アオのハコ 一筋の光明   作:雪の師走

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未来の話になります。

本当にあの場所で出来るかどうかは知らないけど、まあ妄想の話なので。

完結したアオのハコの代わりに投稿する予定がズレちゃいました。

アオのハコ、完結おめでとうございます!

長かったのか短かったのか……最高の物語をありがとうございました。



Wedding reception 〜永遠の誓い〜

東京の1流ホテルで今日、親友の結婚式が行われる。

前日からホテルに泊まっているから前日は同窓会の様相で夕食を食べた。

海外や県外で仕事をしている人が多くいるので、その人達のために一人1部屋を押さえているそうだ。

どんだけ金かけているのか。サマードレスを着て、ホテル内にある教会に行くと受付にロンドンレッドで不動のCBを務める一つ下の横川君と私と同じバスケ部で同級生で親友の優香がいた。

しっかり者の2人に頼んだ人選は流石だと思う。

「おはよう渚。一応、招待状確認するね。」

形式的にバックから招待状を取り出して渡すと、席次表を貰う。

そしてバスケ部の仲の良かったグループで構成されたテーブルに向かう。

大学で別々になり、社会人一年目の7月早々に結婚式が入るとは思ってなかった。

「まさか千夏が一番乗りとは思わなかったよ。」

「そう?優君がベタ惚れで早く結婚したそうだったじゃない。」

「それは確かに。」

そんな話をしていると話題は先月のロンドンで行われた優君と千夏の結婚式の話になった。

「まさかロンドンと日本で2回するとはね。」

「仕方ないんじゃない?優君はサッカー選手としてチームメイトや他のチームの仲の良い人達を呼ばないといけないだろうし。」

「それにしてもバッキンガム宮殿で結婚披露宴をするなんてね。」

「千夏が言ってたけど優君と王太子が友人で披露宴に呼ぶなら警備の関係で宮殿を使うしかなかったみたいよ?」

「それマジで凄くない?」

「まあ、優君がイギリスで残してきた成績とプレースタイルから好意的な国民感情と費用面で使用許可が下りたかららしいけど。」

「そうよね。」

優君が高校サッカーを終え、誕生日を迎えるとすぐにプロ契約を結ぶと高校卒業を待たずに英国に渡り、最高峰の舞台に参戦すると、日本での活躍そのままに英国でも活躍。

1年目は半年のプレーで2桁ゴール、2桁アシストを記録し、英国人、そして世界中のサッカーファンを魅了してシーズンを終えた。

2年目も大活躍。プレミアリーグでGolden Playmaker、所謂アシスト王のタイトルを獲得し、チャンピオンズリーグでは決勝でハットトリックをPK、CK、FKとセットプレー3種類で勝利する離れ技を達成し、その年の最優秀選手賞であるバロンドールを獲得した。

これによって名実ともに世界最高峰の選手となった。

3年目もその勢いは衰えず、プレミアでは得点王とアシスト王同時受賞、CLでも活躍し、優勝。2年連続でバロンドールを獲得。

4年目もリーグでは2位、CLを準優勝。アシスト王を獲得。バロンドールはW杯でイングランドを優勝に導いたハリー・ウェルズリーに譲ったものの世界ベストイレブンに選出された。

5年目の今年はハリーが怪我で離脱したので、代わりにチームキャプテンとして獅子奮迅の働きをし、チームはリーグ最終戦まで縺れながらも逃げ切り優勝。CLも決勝で大逆転勝利で優勝し、3回目のバロンドールに輝いた。そして先月まで行われていた東京オリンピックでの活躍。

選手として順風満帆、私生活も千夏と仲良くしていて、この度結婚と相成った。おめでたい事ね。

年俸も優君のポリシーで一年一年が勝負と単年契約で毎年更新していて、1.5億から始まって5億、12億、21億、30億とステップアップし、来年は42億とプレミア最高年俸としてプレーする。

