チャリティマッチ回となっております。
栄明高校って生徒数どれくらいなんだろう?
とりあえず40人8クラスにしてみたけど………
優君達が引き上げると会場が暗くなった。
『本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。これより、ロンドンブルーFCのドキュメントムービーを上映いたします。昨シーズン、見事U-20クラブワールドカップ制覇を成し遂げた歴史的偉業を記念し、特別に制作された映像です。当時の感動と選手たちの戦いの軌跡を、どうぞお楽しみください。それでは、スクリーンにご注目ください。』
スタジアム全体にアナウンスされ、正面スタンド、バックスタンドにある大型モニターに映像が流れ始めた。
監督が前に立ってミーティングしている。そして激しく手を何度も叩き、鼓舞している。そして選手達も大きな声をあげながら立ち上がり、強く選手同士、コーチや監督と手を打ち鳴らしている。
選手入場のシーンに変わった。優君が先頭に立っている。ここでもキャプテンをしているんだ。優君をアップにしていくと、パンパンと左腕に巻いたキャプテンマークを叩いてから胸元のチームエンブレムを指差し、ウィンクをした。
キザなパフォーマンスだけどスマートな優君がやると様になっているからカッコイイ。
選手入場のシーンが終わって、ピッチに整列し、相手チームと握手をしていく。ベンチ前に2列で整列すると記念撮影をしている。
『One, two, three, Win!』
『『『『『『Yeahhhhh!(Ohhhhh!)(Fooooo!)』』』』』』
掛け声とともにピッチに散らばっていく。
試合の映像が流れる。相手のシュートを体を張って防ぐシーンやクロスをクリアするシーンが流れた後、優君が右サイドからドリブルで中央に寄った瞬間、左足でフワリとしたループをファーサイドのゴールネットに決めていた。
そしていつものゴールパフォーマンスをする。敵味方が時が止まったかのように身動き一つしない中、優君だけが時を刻んでいるように見えた。
数瞬の間があってから味方が優君に駆け寄ってきた。もみくちゃにし、ピッチに押し倒し転がした。楽しそうな表情で笑っている。
そして手をパンッと1回叩くと表情がガラッと変わり、戦う男の集団に早変わりした。そして優君を中心に身振り手振りで指示をし合っている。完全にプレーが止まっているタイミングで細かい修正をしているのだろう。
優君のスルーパスから抜け出した大型のCFWがフリーのシュートをキーパーに止められて、みんながブーブーと親指を下に向けて文句を言っている。ただみんなの顔が笑いながらだから、そこまでのことじゃないんだろう。
そこからも違うチームとの試合で、両SBのオーバーラップからのクロスや両WGの崩し、中央にいる優君のドリブルからのシュートやパスといった多種多彩な攻撃で相手を翻弄している。
決勝の映像になった。相手のチームは、サッカーに詳しくなかった私でも知っている。多分世界でも1位2位を争うくらい有名なバルセロナのチームだ。
相手の早く、細かく、流れるようにスムーズなパスワークに押されていく。最後の最後でDFやGKがゴールを割らせていなかったが、ロスタイムに入った一瞬というと気の毒な隙を相手のエースに決められて先制されて前半を終えた。
チームカメラなんだろう。ハーフタイムのミーティングの様子も映っている。監督の指示をしっかりと聞き、最後に優君が激しく手を打ち鳴らして何か言い、最後に強い口調で“Fight!Fight!Fight!”と言っていた。
チームのみんなも大きな声を上げ、気勢を上げる。それだけで士気がグンと上がったように見える。
後半の映像も前からプレスをかけるようにしたからか、ピンチもあるけどチャンスも増えた。何より優君が前目でボールを持つ回数が増えたことでチャンスが相手チームより格段に増えた。
そして相手のコーナー、キーパーがクリアしたのを優君がいち早く拾い、右WGを走らせるパスを出す。前3人の高速カウンターと思ったら、優君がパスを出した瞬間には全力で走っていたのだろう。ペナルティエリアに走り込んでいた。
相手も不意を突かれたのかフリーの優君が悠々とポッカリと空いたスペースに走り込み、口を開けたゴールに豪快に蹴り込んだ。
次は中央でボールを受けた優君が1人2人と躱し、右足でシュートと思った瞬間、フワリと逆サイドに足首でコースを変え、クロスをあげた。フリーでゴール前に飛び込んだ左WGがヘディングでゴールを決める。
