実際の時間軸と齟齬があるかもしれませんが、目を瞑ってくれると助かります。
朝練が終わり、制服に着替えて渚達と教室に入り喋っているとサッカー部の沢城君が入り口付近の男子に挨拶しながら教室に入って来た。
「はよ〜っす。」
「おうおはよ、沢城。」
「おはよう。」
教室奥にある沢城君の席の近くにいた彼と仲のいい針生君や西田君が互いに挨拶をし合っている。彼の席が近いから話し声が聞こえてくる。
「いや〜パネ〜わ。あのスーパールーキー。」
優君の事かな?
「スーパールーキーって、如月優か?」
「ああ。ウチで唯一の世代別代表候補経験者の紅林先輩をチンチンにするんだぜ?あり得ないだろ。」
「紅林先輩って一個上のか?」
針生君が尋ねると沢城君が頷く。
「ああ。サッカー部では一番上手いんだが、あいつにかかれば大した問題ではないらしい。」
「一対一を10本ずつやって、一本だけキーパーに止められただけで全部決めて、全部防いだんだぜ。チンチンにやられたようなもんだろ?」
「ちょっと沢城!チンチンとか下ネタ言わない!」
隣の渚が沢城君に大声で注意する。ちょっ、渚!渚の注意にバツが悪そうな表情で此方をチラリと見て謝ってきた。
「あ、いや。ごめん。気をつける。船見に鹿野さんもごめん。」
「ううん、別にいいよ。渚も大声で言ってたし。」
私が渚も大差ないと言って渚を見ると、ちょっと慌てて渚も謝ってきた。
「それで沢城、如月の何が凄いんだよ。」
針生君が問うと、沢城君は直ぐに答えた。
「先ずは、右左関係なく使えることだな。普通はいざという時に利き足を頼るものだが、アイツにはそれがない。両利きと言って差し支えない技量だから多くの選択肢があって対応するのが困難だ。」
沢城君の優君の優れた点に感嘆の声を針生君や西田君があげる。
「それにイングランドでやってきた影響か足腰、体幹が馬鹿強くて少々のチャージじゃあ崩せない。紅さんが弾き飛ばされたからな。」
「スラッとしていて華奢に見えたんだがな〜。」
西田君が優君の見た目から受けた印象が違った事に予想外と声を上げた。優君の創り込まれた上半身を思い出してしまった。白くシットリとした肌で筋肉がしっかりとついていると分かる肉体をしていて、美しさを感じさせた。それを思い出すと頬がカーーーっと熱くなるのが分かる。それを冷ますためにフーーーッと息を吐く。運良く誰にも気付かれなかったみたいでホッとした。
「オマケにテクニックもあるからな。紅さんが股抜きされたし、鋭い切り返しでアンクルブレイクもさせられた。ゴールも上下左右隅に難なく決めるもんな。ポジション被ってるからな〜、俺。レギュラー取れっかな〜〜〜。」
「頑張れよ、沢城!一年なんかに負けんじゃね〜ぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「イケメン優男何かに負けんじゃね〜!」
「イギリス帰り何かに負けんな〜。」
沢城君の溜め息が混じった弱気の言に周りから応援の声が飛んできた。
「いや後半僻みじゃん。」
「僻んで何が悪い!」
「イケメンを妬むのは一般ピーポーの性だ、船見!」
「いや、そんな堂々と大声で言うことじゃないし………」
渚の笑いながらのストレートなツッコミに男子が大声で反発してきた。それに渚が男子の迫力に押されながらも呆れている。
「アイツ、俺らの事を下に見てんのかな?やっぱ。」
「まあ、世代別の日本代表だしな。それも飛び級の。」
「うん、思うだろうな。エリート中のエリートだし。」
周りの男子が沢城君のポツリと零した言葉に同調しだした。
優君の頑張りが変な方向に向ってる。それも変な誤解、間違いから…………。この状況はよくないな。
