アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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お待たせしました!

いや〜過去最長!頑張った!

今回の話は大喜と雛、優と千夏の恋模様を進めた話になります。

お楽しみください!


再度

1日休みの日に針生先輩に誘われたとはいえ、大学の練習に参加するなんて、俺ってバドミントンが好きなんだなと思う。

せっかくこういった機会を貰えた訳だし、少しでも多くの事を学び、吸収し、糧にしようとワクワクしながら大学に向かった。1時から練習開始で針生先輩に12時半に大学の正門前で集合と言われ、その5分前に到着した。キョロキョロと針生を探す。メールで正門前で待ってると連絡が入っているから、どこかにいるんだろう。

「おい大喜!こっち。」

「針生先輩!」

「キョロキョロしてたけど迷わなかったか?」

「少し広いんで困りました。大学ってこんなに広いんですね………。」

キョロキョロと辺りを見回す。校舎が4棟すぐ近くに見える。奥にも何個か見える。高校の何倍も広そうだ。

「ここは県内、関東でも有数のスポーツ強豪校だ。特にバドミントンは全国有数だから大喜も上のレベルでやりたいならここが一番の候補になるだろうな。」

「ですよね………。」

「一般からも入れるが勉強頑張んないと、お前じゃ厳しいぞ。今のままなら推薦貰えないだろうし。」

「………すよね。」

確かに今の俺の実力じゃあ推薦なんて箸にも棒にもかからない。最低でも全国でベスト8くらいにはならないと。

「ほらこっちだ。行くぞ。」

針生先輩が先導してくれるので、それに大人しくついて行く。

少し歩くと体育館が見えてきた。隣にもあるけど………。

「あそこが今日の練習場所。バド専用の体育館。隣はバレー部のらしい。」

俺が隣のは何だろうと思っているのがバレていたみたいで教えてくれた。

「それよりも今日はあの人がいるから、大喜も驚くぞ。」

俺にそう言って、なぜか笑う。誰がいるのか分からないけど嫌な感じがするのは確か。

靴を脱いで体育館に入る。その際、“よろしくお願いします”と声を出すと、近くにいた人が優しく声をかけてくれる。

「今日練習参加する新人か?」

「あ、はい!針生先輩に誘われて来ました。猪股大喜です!今日はよろしくお願いします!」

深く頭を下げて挨拶をする。

「堅いな、堅すぎ。まあいいや。よろしく猪股。練習短いけどその分密度濃くやるから頑張れよ。」

そう言って肩をポンッと叩いて出ていった。

「あの人、今年の大学日本一で大学日本代表のエース、全日本選手権でベスト16に入った渡辺さんだぞ。」

「ええっ!!」

「ここじゃあ一番上手いから一緒に練習させてもらえたら色々と勉強させてもらえ。」

「い、いいんですか?」

「何のために来たんだよ?上手くなるためだろ?ならガンガンいけよ。」

もしそうなったらせっかくの機会なんだ。色々と教えてもらおう。

「おっ、針生じゃないか。来たんだな。」

後ろから針生に声がかかった。振り向いて声をかけてきた人を見て驚いた。

「兵藤さん!?」

俺の驚いた声に気付いたのだろう。

「君は確か針生とダブルスのペアだった猪股君………だったっけ?」

「え、あ、はい。そうです。猪股大喜です。今日はよろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。俺は来年からここに進学するから引退してからは練習に参加させてもらってるんだ。」

「そう…なんですか。」

「今日はよろしく。頑張れよ。」

軽く気さくに声をかけてくれた。意外とフレンドリーで身近に感じるな。

そこからすぐに練習が始まった。アップ兼フィジカルトレーニングを1時間みっちりやる。栄明でもやっていたけど体育大学なだけあってキツイな。息が乱れ、汗が止まらない。

針生先輩も辛そうな顔をしている。兵藤さんは………汗をかいているけどそれほどでもないのか。

さっき話しかけてくれた渡辺さんは笑いながら先に打ち合いを始めている。

「シングルノック始めるぞ〜。」

“ほらほら脚動かす!”、“手だけで打つなよ。脚動かして身体を良い位置に!”、“体重乗せてしっかり打つ!”。前後左右に振り回されながら出されるシャトルを何とか返しながら打つも厳しい指摘が飛ぶ。それにいちいち返事をしていられないほどシンドい。

終わると床にへたり込んでしまった。脚が震え、心臓がヤバいくらいに鼓動しているのを感じる。汗もえげつないくらいに出ている。ゼェゼェと荒れ果てている息を必死に整える。

