今回は文化祭前の一幕です。
ここらへんも原作を織り交ぜながらです。
来週、浦和ユースと関東2部リーグの公式戦が栄明で行われる。今の所、全部勝っているが、再来月に俺がU-20W杯で抜けている間に2試合ある。その試合の計算が難しいから俺が出れる試合は全部勝ちにいく。関東1部に上がるためにも。
土曜日の試合に向けて、ビデオで研究をする。
基本フォーメーションは3-5-2か4-5-1を軸にしているようだ。ダブルボランチと一人のFWが主力か。
このダブルボランチは攻守に躍動というより守備に偏重しているな。プレスやタックル、パスカット、ヘディングとどれも力強く、激しい。ただボールを奪取すると前の選手に簡単に預け、守備陣形を整える動きをする。
「攻守で分けてるのか?」
メモをとりながら映像を進める。FWが縦パスを受けて相手DFを背負いながらボールをキープする。そして味方が上がってくる時間を作る。
サイドにボールを流して攻撃を組み立てる。というよりは簡単にゴール前にクロスを上げてCFWに任せるか両サイドからの仕掛けを武器にしているようだな………ふむ、早送りして確認し、別の試合も確認する。
これは………、ふむ。浦和ユース、Jリーグのチームの下部組織なだけあって、選手個人のスキルや能力は高いがチームとして機能しているかと言われれば疑問だな。勝利への執念というか執着も皆無と言っていい。
こっちボールの時にボールホルダーに対してのプレスも甘い。特に此方サイドではプレスに行かない。センターラインを越えてから申し訳ない程度のプレスで、バイタルエリアが近くなってからが本番って感じだな。プロの試合でカウンター狙いのベタ引きのチームによくある戦術だが、このチーム、鋭いカウンターもしてこない。
よく分からんな。とりあえず明日にでも沢先輩に聞こう。元ユース出身の先輩なら何か知っているかもしれないし。
気になった事を書き綴っていたノートを閉じると、側に人がいるのに気付いた。
「千夏先輩……。声掛けてくれてよかったのに。」
「凄く集中していたから。」
時計を見ると10時にあと数分でなる。
「勉強始めましょうか。」
「うん。」
そう言って2人並んで座り、勉強を始める。いつの間にか横に並んで勉強をするようになった。最初は向かい合っていたけど、教え合うのに不便だねって事で並んでするようになった。
今日は英語をする。といっても英語に関しては俺は千夏先輩にマンツーマンで教える立場になる。文法を教えながら英会話もしてあげる。
勉強が終わってリビングに行くと、母さんと千夏先輩のお母さんが楽しそうに家事をしていた。キッチンで作り置きの料理を作っていたようだ。
「2人とも終わったの?なら早く寝なさい。明日も早いのでしょう?」
「分かってる。お休みなさい。」
「うん。お休みなさい。」
楽しそうな2人に挨拶をして、千夏先輩と2人2階に上がる。
「ではお休みなさい。」
「うん、お休み。」
冷蔵庫から飲み物だけ取って自室に戻った。
朝練が終わったから沢先輩に昨日気になった事を聞いてみた。
「ああ、それな。よくある話ではないけど、ちょくちょく聞く話だな。」
「ユースあるあるだな。」
沢先輩がある話だと言うと、紅先輩も乗っかってきた。
ちょくちょくある話なんだ。
「なんでそんな事になるんです?」
「あ〜〜〜、よく分からん。ただユースの選手はトップチームに上がるのを目的としているからチームの勝利よりも個人の活躍や記録を優先するからとか聞くけど、それが本当かは分からん。」
「ユースが選ばれた選手って云う環境も理由の一つになるかもしれないな。」
よく分からん。頭に疑問符を浮かべながら首を傾げると紅先輩が苦笑しながらも説明してくれた。
「お前のところほどではないにせよ、日本ではJ1の強豪クラブチームのユースっていうのは、一つのネームバリューなんだ。そこに入るにはジュニアから昇格か外部からならスカウトくらいしかない。つまり選ばれた選手が所属しているってことになる。」
「つまり俺達はプロ予備軍で上手い。だからプロのように戦う。ちょっと悪くいえばカッコつけた横綱相撲で勝とうとしてるんだ。」