「昨日、帰りに少し話したんだけど………、確かにレベルは落ちるけど向こうと一緒で上手くなろうと努力しているから問題ないって言ってたよ。皆が頑張るから自分も頑張ろうって思える環境だから満足してるって。」
「鹿野さんが言うなら嘘じゃないんだろうな。ま、実際アイツが凄いのは事実だし、年下でも教えてもらえるならありがたいから仲良くしたいとは思ってる。」
沢城君が頭をガリガリと掻きながら、恥ずかしそうに言う姿にクラス中が笑いに包まれた。
「た〜〜いき、何悩んでんの?」
反対側からやってきた少女、新体操全中3位に輝いた蝶野雛が机に突っ伏して唸っている同じバドミントン部の猪股大喜に話し掛けた。
「う〜〜〜〜〜、あの男の人誰なんだろう…………?」
当の本人はグルグルと思考が迷宮に行っていて全く気付いていないが。
「匡君、大喜は何を唸ってるの?」
変な状態の大喜を見て、当然の疑問を何故か俺に聞いてきた。
「昨日の朝練の時に鹿野先輩とバスケをやってたスーツ姿の謎の男の正体が気になってこの状態。」
俺の答えに、あ〜〜〜なるほど納得といった表情を蝶野さんが見せる。
「あのスラッとボディ優男風イケメンダンク男!」
「いや、その通りだけど色々と情報が渋滞してるな………」
蝶野さんの怒涛の情報量にツッコミを入れつつ、眼下の男がこうなった原因を説明した。
「今まで見たことないよね?誰なんだろう?」
「西田先輩に聞いてきたけど知りたい?」
「「えっ!!!!」」
俺の蝶野さんの疑問への答えを聞くかの問いに二人が驚きの表情で此方を凝視する。蝶野さんは驚きの表情だが、大喜の方は驚愕といった一段階上の表情を浮かべている。
「匡君、本当の情報なんでしょうね?」
「ま、マジで!本当に知ってるのか!?」
「西田先輩に聞いた後に針生先輩からも聞いたから間違いないと思う。ウィキペディアにも載ってるからそれも見たし。」
目の前の男女二人が絶句してアホ面になってる。まあ気持ちは分からないでもないが。
「名前は“如月優”。学年は俺達と一緒で春から栄明高校に入学予定。部活はサッカー部の予定。」
「えっサッカー部!?でも千夏先輩とバスケを………。」
大喜が疑問の声を上げるもジッと顔を見ると声が尻すぼみに小さくなった。
「バスケは母親の影響で少し出来るらしい。母親は元バスケ日本代表のキャプテンでオリンピックで銅メダルを取った事があるらしい。」
「うへ〜〜〜、ウチも父親が日本代表ってだけで周りが五月蝿いのにキャプテンでメダリストなんて。」
経験者の蝶野さんはゲンナリ顔を浮かべている。父親が体操日本代表で色々言われているのかうんざりしているようだ。
「母親の紹介はこんなもんでいい?次は本人に移るよ。」
本題に移ると言うと二人とも真剣に聞く体勢になった。そんな二人につい小さく笑ってしまった。
「6歳で親の仕事の都合でイギリスに行き、8歳で名門サッカーチームの下部組織に入団。12歳でイングランドでプレーする18歳以下の注目する若手選手に掲載され、ヨーロッパで話題になったみたい。13歳で日本代表U-15に選出、14歳でU-17に選出、この間U-19に選出され、日本代表を一足飛びで駆け上がった日本代表の若手最注目株の選手だって。」
「そんな人が何で栄明何かに来るのよ!?」
蝶野さんが驚きながら変なことを言いだした。
「いや、栄明何かって………自分も通ってるし、高校も通うじゃん………。」
「いや、そうだけど!そこまでのスーパーマンならもっと強い強豪校なんて山程あるし!」
まあ至極当然の疑問だな。
「西田先輩から聞いた話で鹿野先輩が言ってたんだけど、日本の高校知らないから両親の母校で強い方を選んだらしい。」
「てきとぅ〜〜〜〜〜〜〜。」
如月優の高校選びに天を仰ぎながら叫ぶ蝶野さんの姿に周りのクラスメイトからも笑いが起こった。それより心配なのはさっきから何にも言葉を発しない大喜だ。もしかして意識飛んでる?
