大喜、雛が中心の話です。
反対側から優と千夏先輩が向かって来ているのが見える。千夏先輩は年相応の楽しそうな様子が見える。優は少し落ち着いた感じで笑っている。
180近い身長の優が年上に見えるカップルのようだ。向こうも俺に俺に気付いたのか校門前で挨拶をしてきた。
「おはよう大喜。相変わらず早いな。」
「おはよう猪俣くん。」
「おはようございます鹿野先輩。優もおはよう。2人も早いじゃないか。」
松葉杖をついていた優が久し振りに徒歩で登校している。
「怪我はもう大丈夫なんだな?」
「まだ軽い運動しかダメだけど、来週にはバリバリ出来るように少しずつ上げていくよ。」
朝練一番乗り組の3人連れ立って部室に向かう。
「やっぱ日本独特の蒸し暑さには辟易するな。暑い………。」
優がシャツをパタパタしながら身体に風を送ろうとする。
「風が吹くとマシなんだけど中々吹かないからね。」
鹿野先輩が優と楽しそうに話している。
バド部は2階なので上に上がる。鹿野先輩も2階なのに上がってこない。、下を覗くと2人は“今日も頑張ろう!”と言い合ってハイタッチをしていた。
仲がいい2人を見るのを面白くない感情と俺と鹿野先輩がするより似合っていると負けを認めている自分がいるのが複雑な気持ちにさせる。
雛たちとの勉強会の日、針生先輩のインハイ本番まであと少しなのもあって針生先輩中心のメニューになっている。
代わる代わる針生先輩とゲームをする。正直針生先輩より弱い俺が相手をすることで練習になっているのか不安で聞いたら大喜の最後の最後まで粘る相手の練習は精神的にも肉体的にも効くらしい。
俺の練習にもなるから、粘りに粘ってやる。ほら、針生先輩。ゲンナリした顔しないっ!
午前練だけだからみっちりやったので流石の針生先輩もヘロヘロになっていた。あ〜〜スマホがあったら動画撮っといたのに。
練習が終わって部室に行くと、1階でサッカー部全員が水浴びをしていた。夏の暑さとハードな練習をしたのか巫山戯ている人が一人もいない。
黙々と汗を流し、身体を拭いている。
優も疲れているのか座り込んでいる。1週間丸々運動してなかったから体力が落ちているのだろう。
「大喜、匡。お疲れさん。これから勉強会か?頑張れよ。」
そう言って俺達を応援してくれたが、横にいる横は横になったまま手を上げてヒラヒラと振っての応援だけだった。
「罰走で走りまくったからヘロヘロなんだよ。勉強頑張れよ。ほら横、飯行くぞ。食わないと午後持たないぞ。」
パンパンと横腹を叩いて起きるように促す。
“ん、おう”と怠そうに身体を起こした。
「大喜、匡じゃあな。勉強頑張れよ。」
横が夢遊病患者みたいにフラフラフワフワした足取りで部室に向かっていった。
優も手を上げて、またと合図してきたので、俺達も手を上げてから校門に向かった。まだ待ち合わせ時間に幾らか余裕があったが全員が揃ったので図書館に向かう。あ〜〜早く涼しいところに行きたい。
「雛、寝るな!」
ペンを持って意識を飛ばそうとしてる奴に注意すると、まだ寝てなかったようだ。
「寝てないもん!」
「せっかく集まったんだし、集中しよーよ。」
ほら島崎さんもこう言ってるぞ。
「けど寝ると脳が記憶を整理してくれるって。」
「寝てんじゃねーか。」
言い訳が言い訳になってないぞ。
「だって数字見てても分かんないんだもん。こんなの絶対習ってない。」
「習ったよ。」
島崎さんからもツッコまれている。
「それをXに代入すればいいんだよ。」
雛の隣に座っている伊藤が雛に教えようとした。だが肝心の雛は………。
「だい……?…にゅう??」
全くと言っていいほど理解していない。伊藤も大変だろうなと思っていると。
「伊藤のやつ、ようやく攻めだしたな。」
「蝶野さんのこと良いなって、前から言ってたもんな。」
えっ……そんな話が聞こえてきて固まってしまった。
