これで一学期編はほぼ終了。次は夏休み編にいきます。
イベントがたくさんあるので書くのが楽しみです。
んぐっ………朝か………。外から光が微かに入り込んでくる。
壁に掛かった時計を横目で中々開かない目で確認する。5時か。アラームが鳴らなくても起きてしまうのは日常習慣の性か。
「んむっ……んんっ。」
身体を起こそうとすると左手が上がらないのに気付いた。
千夏先輩が俺の手をギュッと握り締めて眠っていた。よく寝ているようで身動ぎ一つしない。静かに眠る姿がプリンセスのようで可愛く思った。
起こさないようにそっと手を抜き、その小さな身体を抱き上げてベットに横たえた。身動ぎしたが、また寝始めたようだ。良かった。
初めて千夏先輩の寝顔を見たが綺麗だと思った。お母さんに似ているが、まだ幼さが顔に残っている。
気が付いたら乱れた髪の合間から覗いた額に唇を落としていた。
「同居という状況であるまじき事なのは承知しています。でもあなたに惹かれていっている自分を赦してください。」
彼女への気持ちを抑える為にシャワーを浴びて頭を冷やそう。着替えを用意し、最後に寝ている彼女を一目見てから部屋を出た。
パタンと音が鳴った瞬間、手で顔を覆った。
えっ、何!?惹かれているっ!?優君って私のこと好きなのっ!?いや、待って、落ち着いて………“惹かれていっている”って言ってたよね。ということはまだ好きじゃないの?
悶えるように身体を左右に揺すった。
あ〜〜〜。これって互いに気付かれたら気まずい空気になるよね…………。平常心でいるようにしないと。
頬が熱い。大きく何度も深呼吸をして心と頭を落ち着かせないと。
落ち着いて考えると嬉しい気持ちがあるのに気付いた。そっか………私も優君に惹かれていっているんだ。
松葉杖をついて学校に向かう。朝練は出来ないけどいつもの習慣を変えるのはしたくないから。いつも通り千夏先輩と並んで登校する。
たまに俺を気遣うように見る。“大丈夫ですよ”と笑うと安心したような表情をしてくれる。
守衛さんに挨拶をして、そのままピッチに向かう。荷物を部室に置いていこうかと思ったが、運動しないし、いや出来ないからいいやと持っていった。
しばらく待つといつも通りのメンツがパラパラと来た。紅先輩、沢先輩、横を筆頭に。
いい加減俺を見て気まずげになるの止めてほしいんだがな。仕方ない、先手を打つか。
「来年の選手権は出ますよ。いいですね?」
一瞬ポカンとしたが、俺の言葉が理解出来たのだろう。皆が頷いた。
朝練が終わり、教室に向かう前にコーヒーを買いに自販機に向かう。身体を動かせない事がこんなに眠気を誘うなんて知らなかったな。
ピッとボタンを押すとガチャンと缶コーヒーが落ちて音が鳴る。取ろうとするが松葉杖が意外と邪魔でとりにくいな。
「よう、如月。怪我は大丈夫か?」
「如月〜〜怪我大丈夫か〜?惜しかったな〜!」
落ち着いた針生先輩といつも騒がしい西田先輩のペアが慰めと健闘を称えてくれた。
「西田先輩も惜しかったみたいですね。針生先輩は本戦出場おめでとうございます!」
針生先輩にペコリと頭を下げてお祝いを言う。
「まあ2位通過だから面白くはないけど、一応俺の中でのノルマはクリアしたからホッとしたよ。本戦ではあの人に勝たないと優勝はないからここから更に上げていかないと。」
少し遠くを見るような目をした針生先輩を羨ましいのと向上心が高いのが流石と思う。
「その前にテストがありますよ。西田先輩は頑張んないとダメじゃないですか?」
からかうと、図星を指されたのかギクッとした表情をした。
「そうだよな〜!赤点取ったら補習で大変だから頑張んないと!?ていうか何で俺だけ?針生は?」
「針生先輩、頭良さそうな感じがするじゃないですか。」
針生先輩の顔を見てから西田先輩に肩を竦めながら返す。
「そういうお前はどうなんだ?日本のテスト久し振りだろう?」
針生先輩に聞かれたの素直に答えた。
「大喜よりは出来るんで。」
笑いながら言うと、“あいつより出来なかったらマズイだろ”とツッコミが入った。