「勝ててないじゃないですか。少しずつ落ちて今は関東2部の下位にいますよね?」
「それな。」
なるほど………、よく分からんけど理解はした。まあ、ユースの内部事情には興味ないからどうでもいいか。問題は次の試合に勝つ為に何をするかだから。
「ならいつもの様に戦って勝ちましょう。」
「「おう!」」
「ふっ!!」
しっかりと振り抜いたラケットがシャトルを捉え、向かいのコートに突き刺さった。
「「ありがとうございました。」」
試合をしてもらっていた先輩にお礼を言ってコートを後にした。額から流れる汗を拭い、顎を伝う汗はシャツの襟で吸わせた。
「大喜、めっちゃ上手くなってるじゃん!」
「イイ感じに力抜けてて、今までよりも伸び伸びしてるよ。」
「ありがとうございます。」
試合を観ていた別の先輩に褒められるも、嬉しさよりも……。
(自分的には全然手応えがない。確かに前より点は取れるようになったし、動きも良くなった。試合にも針生先輩以外なら勝てるようにもなってきた。だけど何だろう……この焦燥感)
「集合ーーーっ。」
監督が来て集合するように言った。皆がぞろぞろと集まる。
「前から調整してたんだが、土曜日に練習試合が決まった。」
「相手は何処っすか?」
「そう急かすな。――相手は佐知川高校さんだ。」
「まじ?」「やった。」
先輩達の喜ぶ声の中、俺の中でボヤケていたピントが合ったような気がした。この前、力の差を見せられた遊佐くんとどれくらい力の差があるのか。開いたのか縮まったのか、今一番身近で分かりやすい同学年の選手。
「でも兵藤さんいないしな〜。」
引退した2年連続インハイ優勝者の兵藤がいないのを惜しむ声。
「3年生が引退したとはいえ、層は厚い。来年のインハイも佐知川さんに勝たないと出場出来ないと思え。」
「「はい。」」
そうだ。来年、遊佐くんに勝たないとインハイ本戦に進めない。勝たないと―――。
コツンと頭に何かが当たって意識が戻った。当たった右側を見ると変な顔をした針生先輩がいた。
「なに、緊張してんだよ。どうせ一回負けてんだから捨て身で行けよ。」
「針生、フォローになってないぞ〜。」
「フォローしてないから。」
「頑張ります。」
針生先輩に思い詰めていたのを見透かされた。全国に行った針生先輩や鹿野先輩。全国3位になった雛。U-17日本代表に選ばれた横川、U-21にまで選ばれている優。
一方の自分は県予選で負けてしまった。一人置いていかれている疎外感、自分だけ何もなし得ていない。それがこの気持ち悪いぐずぐずとした嫌な感情なのか。
彼に、遊佐くんに勝つことで目標であり、目的地である全国が見えてくる。そんな気がする。
「大喜聞いたよ。」
アップのランニングで体育館上の通路を走っていると後ろから話しかけられた。
「土曜日練習試合だって?」
「走るか台本読むか話すかのどれかにしろよ。」
ゆっくり走っているとはいえ、その全てをしながらとは器用な奴め。
「このほうが効率いいでしょ。運動しながらの方が暗記には良いって聞くし。」
「器用な奴だな……」
「土曜日は新体操部休みだけど劇の練習で学校に来るし、その時間だけ応援来たげるよ。」
「いいよ。ただの練習試合だし。」
そんなわざわざ劇の練習を休んで来るほどのものじゃあない。
「でも重要な試合なんでしょ?」
「そうだけど。」
「前に大喜が負けた相手だって。」
そういや雛観に来てくれてたんだった。
「そんな相手だったら黄色い声援が必要でしょ?」
黄色い声援って。言い回しが古いな。
「それに好きな人の頑張ってる姿は見たいもん。」
「っ!?いきなり何を言って―――!!」
体育館で誰が聞いているかも分からないのにっ!?バッと後ろを付かず離れず走っている雛の方に振り返ると、そこには顔を真っ赤にした雛がいた。
「急に振り返らないでよ!前見て走らないと事故るでしょ!」
パコパコと台本で俺を叩いてくる。振り返るなって、あんな事を背後から言われたら誰だって振り返るって。
「痛っ痛っ。分かったって。」
もう…そんなに痛くはないから雛の気が晴れるまで我慢しよう。
