これでインターハイ予選の話は終わりです。
『予感の途中 茜屋日海夏』 を聴きながら書きました。
いつもの勉強会が終わり、部屋へ優君と一緒に戻ろうとすると後ろから声がかかった。
「明日は大一番なんだから、早く寝なさいよ!」
智さんから注意が入る。
「へ〜〜〜い。」「はいっ。」
各々返事をして、2階に上がる。
部屋の前でお休みと声を掛け合い、互いの部屋に入る。教科書とノートを机に置いて、寝る前に明日の準備をしているとカラリと戸が開く音がした。
優君、ベランダに出たのかな?私と優君の部屋は共通のベランダと繋がっている。
カーテンを開けて外を見ると優君がベランダの手摺りに両手を置いて、空を見上げていた。何を見ているのかなと私も見上げると所々雲があったが綺麗な三日月が浮かんでいた。
私もカラリと戸を開けてベランダに出る。音が鳴ったので優君がこちらを見ていた。
「千夏先輩………。」
「どうしたの、外に出て?」
優君がさっきまで見ていた空を見上げる。
「いや、明日は昼前から小雨が降るかもしれないそうなので心配で外を見たら月がクッキリと見えたので。」
「確かに雲が多いのに今は月がクッキリと見えるね。」
「ええ………綺麗ですね。」
隣で気になっている人が急に綺麗なんて言うとドキリとする。
“ふぅ”と息を吐いてこちらを向いた。
「そろそろ入りましょうか。明日は大事な試合です。しっかり寝ておかないと。」
“んっ”と手を差し出すと、ポカンとした顔で私の手を見ている。そして私の顔を見るとクスッと笑い、私の手を握った。
「お互い頑張ろうの握手っ!」
ブンブンと手を上下に揺らし、互いの健闘を祈る。
「じゃあお休みなさい。」
「お休みなさい千夏先輩。」
微笑みながら言われると心臓がドクンと一つ脈打つのを感じた。勝って全国を決める。みんな応援してくれてるのに応えたい。準々決勝の結果を見るに、優君は全国出場を決めるだろうから約束を果たさないと。
朝、いつも通り6時に起きて下に降りる。
「おはよう。」
将史さん、智さんがいつもと変わらず挨拶をしてくれる。
「優なら和室で柔軟をしているよ。」
将史さんに言われ、挨拶をするだけと自分に言いながら和室に向かう。
優君が脚を180°開脚しながら深く身体を倒している。ただ、いつもと違って顔が外に向いている。私も外を見ると、曇天模様で夏なのに薄暗く感じる。いつ雨が降るか分からないと思わせる空だ。
「おはようございます千夏先輩。」
優君がいつの間にか柔軟をやめて私を見上げていた。
「おはよう優君。天気悪そうだね?」
「ええ。先輩は体育館なので大丈夫でしょうがサッカーは困りますよ。最初から降ってくれていたら楽なのに。」
「雨の時は何か変えてるの?」
単純に何を変えてるのか尋ねた。
「スパイクのポイントの長さや撥水性の高い素材でできたスパイクに変えてます。少しでもプレーしやすい様に色々と試して合うのを揃えてはいます。」
下から覗き上げる様に空を見る優君。
「なんか凄く気にするね?」
「いや…なんか嫌な予感というか嫌な感じがするので。心配性になりすぎてるのかな?面白くない感じです。」
険しい表情で不安げな事をいう優君が珍しくて、私もゾワゾワしてきた。まさかそれが嫌な方に当たるとはこの時は少しも思わなかった。
籠原との一戦まで間もなく。女子の3位決定戦が今メインアリーナでやっている。11時からの女子決勝に向けて、サブアリーナでアップを行っている。
智さんやOGから差し入れを貰い、応援されているのが分かる。
小さく長く息を吐く。少し緊張している。
「ち〜な〜つ、顔が強張ってる。」
渚が私の頬を挟んでムニムニと動かす。
「大丈夫だよ〜〜〜。」
そんな事をしていると声がかかった。
「千夏、渚、優香!あんた達はノビノビ、ガンガンやりなさい。フォローはするからさ。」
「そうそう。来年はチームを纏めるとか引っ張るとか考える立場になるんだから。気楽気ままに出来るのも今年だけ。だから思いきってやりなよ。」
「頼りにしてるよっ!」
キャプテン、副キャプテン達が今日も活躍よろしくと言ってきてくれる。