「夏休みで会えなくなるし、今日はチャンスなんだし、連絡先くらい交換しないと。」
隣に座っている匡に手に入れた情報を共有するべくコソッと耳打ちする。
「聞いたか!?伊藤、雛のことを…!」
「気にせず、勉強しろよ。」
あらやだ、匡に冷たくあしらわれた。そっか…伊藤…雛のことを好きなのか。今まで全然周りが見えてなかっただけで、みんな知らないうちに恋愛してんだな………。
ん〜〜〜。身体をぐ〜〜〜っと伸ばした。ふぅ、やっぱり真面目な匡と島崎さんがいるせいか、しっかりと勉強会になった。
俺も雛もつられて真面目に勉強に取り組んだから結構進んでホクホクだ。
でも流石に疲れたから、ちょっと休憩。トイレに行った帰りに自販機を見つけると喉が渇いたと思い、何か飲み物でもとコーラを買った。
休憩室兼談話室に行くと雛がソファに倒れ込んでいた。
「おおっ、死んどる。」
「死んどらんわ。」
弱々しい声が返ってきた。よっぽど疲れたんだろうな。
「ならサボりか?」
「サボってるんじゃない。力尽きたんだ………もう数字見たくない………。」
「別に横になるのはいいけど混んだら止めろよ。それと寝るんじゃないぞ。」
「分かってるって。」
よいしょっと。俺も雛の隣のソファに座り、コーラのタブを開けた。プシッと音が鳴る。これこれ、これがいいよなコーラって。グビリと一口飲むと口と喉に炭酸の刺激と甘ったるい味が広がる。
「しみる〜〜。」
「アンタも座ってんじゃん。」
「ここじゃないと飲み物飲めんのよ。」
もう一口と口をつける。やっぱ美味いな。
隣に好きな人がいる。それだけで擽ったい気持ちと嬉しい気持ちが湧いてくる。恋ってのは難儀なものですな。
大喜がぼーっとしている。その横顔を眺めていると、近くから多分中学生だろう制服を着た女子の声が漏れ聞こえてきた。
「あーーー!来週花火大会だって!」
「ほんとだー。」
「みんなで行こうよー!」
「佐々木くん誘おうー。」
「いいねー。」
恋バナまで聞こえてくると微笑ましく思う。
「なつかし。俺らも中1の時行ったよな。」
大喜にも聞こえてたんだ。それにしても懐かしい思い出を。
「西条くんが音頭とってね。彼、今何してんだろう?」
「三高行ってバンドやってるよ。」
「わぁーっぽい。」
「雛と話すようになったのも、あの頃だよな。」
「そうだっけ………。」
大喜には素っ気なく言ったが、私は鮮明に覚えてる。大喜の顔に上げた手が当たったことも、私が練習が長引いて遅れたことも、りんご飴が売り切れててショックだったことも、それを大喜が覚えてて私に買っておいてくれたことも、私がりんご飴を食べたくてよだれを垂らしてたのも。
良い思い出も、悪い思い出も、恥ずかしい思い出も、嬉しい思い出も全部が全部大切な思い出だ。
「あれからだ。雛が俺に暴力を振るうようになったのは。」
「なっ!」
“蹴られたり、膝カックンされたり………”
私が思い出に浸っている最中に、遠い目をした大喜が空気をぶち壊すことを言う。
「でも中1以来、部活とかで行けなかったな。なんだかんだで楽しかったよな。」
ここだ!今しかない!今を逃したらチャンスが来ないかもしれない!勇気を振り絞れっ!大喜の顔を見ながら伝えた。
「な、……ならさ、行こうよ花火大会。一緒に………2人で。」
言っちゃった。恥ずかしいけど大喜が私の顔を見ている。私の覚悟と思いが伝わるように。そう思いながら目を逸らさず、ジッと大喜の顔を見る。
どれくらいの時間が経ったのか緊張のし過ぎで分からなかったが、大喜が頭を掻きながら顔を逸らした。
「……2人って、………俺と雛の2人ってことか?」
「うん…………ダメ………かな?」
図書館の空調の音も、人の話し声も何も聞こえない。この空間に私と大喜の2人しかいないような感覚になった。
「……………分かった。……行くか花火大会。」
「………本当にいいの?」
大喜が了承した………?嘘じゃないよね?
