試合開始前までの話になります。
いつもの様に5時にアラームが鳴る。んむぅっ、大きく息を吐いて体を起こす。
今日から明後日まではロンドンブルーの一員として活動する。
俺が知る中で、最強のU-20のチームだ。色々なスピードもパワーもテクニックも高いレベルで、俺も全力全開で行かないとダメなレベルだ。
ベッドの上でストレッチをして身体の隅々までチェックをしていく。痛いところも張っているところもない。万全の体調だ。
朝食会場に行くと、何人かは先に来ていたようだ。挨拶をして俺もプレートに様々な料理を少しずつ取っていく。和食から洋食とバリエーション豊かなバイキング形式だから様々な国籍が揃うウチのチームでも問題ないだろう。
和食を中心に洋食のメニューを少し取っているとハリーがこっちに来いと呼ぶ。
「早いな。」
「俺は何時もの時間だよ。そっちこそ早いじゃん。」
「俺も何時もの時間さ。」
クロワッサンにスクランブルエッグ、ハムに少量のサラダと紅茶としっかり食べる方のイングリッシュ・ブレックファーストだ。ハリーも満足そうに食べている。
「今日は元治大学とトレーニングマッチだそうだがレベルはどうなんだ?」
練習試合をしてもらう相手の事を聞いてくるも、俺に分かるわけがない。
「日本の大学では高いレベルにあるのは知っているが、どういった選手がいるのかまではわからない。」
「そうか。ならアップ時にしっかりチェックしておこう。」
それからも日本の高校サッカーや世代別代表の話をしている。先月あったフル代表のW杯での話も聞かせてもらった。イングランド代表は残念ながらPK戦の末、ベスト8で大会を去ることになった。守備はパーフェクトだったが攻撃陣にこれといったチャンスがなく、専守防衛からのカウンター一本かセットプレーでCB2人の頭と2パターンしかなかったので対策されると手がない。それを嘆いている。若い世代の台頭が待たれる。
食べ終わり、そろそろ部屋に戻ろうとした時に皆がやってきた。挨拶を交わし、良いパスをくれよと要求されるので、“良い場所に走り込んでくれたらな”と返した。
皆と別れて部屋に戻ると準備をする。8時にホテルを出るからまだまだ時間はあるが、早めに準備をするのが癖なので荷物をチェックする。終わると荷物を持って下のカフェテリアに移動しておく。
アイスコーヒーを頼み、飲み物が来るまで手持ち無沙汰になったので千夏先輩に、“今から元治大と練習試合です。頑張ってきます”と連絡するとすぐにヒュポッと通知音が鳴り、“私も今から朝練!お互い頑張ろう!”というメッセージと大きな鹿のスタンプが表示されている。それにクスっと笑ってしまった。
元治大のサッカー部専用のピッチに行くと多くの部員がいた。100人はいるな。150に近いか?
ウチのヘッドコーチのロジャーズ監督が相手の人と握手をしている。俺も通訳で側にいる。
アップを1時間、練習を1時間した後に30分ゲームを4本することになっている。“さぁアップをしよう!”とハリーが声を上げると、“オウ!”と声を揃えて返事をする。
練習が始まるとなるとバチッとスイッチが入り、場に緊張感というか緊迫感が出る。空気がシンと張り詰める。ここら辺はプロ直下の年代なだけある。栄明や世代別代表とは違うな。
ランニングからストレッチ、ダッシュと強度を少しずつ上げていく。相手を務めてくれる元治大の選手も俺達の空気を感じ取ったのかピリッとした。
そうだ。この空気を感じて、何もないなら貴方たちはプロを目指すサッカー選手としてなら終わっている。遊びでやったほうがいい。
ボールを使った練習に移る。パス回しも徐々にスピードを上げていく。勿論、精度や距離、正確性も拘る。
少し休憩をして、汗の処理や飲み物で喉を渇きを潤す。
休憩を終えるとハーフゲームをする。本番さながらの激しいチャージやスライディング、ハイボールの競り合いもある。芝を転がされると、“ああ、帰ってきた”って実感が湧く。そして負けるか、なにクソって思わされる。高いレベルの仲間と切磋琢磨出来るこの環境に感謝した。
30分の試合が始まって10分で2点入れられた。
俺達はプロに行けなかったとはいえ、大学ではトップクラスのプロ予備軍みたいな立ち位置なのに………いくら相手がプレミアでトップクラスで、世界最高峰のアンダーのチームとはいえここまで一方的になるとはっ!
