長くなったので分けます。佐知川高校との練習試合(大喜と遊佐くんの話)は次話になります。
他の作品が完結したり、停滞するとドキッとしたり、哀愁を感じたりします。
完結した作品の作者にはお疲れ様でしたと心から思います。
自分はのんびりと全部完結まで無理なく頑張ります。
感想やお気に入り、UAやランキング、高評価はやる気と励みになります。
つらつらと適当に書きましたが、読んでくれる人がいるのがやる気に繋がるので頑張りますってことです。
朝練が始まり、9時から午前練習が始まった。アップも終わっているので早速ハードに練習をする。
智さんが今日から臨時コーチとして参加する。ジャージにサングラス、髪を纏めていて、威圧感や存在感がバリバリある。
スリーメン(三線速攻)を行う。腕を組んで私達の練習を見ているけど、やっぱり元日本代表キャプテンに見られているというのは緊張している。
「遅いっ!もっとスピード出して!相手いないのにのんびりしないっ!」
智さんから厳しい言葉が飛んできた。
「「「「「はいっ!!」」」」」
30分近くやって次のメニューにいく。その前にも厳しい言葉が飛んでくる。
「私が激を飛ばして速くなるなら最初からやれ!あんた達湊崎に勝ちたいんでしょ!?ならもっと高いレベルでやんないと!」
「「「「「はい!」」」」」
次は3対2。スリーメンのディフェンスが2人いる版だ。智さんというより優君が分析をしてくれ、そこで浮き彫りになったのは一瞬数的有利、不利が出来る。そこで確実に得点を稼いだ湊崎と半分を止められるかディレイされてチャンスを失った栄明の差だった。
「たらたら攻めてる時間ないよ!素早くパスを回してフリーを作る。」
「「「はい!」」」
キビキビと皆が動いている。攻める時間も決まっていて、ちんたらしている暇がない。代わる代わる入れ替えて動き回る。
「10分休憩。」
皆がハァハァと荒い息を整えようとし、乾いた喉を潤しにいく。
下半身の強化、ハードワークやフィジカルコンタクトの激しいメニューを消化すると皆がへたり込んだ。
私も両膝に手を付き、荒い息を整えようとする。
「最後に紅白戦をしましょうか。チーム分けは―――。」
レギュラー組の名前に私や渚、優香、キャプテン、それと一個下のあかりが呼ばれた。新チームとしてまだ試す段階だけど期待している子が呼ばれた。
「Bチームは―――。」
4人呼ばれた。あと一人足りないと皆が思ったら、サングラスを監督に渡した。えっ智さんがプレーするの!?皆も驚いたのかざわついている。Bチームなんて一緒のチームで戦う事になって嬉しいのもあるけど、凄い緊張しているのがみえる。
「リードするから思い切ってやりなさい。」
Bチームに声掛けしながらビブスを纏う。コートに入ると雰囲気がある。ここらへんは優君と似ている。いや、優君が似ているのか。
ティップオフ。渚が身長差で勝ったと思った瞬間、智さんがボールをカットし、ワンマン速攻でレイアップを決める。そこからはレギュラー組の実力差を活かして攻め、控え組は智さんが試合を組み立てる。スリーやドリブルで得点を積み重ね、マークを厳しくタイトにするとパスで周りを活かす。
第1Qは19-21と僅差でリードを許した。
智さんはゼェゼェと息を乱している。
「大丈夫ですか?」
「もう40も半ばよ。無理に決まってるでしょ。」
グビリと飲み物を一口飲んで、タオルで汗を拭いている。
「そんな事より私が入ったくらいで控え組にリードを許しているレギュラー組の不甲斐なさを少しは恥じなさい。もっと勝つことに飢えなさい。点を取ることに、シュートを決めることに。また冬も同じように負けたいの?」
怖いくらいに強い視線を向けてくる。こんなものなの貴方達のあの夏の悔しさはと言われている。
キャプテンが喝を入れ、心に火が灯った。
そこからはレギュラー組の意地を見せる。インハイが終わってから取り組んでいるセットオフェンスを駆使しつつ、攻める。控え組も智さんが攻守に躍動し、周りを活かし自分も活きるプレーをする。第2Qは48-46と逆転した。
“このまま勝ち切るよ!”と言われ、私達も力強く返事をする。