「猪股く〜ん。」

息の乱れが落ち着いたら一番奥のコートでノックをしていた渡辺さんから声がかかった。すぐに向かう。

「はい!」

「俺のレベルで一回やってみない?」

渡辺さんはマシンでシャトル出しをしている。その設定で俺にやるように言ってくれた。

「よろしくお願いします。」

真ん中に立つと直ぐに始まった。左っ!後ろっ!前っ!左っ!右っ!ランダムに振られる。息が上がる。脚が重くなる。腕が重く感じる。どんどん自分の身体が動かなくなる。喰らいつけっ!ここで諦めたら意味がない。歯を食いしばり、重い体を自分の意識一つで強引に動かす。

終わりの声がかかった瞬間、コートに崩れ落ちた。心臓に腕、脚がバクバク、ガクガクと震え、今まで一番息が乱れている。

「シンドいか?」

「い、いえ………大丈夫です……。」

何とか息も絶え絶えで返事を何とかするも、“嘘つけ。ヘロヘロじゃないか”、そう言われてしまった。反論出来ない。

取り敢えずコートから出ようかと言われ、這うように何とか出た。立ち上がることの出来ない俺の横に渡辺さんが屈んで話しかけてきた。

「君、根性はあるね。最後の最後も諦めずに喰らいつくいいガッツだった。ただこれから上手くなりたかったら上手い選手のプレーを細かく観察して、自分自身で再現できるようにならないとな。まあ難しいだろうけど君根性あるし、反復練習を誰よりも積んで頑張りな。」

「あ…ありがとうございます。」

お礼をいうと、“うん”と一つ頷いた。

「猪股君はさ、何で栄明に行ったの?バドって言えば埼玉でも全国でも佐治川でしょ?」

「中学で佐治川から推薦貰えるような選手じゃなかったんで。」

ウンウンと頷いている。

「そっか…俺もなんだ。中学では佐治川に入れなかったんだ。選考で落とされたんだ。スカウトに君はウチに要らないって言われて。そっから打倒佐治川になってな。高校に入ってからは必死にやったよ。2年で全国優勝して、優勝インタビューで佐治川のスカウトに君はウチに要らないって言われて、死に物狂いで頑張った結果ですってぶち撒けたら監督、コーチにめっちゃ怒られたな〜。」

アハハと笑いながら話してるけど、中々ヤバいエピソードだな。

「でもな、そういった反骨精神みたいなものがあった方が伸びる。君にもそういった感じを受けたから、こうやって練習見てあげてんだ。」

「………。」

「高校の2年半は短い。温い練習してたら佐治川の最新鋭最先端の練習をみっちり積んでる連中に置いていかれるぜ。さっきのくらい必死の形相でやれよ。」

「はい。」

返事をして、彼の顔を見ると固まってしまった。俺が甘いって目で、顔で言われているように感じてしまった。

「細かい所を指導してやるよ。ちょっとこっち来い。」

少しコートから離れ、手取り足取り教えてもらった。足運びからくるフットワーク、手から腕、肩、身体を使った打ち方、対人での戦術。

最後のゲームの練習を終えると細かい指導が入った。

「瞬発力と俊敏性は、これからも朝練でフットワークを重点的に鍛えるように。」

「はい。」

「ああ、持久力もな。この練習で息乱しすぎ。俺くらいと言わないけど兵藤か針生くらいはあるようにしろ。そうじゃないと決勝まで戦えんぞ。いいな?」

「はい。」

「それから体幹が弱い。もっと鍛えろ。それと柔軟性だな。練習前、練習後、風呂上がりにストレッチを丁寧にシッカリと隅々までやるように。」

「はい。」

ダメ出しが多すぎる。しかもまだあるなんて。

「ラケットワークも勉強だな。ヘアピンやフェイントの繊細なタッチから力強いスマッシュまで正確に打ち分ける技術を身に付けないと。」

「はい………。」

「おいおい。凹み過ぎだろ。甘い所が糞ほどあるけど、俺はお前ならやれると思ってる。負けず嫌いで、向上心が強くて、我慢強く辛抱強く戦える性格してる。バドって地道で辛く厳しい反復練習を継続して行える忍耐力がいる。ドMな猪股君にはピッタリだよ。」

「ドMってっ!」

心外な事を言われている!