千夏もとんでもない玉の輿に乗ることになった。だからこんな大きく派手な結婚式になったんだろうけど。

優君の招待客は栄明の同級生や先輩、後輩、サッカー日本代表の仲の良い日本人だけのようだ。

30分くらいでチャペルに移動するように案内が入った。

披露宴会場からすぐ近くのチャペルに入ると、綺麗なステンドグラスが正面にある。夏の日差しが当たったせいかキラキラと光を反射させながら降り注いでいて、幻想的な空間に演出している。

席に着くと音楽が流れ、優君が入ってきた。白いタキシードを身に纏っていて、相変わらずカッコイイ男だこと。

新郎側から冷やかしの声、新婦側の私達の方から“千夏をよろしく”や“大事にしてよね”といった声が飛ぶ。私もおめでとうと言って、側を通った時に背中をパンッと叩いてやった。

それに反応して私の顔を見ると苦笑した後、しっかりと頷いてくれた。

通路の真ん中くらいの場所に立つと、緊張しているのか首元を触ってから大きく息を吐きだした。やっぱり緊張しているみたいだ。いつものサッカーでの自信満々な様相と違い、面白おかしくて笑っちゃう。

すると直ぐに司会の方が新婦の入場ですとアナウンスが流れ、後ろをご覧下さいと指示がきた。

みんな体勢を変えて後ろを向く。そして後方の重厚そうな扉が開いた。

 

 

 

 

 

昨日は私と優君の両親の6人で夕食を食べることになった。先週ロンドンで披露宴を行った話でも盛り上がり(お父さんはむっつりだまりこんでいたけど)、明日も楽しみにしていると智さんに言われた。

私と優の当人2人しかウェディングドレスを見ていないからだろうけど。日中はエステやネイルなど身体のケアを中心に過ごした。

渚や優香、夢佳、花恋達とランチを食べて昔を懐かしんだ。

そして今日、私は優と結婚して如月千夏になる。

何着も着たドレスの中で優が言葉を発さずに只々見惚れていたマーメイドラインのウェディングドレスを身に纏い、待合室から出るとお父さんが待っていた。

「お待たせ。」

「ん、………ああ。」

“それだけっ!?”って思ったけど、これがお父さんの通常運転だと思いなおした。口数は少ないけど私のことを大切に思ってくれている父だ。

チャペルの入り口の閉じられた扉の前に立つと、お父さんが珍しく話しかけてきた。

「まさかこんなに早く千夏が結婚するとは思ってなかった。」

「優がお父さんに度々私が大学卒業したら結婚したい、するって話してたって聞いたけど。」

「……それは……そうだが。」

「お父さん、ありがとう。反対しないでくれて。」

「しないさ。千夏が今幸せで、未来も幸せなら私はそれで十分だ。」

「……っ、うん、ありがとう。」

ダメだ、目に涙が浮かんできた。

式場スタッフの方が間もなく入場ですと言ってきた。小さく長く息を吐き、落ち着こうとする。

扉が開いた。中央に優が立っている。お父さんに寄り添って式場に一歩足を踏み入れた。そしてお父さんと一礼をして、少しずつ、でも確かにゆっくりと歩む。

優の前に来るとお父さんに向き直るとお父さんが珍しく目をすごく潤ませている。

そしてトンっと私の肩を叩いて優に引き渡す。優に“千夏をよろしく頼む”と言った。優が深くしっかりと頷き、前に共に歩いた。

最後の階段を上がる前にお母さんを見ると涙をポロポロと流していた。そして“千夏をよろしくお願いします”と優に頼むと“任せてください。必ず幸せにします”と力強く請け負ってくれる。

優のご両親を見ると将史さんが力強く頷き、優も頷き返した。

智さんも目元をハンカチで押さえながらスッと軽く頭を下げた。

そして優とゆっくりと一歩ずつ階段を登る。そして牧師の前に立ち、聖書朗読、誓約の言葉へと続いた。

「新郎優、あなたは神の教えに従い、良き夫として、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、生涯、愛と貞節を守り、妻を愛し敬うことを誓いますか?」