パスやトラップ一つ取ってもレベルが違う。ポジショニングも。
各々がフリーで受けようとし、それがダメなら味方をフリーにする為に動く。そしてそれはゴールという目的に沿って行動しているのが分かる。特にイングランド代表のハリーと中央にいる如月の存在感が凄い。攻守の切り替え、ボール回しの中継点として円滑に、滞りなくスムーズにゲームメイクをしている。
今も2人に囲まれるも一瞬で1人を躱し、右サイドに張ったRWGにパスを出す。CFW、LWG、如月にDMFの2人もペナルティエリアに入ってくる。両SBも絞ってセカンドボールに備えている。
ファーに上がったクロスにDMFが叩きつけるヘディングシュートを決めた。これで3対0。
“ユウ!”と相手監督が如月を呼ぶ。一言二言話してから俺達の監督と話している。監督が眉を顰めている。良くない話のようだな。
するとベンチに座った山下と度会が呼ばれた。控えのCBとDMFの2人を呼んで交代かと思っていると、誰も交代しないみたいだ。どうやら練習の強度不足を指摘され、人数差をつけて試合をするようだ。屈辱的な話だ。対等でないとハッキリと示された。なら人数差を活かして戦ってやる。そしてそんな事をしたことを後悔させてやると皆が目に、心に火がついた。
DMFが相手のシュートを体を張ってシュートブロックした。跳ね返りが俺の方に飛んでくる。それを拾う。“カウンター!!”と声が飛ぶ。相手ゴールに向いてカウンターと思った瞬間に相手のプレスが来る。背中で背負う形でボールをキープする。
相手はディレイで満足できないのかボール奪取にくる。それを逆手に取る形で入れ替わろうとした瞬間、俺の前に身体を入れられた。驚き、顔を見ると如月がプレスバックしてきていたのだ。
そしてボールを奪った次の瞬間には前線の長身FWに鋭いアーリークロスを上げていた。
カウンターとラインを上げたウチの最終ライン。素早いプレスバックによりボールを奪取された事による攻守の切り替えが一瞬遅れた隙を突かれた。
抜け出したCFWがフリーでボールをトラップする。キーパーが前に出て、シュートコースを狭める前にワンタッチでシュートを放つ。悠々と一対一を決められた。相手は淡々と喜ぶだけで、相手にとってこのカウンターは特別なことではないのがわかる。
基礎的な事のレベルの高さ。そしてその基礎を万事徹底する姿に差を感じさせられた。
一試合目は結局6対0で終え、二試合目が始まった。
セカンドチームも相変わらずレベルが高い。なによりトップに成り代わろうとする意欲が強い。控えで満足していない。
ただそこで自分本位にならず、チームの勝利という目的が大前提としてプレーしている。
ペナ外に走り込んだ俺にマイナスのパスが出る。それをダイレクトでシュートするも相手キーパーが防ぐ。
コーナーを蹴ると相手がヘディングでクリアした。そのボールが此方に向かって飛んできた。フライで返ってきたボールをダイレクトでファーにボンと蹴るといいポジションを取っていたCBがマークの相手を寄せ付けず、ヘディングでゴールを決める。
試合が再開すると前からプレスを掛けて、ボールを奪う。俺にボールが入り、ドリブルで仕掛けると躱した相手が後ろから脚を引っ掛けてきた。流石にバランスが崩れ、ピッチに倒れた。まぁ、ファールだからいいけど。
