あんなの見せられたら胸にくるものあるよね。頑張っちゃうよね!
二期も楽しみすぎる!!
幾つか高校名出してますが、実在の高校は出す気が無いので同じ名前の別の高校と認識して下さい。
駅から歩いて数分のスタジアムに向かう。何なら電車の中からも見えるし、駅から出ても見える巨大な会場だ。
周りに日本代表の青いユニフォームや今回出場する選手が所属プロチームのユニフォームを着ている人が大勢いる。
この人気、熱気は日本では野球位だろう。
周りの会話が聞こえてくる。誰々が凄いや活躍してほしいと云った内容だ。中には優君を日本で見れる事を喜ぶ声もある。
同居人で知り合いがそんなにたくさんの人に応援される立場にいることを嬉しく思うと同時に羨ましくある。
「どうしたの、ちー?さっきからコロコロと表情を変えて?」
渚がからかうような口調で話しかけてきた。
「いや知り合いがこんな大舞台にいて、プレーするなんて凄いな〜って思って。」
そんな話をしているとスタジアムの前に着いた。皆に正面スタンドの入り口に行くことを伝える。
ぞろぞろと連れ立って歩くと見えてきた。入り口にスーツを着た女性が1人立っているのが分かった。彼女も此方を確認出来たのだろう。話しかけてきてくれた。
「鹿野千夏様御一行でよろしかったでしょうか?」
「は、はい。」
私が返事をすると頷いてチケットを確認させて下さいと言われたので、バックに入れたチケット袋を取り出して渡す。
ざっとチケットを確認し、此方に視線を向ける。多分人数を確認したのだろう。
「確認が取れました。如月選手ご招待の鹿野様ですね。先ずはお部屋にご案内します。ついてきてください。」
そう言ってスタジアムに入り、最寄りのエレベーターに乗り最上階で降り、部屋に案内してくれた。
「コート等の上着とお荷物は此方にどうぞ。」
そう言ってクローゼットを開けてくれた。順番にかけていく。
「お部屋のご案内をさせて頂きます。先ずはあちらにはドリンクバーがあります。ソフトドリンクにソフトクリームがあります。ファミレスと一緒ですので入れ方の説明は省略してよろしいでしょうか?」
尋ねてきた内容をみんなに視線を向けると頷いたので、次の説明をして下さいと促した。
「ありがとうございます。次にフードメニューですが如月選手からおにぎりとサンドイッチを三人前ずつ、パーティー用オードブル五人前を前もって注文されており、此方になります。」
テーブルに置かれたカバーを取ると美味しそうな軽食が用意されていた。お腹が減っているから歓声があがる。
「他に欲しい食べ物があれば此方の端末でご注文頂けます。スタジアム外に販売されているスタジアムグルメ。通称スタグルもご注文出来るようになっております。ただ外の販売所に並んで買い、持ってくると云う形になりますので、どうしても注文を受けてからの到着時間が掛かりますし売り切れの場合もございます。そこはご容赦下さい。皆様は全員未成年と伺っておりますのでアルコールメニューの方は消させていただいております。ご理解下さい。注文に関しては説明は終わりましたが、何か質問等はありますでしょうか?」
松本さんの問い掛けに、皆が周りを見回して確認し合う。特に質問はないみたいだ。それを察した松本さんが次の説明をし始めた。
「観戦ですが、あちらの扉から外の席に出ることが出来ます。椅子に備え付けの双眼鏡もありますので、必要に応じてお使いください。飲み物、食べ物を外に持ち出すのは問題ありませんが下は観客席になっておりますので、くれぐれも落としたりなさらないよう気を付けて観戦をお楽しみください。お手洗いに関しましては外に出られて左手になります。以上で一通りの説明を終えさせて頂きます。何かご質問はございますでしょうか?」
再びの問いに皆も特に何も無い。
「何かございましたら入り口のルームフォンを取られますとスタッフルームに繋がりますので、必要に応じてお呼び出しください。それと此方は如月様からユニフォームのプレゼントになります。」
そう言ってテーブルに置かれた段ボールを開き、中には入ったユニフォームを一人一人に手渡してくれた。KISARAGIと名前が書かれた10番の背番号が入ったユニフォームだ。
「もうすぐスターティングメンバーの発表がございますので、外か此方のテレビでご覧ください。では失礼します。」
そう言って一礼し、去っていく。キビキビとしていて仕事人と云った感じだ。