みんなが左コーナーへ行く左WGの選手に駆け寄り、手荒い祝福をしている。
左WGの選手と優君も最後に手を胸元で組み、それを挟み込むように抱き合う。その後、ハイタッチをして両方とも嬉しそうに笑いながらセンターサークルの方に向かう。ああいった子供っぽく屈託なく笑う優君が普段の姿とギャップがあって可愛くみえる。
最後はゴール前少し右でのセットプレーのようだ。優君が1人左足で蹴る準備をしている。腰に両手をやり、大きく息を吐いてから助走を始めた。
蹴られたボールは飛んだ壁をギリギリ越え、鋭く縦に落ちてゴール上隅を射抜いた。優君がいつものゴールパフォーマンスをしながらクルクルと回転して喜んでいる。駆け寄ってきたチームメイトに押し倒されて上に伸し掛かられている。
下敷きになっている優君がタップ、タップと芝を叩いて苦しそうにしている。
そして試合終了の笛が鳴り、ピッチ上の選手が喜びを爆発させ、ベンチの選手もピッチに雪崩込んで一緒に喜び、肩を組んで輪になり、“Wow.Wow.Wow.Wow.Wow!!”と楽しそうに回っている。
セレモニーが行われ、優勝チームのロンドンブルーFCに大きな優勝トロフィーが授与された。
そして記念撮影の為に皆が並んでいるところへ行き、下に下ろしたトロフィーを小さく上げては下ろし、3回目に天高く掲げるとみんなで喜び合っている。他の選手にもトロフィーを渡して順に喜んでいる映像が流れている。
そして最優秀選手賞も授与されている優君が映されて画面が暗くなった。
そして画面が変わると革張りの椅子が置いてあった。スッと横から1人歩いてきた。そして椅子に座ると顔がアップで映された。優君だ。右手で髪を掻き上げて一言。
『The return of the king.I'll show you a little magic today.』
(王様の帰還だ。今日、ちょっとした魔法を見せてやるよ。)
とキザな感じの演出を英語で言うと周りの観客は盛り上がっていたが、普段を知っている私達は笑いを堪えるのに必死になった。
パンッという音で画面が消え、徐々に照明が点き始めた。そしてモニターでは今日のスターティングイレブンの紹介が始まった。優君には頑張ってほしいけど、一試合と短いけどチームメイトと最高時間を過ごしてほしい。
選手入場トンネルに着くと両チームの選手が適当な感じで整列していた。ハリーはプレミアでプレーしている選手と話しながら、多分紹介された選手も含めて談笑していた。
伊原選手と三笠選手が俺に気付いたのか声をかけてきた。
「おいっ、如月!こっち来い!」
「お久しぶりです。」
近寄って頭を下げながら挨拶すると、頭をクシャリと乱暴に撫でてきた。
「今日は手加減しろよ。こっちの調子もチームの調子も良くないんだから。」
「そうだぞ。」
「いやいや、無理ですよ。隣に怖い人がいるんで、手加減なんかしたら後ろから蹴りが飛んできますよ。」
ハリーが馬鹿な事を言うなと、パシッと俺の頭を軽く叩いた。
「俺達も久し振りにユウとプレー出来るのが楽しみなんだ。今日は存分に楽しませてもらうよ。」
ハリーが笑顔でそう返すと、スタッフの人が“間もなく入場です!整列をお願いします!”と言ったので英語で“そろそろ始まるから並べ”と声をかけるとスッと綺麗に並んだ。
そして音楽が流れ始めた。スタッフに促されて入場すると大きな歓声と拍手、応援が鳴り響いた。
ピッチに整列し、国歌斉唱となる。日本代表は君が代を、ウチはクラブチームなのでチームアンセム(チーム応援歌的なの)を歌った。
イギリスから来ていたサポーターも一緒に歌ってくれ、少し感動した。わざわざ日本まで来てくれるなんて。
それにしても日本は此方の時は静かに聞いてくれるなんて………向こうはブーイングなんかもざらにあるのに。
君が代は日本で有名なサッカー好きなアイドル歌手が歌ったようだ。悪いけどあんまり詳しくなくて知らない人だった。(名前くらいは聞いたことあるけど)
そして握手を審判、日本代表と交わし、ベンチ前に移動する。集合写真を撮り終えると、掛け声を出してピッチに散らばっていく。ここら辺は日本代表と違う。
円陣組んでいる日本代表を見ながら全身のチェックをすませる。最初から全力でいけるか確認をする。
日本代表も円陣を終え、ピッチに散らばる。主審が両チームに準備が終わったか確認をしてから笛を吹いた。
日本代表がボールを下げる。トップのマーカスがボールを追う。さぁ、試合開始だ!
