アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました。

何か予想以上に長くなったので分けます。

2試合目は次の話にします。


錆落とし 前半

明日は青森津軽との試合なんだから軽めにしてくれたらいいのに、今日も今日とてキツイ練習だった。

フットワークとフィジカル、そして頭を使う練習が多いから肉体的にも精神的にも疲れる。何とか今日も乗り切った。

一緒に帰っている1個下の藤堂と馬原にカッコ悪いとこ見せらんないからな。

この2人とは仲良くなれた。真面目な藤堂と軽い馬原だが一定の敬意をもって接してくれているので安心して面倒を見れる。

そこら辺も優から指導されたらしい。如月から下の名前で呼ぶように言われたけど……まだ慣れないな。

実力的には向こうが上だが、横柄な態度や言動をすることもないから2、3年の間に立つのも問題なくできる。

今も紅林先輩、沢城先輩に色々と聞いている。その時、前から誰かが走ってくるのが分かった。あれ…は…女性だよな?

「ユウッ!」

隣にいる優に飛び込むように抱きついた。

「ジェーン!?何故ここに!?」

抱きついた女性はジェーンというらしい。ギュッと優の首を抱き締めている。周りの空気を察したのか優がパンパンと肩を叩いて離すように促した。

それにしても外国人に英語じゃなくて日本語で話すなんて、珍しく優も混乱しているのか?

「私は女子日本代表との親善試合に来たの。日本代表はレベルが高いからスパーリングパートナーにうってつけなの。それに補強をする対象探しにもね。」

流暢な日本語で話す彼女を驚きの表情で見た。それに気付いた彼女が髪を掻き上げ、鼻をフンッと鳴らした。

さて、この状況をどうしようかと悩んでいると、“ユウ”とまた優を呼ぶ声がしたので、そちらに目を向けると1人の男性が立っていた。

ただし、この男性は見覚えがある。息を飲んだ。

現イングランド代表で若干20歳でキャプテンを務める世界最高峰のCBだ。名はハリー・ウェルズリー。

家はナポレオン戦争の英雄、初代ウェリントン公爵となったアーサー・ウェルズリーを祖先にもつ。

その類稀な統率力と能力で飛び級して出場したアンダーの各大会を優勝した。16歳でプレミアリーグに初出場を果たすと、そのままレギュラーを奪取し、翌年にはプレミアリーグベストイレブンと世界ベストイレブンに選出された今世界一のCBと言われている。

ついた異名は『ミスターパーフェクト』。脚が速く、フィジカルも強く、左右足下のスキルも高い。フリーキックのキッカーも務めれるほどの技術の高さを誇る。欠ける所が一つもない、そんな彼を称した異名だ。

17歳でイングランド代表に選出されると、次の年に自チームより先に代表キャプテンを務めた稀有な存在になった。

「ハリー!」

優がハリーに近付き、腕相撲のように手を胸元で組み、組んだ拳を両者の胸に挟むようにして抱擁を交わした。

「何故此処に?皆は1日に来るって聞いたけど?」

「私は父が在日大使を務めていたから、その関係で知り合いに挨拶がしたくて早く来たんだ。」

流暢な日本語を話せる理由が分かった。

「それで挨拶を終え、君の家に行ったら学校で練習をしていると聞いてね。君の練習を見に来たんだよ。相変わらずユウは上手いな。」

「サンクス。ハリーに言われるのが何よりも嬉しいよ。」

笑いながら楽しそうに話す優とハリー。長年に渡り交流があるのだろう。確かに優が所属していたチームの選手だから交流はあっても不思議ではないが………。そんな疑問を抱きながらも様子を窺いながら見ていると、その様子に気付いたのか優との関係を話してくれた。

「ユウとは家が隣同士で、彼がイギリスに来たときから仲良くさせてもらったんだ。特にジェーンとはいつも庭でサッカーをしていたよ。」

そう言われて、彼女の正体にも思い至った。ジェーン・ウェルズリー、17歳。一昨年デビューした新進気鋭のストライカー。

男子顔負けのテクニックとパワー、スピードでゴールを量産し、1年目から連続で得点王に輝いた女子でも有数のストライカー。

それだけでなく彼女は、その美貌でモデルとしても活躍し、数多くのブランドモデルも務め、世界で最も美しい顔トップ100にも選出された今人気の人だ。

彼女の正体に気付いたのだろう。女子はジェーンさんを見て話している。“顔ちっちゃい”や“スタイル良い〜”、“背が高〜い”と褒め言葉が所々聞こえてくる。

「さて、そろそろ帰ろうか。マサフミとトモも待っているよ。」

ハリーがそう言うと、何故か優がその言葉に噛み付いた。

「ちょっと待ってくれ。父さんと母さんは知っていたのか?2人が来るのを?」

その言葉に不思議そうにしながら答えた。

「ん、ああ?事前に連絡しておいたからな。最初ホテルに泊まるつもりだったが、トモに積もる話もあるから自分の家に泊まるように勧められたんだよ。客室もあるから問題ないと。」