みんなにどうするか聞くと、折角スタジアムに来たんだし外で見ようと云う意見になったのでコートを着て外に出る。
するとU-19の紹介が始まった。今回は身内同士の強化試合ということで格闘技みたいな選手紹介をするみたいだ。
所属クラブや大学にどんな選手かをポジションと名前、背番号に入れながら紹介していく。
一人一人キーパーから順番に紹介されていく。それが終わるとU-17の紹介が始まる。8番目に優君の紹介が始まった。
『イギリス、欧州で席巻したあの男が帰還!付いた渾名は“ジーニアス”、“ギフテッド”、“ファンタジスタ”と彼の活躍を讃えるものばかり!今日も私達に君が描く魔法を魅してくれ!』
スタジアムの歓声が大きくなる。正面の大型モニターにユニフォーム姿の優君が映った。腕を組む姿や咆える姿が映されている。普段着や練習着とは違う雰囲気で、まるで別人のようだ。
『ミッドフィールダ〜〜〜。ユ〜〜〜〜ウキサラギ〜〜〜。バックナンバー10!』
太鼓や笛の音が大きく響いた。そして“キサラギ、キサラギ、キサラギ”と合唱がされた。
選手紹介が終わり、寒さから一旦避難ということで室内に入り、皆が好き好きに飲み物を取りに行ったり、優君が用意してくれた軽食を摘んだり、食べ物を注文し始めた。部活が終わって汗の処理だけして直ぐに来たからお腹が減ったのだろう。
試合開始までもうすぐだ。
夕方にスタジアムに入り、練習着のままピッチに入り練習をする。何人かのU-19の先輩が挨拶してきたので挨拶を返す。
身体に異常がないか感覚に狂いがないかを丁寧にチェックする。どうやら今日も問題ないようだ。それどころか千夏先輩に頑張れと応援してもらい、観戦もしているのだ。気合いが入る。
そろそろ控え室に入って着替えろと指示が飛んだので皆がぞろぞろとピッチから引き上げた。
上下を着替え、スパイクを履き直して紐も締め直す。一種のルーティンというやつだろう。使い慣れたレガースも装着し、愛用のヘアバンドを着ける。香水を一振し、戦闘準備完了といったところか。
スタメン組の準備が終わると、エスコートガールを務めてくれる高校生モデルの方々が部屋に入ってきた。
俺の前に千夏先輩の親友で紹介してもらった守屋花恋さんが来てくれた。座っていた席を立ち、その席に座るように勧める。
「守屋花恋です。今日はよろしくね、如月君。」
「此方こそよろしくお願いします。」
互いに握手を交わし、共通の話題の千夏先輩の話をする。まもなく試合が始まるので関節周りを動かしながらになるが。
「ちーの親友として頼むね。千夏をよろしくお願いします。」
最後に真剣な表情でお願いしてきた。恐らく4月から本格的に始まる同居についてだろう。その思いを感じた俺は力強く頷き、約束した。
「彼女の願いが叶うように最善を尽くす事を約束します。」
「ありがとう。よし頑張れ、如月君!」
背中をポンと叩いてきた。激励のようだ。
監督が試合前のミーティングをしようと言ってきたので、全員で円になった。選手だけじゃなくモデルの人もトレーナーやコーチ、スタッフもだ。最終確認なので数分で話は終わった。
「ゲームキャプテンは如月。ほらっ。」
そう言ってキャプテンマークを放ってきた。それをキャッチし、腕に巻こうとする。それを見た花恋さんが着けるのを手伝ってくれた。監督、コーチ、主要なメンバーに頼む言われ、最年少の俺がキャプテンを務めている。色々と思う事はあるがチームを前に向かせる、引っ張れると言われて断れなかった。
「キャプテン、一言。」
監督が俺に何か話せと促す。
「はい。相手は上のカテゴリーだ。普通の人なら俺達が負けると見てくるだろう。でもそんなの関係ない。俺達はいつも通り勝ちにいくだけだ。ベストの、最高のプレーをして、来てくれたお客さんや家族に良い試合を観れた、最高の一日だったと言ってもらえるようにしよう。」
周りをグルリと見渡すと、選手は闘志に満ち溢れた顔になっていた。闘う男の顔だ。
掛け声を出す前に、モデルの人達に教える。
「見に来てくれてる家族やお客さんの為、そして何より自分自身の為に、最高のプレーをしよう。行くぞ!ワン、ツー、スリー!!」
『『『『『『『『『オオオォォォ〜〜〜!!!』』』』』』』』』
力強く上がる声に頼もしさを感じる。さあ、行こう。
入場ゲートに向かうと、入り口にU-19の先輩が先に着ていた。年明けに半月も遠征で一緒だったからあまり懐かしいとか思わないがお久し振りですと挨拶をする。