試合は思わぬ展開になっている。五輪アジア予選2連敗中の日本代表がボールを保持し、果敢にロンドンブルーFCに攻めかかっている。今も三笠選手がサイドから仕掛ける。
右SBのアレンが対峙する。跨ぎや足裏で転がしたりと相手の反応を見るも、どっしりと対応しているのか微動だにせず様子を窺っている。
深くドリブルを仕掛けるもピッタリとマークし、自由にさせていない。苦し紛れのクロスも中に陣取ったハリーが悠々とクリアする。それをいち早く拾った如月がクリアをする。
クリアボールは日本代表が回収し、また組み立て直す。
前半15分が過ぎたけどロンドンブルーFCに見せ場らしい見せ場がない。如月もそうだけどロンドンブルーFCのメンバーの動きにキレがないというか攻める意思が見られない。
中央からの藤峰のミドルは如月が体を張ってブロックをし、ゴールラインを割った。コーナーキック。三笠選手が蹴るようでコーナーに向かう。
するとロンドンブルーFCの監督のロジャーズがタッチライン際に立ち、指を4本掲げて何か言っているのだろう。恐らくは指示だと思うが遠くてよく分からんな。
ロンドンブルーFCの両WGがペナ角に立ち、CFWがセンターサークルとペナルティサークルの真ん中に陣取る。
そこ以外はペナルティエリア内の守備隊形は変わっていないように見える。
コーナーを蹴った瞬間と言ってもいいタイミングで如月が動き出していた。CBのウォーレンがクリアしたボールが如月の元に飛んできた。あらかじめ飛んでくる場所が分かっていたかのように思った。
ボールをワンタッチで収めた瞬間、反対側に速く低く鋭いロングボールが飛ぶ。左WGのエミルが進路に飛ぶボールをピタリとトラップし、そのまま流れるように対面のSBを躱す。
CBがフォローに来た瞬間、反対側にサイドチェンジをする。右WGのゴードンが中に切り込むのを装った跨ぎを1回入れ、縦に突破してからペナルティエリアに切り込んでいく。
CFWのマーカスがクロスを貰おうとニアサイドにダッシュする。その後ろに出来たスペースに走り込んでいた如月に鋭いグラウンダーのパスが出る。そのボール勢いのままに豪快に蹴り込んだ。
ゴールを決めて、いつもの様に両手を広げてゴールパフォーマンスをするが、嬉しそうにクルクルと廻りながら喜んでいると駆け寄ってきたチームメイトに押し倒されてもみくちゃにされた後、上に伸し掛かられている。
メインモニターには重いのか苦しそうな表情でタップしている如月が映っている。
それにしても速かったな。あれがロンドンブルーFC下部組織必殺の超高速カウンター攻撃か………。クリアボールから一度もボールのスピードも走る速度も緩めることなく、選手も前の3人にトップ下の如月の通称“ファンタスティック・フォー”の4人で完結させた。
そこからはロンドンブルーFCの一方的な展開になった。多分、さっきまでは攻撃をさせて日本代表に見せ場を作ったのだろう。だから如月がクリアだけしていたのだ。普通ならそこからトラップやダイレクトパスでカウンターや組み立てるのが普通なのに、一辺倒に遠くに蹴り返していたから気になっていたのが腑に落ちなかったが、理解するとストンと腑に落ちた。
試合が再開されると、前からプレスをかける。さっきまでと比べると見るからに強度も速度も速くなった。そして網がドンドンと手繰り寄せられるように右サイド日本陣営深くでボールを奪取する。奪ったボールが直ぐに如月にパスされる。日本代表も切り替えて取り返そうとプレスをかけるも、ダブルタッチで軽やかに一人を躱し、二人目もルーレットで躱すように入れ替わった。
その瞬間、ダイアゴナルにゴール前に走り込んでいたゴードンにドンピシャのスルーパスが出ていた。カーブが掛けられたボールが弧を描き、DFラインの間を潜り抜け、GKとDFラインの中間に出たのでGKも飛び出せず、ダイレクトでゴールに流し込んでいた。
見事なパスを出した如月を指差しながらゴードンが喜び勇んで如月に走り寄り、ガバっと抱き着いた。
ぞろぞろと寄り、今度は落ち着いてゴールの祝福をしている。
そこからもボクシングでいうラッシュのように攻め手を緩めることなく何度も攻め続ける。セカンドボールは中盤の3人が拾うか競り合って日本代表にフリーで保持させるようなことがない。
