右足の甲でボールを浮かし、2人を抜く。抜かれても追いすがる大谷選手を左手で抑えながらペナルティエリアに向かってドリブルを開始する。

前の3人が俺の動きに反応して動き直してゴール前に入っていく。俺にパスを出させまいと、もう一人のボランチが前を塞ぎにかかる。

右でシュートしようとすると、前のボランチが身体でシュートブロックをした。

それを見た瞬間、開いた股の間にボールを通して躱す。大谷選手の前に身体を入れる事で、そのマークも振り切る。

フリーになった一瞬、左足で強烈なシュートを放つ。ディフェンダー、栄明の選手がブラインドになったのかキーパーが反応するも、その一瞬の遅れが致命的な遅れになった。

ボールを弾くことも触ることも出来ず、ゴールネットを揺らした。

ゴールを確認するといつもの様に両手を斜め下に広げてからのガッツポーズをする。そして観客席に指を1本立てて、1点取ったことをアピールする。

さてあと2点。まだまだ試合は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

目の前のピッチで如月さんが縦横無尽に走り、ボール回しから攻撃の組み立てまでしている。マークが最低2人付いているのにだ。

今もボールをキープしながらドリブルを行い、3人目が寄ってきたらフリーの味方に簡単にパスを出している。クロスを上げるも浦学がクリアした。ゴールラインを割ったのでコーナーキックになる。如月さんがコーナーに行き、ボールをセットした。

ショートだ!直ぐにスタートする。7番の選手にボールを出すと少しボールをキープしてからペナ角方向に移動している如月さんにリターンする。中は長身FWとCB2枚がいる。3人の誰かに合わせると思ったらキックフェイントで簡単にクロスを上げさせないと間合いを詰めてきた敵を躱す。抜かれた選手が振り向きながら腰を掴み引き倒した。

ピーーーッと笛が鳴り、審判がペナルティスポットを指さしている。PKの判定のようだ。そして胸からイエローカードを取り出し、如月さんを倒した選手に出した。

浦学が審判に抗議しているが認められないだろうな。完全に腰を掴み引き倒していた。むしろレッドじゃない事に感謝したほうがいい。

やっぱ蹴るのは如月さんか。右足でゴール左上隅に豪快に蹴り込んだ。

胸元でピースサインをしながら手を振る。2得点目のアピールだろう。

ハットトリックを宣言していたから、あと1点か。まだ前半15分になっていない。まさかこんな展開になるなんて。

「あれが如月さんの本気…………。」

ポツリと呟くと、その独り言に答えが返ってきた。

「ふっ、まさか。あれでも優さんの実力の半分も出てないよ。」

前に座っていた人が振り向いた。

「あら、渡君じゃない。いつ日本に?」

如月さんの母親は知っている人のようだ。

「昨日です。優さんの試合があると聞いて見物に。」

「そう。」

顔見知りの2人が和やかに話しているが、俺としては看過できない言葉が聞こえてきたので、それに対して答えを聞きたい。

「如月さんが実力の半分も出してないって言っていたがどういう事だ?」

クラブチームのジュニアの時にお世話になった先輩が浦学にいる。FWの島津さんがそうだ。

その人がいるチームが手を抜いて相手されていると言われては面白くない感情を覚える。

「手加減しているとかではないよ。ただ、あの人は文字通りレベルが違う。特大サイズのダイヤモンドだよ。そしてそれを輝かせるにはチームメイトにもそれ相応の輝きが必要になる。優さんの感性に反応できるイマジネーション、パスワークについていけるテクニック、最後まで落ちないクォリティー。残念ながら優さんを輝かせる程の実力が彼らにはない。」

姉ちゃん達がムッとしたのが分かった。

「そういうアンタは如月さんを輝かせることが出来んのかよ?」

腹立ち混じりに言ったら、コイツは不敵な笑みを浮かべて頷いた。

「当然だろ。」

「そもそもアンタ誰なんだ?」

「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺は馬原渡。U-15日本代表で優さんと中盤でコンビを組んでいた。そして来年、栄明に特待生で入学することが決まっている。君も栄明に来るのなら同級生でチームメイトだな。よろしく頼むよ。」