「ああ。」
「本当の本当?」
「ああ。本当の本当。」
「本当の本当の本当?」
「本当の本当の本当。」
「本当の本当の「本当だよっ!しつこいなっ!」」
私が何度何度もしつこく確認すると、流石の大喜も怒った。アハハと笑って誤魔化した。
「本当にいいの?千夏先輩を誘わなくて?」
大喜は千夏先輩が好きなのに、私と花火大会に行ってもいいのか。何で私がこんなことを聞いているのかと思わなくもないが聞いておかないとと思ってしまったので、どストレートに聞くと大喜には珍しく困った顔をした。
「まだ好きだよ。でも俺は踏み込めなかったから。鹿野先輩の事、優の事、部活の事、雛の事を気にして一歩踏み出せなかった。それに気付いた時には鹿野先輩の隣には優がいて、2人とも楽しそうで………今更悔やんでも遅いんだろうな。」
初めて見た。こんななんとも言えない表情をしている大喜。
私の心配そうになっている顔を見て、苦笑いを浮かべ、この空気を払拭するように無理やり明るく振る舞ってきた。
「それで、待ち合わせはどうする?どこに何時だ?」
そんな大喜に戸惑いながらも返事をした。
「な、なら、6時に大喜の家で待ち合わせにしない?」
「いや、花火大会の会場なら雛の家の方が若干近いだろう?だから俺が迎えに行くよ。」
「わ、分かった。じゃあ準備して待ってる。」
「おう。」
やった!花火大会一緒に行く約束しちゃった。よくやった私!
自分の勇気に感動していると、遠くから大喜を呼ぶにいなちゃんの声が聞こえてきた。
「猪俣ー、電話きてたよ。ずっとブーブーうるさくて。」
「あ、サンキュー。すまんな。」
スマホを受け取って、私に電話してくるって離れていった。
それを見送ってからにいなちゃんが話しかけてきた。
「そろそろ戻れる?」
「うん。」
2人並んで歩いていると、さっきまで中学生の女の子が見ていたポスターににいなちゃんも気付いた。
「みて!花火大会だって。今年はどうする?みんなで行く?」
「あ、………ごめん、他の人と行く約束しちゃった。」
「はっはーん。おデートでしょうか?」
にいなちゃん、鋭いというか勘がいいからバレたみたい。
「男女2人で花火大会はおデートでしてよ?」
「ホントに違うよ。私は大喜のこと好きだけど、向こうはそんなこと思ってないし………考えてもなかったみたいだから。」
「そっか、色々と大変だね〜。下手に親友なんかやってる分さ。まあ楽しんできなよ。」
「うん!」
長いラリーになっている。インターハイ予選で俺が掴んだように、針生先輩も何かを掴んだのか上手くなっている。
左右に振られるも必死についていく。あの時に学んだのは、ただ守るだけじゃ勝てないってことだ。相手を攻めにくくする、此方を守りやすくする。そこまで考えて返さないとこちらの攻撃に、ひいては得点に繋がらない。
攻撃からリズムの選手もいれば、守備からリズムをつくる選手もいる。俺は守備からリズムをつくる選手だ。そこを理解して考えれば幾つも手がある。
よしっ!スマッシュレシーブをしっかりしたコースに返せた。針生先輩が後ろに下がりながら苦し紛れの返球をする。
それを契機に攻めに転ずる。しかし針生先輩は攻守にバランスの良い選手なので攻めあぐねる。
くっ………!スマッシュをネット際に落とされた。前に出てロブを上げるしかない。中央に戻った瞬間、俺の脇を抜くようにスマッシュがコートに突き刺さった。