「今日の練習キツかったろ?」

「それはまぁ。渡辺さんのトレーニングに付き合いましたから。」

「………俺、最初お前が来るの嫌だったんだよ。特段上手くない奴が何しに来たんだよって。挨拶だけ愛想よくして、俺に関わんないなら良いけどって放って置く気満々だった。でも必死に喰らいついてやってる君を見て、色々と教えてやろうかなって思ったんだよ。」

「それは……ありがとうございます?」

こういった時に何て返せばいいのか分からん。どうしたらいいんだろう………。

「連絡先交換しない?色々と聞きたいことがあれば連絡してきていいよ。」

「え、あの、いいんですか?」

急にそんな事を言われ、戸惑いながら尋ねると少し嬉しそうに笑われた。

「俺が交換しようって、お願いしてんだよ。夜なら基本出れるから何か聞きたいことあれば聞いてきていいよ。」

「あ、ありがとうございます!」

「期待してる。来年、佐治川に勝って全国出ろよ。」

「はい!」

俺の力強い返事を楽しそうに頷き、肩をポンッと叩いて、“じゃあな”と言って去っていった。

「大喜、えらく渡辺さんに気に入られてたな。」

針生先輩が後ろから話しかけてきた。渡辺さんとほとんど付きっ切りで練習してたから忘れてた。

「その顔を見るに、今日は来て良かったみたいだな。」

確かにあれだけボロクソに欠点を指摘されたら凹むが、指摘された事を徹底したら全然直せるし、俺はまだまだ強くなれるって分かった。今日は来て、本当に良かった。

「さて、大喜はこれからどうすんの?」

「一回家に帰ります。シャワー浴びてから花火大会に。」

「そっか。ならここで解散にするか。また明日な。」

「はい。今日はありがとうございました。」

17時回ったし、早く帰んないと。

家に帰ると、荷物を部屋に置いてシャワーを浴びる。汗をかいたから念入りに頭や身体を洗う。

髪のセットをして服のチェックをして時間を見ると時間ギリギリだ。急いで出ないと。

荷物を持って家を飛び出る。急ぎ足で向かい、時間ギリギリに着いた。インターホンを押す前に一呼吸ついて心を落ち着ける。覚悟を決めて押すと、“ピンポ~ン”と軽快な音が鳴った。

すると直ぐにガチャリと扉が開いた。そして俺は息が止まった。

雛が浴衣を、花柄の白い浴衣を身に纏っていた。コツコツと階段を降りてきて俺の目の前に立っている。

「迎えに来てくれてありがとう。………どう、大喜?似合ってるかな?」

褒めて褒めてって感じが子供っぽく見えるな。なんか気の利いた答えを返さないと………。

「え……、あ、うん、似合ってる。いつもと雰囲気が違うから驚いてなんて言えばいいか分かんなかった。」

「そっか〜〜。ムフフ〜〜。」

俺が褒めるとそんなに嬉しそうに笑うだな、雛って。

「ほら、行こうっ!のんびりしてるともったいない!」

俺の手を引いて歩き出した。少しの間、引っ張られていたが浴衣ではスピードが出ないので並んで歩くことになった。

隣を歩く雛に目を引かれる。制服や部活の時の格好と違って見慣れていない非日常感満載の浴衣がドギマギさせられる。

チラチラと見ていると雛が此方の視線に気付いて、目が合う。気まずくてパッと目を逸らしてしまう。そんな俺の様子を見て、雛が嬉しそうに笑っているのがなんとなく分かる。はっず……。

10分くらいで着いた。

混んでるな。

「雛、逸れるなよ。」

「う、うん。………ありがとう。」

「おう。」

「………あ、あのねっ!その、逸れると困るから……、その、……手を繋いでいい?」

「えっ!?あ、いや、その、………分かった。ほら、シッカリと握れよ。」

手を差し出すと、パアッと花が咲いたように笑う。やっぱり雛って可愛いんだな。そんな子が俺に告白して、煮え切らない俺の返事をずっと待ってくれている。

鹿野先輩が好きなのは変わっていないけど、強く雛に惹かれていっている自分がいるのも事実だ。優柔不断や移り気と言われても仕方ないのは分かってるけど、こんな可愛くて綺麗な女の子が俺を好いてくれている。この状況にどうしたらいいのか分からなくて、何が正しくて何が間違いでなのか、自分の気持ちがグチャグチャのゴチャゴチャで………。

そんな答えが簡単に出ない悩みにグルグルと頭を回していた俺を一気に引き戻したのは、ジューーーっという何かが焼ける音と焼けて香ばしく薫るソースの匂いだった。

「大喜、焼きそばあったよ。」

「めっちゃ良い匂い。食欲出るわ〜。」

「分かる〜。」

一つ買い、歩くと雛お目当てのりんご飴の屋台が見つかった。子供のようにワクワクした目で、子犬のようにブンブンとしっぽを振っているかのような様子に笑いが溢れる。

「ほら、約束通り奢ってやるよ。どれがいいんだ?」

そう尋ねたら、“コレ”と一番小さいサイズのりんご飴を指差した。隣に中、大と2種類あるのに。

「大きいのでもいいぞ。」

「ううん。カロリーや糖質の制限もあるし、他のも食べるとなると結構オーバーするからこれでいい。」

「そっか………。オジさん、この小を一つください。」

店主のオジさんに300円を渡して、りんご飴を受け取る。“ほら”とりんご飴を渡すと雛が嬉しそうな顔をする。さすがに前の時みたいによだれを垂らすとかはしないか………。