ただ気になるのは智さんが此方をチラチラと見ながら控え組に指示を出している事だ。一抹の不安を抱きながら第3Qが始まった。するとすぐに違和感を覚えた。此方の攻撃が上手くいかなくなった。得点は重ねているけど、さっきより鈍くなった。そして向こうは変わらず着実に得点を積み重ねていく。
智さんがラストにスリーを連続で沈め、リードを更に広げられた。
第4Qも少しずつリードを広げられた。結局、89-76と大きく広げられた。
智さんはガシャンとパイプ椅子に崩れるように座り込んだ。
そして集合をかけた。智さんを中心に半円になって集まる。
「なんでレギュラー組が後半押されたか分かる?」
分からない。周りを見回してもキャプテン、渚、優香も困惑顔で周りを見ていた。
「貴方達が苦手なプレー、成功率の低いプレーをするように穴を作って守っていたの。例えばキャプテンは45℃を越える深い角度のスリーは成功率が極端に落ちる。鹿野さんは左のドリブルが甘い。そして左側からのシュートの成功率が右と比べてガクンと落ちる。」
続いてボードを使って説明を始めた。
「船見さんはゴール下で、このパターンの時は外を使いたがる。他にもこのパターンは無理にシュートに行っても成功率が低い。荒木さんはタイトに守備するとスリーは撃たずにパスを回りてしまう。シッカリとフリーの状態を作れないと打ちにいかない。」
他にも幾つかというより、沢山のダメ出しをくらう。
「そもそも私が喝を入れてプレーが変わるってどういうことよ。常日頃からそのプレーをしなさい。また同じになりたくないなら常に高みを目指し、登り続けなさい。そして自分にも相手にも厳しく、高いレベルを要求し続けなさい。」
「「「「「はい!!」」」」」
次にさっきの紅白戦で気になったプレーを振り返りながら指導してもらった。色々と改善しないといけないし、レベルアップしないといけない。個人もチームもまだまだ伸び代があると言われた。
最後に私にはエースとして頑張れと。キャプテンはチームを引っ張れと、渚はチームの柱になりなさいと、優香は周りを活かし、自分も活きなさいと、あかりは死に物狂いで喰らいつきなさいと。
朝練をし終えると、9時から控え組の紅白戦を行われている。
葵や渡、湊はCチームで参加している。Bチームは選手権予選に向けてアピールの場と張り切っている。
でもCチームで葵、渡がいるから最終ライン、ボランチで落ち着いて回せている。
Bチームが前からプレスしてクロップリヴァプールみたい。Cチームはペップバルサの前3人いない版みたい。
Cチームはパスを散らせる渡と最後の最後に預けれる安全地帯として機能している。
やっぱり来年あの2人は主力になるな。栄明の全国制覇に向けて戦力になってくれるだろう。
湊も結構やる。基礎体力はあるし技術もそこそこ。あとは勘がいいのかポジショニングもそこそこ合っている。
最終的にスコアは2-1でCチームが勝った。渡が蹴った直接FKを葵が頭で合わせて先制し、後半2列目に上がった渡の飛び出しに葵がロングパスで合わせ、一対一をきっちり決めてリードを広げた。
Bチームは後半ロスタイムに入る前にコーナーからのゴール前の混戦を押し込んだ。
両チームがクールダウンをしている間に、レギュラー組はアップを開始する。少しずつ上げていると、今日の対戦相手の浦和ユースがきた。
赤と白のジャージを着ている。ピッチに礼をしてから入ってきた。そしてアップに移るようだ。
あと幾らもしないうちに試合が始まる。地元の強豪クラブチームのユースとなれば熱心なファンが応援に来ている。
ピッチの沿った道路に赤いユニフォームを着た人が何人もいる。こういった所はイギリスと変わらないな。向こうも熱心な人は観に来てくれていた。
「ユウく〜〜〜ん!!」
すると道路の方から俺の名前を呼ぶ声が響いた。
「おっ、今日も優女が来てんじゃん。」
絶対に横にいる人の方は見ない。からかっているのが分かるから。最近テレビで特集されたり、雑誌やネットでも取り上げられているからか練習や練習試合、公式戦を観に来る女性がいる。俺の特集を見てファンになった人が観に来るようになった。それを沢先輩を中心に2年生が“優女”(優を観に来た女性)と呼称するようになった。
公式戦は場所や時間がサイトに載っているから観に来れるし、学校終わりの練習もだが、相手校での練習試合も観に来た時はちょっと怖かった。