クリアも鉄壁のCBコンビとSB兄弟がしっかりと跳ね返すか保持する。
そして両SBが攻めに重厚さをだすオーバーラップを何度も繰り返す。日本代表もクリアしただけになった。ゴールラインを割ったのでコーナーキックだ。
如月がキッカーなのでコーナーに向かう。ボールをバスケのボールのように指先で回転させて遊んでいる。ロンドンブルーFCのCBコンビが上がって来るのを待っている。
2人がペナルティエリアに入るとボールを無造作に置いた。
それにしてもメインモニターに試合の映像が映し出されるのはいいな。反対側のピッチのプレーも観れていい。
如月が右手の指を3本立てている。サインプレーをするのだろう。ペナルティサークルの辺りで激しくポジション取りをしている。バスケのスクリーンを数人で行い、一人の選手がマークを外し、フリーになった。
現イングランド代表キャプテン、ハリー・ウェルズリーがどフリーで強烈なヘディングシュートをゴールネットに突き刺した。
デザインされたセットプレーで見事にフリーの選手を作り、ゴールを奪う。ここら辺はイングランド特有のサッカーを魅してくれる。
ハリーが如月に飛び付き、如月が抱え上げている。そしてハリーは右手を高く掲げ、人差し指で天を指している。
喜んでいる間にロスタイムに入り、そのまま前半終了の笛が鳴った。チャリティマッチなのと、暑い日本の夏の試合を鑑みてロスタイムなしになったのだろう。
前半で3対0か………。力の差をスコア以上に見せつけられた格好になったな。如月が凄いのは分かっていたつもりだったが、周りのレベルが高いとここまで輝くのか。ダイヤは周りの光が強いと更に輝くと云うが、こうも凄いとはな。
『『『『『『Yeahhhhh!(Ohhhhh!)(Fooooo!)』』』』』』
皆がバチバチと手を叩き合いながら控え室に入る。
俺は後半も出るから汗の処理だけするが他の皆は前半で交代だからゾロゾロと着替えを持ってシャワーを浴びに行った。
ポツンと1人選手で残った俺を見てロジャーズ監督が笑っている。控えの選手達には指示を出し終わっており、今はピッチでアップをしているので誰もいない。
「ユウ、後半も攻撃のタクトは任せる。分かっているとは思うが……。」
「Yes, sir,Boss.チームの勝利の為に役割を遂行します。」
心得ている。ハリーにプロのチームに入るにあたって、心構えや考え方を教えられた。それは自分が1流である為に、1流のチームにいる為に心していることだ。
「なら後はお前に任せた。ピッチに行ってもいいぞ。」
先に行っていいと言われたので、氷嚢を一つ取って首筋に当てながらピッチに戻った。
後半が始まって半分経ったが、眼前で行われている試合展開は前半と変わらず押されている。
如月以外は全て代わったから、ほぼ別のチームでいわば控え組なのに後半はもう3点取られ、6対0と一方的になっている。
ウチの強みの両WGの三笠、伊原もアダム、アレン兄弟の代わりに入ったSBが守備的SBで手詰まりになっている。
何より如月がピッチにいる選手22人の中で至高の選手になっている。
チームの勝利という目的、そして攻撃的に勝つというチームの方針を受けて、その能力を十全に活用する。
無尽蔵の体力と抜群のスプリント、両足から放たれる高精度の長短のパスがチームにリズムを生む。
少し下がり目からゲームを作る。1人の司令塔がゲームメイクするクラシックな戦術だ。
広い視野と正確無比なパス、そしてチーム全体で得点というゴールイメージを共有する、させる。
そして少しずつ日本代表のブロックに綻びが生じる。最後は皆が見送るしかない中央への鮮やかなまでのラストパス。
シンプルだが、だから美しいゴールだ。
これで7対0か………。完敗だな。
再スタート後、ハイプレスでセンターサークル付近でボールを奪取したロンドンブルーは前に走っていた如月に向けてパスを出す。足元に吸い付くようなボールタッチでドリブルをする。キャプテンの藤峰も足を出せず、ズルズルと下がるしかないようだ。左右に揺さぶりをかけ、切り返しとともにスピードアップし、振り切りにかかる。
