アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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最初の一歩

いつも通り、6時前に下に降りる。味噌汁だろう、味噌のいい匂いがする。

「おはよ〜う。」

そう言いながらリビングに入る。

「優、おはよう。」

キッチンから母さんの挨拶が聞こえてきた。キッチンにコップを置いて、シリアルを取り、中には入っている計量カップで2杯掬って皿に盛り、牛乳をかける。ぶどうを十個程もう一つの皿に盛り、リビングのテーブルに向かう。

「おはよう、優君。」

先に下に行っていた千夏先輩が優しく笑いながら挨拶をしてきた。

「おはようございます、千夏先輩。」

まだ朝ご飯が出来てないので熱いお茶を飲みながら待っているようだ。

「それが栄明の制服ですか?」

俺の質問に不思議そうな顔をした。

「そうだけど、もしかしてそれも知らなかったの?」

「ええ。良かったら立ってもらえませんか?」

「別にいいけど……。」

千夏先輩にそうお願いしながら俺も立ち上がり、立った千夏先輩の正面に立って向かい合う。

「イギリスの学校って大半が私服登校なんですよ。よっぽどの名門校以外は。だから制服って珍しくて。」

そう説明しながら上から下、下から上とジロジロと観察するように見る。

何か千夏先輩が急に足を動かし始めた。どうしたんだろう?

「いや〜、何か良いですね。うん、いい。」

そんな事を言うと、急に後ろから臀部に衝撃が走った。

「何か良いですねじゃないわ、このアホ。ゴメンね、千夏ちゃん。このアホが変な事言い始めて。はいこれ、朝ご飯。」

どうやら母さんが俺の尻を蹴り上げたらしい。千夏先輩の前に朝食を置いていく。

「い、いえ、大丈夫です。」

「あんたもさっさと食べなさい。というかアンタ、もしかして私服で行く気!?」

母さんの驚きの声に困惑しながら答える。

「いやだって、おれ私服登校だったし。」

「だったらスーツ着ていきなさい!代表のはクリーニング出してあるからチームスーツを着ていきなさい。挨拶しに行くんでしょ、最低限の礼節は守りなさい。」

「はいよ。」

そんな母子のやりとりをクスクス笑いながら千夏先輩が見ていた。

 

 

 

 

 

2階から優君が降りてきた。スーツを着てコートを羽織っている。ピシッとしていて体型も絞り込まれているからモデルのようだ。髪もワックスでセットしているのか一昨日、昨日と違ってスマートでカッコいい。