「大喜?大丈夫か?」
「えっ?あ、うん。大丈夫………。」
恋敵の経歴を聞いて茫然自失って感じだな。
「もう止めとくか?」
「いや知りたい。どんだけ凄い奴かって。」
「なら続けるけど……ウチのサッカー部のグラウンドが夏過ぎから芝になっただろ?あれ、彼が入学するからなんだって。」
蝶野さんが大喜の机に両手をついて俯いて叫ぶ。
「まじか〜、学校力入れ過ぎでしょ!」
「今年の春のヨーロッパの19歳以下のクラブユース選手権でチームは優勝、個人としてはアシスト王とMVPを受賞。世界で注目される若手選手と言って過言ではないらしい。」
「ぱね〜〜、ぱね〜〜〜っす匡君。」
1人蝶野さんがはしゃぎ騒いでいる。朝から元気だな。
ウィキに書いてあるから大凡その通り何だろうが、確かに凄い。
「匡、どんな選手何だ?その如月って選手は?」
「プレースタイルならちょっと待って。」
大喜の質問に、流石にそこまで覚えてなかったからポケットからスマホを取り出して検索をかける。
「両足から放たれる正確なパスと高度な戦術眼を持ち、ボールを奪うチャージやタックルも積極的に行ってチームを助ける献身性もある。しかし、最大の武器は類稀なテクニックを活かしたクリエイティブに富んだプレーで、イングランドに現れた突然変異のファンタジスタと評される。」
俺のスマホを見ながらの説明に蝶野さんは首を傾げている。
「ファンタ……ジスタって何?」
「閃きや創造性のあるプレーで観客を魅了する選手の事だって。彼のプレー動画があるけど観る?」
尋ねると二人が一、二もなく頷いたので、動画を再生して大喜に渡す。
「スゲー、こんなに自由自在にボール扱えたら楽しいだろうな。おっ、カーブかけてそこを通すのか〜。おおっ!フリーキックうめ〜〜〜!」
感嘆の声を漏らす大喜に笑みが浮かぶ。そうだよな、こんな事で折れたりする奴じゃないよな。
“うお〜〜〜”や“わあ〜〜〜”と言う声を上げながらプレー動画を観る二人。蝶野さんが見にくいのか大喜の顔の横に顔を移動させ、二人顔を並べて見ている姿を予鈴が鳴るまで微笑ましく見守った。
キツイ練習を終え、休憩10分と言われた。練習で熱くなった身体を冷ますために外に繋がる扉を開けると声が聞こえてきた。
「プレッシャー掛けてけ!」「ディレイ、ディレイ!!」「シュートコース切れっ!」「プレス!プレス!」「どんどんスペース突いてけ!」
サッカー部が何時もより大きな声を発している。熱く盛り上がっているようだ。
「顔を上げろ!声もしっかり出せ〜!しんどくなれば顔が下を向く!負けてるチームも同じ様に顔が下を向く!声ももっと出そう!声の出なくなったチームは負けるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
優君が大きな声を出している。言ってる内容も理解出来る。確かにそうだ。
「あれ?ちー達も休憩か?」
後ろから声をかけられ振り向くと針生君達がいた。
「サッカー部、スゲー声出てんな。」
「優君もさっき吠えてたよ。」
「マジで!見たかった〜。」
私の言葉にからかうネタが欲しいのか笑いながら言う彼に呆れてしまう。視線をグラウンドに向ける。練習を見てると3対3を2面でしてるようだ。激しいチャージやブロック、競り合いが随所に見られる。
「10秒以内に攻撃側はシュートまで持っていけ!オフェンスはフォローじゃなくてコース作れ!スペースに走り込め!チャンスでダラダラ攻めるな!時間ないぞ!」
「ディフェンスは相手を外へ外へ追い込め!後ろを向かせろ!自由にさせるな!」
優君のオフェンスのアドバイスにキャプテンの紅林先輩も負けじと大きな声を出してディフェンスの選手を鼓舞する。1年からチームの中心として頑張っていた人だ。負けてられないのだろう。
「おっ、噂の新人君の番だ。」
中央でボールを持った優君が1フェイントで間合いをずらし、優君をマークしていた選手の後ろにあるスペースに走り込んだ選手の前にパスを送る。マークに付かれていたのでペナルティエリア外で相対すると、後ろにパスを出された選手が優君から目線を切って後ろを向いた瞬間に優君がマークを振り切り、すぐ右横のスペースに走り込みながらパスを要求する。
出されたパスを1トラップして前に出てきたキーパーの肩口に右足外側でカーブをかけながらループ気味のシュートを左のサイドネットにパサリと決める。鮮やかな一連の流れからのゴールにサッカー部も、そして体育館の入り口から見ていた私達も“お〜〜〜”と歓声とも感嘆とも取れる声を上げた。