そろそろお開きにしないと。そう言うと、“そうだな”、“じゃあまたな”と部室に向かって行った。俺も教室に向かうか。
教室に入ると俺の怪我を知らなかった人から心配で声をかけられた。ただの捻挫で半月もあれば完治すると伝えると、しっかり治しなよと言われる。
授業も淡々と進み、3時間目が半ばになった頃、スピーカーが繋がるガガッ、ボッて音が鳴った。たまに緊急呼び出しで鳴ることがあるが………。
『1年B組如月君、至急校長室まで来るように。1年B組如月君、至急校長室まで来るように。』
何故かみんなが俺を見ている。いや、分かるけど針の筵だよ。先生も首でさっさと行ってこいと促してきている。松葉杖を使いながら校長室に向かう。
ノックをして件の部屋に入ると校長と教頭揃って俺を待っていたようだ。
「如月です。何かありましたか?」
そう尋ねると電話を指差して話し出した。
「君宛てに電話が入っている。英語だったので内容は分からなかったが君の名前が出たので保留して待ってもらっている。すまないが代わってくれ。」
「はあ?分かりました。」
そう言って受話器を持ち上げた。
「ハロー、お待たせしました。如月です。」
『ユウ、久し振りだね。マクドナルだ。』
受話器越しでも伝わるパワフルな声が耳を貫く。なので気持ち少し離した。アメリカ人オーナーでいつもバイタリティーに溢れている。
「オーナー、相変わらず元気そうで何よりです。」
『ハハハハハ、君は怪我をしたんだって?デイビッドから報告は受けている。完治まで半月なんだって?なら来月頭にはフルで戦えるで相違ないかな?』
この機関銃のように次々と問題を処理していく話し方は少しも変わっていない。
「イエス。今月の末に戦える状態になります。ただフィジカルが落ちていると思うので来月頭にはフルで戦える状態に戻す予定です。」
『そうか。分かった。では本題に入ろう。来月の4日に我がU-21とU-23日本代表のチャリティマッチを企画している。その試合に君はウチのチームで出て欲しい。』
また変な事をしようとしていらっしゃる。そもそもいいのか?
「自分は今、退団し無所属です。そんな選手が前のとはいえチームの試合に出て問題ないのでしょうか?」
質問すると“ガハハハハハ”と豪快な笑い声をあげている。
『ノー・プロブレム!今回の試合はチャリティマッチだ。収益は全て寄付する事になっている。FIFAとFAに確認を取ったがチャリティなら問題ないそうだ。JFAにはこれから話すが向こうが断る理由はないだろう。』
「さようで………。」
相変わらずフットワークが軽いな。サッカーが好きで、自分のチームを強くするのが好きで、その為なら自分が先頭に立って汗を掻くのも厭わない。そんな彼だから多くの人が動かされるのだろうな。
「そこまで御膳立てされては断れませんね。喜んで参加させていただきます。」
『そうか!ならよろしく頼む。1日に日本に着く予定だ。なので1日の夜には宿泊するホテルで合流してくれ。2、3日と練習と地元の方たちとの交流会をして4日に試合の予定だ。君の学校の生徒は無償で招待する予定だ。IDか何かはあるだろう?それで入れるようにする予定だ。ではな!』
言う事を全て言って、此方の返事も待たずに切る。ここも相変わらずだな。半月しか時間がないが、あの人はやると言えば必ずやる人だ。その為に俺も準備をしないとな。
先ずは目の前の人達に説明しないとダメだな。
2人に説明を終え、まだ決まってないので口外をしないよう、プレスリリース後まで待つように頼み、校長室を後にした。
ちょうど授業が終わって生徒がまばらだが廊下にいる。俺に気付いた人が興味津々で此方を見てくるが俺は下を向いた状態で教室に向かう。
「きっさらぎく〜〜ん!なんの呼び出しだったの?」
渚先輩、さすがっす。この空気を読まない感じ。
「代表招集レターが届いたようで、その意思確認をされただけです。昼休みか放課後でよかったのに。」
千夏先輩、優香先輩も傍にいる。せっかくなので。