「お待たせしてすみません。」

「えっ、いやそんなに待ってないから大丈夫。」

話しかけられて慌ててしまった。恥ずかしい。

「じゃあ行こうか。」

「はい。案内お願いします。」

優君は革靴を履いて、玄関に置かれたボールを手に持ちリュックを背負った。案内される立場なのか優君は少し後を歩きながらリフティングしている。

ほとんど足元を見ずに、私の歩くペースに遅れることなく、私と会話しながら進んでいく。

「凄いね。リフティングしながら登校なんて。」

「先輩もハンドリングしながら登校出来るでしょう?それと一緒ですよ。」

「違うと思うけどな〜。」

そんな話をし、次は昨日のちゃんこ鍋の話をした。美味し過ぎていつもより多く食べてしまった話を二人で笑いながらした。

そんな話をしていると15分程で学校に着いた。正門から正面玄関に向かう。靴を履き替えようとしていると、優君が困った顔をしていた。

「どうしたの優君?履き替えないの?」

「あ〜いや、履き替えた後の靴どうしようかと。そこら辺に置いとくわけにもいきませんから。」

「なら私の靴箱に入れとく?」

「いいんですか?」

「いいよ。はい、上の段使って。」

そう言い、靴箱の前を退いてあげると申し訳なさそうに革靴を入れた。

校舎の説明と体育館への道、途中の部室棟への道を案内してあげる。

「ちょっと待ってて、着替えてくる。」

優君にそう言い残して、ダッシュで部室に向かい、過去一の早さで着替えて部室を出る。小走りに優君の元に行く。

「本当に早かったです。そんなに慌てなくてもよかったのに。」

「そんなわけにはいかないよ。人を待たせてるんだから。」

直ぐに体育館に着いた。用具室に向かいボールカゴを引っ張ってきた。

「私はシュート練するけど優君はどうする?何かする?」

私一人練習して、優君を手持ち無沙汰にするのは心苦しい。そんな私の心中を察したのか驚きの提案をしてきた。

「なら俺もシュート練します。千夏先輩、勝負しません?」

「勝負しようって、バスケで?」

「いや、先輩はバスケットボールで俺はこのサッカーボールでバスケゴールを使ってのシュート対決です。」

言いながらポンと蹴ったボールがガガンとリングに当たりながら吸い込まれた。私は唖然とし、リングを見ている。

「動かないし邪魔もなければ決めるのはそこまで難しくないですよ。」

優君はそう言いながら下で跳ねてるボールを取りに行く。いや、絶対に違うと思うな。

「私はいいけど、本当にするの?」

「折角なら負けた方が何かしましょうか。腕立てとか。」

優君の提案につい笑ってしまう。意外とこういうノリ好きでやってくれるんだよね。

「いいよ、何回にする?」

「あんまり数が多いと大変ですから20回にしましょうか。」

「オッケー、先攻後攻はどうする?」

尋ねると“千夏先輩が好きな方をどうぞ”と言われたので後攻を取る。ポンポンとリフティングをしながらゴールをチラリと確認し、ボンッと不意に蹴るとボードに跳ね返り、リングの内側に当たり吸い込まれていった。

「千夏先輩、どうぞ。」

そう言い、場所を空けてくれた。これもしかして私不利なのかなと一瞬不安な気持ちが芽生えた。でも試合でもプレッシャーがかかる場面は絶対にある。集中してシュートを放つとパサッとリングに触れることなく入った。

「よしっ。」

気持ちを入れて打ったせいか、声が漏れた。次は優君とそっちを見ると、もう集中し、此方に意識がない。ボールとゴールを確認しながらリズムを取りながらリフティングをしている。そして時間をおかずにボンッと蹴ると今度は優君もリングに触れることなく決めた。

互いに5本ずつ決めた時、優君が身体をバタバタと動かしながら話してきた。

「千夏先輩、寒いのでシュート練は止めにしませんか!1on1にしましょう。」

「いいけど、優君バスケ出来るの?」

「俺を誰の息子だと思ってるんです?小学生になるまではやってました。」

「それってやってたって言っていいの?」

「やっぱ駄目ですかね?体育館で風が無いといっても、1月は寒いんで身体動かしましょう。」

「うん、私もそう思ってた。」

流石に1月だから身体を大して動かさないシュート対決は寒い。私も思ってた事を、優君も言ってきてくれたので賛同し、1on1をしようとする。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、Yシャツの一番上を外し、真剣になったっぽい。面白くなってきた。

 

 

 

 

 

「ちー、誰と勝負してんだ?」

バスケ部側のコートに立っている船見 渚(ふなみ なぎさ)に声をかけた。

「ん?針生か。さぁ〜、知んない。誰だろうね。」

「バスケ部としては、どっちが勝つと思ってんだ?」

単純な疑問、どちらが先にシュートを決めるか聞いてみた。

「ぶっちゃけ男の人の方が確率は高いと思う。男の方はシュートが数センチか十数センチズレてたら決まってるし、千夏は彼との身長差を掻い潜れてないから。」

「ふ〜ん。それにしてもスーツ姿の男とバスケって。」

相も変わらずバスケ馬鹿な彼女と不審人物Aとのバスケ対決を見守る事にした。

 

 

 

 

 

互いに5本ずつが終わり、どちらも一本も決めていない。理由は単純に俺はシュートが入らない。リングには全部当たるけど弾かれている。俺センスねぇ〜な〜。

千夏先輩の方は男女の体格差、簡単に言えば身長差と身体能力差でシュートチャンスも作らしていない。俺の6本目も案の定、リングに嫌われた。

「シュート、全く入らん!!」

あ〜〜くそっ、つい愚痴ってしまった。千夏先輩の番もシュートがディフェンスした俺の指に掠り外れた。時計を見ると8時を回って15分が近い。そろそろ終わらないと。

「もう良い時間なんでこれで終わりにしましょう。」

「え〜〜〜〜、いい勝負なのに。時間なら仕方ないか、いいよ。」

千夏先輩に渡されたボールをつきながら隙を窺う。まあ、隙らしい隙なんてないが。仕方ない、スマートじゃないから趣味じゃないが此処は力技でいくしかない。フロントチェンジやレッグスルー、インサイドアウトでリズムと間合いを崩す。そしてチェンジオブペースで一気に振り切りにかかるも、付いてこられた。

