仕事が忙しく中々更新出来ず、申し訳ないです。
今回はインハイ後の千夏先輩副キャプテンになる話です。
原作では誕生日と一緒になってましたが、本作では分けさせてもらいました。
次回は誕生日回となっております。
「ただいま帰りました〜。」
5日ぶりに帰ってくると少しだけ懐かしさを感じる。
昼過ぎに駅に着き、そこから解散した。チームはとりあえず5日の盆休みをすることに決まった。
玄関で靴を脱ぎ、荷物をガチャガチャとしていると智さんがやってきた。
「お帰り千夏ちゃん。残念だったわね。」
「はい。力の差を見せつけられました。」
そう。圧倒的な個人能力、チームとしての総合力で上回られた。控え選手の能力も。向こうはレギュラーと控えの力がほとんど落ちないけど、コチラはガクンと落ちてしまう。
そういった所でも差を感じた。
「でもその差を感じられたのは良いことよ。3年の最後の大会で味わっても引退になるから。千夏ちゃん個人でいえば、ウィンターカップも来年もあるからそこでリベンジすればいいの。」
慰めながらも奮起を促す言葉をくれる。モチベーションを上げてくれるのが上手いなと思った。
「荷物あるでしょ?洗濯機入れておいて。夜にでも洗濯するから。」
「あ、はい。」
「シャワー浴びてさっぱりするも良し、部屋でゆっくり休むも良し、リビングで私とまったりお茶にするも良し。好きにしなさいな。」
自由に過ごしてと言われ、気になったことを話した。
「あの…優君は?確かもう休みですよね?」
私達はインターハイがあったけど、優君はない。だから私達より少し長いお盆休みのはず。いつもなら家に居たら出迎えてくれるのに今日は居ないんだ………。
「あの子、学校に練習に行ってるのよ。せっかくの盆休みなのにそこでもサッカーなんて………ホントサッカーバカ。」
やれやれと呆れたように言っているけど、何かに熱中しているのが嬉しいのが表情に出ている。
「7時に晩ご飯にするから、それまでは好きに過ごしてて。」
そう言って智さんはリビングに戻っていった。とりあえず荷物を片付けないと……。洗濯機に放り込み、荷物を片付ける。
リビングに行って、智さんに明太せんべいを渡す。すると嬉しそうにさっそく開けて、1枚食べ始めた。
そんな智さんを見ながらこの後の予定を伝えた。
「……あの、…私少し出かけてきます。晩ご飯の時間には戻りますので。」
「あら帰って早々。いいけど気を付けて行ってきなさい。」
快く送り出してくれた智さんにお礼を言って、家を出た。
学校に着くとほとんど毎朝顔を合わせる守衛さんに挨拶をして入る。大半の部活が休みだからか静かなのでサッカー部の声が聞こえてくる。サッカー部のグラウンドに向かう途中、バドミントン部の猪股君がいた。
「猪股君、お盆休みなのに練習?」
「あ、はい。針生先輩の試合を観て、何か身体を動かしたくなって。俺も来年はあの舞台に立ちたいって気持ちが強くなりました。」
「そっか。」
もう来年に向けて頑張ってるんだ。針生君の後輩は頼もしいな。針生君の最大のライバルになるかもしれないね。
「それで鹿野先輩はなんでここに?」
えっと……あ〜〜、そこを突っ込まれると困る。なんて言おう………仕方ない、正直に言おう。
「その…智さんに、……あぁ、優君のお母さんに優君が休みなのに学校で練習してるって聞いて、見に来たんだ。」
「そうなんですね。………あのっ!」
っ!急に大きな声を出されて少し驚いてしまった。
「あ、すみません。えっと……その、鹿野先輩は優の事、………その…好き……なんですか?」
しどろもどろになりながらも聞きたいことを聞けたからか、少しぐっと顔に力が入っている。
サッカー部の声がする方を見ると、柔らかい風が吹いた。風になびく髪をそっと押さえながら猪股君の方に向き直った。
「うん。多分、私は優君の事が好きなんだと思う。優しくて真面目で、一生懸命で、でも笑うと子供っぽい所が出てきて、……そんな優君に惹かれていっているんだと思う。」
「そう……ですか。」
春前に猪股君って私の事好きなんだろうなって気付いた。でも強くアプローチしてくるでもなかったから放おっていたけど。
それに今は蝶野さんに惹かれていっているんだと思う。あんなに可愛い子にアピールされて、異性として意識しないなんて無理だと思うし。
「優も鹿野先輩の事、気になってると思いますよ。」