いつもの様に如月家で豪華な朝食を食べて、優君と朝練に向かう。好きな気持ちを意識するとどこか嬉し恥ずかしい気持ちになる。隣を歩く彼の横顔を眺めていると、その視線にすぐに気付き優しく微笑み、“なんですか?”と尋ねてくる。
それに言葉を窮し、当たり障りのない話題や質問をしたりする。彼のアスリートとしての意識の高さ、レベルの高さ、知識の豊富さは勉強になることが多い。
競技は違うけど同じ長方形のコートでするスポーツということで参考になる事が多い。
学校に到着すると荷物を置いて、お互いに頑張ろうと声をかけて体育館前で分かれるんだけど、今日は体育館から“キュッ、キュッ”と音がする。優君が気になったのか一緒に体育館の中を覗くと男バドの猪股君が一人シャトルを使わずにスマッシュの踏み込みやジャンプをして素振りをしていた。
優君が笑ってから中に入っていった。
「大喜、おはよう。」
「えっ!?優、おはよう。」
集中していたから私達が来たのに気付かなかったようだ。
「今日は早いな。聞いたよ。佐知川高校と練習試合をするんだってな。」
針生君もヤル気になっているから私も知っている。来年も埼玉で全国への障害になるのは佐知川だろうって。
「少しでいいなら球出ししてやるよ。」
“余ってるラケットある?”と聞いている。猪股君がいいのか?と聞いて、優君がいいよと答えると余っているラケットを優君に渡す。籠からシャトルを取り出し、高く打ち上げる。
猪股君がステップを踏んで高く跳び上がり、力強いスマッシュを放った。
「踏み込みのタイミングとスマッシュの角度をチェックしてんのか?」
優君の質問に驚いた表情を浮かべる猪股君。多分この練習の目的を一瞬で察せられたからだろう。こういった洞察力が優君は特段に優れている。
「別にこの練習するのはいいけど、色々な角度や位置からもしないと意味ないぞ。そこからだけスマッシュする訳じゃないし。」
「分かってる。もう何球か打ったら手前や奥、左右に振ってもらうつもり。」
そんな彼らを見ながら私も練習しないとと思い出し、ボールを取りに行った。
朝練が終わり、クラスに行くとクラスメイトと挨拶をして自分の机に荷物を置く。数人の女子が何故か私の机に来た。
「鹿野さん。次の土曜日にサッカー部が浦和ユースとリーグ戦があるんだけど、ケーキ作りのお礼といってはなんだけど如月君の応援に行こうって話になってて。」
「え、あ、うん。いいんじゃないかな?」
「で、鹿野さん達も行かない?」
私や渚、優香も誘っているようだ。まあ、このクラスで仲が良いってなると私達が一番近い距離にいるだろうし。
「午前練だからいいよ。」
私はOKを出し、渚と優香はどうするか聞くと2人も行くと言ってくれた。優君にバスケの分析をしてもらい、それを監督に話して、チームに伝えている。強くなる為に協力してもらっているから応援しか出来ないけどしたいそうだ。
パァン!とコートに刺さったシャトルが音を鳴らす。俺が打ったスマッシュが決まった。
審判をしてくれていた同級生が俺の勝ちと言った。
「大喜、何食ったんだよ!また上手くなってんじゃん!」
「何も食ってないよ。」
まだまだ全然足りない。課題がたくさんあり過ぎる。
「大喜、是非とも俺と試合を………。」
「逃げようとするな。負けたらプランク5分だろ。」
目の前でプランクをしている西田の背中にシャトルを積み重ねる。“倒れたらやり直しだからな”と伝えると信じられないものを見たような顔をする。
ラスト1分。………終わり。伝えるとべしゃっと体育館の床に伏せった。
「けどここは勝ちが続いている彼の鼻を折ることも大事なのでは。」
「大丈夫だろ。勝っても満足してなさそうだし。周りからの評価が上がっても、自分が納得いかないことってあるんだよな。」
「練習だってしっかりやって上手くなってるのに。」
自分の理想と今の位置の差に藻掻いているのだろう。
「佐知川の一年に勝ちたくて自分の中でハードル上がってるんだろう。成長が実感出来ない努力なんてしんどかろうに。」