“今日はよろしく”とか“手加減しろよ”何て言ってくる。勿論冗談だろうが。
「上の世代と仲良いんだね?」
仲良さそうに話していると守屋花恋さんが尋ねてきた。
「年明けに半月程欧州遠征で一緒にいたので。」
「じゃあ、あっちに選ばれてないのは?」
ああ、U-19の方にも参加してるのに17の方に参加してるのを不思議に思ったのか。
「戦力の均衡化の為に此方の年代にも入ってる俺は17に参加することになったんですよ。」
そんな話をしていると進行役のスタッフがやってきた。
「間もなく入場で〜〜〜す。準備お願いしま〜〜〜す。」
その声で皆が動き出し整列する。守屋さんに手を差し出すと、何故か彼女は笑いながら手を取った。
音楽が流れ始め、外からは太鼓や拍手の音が聞こえ始めた。
「さぁ行こ〜〜!!」
『おう!!』
俺と19のキャプテンが檄を飛ばすと、後ろに並んだチームメイトが気合の声で返ってきた。
そして歩き出す。前を歩くこの試合のレフェリー達を先頭に進んでいく。
この瞬間が俺は好きだ。気持ちが身体が高揚していく、興奮していく、燃えてくるのが分かる。
両チームが日本代表なので国歌斉唱は一度で終わった。
「なんか気持ちが高揚していくのが分かるよ。実際に私が試合するわけじゃないのに。」
「分かりますか?これから闘うんだぞって徐々にボルテージを周りが上げてってくれる。この環境が俺はたまらくなく好きなんです。次も代表に選ばれたいって思っちゃうんです。」
「分かるよ。その気持ち。」
セレモニーが終わり、下のカテゴリーの俺達が移動して、対戦相手と握手を交わしていく。モデルの人達も一緒に進んでいく。全てが終わり、ベンチ前での写真撮影をするために移動しようとすると守屋さんに“ちょっと”と呼び止められた。
「私の事花恋って呼んでよ、次からは。英国育ちならファミリーネームよりファーストネームの方がなじみがあるでしょ?代わりに私も優君って呼ぶから。」
「分かりました、花恋さん。」
おっとそういえばと思い出した。
「彼処のVIPルームに千夏先輩達がいますよ。手でも振ってあげましょうか。」
そう言って指差した。一番上の席を。
花恋さんは手を振り、俺は手を上げ、握った拳を突き出した。
「では行ってきます。」
そう伝え、花恋さんから離れた。
「優君、頑張れ!応援してる!」
背後からの応援の声に、後ろを振り向きながら応援の声にサムズアップで応えた。
「ありがとうございます。」
さあ、試合だ。行こう!
『さあ、間もなくキックオフです。笛が鳴りました!トップの川添がボールを大きく下げて最終ライン近くにいる如月に渡ります。それを左サイドバックに流し、落ち着いた立ち上がり。U-17のフォーメーションは4ー3ー3。バックが4枚の中盤がダブルボランチにトップ下。前線が3枚になります。解説の柴崎さん。注目選手は誰でしょう。』
アナウンサーの解説を軽食を摘みながら聞く。
『それは勿論トップ下で攻撃のタクトを振るう如月選手です。パス、ドリブル、シュート何でも出来ますし、両足使えます。この手の攻撃的選手に有りがちな守備をしないなんて事はなく、積極的にパスコースの制限やプレス、競り合いにも参加し守備陣を助ける献身性もあります。』
解説の人ベタ褒めだな。まあ確かにアイツには欠点が無いと言って差し支えない能力だと隣で真剣な表情で観ている沢城が言っている。
『如月選手の欠点みたいなものは無いのでしょうか?』
意地の悪いアナウンサーなのかそんな事を聞いている。
『欠点ですか?まあ、あるとすれば彼が抜けることによる戦力ダウンが大き過ぎるということですかね。彼のいるいないを纏めたU-17、19の勝率データがありますがどちらも大きく開いています。プレースキッカーも務める彼が柱としてドンといることが相手へのプレッシャーにもなりますが、いないと中盤にポカンと大きな穴が空きます。代わりの選手が入るのでしょうが、欧州でNO.1プレイヤーとして名が売れた彼の代わりを求めるのは、どうしても厳しいでしょう。』
解説の人が丁寧な口調で如月を論評している。隣の沢城が頷いている所を見るに事実なのだろう。
『そんな如月選手ですが、この冬に日本に帰国し、埼玉県の栄明高校に進学すると前所属のチーム並びに本人から発表がありました。』