「県大会優勝おめでとうございます。全国出場を決められたようでお喜び申し上げます。」
頭を下げてお祝いの言葉を言うと3人とも嬉しそうにした。ああ、俺も全国に出たかったと思う気持ちがほんの少し湧いた。
「そっちは残念だったね。冬は一緒に行こうよ。冬にもチャンスあるのバスケとサッカーくらいだから。せっかくだしね?」
優香先輩がそんなことを言ってくれたので頷いた。
「そうですね。あんな悔しい思いはもう真っ平です。」
千夏先輩は一人悔しい顔をした。彼女も去年スタメンで出て出場を逃した。その時の悔しさを思い出したのだろう。
そろそろ4時間目が始まる。教室に戻らないと。松葉杖のせいで急ぐことが出来ないし。
サッカー部全員がピッチに集まった。監督、選手、マネージャー、引退した先輩と全てだ。
監督が前に出て話し出した。
「今回のインハイ予選は残念だった。切り替えを積極的に促すべきだった場面で俺自身も何もできなかった。俺も悔しいが、お前たちはもっと悔しいと思う。選手権では、この経験を無駄にしないようにしよう。」
“はいっ!!”と皆が揃えて返事をした。キャプテンの紅林先輩から3年の引退に伴って新体制の発表が行われた。
「今回、副キャプテン2人がいなくなった。ここで3年を指名しても今年は良いかもしれないが来年に繋がらない。なのでそれを見越して指名したいと思う。2年からは沢城、1年から如月が副キャプテンとしてチームを引っ張る、纏める立場として頑張ってほしい。」
皆が拍手を始めた。就任に反対している人が表立ってはいないのは分かった。
「正直1年の如月を副キャプテンにするのに不満があるのは理解している。だがコイツの意識の高さ、技術の高さ、そして練習への取り組む姿勢がここにいる誰よりも上なのはみんなも認める所だろう。そこへ俺達は行かないといけない。その為に如月を副キャプテンとしてチーム内で立場も責任もあるポジションに置くべきだと俺は考えた。」
キャプテンがグルリと半周顔を見回した。
「決勝でしょうもないミスをして失点し、後半は何とか立て直して五分に戦えたが、本来なら試合前に俺達だけで戦うということを理解して最初から勝つ為に気持ちを入れて戦わないと駄目だったんだ。あの試合に出ていた選手は分かっているだろう。」
横や沢先輩、他の先輩達も頷いている。同じ方向を向いて戦えていなかったことを理解しているから。
「今、如月は怪我をして練習出来ないがアドバイスをする事は出来る。上手くなりたかったらコイツをバンバン使えっ!そして選手権では県予選を圧倒して全国へ!そして全国制覇するぞっ!」
“おおおぉぉっ!!!”、気合の入った声がピッチに響き渡った。よほど悔しかったのだろう。新聞、雑誌、ネット、掲示板に俺におんぶに抱っこのチームと強弱、硬軟あれど書かれていた。それが刺激になったのだろう。
後はこの空気を何処まで持続させれてるかだが、ちょうど夏休みから彼奴等が来てくれる。そこで一発やってみるか。
悪巧みを仕込もうと思い立った。
「ウウウ、もう限界だ。助けてくれ。」
姿勢悪くノートに前方の板書を書き写しながら恨めしそうな言葉を吐く男をチラリと見て吐息を漏らした。
「こんな大会終わって次の週に期末テストなんて………。」
「前から決まってたことだろう?だからコツコツやれって言ってたのに。」
大喜の恨み節に匡が日頃からやらないからだと苦言を呈している。
「2人はどうなんだ?特に優は日本のテスト久し振りだろう?」
「No Problem、毎日勉強の時間をとっていたから。」
「俺も。」
「流石だな。ほら、大喜部活行くぞ。」
ゾンビのような死に体になりながらもいそいそと勉強道具を片付けて、部活に行く準備をする。
「あ〜〜〜、テスト前なのに部活休みになんないし。」
「確かに珍しいよな。木、金の部活は休みなのに。」
「そうなのか?」
「ああ。岡本先生から聞いたんだけど、一応栄明ってスポーツ強豪校だろ?生徒が一夜漬けからのテスト後すぐの部活で大怪我をした人がいて、防止の為にテスト日は部活が休みになったんだって。」