「はいっ、頑張ります!」「頑張りま〜〜す。」「はい。」
決戦まであと僅か。
第二Q終了まで後3分。栄明が9点リードしている。順調にリードを広げ、盤石の試合運びと結果だけを見れば言っていいと思う。腕を組んで考えていると隣に座っている由紀が話しかけてきた。
「えらく不満げね?母校が前半でリードしている。なんかあるの?」
「ふむ、面白くない。」
「試合内容が?それともパフォーマンス?」
由紀が何が不満よ?と聞いてくる。残念ながら栄明は文句なし。最初から飛ばしていて、それが得点に結びついている。
「相手の試合運びが妙なのよ。前半に二桁差がついたら焦るのが普通なのに、落ち着いてプレーしている。」
相手の監督、ベンチの子達にも焦りの色が見えない。そこがどうも引っ掛かる。
「籠原は県内では強豪校よ。試合巧者なんでしょうよ。」
「それならいいんだけど………。」
どうしても不安が拭えない。
第二Qが終了した。12点差がある。両チームの出てた選手がベンチに座って息を整えながらヘッドコーチの指示を聞いている。
栄明はヘッドコーチのメガネが指示を出し終えたようだ。そこからはキャプテンを中心に話し合っている。
コート内と外では感じ方が違うというのが間々ある。それを当人達で話し合うのは意外と馬鹿にならない。
後半が始まった。
相手チームのマーク、フォーメーションを見て、直ぐにピンときた。なるほど考えられてる。千夏ちゃんを徹底的にマークして4対4のゲームに持ち込むつもりか………。
栄明はエースの千夏ちゃんがゲームから除かれたらどうなるかが不安だ。
案の定、栄明が押され出した。どうしてもエースが試合から排除されると流れが滞る。それに比べて籠原はリズムよく得点を重ねていく。栄明も負けじと点を取るけどどうしても単発になる。流れが悪い。
第三Q終了寸前に逆転されるもギリギリでセンターの子がゴール下の競り合いから決めて追いついて終わった。
一進一退の攻防に盛り上がりを見せているが、前半は栄明のゲーム、第三Qは籠原とこのままでは勢いと流れで籠原が勝つだろうと見ている人は思っているのだろう。
「一々空気を読むな!自分達で動いて流れを!リズムを作れ!鹿野、お前はエースだ。1人のマークくらいどうにかしろ。他の奴もマークはついてるんだ!これで全国制覇とか笑いものだぞ!」
監督の怒声とまではいかないが厳しい声が飛んでいるのが聞こえてくる。内容は私達の代の時に私が言ってたのと殆ど一緒だ。
私の周りに座っている面々が笑っている。あんた達は笑い過ぎ。
「エースである以上、チームの勝敗を背負う立場になる。自分も勝って、チームを勝たせなさい千夏ちゃん。貴女にはその責任がある。」
眼下で最終Q前の話し合うをしている。両チームがコート内に出てきた。これから泣いても笑っても最後のQ始まる。どういう戦い方をするのか………。
これは………まさか………。アイソレーションを選択すると思わなかった。栄明ボールで始まった最終Q。キャプテンから手渡されたボールをドリブルしながら右側からゴールに迫ると他の子達が左に寄っていった。左右に仕掛け、スリーを打つ見せるフェイスフェイントで相手の足がシュートブロックの為に一瞬だけ足が止まる。其処を一気に抜き去り、フリーでレイアップを決める。そこから3連続で決め、トドメのスリーポイントをぶち込み、一気に流れを引き寄せた。
そこからは籠原は櫛の歯が欠けたようにポロポロと得点を取られ、取りこぼしていった。
そのままの勢いで栄明が押し切り、76対66で勝利した。
終了のブザーが鳴った瞬間、ワッと此方の側で歓声が上がった。私も隣の由紀や皆とハイタッチや握手をして勝利を喜んだ。
とりま、全国出場のノルマはクリアした。
これからが更に大変だろうけど、今は目一杯喜んでおきなさい。
みんなで喜びを分かち合う後輩を心の底から祝った。
1時過ぎに体育館を後にした。折角集まったメンバーでお昼を食べることになった。
近場で探すとお好み焼き屋があるのでそこへ向かった。
各々好きなのを頼み、飲める人はビールを頼んでいる。智も気分よくビールをグビグビと呷っている。