「はい、誓います。」

「新婦千夏、あなたは神の教えに従い、良き妻として、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、生涯、愛と貞節を守り、夫を愛し敬うことを誓いますか?」

「はい。誓います。」

次は指輪の交換。優の年の離れた妹の明(あかり)ちゃんが持ってきてくれた。

お兄ちゃんに指輪の入った箱を渡す時に私に“千夏ちゃん、結婚するの?”と聞かれ、“うん、お兄ちゃんとするんだ”と答えた。

すると“千夏ちゃんが結婚するのやだ〜〜!明、千夏ちゃんと結婚したい〜〜”と言い、一瞬で会場がシーーンとした。

「いや、お兄ちゃんと結婚したいじゃないんかい!?そこは“千夏にはお兄ちゃん渡さない!”じゃないのかよっ!?」

と関西人顔負けのツッコミを披露すると会場が笑いに包まれた。智さんが明ちゃんを回収してくれ、式を再開した。

優が選び送ってくれた20歳の誕生日に贈ってくれたブルーダイヤモンドの指輪を恭しく左手薬指に嵌めてくれた。

私も優に2本の紐が結われたようなデザインのエンゲージリングを。

そしてベールアップから誓いのキスに移る。

「深く長くしていいですか?」

私だけに聞こえる小さな声で聞いてきた。多分、緊張を解すためだろうけど。

「ダメ、それは夜まで取っておくように。」

「分かりました。」

なんでちょっと残念そうに言うかな〜。

そっと、優しく私の唇を喰むようにして重ねた。そして5秒くらいで離れた。

牧師が夫婦になったことを宣言してくれ、結婚証明書にサインをする。

最後に新郎新婦が退場する。優の腕に手を添え、一歩ずつ階段を降りる。私の友人達は嬉しそうに、優の友人達は誇らしそうに私達の歩みを見守ってくれている。

チャペルを出ると優が“緊張した〜〜”と大きな息を吐いた。

「そんなに緊張したの?」

「人生で緊張したの全部千夏関係ですよ。」

控室に戻りながら話す。

「千夏への告白、プロポーズ、誓いの言葉。これ3大緊張シーンです。心拍数ヤバかったですから。」

「私の3大嬉しかったことと一緒だね?」

「そうなんですか?」

「うん。………優、これからよろしくね。」

「はい!よろしくお願いします。」

いつもの様にフワリと笑いって、私を優しく包みこんでくれる優と一緒にいれるのが嬉しい。

 

 

 

 

 

披露宴が始まり、少し経った。日本代表の先輩や栄明の岡本監督なんかが冷やかしに行き、続いて栄明時代の同級生や下級生で仲の良かった俺達の番になった。

葵や渡、湊に声をかけて4人揃って近づくと、俺達に気付いたのか苦笑している。

「優、おめっとさん。」

「優さん、千夏さんおめでとうございます。」

「優さん、姉御、おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

俺、葵、渡、湊の順に祝いの言葉を述べる。

「渡君は、全く成長してないね。」

「いやいや、今ではマンチェスターブルーでレギュラーになりましたよ。」

「人間的成長がって事だよ。」

渡の姉御呼びを呆れたような口調でバッサリ切る鹿野先輩、いやもう如月か。千夏さんには笑ってしまう。

優も葵も湊も笑っている。このやりとり、高校の時からやってるから確かに成長がないと言われたらそうだな。

「横にはこれからも日本代表で副キャプテンとして助けてもらわないと。よろしくな。」

「こちらこそだよ。お前のお陰で日本代表に選ばれるまで成長出来た。俺の方こそよろしくだよ。」

「葵に湊も。チームでも代表でも頑張ろう。」

「うす。」

「はい。」

写真を撮らせてもらい、シャンパンの入ったグラスを軽く掲げて、一息で飲むと席に戻った。反対側から千夏さんの女バスのチームメイト達がやってきたのを見て、席に戻ろうと促して引いた。