スッと手を差し出してくる。それをジッと見つめてから馬原の顔を見る。僅かな逡巡の後に手を握った。

「俺を含めたU-15の三傑が栄明に入る事になっている。いずれも優さんのプレーに魅せられた。そしてあの人には日本の、そして世界のトップを走り続けてもらう。それに俺達は遅れることなく追走し、並走する。君も栄明に来るなら覚悟を決めた方がいい。あの人がいる以上、トップ以外を目指すことはないよ。」

挑戦的な表情、口調、態度、視線をしている。お前の覚悟はどうなんだと聞かれている。やる気はあるのかと。

「俺も決めた。あの人がそこまでの高みにいるなら、俺もその景色を見てみたい。」

「そうか…なら来年よろしくな。俺は中等部に転入して、このインハイ予選が終わったら練習参加させてもらう事になっている。」

「俺はクラブチームの大会が終わり次第、練習参加させてもらう。そう姉ちゃんが頼んでくれる。」

“えっ!”と隣の姉ちゃんが驚いているのを無視して話を進める。

“まあ、いいけどさぁ……”なんて言ってくれたので俺は気にしない。

「隣、座るかい?」

「いいのか?」

「俺は問題ない。君は?」

「俺もだ。」

遠慮なく隣に座らしてもらう。

栄明が前からのハイプレスを止めて、自陣にブロックラインを敷いて守る形になった。まあ、この真夏の暑い時期の試合だ。体力的にも厳しいからなのだろう。しかし抑える所はしっかりとマークしているので浦学のボール回しもぎこちなくなっている。

ボールをサイドに追いやる様に守備をし、反対側のサイドのケアをせずに中央を厚くしている。

上から観ているとよく分かる。追い込み漁の様にボールを誘導し、そして狩る。

その刈り取ったボールは浦学も分かっている。如月さんに行く。でも、分かっていても取れない。鮮やかに、軽やかに相手を躱し、前を向く。その時には前のスリートップが動き出している。点を取るために前掛かりでラインの上がった後ろを突かれる。ロングスルーパスがでる。ドンピシャのタイミングで出されたパス。

「キック&ラッシュ、イングランド伝統の攻撃だ。自陣から相手のペナ、バイタルまでロングボールを放り込み、長身FWに競らせて、混戦に持ち込みゴールをどさくさ紛れに奪う泥臭い作戦だ。」

右WGの人がゴール前にグランダーのクロスを上げ、中央のCFWがスルーをし、フリーの反対の左WGの人がポッカリ空いたゴールにボールを押し込んで決めた。これで3-0になった。

「元来、キック&ラッシュは運任せの要素が強い戦術だが、パスの出し手が如月優なら話は別だ。一瞬の判断で相手の急所や穴を突く洞察力、遠くへ蹴るキック力、スペースを射抜くテクニックがジャックナイフのような鋭さで相手を抉り刺す。」

「キック&ラッシュ………ジャックナイフ…………。」

「去年のU-20クラブユース選手権で猛威を奮った超光速カウンターだ。あれは俺達にも出来る攻撃だ。いずれ教えてもらえばいい、楽しみだよ。」

同級生のトップクラスに世界トップクラスの如月さん、そして多種多様の戦術にフォーメーション。栄明に入る楽しみが増えやがった。

今はもう、ワクワクしかない。

 

 

 

 

 

栄明のボール支配率が格段に高い。フリーをつくるための準備に全員が余念なく動いている。それでも詰まる時があるが、そこに如月がスッと現れてボールを貰い、再度立て直しを図る。

王者浦学に対して栄明は超有望選手を一人取っただけのぽっと出の高校なのにっ!