ピッと笛が鳴り、アップを終えるように指示が出た。もう10分程で試合が始まる。着替えて準備をしないと。
ベンチに戻ると千夏先輩達が此方に向かってきているのが見えた。
上のシャツを脱いでユニフォームを着る。いつもの様にスパイクの紐を締め直し、ソックスやレガースも調整する。その際、ミサンガに触れて今日も無事に試合が終わるように祈る。
「「「「「頑張れ頑張れ栄明!頑張れ頑張れユ〜ウ!」」」」」
すぐ近くから応援の声がする。しかも聞き覚えのある声だ。
千夏先輩や渚先輩、優香先輩の他にもこの間ケーキ作りを教えた先輩達も観に来てくれていたみたいだ。
少し深く頭を下げて礼をしてからヘアバンドを付けて臨戦態勢に入る。
最後のミーティングをする。フォーメーションは攻撃時は4-3-3、守備の時は4-5-2でシッカリとWGは下がって守備もしてもらう形になった。
相手は4-4-2っぽいな。スタメンの面々を見るに。
サイドラインのセンター外からピッチに入って整列する。紅先輩を先頭、2番目が俺、3番目に横、最後尾に沢先輩だ。
相手選手、審判と握手をして円陣を組む。
「今日の課題は分かっているな。それをちゃんと取り組む。いいな?」
「「「「「「「「「はい!(おうっ!)」」」」」」」」」
「行くぞ、ワン、ツー、スリー!」
「「「「「「「「「オウッ!!」」」」」」」」」
掛け声と共にピッチに散った。
試合が始まった。栄明ボールで最終ラインでゆっくりとボールを回している。相手の浦和ユースは全員が自陣にいる。結構後ろにいる。あれでいいのかな?
最終ラインはペナルティエリア、サイドとボランチの選手が2本目の守備ラインを形成している。
FW2人も引き気味でプレスに行かないようだ。
渚が弟の湊君を呼んだ。フェンス越しだけど傍に来てくれる。
「何試合か栄明の試合見たことあるけど、珍しい立ち上がりじゃない?」
「まぁ、浦和はこういうチームだから。」
渚の話では湊君は地元は地元でも浦和のライバルである大宮のジュニアユースにいたそうで、何度も練習試合、公式戦問わず戦ってきたから他の人よりは多少詳しいらしい。
「高校年代ってまだまだ技術的には未熟だし、人によっての差が大きいし、若くて体力がある前からプレスして相手のミスを誘発させたりするのが主流っていうか………泥試合みたいな取って取られての試合にするんだよ。クリアや相手陣地のゴール前で競り合いをしてワンチャンを狙うみたいな。」
うん、何試合か優君と映像を見たけどそういった試合のほうが圧倒的に多かった。
「でも浦和はそういったのはしようとしない。自分達のスキルを使って上手く試合を作ろうとする。」
栄明が最終ラインがセンターラインを越えてきた。ボランチも高い位置にいるし、優君も。
流石に優君をフリーにはしない。ボールが入るとダブルボランチが厳しくチェックに行っている。
それを気にする素振りもなくボールを捌く。少しずつ栄明のボール回しが速く、細かくなってきた。
「そろそろ来るよ。」
紅林先輩から優君に縦の速いパスが入る。ダブルボランチがマークに来るも、その前にボランチの人に落とし、中に絞った左サイドの選手にパスが渡る。中に切れ込む動きをして、相手が中を警戒すると、更に大外からオーバーラップしたSBの選手にパスをする。深く進んでからクロスを上げた。
と言っても上手くミートしなかったのか変なクロスになり、相手にクリアされる。それを横川君が競って、優君がマイボールにする。今度は逆から攻めようと沢城君にパスをして、中に切り込むと見せて深く抉っていく。3人がペナルティエリアにいる。優君もペナルティラインで待っている。
優君へのパスを選択したと思ったらスルーして、背後から上がってきていた紅林先輩が強烈なミドルを放ったが、DFに当たってコーナーになった。
連続攻撃で相手に息をつかせる暇もない。外にいる観客も“おお〜〜〜!”と歓声を上げ、見応えのある攻撃を見せた栄明に拍手を送る。
コーナーを蹴るのは勿論優君だ。小走りでコーナーに向かうと、“ゆうく〜〜〜ん”と黄色い声援が飛ぶ。それに軽く頭を下げてお礼を示すと、“キャーキャー”と喜ぶ声が飛ぶ。
嬉しいけど面白くない気持ちになる。