なるほど、そんな無茶をする生徒もいるのか。確かに危険だな。あ、前方に蝶野さんがいる。少し前に島崎さんも。
「雛ッ!」
おおぅっ!振り返ったら凄い顔をしている。
「話しかけないでもらえます?今英単語以外に頭使う余裕ないんだから。」
「仲間がいてくれて嬉しいよ。」
大喜が道連れの仲間が見つかって嬉しそうだ。
「仲間にしないでもらえます〜?私赤点取ったことないもん!」
「俺だって赤点は……!」
「中2の前期。」
「あれは腹痛で!!」
「はい出た、言い訳!」
兄妹(姉弟)喧嘩か夫婦喧嘩のようだな。
「島崎さんはテストは大丈夫そう?」
「うん、私はこの2人と違って日頃から勉強してるから。」
サラッと毒を吐いた島崎さんに、“にいなちゃんっ!”と蝶野さんが声を上げた。
「まあ赤取っても補習か再テ受ければいいんだから。な、大喜?」
ポンッと肩を叩いて言ってやると、ヤル気をだした。
「とらね〜から!見てろよ、優より良い点取ってやるからな!?」
この場にいる皆が顔を見合わせた。俺は肩を竦めるだけに留めた。匡は肩を、横は腰を叩いた。
「大喜、寝言は寝て言おうな?」
「人が夢を見るから儚いと言うとか…言い得て妙だな。」
「行こっか雛。」
島崎さんは聞かなかったことにするんだ。
「大喜、頭大丈夫?熱でもあるんじゃないの?今日部活休む?」
蝶野さんは失礼なことを言っている。そんな話をしながら部室棟に向かう。
体育館横を通ると、もう女子バスケ部が練習を始めていた。
「もうインターハイまで半月もないもんな。」
「夜も延長して練習するそうだぞ?」
「うへ〜〜〜テスト前なのにハード〜〜〜。」
「何にせよ、悔いなく戦ってほしいよ。」
女子バスケ部の面々に視線をやってから部室のほうに向かう。
「優はこれから取材?」
「ああ、秋のU-20W杯の。一応10番だから特集を組んでくれるらしい。9月のに掲載されるそうだ。」
「いいよな〜。俺もそんなのに掲載されてみたいよ。」
横が羨まし気に俺を見てくるが、そんな必要ないだろう。
「横はこのまま伸びれば世代別に選ばれるよ。身長もあるし、足も速い。テクはまだまだ足りないけど、シュートブロックで逃げないし、競り合いも強い。今の若い世代では有望株だよ。」
俺がスラスラと褒め言葉を並べると嬉しそうにしている。
「マジで!」
「マジマジ。しかも俺がいるから代表関係者も試合観てるから多分リストには入ってるよ。」
部室で俺はジャージ、横は練習着に着替え、部室前で別れた。
弾むようにピッチに向かう横の後ろ姿を苦笑して見送り、俺は体育館横にある小さな部屋に向かう。
部屋に入ると、何度かイギリスにまで取材に来てくれた栗田さんが待っていた。
「すみません、お待たせしたようで。」
待たせた事を謝罪し、対面の椅子に座る。
「早速ですが取材をさせていただきます。先ずはU-20W杯の目標をお聞かせください。」
俺がダラダラしたのを嫌っているのを知っている栗田さん。直ぐに質問をしてくれる。
「当然てっぺん。優勝を目指します。」
「そこに至るまでの対戦相手で警戒してる国か選手はいますか?」
そうだな〜?沢山いるから迷うな。
「先ずはグループリーグで同組のアルゼンチンのパウロとケディラの攻撃陣、パウレリオとディレクセンのCBコンビはパワフルさとスピードとテクニックを兼ね備えているので警戒しています。」
俺の言葉に頷いている。まあアルゼンチンの若手といえば彼らの名前が出てくる。
「イタリアのジラルディーノとジェンティーレのツートップは強烈です。カウンター、ミドル、ドリブルと何でも出来ます。セットプレーのターゲットマンとしても危険な存在です。」
ウンウンと頷きながらメモを取っている。
「エジプトのモウサド・サンディーもドログバみたいにゴリゴリのパワーマンでゴールを狙ってくるでしょう。楽な試合にならないと思っています。」
グループリーグの対戦国を全部伝えた。
「次に勝ち上がった決勝トーナメントでの相手はどうですか?」