優は一切知らなかったのか、顔に手を当てて溜め息を吐いている。ジェーンさんはキャアキャアと女子に騒がれている。思ったより気さくと云うか優しいのかツーショットで写真を撮ってあげている。いいな〜俺もハリーと撮りたい。

「なんか疲れたから帰りましょうか………ハァ〜。」

こんな哀愁漂うの初めて見た。疲れ切ってるな。

「じゃあまた明日。」

そう言って2人を連れて、去っていった。

 

 

 

 

 

2人を連れて、いつものように公園で待つと1分もせずに千夏先輩が来た。

「待たせてごめんなさい。」

俺達を待たせた事を謝罪するあたり、本当に出来た先輩だなと思う。

「気にしないでいい。君とユウの関係は聞いている。学校では公にしていないことも。」

ハリーは気にしないでいいと優しく言うが、ジェーンは………。

「フンッ!」

ソッポを向いて、非常識な対応をする。

「ジェーン!君が千夏先輩にそんな対応をするなら俺もそれ相応の対応を取る。」

厳しく叱責をすると、渋々といった体ではあるがスッと手を差し出して自己紹介をした。

「ジェーン・ウェルズリーよ。よろしく。」

「鹿野千夏です。よろしくお願いしますジェーンさん。」

「ハリー・ウェルズリー。よろしくMs.チナツ。」

「よろしくお願いします。ハリーさん。」

互いに自己紹介が終わり、早く家に帰ろうとなった。話の話題は2人が流暢な日本語を話せることになった。

「お二人とも日本語上手いですね。」

千夏先輩の感嘆の声にハリーが笑いながら答えを教えてくれた。

「ワタシは3歳から8歳まで日本に5年住んでいたんだ。ジェーンも5歳までね。だから日本語に慣れる環境があったんだよ。父が在日大使をしていたから。だから日本食も大半が食べれるよ。イギリスに帰ってから母国の食の乏しさに辟易することになるとは思わなかったけどね。」

「そうね。日本は何でも美味しすぎるわ。肉も魚も野菜もバリエーション豊かで、ずっと住んでいたいくらい。」

千夏先輩がへ〜〜〜と関心しているのに気付いたジェーンはプイッと顔を背けた。

少し仲良くしてくれよ。千夏先輩は良いとして、ジェーン……君も千夏先輩と同い年でいい年、いい立場にいるんだから。

「ジェーン、仲良く出来ないならホテルに帰れ。ワタシたちはトモの温情で泊まらしてもらえるんだ。それを理解出来ないならな。」

言ってることは最もだけど、ハリー日本語上手すぎじゃない?温情とかよく知ってるね。

ジェーンが渋々といった感じだけど謝った。そして。

「ジェーンでいいわ。私とあなた、同い年だから。」

「なら私のことは千夏と呼んでください。」

そんな話をしていると家に着いた。4人で入ると母さんが出迎えてくれた。そして女性陣は風呂、男性陣は2階でシャワーを浴びてくるように言われた。

順々に終え、リビングに向かうとすき焼きの準備がされてあった。ハリーとジェーンが希望したらしい。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなったんだろう?今現在の状況を考えると、本当にそう思う。私とジェーンが何故か一緒にお風呂に入っている。