そのままゴール下にまで並走する形になるも強引にシュートをしようとすると、それを防ごうと千夏先輩は体ごと手を伸ばしてきた。

そのタイミングでロールで一気にマークを剥がす。ボールを左で持ち、両足に力を入れて全力で跳ぶ。

「おあぁぁああ〜〜〜〜〜っ!!」

叫び宙に浮いている浮遊感を感じながら、左手のボールを上に伸ばして勢いよくリングに叩き込んだ。遠くからは入らない、近くからも自信がないならゴールに直接ぶち込むしかない!

ダンクをした瞬間、“おお〜〜〜〜”という声が周囲から聞こえた。ぶら下がっていた左手をリングから離して着地する。

傍にいる千夏先輩は呆然か唖然かフリーズしている。

「これで俺のリードです。先輩の番ですよ。」

そう千夏先輩に言いながら、ボールを渡して開始を促す。

精彩を欠いた先輩のプレイを止め、俺の勝ちに終わった。

腰に手をやり、大きく息を吐いた。疲れた〜〜〜。

「では先輩、罰ゲームお願いします。」

そう言って罰ゲームの実施を促す。

「え〜〜今やるの〜?」

「はい、お願いします。」

笑いながら言うと、“負けたから仕方ないか〜”と言って腕立ての体勢になる。

「はい、い〜ち。はい、に〜い。はい、さ〜ん。」

傍で数を数えてあげる。きっちり20回やった千夏先輩に手を差し出す。一瞬何の手か戸惑ったのかキョトンとしていたが気付いたのか握ってきたので、ぐっと引っ張り上げて立たせる。

「では行きましょうか。」

そう声をかけて、カゴにかけておいたスーツの上着を取りに向かう。上着を羽織って、外した時計やボタン、ネクタイを締める。傍にいた女子バスケ部員に軽く頭を下げ、お邪魔しましたと言ってから校舎との連絡口に向かう。