22-20、21-19と粘ることは出来たが、1セットも取れずに負けた。針生先輩も俺もハァハァと荒い息を整えようとしている。
「サンキュー大喜。いい練習になったわ。」
俺より先に呼吸を整えた針生先輩がお礼を言ってきた。
「ありがとうございました。」
こちらもお礼を言い、さっきの試合の反省を頭の中でする。
もっと前後左右、コートの隅々まで使わないと針生先輩には通じない。ましてや勝つなんて夢のまた夢だ。
「大喜。」
そんな事をツラツラと考えていると針生先輩が話しかけてくる。
「なんですかっ。敗者に声をかけるなんて。」
つい負けた悔しさから語気が強くなってしまった。
「そんな喧嘩腰になんなって。」
「なってません。」
そんな俺に呆れながら、“あ、そう”と言い、話を続けた。
「31日先輩の大学の練習に参加させてもらうことになったんだけど、お前も来る?」
“時間は13時から17時まで”と急な誘いを受けた。
「大学?」
「体育大だから結構レベル高くて、練習キツイと思うけど。」
「行きます。」
「そう言うと思った。」
俺の返事を笑いながら了承してくれ、先輩に伝えとくと言ってから西田先輩を呼んだ。もう一戦と言っている。
なら俺は顔でも洗ってサッパリするか。
バシャバシャと顔を洗っていると「た〜〜いきっ!」と声をかけられた。
水を止め、顔をタオルで拭いてから後ろを向くと、雛がいた。声で分かっていたけど。
「ん?どうしたの?何か嬉しそうだけど?」
俺の顔を見て不思議そうに尋ねてきた。俺は自分の顔をペタペタと触って確認するけど、全然分からん。
「針生先輩に大学の練習に誘ってもらえたんだ。バド部の強い人達がいる大学だから、それが楽しみで。」
関東ではそこが1位2位を争うくらいに有名だ。卒業してプロになった人も大勢いる。
「みんなのインターハイも近づいてきてるし、こういった上手くなるための機会は大事にしないと。」
楽しみすぎてワクワクが止まらない。……そうだ、忘れてた。
「その練習、花火大会の日なんだけど時間的には間に合うから。」
「分かった。どうせ私も練習あるから気にしないで。」
「おう。何食おっかな〜〜?焼きそばは外せないだろう?それから〜〜〜「花より団子かい。」」
出店で何を買おうか悩んでいると雛からツッコミが入る。
「雛はりんご飴だろ?」
「モチのロンよ!年に一回、この時しか食べない特別で神聖な物なんだからっ!」
“なんだよそれっ!”と笑いながらツッコミ返す。こんなバカ話できるの雛しかいないよな。
「今度の花火大会、ちーはどうする?一応、さっき優香とまりことさな、あかりが来ることになってるけど。」
隣で練習前のシュート練をしている千夏に話しかけた。
「そうなんだ。」
「うん、ちーはどうする?」
“う〜〜〜ん”と悩んでいる。参加するかしないかなのに悩んでいる。その理由に察しがついて笑ってしまう。あ、まずい。千夏に気付かれた。
「男子も誘おうか?」
千夏からじゃなくて私から優君を誘おうか提案する。まあその時は優君だけじゃなくてサッカー部ってグループになるけど。
それから男バス、あんたたちはお呼びじゃないからそんなボディガードになりますアピールいらないから。
「……その………せっかくだから………2人で行きたいなって………思ってて………まだ誘えてないけど………。」