「なに見てんのよ?」

ジッと見ていた俺を不審に思った雛が“何?”と言ってきた。俺は視線を彷徨わせながら答える

「いや、今回はよだれを垂らさないんだなって。」 

「はっ!?垂らさないしっ!前の時も出店では垂らしてないもん!」

「そうだったな。よだれは教室でだったな。女子のあんな姿初めて見たよ。」

「もうっ!変な事何時迄も覚えてないっ!!」

ポカリと肩を叩かれた。雛とはこんな馬鹿話も、ふざけ合いも出来る。お互いに気を使いすぎず、居心地がいい。

「大喜!フランクフルトあるっ!あれも買おっ!」

「いいなっ!隣、イカ焼きじゃん。醤油の焦げる匂いが美味そ〜〜!」

両方に惹かれる。どっちも欲しくなる。どっちにしようか悩んでいる俺の姿を見て、雛がクスクスと笑ってきた。

「ならさ、半分ずつにしよっ!そうしたら私も色々な物食べれるしさ!」

「〜〜〜〜っ、分かった。なら雛も食べたいもの遠慮なく言えよな。」

「うん!」

 

 

 

 

 

「買い過ぎだろ。」

「いや、だって、見てると色々食べたいな〜って思っちゃって………。」

空いた手と抱えるように持った荷物が重い。

焼きそば、りんご飴と買ってから、フランク、イカ焼き、唐揚げ

フライドポテト、牛串、さらにはデザートでチョコバナナまで買った。

ビニールシートを敷いて、2人並んで座る。少し後ろに買った食べ物を置いた。あ〜〜重かった。手をプラプラさせて強張った筋肉を解す。そして疲れて、腹が減ったので腹ごしらえをする。

花火が始まるまで20分くらいか。

さて焼きそば、焼きそば。輪ゴムを外して開けるとソースの良い匂いがまだする。雛はフランクを美味しそうに頬張っている。

割り箸を割って啜る。キャベツと小さい豚肉がはいっている。上にのった青のりと鰹節がいい仕事してる。美味いっ!

「私にも一口ちょうだいっ!大喜があまりにも美味しそうに食べるから私も欲しくなった。」

別にいいけど………箸が俺が使ってる一つしかない。となると………。

「ほら、あ〜〜〜ん。」

女子の一口分を掴んで差し出す。すると俺の行動に雛が固まって動かなくなった。やっぱり間接キスになるから嫌か………。

仕方ない、箸を貰いに行くかと差し出した箸を下ろそうとしたら、パクっと身体を前にやって箸先に喰いついた。そして挟んでいた麺をチュルチュルと吸って挟んでいた焼きそばを全部吸い込んだ。

顔を見られたくないのか上を向いているが、頬が微かに赤らんでいるのが分かる。そんな不器用に俺を好きでいてくれる雛を可愛く思った。

「ほらっ、大喜!コレも食べなっ!」

そう言って一口齧ったフランクを差し出してきた。雛が食べた後がガッツリ残るフランクにどうしたらいいのか悩むも、雛も食べたんだからと決意し、俺も頬張るように大きく口に入れた。