「プハ〜〜〜、サイコー!!」
気持ちよさそうに飲んでいる姿はオッサンだ。
「テレビで栄明の試合やってるわよ。」
「大将、声大きくしてもいい?」
許可を貰い、声を大きくしてこっちのテーブルにも聞こえる音量にした。
『さぁ栄明高校対佐知川高校の準決勝2試合目。前半30分を過ぎ、4対0と点差が大きく開いています。予想外の展開ですね、岩沼さん。』
『ええ。最初のコーナーのチャンス、キャプテンの紅林君が見事に頭で決め、流れを掴みましたね。』
『ええ、前の準々決勝ではショートコーナーからの仕掛けで浦和学院を崩していました。それを警戒していた佐知川さんの一瞬の隙を狙い澄ましたようにピンポイントのキックでの見事な先制点でした。そこからは同点を目指して前掛かりで攻める佐知川高校の空いているスペースを突いたカウンター。次に如月君の卓越したテクニックからの突破と得点を重ねました。』
テレビ画面に映る選手。どこか智に似てる。
「もしかしてあれ、息子?」
向かいでジョッキに入ったビールを気持ちよさげに、美味しそうに飲んでいる智に尋ねた。
「んっ?ああ…息子息子っ、じま〜んのムスコっ!お代わりっ!」
もう2杯空けてて大層楽しそうだ。
「あんた、こんな所で酒盛りしてていいの?応援行かなくて?」
一応心配になったので聞くと、“モ〜マンタイッ!パパが行ってるからだ〜いじょうブイッ!みんなとの同窓会の方が大事に決まってんでしょうがっ!”と酔ってるから困った事と嬉しい事を言ってくる。
そんな智を見ながら、テレビに映っている息子さんを観る。速いボールを上手く捌いて一人抜いた。そのままゴールに向かって進んでいく。一人、二人と次々と抜いていき、ゴール前でパスを出し、無人のゴールに流し込まれた。
これで5対0。ヤバすぎでしょ、アンタの子供。エグすぎて怖いって。
「いいぞ〜〜息子よ〜〜〜っ!今日はビールが美味いっ!」
「今日もでしょうがっ!?」
由紀がピシャンと頭を叩く。“ほら水”とコップを渡す。豪快にガパッと空けた。
そんな漫才みたいなことをしていると、いつの間にかもう一点取って6-0になっていた。
リプレイが流されている。左足で強烈なシュートをブチ込んでいた。容赦ない所は智に似ていると思ったが黙っておいた。知られると煩いから。
やっと前半が終わった。ベンチに戻る所が映されているが、ここまで点差が開いた状態でも一切油断も隙もない。真剣な顔で話し合っていた。
こういう最後まで気を抜かず、徹底的にやる所も瓜二つだ。
後半30分が過ぎ、俺達は栄明高校にボコボコにやられている。さっきも如月にフリーキックを決められて、あいつは5点目だ。チームも9対0で一方的な展開だ。
春までは栄明なんて此方が圧倒して勝っていたのに、1人の男の加入でチームが別物のようになっている。
今も左サイドに流れながらドリブルをし、一瞬で入れ替わって抜いた瞬間に逆の右サイドに展開した。フリーのWGが急いでマークに来た対面のSBと1対1で勝負する。何度かの攻防の末に抜かれた。中央のCBがフォローに来た瞬間に、ペナ外に素早く移動してフリーになっていた如月にパスが出る。それを右足ダイレクトで巻いて右上隅を射抜いた。
これで10対0、あいつも6点目だ。天を仰いだ。もう負け試合だ。でもここまで差がつくなんて………。
此方の攻撃も中盤で素早くプレスをかけた如月がボールを奪取し、最終ラインにいる紅林にボールを預け、上がっていく。
この夏の雨が降り、蒸し蒸しジメジメする中の試合で運動量が一切落ちず、後半も動いている。
紅林からロングフィードで最前線のFWにボールが入った。それをキープした後、サイドから中に入ってきた沢城に落とす。
沢城が最終ラインの後ろにパスを出す。如月が猛スピードで2列目から飛び出した。
「あっ…………!」
思わず声が出ていた。
如月が猛スピードで上がってきている。狙いが分かった瞬間、体を動かしていた。
だが助走をして走ってくる如月とでは初期スピードの違いで振り切られそうになる。
如月が前で貰ったパスをピタリと足下で収め、シュートモーションに入る。ええいっ、ままよっ!