スープ、サラダ、前菜と食べてから優達の所に行き、席に戻ってきたらメインの肉料理と魚料理がきていた。

こうしてみんなが一同に集まる機会がないから色々と昔話に花を咲かせて楽しいひとときを過ごす事が出来た。

大喜や匡、蝶野さんや島崎さん、守屋さんとは中々会うことができないから。席に着いて、腹ごしらえをしようとメインに口を付けていたら。

「所で、よっさんは優香先輩と結婚って考えてんすか?」

湊がインコース高めにズドンと来たのに驚いて、魚が喉にスルッと入り、ゴホゴホと噎せた。そんな俺を葵と渡もコチラをチラチラと心配しながら窺っている。

「まだ俺は詳しく考えてないよ。優と千夏さんのを見て良いなとは思ったけど、俺まだ22になったとこだからな。」

普通なら大学卒業して、社会人一年目のペーペーだ。これからだよ。

「ふ〜〜〜ん。」

俺の無難な答えに興味を失ったのか気の無い返事をした湊に逆に突っ込んだ。

「お前はどうなんだよ?相手はいるのか?」

「さぁ〜〜、どうなんでしょう?」

煙に巻いた返事に、葵と渡を見ると両方とも知らないのか葵は首を横に振り、渡は肩を竦めながら笑った。

 

 

 

 

 

お色直しで優と鹿野先輩が中座した。その間、2人のこれまでの映像が流された。2人で川越のお祭りに行った写真や高1の時にU-20W杯から帰ってきた時の写真。学校での生活やイベントの時、私生活の時の写真や映像が流される。

優がデレデレ甘々なシーンや鹿野先輩がそうなっているのも沢山ある。

優がイギリスへ帰ってからも、観光名所でのツーショットや鹿野先輩が優の試合を応援している写真、鹿野先輩が慌てた様子で女王陛下に深々と頭を下げながら握手をして、その様子を優と王太子が口を押さえて笑っているシーンもあった。

あれは優が鹿野先輩の誕生日にゴールを決めて、スタジアムで誕生日プレゼントを渡したシーンだ。ニュースでも放送されたから覚えている。ゴール演出からバースデーソングが流れて、スタジアム中が敵味方関係なく合唱して盛り上がった。

どこかに旅行に行ったのか浴衣を着た2人やヨーロッパ各地の名所での写真が流される。

「わたし、まだ選手としてやる事が残ってるからプロポーズは先でお願いね。」

隣に座る雛が言ってきた。いつかは俺もと思ってチラリと見たのに気付かれていたようだ。

「分かった。」

「目標にしてきた日本代表でオリンピック出場が出来なかった。如月君や横川君、サッカー部のみんなの活躍する姿を見て、次は絶対に行きたいと心の底から思ったんだ。」

雛が選考でギリギリ日本代表から落選したことを凄く悔しがっていたのを知っている身としてはよく分かる。俺も日本代表候補に選ばれるまでには成長したけど、その先がかなり厳しい現状にモヤモヤする。でも今年の東京オリンピックでのサッカー部のみんなの活躍にやる気と勇気をもらった。俺ももっと頑張らないとと決意も新たにした。

そっと雛の手を握り、“次は一緒に行こう”と言うと嬉しそうに“うんっ!”と言って、俺の手を握り返してくれた。

映像が終わり、再入場してきた。優は日本代表のユニフォームに、鹿野先輩は青いサマードレスになっていた。

ウェディングケーキが入ってきた。ファーストバイトか。

鹿野先輩が大きなスプーンで大きく掬ったケーキを差し出している。その量に苦笑しながらも頬張る優は幸せそのものだな。

お返しに優も負けじと結構な量を掬って差し出している。鹿野先輩が大きな口を開けて食べたけど、鼻にクリームがついてる。そのクリームを優が口で舐め取った。女子がキャーーー〜〜〜と声を上げ、鹿野先輩も顔を真っ赤にしている。

いつか俺も雛とこんな式を挙げたいなと思った。隣で楽しそう写真を撮る雛の姿を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