「おおっ、豪快。」

「………、腹減ってるからな。」

早めに昼を食べ、そこから何も食べてないから確かにお腹は空いてるけど、どこか気不味い雰囲気を誤魔化すためなのもある。

「なら後はお食べ。」

ほらと俺と雛で3分の2無くなったフランクの残りを差し出してきた。

「半分ずつだろ?お金半分出し合ったんだから。」

「さっきも言ったけど私は食事制限もあるから全部を少しずつでいいの。なので全部大半は大喜が食べて。」

「なら俺が多めに出すよ。」

「いいよ、そんなの。」

「ダメだ、そこはキッチリしておきたい。」

「………しょうがないな〜。なら飲み物奢ってよ。私ラムネがいいな〜。」

多分俺が譲らないのは分かったから折衷案を出してきた。

「なら買ってくるよ。」

「後でいいよ。もう数分で花火始まるから30分で一回休憩に入るみたいだから、その時に買ってきてよ。」

「分かった。「猪股、蝶野さん…………?」」

急に名前を呼ばれて後ろを振り向いた。

「伊藤君。」「伊藤。」

先日、一緒に勉強会をした3人が揃って此方を見下ろすように見ていた。

「え…っと、何で2人並んで花火大会にいるんだ?付き合ってたの?」

答えづらい質問をされた。伊藤は雛が好きで、雛は俺に告白してきて、俺はその返事を保留している。

俺は何も言えず、伊藤から目も、顔も逸らすしかできない。なんて答えたらいいか分かんなかった。

「私が大喜を誘ったの。それで、…その……2人で行きたいって………。」

雛がはっきりと、でも最後の方は照れか恥ずかしくなったのか尻すぼみになったけど。雛はそれでも伝えた。雛のこういった所が凄いと思う。自分の気持ちに素直で、シッカリしてて、真っ直ぐで、凛としていてカッコイイ。

それに比べて俺は鹿野先輩が好きなはずなのに、雛に惹かれている自分もいて、鹿野先輩も優には勝てないって思ってしまって、打算か妥協で雛もいいんじゃないかって思ってしまった男らしくない自分に嫌気が差した。

「そっ……か。じゃあ俺達は戻るわ。またな。」

伊藤は友達を連れて去っていった。それを見送ると雛は俺の顔を見た。

「そんな気不味そうにしなくていいよ。私が大喜に告白したのも、大喜が保留して色々と考えているのも事実だけど、それをわざわざ他の人に言う必要もないから。大喜は自分で納得のいく答えを出せた時に返事をくれればいいから。」

そんなキッパリ、はっきり言われるとコチラも色々と困るんですが………。

何か言おうと口を開きかけた時、“パーーーン”と音が鳴り、赤い大輪の花が夜空に輝いた。その音と光に顔を向ける。

「わぁ〜〜〜っ!始まったよ、大喜!キレ〜〜〜!」

ほらほらと俺の肩を叩いて、前を向いて始まった花火を観ようと促す雛に従って前を向く。色とりどりの様々な形の花火を観ることにした。

いつか、早い時期に鹿野先輩と雛への気持ちの整理をつけないとなと様々な色と形の花火を観ながら、そんな事を思った。

 

 

 

 

部活が終わって、いつもの様に公園で落ち合い、2人並んで花火が観れる川沿いの神社に向かう。

イギリスにも花火大会がある事を話してくれた。意外や意外にイギリスは夏ではなく、秋と冬に上げられるそうで、11月のガイ・フォークス・ナイトと大晦日のニュー・イヤーズ・イヴというのが有名なんだそうだ。

いつか観に行きたいと言うと、一瞬ポカンとした後、いつもの様にフワリと優しく笑って“その時はいい場所を案内しますよ”と言ってくれた。

2人で観に行きたいって言ったんだけど、伝わっているのかな?

日本の色々な場所でやっている花火も観に行きたいなと優君が言い、私も観たいと言うと“なら約束ですよ。取り敢えず有名な花火大会は全部観に行きましょうか”と言って、約束ですと小指を差し出してきた。

「約束だよ。」

そう言って、小指を絡めて約束をする。

そんな事をしていると10分くらいで神社の入り口に着いた。

「千夏先輩は何が食べたいですか?」

「ん〜〜〜、じゃがバター!」

「いいですね。他には?」

「たこ焼きにイカ焼き、お好み焼き、牛串。色々食べたいな〜。」

色々と食べたい物を挙げて、悩んでいる私をクスクスと笑う優君の姿を見ると、ちょっと恥ずかしくなる。

「なら半分ずつして色々と食べませんか?」

「えっ、いいの?」

「ええ。千夏先輩に抵抗がなければ是非。俺もせっかくなら色々食べたいですし。」

「やったっ!」

唐揚げの出店でカップに入った4つ入りのを買い、シェアする。爪楊枝に刺さった唐揚げを私の口元に差し出してくる。

「はい、あ〜〜ん。」

優君が食べさせてくるので固まってしまったが、また“あ〜〜ん”と言われ、唐揚げを頬張る。揚げ立てではないから熱くはないが適温で口の中でモグモグ出来る。

外の衣がサクッとしてる所としっとりしている所があって、噛むと肉汁と醤油の味が染み出てきて美味しい。

優君も隣で頬張り、美味しかったのかフフッと笑って美味しいと呟いている。

花火まで1時間切ったからか人が増えてきた。今もゴチャゴチャしていて移動が大変になってきた。

「千夏先輩、逸れると困るので手を。」

そう言ってスッと手を差し出してきた。優君の顔と手を交互に見る。そんな私の視線を手が汚いと勘違いしたのかバックの中からウェットシートを取り出して手を拭きだした。そして私にも使いますか?と差し出してきたので、ありがたく使わせてもらう。ゴミもバックに汗をかいた服を入れるビニール袋を何枚も入れてあるそうで、そこに入れさせてもらった。