智さんが女性陣は1階、男性陣は2階のシャワーと言ったけど、それは順番に入ってということであって一緒にという意味ではないはずなのに。

浴槽自体は大人が横に寝そべっても入れるくらい大きいから問題ないけど………混乱しているからジェーンが側に寄っているのに気付かなかった。

「ヒャアッ!!」

突然胸を鷲掴みにされたので、驚きの声を上げてしまった。

叫び声をあげた私をチラリと見て、何も気にした様子もなく胸を揉んでいる。

「日本の女の子はスキニーな骨格のまま大きくなるのね?キュートで可愛いわ。」

「ジェーンだって背が高くて細いのに胸もあって………私なんて小柄で胸もそんなに大きくないし………子供みたいな体型です。」

って、いつまで胸揉んでいるんですかっ!?慌てて手を引き剥がすと、“ごめん、ごめん”と謝ってくれた。

沈黙の時間が流れた。しばらくの間の後、フゥと息を吐いて此方をしっかりと見据えるような視線を向けてきた。自然と背中が伸び、姿勢を正した。

「チナツはユウが好きよね?見てれば分かるわ。」

ジェーンのストレートな言葉にドキリとした。只々真っ直ぐで誠実な問いに、“好き”とも“違う”とも言えなかった。

「お願いがあるの。ユウを日本に引き留めるような事はしないで。彼は世界最高峰の才能を持っているの。彼が輝く場は日本ではない。ヨーロッパよ。」

「……ジェーンさん………。」

彼女の切実な願いと分かり、何も言えなかった。

「私は彼を1人の男性としても、サッカー選手としても愛しているわ。でも彼は私をサッカー選手としてしか見ていないのが分かる。アナタが彼とステディな関係になったならアナタが彼に付いて行く、それくらいの覚悟をしてほしいの。」

「……………。」

優君のことを真剣に考えているのが分かった。これが彼女の優君の愛し方なんだろう。それをみると、私のはおままごとのように感じてしまう。

「チナツ、勘違いしないで。アナタにユウと恋愛をするなって言ってるんじゃないの。ただ彼と付き合うなら覚悟だけは持ってほしい、それだけ。」

ジェーンが立ち上がり、ザパッと水が音を立てた。

「先に上がるわね。」

彼女に何も言えなかった。ただ後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 

2人が希望したすき焼きを食べ終わり、食後の飲み物でまったりしているとハリーが急に腹ごなしに“散歩に行かないか?”と誘ってきた。

いつも走る公園を2人並んで歩く。イギリスにいた時も、たまにハリーと一緒に公園で遊んだり、ランチを食べたりとしたから少し前に戻ったような気持ちになる。

でも彼がこの日本で、こうやって2人で歩くなんて何かしらの理由があるのだろう。

「ユウ、今日キミのプレーを見た。俺の期待を大きくとまでは言わないが裏切っている。このままでは高校卒業後は契約する必要性を感じない。」

「っ……………!?」

ここまで強烈な事を言われるとは思っていなかった。

「今のプレミアリーグは歴代のどのリーグを見ても、上から下までレベルが高い。そしてウチのチームは毎年国内タイトルを獲得するのがノルマだ。そしてチャンピオンズリーグを獲り、欧州一になるのが究極の目標だ。つまり世界最高峰の選手を集め、試合をし、勝つのが至上命題になる。」

「……………。」

「ユウが日本に帰る前に伝えたことを覚えているか?」

ハリーの問いに答えた。これは日本で経験してこいと帰る時に言われたことだ。

「下の人を引っ張り上げる経験をするべきだと。」

「そうだ。だが私はユウに下りろとは言っていない。」

ヒュッと息を飲んだ。ハリーに言われたことが想像の範囲内であったとはいえ、まさか本当にという思いもあったからだ。

「お前が合わせるなっ!周りに合わさせろ!お前のレベルまで引き上げるんだ!」

ハリーの目に様々な感情が乗っているのが分かった。期待、失望、怒り。

「お前は俺が敵わないと認めた唯一の選手なんだ。俺の想像通りの成長なんかするなよ。俺の想像の遥か彼方に羽ばたけ。」

「ハリー………。」

「明日の試合でお前の真価を見せてくれ。」

ポンッと俺の肩を叩いてて家に帰ろうと言った。

あれほど煩いくらいに鳴いていた蝉の鳴き声がさっきまでは一切聞こえなかった。

 

 

 

 

 

いつもの様に6時に起きたが、身体の疲れほど頭の疲れが取れていない。原因は分かっている。ジェーンに言われたことがずっと心に小さな棘として刺さっているからだ。

今、一緒に住んでいるけど優君は高校卒業後はイギリスに帰り、プロになると公言している。つまり彼と一緒になるイコール、私が渡英するか彼が日本に戻るかの2択になる。

恋愛一つでここまで考えないといけないなんて、大変だと思う。花恋が針生君と付き合ったと聞いた時も私は小さい時からの知り合いでお似合いのカップル。やっとくっついたかと思ったけど、いざ自分が渦中になると色々と考える事があって、訳が分からなくなる。