シュートを防ごうとスライディングをして、身体ごと投げ出す。
唯一の誤算は昼前から降り続く雨の影響でピッチが滑りやすくなっていたことだ。如月の方に身体が流れる。
如月の踏み込んだ脚を払うように斜め後方から吹き飛ばした。
ピーーーーっと甲高い笛の音がピッチ上に鳴り響いた。
滑るピッチに身体を流されながら、やっと止まり思いっ切り如月の身体を払い飛ばしたのでそちらを見ると、蹲って足首を押さえていた。
ピピッと笛を鳴らして傍にいた審判が胸元に手をやっていた。
出されたレッドカードを見た瞬間、そこからの記憶が俺になかった。
「ぐ〜〜〜〜っ〜〜〜!」
後方から思いっ切り脚を刈られた。その際に脚を踏ん張った為、一瞬だが相手の全体重が左足に伸し掛かった。足首に強烈な痛みと熱が溜まっていくのが分かる。
この感じは捻挫だろう。この感じだと明日の決勝は無理だろうなと、冷静な自分に驚いた。
「ざけんなっ!完全にアフターだろうがっ!」
直ぐ側で相手に激昂して怒っている沢先輩のせいで冷静になっているのかもしれないな………。
直ぐ側で心配の声をかけてくれている福先輩に声をかけた。
「沢先輩を呼んでください。」
「んっ?ああ、沢城な。ちょっと待ってろ。」
そう言ってのそのそと呼びに行ってくれた。流石に3年に来いと言われたら2年の沢先輩も大人しく来てくれた。
「大丈夫か如月?」
「大丈夫じゃないです。この試合はダメなので岡本監督に急いで代わりを用意するように言ってください。」
幾分冷静さを取り戻していた沢先輩に冷水をかけて更に冷静さを取り戻させる。
「分かった。行ってくる。」
立ち去った沢先輩を確認し、周りに駆け付けてくれた先輩、横に今の内に水分補給としっかり最後まで気を抜かずに終わらせるように伝える。
担架が来たので、身体を起こして、乗り込む。
怪我をしている足を投げ出し、両手で顔を覆う。ああ、ここで俺の予選は終わったんだと思うと不意に涙が溢れてきた。
昼過ぎに祝勝会をして、全国に行けることを喜び合う。監督の知り合いの居酒屋を貸し切って、唐揚げや串カツ、サラダ、焼き魚、生姜焼き、焼き肉やお刺身など様々な料理が並んでいる。
流石に飲み物は手が回らないので自分達でお好きにと言われ、コーラやジュースを好きに飲んで楽しんでいる。
「いや〜でもさ、千夏がアイソレーションしたいって言い出したときは驚きだよ。」
「うん。今までした事なかったから思い切ったこと言い出したなって私も思った。」
渚と優香が後半に行った1on1のアイソレーションで相手を叩き伏せたのを言ってきた。
「うん。前半は良かったけど第三Qの流れが良くなかったから、悪い空気を振り払う意味でもエースとして仕事をするべきだと思ったの。あ、でも、チームとしてダメって言われたら止めてたよ。個人の結果よりチームの勝敗優先だから。」
「それにしても千夏が勝ててよかった。あれで負けてたら流れ籠原に行ってたでしょ、あれ。」
うんうんと優香が渚の言葉に頷いている。
「優君と1on1してて良かったよ。智さんとよくやったって言ってて、ディフェンスに関してはプロ並だって智さんが言ってたから。落ち着いて見てみると意外と隙があるなって思って、そこからはだいぶ落ち着いてプレー出来たかな?」