今ライバルの佐知川の一年との差がどうなったのか、自分は追いついたのか離されたのか分からないから変な感じになってんだろうな。
「そういうならアドバイスしてやれよ。」
西田が少し心配そうな感じで言ってきた。こういった所が部長になった理由だろう。だが………。
「ヤダよ。俺だって来年のインターハイ2枠争ってるんだ。後輩にはしんどい思いしてもらわないと。」
「大人気ね〜〜。」
言ってろ。アイツはなんだかんだ伸びてくるさ。あの如月が認めているからな。まあそれが高校か大学かその後かは分からんが。
ぐっ!右側をシャトルが抜けていった。21-11で2セット目も取られて負けた。1セット目も21-13と良い所がほとんどなく取られた。どうにかしようとしたけど出来ずに終わった。
他の人には勝てるのに針生先輩には負ける。それも前よりも点数が開いている………。
やっぱり課題が多すぎる。スマッシュもレシーブもカットも精度を上げられるはず。もっともっと上手くならないと。
遊佐くんは俺よりずっと上手かった。
「大喜。自信のない奴の羽根は俺には効かんぞ。」
ハッとした。どうすればいいか、色々と迷い、悩んでいる俺の思いを見透かされたように思った。
コートから出て、手洗い場に向かう。バシャバシャと顔を洗う。
汗だくの顔が幾分かスッキリするが、気持ちはスッキリしない。濡れた顔を拭こうとタオルを探すも掛けておいた場所にタオルがない。手を彷徨わせているも感触がない。
「はい。」
パサッと頭に何かが乗せられた。この声は―――
「雛。」
となるとこれはタオルか。タオルで顔を拭く。ふぅ、顔の水気がなくなって気持ちいい。
「ありがとう。」
「いえいえ。………なんか鬱屈としてるね。」
さっきまでのプレーを見ていたのだろう。
「成長の実感が得られないから………俺はどこまで行けばいいのか……どこまで進んだのか分からなくて…………。」
「分かる。分かるよ。」
ジメジメとした気持ちをどう表現、言葉にしていいか分からず、言葉を探しながら言うと、ウンウンと頷きながら気持ちが分かると言う雛がいた。
本当かよという気持ちとこのどうしょうもない苛立ちというか焦燥感というかどう言えばピッタリか分からない思いを理解してくれたことに驚きといい解決法でもくれるのではという淡い思いがある。
「大喜もいよいよそこに来たかって感じ。登山でいう山頂への残り2、3割って感じだよ。ドンドン上手くなる成長の頭打ちっていうか鈍化、それによる一時的な相手との差の拡大に苦しんでいるんだと思う。」
「……………。」
成長しているのかしていないのか悩んでいる俺には何とも言えない内容だ。
「大喜も成長が一定のペースで続くとは思ってないでしょ?速くなったり遅くなってり、止まったりする。その足取りが重くなっり停滞期に入ったんだと思う。」
「今の俺にのんびりしている時間なんて……っ!」
「こういったのって登山道のない山を登るようなもので、大喜がどうこう出来るものじゃないよ。これって一定のレベルになれば出てくる問題だから。針生先輩も如月君も経験してると思うよ。」
「でもそれじゃあ差が縮まらないじゃないかっ!?」
上手くなれない自分、順調に成長出来ない自分に苛立ち、逆ギレな感じで雛に当たってしまった。ハッとした時には遅かった。雛がどうこう出来る問題じゃないのに彼女に当たった。
「今までと変わらず頑張るしかないよ。するとふとした時に道が見えるから。」
本当かよという視線を向けると、雛が肩を竦めて笑う。
「雛もそうだったのか?」
「そりゃあね。大喜も成長感じられなくてしんどいだろうけどいつかはその霧も晴れるから。だから頑張って。私は大喜のこと応援してるから。」
「そっか………ありがとう雛。」
「うん、応援してる。頑張れ大喜。私も頑張るから大喜も頑張ろ。」
「うん。」
こんなに身近に、ここまで応援してくれて寄り添ってくれる人がいる。彷徨っていた俺に休む止まり木のような、砂漠を歩く俺に休むオアシスのような。
「はいっ!」
そう言ってポカリを渡してきた。
「何か話したかったら聞くからさ。」
「ありがとう。」