意外な事を言われた。
「そうかな?」
「ええ。優のやつ、鹿野先輩以外には一定の距離を置いてるんですけど、鹿野先輩には一歩近いというか自然な感じで接しています。それに他の女子とは違った笑顔を見せてますよ。」
そうなんだ。そうだったら嬉しいな。
「じゃあ俺もそろそろ帰るんで。」
「気を付けて帰ってね。」
“ありがとうございます”とペコリと頭を下げてから去っていった。
私も目的地のグラウンドに向かう。するとピッチに多くの人が集まってハーフのゲームをしていた。クラスメイトの沢城君、優君とクラスメイトの横川君、優君を慕って来年入学予定の藤堂葵君と馬原渡君もいる。それに渚の弟の湊君も参加しているようだ。
暫く眺めていると優君が湊君に身振り手振りで教えている。身体の向きやボールを受ける位置まで場所を移動して教えている。教え終わったのか、手をパンと叩いて練習を再開した。
優君は指導役に回っているようで少し外れた位置から観戦している。………んっ?少しずつコチラに後退している。どうやら私に気付いていたようで部員の練習を見ながら此方に向かってきていた。
プレーが切れたタイミングでコチラに振り向いた。
「お帰りなさい千夏先輩。」
汗だくで泥だらけ、芝の草も何本か顔についているのに、いつもように私に優しく柔らかく微笑んでくると、優君の周りに爽やかな風が吹くのってなんでだろう?
「お疲れさまでした。」
半身で練習を見ながら、私をチラリと労るような目で見て伝えてくれた。その優しさに甘えさせてもらおう。
「力の差をありありと見せつけられた。」
悔しさに唇を噛み締めてから言う。
「ですね。後半は来年の主力組で戦われましたね。」
偽りも虚飾もなく、事実を淡々と言われた。
「うん。でも相手の戦力がそんなに落ちなかった。私達と一緒のレベルで、得点差を詰めれなかった。」
「また一から鍛え直しましょう。物事を成すに必要な事、知ってますか?先ずは目標を決める。そしてやり通す。それが達成する為に必要なプロセスです。全国制覇が目標なら、今回全国制覇した湊崎のレベルを知ることができた。そこに必要な事も分かった。ならそれを積み上げるしかありませんよ。」
覚悟を決めるように促す、強くて厳しい視線を向けてきている。
「うん。渚達も本当に悔しがっていた。ウィンターカップでリベンジしないと!」
強い決意を籠めて、優君の目を睨むように見詰める。幾瞬か見詰め合うと、優君がフッと笑った。
「お互い全国制覇が目標ですからね。また頑張りましょう。」
「うん。」
校舎の方に目をやり、多分時計を見たのだろう。
「さてと。6時には下校しろと言われてるので、そろそろ終わらないと。」
優君の言葉に私も時計を見ると、もう5時になる。片付けとダウン、着替えを考えるとタイムリミットだろう。
ぐーーーっと伸びをしてから羽織っていたジャージの上着を私に渡しながら告げてきた。
「性別も競技も違いますが、世界トップのレベルを見せます。」
“ラストワンプレー!”と言って、駆け足でピッチに入って行く。
5対1。キーパーも入れたら6対1をするようだ。
沢先輩が最初の相手だ。足裏で転がしながら間合いを詰める。その間合いを嫌った沢先輩が離れようとする瞬間を狙って仕掛ける。左から抜こうと見せ掛け、慌てて身体を動かした時、俺の進路に踏み出した足の間にボールを通して、ポジションを入れ替える。これで一人目。
二人目は湊か。何日か一緒に練習したけど、まだ中学生だからフィジカルが不足しているがポジショニング感もいいし、テクニックもある。来年早々に中盤で使ってやれる選手だろう。
跨ぎフェイントをするもしっかりと対応している。左足のアウトサイドでボールを外に押し出し、左から仕掛けると見せ掛け、エラシコで右から抜く。それにも対応したのを確認してから、ポッカリと空いた股の間も華麗に通して抜き去った。
悔しそうな湊を後ろに、前に進むと渡が出てきた。
次は渡か。両足で素早く何度もフェイントをすることで左右に揺さぶりをかける。右から抜こうとするも服を掴みながら密着マークで追いすがる。こういった所は南米仕込の嫌らしさだな。歩幅を合わせて股抜きして入れ替わる。それにも体勢を崩しながら付いてくる。服を掴まれてるのを逆手に取るようにルーレットで引っ張るような形になり、地面に完全に崩れ落ちた。