優君は私のそんな気持ちもなんのその、ボールをセットして両手を上げた。左手が1本で右手が4本に見える。
「今栄明が取り組んでいる成果が見れますよ。」
湊君もそのプレーを見逃さないようにジッと見ている。バスケの動きに似ている。競り合いやマークマンのファールにならないギリギリの妨害。
右足でゴールに向かっていくボールを蹴るようだ。スッスッと前に入る動きや前後ろのフェイントをしている。
優君が蹴った瞬間、キーパーがボールをキャッチかパンチングしようとゴール前から離れた。キーパーが飛ぶもボールがカーブすることなく真っ直ぐライナーで奥に飛んで行ったので触れることが出来なかった。そして何故かそこにフリーでいる横川君が高い身長とジャンプで高い打点を活かした強烈なシュートをぽっかりと空いたゴールマウスに決めた。
ゴール前でみんなにもみくちゃにされて祝福を受ける横川君。コーナーで優君も小さくガッツポーズをしている。
「今栄明は優さんの類稀なキック精度を活かした武器を準備していってるんだ。優さんの直接FKは言わずもがな、コーナーなんかのセットプレーのバリエーションを増やす事に力を入れている。優さんが世代別代表で抜けても、来年はキック精度が高い渡が入るし。」
私達もセットオフェンスに今力を入れている。武器は多い方がいい。そういう意味では一緒なんだろう。
浦和は先制されると慌てて前がかりに攻撃をしてくる。といっても連携のとれた効果的な攻撃ではなく、単発で終わりのモッサリとした攻撃だ。
ただ個人の能力は高いから偶に得点が決まることがあるから面倒で困る。
今もコーナーになった。栄明は沢城先輩以外は全員が下がって守っている。優さんも引いている。
相手の10番がコーナーを蹴った。相手と競り合いながらもキーパーがキャッチすると、間髪入れずに前方にスローイングする。スゲーな。スローでハーフライン近くまで飛んで行った。
そしてそこに走っているのは当然優さんだ。キーパーがキャッチすると思った瞬間には前方に走っていたんだろう。
ここらへんの見切りが凄く早い。そして後方から来るボールをダイレクトでシャペウで一人を軽々と躱す。
そして落ちてきたボールをシザースで一度跨いでからアウトサイドでボールを斜め前に押し出して躱した。
と思った瞬間にはセンターラインから低く強烈なシュートを放っていた。キーパーはペナルティエリアの外に出ていたからゴールは無人だけど、あの位置からあの選択肢が出てきて、それを選択するなんて。
ぽっかりと空いたゴールにボールが吸い込まれた。マジでヤバすぎるよ、この人は!
いつものゴールパフォーマンスを此方に向かいながらして、次に膝スライディングをしてから狙撃銃を撃つポーズをした。
姉ちゃん達がそのカッコいい姿に射抜かれて、やられてるのを見て苦笑してしまった。姉ちゃんのそんな姿を見ることになるとは思わなかったし。
そこからは試合の主導権を握った栄明のターンの連続だった。
優さんを起点とした組み立てから攻撃。優さんを囮とした攻撃と変幻自在、硬軟織り交ぜた攻撃を展開する。
ファールをしようものなら間接、直接関係なく、距離の長短も左右場所関係なくチャンスボールを入れてくる。
前半ももうすぐ終わりという時に、優さんが緩急を使ったドリブルで相手を2人抜き、フリーになった沢城先輩にラストパスを出す。それをダイレクトで撃とうとした沢城先輩を浦和の5番が押し倒した。
笛が鳴る。PKだ。PK取った沢城先輩が蹴ると思ったら優さんにボールを渡している。何か一言二言言い合っている。多分優さんは沢城先輩に蹴っていいですよと言っているんだろう。
折れない沢城先輩に折れた優さんがボールをセットする。ゆっくりと助走して相手GKの動きを見る。そしてキーパーが倒れ込んだ反対側にボールを蹴り込む。
これで3対0か。少しして前半終了の笛がなった。ここまでは盤石の試合運びで安心して見ていられた。ピンチもなく、相手にシュートを撃たずに終わったし、マイボールにし続けた。
ボール支配率も80%を超えているだろう。それくらいセカンドボールへの寄せも速く、相手の自由を奪い続けた。
ゴール前を固めている相手に苦戦している。後半15分くらいになったかな?スコアは3対0のままだ。