「先ずはスペインですね。今回のチームは中盤は小粒ですがキーパー、4バック、ダブルボランチと守備に人が揃っています。全員が180半ばありますし、足も速くて巧い、フィジカルも強いのでロースコアのゲームになると思います。攻撃陣ではトップのフィル・トーレスはカウンターの飛び出しが上手く、危険な存在です。」
俺の言った内容をメモっている。レコーダーで録音しているだろうが、自分でもメモっている。
「イングランドも要警戒です。今回、イングランド代表に選ばれているハリーは出ませんが、メンバーは揃っています。キーパーのピート、SBのアダム、アレン兄弟。CBのウォーレン。アンカーのヤナルフス。そして強力スリートップ、センターのマーカス、右のゴードン、左のエミル。俺と共に去年U-21クラブユース選手権を優勝したメンバーが選ばれています。他にもイギリスでのライバルチームの実力者が選ばれています。彼らの実力はよく知っているので。」
うんうんと俺の言う事に頷いている。今回の大会のぶっちぎりの優勝候補だからな。
正直、CBのハリーが選ばれていたら鎧袖一触、難なく撃破されていただろう。他にも幾つかの質問に答えて1時間程で終わった。
「CFWの川添君とのホットラインに期待しています。」
やっぱりそこにいくよな。まあ俺もあいつとのコンビは長年やってきてやりやすいし。
「ありがとうございます。ベストを尽くします。」
そう言って締め括った。さて、練習を観に行くか。部屋を出て、ピッチに向かって進んでいく。
練習時間の延長で7時まで練習し、8時前に帰ってくる。サッカー部はとっくに帰っているのに優君はいつもの公園前で私が来るのを待ってくれている。
申し訳ないという気持ちと何か待ち合わせみたいで擽ったい気持ちがある。
晩御飯を食べ終わり、テスト勉強をいつも通り10時から行う。
私も優君も黙々と取り組むタイプで、無駄話は一切と言っていいほどしない。
終わり際に智さんが部屋の前で私達の勉強風景を険しい表情で見ている。なんなんだろう?
「なんていうかさ……アンタたちを育てるのってクソつまんないわね。」
まさかの当然の暴言に目をパチクリさせて言葉を失った。
「いい子過ぎて何にもする事ないわ。なんか問題起こしなさいよっ!?学校の窓ガラス割るでも、盗んだバイクで走り出すでも!」
「尾崎豊かよ。そんな事したら退学、停学、謹慎。部活動も退部、活動自粛、大会辞退になるだろうが。馬鹿な事を言うなよな、親のくせに。」
どっちが親子か分からないような2人の会話にブフッと笑いが溢れた。
「ほら、笑われてるぞ母さん。」
「アンタもよ。」
「いや、俺は違うだろ………。」
も、もうダメ。可笑しくて大きな声で笑ってしまう。
「む〜〜〜〜〜、なら不純異性交遊!アンタたち、やっちゃいなさいよ!?」
ピシリと固まってしまった。笑いも止まった。優君とあんな事やこんな事を…………いつか見た優君の裸を思い出してしまった。っ〜〜〜〜〜想像しちゃたら顔が熱くなってきた。
「あっ痛っだ!?」
智さんの声に反応して、そちらを向くと顔を押さえていた。畳に消しゴムが落ちているから、それを投げ当てられたのだろう。
「馬鹿な事を言うなよな。俺も千夏先輩もそんな関係じゃないし彼氏彼女はいない。だからそんな問題起きないから。巫山戯るのも大概にしろよ。そろそろ怒るぞ?」
あ、優君結構怒ってる。こめかみを揉み解して怒りを緩和させているけど無理っぽい。
「分かったわよ。あ〜〜あ〜何か問題起こんないかしら〜。」
そんな不穏当な言葉を言いながら去っていった。
優君が“はぁ〜〜〜”と大きな溜め息を吐いている。
「母さんが本当にすみません。」
申し訳なさそうにしている優君の困り顔がどことなく可愛いな。
「智さんは私が優君と交際してほしいみたいだね?」
「仕方がありません。千夏先輩は愛嬌もあって可愛いですからね。いるのは面白みも可愛げもない不詳の息子ですし。」
肩を竦めながらブスッとした顔をしている。少し間があって2人声を揃えて笑ってしまった。