ゴールまで35メートルくらいか………みんなが狙え、狙えと言ってくる。仕方ない、狙うか。助走をしっかり目にとって、左脚で低く壁をギリギリ越えるイメージで蹴ったボールは思いっきり飛んだ壁の子の顔面に当たりKO勝ちしてしまった。
どうやら鼻血が出て止まらないようだ。代わりの選手が入ってくる。
その後も点を取りに行き、4対0と満足のいく試合運びで零封して勝利した。
だがそれでも厳しい指摘、指導が入るのがこのチームだ。
「もっと細かい所に気を配れ。パスの精度、シュートの精度、ポジショニングの質と速度。ゴール前を固められた時の速く細かいパス回しやドリブル突破、状況に応じて使い分けろ。いいな!」
「「「「「オッケイ!(ウッス!)」」」」」
俺は次は休憩なのでさっきの攻撃陣と話し合いをする。あの場面はドリブルのほうが良かったか、もう一度組み立て直すべきかなど一つ一つ振り返り、話し合う。
ここでも無駄話をすることはない。サッカーに、プレーに、そして結果に真摯に向き合う。そりゃあ強くなるよなって思う。
レベルが高く、意識も高く、俺が必死にならないと振り落とされるのではと思わせてくれる環境に、俺は日本で初めて充実感を感じている。
午後は、小学生年代の子供達にサッカーを教えた。日本語が話せる俺とハリーのAチームとBチームに分かれて技術的な事から思考的な事、感情的な事を教えてあげた。
失敗したら何故失敗したのか、次は何を改善するのかを考えることの大切さなんかを教えてあげた。
サッカー教室が終わると皆でお風呂。ジャパニーズ銭湯に行くことになった。話を通していたのか貸し切りで監督やコーチ、トレーナーも入れて30人を越える大所帯で行った。
大浴場や薬草風呂、電気風呂、ジェット風呂、メンソールの冷たく感じる風呂などで皆が楽しそうに入っている。
サウナや水風呂で身体を整えている奴もいる。
壁面に描かれた富士山にも感動していたな。
上がるとみんなが飲み物を飲みに行く。何がオススメか聞いてきたので、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、サイダーを薦めた。瓶のが珍しいのか楽しそうに選んでいる。
マーカスに飲む前の掛け声を聞かれたので、杯を乾すと書いて乾杯と言うと教えると、“オーケー、オーケー”と言ってチームメイトを集めて皆に飲み物を配った。
そして、“カンパーーーイ”と大きな声で合唱し、みんなで瓶の飲み物を飲み干した。
楽しい一時を過ごせているようで良かった。オフの中高生のノリ、外国人特有のノリの良さが俺も楽しい。笑いが絶えない。
一昨日、優君がロンドンブルーに合流するために東京のホテルに行ったので1人で帰ることになっている。インターハイ前で朝から夜の7時までの練習を終え、片付けや着替えを済まして帰路につく。
夏夜の昼とは違った暑さが気になる。優君がいる時はそこまで気にならなかったのに。
家に着くとリビングから智さんが出迎えに来てくれた。
「お帰りなさい。お風呂早く入っちゃいなさい。その間に晩ご飯の準備整えちゃうから。」
そう言ってお風呂に入って1日の疲れを取るように促してくる。
疲労回復効果のある入浴剤が身体がふやけるような気持ちになる。浴槽の縁に腕を置き、腕に顔を乗っけた。
「寂しいな…………。」
遠征や午前練、午後練で一緒に帰ることが出来ないことなんてざらにあったのに今日はやけに心細く感じた。