それを行かすかとユニフォームを掴んで止めようとするも止まらない。ユニフォームがこれでもかと伸びたのを見た審判が笛を吹いた。
如月が流してよと審判に向かって手を広げて苦笑している。
笛が吹かれて試合が止まったので仕方ないとボールを貰ってセットしている。35はないが30メートルはある。
壁を斜めから巻いてゴールを決めた。あれを見た瞬間に決めた。来週に行われるアジア予選3戦目は無理だが4戦目にはアイツを呼ぼう。協会のお偉方に反対させるだろうが関係ない。俺はチーム全体に刺激が、活力が欲しい。
それにはアイツしかいないと思った。
ゴールを決めて、パフォーマンスが終わるとどうやら交代するようだ。センターラインに交代選手と第4審判がスタンバっている。
4方向にお辞儀をしてから、駆け足で交代選手の元に向かう。そして交代選手とハイタッチ、ハグをしてピッチから出た。
去り際に此方にも一礼してから控え室の方に去っていった。
シャワーを浴びて、Tシャツ短パンに着替えてベンチに戻るともう直ぐロスタイムに入るところだった。
結局、8対0で試合が終わった。後半もロスタイム無しで笛が吹かれた。その後は直ぐに選手インタビューとなった。
当然、日本での試合なので俺がされる。メインモニターにも俺の姿が映されている。
「今日は見事な活躍でした。」
「ありがとうございます。学校の同級生や先輩達も見に来られていますし、イギリスからも1000人近い人が観に来てくれ、活躍出来たのにホッとした気持ちと感謝の気持ちしかないです。」
「見事な先制点からゲームコントロール、アシストや追加点とその後も見事な活躍されました。その要因は何なのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「当然、個人の能力もありますが、長い期間で築いた攻めのパターンや意思疎通が自然とできたからだと思います。」
他にもいくつかの質問に答えていると急に上から水が降ってきた。クーラーボックスに入った大量の水をスポンサーボードの後ろから降らしたのだろう。イギリスでも活躍した選手にこういったイタズラをするだよな。
「つっめた!!?」
俺もインタビューをしてくれていたアナウンサーの人も巻き込まれてビショビショになっている。そこで最後に今回応援に来てくれた人達にお礼を言ってインタビューを終えた。
ビショビショになっているTシャツを脱いで上半身裸になり、チームメイトとスタジアムを一周ビクトリーウォークをした。
途中、栄明の人達がいる場所に行くと大きな歓声が届いた。手を叩き、手を上げて振り、頭を下げて感謝の気持ちを見せた。
1000人近い人がいる栄明で多分半分は来てるだろう。そんな大勢の人の中でも、見つけてしまう。
互いに目が合い、どことなく気恥ずかしくなってしまう。
最後に彼女に向けて手を振ってから、その場を離れた。
ハリー達、ロンドンブルーは夜中に帰るそうだ。スタジアムから直接空港に行き、チーム専用機でイギリスに帰る。
選手出入り口で全員とハグをし、別れを惜しむ。皆が“待ってるからな”とか“秋のU-20W杯はよろしく”と挨拶を受けて別れた。
自分の荷物を持って、タクシーに乗り込んで自宅に帰る。
家に着いてドアを開けると千夏先輩が玄関で待ってくれていた。多分タクシーの音に気付いたのか出迎えに来てくれたのだろう。そんな千夏先輩の姿を見て、帰ってきたんだと思うと笑いがこみ上げてきた。
「急に笑ってどうしたの?」
笑い出した俺を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「いえ……千夏先輩の姿を見て家に帰ってきたんだと思うと、まだ千夏先輩がここに住み始めて半年過ぎたくらいなのに、よくここまで馴染んだなと思ったらおかしくて。」
クスクスと笑いながら言うと、千夏先輩も“確かに”と笑ってくれた。そしていつもの優しい笑顔で
「お帰り、優君。」
そう言ってくれ。
「ただいまです、千夏先輩。」
彼女にそう返せるのが、ただただ嬉しい。
次の更新予定は千夏先輩のインハイ編を予定しております。
更新順はアオのハコ、SEEDの予定です。
自分のヤル気で順番は前後するのでご容赦を。
ではまた次回もよろしくお願いいたします。