「そろそろ上がりましょうか?」
「そうしよっか。」
いつの間にか時間も過ぎてる。
「お、終わった〜〜〜。」
大喜が机に突っ伏して倒れ込んでいる。
「お疲れさん。横はどうだった?」
「俺はそこそこ出来たけど最後の方が怪しい問題が幾つかあったな。匡は?」
「俺も大半は出来たよ。7、8割位は取れてると思う。」
横と匡は問題ないようだ。俺も問題ない。さて、問題は眼下でピクリも動かないこの男だな。
「大丈夫か、大喜?」
「ん〜〜〜大丈夫〜〜〜………。」
お疲れだな。いつもならガバッと起き上がるのにそれがない。多分体調が良くないのだろう。部活終わってから勉強を詰め込みでしたから疲労が許容範囲を越えたんだろう。
「どっか遊びに行くか軽く飯でも行く?」
「悪いけどパス。体調良くないから帰って寝る。」
横の誘いに大喜は一、二もなく断った。まあ無理しないほうがいいだろう。
「俺も悪いけど無理だ。これから取材だし、家族と外食の予定が入ってるから帰んないと。」
俺も断った。匡も………。
「悪いけど俺も。弟達と遊ぶ約束してるから。」
「そっか……急に誘ったからな。仕方ない、一人買い物でも行くか。」
そこで解散となった。大喜は体がフラフラしながら帰る。匡と横は心配そうについていった。さて、俺は取材に行きますか。
職員室前の会議室に入ると蝶野さんが座っていた。
「あ、如月も取材?」
「ええ。8月4日のチャリティマッチのです。」
そう。月曜日に話を俺は聞いて、水曜日には諸々決めて発表がされた。あまりの早さに驚いた。
埼玉スタジアムで夜の7時キックオフ。栄明の生徒は生徒手帳掲示で栄明専用のシートに無料で入れることになった。
その分の費用はオーナーがポケットマネーで精算するらしい。あいも変わらず太っ腹なことだ。
「大喜、大丈夫だった?体調悪そうだったから。」
「疲れがピークを越えたみたいだね。」
「そっか、慣れないことしたみたいだしね。」
勉強を慣れないことって………学生の本分なのに?
「お見舞いに行こうと思ってたんだけど蝶野さんは行く予定?」
「え!?うん。差し入れ位はしてやろうかと。」
「ならちょうどよかった。これ持っていってやってくれない?俺、この後用事あるからノンビリしてられないんだよね。」
そう言って、皆と別れた後に買ってきたポカリや果物ゼリー、ゼリー飲料、栄養ドリンクが入った袋を差し出した。
「え、あ、うん。分かった。」
そう言って、戸惑いながらも受け取ってくれた。
取材が終わり、大喜の家にお見舞いに行くとおじいさんが出てきてくれた。部屋で寝てるから上がりんさいと言われ、2階の大喜の部屋に行く。
コンコンとノックをするも反応なし、“大喜〜〜〜”と呼ぶも返事なし。どうしようと悩むも、仕方ないとノブを回し部屋に入る。
大喜がうつ伏せで布団もかけずに寝ていた。一応クーラーは入っているから快適な温度にはなっている。
“う〜〜〜〜ん”と魘されている。買ってきた冷えピタをデコにデコに貼ると冷た気持ちいいのか、体勢を直し、また寝始めた。
特徴的なツンツン髪をクシャリと撫でる。
よしよしと手を動かすと張りのある髪が私の手に僅かな抵抗感を残す。
すると大喜は急に私の手を取って頬に当てた。どうも私の手が冷たくて気持ちいいみたいだ。スリスリと当てている。
しばらく様子を見ていると身動ぎをまたし始めた。
「んっ、んん、むぅ………ひ…な………か?」
薄めでボンヤリと私を見て呟いた。
「うん。大丈夫?」
少しずつ意識が覚醒し始めたのか、一分ほどで身体を起こした。ベットの上で胡座の体勢で座っている。
「なんで……いるんだよ……?」
「お見舞いに来たんだよ。体調悪そうだったから。」
「部屋に入んなよ。風邪移るぞ?」
「大丈夫。帰ったらしっかりケアするから。」
そうだそうだ、忘れてた。
「これ、如月君から。飲み物と果物ゼリーとゼリー飲料。何かいる?」
聞くと、ポカリ飲みたいと言ってきたので渡す。クピクピと半分くらい一気に飲んでしまった。
「うまい。ありがとう。」
「なんか食べる?」