恥ずかしそうに、でも2人で行きたいという千夏がいじらしくて可愛いな〜。
「なら頑張って誘わないとね?」
「う、うん!頑張る!」
ほらそこ男バス、ショック受けてコートにへたり込むな!全く、だったらガンガンアピールでもすりゃあよかったのに、何にもしないから、突然現れた王子様に持ってかれるのよ。
それにしても変われば変わるもんだなと、隣で誘わないとと決意を固めているちーを見て笑ってしまった。
あっち〜〜〜。体育館も外も部室もクソ暑いな。さっさと荷物持って戻ろう。
「大喜っ!」
「雛か………。」
呼ばれた声に聞き覚えが、いやすぐに分かるか。振り向くとやっぱり雛だった。
「羽根取りに来たの?」
「そ、すぐ消耗しちゃって。雛は?」
「私は飲み物買う小銭を取りに。」
そっか。サッカー部の声が結構聞こえてくる。
「やっぱり夏休みは練習長いね。」
「そうだな。怪我とかしないように気を付けろよ。インターハイも近いんだから。」
心配になって注意すると神妙な面持ちで頷いている。
「今は花火大会っていうご褒美があるからね。ひとまずそこまでは頑張れる。」
「そっか。」
階段を降りていると後ろから、つい足を止めるような質問が飛んできた。
「大喜はさ、千夏先輩を誘わなくてよかったの?私の誘い受けてくれたけど………。」
「誘えないよ。俺は全然仲良くなれてないし、好きな人だから見てて分かんだよ。鹿野先輩が優のことを気になってるのが。」
つい足を止めて階段に座り込んだ。何か自分で言っててしんどくなってきた。
「先輩と仲良くなりたいと思った時に、傍に優が現れて、迷って、尻込みして、踏み込めなくて、その間に優が俺がなりたいと思ったポジションになってた。悔しいけど俺に勇気と自信がなかったから。」
最後は自嘲気味な感じになった。自分自身のマイナス面の多さに笑ってしまう。
「そっか……大喜も色々考えてるんだね。もっとアクセル全開フルスロットルノーブレーキで行くかと思ったけど。意外と慎重な。」
「馬鹿にしてるだろ?」
「してないしてない。ちょっとだけしか。」
「してんじゃね〜かっ!」
雛がアハハハと笑いながらクルクル回転して進んでいくのを後ろから追っていった。
大学の練習、花火大会前日の練習もハードだった。
インターハイ本戦がある部活は、練習時間の確保を優先的にしてもらえる。体育館系の部活なら女子バスケ部と男子バドミントン部、新体操部が当てはまる。
と言っても新体操はハードにやり過ぎるのがNGらしく1日練習がほとんどない。何なら雛は外部のクラブチームにも加入していて、そっちは新体操や体操を専門にしているからそっちに行くこともあるので、体育館での練習に居ないこともある。
明日はバド部はインハイ前、最後の1日オフだ。針生先輩に必要なものの買い物や準備の時間らしいが、大学の練習に行くあたり針生先輩も練習の虫だと思う。
準備はいいんですか?と尋ねたら半ドンの時に行ってるから大丈夫と返ってきた。それに1日で終わるから大した準備も必要ないらしい。
着替えとタオル、飲み物や補助食品、部活道具くらいで、何なら最悪コンビニでも揃えられるって言っていた。
片付けを終えて部室に戻る途中、サッカー部の前にある足のケア用のプールに何故か針生先輩が入っていた。沢城先輩と横も一緒だ。あれ?優がいない?