次は横が相手か……、フィジカルは申し分ないがまだまだ穴が多い。跨ぎからエラシコ、そしてダブルタッチで抜く。追いすがる横の前に身体を入れて進路を阻む。
最後は葵。一個下の代どころかU-17でも最高のディフェンダーと評価されている。最後はキーパーも含めた勝負と伝える。
何度かフェイントで隙を伺うも、しっかりと対応してくる。間合い、身体の向き、体重移動や重心の位置、シュートコースを切る身体の置き場所。
俺がハリーから教わった事を教え、それを忠実に再現している。一発で抜くのは無理だと判断した。右から仕掛ける。それにも間合いを狭めながらドリブルとシュートのコースを限定してくる。ここでルーレットをして、クルリと反対に回る。それにも一瞬で記憶した脳内映像と雰囲気で対応しているのが分かる。そのままもう一回ルーレットで元に戻るように回転する。
ダブルルーレットにも体勢を崩すこともなく、しっかりと対応してきた。何度か見せたこともあるからここまでは対応してくるのは俺も分かっている。そこで三回目のルーレットをする。
踏ん張って反対に対応しようとしているのを背中越しに感じる。しかし残念ながら先の二回のルーレットと違い、ボールは葵が踏ん張る為に拡がった足の間を通した。俺の足元にボールが無く、自分の股を通り背後にやられたのが分かったのか、強引に向き直ったが俺が抜き去る時に軽い接触をするとバランスを崩して倒れた。
葵が抜かれると分かった瞬間にキーパーの大林が前に詰めてきていた。来年はコイツが正ゴールキーパーになる。足元の技術やパントキックは苦手だが、シュートストップは上手い。
技の都合上、ゴール左に少し寄っている。左ポストのラインにほぼ近い。ボールもそっち方向に転がっている。このままなら左足で蹴る事になる。大林もニアサイドを警戒しながらファーサイドにも注意を払っている。8:2の感じを受ける。
此方が決めに来たのを感じたのだろう。身体を俊敏に動かせるようにしているのが見て取れた。左でブチ抜くと雰囲気を出した瞬間、右のトーキックで一瞬の不意を突き、大林がほんの少しだけ空けていた股を射抜いた。ゴールに向かって跳ねることなく転がり入るボールを俺も大林も見送る。
いつもの様に両手を斜め下に拡げながらパフォをしつつ、ボールの回収に向かう。
「しゅ〜〜〜りょ〜〜〜っ!」
ゴール内にあるボールを足首でクイッと跳ね上げ、胸元で受け取り、振り返ると本当に悔しそうな表情している面々がいた。そうだ、それでいい。悔しがれ!もっともっと悔しがれ!その気持ちが日々の練習に意味を生む。そしてそういった選手を俺は見捨てない。
個人の能力の向上も大事だが、サッカーはチームスポーツだ。個人では負けていてもチームとして勝てばいい。それも身につけていかないと。片付けをみんなで手早くして上がる。
出入り口付近にいる千夏先輩に挨拶をし、部室に向かう。
プールの準備をしている優君達を見守るように、少し離れた所で見ていると、沢城君が私に尋ねてきた。
「そういえば鹿野は何で如月を迎えに来たんだ?」
「えっ!?あ〜〜〜、えっと………―――」
不意な質問に言葉に窮した私を見兼ねて、優君が助け舟を出してくれた。
「鹿野先輩、今日はウチで晩ご飯を食べていくんですよ。」
「そうなのか……?」
「ええ。母さんが全国に行ったお祝いをしようと。ここにいる不詳の息子は予選で怪我するし、予選で負けましたから。」
肩を竦めながら言う優君。内容が内容で、決勝で不甲斐ない試合をした1人としては困るんだろう。沢城君も何とも言えない顔をしている。
準備出来ましたと中学生の人が呼びに来た。
「鹿野先輩もよかったらどうぞ。」
優君がそう言って私を誘う。あまり遠慮するのもと思って一緒に入る。
足を冷やしながら藤堂君や馬原君とも優君の代表での話を聞いたりして仲良くなった。
全国に行けた話や全国で優勝した湊崎に力の差をまざまざと見せつけられたこと。でもその差を感じることができたのは大きい。ウィンターカップでは頑張らないと。
皆と学校前で別れて、家路につく。2人で話しながらだ。他愛ない話をしているけど、好きな人と一緒ってだけで楽しい。
家に着くと残念な気持ちが湧き上がる。もう少し話したかったなって。