リビングに入るといつもと同じで将史さんがテーブルに、智さんがキッチンにいる。

「おはよう千夏ちゃん。」

「おはようございます。」

挨拶を交わし、将史さんが笑いながら和室を見る。優君がそっちに居るそうだ。どうも将史さんに私の気持ちを察せられているような………。

ヒョコリと和室に顔を覗かせると、優君がノートにメモを取りながら試合を見ていた。

「おはよう優君。」

「おはようございます千夏先輩。」

私が挨拶をするとすぐに柔らかな笑顔で返してくれる。

「それ、今日の対戦相手?」

「ええ。今年も良いチームに仕上げてますよ。スタミナ、フィジカル、スピード、テクニック。不足しているところはないですね。今年も優勝候補筆頭と言われるのも納得です。」

「勝てそう?」

私が聞くと少し驚いた顔をして、すぐ真剣な表情に戻り私に力強く告げた。

「勝ちます。」

いつもと違う雰囲気を醸し出している。日本刀のように鋭い。

昨日ハリーさんと散歩をしてから何かが変わったのは分かった。

 

 

 

 

 

9時過ぎ、青森津軽は到着し、10時キックオフに向けてアップをしている。

ただ此方のベンチをチラチラと見て集中出来ていないのが分かる。そりゃあ現イングランド代表キャプテンが栄明側のベンチに座っているんだから。監督もガチガチで小さくなって座っている。

ハリーの隣には妹のジェーンさん。そして何故か鹿野先輩がジェーンさんと話しながら座っている。

優と仲がいいのは分かったけど、あの2人がイマイチどういった関係か分かんないんだよな。お互いに一定以上の好意があるのは分かるけど恋愛関係かと言われると首を傾げる。

それにしても女バス、サッカー部の試合観に来すぎだろ。今や鹿野先輩を筆頭に2年だけじゃなくて3年、1年も観に来ている。

お陰でサッカー部の面々がベンチ横で座る状況に………なんでやねんっ!

そんなことはさておき、集合がかかりベンチ前に部員が集まる。

スタメンが発表された。4-3-1-2といつもと違うフォーメーションになった。スリーボランチ、トップ下が優の沢城先輩、立石先輩のツートップ。いつも通り、俺は紅林先輩と組んでCBになった。

相手の青森は、いつもと同じ4-5-1だろう。その豊富な運動量とスピードで相手に落ち着いたプレーをさせず、押し込み続けるのが伝統の戦術だ。

その相手の戦術に俺達が何処までパスを回せるか、そして如月に繋げるか、そして如月が青森のプレスを突破出来るのかが攻撃の肝になる。

青森津軽はU-17、19代表、代表候補に選ばれている人が6人いる。彼らも如月を抑える事でアピールしたいだろうな。

それにしても如月、なんかいつもと雰囲気が違うな。切れ味鋭い日本刀のようなオーラを纏っている。

あの2人が来たからなんだろうが、今日の試合は荒れそうだ。

 

 

 

 

 

笛が鳴り、試合が始まった。青森のボールから始まる。最後尾に流してからロングボールを此方の最終ライン目掛けて蹴ってくる。高校サッカーではよくある始まりだ。

どのチームも立ち上がりにミスをしたり、試合に入れていない選手がいたりする。そこで先制パンチをする為に相手のゴール付近でボールを落ち着かせないように混戦を作り出すのが作戦らしい。

俺も下がりながらクリアのセカンドに備えると、紅先輩が相手と競り合いながらクリアしたボールが此方に来た。俺が落下地点に素早く入ると横から青森のボランチがチャージしながら競ってきた。腕を使って防ぎながら場所をキープし、ボールを足元でトラップし横に流してから斜め前に走る。横が俺の前にパスをし、前を向いて受ける。サイドの選手がボールホルダーの俺を潰しにかかる。それをヒョイッと躱し、相手ゴールに迫る。

もう一人のボランチがゴール前へのパスコースをケアしながらサイドへ追いやる守備をしてくる。それじゃあ遠慮なくと縦に突破しようとすると間合いを詰めて競り合いながら並走しようとする。