「渚!悪いけど私先に上がるね。優君案内しないといけないから!」

千夏先輩が誰か、多分友達だろうが、そう言って出入り口に向かう。

「ほら、急ぐよ優君!」

部室に寄って、千夏先輩が制服に着替えるのを待ち、職員室に向かう。

「ここが職員室。失礼します、岡本先生はいますか?」

扉を躊躇なく開け、戸惑いなくスッと入っていく。 俺は大人しく先輩の後ろについていく。

「おう、鹿野。どうした?」

「先生にお客さんです。」

用件を伝えると、横に退いた。どうぞということのようだ。

「初めまして、如月優です。サッカー部の練習前に挨拶しに来ました。」

そう挨拶すると、笑顔で出迎えてくれた。

「おお、如月か!よろしくな、監督の岡本だ。」

「よろしくお願いします。」

ペコリと頭を下げてお辞儀をする。

「うちのサッカー部の近年の成績は知ってるか?」

そう尋ねられたので正直に知らないと答える。

「県ベスト8には残るが4には偶に入る位で全国へは地味に遠い。お前の力を貸してくれ。フォーメーションや戦術もサッカーの本場にいたお前の意見は重要だ、頼むぞ。」

俺に期待してくれているのは、ありがたいが………。

「ベストは尽くします。それで練習の予定を聞きたいのですが。」

「ん?ああ、今日から参加するなら4時にここに来てくれ。皆に紹介するし、色々と話したいこともある。これからの予定も放課後までに書面にして渡そう。」

「ありがとうございます。」

そう礼を言うと、岡本監督が疑問に思ったことを聞いてきた。

「ところで何で鹿野が案内してきたんだ?知り合いなのか?」

「母親同士が同級生で頼まれたみたいです。」

当たり障りのない本当の答えを言い、退室しようとする。

「では、自分はこれで失礼します。」

「失礼しました。」

俺の退室の挨拶に先輩も続き、連れ立って歩く。二人並んで歩いていると不意に応援された。

「頑張ってね。応援してる。」

「ありがとうございます。」

失礼しましたと言って、職員室から出る。

「では先輩ありがとうございました。帰ります。」

「えっ!?もう帰るの?」

「帰るの?って授業ないから当然じゃないですか。」

「確かにこのままだと不審者になりそうだもんね。」

千夏先輩の台詞に苦笑してしまった。確かにそうだろうが、あんまりだ。

「では先輩、案内ありがとうございました。授業、寝ないように頑張ってくださいね。」

「寝ないよ!優君もまた夕方に。気をつけて帰ってね。」

そう言って、俺に手を振って階段を登っていった。用も済んだし帰るか。何か周りの人にジロジロ見られてるし。ここが春から通うことになる栄明高校か、楽しみだ。

 

 

 

 

 

今日は朝からクラスがざわついている。まあ原因は分かっている。件の人物が教室に入って来た。

「おはよー。」

いつも通り、ほんわかとした雰囲気で挨拶をクラスメイトにしていく。周りも“おはよう”や“おはよう、鹿野さん”といつもと変わらない風を装っているが、どうも男子が落ち着きがないように外野の私からは見える。

「おはよう、渚。」

「千夏、おはよう。」

多分周りが気になっているのは体育館で1on1をしていた男子だろう。今クラスで聞こうか二人になった時に聞こうか悩んだ。そこへ空気を読まないのか読めないのかブチ破る男が襲来。

「ちー、朝一緒に練習してた男って誰なの?」

ざわざわと千夏を窺いながら話していたクラスがシーーーンと静まり返った。流石、針生。

「朝?優君のこと?春から栄明に来る新入生の子だよ。」

「てことは男バスの新人か。」

「ううん、サッカー部。」

「男バスじゃないんかい!」

ついツッコミを入れてしまった。

「サッカー部の練習に参加する前に挨拶しに来たんだ。私はその案内。」

「じゃあエスカレーターじゃないのか………」

針生の呟いた。中高一貫の栄明なら中3の夏の最後の大会が終わったら上の高校の練習に参加するのが流れだ。私も千夏も針生もそうだ。それが今の時期に挨拶と練習参加って事は外部になる。

「うん、イギリスの中学?を卒業して父親の仕事で日本に帰ってきたんだって。」

千夏の教えてくれる新情報に、また教室がざわめく。“イギリス!”、“帰国子女かよ!”、“糞っ、紳士の国からかよ!”といった具合に。

「で、そいつってスゲー奴なの?」

「ん〜、優君のお母さんからは欧州クラブユースの大会で優勝してMVP取ったって聞いたよ。優君からはアンダーだけど日本代表に選ばれてるって言ってた。」

やばい。それが本当ならとんでもない奴じゃん。周りも“欧州一!?しかもMVP!!”、“日本代表!?駄目だ、到底勝てん”と声が漏れ聞こえる。

「名前は?」

「えっ、優君の?如月だけど?」

針生の問いに困惑しながらも答える千夏。名前を聞いた針生がスマホをいじりだした。周りの人もだ。多分問題の如月優と云う人物を検索しているのだろう。

「うおっ、ウィキに載ってる。スゲー、代表歴とクラブレコード見るだけで引くわ。」

ほら見ろよって、針生がスマホを差し出してきた。上から下へ順に流し読むと、トンデモ経歴が列挙されてる。

周りも“無理だ”、“実在するのかよ”、“夢でも妄想でもないのか〜”といった言葉が聞こえてくる。スマホを針生に返すと、更にいじりだす。

「おお〜〜、スゲー。そこ通すのか〜〜。こんだけ上手いと寮か下宿をして向こうでやった方がいいんじゃね?イギリスはサッカーの本場だから日本でやるよりいいだろうに。ヨーロッパは強豪チーム多いし。」

多分、動画があがってるのだろう。それを見た率直な感想と当然の疑問を声に出した。

「ヨーロッパでは18歳未満はトップリーグでプレイ出来ないんだって。それにユースも有力選手の青田買い防止で親か祖父母が在英じゃないと所属出来ない規定になってるんだって。」