「いや、今はいいや。」
「そっか。………大丈夫?」
「ん?一眠りして、だいぶ楽になったよ。」
「違うわよ。バドミントン。アンタ色々と悩んでいたでしょ?」
私に気付かれたことに驚いていた。
「俺の実力では針生先輩や兵藤さんに勝てるとは思ってなかったんだ。でも全国目指して頑張ってきていたのに…負けちゃって悔しいなって。雛は全国行くし、優はあんなに活躍してたのに怪我で決勝出れなくて負けて、色々と考えて……思うこともあってさ、グルグルとしちゃって。」
結局何を言いたいのか分からなかったけど、言いたいことは何となく伝わってきた。
バドミントンで上の人との実力差、同級生との試合で差を感じて負け、私は1年なのに普通に全国に行き、一方ではサッカーで同級生が大活躍をしているのに怪我で全国を逃したというのに思う所があるのだろう。
「なら頑張るしかないよ。実力差がある、勝てないって言うならもっと努力するしかない。量を質を向上させて、追いついて追い抜く。結局それしか出来ないんだから。」
少し冷たいようだけど、上手く強くなるにはそれしか道はない。
「大喜は得意でしょ?努力するのも、がむしゃらに頑張るのも、追いかけるのも。」
「だな。そうと決まれば明日から気合入れてやんないとな!」
そうそう。大喜はそれでいいんだよ。
「その真っ直ぐな所に私も好きになったんだよ。」
「えっ!!?」
んっ?大喜が横で驚いている。何?何かあった?
あっ!?もしかして言葉に出ちゃってたの!?………どうしよう………き、気まずい空気が流れている。
「まぁ!そういうことだから!!さっさと体調治して頑張りなさいよ!じゃあまた明日!」
そう言って傍に置いてあった荷物を掴んで部屋を出た。後ろから私を呼ぶ声がしたけど、今大喜の顔見られない。絶対真っ赤で恥ずかしい顔をしている。
おじいさんに“お邪魔しました”と一声だけかけて玄関を出た。
「雛!見舞いありがとう。嬉しかった。また明日な!」
道路に出た私の後ろから大喜の声が聞こえてきた。多分部屋の窓から言ってるんだろう。手を上げて気にすんなの合図をした。嬉しくて顔がニヤけちゃう。たったそんな事でここまで嬉しくなるなんて、恋ってのは難儀なものですな。
この日、テストが返ってきた。
栄明は変則的なテスト構成になっており、木曜日、金曜日の2日間で行われる。
木曜日が現代文、古文・漢文、数学Ⅰ、数学A、英語、英語リスニングの6科目。
金曜日は日本史、世界史、政治経済、科学、物理、生物の6科目だ。
何科目か何個か落としていたが概ね想定通りの点数だった。
最後にテストの点を纏めた紙を渡された。1200点満点1184点だった。現代文と古文・漢文と政治経済が満点じゃなかったのが残念だった。
大喜と蝶野さんは赤点がなかったようだ。毎回テストが返却される度に喜んでいるので分かりやすい。
蝶野さんが成績を見せ合おうと言ってきたけど、君他人に見せれるような成績じゃないだろうと思ったのは内緒だ。
いつものメンバーで並べると上から俺、横、島崎さん、匡、蝶野さんと大喜がどっこいの成績順になる、
学年順位で言えば1位、12位、46位、61位、2人が200位オーバーだった。
40人8クラスから見れば大喜と蝶野さんは中の下か下の上だな。俺が成績良いのは何となく分かっていたけど歴史と古文・漢文もバッチリだったのには驚かれた。
歴史は父さんが好きで、その影響で俺も好きになったから。古文・漢文は千夏先輩との勉強で克服したというか理解した。
まあ千夏先輩と一緒に勉強したとは言えないが。
まぁこれで皆後顧の憂いなく夏休みは部活に打ち込めるんだ。
良かった良かった。なあ、大喜?
一クラスの人数、クラス数は想像です。成績も想像です。
ついに優が千夏先輩に手を出しちゃった回でした。
ここから少しずつ恋模様にエンジンがかかって進んでいくのがいかないのか。
次の話の予定はプール掃除と夏休み開始を予定してます。
更新順はSEED、銀英伝、アオのハコを予定してます。
お楽しみに。