「いや〜マジで凄いな、あのルーキー。」
「何がどう凄いんだよ、針生?」
針生君の言葉に西田君が分からなかったのか疑問をぶつけた。
「いいか、自分が相対する相手の裏にパスを出したら反射的にそっちに目線をやるだろう?その一瞬でマークを外して自分がフリーになる。出したパスで決めてくれたら良いが、相手にもマークが付いてるからそれは現実的じゃない。そこでフリーになった自分にリターンパスをしてもらい、悠々とゴールを決める。キーパーはシュートコースを限定しようと前に詰めてきたが、詰め切る前に決める。全部が全部偶然じゃない。多分だけどある程度意識が共有されたプレイだぜ、あれ。」
「はぁーーー、まじか〜〜。それが本当ならスゲーな。」
西田君が溜め息を吐いて、感心している。それから暫く見ていると優君は次々と決めさせ、決めていく。
「やっぱり上手いよ、アイツ。基礎技術が高いからトラップした時に直ぐに動ける、動かせる体勢、位置にボールを置くから相手が近づけない。ボールを持ってない時もスペースに走ったりと常にサポートしてくれる。一緒にやってる奴も助かるだろうぜ。」
へ〜〜〜、そうなんだ。それにしても針生君、サッカー詳しいな。
「針生、サッカー詳しいじゃん。」
渚が針生君に私が思ったことを聞いてくれた。
「母さんが海外ドラマ観るからネトフリ繋いでて、海外サッカーも観れるから時間ある時に観てんだよ。迫力あるし、強豪同士の試合って面白いから観てんだよ。最近はトップチームだけじゃなくて下の世代のもやってんだよ。俺達と変わんない年代の世界トップレベルのだから。あれ観ると刺激になるよ。俺も頑張んね〜とって。」
「へぇ〜そうなんだ。いいな〜。」
渚の羨ましがる声に針生君はクラブチームの公式サイトにも載ってるから見てみたらと言っている。
優君は攻撃が上手くいかなかった組に声を掛けてアドバイスをしているみたい。年下なのにガンガン行くタイプなんだ。優君の意外な所を発見したみたいで面白い。そんな時に後ろから声が掛かった。
「千夏に渚〜、休憩終わりだって〜。戻るよ〜。」
「うん、今行く!じゃあお先に。」
針生君達に声をかけて練習に戻る。最後にグラウンドで必死にプレーする優君を見てからグラウンドに背を向けてコートに戻った。私も負けてられない、頑張らないと。そう心に思った。
練習が終わり、一足先に着替え終わったので帰ろうとしたら紅林先輩が一緒に帰らないかと声を掛けてきたので、了承して肩を並べて校門へ向かう。途中で飲み物を奢ってやると言われたのでお礼をちゃんと言い、ホットコーヒーをご馳走してもらった。
その寄り道のせいか沢城先輩とばったり会ってしまった。
この人、何か俺に対して対抗意識バリバリでガツガツ来る。かと言って、ツンケンしている訳でもなく俺にさっきのプレーはどうだったとかアドバイスも求めてくる。紅林先輩は近くで面白いものを見ている感じで、此方の話を聞くだけのようだ。
「追い越す動きも互いにマークが付いていたら一対一が二対二になるので、そこは状況を見て判断する必要があります。同じ人数で試合をしながら数的不利を潰し、数的優位を作るを繰り返しゴールを狙い合うスポーツですからね。」
「状況判断能力が重要って事か……」
「ええ、敵味方どちらが先に来るのかによって状況は変わりますから周囲の状況を頻繁に見る事が大切です。」
「ん〜〜〜〜〜〜。」
沢城先輩が唸っている。一朝一夕で出来ることじゃないからな。少しずつ出来るようになればいい。
「ハリーが言っていたのですが、足を使うスポーツである以上、不確実性が高く、その不確実性を少なく小さくしていく為に確実性を積み重ね、高めていく事が大事だって。」
「なるほどな〜。」
現イングランド代表で俺が所属していたトップチームの選手の言葉を伝えると、紅林先輩が相槌を打った。ちゃんと聞いてたんだな、この人。
「トラップ一つにしても足元にピタリと止めて次の動作に移れるのと、乱れてツータッチ、スリータッチするのでは相手の寄せる時間出来たり、此方の次のフェーズへの時間が必要になります。だから前のクラブではパスやトラップを丁寧にやっている子や真剣に練習に取り組んでいる子をジュニアではスカウトするそうです。」
二人が勉強になると言っていると後ろから声を掛けられた。
「おっ、沢城じゃん!」