栄明の紹介が入り、女子が盛り上がっている。まあ確かに母校が全国に紹介されるのは何処となくむず痒くもあり、恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
『埼玉県と云えばサッカー激戦区としても有名で、浦和学院、私立浦和、所沢工業、佐治川が4強として君臨しています。栄明が如月選手を擁してそこに割って入れるか今から楽しみです。試合に話を戻しましょう。』
アナウンサーが話を今行われている試合に戻した。
『ボランチがマークを一瞬外した如月に強いパスを入れる。それを右でトラップし、クライフターン!一人躱す。もう一人がすかさずフォローに入るがダブルタッチで華麗に突破!』
『上手いですね。一人目をマークする相手に近い足でトラップすることで足を出させ、躱しながら流れるように切り返しをクライフターンで行う。簡単に見えますが高等テクニックですよ。二人目も抜かれた一人目を見て慌ててフォローに入りましたが、それもダブルタッチで丁寧にいなして躱しました。』
解説が驚嘆の声で褒める。
『さあ〜〜〜、如月がフリーで前を向く。如月が前を向いた瞬間に前の3人が動き出す!誰を使うのか如月!おっと中央のスペースに左でスルー!トップの川添がタイミング良く抜け出した!』
『川添フリー!何でも出来る状況だ〜〜〜!あ〜〜っ防がれた!!!』
一瞬で興奮から落胆の声になるテレビの解説。
『もったいないですね。完璧なタイミングでの抜け出しに合わせたスルーパス。ダイレクト、ループ、キーパーを躱す、何でも出来た状況でしたから迷ったんだと思います。トラップして利き足に切り替えてコースを狙いましたから、その分だけキーパーが間を詰める時間がありました。そのせいでシュートコースが狭くなり限定され防がれたというわけです。』
「おっし〜〜〜〜い!!」
西田がビッグチャンスに興奮している。女性陣も盛り上がっているようだ。
「すご〜〜い!」
「パパっと二人抜いたよね!」
そんな事を言いながら盛り上がっている。
『あっと如月選手、川添選手に詰め寄ってます!指を指して言い募ってますね。あれは怒ってるんですか柴崎さん?』
『いや〜〜、あれは打つ前の一瞬の躊躇を指摘してるんだと思います。何でも出来る局面だったのに一瞬選択になやみましたから。どんなスポーツでも一瞬一瞬の局面が勝負になるものです。それを勝負所で悩むのは………次に期待しましょう。』
テレビに川添選手に言う事を言い終わったのか胸に拳を当てて下がっていく姿が映っている。
彼処まで拘っているのか………代表で活躍しているのは知っていた。ウチの高校に入ってくる世界のトップを知る期待の新人だって知って、色々と調べた。幸い映像が沢山あったので彼の躍動する姿を観ることは出来た。どれもどんな時も真剣にプレーする姿でサッカーをやっている時は、それ以外の事を考えていないのが分かった。
俺はインターハイに出たい。優勝したい。何より佐治川の兵藤さんに勝ちたい。彼に勝つのがインターハイで優勝する為の一歩だと思っている。もっともっと自分を高める必要があるな。今日は来て良かった。必死にやっていると思っていたが、まだまだな部分がある。それに目を向ける事が出来た。俺はまだ強くなれる。
目の前で優君が躍動している。さっきのプレーで相手の二人が厳しくマークしているのでボールにプレーに中々絡めずにいる。
どうするのか心配していると、バッと急に右に走り出した。後ろの選手が浮いたロングボールを送る。それを後ろ向きでトラップし、ボールを前を塞ぎに来た相手選手の後ろにしながら抜く。
フリーになると同時にゴール前に右足で低く早く鋭いボールを入れる。ゴール前で一人反応した選手が頭から飛び込んでヘディングで決めた。スタジアムが一瞬静寂に包まれ、爆発したかのような歓声が起こった。
さっきビッグチャンスを外したからかゴールを決めた選手が喜びながら優君目指して走り寄っている。アシストをした優君は決めた選手を指差している。飛び上がり抱き着いてきた選手を優君は抱えながら喜び合っている。
喜び合っている姿は家で見る優君だ。年相応の姿だ。駆け寄ってきた他の選手達とも握手やハイタッチを交わし、得点を喜んでいる。
一頻り終わると手を叩いて気持ちの切り替えを促しているのだろう。大きな声を発しているのが分かった。周りの選手も頷きながら顔が変わる。世代別とはいえ代表に選ばれる選手だからオン・オフのスイッチが直ぐに切り替わる。