今も大谷先輩と俺を背中に背負いながらボールを受ける。そして難なく前を向き、仕掛けてくる。超高速超絶技巧のドリブルにイエローカードを1枚貰ってる俺は手も足も出せない。

ボールを細かいタッチで俺達の間を通し、身体も強引に俺達の間に入れる。

振り切られると思った瞬間、大谷先輩がユニフォームを引っ掴んで倒していた。大谷先輩もイエローカードを貰う。

まだ前半30分を過ぎた所なのに如月をマークする俺達がイエローカードを貰ってしまった。

しかもゴール正面でのフリーキックまで与えている。

このフリーキックは読みが当たったキーパーが防いだが、良いコースに飛んでいた。

そこからも栄明の攻撃を防ぐので精一杯で碌に攻撃に移れず、前半が終わった。

前半終了のホイッスルがなると、マークの如月がポツリと言い放った。

「前半はアピールならずだったな。後半は俺もギアを一段階上げるから、相当頑張んないとダメだぞ?」

ヒラヒラと手を振りながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

後半が始まった10分が経ったが栄明が攻めに攻めている。

フィニッシュの部分ではゴール前にクロスを上げるも浦学に弾き返されているが。

「栄明ボールが続くな………。」

隣で観戦している船見湊がポツリと呟いている。

「優さんとボランチの2人、そしてCBのキャプテンの指示が利いている。スペースの管理、マークのズレを後ろから修正している。サッカーをよく知っているんだろう。」

もう一回最終ラインから組み立て直す。サイドからクロスを入れるも弾き返された。こんな単調な攻めでは崩せない。

優さんはどうするのか………。

「ガチガチに守りを固められたらどうやって崩すのが良いんだ?」

湊が質問してきた。疑問に思ったことをポンポンと質問してくる。成長しようとする意欲があると捉えればいいのか、答えを手っ取り早く知りたがると思えばいいのか………。

「湊はどういった手段があると思う?」

逆質問をすると、“えっ!?”と困った声を上げたが直ぐに答え始めた。

「高さで勝負、ドリブルで勝負、ロングやミドルシュートを撃つ。どれも作戦としては今一つだな?決め手に欠ける。」

挙げた答え、一応全部正解なんだけど…………。

「そもそも絶対に点が入る作戦なんて無い。味方と相手を相対的に見て、どれが得点を取れるか、どれがチャンスを多く作れるかを見極める必要がある。そうして見ると栄明と浦学の高さ対決は栄明が負けている。ドリブルで勝負も栄明に優さん以外に卓越したスキルを持った選手がいない。ロングやミドルも優さん以外は精度を欠く。つまりこの膠着状態は至極当然の結果なんだ。」

「でもそれじゃあ栄明は点が取れないけど浦学が負けるぜ?前半に3点リードされてんだ。どこかで点を取らないとダメだろ?」

そう、このままでは浦学は負ける。となると優さんの狙いはそれか?守備を固めた相手を崩す練習。カウンターを防ぐ練習を目的として試している?

今もクリアをCBの人がキープして、優さんに強い縦パスを入れる。それをワンタッチで勢いを見事に殺してピタリと収め、サイドに振る。

「ああいうとこ、地味なんだけど巧いよな。流れが滞りそうな所をさり気なく綺麗に流してくれる。多分、栄明は守備を固めた相手を崩す練習をしてるんじゃないか?」

考え込みながら問うてきた。なるほど見る目はある。

「ああ、自分はパスを散らす役割に専念し、他の人達で得点を取る練習をしているんだろう。」

埼玉の強豪を練習台にするなんて、流石百戦錬磨の優さん。

何度も何度もパターンを、バリエーションを変えて攻めるも崩せず、後半30分を過ぎた。

浦学がクリアしたボールがサイドラインを割った。優さんがヘアバンドを外し、髪をたくし上げて付け直した。

相変わらずマークが2人付いているのに、難なくボールをキープする。んっ?ボールを散らさない?