家に入り、お風呂を済ませて晩ご飯になった。将史さんお手製の豚角煮と智さんの麻婆豆腐。山椒と花椒がテーブルに置いてあり、好きにかけて食べれる。それにスズキのお刺身と昆布締め、酢味噌和えが食卓に並んでいる。
角煮はホロホロでお箸で解れる肉としっとりプルプルの脂身が美味しい。醤油の濃い味付けがご飯に合う。茄子と獅子唐が素揚げで添えられ、味変的なので茗荷と大葉が刻んで置いてある。それで口がさっぱりして、更に食欲が増す。
麻婆豆腐は山椒の柑橘類のような爽やかで繊細な香りと花椒の華やかで強い香りと舌がビリビリとしびれるような強烈な辛みが食べ比べれる。どちらも一長一短あって美味しい。
いつも思うけど豪華なご飯だ。優君に聞いたらイギリスではこんなに豪華なご飯は滅多になかったらしい。私の為にこんな豪華にと思って聞いたら、爆笑された。
イギリスでは豪華にしたくても食材がなくて出来なかったらしい。それに税金や水道、ガス、電気なんかも高くて色々大変だったそうだ。生活費的なことを言ったら私を入れて4人でイギリスに居た頃と変わらないか日本の方が安いらしい。
日本って色々と恵まれてるんだなと思った。
食事も終わり、食後のお茶を楽しんでいる。デザートにはチーズケーキが出された。フォークで小さく切ってから口に運ぶ。
「美味しっ!」
美味しさに驚き、智さんと将史さん、そして優君に視線を向けると智さんと将史さんは笑い、優君はホッとしたような表情をしていた。
「それ、優が作ったのよ。千夏ちゃんの為に。」
智さんの言葉に“えっ!?”と驚き、優君の顔を見ると照れているのか首筋を掻いていた。
チーズとヨーグルトのケーキにレモンの爽やかさと酸っぱさ、多分レモンの皮も入れたのだろう。苦味がアクセントになっていて凄く美味しい。
「千夏先輩が酸いも甘いも、そして苦味も経験しただろうから、それを忘れないようにと。」
チラリとチーズケーキを見て、そして味を思い出す。目標にしていたインターハイに出場出来た喜び。そしてその舞台で勝つことが出来た嬉しさ。そして次の試合で圧倒的力の差を見せつけられての敗北。確かにこのチーズケーキのようだ。
インターハイが終わってからずっと考えていた事を言うのは今だと、申し訳ないけど智さんに話があると言うと、みんなが聞く体勢になってくれる。
「私にバスケを教えてくださいっ!」
「別に構わないわよ?」
えっ!あっさり。話終わっちゃった。
「でも千夏ちゃんの教えてほしいのって技術的なことだけじゃないよね?」
「はい………。チームとしての戦術から何から教えてほしいと思ってます。」
智さん。現役を退いてそのまま主婦業をしていたが3年前から日本に帰ってくる今まで、実はイングランド代表の臨時コーチをしていた。
優君がチームの遠征や合宿などで家に居ない時が多く、将史さんも仕事でヨーロッパ各地に出張が多くなったので、家で暇を持て余していたそうで、実業団の練習に参加した縁でイングランドのバスケ協会から仕事を貰ったそうだ。(優君に教えてもらった)
なのでその力を借りたいと思い、お願いしたらあっさり了承してくれた。
「なら頼りになるのが隣に座っているわよ。隣のは千夏ちゃんが負けた試合の分析をしていたから話を聞くといいわ。私個人は監督からも話があったから土日の練習で臨時コーチって形で参加させてもらうことになったから。」
「あ、ありがとうございます!!」
頼りになる味方が増えた。
お茶会を終えて、いつも優君が全身のストレッチやビデオを見ている和室に移動した。
机の上にノートパソコンが用意されていて、新品のノートと筆記用具が入った筆箱もある。
座布団を2つ並んで敷き、片方に優君が座った。そして隣の座布団に座るように促してきた。長くなるので足を伸ばして座るように言われたので大人しく伸ばして座る。
「なら始めます。先ずは試合スタッツです。各クォーターと1試合のになります。」
パッと数字だけ表示された画面を見ると、栄明と湊崎の数字に大きな差が出ている。シュート数、成功率、シュートブロック、リバウンド、パスカット、他の数値も軒並み湊崎の方が高い。
「千夏先輩と相手の大平選手との差がこれ。」
パッと個人の結果を表で見せられる。前半の2Qだけだけどしっかりと差をつけられていた。他の選手のもザッと見るとどの選手も負けている。後半で控えに代わった湊崎の選手との比較も勝ってる項目もあれば負けているのもある。トータルすると微勝、辛勝といったところで。前半の差を縮めるには全然足りていない。