そこを股抜きで入れ替わりラインをクロスして中に切り込む。高い最終ライン目掛けてドリブルで突っかけようとすると最初に躱したボランチが再びマークしてくる。

この戻りの速さも青森の特徴だ。さっき抜いたボランチまで寄ってきた。ここは無理せずに逆の右サイドに張った沢先輩にロングパスする。

逆サイドに流れていくと相手のダブルボランチも付いてきた。なるほど、このボランチ2人が俺に鈴を付ける役割か。

沢先輩が仕掛けるも高校NO.1の青森津軽でスタメンなだけある。隙がなくて間合いを詰められ、ボールをキープするので精一杯だ。

栄明でスキルが高い方に入る沢先輩が通用しないとなると、マジで俺頼みのゲームになるな。

リターンを要求するとボールを守りながら此方にパスをする。俺をマークしているボランチが前に回り込んでカットしようとするのを両腕を使って防ぎながらボールをトラップすると同時に、腕の力を抜くと背負っていた相手の重心が前のめりになる。それを流れるように一連の動作で行い、中央にボールを転がして一瞬マークを剥がす。

今の俺にはこの一瞬の間でいける。左足をコンパクトに鋭く振り抜く。擦り上げたボールは速く小さく鋭く曲がりファーサイドのネットを揺らした。あそこは左右関わらず得意な位置だ。ニアに速いシュート、ファーに大きく曲がるシュート、鋭く小さく曲がるシュートと選べる。もちろんクロスも選択肢として使え、キーパーも立ち位置が絶妙に難しい。

タッチの感覚はいつもと同じ。シュートのイメージと実際の軌道の誤差もない。今日は感じがいい。まだまだいける。

ゴールパフォーマンスをしながら今日の自分の調子が滅茶苦茶良いのを実感した。

 

 

 

 

 

 

 

栄明と青森津軽が練習試合をするって聞いて、姉ちゃんに頼んで見学させてもらえるように許可を取り付けた。

姉ちゃんに借りを作るのは嫌だったけど、まさかプレミアリーグで、いや世界最高峰のCBのハリー・ウェルズリーの解説を聞きながら観戦できるなんて夢のようだ。

今、目の前で行われた如月先輩のゴールにおける優れた点を話している。

「ユウの優れている所は数多くある。テクニック、フィジカル、スピードも勿論だ。左右関わらずスキルが落ちない点もある。だが私が一番優れていると思う所は、相手の重心を感覚的に理解する能力だ。さっき抜いたシーンも相手が前に体重がかかった1秒にも満たない動きが、相手よりワンアクション早く動く事でフリーになる。それを一連の動作の中で察して行動に移せる点だよ。」

彼の言っている意味がよく分からなくて皆がポカンとしている。そんな俺達の様子を察したのか苦笑している。

「先の先を取ることによって、後の先も確実に取れる。彼にはそれを感覚的に理解しているんだ。何せ俺も練習や試合でユウには幾度となく抜かれたよ。すっ転ばされたこともある。」

嫌な記憶の筈なのに、楽しそうに話す彼に驚いた。如月先輩のことを1人の選手として評価しているのだろう。

「私は彼が日本に帰る時に、チームの実力を下から上に引き上げる経験をしてこいと言った。それがユウには今まで登った山道を下りて、皆の手を引いて仲良しこよし登山すると勘違いした。だから昨日のユウを観て、少なからずショックを受けた。練習は変わらず積んでいるのは分かったが、勝負所でアクセルを踏み込むべきところを維持か弛めていた。彼に必要な芯となるものを注入したからかな……イギリスにいた頃のユウだよ。華麗で、力強くて、クイックネスで、圧倒的なユウだ。」

嬉しそうな表情をしている。如月さんのプレーか好きなのが分かる。

「これならチャリティマッチも問題なさそうだ。」

ピッチに目を向けると、力強いドリブルで青森ゴールに迫る如月先輩を2人がかりで引き倒してファールになった。引き倒した側の選手にイエローが出る。

如月先輩は全く眼中にないのか、ボールの汚れを払い、空気の入り具合を確かめ、スッとセットした。35mはあるだろう。右足で狙うにしても距離がある。合わせるのも選択肢になるが。

「速いシュートで両隅のどちらかを射抜くわ。」

ジェーンさんが予告するように、ハッキリと言う。壁は4枚、ニアを防ぐ形に形成された。グランダーのシュートは敵味方の選手がいるから寝転んで防ぐ形を取らないようだ。

笛が鳴ると同時に動き出し、ボールを擦り上げるように振り抜いた。縦回転を加えられたボールは、高く飛んだ壁の上を通り、そのままドライブシュートのように落ち、ゴールに吸い込まれた。

前半15分足らずで2得点をあの青森津軽から奪うなんて、どんだけ凄いんだよ、あの人はっ!?