声の方に振り向くと4人が此方に向って歩いてきていた。1人は何か雰囲気があるな。何のスポーツかは知らないが出来ると俺の直感で感じる。
「よう、針生に西田か。」
どうやら沢城先輩の友人のようだ。前を歩く2人がそうなのだろう。
「こんなとこで何してんだ、お前?あっ、紅林先輩!お疲れさまです。」
此方に来ながら沢城先輩に声を掛けるが校門を出て直ぐに死角になって見えてなかった紅林先輩に気付いて慌てて挨拶をした。
「よう、バド部の針生健吾と西田諒介だろ。知ってるよ。ウチのクラスの横山がお前達のことを話してたよ。期待できるやつだって。」
紅林先輩の言葉に針生先輩と西田先輩が其々礼を言う。
「あざっす。」
「マジっすか!あざ〜す。」
出来ると思われる先輩が俺をジーーーっと見てきたので軽く頭を下げて一礼する。針生先輩の視線と俺の動きに気付いたのか紅林先輩が俺の背をトンッと押してくる。
「針生に西田、紹介するよ。ウチの期待の新人の如月優だ。」
「おっ!噂のスーパールーキー!」
「へ〜〜〜、やっぱりそいつが。」
ジロジロと見定めているような視線を浴びながら後輩なんで自己紹介をする。
「如月優です。春から栄明高校に入学することになってます。学年も部活も違うんで絡む事は多くないと思いますが、よろしくお願いします。」
そう言って一礼する。
針生先輩と西田先輩が、なら俺らもと後ろで様子を窺ってた2人をグイッと前に引っ張った。ほらっ自己紹介と言わんばかりだ。
「い、猪股大喜です。よろしくお願いします。」
「笠原匡です。よろしくお願いします。」
2人も自己紹介をすると、ペコリと一礼した。
「おう、サッカー部キャプテンの紅林だ。よろしく、猪股、笠原。」
「針生、西田と同じクラスの沢城だ。よろしく、2人とも。」
「如月優です。よろしくお願いします。」
紅林先輩、沢城先輩に続いて挨拶をすると猪股君、笠原君もよろしくと言い、一通りの挨拶が終わると、針生先輩が笑いながら話し始めた。
「サッカー部、かなりハードにやってましたね。部室前で部員が転がってましたよ。」
「ああ、今日の練習メニューをコイツがイギリスでやってたメニューにしたんだ。そしたらああなった。」
「マジっすか?」
夕方からの短い時間だから休みなく、ずっとトレーニングをしただけなんだけど。
「練習の質も高かったけど、意識の質も高めたからな。脳も身体も疲れ切ってんだろうな。俺もかなりキツイし。何なら早く帰りたい。」
紅林先輩の最後の正直な気持ちの吐露に、つい笑ってしまった。
「最後の3対3も自分の番じゃない時も仲間と攻め方や守り方を話し合ってたからな。コイツが入ってくれた効果が早速現れたよ。」
紅林先輩は俺の肩を叩きながら、皆の意識が変わった事を嬉しそうに笑いながら言う。
「練習時間は決まってますから。強豪校やライバルと差を縮めて追い抜くにはクォリティーを上げるしかないですから。ま、いずれ慣れます。」
「いや、いずれ慣れますって。一番下の後輩が言うことじゃないだろ………。」
俺の発言に針生先輩が呆れた口調でツッコんだ。
「あっれ〜〜〜〜〜、針生に西田じゃん!まだ帰ってなかったんだ。」
また誰か来た。いい加減俺も帰りたい。まだ1月で寒いから早く帰りましょうよ、皆さん。
そんな事を思いながら来た人に目をやると千夏先輩ともう1人女子だった。多分バスケ部の人だろう。こんな時間に一緒に帰ろうとしてるんだから。
「針生君に西田君、まだ帰ってなかったんだね。私達が部室に入る時に帰ってたのに。」
「あっ紅林先輩だ。こんちゃ〜す。」
「よう、女バスも帰りか?人気の一年女子が仲良く下校か。」
「いやいや、人気なのは千夏で私はそんなんじゃないっすよ。」
「そんな事ないぞ、船見。ウチのクラスでもお前のこと良いなって言ってる奴もいるからその内告られるかもな。一番人気は鹿野だが。」
笑いながら言う紅林先輩に2人とも若干照れた顔をする。
「俺等はちょっとここで話してたんだ。今注目のルーキーと。」
針生先輩が俺に視線を向けると校門の陰に隠れていた俺に気付いたみたいだ。
「どうも。」
「おっ!今栄明で一番ホットな男女が揃ったじゃん!」
ニシシと笑いながら俺と千夏先輩に視線を向ける。
「ちょっと渚!」「は、はぁ……」
千夏先輩の注意が飛び、俺は吐息が漏れた。
いや、分かるよ。千夏先輩可愛いから突然一緒にいた俺に誰だって云うのが起こるの。でもそれここで言わなくてよくない?言わなくていいよね?