「チームのは後日やるとして、千夏先輩個人のを振り返ります。」
開始早々のプレーから前半の、相手エースの大平さんとのマッチアップはボロクソに言われた。逆にそこまで注視して見ていなかった自身の力不足が露わになった。
利き腕と逆の方向の成功率の低さやある状況下になった時の癖を相手も私も指摘された。
一試合40分の分析を聞き終わったら10時を30分近く過ぎていた。9時過ぎに始めたから1時間半も経っていたんだ。
短所や欠点を無くして、長所や得意を伸ばす。短所や欠点が多いけど、それは伸び代が多いって事だ。まだまだ私は成長出来る。
それにしても優君の分析、本格的で凄い。
聞いたらイギリスで分析チームのプロと話すのが好きだったそうで、色々と教えてもらったそうだ。
数値、主観、客観、俯瞰と様々な角度からのアプローチで教えてくれる。私も指摘された事を振り返り、意見や質問をして情報の深度を高める。
終わるとドッと疲れていた。全身に疲労感を感じる。負けた悔しさが蘇った。出来たことが沢山あったのに出来なかった。そして相手との差がこれほど多くあると教えられ、落ち込んだ。
「また一から頑張りましょう。自分も手伝いますから。一緒に全国制覇、するんですから。」
自分も当然だけど、私の達成を無垢に信じている言葉と表情に私ももう一度気持ちを入れ直した。頑張らないと。
時期がずれた盆休みはアルファスタジオで身体を追い込む。そして整体や鍼灸で身体を整えて終わった。
千夏先輩もインハイ後に3日の休みがあったけど、結局体育館に来て自主練をしていた。本当に頭が下がる頑張りようだよ。
そして女子バスケ部新チームでの初練習の日、俺達サッカー部も1日練習を終え、岡本監督とこの後の代表スケジュールの調整や出席日数の確認をしてから帰路につく。
みんなは少し長くなるから先に帰らし、千夏先輩を体育館に迎えに行くとポツンと1人、ゴール正面のスリーポイントラインでボールを抱えて、三角座りをしていた。
一瞬声をかけるか悩んだが大切な人が何か悩んでいるなら力になりたい。そう思って声をかけるために歩を進めた。
練習後に監督に呼ばれた。体育館裏に行くとキャプテンもいた。話の内容は予想がついた。
予想が当たった。吉谷先輩が引退したから空いた副キャプテンを私にと云うことだった。
“お前なら務まると思って選んだ”という監督の言葉と“私がいるから”というキャプテンの言葉で“分かりました”という了承の言葉を紡いだ。
体育館に戻るとダウンと片付けをしている渚達同級生が戻った私に気付いて声をかけてきた。
「監督何だって?」
「吉谷先輩引退したから副キャプテンとして頑張れって。」
「やっぱり〜!」
「次期キャプテンは千夏だよね。」
「実力的にも申し分ないし、後輩からの信頼も厚い!」
「けど大丈夫?千夏そういうの苦手じゃない?」
渚が心配している。少し気遣うような視線をしているのが分かった。
「これでも前期クラス委員だよ!」
えっへんとリーダー気質があると偉そうな振りをすると、“じゃんけん負けただけでしょ”とツッコミが入る。
「たしかにプレッシャーはあるけど、……このチーム好きだもん。」
これだけはハッキリと言える。私はこのチームが好きで、このチームで勝っていきたい。
「よく言った!」
「付いて行きます!副キャプテン!」
「かっこいい!」
もうっ!調子がいいんだから。責任ある立場を任されたんだからもっとチームの為に頑張らないと。そんな事を思いながらみんなと話していたから渚が心配そうに私を見ていたのに気付かなかった。
「千夏は今日も居残り?」
「うん。もう少し色んな角度からのスリーを練習しておきたくて。」
「そっか。明日は朝から1日練習なんだから疲れ残さないようにね。」
「少ししたら止めなよ。ハードワークも良くないから。」
みんなからの忠告に返事をしながらボール籠を最初の位置に持っていく。左右、45度、正面と順にシュートを放っていく。
優君のように相手を想定して、ドリブルやシュートフェイントからポジションを移動してクイックシュート、スリーポイントラインから少し離れた所でと様々なパターンで行う。