「優君………会いたいな。」
自分が呟いた言葉に“何を言ってるんだ、私は”と気付くと急に身体が火照ってきた。熱くなった身体を水にしたシャワーを浴びて冷ます。明日の試合が終わったら帰ってくる。それまでの我慢だ。
リビングに行くと良い匂いが漂っている。部活後の空腹な胃が早く早くと欲しているのを感じる。
席につくと料理の説明をしてくれる。鶏とナスとオクラの味噌炒め、ナスとピーマンの豚しゃぶ、アジの南蛮漬け、もずくと薬味たっぷり冷奴で疲労回復効果が高い食事をいつも作ってくれる。
8時過ぎになるからいつも先に食べてくれていいと言っても、8時くらいまでは待ってくれる。
パクパクモグモグと食欲が夏の厳しい暑さでも落ちないのは食べやすく栄養価が高い食事を作ってくれているからだと理解出来る。楽しい食事の団欒だけど優君がいないというのが、やっぱりどこか物足りなく感じる。
食事を終え、少し早めに勉強をして寝ようと思っていると智さんが和室にいる私を呼ぶ声を出した。
「ほら優が出てる。」
そう言われてテレビを観るとチャリティマッチ前のロンドンブルーの選手達の様子の密着映像のようだ。大学生相手に圧倒する試合やピリピリした雰囲気で高い意識、レベルで行われる練習、そして地元の小学生と楽しそうにサッカーを教えている映像や銭湯を思い思い楽しんでいる様子が映し出されている。
『明日はチャリティマッチですが意気込みの方を。』
優君にインタビューしている。いつもの様にフワリとした雰囲気を纏った優しい優君だ。
『最高のメンバーが揃った世界一のチームが真剣な試合をします。そのプレーを多くのお客さんに披露し、サッカーっていいなと思えてもらえたらと。』
『相手は五輪アジア予選で二試合終えて勝ち点が取れていないU-23日本代表ですが?』
『自分が今のところ入る目標のチームなので、是非ともアピールしてメンバー入りをしたいですね。』
そう言ってインタビューを終え、試合の日時や場所の紹介、放送局の紹介がされ、サッカーのスポーツニュースが終わり、野球に移った。
「とりあえず元気そうでよかった。」
智さんがそこまで心配はしてないけど親として子供の優君を思っているのが、何となく伝わった。
そんな智さんがおかしくて笑いそうになる顔を我慢し、将史さんに視線を向けると将史さんも微かに笑っている。そして私に気づかれたのが恥ずかしいのか、席を離れるよう手を振ってくれた。
勉強を終え、部屋に戻って寝る準備をしているとスマホが震えているのに気付いた。ディスプレイに優君と表示されている。
名前を見ただけで脳裏に、あの柔らかく優しく笑う優君の顔が思い浮かび、心臓がドクンと脈動するのを感じる。
小さく長く息を吐くことで、少し落ち着きを取り戻す。
椅子に腰掛け、画面を見るとテレビ電話のようだ。通話のボタンを押すとすぐに優君が映った。その姿を見るだけで嬉しい気持ちになる。
『こんばんは。夜遅くにすみません。』
「ううん、大丈夫。でもどうしたの?」
「あ〜〜いや〜、その……今日、そういえば千夏先輩の顔を見ていないなと思って………、それで…その……夜遅くに迷惑かもしれないけどテレビ電話していました。」
照れながらしどろもどろで言う優君が可愛く見えて笑ってしまった。そんな私をム〜〜〜って感じで睨んでいる。
「明日は女バスもみんなで観に行くから頑張ってね。」
「頑張ります。」
「うん、応援してる。」