「私は船見渚。よろしく如月君。」
「どうも如月優です。よろしくお願いします、船見先輩。」
「よろしくよろしく如月君。で千夏と付き合ってるの?」
ガンガン来るな、この先輩。得意なタイプではないな。
「いえ、まだ知り合って1週間も経ってないので知り合いか友人位が妥当かと。」
まだ同居してないし。知り合いか友人にカテゴライズされる関係だろう。ん?猪股君がホっとした表情をした。なるほど、千夏先輩の事が気になっているんだろう。
「ふ〜〜ん。」
「鹿野先輩は美人で可愛いですから。いずれはそういった関係というのも狙おうかと。いや冗談ですよ。色恋は今の所全く考えてないです。来月14日のU-17対U-19のフレンドリーマッチに今年の秋にあるU-20ワールドカップに春から始まるオリンピック予選の代表も代表入りを目指してますし、高校サッカーに高校生活と忙しいと思うので、落ち着くまで色恋に現抜かしてる暇がないです。」
俺の最初の方の冗談に周り皆が“えっ!”って顔をしたが、冗談だと言うと一様にホっとした顔をする。猪股君が大きくホっとしているのを見るとクスリと笑ってしまう。
強い視線を感じ、千夏先輩に目を遣るとムーーーっとしている。
「調子に乗ってからかいが過ぎました。ごめんなさい。」
素直にペコリと千夏先輩に向かって頭を下げて謝る。頭の上からクスクスと笑い声が聞こえる。笑い方と声に覚えがある。千夏先輩に違いない。
「美人で可愛くて綺麗な鹿野先輩は心が広いから許してあげる。」
「いや、綺麗は言ってないです。蛇足です。」
千夏先輩の自画自賛に俺のツッコミが入り、周りから笑い声が漏れた。俺と千夏先輩は目が合うと互いにどちらともなくクスクスと笑ってしまった。
「良かったな。まだ友人位だってさ。」
匡の言葉に素直に頷いた。謎の男の正体は分かったが、彼と鹿野先輩の関係が今ひとつ分からなかったが、当の本人から聞けるとは思わなかった。俺にもまだまだチャンスは有るんだと判明した。いや、何なら俺の方が鹿野先輩との付き合いは長い。俺は中学の部活やってた時からの朝練仲間だし!多分、向こうは俺の名前も知らないけど。
そのライバルが俺達の前に来た。
「如月優です。笠原君と猪股君で良かったよね?俺は中学は夏に卒業してるから4月まではサッカー部の練習しか来ないけど仲良くしてくれると嬉しいんだけど。」
そう言い、手を匡に差し出してきた。
「笠原匡です。此方こそよろしく。」
強く手を握り、グッグッと握手していた。
「猪股君も………無理かな?鹿野先輩が好きな君には。」
「えッ!!!!」
「あら、バレてる。」
匡がのほほんとそんな事を隣で言ってる。
「え、あ、いや、その………」
「俺との関係が明らかになった時にホっとしていたから、そうじゃないかとね。」
「よく気付いたね。」
「俺、視野が広くて正面向いてても180度に近い位見えるんだ。それで視界の端で大きくホっとしていたから。」
「へ〜〜〜〜。」
匡が感心したような声を出してる。
「ほら、大喜。」
そう言って俺をグイッと押し出す。
「猪股大喜です。よろしく如月君。」
「優でいいよ。イギリスではファミリーネームよりファーストネームで呼ばれてたことの方が多かったから。」
「なら俺も大喜って呼んでくれ、優。」
「thank you、大喜。」
互いに名前で呼び合い、しっかりと握手をした。匡とも名前で呼び合う事を話している。俺の想像より良い奴みたいでホっとした。コイツとは恋敵になるかもしれないが仲良くなれそうだ。そう思った。
アオのハコ、次の話の内容の予定は話にも書いてあるバレンタインデーの試合を絡めた話になる予定です。
3月中に更新したいな〜とは思ってますが…………頑張ります。