最後に正面からで終わりにしよう。シュートを撃つ度に蘇る記憶。湊崎のエースの大平さんとのマッチアップ。一対一で最初に強烈なドライブで抜かれ、少し距離を空けたらヒョイとスリーを決められた。内、外と決められ、マークを厳しくタイトにしたら、更に大外からスリーを決められた。放たれたボールを見上げ、ボールの軌道を顔で追う。
ゴールに吸い込まれるように入ると驚いて大平さんの顔を見ると私に微かに笑ってみせた。
密着マークにするとチームの得点の為に囮やスクリーンで黒子としての役割もこなした。
2Q目が終わるとポツリと、“良い選手だけど、まだまだね”と私に聞こえるか聞こえないかの声量で言ったのだろうが、私の耳には強烈に響いた。
その嫌な記憶を振り払うようにシュートを放つと、ガンッとリングに当たってボールが返ってきた。そのボールをキャッチすると色んな感情が溢れてきてボールを抱え込み、座り込んだ。ギュッとボールを抱き締め、頭をボールに当てる。
すると不意に正面から声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
「……………ゆう、君?」
どうしてここにいるのかとか、何で今来るのかとか、私変な顔してないよねとか色々と考えが頭に浮かんでは消える。
固まったままの私の両足を挟むように三角座りで優君も座った。
「なにかありましたか?」
どうしよう……、言っていいのかな?私の方が年上なのにこんな情けない事。悩んでいるならと私の手をそっと触ってきた。
優君の顔を見るといつもの様に優しく笑っていたので決心がついた。
「今日ね、副キャプテン選ばれて………。」
言葉を濁した私に気付かれただろう。気遣うような声音で問いかけられた。
「大任ですね。」
「うん………。」
「嫌、か引き受けたのを後悔してるんですか?」
「っ、違っ!私が副キャプテンをすることがチームの為になるなら喜んでやるよっ!でも私個人でも成長しないとダメなのに、チームの事まで考えられるかなって………私で大丈夫かなって思って。」
「……………」
「私は智さんみたいな強烈なリーダーシップがあるとは思えないし、優君みたいに世界一の選手でもないから不安で………。」
キュッと私の手を優しく握ってくれた。
「俺は色々な年代でキャプテンをやらせてもらいましたが、上手くチームを纏めようなんて思った事はないですよ。そりゃあ上手く纏めれたら一番ですけど、技量も熱量も生活環境も違うチームメイトを纏め上げるなんて至難の業です。俺には無理ですよ。」
「でもチームメイトと仲が良くて、結果も残してきて………。」
私の言葉に深く頷いた。言いたいことは分かっているといったように。
「ある人に言われたんです。お前をキャプテンにするにあたって3つ約束を守ってくれ。一つ目は誰よりも声を出すこと。二つ目は誰よりも率先して、先頭に立ってやる事。三つ目は誰より勝利に貪欲である事。この3つをずっと24時間365日意識をしてやってくれと言われました。」
「…………。」
簡単なようで簡単じゃない。
「俺は千夏先輩の今の話を聞いて、女バスの監督も千夏先輩がそれに当てはまるから、今のままの千夏先輩に副キャプテンをしてもらうのがチームの為になると思ったから選んだんだと思います。」
「そう……かな?」
「そうですよ。それに千夏先輩が困ったら渚先輩や優香先輩、他の人達も助けてくれますよ。千夏先輩が困った時に見捨てるような薄情な人達ではないでしょう?」
「うんっ!それはもちろん!」
「なら何の不安もないですね。今まで通りか今よりも少し頑張ればいいだけですよ。」
「そっか。そうだね。」
優君のお陰で色んなモヤモヤが振り払われた。
「ありがとう、優君。」
素直な気持ちを伝えると、顔を伏せたと思ったら私の脇に手を入れて自分が立つのと一緒に私もグイッと持ち上げて立たせた。
「ボール、拾いますよ。どうせまだ練習し足りないんでしょう?」
呆れたような表情で言う優君に、“練習の虫は優君もでしょっ!”と言うと、ハハハと笑いながら“俺達似た者同士ですね”と朗らかに笑う優君の笑顔にドキッとした。
それから先生が止めに来るまで、優君は球出しとボール拾いをしてくれた。
次回の更新もアオのハコを予定しています。
誕生日回を予定しています。そこから文化祭の途中くらいまで数話アオのハコの更新をする予定です。
では次回の更新までお待ちください。