優が少し席を外すと言ってきた。トイレに行きたいそうだ。さっきから飲まされていたから仕方ないだろう。

次のプログラムが始まるので席に座るように言われている。

招待客は全員大人しく自分の席に戻ったけど優が戻ってきていない。

スタッフの誰かに言おうとした時、ポロンとピアノの音が鳴った。そしてそのまま演奏が始まった。

 

『永遠の誓い』笠井俊佑

 

優が演奏しながら歌っている。時々こういった演出をしてくれるからしてくれるかもと思っていたから驚きはないけど、聴いていると歌詞に少しずつ胸にくるものがある。

それにずっと私を見ながらで、グッときた。目元を押さえても涙が溢れる。元々優は歌が上手かったけど私へ万感の想いを込めて歌われると胸にくる。

優との立場とか色々と考えるものがあるけど、それでも私を選んでくれた。私じゃないとだめなんだと、ずっとずっと一緒にいたいと言葉にしてくれる。

演奏が終わった。会場が拍手に包まれた。

「千夏、俺と結婚してくれてありがとう。一緒に幸せになろう。」

席に戻ってきた優が座りながら、私にだけ聞こえる声でそう言われた。感極まって涙がポロポロと溢れ落ちた。何か言おうにも言葉が出てこず、ウンウンと何度も頷いて返事をした。

 

 

 

 

 

親友がグスグスと泣いている。何度か見たことはあるけど、あそこまで嬉しそうに泣く千夏を見たことはない。最後に見たのは……………。

高2の冬になりかけの時、ナツと再開した。男と2人でデートスポットにいるナツを見て、ガッカリした。あれだけバスケ一筋で、バスケが恋人で、誰よりも貪欲に練習に取り組んでいたナツがそっちに流れたと思ったから。私の勝手な気持ちの押しつけだけど、ナツはずっと頑張っていると思っていた。

だからナツに感情に流されて酷い言葉を発してしまった。

そんな私に彼は諌めの言葉を言い、そしてナツの頑張りを淡々と言って称し、去った私にそんな事を言う資格があるのか問うた。そんな彼に反発して、感情のまま口を開こうとしたが、彼氏が如月君を知っていたのか握手をしてもらい、U-20W杯の応援をして、その場が変な空気になって別れた。

その後の如月君の頑張りと活躍。彼が通っている歯医者で渡されたチケット。そしてウィンターカップでのナツとの仲直り。

その時に2人して会場前で大泣きしてしまった。でも昔のように笑い合えた。

ナツと昔のようになれたのは彼がいたからだ。

彼ならナツを任せて大丈夫と思った。そしてナツを頼んだよ、よろしくと小さく呟いた。

 

 

 

 

式もいよいよクライマックスってところで、新婦から両親への手紙の朗読が始まった。つまりは、ちーからあの堅物な父親と朗らかな母親へのこれまでの感謝を伝えている。

………子供頃から怖かった父親がハンカチで目元を隠しながら涙を拭っているのに驚いた。隣に座っている菖蒲も吃驚して私とちー、泣いている父親を驚いた表情で何度も見ている。

ちーも驚いて隣にいる優君を見ている。優君が苦笑して肩を竦めて後、ポンとちーの背を叩いた。

そこで気を取り直したちーが続きを読むとハンカチを目元から動かせずにいる。あそこまで不器用な愛情表現しかできないとは………ちーもそれが分かったけど、自分の父親のそんな姿がおかしいのか少し笑いが混じった感じな朗読になった。

朗読が終わり、母親と抱擁を交わす。そして父親ともする。無理しているのが分かる。顔に力を入れて色々と我慢しているのが一目で分かる。ちーが何かを告げると身体を震わせている。そして、そっと宝物を慈しむように優しく抱き締めた。

そしてちーに何か話すと、ちーも身体を震わせてポロポロと泣き出した。そして父親の背中に縋り付くように手を回し、ギュッと抱き締め返した。

 

 

 

 

 