それからも色々と買っては食べ、買っては食べを繰り返す。

花火が始まるまで15分くらいだからそろそろ移動しようと話していると、優君が“あそこ”と指差した。

何かあるのかと思いながら見るとポツンと女の子が立っていた。人波を掻い潜りながら側に行くと、優君が屈んで優しく話しかけた。

「どうしたの、こんな所で?」

「っ、うっ、お母さんがね、いなくなったの……。」

涙声でつっかえながらもお母さんと逸れたことを教えてくれた。

「そっか。ならお母さんを見つけてあげないとね。」

「うん……。」

「お兄ちゃんが高い高いしてあげるから、上からお母さんを探してあげれる?」

浴衣姿の娘を高い高いなんて出来るのかと首を傾げた。

「お名前は何て言うの?」

「……ゆめ。」

「ゆめちゃんか。可愛い名前だね。」

少し汚れた浴衣をパタパタと払ってあげ、左肩にゆめちゃんを担いだ。左手でゆめちゃんの脚を抱えるように持って固定し、立ち上がった。

「わぁっ!!」

高い場所に持ち上げられたからか、ゆめちゃんが嬉しそうな声を出して喜んだ。

「ゆめちゃん、みんなのお顔見える?」

「うん!」

「そっか。ならみんながいる所に行きながらお母さんを探してね。」

「うん、わかった!」

高い所からみんなを見るのが楽しいのか嬉しそうな声で返事をするゆめちゃん。さて、迷子を預ける本部に行こうかと思った時、ゆめちゃんが“待って”と言って優君にストップをかけた。

「どうしたの、ゆめちゃん?」

「お姉ちゃんも一緒に行くのっ!」

えっと、うん、私も後について行くよと言うと、違うと首を横に振る。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんも手をつないで一緒に行くのっ!」

どうやら私が迷子にならないように優君と手を繋いでほしいようだ。

優君と顔を見合わせて笑ってしまった。そして両手を重ね、繋ぐとゆめちゃんに見せるように掲げる。するとゆめちゃんが嬉しそうに笑う。その様子を見て私達も笑った。

優君がゆめちゃんに、“お母さん見つかった?”と聞いても、“ううん”と返事をして首を横に振る。高い所から見下ろすのが景色が変わって面白いのか楽しいのかキョロキョロとしながらも嬉しそうにしている。

そんなゆめちゃんの様子に私も優君も笑うしかない。

そんな私達に声がかかった。

「あれ、優君にちーじゃない!?」

「花恋!」「花恋さん。」

「どうしたの2人とも!?こんな大きな女の子?産んだの?」

「産んでないから。私何歳で産んだことになるの?」

チラリと私と優君が繋いでいる手を見る。私の心の内も見られたようで恥ずかしくなった。少し下を向いて花恋の視線から逃げると、花恋がゆめちゃんに、“こんにちは〜”と声をかける。ゆめちゃんも人懐っこく、素直に“こんにちは”と花恋に返事している。