「ありがとうございます。おやすみなさい千夏先輩。」
「うん、おやすみ優君。」
ディスプレイに映っていた優君の顔が消えたのを寂しく思う気持ちはあるが、1日の終わりに彼の顔を見ることが出来、ぐっすりと眠れそうだ。
朝練を終え、午前練習が始まるまでの一時の話題は昨夜のスポーツニュースに出演した優だった。
「全国放送って凄くね!?」
「うん。しかも慣れてるのか堂々してたよね。」
「そりゃあ世界一の選手にもなったんだから取材なんて慣れたものなんでしょ。」
女子が盛り上がっている。
「やっぱり彼女いるのかな?」
「この間、ジェーンと抱き合ってたからそういう関係なんじゃない?」
「お似合いだよね!」
「でも鹿野先輩とも仲良さそうだったけど?」
「ああ〜校内だったらあの2人だよね。」
「鹿野先輩と付き合ってるのかな?」
「どうなんだろう?」
「蝶野さんはどう思う?おんなじクラスでたまに喋ってるの見かけるけど。」
我関せずって感じで少し離れた所にいたのにこっちにも飛んできた。同じクラスで友達だから何か情報を持ってるんじゃないかと聞いてきたのだろう。
「どうなんだろ〜〜?付き合ってないのは確かだけど……それ以上は〜〜〜………。」
言葉を濁して、これ以上は知らないと伝えると諦めたのか内輪話に戻った。
ここにいるとまた巻き込まれるかもと離脱する。
「た〜〜〜いき!」
バド部の方に逃げるとコートから外れた所に座っている男がいたので絡みに行く。
「雛………調子はどうだ?」
「私を誰と心得る。蝶野雛様ぞ。身体も体調も気分も上々。後は大会を待つだけぞ。」
「相変わらず調子が良さそうで。」
「そういう大喜はあまり良くなさそうで。」
隣で屈んで顔を覗き込むと、やっぱり暗い影を落としたような感じだ。
「何ていうか………みんなと差を感じて………。雛に針生先輩と鹿野先輩はインハイに、優は日本代表。どんどん置いていかれてるんじゃないかって不安になる。」
「気持ちは分かるよ。」
“えっ!?”と大喜が驚いた顔をしている。
「なんなら大喜が羨ましいまである。」
私の言葉に更に混乱している。仕方ない、種明かしをしてあげよう。
「大喜はインターハイ出場が目標で、身近に針生先輩っていう今年のインハイに出る選手がいてくれるから自分との力の差が分かるけど、わたしは全国に行かないとライバルとの差が分からないから。」
「なるほど………確かに。」
パンッと大喜の背中を叩いた。
「この真夏の暑い日にうじうじジメジメして!梅雨じゃあるまいし!そんなグルグル考えてないで思いっきり身体を動かして脳内をスッキリしてこいっ!!針生先輩!大喜の相手をしてあげてください!」
雛が俺に気合いを入れ、インハイ前でピリピリしている針生先輩に俺とVSをしてくれるように頼んでいた。
「別に俺はいいが………やるなら手は抜かんぞ。」
「望むところです!ねぇ、大喜?」
「お前が言うなよな………。うっし、やりますか!」
ぐーーーっと身体を伸ばしてからコートに向かっていった。
針生先輩のサーブから始まった。大喜と針生先輩のラリーを見ていると匡君がやってきた。
「背中押してくれたんだね。」
「押したっていうか、思いっきり叩いてやったけど。」
「ありがたいよ。俺の成績じゃあ何か言えるようなことないし。」
別に成績は関係ないと思うけど………まあ説得力とかに関係はあるのかな?