挨拶や見送りが終わり、控室に戻った。椅子に座り、立てない。試合や練習と違った疲労で全身がグッタリしている。

控室にやってきた両親が頑張ったなと褒めてくれるも、“おう”としか返せない俺を見て笑っている。

「じいちゃん、ばあちゃんは?」

こっちに来ない祖父母を尋ねると、両親が笑いながら教えてくれた。

「千夏ちゃんのおじいさん達と2次会の和食屋に行ったよ。」

「洋食もいいが、やっぱり和食が食いたいって。」

「そっか。楽しんでくれているようで何よりだよ。」

そんな話をしていると冬樹さんがノックをして入ってこられた。

「私達もそろそろ行きましょうか。」

どうやら父さんを誘いにきたようだ。ゴルフに飲みと仲良くなって度々行っているらしい。

イギリスに両家の両親が揃って来たときも、父さんと2人で色々と観光に行っていた。

「じゃあ優、着替えたら少し顔だけ出して友人達の2次会に行ってきなさい。」

「分かった。千夏の準備が終わったら2人揃って行くよ。」

今回、移動が大変だろうと2次会の会場をこのホテルで用意した。和食屋に親族関係、鉄板焼とお寿司を出す店を友人達の会場にした。

皆、好きに食べながら昔を懐かしみ、今を報告しあい、未来の抱負を語りあっているだろう。

さて……そろそろ着替えるか。2回目のお色直しで着たタキシードを脱ぎ、ラフな私服に着替えよう。

一応、今回の参列者は今日も泊まれるように手配しているから着替えに行ってる人もいるかな?

シャワーを浴びてさっぱりしてから、普段着のパンツにシャツになって人心地ついてから千夏の控室に向かった。扉をコンコンとノックすると、“どうぞ”と聞こえたので入る。

千夏がプロポーズした時に着ていた薄いピンクのサマードレス姿でいたから固まってしまった。

そんな俺の心情を察したのかクスクスと笑う。たまに意地の悪いところを見せる彼女を見ると苦笑するしかない。そんな彼女を好きだな〜と思う。

「どうしたの優?」

「分かってて聞くの卑怯ですよ。」

「何のことかな?ほら、言葉にしてよ。」

「プロポーズの時のドレスに見惚れてました。」

「よろしい。」

ムフフと嬉しそうに笑う彼女がやっぱり好きだ。色々な表情と感情を見せてくれ、それを見てどんどん好きになっていく。

「おじいちゃんたちが待ってるから行こっか。」

「先にジジババで始めてるって言ってたよ。」

俺の言った内容に彼女がプッと笑う。

「お腹空いた〜。やっぱり新郎新婦って中々食べれないんだね。みんなと乾杯するから飲めるけど。」

「ですね。」

腕を差し出すと自然に絡めてくる。こういったのも自然とできるようになったな。昔はどこかぎこちなかったけど。

揃って和食屋に入ると、皆がラフな格好に着替えて寛ぎながら美味しそうな料理を食べて、楽しんでいた。

みんなから“お疲れ様”や“よかったぞ”と言う言葉をもらうとやっとこさ終わった気持ちになる。

2人空いてる席に座り、じいちゃんが音頭を取って乾杯をする。

千夏はビール、俺はトニックウォーターで。

俺は1日ビールなら500ミリと決めているので乾杯のシャンパン以降は炭酸水だった。

現役の間は節制すると決めている。トップクラスの更に上澄みでいるにはここまでする必要があると俺は思っているから。

身体能力の差はやっぱり欧米人や南米人、アフリカ系と比べるとどうしてもある。ならその差を少しでも埋めるには、こういった事にこだわらないといけないだろう。足元のテクニックで埋めるのも限界があるし。