「この子を本部に送り届けてるところなんです。その途中にお母さんをゆめちゃんに探してもらってるんです。」

簡潔に事情を花恋に伝えてくれる。“ねーー”とゆめちゃんに同意を求めるとゆめちゃんも“ねーー”と明るく元気に返している。

そろそろ本部に行きますと優君が花恋に伝え、この場を離れようとすると花恋が呼び止めた。

「選手権の応援マネージャーの選考、まだ残ってるから。決まったら色々とよろしくね。」

「分かりました。」

そう言って離れた。

本部に着き、事情を説明するとお母さんが探しに来ていて、入れ違いでまた探しに行ったと教えてくれた。

「そっか。ゆめちゃん、お兄ちゃんはお母さんを探してくるからお姉ちゃんと2人で大人しく待っていられる?」

抱え上げていたゆめちゃんを下ろして椅子に座らせて、目線を揃えて尋ねたら、ゆめちゃんは大きな声でハッキリと返事をしてくれた。

「じゃあ千夏先輩、俺少し辺りを探していますのでゆめちゃんをお願いします。」

「わかった。任せて。」

「じゃあ行ってきます。」

立ち去る優君を見送った後、ゆめちゃんの隣に腰を下ろした。

「ゆめちゃん、喉渇いてない?」

「だいじょぶ。」

時々舌っ足らずな言葉にほっこりする。………で、何話したらいいんだろう。さっきまで優君が相手してたから急に会話のボールを渡されて戸惑う。

「………お姉ちゃんとお兄ちゃんは夫婦?」

急に懐深く抉るようなボールを投げられた。

「ち、ちがうよ。」

「なら恋人?」

「残念だけど違うかな〜。」

ゆめちゃん、グイグイくるな。

「じゃあお姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好き?」

「え〜〜っと………うん、好きなのかな?」

“秘密だよ”と口に指を1本立てて、しーーーっとするとゆめちゃんも楽しそうにしーーーっとする。

すると遠くからゆめちゃんを呼ぶ声が聞こえた。優君と多分お母さんが駆け寄ってきている。

「ままっ!」

ゆめちゃんがそれに気付いて椅子から飛び降り、浴衣で拙いながら駆け寄る。

抱きつきながら涙声でお母さんと呼ぶゆめちゃんとしっかりと抱き締めるお母さんを見ながら優君が私に近づいてきた。

「ちょっと行った所でゆめちゃんの名前を呼んでいたので直ぐに見つかりました。」

「そっか。よかった。」

「本当にありがとうございますっ!何かお礼を。」

飲み物か何かを買わせてくださいと言ってこられたが、それを丁重に辞退すると居心地悪そうにしている。見返りを求めてではないから気にしないでいいんだけどな。

困って優君を見ると、クスっと笑って屈んでゆめちゃんと目線を揃える。

「お兄ちゃんね。4日の19時からサッカーの試合があるんだけど、ゆめちゃんが観て応援してくれたら凄く頑張れちゃうんだけどな〜。」

「そうなの?ならゆめ応援する。」

スマホでチャリティマッチのサイトを開き、“ほら、お兄ちゃん映っているでしょ?”とゆめちゃんに見せると、“ホントだ〜〜”とゆめちゃんがはしゃぐ。

「テレビで放送されているので、よかったらゆめちゃんと一緒に応援してください。」

お母さんにも確認してもらうと驚いていたが頷いて、ゆめちゃんに一緒に観ようねと言っている。ゆめちゃんも嬉しそうに“見る〜〜!”とはしゃいでいる。

「そろそろ花火が始まるので。」

優君がそう言い、失礼しようとするとゆめちゃんが引き止めた。

「待って!お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと好き?」

ちょっ、ゆめちゃん!?さっき秘密って約束したのにっ!?

「…好きだよ。真面目で、一生懸命で、明るくて、凄く優しい、そんな素敵な女の子だからね。ゆめちゃんも大きくなったらお姉ちゃんみたいになるんだよ?」

優しく子供に言い聞かせるような声音で言うと、ゆめちゃんも“分かった”と素直に返事をした。ゆめちゃんに言ったんだけど、私を褒め讃える内容で私も若干恥ずかしい。

そして本部前で別れることになった。何度もお礼を言うお母さんと手を繋いだゆめちゃんの姿が見えなくなるまで手を振ってから、私の方を向いた。

顔が赤らんでいるのが分かった。照れてる、照れてるんだ!優君が腕で赤くなった頬を隠す。そして“行きましょう”と私の手を取り、引いて歩いてくれる。

土手に上がると、すぐにスペースを見つけてくれる。目敏いというか、隙がないというか、智さんがよく言う完璧にこなしたがる性格がでている。鞄からビニールシートを取り出し、地面に敷いて座りましょうかと誘ってくる。

隣に座る人の横顔を見ていると、すぐに私の視線に気付いて柔らかく優しく微笑んでくれる。それだけで夏の暑さとは違う熱さを感じる。ああ私、隣の彼にどんどん惹かれていっているんだ。

突如上がった花火とその輝きに照らされる彼の横顔を見ながら思った。

 

 

 

 

花火も終わって家に帰っている。その道中、花火が綺麗だった事やゆめちゃんの事、もうすぐ始まるチャリティマッチやその後に来る千夏先輩のインターハイの話と話題に事欠かない。

「インターハイ、決勝まで勝ち進めば9日も帰ってこないんですよね?」

「うん、大会前日と大会終わりの翌日に帰ってくる予定になるから。」

大会自体は1週間で終わるけど移動日を前後に挟む。

「サッカー部は練習がみっちりあるので応援に行くことが出来ませんが、心の中で応援しているので頑張ってきてください。悔いなく力を出し切ってください。」

応援の言葉をかけると、凄く嬉しそうな顔をして“頑張ってくるね”と朗らかに笑う。

やっぱり千夏先輩って凄いと思う。毎朝欠かさず朝練をして、学校の成績も落とさないように勉強もして、他人の家に同居っていう気を使って、ストレスが溜まりそうな環境で弱音一つ吐かずに頑張っている。