「どんな山もさ、最初は登りやすいのよ。サクサク登れて成長を実感出来るから楽しい。でもある一定の所からは、山頂が近くになると労力の割に登れてない。なんなら停滞していることも降りていることもある。そういったのを経験して、藻掻き苦しんで成長していくしかないのよ。山の天辺付近って。如月君なんて富士山なんて山じゃなくてエベレストだからどんな苦労をしたのやら。」
隣にいる匡君に笑いかけると、匡君は困った顔をした。
「蝶野さんからそんな言葉が出てくるなんて意外だった。」
「ちょっとそれどういう意味?私は新体操では中学4位。上に3人いる。そういった意味では私も大喜と変わらない挑戦者だよ。」
針生先輩に押されながらも粘り強く戦う大喜。大汗をかきながらも1点1点を大事に獲りにいっている。私が好きな前向きに、そしてひたむきに頑張れる、頑張る大喜だ。
横から視線を感じる。さっきから匡君が私をみている。
「なに?」
「いや………最近、蝶野さんから大喜を好き好きオーラが漏れ出てるなって思って。」
「ええっ!!?」
「あ、そこは自覚なかったんだ。多分、普通に気付いてる人いると思うよ。」
衝撃の事実に恥ずかしくなってしゃがみこんで顔を隠した。
少し深呼吸して、心を落ち着かせてから顔を上げると大喜がスマッシュを決めて、1stゲームを取った。
そして私に向かって満面の笑みでガッツポーズをしてきた。そんな大喜の姿を見て、やっぱり私は大喜が好きなんだと再認識した。
1日練習が終わり、着替えてからチャリティマッチの会場である埼玉スタジアムに向かっている。
いつもなら18時まではやるのが学校からの指示で17時に切り上げて、観に行くようにということらしい。
女バスだけじゃなく、サッカー部は勿論、野球部にバド部や他の部活も上がって観戦に向かっている。
「これって試合に行く人たちだよね。凄いよね〜、この人数。うちらもインハイの会場の観客席、満員になるけどキャパが段違いだもんね。」
「五万人のハコでやるなんて羨ましいな。」
日本代表のユニフォームが多いけど、ロンドンブルーのユニフォームやハリーさんのイングランド代表のユニフォームを着ている人もいる。
「おっ!見えてきた。」
会場の栄明に開放されたゲート入り口で生徒証を提示し、中にはいる。前も来たけど、やっぱり凄く大きいな。
ピッチで両チームとも練習を切り上げ、控室に戻るところのようだ。1人選手がこっちに来た。顔は見えないけどすぐに誰か分かった。
近くまで来ると、“応援に来ていただいて、ありがとうございます!”と大きな声でお礼を言い、頭をペコリと下げて控室に戻っていった。
勿論頑張ってほしいけど、何よりも昔のチームメイトとの短い時間を楽しんでほしい。
ロッカールームに行くとみんなが準備を粛々としていた。俺も用意されたユニフォームに着替える。U-12から付けてきた10の番号のユニフォーム。夏用のメッシュ生地で涼し気なユニフォーム。
約1年ぶりに着ると懐かしさで胸にくるものがある。
隣にいるハリーがポンッと背中を軽く叩いてくれた。
「お前は感性のままプレーすればいい。それに応えることのできる奴しかここにはいない。」
ハリーが周りを見回す。皆が俺達を見ていた。そんな事に気付かない程、舞い上がっていたのか俺は………。軽く笑ってから力強く周りを見回した。皆がそれに笑顔で、自信満々な顔で、真剣な顔で、楽しそうな表情で応えてくれる。
監督が試合前最後の話をする為に皆で輪になる。肩を組み、ロジャーズ監督の方を向く。
「よし、戦い方は今日のミーティングで話したとおりだ。DFはハリーが、OFはユウが中心になって戦え。分かっていると思うが俺達は遊びに来たんじゃない。世界一のチームの世界一のプレーを魅せに来たんだ。いいな!」
「「「「「「「「「「Yeahhh!!」」」」」」」」」」
「ゲームキャプテンはユウ、今日はお前がやれ。」
「Yes, sir!」
「キャプテン、一言。」
「はい。先ずは勝つためにプレーする。そして観に来てくれた人達が今日来て良かったと言ってもらえるような試合をしよう。」
周りを見回すと頼もしいチームメイトがいる。長く一緒に闘ってきた戦友が。
「One, two, three, Win!」
「「「「Yeahhhhh!(Ohhhhh!)(Fooooo!)」」」」
バチバチと手を叩き合い、ハグをし、拳と拳をぶつけ合う。
控室を順に出ていき、選手入場トンネルに向かう。俺も向かう。
その前にそっと右足首に巻かれたミサンガに触れ、“行ってきます”と小さく呟いた。
次は試合の話になります。
更新予定はアオのハコで千夏先輩のインハイ終わりまでやってからSEED、銀英伝かな?
のんびりとお待ちください。