お、きたきた。おかず、ないし酒のあてがきた。さっそく箸をつける。うめ〜〜〜!牛と根菜の時雨煮の濃い味が染みる〜。

白米が欲しくなる。冷しゃぶも美味い。胡麻だれのほうが好きだけど、この暑い日本の夏はポン酢の冷たくさっぱりもいいな。

「そろそろ向こうに行ってきなさい。」

お義父さんになった冬樹さんが、友人達がしている2次会へと促してきた。

「私達だけなら会おうと思えば会えるが、こうして数多くの友人と会える機会は中々作れないからな。行ってきなさい。」

千夏を見ると頷いたので、“ありがとうございます”と一礼してから席を立った。

2次会会場の宴会場に行くと、入るのを戸惑うほどのカオスが形成されていた。

サッカー部と女バスの仲が良いのでアルコールのお陰か混沌としている。渚先輩が沢先輩をヘッドロックしているし、酔っ払った優香先輩が横相手に管巻いている。

葵と湊が介抱と給仕に大忙し。四方八方に歩き回っている。

ここに新婚となった俺達が飛び込む?ピラニアの群れの中を泳ぐようなものじゃないか。溜め息が出た。

「よう。来たな男前。」

後ろから肩を叩かれ、振り向くと針生先輩がいた。花恋さんがハンカチを持っているところを見るに、化粧室に行っていたんだろう。

「おら行くぞ。」

俺の首に腕を回し、引き摺っていく。千夏にヘルプの視線を送ろうとすると小さく胸元で手を振って見送っていた。

薄情者〜〜〜っ!愛しの旦那を見捨てるとは〜〜〜っ!

 

 

 

 

今日の予定を全て終え、自分の部屋というかホテルの一室に戻ってきた。流石に今日はゆっくりと湯船に浸かった。

バスローブを纏って、ふかふかのソファに座り千夏があがってくるのを待つ。

これからいよいよ新婚初夜と思うと、身体が、もっと有り体に言うと身体の一部が高ぶってくる。

夫婦になって初めてというのもスパイスになっているのか、いつもより力強く昂ぶっているように感じる。

浴室の扉が開いた。バスローブを纏った千夏が出てきた。

水を渡すと“ありがとう”と言って受け取って一口飲むと、“ふぅ”と小さく一息ついたのが分かった。

そして俺の隣に座ってきた。お疲れ様と言い合った後、、、

「今日からよろしくね、旦那様。」

「よろしくお願いします奥様。」

しばらく見つめ合い、おかしくなってプッと笑い出した。

立ち上がり千夏に手を差し出すと、手を握ってきた。立ち上がらせると思ったより近いな。

顔を近づけると千夏は察したのか目を瞑った。そっと触れるキスをする。すると予想外だったのか目を開けてコチラを見てきた。それに笑いかけ、もう一度今度は深く長いキスをする。

彼女の頭と腰に腕を回し、離れられないように抱き寄せると彼女も俺の背に両手を回して、抱き締めてきた。

俺が満足するまで彼女の唇を堪能し、唇を離すと彼女の顔が紅くトロンとしていた。こういった異性である事を意識させる瞬間に俺は強く惹かれる。

バスローブを脱ぎ捨て、彼女のバスローブの前紐を外すと白く清楚な下着を身に着けていた。彼女の魅力を引き立てるシンプルなのにお洒落で可愛いのが、グッと来た。

彼女をベットに押し倒し、覆い被さる。彼女の首筋に唇を這わせると官能的な声というか吐息を漏らした。それに更に興奮し、行為を進めていった。

 

 

 

全てが終わり、疲れで眠りに落ちていたようだ。外は朝日が少し上がってきたのか薄暗いな。

彼女も俺に抱き締められて眠りについていた。スヤスヤと眠る彼女を見て、“ああ、家族になったんだな”という思いと“家族のために働く、頑張る”ってこういう事かという考えが心にしっくりときた。

「千夏…愛してる。大切にすることを永遠に誓うよ。」

結婚式でみんなの前で誓ったが、今この瞬間、2人っきりの空間で静かに眠る彼女に誓約した。




次の更新予定もアオのハコになります。

チャリティマッチ、インターハイ開始まで2話か3話書いてからSEEDの予定です
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