千夏の説明にそれなら日本に帰ってくるしか選択がないのかなと思った。

「サッカー部のグラウンドが土から芝生になったのも、そいつが入ってくるからだろ?ゴールデンルーキーどころかダイヤモンドルーキーが入ったサッカー部が何処までいけるか楽しみだな。」

針生の楽しみにしつつも、意地の悪そうな笑顔を見て、その新入生は御愁傷様だと思った。

 

 

 

 

 

夕方に練習に参加する為、練習着に防寒対策の上着を纏ってグラウンドに赴いた。誰も居ないのでストレッチを行いながら、少しずつ準備を進めていく。十分もしない内に、一人の男子がグラウンドに出てきた。

「俺が2年で部長の紅林彰人(くればやしあきと)だ。ポジションはセンターバックだ。よろしく頼むよ、スーパールーキー。」

嫌みのない口調に失笑してしまった。部長の紅林先輩が手を差し出している。それを軽く握り返しながら挨拶をする。

「スーパールーキーでは…、如月優です。今日からよろしくお願いします。」

「謙遜が過ぎるぞ、ルーキー。お前さんほど実績のある奴は日本中探してもいないよ。俺はやるからには全国に出たい。だからお前さんの力を当てにさせてもらう。とにかくよろしくな。」

「はい。」

キャプテンの紅林先輩とは上手くやれそうだと思う。紅林先輩とイギリスのサッカーの話をしながら一緒にストレッチをしていると、ぞろぞろと部員が出てきた。一人一人挨拶をし、挨拶をされる。

アップが終わると、ボール回しをし、実戦練習に移っていく。練習メニューとしては一般的なメニューをこなしていく。

練習が終わり、部室に案内してもらい、そこで着替えているとキャプテンが話しかけてきた。

「やっぱり如月は上手いな。トラップ一つ、パス一つ取ってもレベチだよ。」

「一つ一つのプレイのディテールに拘っているかいないかを長い間してきた差ですよ。」

「その積み重ねが俺達とお前の差になっているということか。なるほど、俺達もそこを突き詰めていかないといけないのか。」

“明日から如月みたいに一回一回突き詰めて練習するぞ、いいな!”、キャプテンの掛け声に“おう!”、“はい!”と声があがった。“それと着替え終わったらさっさと帰れよ”とキャプテンの一声に中のシャツを着替えて終わる俺が一番最初に上がることになった。

「お先に失礼します。」

そう挨拶をすると、中から先輩達が“お疲れ〜”や“寄り道すんなよ〜”、“明日、色々教えろよ〜”と声が飛んできた。

「ありがとうございました。」

お礼を言って、帰ろうとすると前に千夏先輩が歩いていた。

「千夏先輩、お疲れさまです。一緒に帰りましょう。」

声を掛けると、急に声を掛けられたから吃驚した表情をしている。そんな千夏先輩に帰りの誘いをする。

「いいよ、一緒に帰ろっか。」

「ありがとうございます。」

「どうだった?サッカー部は?」

「楽しかったですよ。まだまだ突き詰める所はありますけど、皆さんヤル気があって、勝ちたいと思っているのが伝わりました。」

初参加の純粋に思った感想を言ったつもりだったが、千夏先輩は不安そうな、心配そうな顔をしている。どうしたのだろう?

「本当に?優君が前にいたチームと比べれば相当レベルが落ちるでしょ?」

ああ、そんなことか。

「No problem、上手い下手は今の状態なだけで、俺にとっては成長しようとする、上手くなろうとする意思、思いが重要なんです。勝ちたい、負けたくないと思い、上手くなろうと練習する。その気持ちを持ってくれているなら別段問題ではありません。」

俺の気持ちを理解してくれたのか、フフッと笑い、冬の夜の空を見上げた。

「寒いね〜。」

「ええ、寒いです。」

俺も先輩と同じ様に微かに星が見える空を見上げた。

「冬だね。」

「ええ、冬ですね。」

二人肩を並べて同じ夜空を見る。冬の澄んだ感じがする空気と夜の静寂さを感じながら家路についた。




次は銀英伝なので間が空くと思います。ご容赦ください。
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