 

 

 

 

 

優君がピッチで躍動している。マークが2人専属的に付いているけど、それでも足りないと判断したのかトップ下の人が低い位置を取るようになり、3人が常時マークに付いている。三角形の中心に優君を囲い込むようにマークして、ボール自体に触れさせないようにしている。

優君が3人にマークされることで、他の人達へのプレスの人数が足りておらず、栄明がボールを保持し、攻撃的なゲーム運びをする意外な展開となっている。

後半も半分が過ぎて、6-2と大きくリードしている。

今も優君にボールが入ると同時に流れるように、マークしている2人を躱し、3人目のヘルプに4人目が来たらマークが外れた味方にパスを出す。

ああいった一呼吸をチームに与えるプレーはバスケでも参考になる。

後方から改めて組み立て直すようだ。最後尾の紅林先輩にボールが渡る。両SBがサイドライン一杯に広がり、横川君もパスコースを作る動きをする。

配置を整える速度が速い。これは優君が来てから拘った所らしく、パスコースを作る動きを試合中は継続的に行う。

そしてボール回しで困ったら優君がパスを貰うために降りたり、左右に移動する。安全地帯としての役目を果たす。

素人目の私にも優君がチームを、試合を円滑に進める潤滑油の役割も兼ねているのが分かる。

「あの一呼吸の間とか時間の使い方はバスケでも使えそうね。」

キャプテンの一言に頷いた。前半早々に2点を取ってからは、チーム戦術。攻守の確認と徹底を行なった。

2点を取ったが相手に2ゴールを許し、追い縋られたが優君が個人技で強引に2点を取り、一人力量の違いを見せつける形になった。

あと5分とロスタイムが表示された。するとハリーが岡本監督に一言二言話してからピッチサイドに立った。

ピッチで戦う選手も両チームの控え選手も彼を見ている。

ピーーーーーッと指笛を鳴らし、右人差し指を立てて横に振った。たったそれだけをして席に戻ってきた。

皆が何を意味するのか分からず、彼を見ているとその視線に気付いたのだろう。笑いながら説明をしてくれた。

「優に魅せるプレーをして、もう1点取れと言っただけだよ。」

その言葉を聞き、みんなが優君を見る。

「あの状況では簡単ではないですよね?」

渚がおずおずと質問すると、“アハハハハ”とジェーンが笑った。

「誰に何を言っているの?ユウは世界一のリーグの世界一のチームの下部組織でトレーニングを積み、去年から世界一のチームの対戦相手を務めてきたのよ。その実力は兄もチームメイトも認めている。何なら欧州中のクラブ全部がよ。」

“ロンドン、マンチェスター、バルセロナ、マドリード、ミュウヘン、ミラノ、パリ、多くのクラブがユウを欲しがっているわ。今なら移籍金も掛からないフリーだしね”と指折り欲しているクラブを数える。そして正面にいる優君を指差して、見ていなさいと私達に告げた。

高い位置を取っていた優君が斜めに下がってきた。それを見た横川君が強いボールでパスをした。受けた瞬間ロール、いやサッカーはルーレットか。1人目を躱し、遅れてマークに来た2人目も逆回りのルーレットで抜いた。3人目もルーレットで場所を入れ替えるように抜いた。

ペナルティエリアに向かうとCBがカバーに来た。右から抜くと見せ掛けてルーレットで左から抜こうとする。それをサイドステップでCBが防ぐ。それを見た優君が高速でもう一回逆に回り躱す。

CBの人が体勢が崩れ身体が倒れながらも、失点は許すものかと抜こうとしている優君のユニフォームを掴み引っ張るも、お構いなしに突き進んでいる。

すると優君のユニフォームが破れ、バランスを崩した。それでもボールのコントロールを失うことなく立て直し、キーパーと一対一になる。

シュートフェイントから、またルーレットでキーパーを軽々と躱し、無人のゴールに転がした。

優君の圧倒的なゴールにピッチもベンチも、そして学校の外から見ている国内外のスカウトや偵察の人達も静まり返っていた。

上のユニフォームが破れ、半裸になった優君が審判に声をかけ、その後すぐに試合終了の笛を吹いた。

どうやらユニフォームが破れたから、ここで止めようと提案したのだろう。優君のユニフォームを掴んで破った人が何度も何度も謝っている。多分気にしないでいいと言っているのだろう。笑いながら肩を軽く叩いて笑っている。

破れたユニフォームを脱いだら夏の陽射しでキラキラと汗が肉体を輝かせている。優君の活躍を祝うように。




更新順は銀英伝とアオのハコの先に出来た方になります。

その後にSEEDかな?

拙作を観てくださってる方、もうしばらくお待ちください。
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