何回かではあるが男子のスピードと鍛えに鍛えた優君のクイックネスな動きを思うとマークについていた籠原の選手は下だった。そんな話をしていた時に。
「男子サッカー部は勝ったって〜〜〜!しかも12対0の圧勝!」
後輩のあかりが声をあげた。ずっと聞きたかったけど将史さんも智さんも連絡がつかず、モヤモヤしていた。
「えっ!?如月君が負傷退場して病院に行ってるって!?」
急に場が喧騒が静まりシンとした。
「怪我の具合は書いてないの?」
私が尋ねると“聞いてみます”と言ってくれた。直ぐに返信がきたのか答えてくれた。
「後ろからのスライディングのアフターファールで脚を巻き込まれたみたい。どこまで酷いかは分かんないそうです。」
「っ……………!?」
どうしてこんな事にという混乱とここにいることで何も分からないという焦燥感で頭がごちゃごちゃのパニック状態になっている。
「千夏………。」
「どうしよう渚っ………。」
「とりあえず電話してみな?森川さんの電話番号知ってるんでしょ?」
「う、うん。」
席を離れ、スマホを取り出して掛けると直ぐに出た。
「どうしたの千夏ちゃん?ていってもこのタイミングの連絡だから優の事か……。今お父さんと話し終わったとこなの。一応選手生命に関わる怪我なんかじゃない、けど完治まで半月。明日の決勝はドクターストップ。欠場ね。」
スッと血の気が引いた。こんなあっさりと優君の夏が終わってしまうなんて。
「残念だけどスポーツってこういうものだから。優がいなくなっても栄明が負けたわけじゃない。後は残された人に任すしかない。」
「それはそうですが………。」
優君の心情を思うと………。
「今、病院に着いたから2人と合流して家に帰るわね。今日は千夏ちゃんの優勝を祝ってすき焼きだから楽しみにしていてね。」
「あり…がとうございます。」
私の僅かに口籠ったのに気付いたのかフッと微かに笑ったのが聞こえて直ぐに通話が切られて終わった。
席に戻ると直ぐにみんなが話しかけてきた。
「如月君、どうだって?」
「捻挫だって。完治まで半月。決勝は欠場することになるって。」
「そっか………。残念だね。」
「うん………。」
そこからは場があまり盛り上がらなかったのに気付いた監督が時間も時間だから、そろそろお開きにしようと言い、解散となった。
「インターハイまであと1か月もない。限られた時間でやり残したことがないようにしよう。来週にはテストもあるから大変だとは思うけど頑張ろう!」
「「「「「「はいっ!!!」」」」」」
キャプテンが締めの挨拶をして解散した。遊びに行く人は行くけど私はみんなに断りを入れて急いで家に帰った。みんなの姿が見えなくなったら走って帰った。
試合後の疲労した身体が重かったが、そんなの関係ないと走った。
「ただいま帰りましたっ!」
玄関が開いていたから帰ってきているのは分かった。リビングに入ると3人がテーブルに座っていた。優君の直ぐ傍に松葉杖が立て掛けてある。
「おかえりなさい千夏先輩。優勝おめでとうございます。」
なんでそんな状態、状況で私の事を祝ってくれるのっ!?