最後の最後でキーパーが防いでいる。あのキーパー、反射神経パネェな。横も上もバネがあるし、前への寄せも上手い。
浦和の中ではキーパーが一番良い選手だな。
俺の得意な角度45°からのシュートも止められてるし、FKも防がれた。
SBのクロスをパンチングして弾いた。結構遠くに飛んだ。FWの元にボールが渡った。カウンターになるかも。そう思ってFWにプレスをかけにいく。
チィッ!紅林先輩と挟み込んでボールを栄明ボールにする。下がり気味でフォローの体勢に入っていた横にボールを預ける。相手のFWが横にプレスに行くも、俺も紅先輩もパスコース作りに動いていたから紅先輩にパスするフリをしてから俺に縦パスを入れる。あの2人はやっぱり落ち着いて一つ一つ丁寧にやるな。それよりも問題は………、ベンチで険しい顔をしている監督に指をクルリと回し、合図をする。
すると直ぐに動き出す。ベンチにいるマネージャーがアップをしている選手の方に走っていった。
これで少しはチームに緊張感が出るだろうな。
あれ?ベンチ前で選手交代の準備をしている。サッカーはバスケと違って交代したら出れなくなるし、交代枠があるのに。
「あそこのサボりを重くみたんすよ。」
湊君の発言に全員が湊君の方を見る。
「さっきのカウンターの時に、ダブルボランチがサボって帰陣せずにトップ下の優さんが全速でプレスバックしました。それを重くみたんですよ。」
あのプレー一つで…………。
「多分フィールドにいる栄明の選手は勿論、ベンチやベンチ外の選手もなんで交代するか分かったはずです。チームの引き締めやチームとして規則や約束事の徹底の為の懲罰交代です。」
「「「「「……………」」」」」
「さっきのは“出来なかった”じゃなくて“やらなかった”。それを問題視しているんです。紅林先輩も沢城先輩も、勿論優さんもそれに沿ってプレーしています。サボることも緩むこともなく。」
栄明サッカー部が急激に強くなった一端を見た気がした。
正直、世界一の優君のバフで強くなったと思っていたけど、それも数ある要因の一つでしかないようだ。
「当然、俺や葵、渡も栄明に入ったらそれに沿ってプレー出来なければ出さないし、出られない。それはハッキリと言われました。」
険しい顔で、真剣な面持ちで試合を見る湊君。
ちょっと前までは楽しくプレーしていた湊君が勝つために、トップレベルで戦うために、世界と戦うために、世界で戦うためにを意識してサッカーに取り組み始めたのが分かった。
「優さんは高校卒業後、直ぐにプレミアに行くって言ってます。葵や渡も海外で勝負するって。なら俺も行けるなら行きたいって思ったんです。」
そっか。将来の、先の目標、目的が出来たんだ。
「は〜〜〜、あんたそんなとこまで考えるようになったんだね。エロい本や動画観ていたエロガキから偉い成長―――。」
「―――っ!?それは今関係ないだろっ!?」
「「「ぶふぅっ!!?」」」
渚としては常日頃の生活から知っている弟が一人のプロを目指すアスリートに代わって感心したんだろうけど……確かにそのくだりは関係ないね。
優君が縦パスを受けると同時にマークについてる相手を躱しにかかる。相手は右から躱しに来た優君を防ぎに行くも、鋭い切り返しで逆を突かれる。それに喰らいつくも再度の切り返しにバランスを崩して振り切られた。もう一人が優君の脚ごと刈りに行ったスライディングをして止める。ファールの笛が鳴った。イエローが出るも相手は不満なのか審判に何か言っている。
沢城君が審判に食って掛かっている相手に激怒して何か激しく言っている。沢城君は普段は冷静なのに、サッカーになると熱くなることがあるようだ。
何故か悪質なファールをされた優君が宥めている。
バスケみたいにボールを指先で回転させている。スッとボールを置くと、此方をチラリと見たのに気付いた。そして小さく親指と人差し指で銃を撃つポーズをした。
大きく息を吐き、周りの空気が変わったように感じた。あ……決まると思った。
ゆっくりと助走し、ボールを擦り上げるように蹴る。壁は4枚、高く跳び上がり防ごうとするもボールは意に介さず、それを越えていき、上隅を射抜いた。キーパーは一歩も動けず、顔だけでボールの行方を追い、そして吸い込まれるのを眺めているしか出来なかった。