「針生先輩、何入ってんですか?」
「沢城に呼ばれてな。あ〜〜〜冷たくて気持ちいい〜。」
完全に寛いでるよ、この人は。
「横、優は?いつもなら入ってるのに。」
対面で見たことない顔の人と話している横川に聞くと、“ああ。”と返ってきた。
「もうすぐ試合があるから負荷を一回限界まで上げるために罰走に参加してる。半月休んだせいでどうしても色々と落ちているから。」
“トップフォームに戻すの大変そうだよ。俺があの練習をしたらパンクする”と言っている。
「大喜、紹介するよ。来年のホープの藤堂と馬原。」
よろしくお願いしますと礼儀正しく挨拶をしてくれた。出来た後輩が入ってくれるのか………羨ましいな。
「大喜も入ればいいのに。」
くだらないことを考えていると後ろから声がかかった。汗だくの優が後ろにいつの間にかいた。
「お疲れ優。」
「おう、お疲れさま。」
ガシャガシャと氷を追加で入れている。そして再度俺に入ればと勧めてきた。太ももまで浸かる優を見て、俺もと靴と靴下を脱いで入る。
「く〜〜〜っ!冷たい〜〜〜!」
冷たさに声が漏れる。
「如月、明日青森津軽と試合何だって?」
「ええ。明日の10時キックオフです。」
優と針生先輩が明日の練習試合の話をしている。去年の夏冬連覇の高校が相手らしい。なんなら一昨年の冬も優勝しているから3大会連続優勝している全国屈指の強豪校だ。
スポーツ特化の高校でサッカー部だけじゃなくて野球、バレー、卓球、バスケ、陸上、ラグビーなど数多くの競技で有名だ。
「勝算はあんのかよ?」
挑発的な態度で針生先輩が優に聞くと、優も不敵な笑みで応えた。
「青森津軽は毎年鍛え上げたフィジカルでのコンタクト、無尽蔵の体力を活かした速くて激しいプレスをしてきます。それに対してこちらも引くことも逃げることもなく戦えればいい勝負になるはずです。ただ点の取り合いになると思います。」
「なら観てて面白いゲームになりそうだな?」
「えっ……?観に来るんですか?」
「観に行っちゃあダメなのかよ?」
「いや、そんなことはないですけど………針生先輩、インハイ前にそんなことしてていいんですか?」
「いいんだよ。色んな競技の上澄みのプレーをみて刺激貰えるのって、結構大事だからな。」
「俺もチャリティマッチまで時間がありません。そろそろアクセルベタ踏みしないと。」
「楽しみにしてるよ。」
優の肩を叩いて激励してから針生先輩が上がった。
「大喜も針生先輩の練習に付き合って頑張ってるみたいだな。」
「ああ、勉強になることばっかだよ。」
「その向上心の高さ、流石大喜だよ。追いつけ、追い越せ何だろう?頑張れよ。」
「ああ、優の頑張りも俺の努力の源になってるよ。」
「?そうか。ならいいんだけど………。」
優はよく分かってないな。首傾げてるし。
「そろそろ俺達も上がろうか。」
「ああ。」
プールから出て、足の水滴を綺麗に拭き取る。プールの水を下水に流して中を軽く水洗いする。小さく畳み、片付けてから着替えに向かう。
匡と針生先輩に急かされながら着替えて部室を出る。施錠をして通路に出ると、“おい、如月。早くしろ〜。”と優を急かす先輩の声が聞こえた。
3人で校門に向かい歩いていると門の前に2人男女の外国人が立っていた。2人とも背が高くてスラっとしているのに薄手の格好から見える肌感で鍛えられているのが分かる。
オーラがヤバくて腰が引ける感じがする。ヤベッ、女性がジロリと睨んできた。スッと目線を逸らしたら隣の男性がフッと微かに笑われた。
気まずいと思った時、俺の隣をすれ違うように女性が走り抜けていった。
えっ、部外者が学校に入ったらダメだろと思った瞬間、“ユウ!”と名を呼んで、優に抱き着いていた。
二組の恋模様を上手く回すの難しいな〜。
ホントに書いてみると作家さんの凄さがよくわかる。
次話は千夏さんのライバル登場回の予定です。
次もアオのハコをしてから銀英伝かSEEDを予定してます。
高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に活動していきます。