ヒョコヒョコとした足取りで傍に来た。
「俺はこんな事になりましたが、チームが負けたわけではありません。応援しか出来ませんが。頑張ってくれると思います。」
どこまでも前向きな姿勢を尊敬する。私も見習わないと。
「ほら、千夏ちゃんはお風呂入ってきなさい。優は2階でシャワーね。」
「はい。」
返事をして2階へと向かう。カシャカシャと松葉杖が鳴る。その音が鳴るたびに胸が締め付けられそうだ。
2階に上がると“大丈夫?”と声をかけると困った顔をした。
「そんなに心配しなくて大丈夫ですよ。」
「そうは言っても………。」
優君が悪戯を思いついたようにニヤリと笑う。
「なら一緒にお風呂かシャワーをしますか?脚が不自由なので、全身隈無く洗ってください。」
内容を理解した瞬間、ブワッと顔が赤くなるのが分かった。
「もうっ!すぐそうやってからかう!」
「だって気にしないでって言っても、此方が“ああ、気にしてるな”って分かるぐらい顔に出てんですもん。」
本当に気にしないでいいのかな?
「怪我はスポーツに付き物です。だから本当に気にしてないです。では。」
そう言って別れ、各々部屋から荷物を持ってお風呂とシャワーに向かう。
いつも通り、お風呂に入ってリビングに行くと智さんと将史さんがすき焼きの準備に取りかかっていた。
「ああ、千夏ちゃん。上がったのね。悪いんだけど優を呼んできてもらっていい?まだあの子、降りてきてないのよ。」
えっ!?もう30分は経ってるのに?いつもシャワーなら20分くらいで出てくるのに。
「分かりました。」
2階に上がり、シャワー室のドアのノックするも返事がない。
戸に手をかけると動いた。そっと小さく開けて、中を覗く。
よかった。服は着てくれている。
洗面台に両手をついて、顔は険しい表情で俯き、唇を噛み締め、拳は強く握り締めている。
こんな姿、見られたくないよね。そっと戸を閉め直し、少し強めにドンドンと優君が気付く大きさで叩いた。
カチャリという音が聞こえたから意識が戻ってきたんだろう。直ぐに戸が開いた。
「千夏先輩…どうしたんです?」
さっきまでの表情とは違い、いつも通りに戻っている。
「いつもより時間がかかってるから智さんが痺れを切らして、私に呼んできてって頼まれたの。」
「そうでしたか。それは手間を掛けさせました。謝ります。」
「ううん。さ、降りよう。すき焼きが待ってるよ。」
「ええ、行きましょう。」
下に降り、リビングに入ると“遅いっ!”と叱責が飛んできた。
優君は“ごめん、ごめん”と謝って席に着いた。
「では、千夏ちゃんインターハイ本戦出場、優も決勝進出おめでとう!」
智さんが乾杯の音頭をとり、将史さんとグラスを合わせた。隣に座る優君も私にグラスを差し出している。
「千夏先輩、おめでとうございます。乾杯!」
そんな自分事の様に喜んでくれるなんて………自分は怪我をしたのに………。
「俺は出れないですけど、チームのみんながやってくれますよ。」
そうだよね。優君の分もやってくれるよね。
「ありがとう、乾杯。」
カツンとグラスを合わせ、麦茶を一口飲んだ。
優君がスッと立ち上がり、箸を持ってすき焼きを作り出した。
牛脂を塗って肉を焼き、醤油、酒、砂糖を入れて味付けをする。
それを私の皿に取ってくれた。いつもと変わらない夕食だった。
決勝。結果だけ言うと負けた。3対1とスコアとしては惜しいと言ってもいい。だけど試合早々に2失点し、追う展開となり前半が終わり、後半に1点取り、取られタイムアップとなった。
高校生がいつも通りに戦うという事の難しさが諸に出た試合内容だった。
攻守の中心であった俺が抜けたことの弊害が出た試合内容だった。俺の分も頑張ろうと空回った者、いつも通りにやろうとして出来なかった者、慎重に入ろうとして動きが重くなった者。
戦術的、戦力的、精神的要の俺がポッカリと居なくなり空いたのを埋めれなかった。
トーナメントの最初の方も俺は出なかったが、ベンチには居たという精神的安堵感があったからノビノビ出来ていた。