他の人達も気付いたのだろう。ざわめいている。

横を向き、やっぱりパスをサイドに出すのかと思った瞬間、クライフターンでマークマン2人の間を強引に突破した。

一瞬の隙をついて、振り切る。フォローに来たボランチもボディフェイントで瞬殺した。そのままドリブルで最終ラインに向かって行く。

シュートフェイントでCBの開いた股の間を通して躱す。ペナルティエリアに侵入する。

カバーに来たもう一人のCBも細かいフェイントとステップで抜く。前に詰めてきたキーパーもキックフェイントで躱し、無人となったゴールに向かう。

つま先でコロコロとゴールに押し込んだ。6人を一瞬であっさりと抜いて決めた。

一瞬の沈黙から大歓声が起こった。さっきまでの停滞した空気を吹き飛ばすプレーだ。そして浦学の心を折る一撃だった。

観客席に向かって行き、両手3本指を掲げてから振り下ろしていた。

残り10分は優さんが怒涛の攻めを見せた。

ボールを受けながら一人のマークを外し、カバーに来たもう一人のマークを不意に距離を詰めて躱しにかかる。

行かせるかとユニフォームを掴み、足をかけてしまった。優さんと2人、もつれ合うように倒れた。ピーーーッと笛が鳴る。

倒した浦学の選手がわざとじゃないとアピールするも、審判が胸元からイエローを出した。

あれは出るよな。身体を引き倒していたから。

前半に1枚貰っていたからレッドが出された。退場だ。

キャプテンが退場か………ゴール前少し左寄り25mくらいか?優さんの得意な位置だ。

「右で壁上から曲げて決めるよ。」

「分かるのか?」

「ああ。」

浦学がまだ抗議しているが、優さんは自分の世界に入っているのかボールをセットしてゴールを見詰めている。

審判からピピッと笛を鳴らされ、戻るように注意され、壁を作り始めた。

笛が鳴り、ピッチに静寂に包まれた。

ゆっくりとボールへ駆けていき、右甲を擦り上げるように振り抜いた。

ボールが美しい放物線を描いてゴールに吸い込まれた。

今度は観客席から感嘆の溜め息が漏れる音が聞こえる。綺麗な放物線を描き、キーパーも触れず、ネットにパサッという音しか聞こえなかった。何度も見た如月優のフリーキック。芸術のような綺麗だ。

早く彼と一緒にサッカーをしたい。あれを見て足が疼く。

楽しみしかない!

 

 

 

 

 

 

試合終了寸前にゴール前でドリブル突破した優君からパスを受けた沢城君がポッカリと空いたゴールに流し込んで笛が鳴った。

6-0と危なげなく栄明が勝利を決めた。これでベスト4。

「さ〜〜〜て勝って試合も終わったし、帰ろっか。」

一緒に観戦していた私達に、用も済んだし帰ろうかと聞いてきた。みんな頷いて会場を後にしようとするも、智さんが記者に囲まれた。

「あの息子さんについて取材させてください!」

「私もお願いします!」

「月刊サッカー王国です。特集を組ませて頂きたいのですがっ!」

あちらこちらから取材の申し込みがされる。が智さんはピシャリと言い放った。

「取材は代理人の方に申し込んでください。そこから吟味の上、返答をさせていただきます。」

行きましょうと私達に声をかけ、その場を後にした。渚達が前を私は智さんと並んで歩く。

「こんなんが毎回毎回あるのよ。もううんざり。」

うんざりしているのは本当だろうし疲れた様に言っているが、優君が活躍しているのが嬉しいのが分かった。長くはないけど半年近く同居させてもらったから分かる。

優君に似て素直じゃないなって思う。それが可笑しくって私が笑っていたのに気づき、思っていたことがバレたのが分かったのか“優には内緒よ”と笑いながら言ってきた。




次の更新予定は銀英伝、アオのハコを予定してます。

銀英伝、スランプ気味でモチベ上がってこなかったけど色々と話考えてると少し湧いてきたので頑張ります!


4月中旬頃に出せればと思ってます。
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