そんな先輩を見ていると怠けの虫が身体中にいる俺もサボらずにやらないとって思わせてくれる。

イギリスではハリーとジェーンが、日本では千夏先輩が俺の下がろうとする意識を維持させてくれている。母さんに感謝だな。絶対に、ぜーーーったいに口には出さないけど。

家に入ると2人が出迎えてくれ、楽しかったかと聞いてきた。千夏先輩と顔を見合わせ、クスクスと笑ってから楽しかったと言うと、2人が楽しかったのなら良かったと言ってくれ、風呂に入って早く休みなさいと言う。

千夏先輩にお風呂を勧め、俺はシャワーを浴びに2階に向かう。千夏先輩も荷物を置き、着替えを取りに一緒に上がる。

「今日はありがとうございました。楽しかったです。」

今日のお礼を言うと、千夏先輩が両手を胸元で振り、私も楽しかったからお礼はいいと言ってくれた。

「優君はシャワー浴びて準備が終わったらホテルに行くんだよね?」

「ええ、今日中に合流しないといけないので。スーツに着替えて向かいます。」

「そっか………なるべく早く上がるからそれまで待っててもらえないかな?」

「それはまぁ、構いませんが。」

「ならお願いね。」

そう言い、お互い部屋に戻って1日の疲れと汗を流した。

丁寧に上から順に洗っていく。頭、身体と綺麗にしていく。マッサージもして身体のケアもしっかりと行う。

シャワー室から出るとバスタオルで身体の水気を丁寧に拭き取り、ボディクリームを薄くシッカリと脚に塗る。

着替えて部屋に戻るとそれを脱いで、スーツにあらためて着替え直す。

スーツケースを持って降りる。リビングに行くと晩酌をしている。“試合観に行くから”とか“みんなによろしく”なんて話をしていると千夏先輩がお風呂から上がってリビングにやってきた。

湯上がりで少し赤らんだ顔としっとりとしている肌、水気を含み艷やかに光る髪が女の色気というものを醸し出している。

普段は女子って印象が強いけど、こういった節々に女性としての魅力を見せられると男の性として惹き寄せられるものがある。

もう10時になるそろそろ行かないと。そう言うと、両親は“行ってらしゃい”、“気をつけてな”で終わり、席を立つ様子もない。

そんな両親を見て笑うと、千夏先輩もそれに気付いて笑う。

千夏先輩は見送りに来てくれる。玄関で革靴を履き、準備万端で千夏先輩の方に振り向く。段差のせいで千夏先輩と顔の高さが同じくらいになっている。

“行ってきます”という前に右手をスッと差し出してきた。それを見て、“ああ、握手か”と思い、握り返すとブンブンと上下に振り回された。

「応援してるよの握手。」

「……え、ああ。ありがとうございます。」

10秒くらいだろうか?したら満足したのか手を離してくれた。そして今度は両手を掲げてきた。困惑しながらも、“ああ、今度はハイタッチね”と両手を気持ち強めに叩く。

「頑張ってねのハイタッチ。」

「はあ、頑張ってきます?」

コレで終わりかと思い、扉の方を向こうとしたら千夏先輩が一歩距離を詰めてきた。あまりの近さに驚き固まる。

そんな俺を他所に、そっと俺を抱き締めてきた。更に硬直し、身動ぎ一つ出来ない俺に、囁くように“怪我なくプレー出来るようにのハグ”。

俺の肩に顔を乗せているのを重みで感じる。そして風呂上がりなのでシャンプーやコンディショナー、ボディソープの香り、そして微かな千夏先輩の匂いを感じ、全てが凍りついたようにピクリとも動けなかった。どれだけの時間が経ったのか感覚がなくなった。

満足したのか、そっと身体を離し、俺の胸を両手でポンッと叩いた。

「行ってらしゃい。気をつけてね。」

胸を押され、そう言われ、そこでやっと意識を取り戻した。動かしにくくなった身体をぎこちなく動かしながら扉を開ける。

「優君の努力は今一緒に住んでる私が一番知ってるから。」

スーツケースを先に外に出し、表に出る俺の後ろ姿に、玄関の扉が閉じる瞬間に微かに聞こえるか聞こえないかの声量で。

家から少し離れた所で座り込んでしまった。

「ホントあの人は………ズルいよな〜〜〜。」

火照る身体には夏夜の微風も涼しく感じた。




次の更新予定はアオのハコを予定しております。

最近結婚式に行ってきたので、未来の話でその話にしようかな〜って思ってます。

その後の更新予定はアオのハコを更に1、2話程更新して、SEED、銀英伝を予定しております。
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