でも今回は自分達で、自分達だけで戦う事になった。
最初の失点もなんてこと無いハイボールの処理の失敗からの失点。2点目もマークの引き渡しの声掛けが足りず、浮いた相手から崩されて追加点を決められた。
ハーフタイムで俺が基本的な事をしっかり一つ一つクリアしていこうと言い、そこからの後半は五分五分に戦えたが、前半の2失点が大きく負けた。
県予選得点王の小さなトロフィーを貰ったが嬉しい気持ちにならなかった。ああ、負けてしまったかという気持ちで占め尽くされていた。
3年生が謝ってきたが、最後の最後で役に立たず此方こそ申し訳ない気持ちで一杯だ。
家に帰ったら両親は残念だった、次は頑張れと前向きな姿勢をするように言われた。
千夏先輩も次頑張ろうと声をかけてくれる。
夕食後、いつもの様に勉強会をして部屋に戻った。色々と疲れたからベットに横になっていると扉がノックされた。
「どうぞ」
そう言いながら身体を起こすと千夏先輩が様子を窺いながら入ってきた。
「お邪魔します………。」
「どうかしましたか?」
おずおずと入ってきて、傍に座り、何も言わずに、下を向いて、じっとしている千夏先輩に尋ねる。
「あ、うん。その……大丈夫かなって………?」
顔を上げると心配そうに聞いてきた。
「大丈夫ですよ。」
横になっていいか聞くと、“うん、無理しないで”と言われたので身体を横に寝そべった。
「戦力的に不利なのは分かっていたんです。そこに俺が入ることで相手がおれを警戒し、カバーリングを気にしながらの試合になるので五分以上に戦える形になっていたんです。」
正直、チームメイトには五分と言っていたけど六分四分位で不利だった。そもそも半年かそこらでチーム戦術、個人スキルを上げるには時がなさすぎる。
そこを勘案すれば今回の負けは予想できたことだ。そこに俺が急にポッカリと抜けた精神的なものもある。
右手で顔を覆って、大きく息を吐き出した。
「約束…守れませんでした。一緒にインターハイ行こうって…すみません…………。」
ミサンガまで貰い、指切りもしたのに。自分の怪我で守れなくなった事が只々悔しかったし、情けなかった。約束したのに………。
「すみ…ません、すみません。」
だめだ…涙が出てきた。千夏先輩は約束を果たしてくれたのに俺は………。ぐぅうぅぅ………。
「怪我なら仕方ないよ。バスケもサッカーも冬があるからそこで一緒に行こう、ね?」
「はい…はい………。」
千夏先輩が頭をトントンと優しく叩いてくれ、片方の手をキュッと優しく握ってくれている。温かくて、優しくて、柔らかい彼女の手が荒れそうな心が平静になろうとしてくれる。
意識がなくなるまで何度も、何度も謝り続けた。
寝ちゃった………。ずっと謝り続けて、そのまま寝入っちゃったようだ。
そっか…優君がそんなに私との約束を大事に、大切に思っていたんだ。それにしても泣き疲れて寝ちゃうなんて。
「優君は頑張ったよ。でもそれだけじゃあ、君は納得しないんだよね。次は必ず一緒に全国に行こう。約束だよ。」
目の前でまだまだあどけなさが残る顔で無心に眠っている。
「なんか可愛いな。寝てる姿は子供っぽくて。」
顔にかかった髪をスッと退けると少し日に焼けた端正な顔、それに綺麗な肌をしている。その頬にそっとキスをした。君が怪我なく試合を出来るように祈りながら。
さて…自分の部屋に戻ろうにも優君が私の手をギュッと握り締めていて解けない。どうしようか…………、仕方ないよね、優君のベットに顔を置いて私も眠りに就いた。
ちょっと無理やり感があるよな〜〜………。
まぁ仕方ない!自分プロじゃないので………。優は人との約束を大事にしているということで。どうか一つよろしく。
優と千夏先輩は恋の一歩手前って感じで書けてたらいいんだけど………。ここから少しずつ深く書いていきたいと思ってます。
次の話はテスト、そして夏休み前まで書く予定です。
更新順はアオのハコ、SEEDか銀英伝の予定にしてます。