負けていても熱い応援をしていた浦和ユースのサポーターも、優君を応援しに来た優女の人達も、私達も静まり返る一撃だった。
短かったのか長かったのか分からないけど、間があってから我に返った審判が笛を吹いてゴールを認めた。
そこからは櫛の歯が欠けたように集中を欠き、ポロポロと浦和がミスをする。ショートカウンターのような形で何度も何度もチャンスを作るも、最後の砦として試合終了まで立ちはだかった。終了間際に優君が混戦模様のゴール前を縫うようなグラウンダーのミドルを決め、5対0で勝利した。
試合終了後の諸々を済ませ、帰っていく浦和ユースを見送るとピッチに戻ってきた。
「今日の試合、勝てたけどやってはいけないミスがあった。自戒の意味も込めて罰走を全員でしよう。」
優君が言うも、ミスした奴が(ミスした奴だけが)やればいいじゃんというのが透けて見える。
「一人のサボりがピッチにいる他のみんなに行く。それが分かっていたらサボるなんて出来ないはず。でもそれがあった。」
だからやろう。連帯責任でと。
「……っ〜〜〜くっそっ!やるか!」
沢城君が葛藤しながらも賛同したことで動き出した。
“しゃあ〜〜〜!”、“くっそが〜〜〜!”、“あ〜〜〜あ〜〜〜”と皆が思い思いに叫びながら走り出した。先頭きって走るのは優君で、他の人が手を抜けないように歯を食いしばり、全力で走っている。
マネージャーからの“頑張れ〜〜!”といった応援の声と“ほら、走れ走れっ!”、“ダッシュ!ダッシュ!”と嗾ける岡本先生の声が飛ぶ。
終わると皆へたり込んで荒くなった息を整えようとしている。
そこからは片付けとダウンを手分けして行い、解散となった。
優君との帰り際に、“ちょっといいですか?”と途中にあるコンビニに入っていった。私も一緒に入るべきか悩んだけど、“ちょっと”と言ったからすぐに戻ってくると思い、大人しく外で待つと1分程で出てきた。
「買い食い?って言うのを聞いて、ちょっとやってみたくなって。」
照れ笑いを浮かべながら、手に持ったアイスのパッケージを開ける。そして2本セットになったアイス(ホワイトサワー味)を切り離して、一つを私に差し出した。
「いいの?」
「美味しいものは分けて食べるともっと美味しいですよ。」
笑いながら言う優君がいつもと違って可愛くて、その様子に更に惹かれていくのが分かる。
“うっま。つめて〜”ともう口をつけて食べていた。そんな様子にフフッと笑ってから私も食べる。冷たくて美味しい。2人並んでアイスを食べながら下校する。まるでデートみたい。
今日の試合の話や文化祭の話をしているとすぐに家に着いてしまった。もう少し話したかったなと思いながら一緒に家に入る。
「お帰りなさい2人とも。晩ご飯の準備、もうすぐ終わるから早くお風呂に入ってさっぱりしてきなさい。」
「お帰りなさい千夏、優君。」
智さんだけじゃなくてお母さんもいる事がなんか不思議。
リビングにホットプレートと大きな鍋があり、中が見える。側に市販の麺とざく切りの野菜と豚肉もある。
どうやらお好み焼きと焼きそばがメインのようだ。
「ほら、優は焼いてもらわないとダメなんだから。」
智さんの急かしに苦笑しながら、“はいよ〜”と返事をする。
「荷物片付けて風呂にしましょう。」
「うん。」
優君に誘われて動く。優君が先に入り、続いて私が入って、上がりリビングに行くと、先に始めているようだ。
智さんとお母さんがビールを飲みながらお好み焼きを食べていた。優君と私の分は今焼いているみたい。
焼くのに時間がかかるから先に食べてもらっている。“やれやれ”みたいに肩を竦めながら言う優君に笑ってしまう。
優君と私の分のお好み焼きをクルリとひっくり返す。いい色に焼けている。
「上手いわね、昔の智と違って。千夏も優君くらいに料理が出来るようになってくれたら………。」
智さんだけじゃなくて私にも飛び火してきた。
「千夏先輩も練習すればすぐに上手くなりますよ。母さんでも上手くなるんですから。」
“うっさい!”と言った後、足の指を押さえている。どうやら優君の脛を蹴ったが逆に負傷したみたいだ。
此処に来て良かった。毎日が楽しくて仕方ない。楽しい食事が続いた。
次もアオのハコの予定です。