雛になら迷いを話せる。雛は心配して傍で見ていてくれる。俺が不安を吐露しても嫌な顔一つせず聞いてくれる。雛になら俺は素直になれる。
雛の向日葵のような明るさ、向日葵のように真っ直ぐなところ、向日葵のようなエネルギーに満ちたところが俺の力になっている。
こんなに俺に好意を向けてくれていて、俺に寄り添ってくれる雛の告白を保留している。いずれ答え出さないといけない。
よく考えて、少しでも早く答えを出そう。
「ちー、お疲れ。」
カレー作ったるクラスにカレーを貰いに行った西田を見送ると逆にちーが此方にやってくる。そんな彼女に労いの言葉をかけると彼女も返してくれる。
「お疲れ様。」
「バスケ部は夜練?」
「ないけど文化祭の方で残らないといけなくて。」
みっちり練習した後に、クラスの方にも参加するのか。
「よくやるよな。部活も忙しいだろうに。ホントにストイックだな。花恋もよく言ってるわ。」
「そんな事ないよ。」
「毎朝朝イチに来て、練習してる時点でストイックなんだよ。」
「それは私以外にも来てる人がいるよ。バド部の猪股君も来てるし、優君なんて私が起きる1時間前には走り込みしてるし、勉強以外の時間は全てサッカーに注ぎ込んでる。」
「如月はプロフェッショナルで、大喜はストイックじゃなくて真面目なんだよ。」
「どう違うの?」
不思議そうに聞いてくる。
「ちーはSで、大喜はMだ。如月は人生をサッカーに賭けている。他にも楽しいことや面白いことがあるのに、それをサッカーに捧げている。プロフェッショナルというか信仰に近いのかもな。大喜はさ、勝てない奴がいて、そいつを目標にすると、出来ないことばっかりに目がいって、自分を褒められなくなるんだよ。そんな砂漠を水無しで進むようなこと……しなくていいのにな。」
もっと色々とやり方があるだろうに。そんな苦行をする必要ないのに。
「真面目に課題に向き合うあまり、水分補給を忘れてるのかしないんだよ。」
全く、バカな奴だ。手摺りに寄りかかってため息を吐く。
「まあ新体操部のあの子が大喜を色々と気にかけているから少し安心したけど。」
それにあの子は特別な子だ。大喜より先に行った経験者だろう。今の大喜にどうすればいいかも分かっていると思う。
「私も早く進みたいって気持ちは分かる。水分補給をしてても諦める人もいる。でも先に進むには足を動かし続けるしかないんだよ。立ち止まったらどこにもいけないし、どうにもならないから。」
前と比べて強くなったな。頼もしくなったというか自分の中にどっしりとした柱が出来たみたいだ。
「だな。……さてと、俺も夜練に行こうかな。」
「頑張ってね。」
俺の後ろ姿に頑張れと声をかけられたので手をヒラヒラと振って応える。
「針生君。」
場を離れようとしていた俺に背後から呼び止められた。話は終わったと思ったのに。後ろを振り向くと少し可愛く笑っている。
「そんなに心配なら水を差し入れしてあげたらいいんじゃない?私も私を心配してチームメイトや大切な人が色々としてくれるよ。針生君も後輩が心配ならしてあげないと。それも先輩の務めだよ。」
何くれとなく大喜を心配する俺がいつもの俺と違って面白いのだろう。
「俺が欲しいくらいだよ。」
そう返して、その場を離れた。
体育館に向かい、直通で繋がる扉を開けようとしたけど方向を変えた。体育館の中に入ると座り込んだ大喜の後ろ姿を見つけた。
「大喜、あのさー……。」
後ろから声をかけると振り返った。カレーを食いながら。
「カレー食っとるんかい!!」
「西田部長がくれて。」
「しかもアイツかよ!」
ここで邪魔するのかよ、西田。
「いい部長ですよね!」
「練習しようと思ったけど匡誘うわ。」
「ちょっ!待ってください!」
全く心配して損した。さっきまであんなに張り詰めてたのに幾分か柔らかくなっていた。あの子と何かあったのか?
「あ、その水くれません?カレー辛くて。」
「やるかっ!」
「いいじゃないですか〜!」
全くコイツは………、大物になるよ。
次もアオのハコの予定です。
浦和ユース戦と佐知川との練習試合を書く予定です。
次はスパン空くと思うのでのんびりお待ちください。