リスタートする為に歩いて戻っている優君が不意に此方に顔を向けた。目が合うのが遠くても分かった。家で見る優しげなフワリとした笑顔を浮かべながらガッツポーズをした。私も嬉しくなってガッツポーズを返した。
前半も半分が終わり、U-17がボール保持率が圧倒的だ。隣の針生も静かに見入っている。
「押されているな、U-19。」
隣の針生がポツリと呟いた。
「ああ。多分、さっきの如月の裏への2本のパスでバックラインの腰が引けたんだ。あんなに見事に綺麗なパスを通されたら仕方ないと言えば仕方ない。」
「中盤の底を守るダブルボランチは如月が自由に動くのに合わせてマークに付くからバイタルエリアがポッカリと空く。それをカバーするのにトップ下とサイドハーフがケアしに下がるから攻め手がないか……………。」
サッカーを観るのが好きって言ってたけど目の付け所が鋭い。
「如月がさっきサイン出してただろ?あれはフォーメーションの変更だな。両サイドバックがサイドハーフまで上がってダブルボランチの一人がバックラインに入ってる。簡易的だが3ー1ー3ー3になってるな。といっても一人前線に残ってるトップのケアがセンターバックで足りてる状況だから下がらずに上がる事も多いが。」
相手のU-19もゴール前に強固なブロックを敷いているので中々ゴールをこじ開けられずにいる。サイドハーフの位置に上がった右サイドバックがペナルティエリア外からドリブルで中に切り込むと堪らずU-19のサイドバックが足を引っ掛けてしまった。ゴールまで25メートルといったところか。
如月がボールを拾ってセットする。左で蹴る為の助走をした。
「沢城、如月って右が利き足だよな?」
「ああ、右の方がコントロールが利くって言ってた。けど力が入るのは左だって言ってた。」
仁王立ちの如月に王様としての風格を感じる。トップの選手達とやり合ってきて、その中でトップクラスになった選手がアイツだ。そんな奴が栄明に来た。クラブチームで上のカテゴリーに上がれなかった俺からしたら親の出身校で強い方を選んだなんて巫山戯た理由で進学先を決めたアイツに含む所があったが、短い期間だが毎日の過ごし方を見て、“ああ、俺とは違う”と思わされた。
レベルの違いもだが意識の高さ、質の高さ、練習量の多さに圧倒された。自分を高めることに余念がない姿勢に感嘆した。
年下だが俺はアイツから多くを学び、レベルを上げてプロになる。他の高校やクラブチームの奴らには出来ないアドバンテージを活かして成長する。
先ずは活躍して全国に出る。そして全国制覇だ。アイツがいて出来なければ俺らのせいなんだろう。そう心に思い定めて高校生活を送ろう。
目の前のテレビで如月が助走を始めた。力強く踏み込んだ右足を軸に左足を振り抜く。ボールは壁のあるニアではなくファーサイドの上隅を速く鋭く小さな弧を描いてゴールに吸い込まれた。
スタジアムがその見事な軌道を描いたフリーキックに大歓声が起きた。室内にいる俺達にガラス越しの歓声が聞こえる。テレビではゴールを決めた如月が斜め下45℃に手を広げてジョグをしながら風を受けるポーズをしている。そして最後に胸元でガッツポーズをする。アイツのゴールパフォーマンスだ。
西田が“すっげ〜〜〜”って声を出し、女性陣は感嘆の息を漏らしている。
「マジでアイツがいて全国行けなかったら俺らのせいだな。」
真剣な口調で言った俺に皆の視線が集まるのが分かった。俺が目をやると針生は目線を逸らし、普段おちゃらけている西田も顔を横にして上手く吹けてない口笛を鳴らし、ノリの良い船見も黙っている。他の誰も俺の言葉に対して何も言わなかった……………。
前半終了の笛が鳴り響いた。天を仰いで大きく息を吐いた。あれだけ攻め立てて、結局2点しか取ることが出来なかった。相手は押されっぱなし、此方は攻めっぱなしだったのにだ。喜んでいる味方に多少の苛立ちを感じながらのピッチを後にした。
通路を通りロッカールームに入ると“いいぞ、いいぞ”、“このまま勝っちゃうんじゃないか”と浮かれた空気が部屋を占めていた。シャワーを浴び、着替えを済ます。後半に向けて準備する。寒いからこういうケアは馬鹿にできない。それを一通りすましても、まだ馬鹿騒ぎしている先輩に腹が立った。
「まだ終了のホイッスルは鳴っていない!いい加減浮かれ気分は止めろ!」
怒鳴るような口調で叱責すると、浮かれた空気が霧散した。
「勝って終わらなければ何の意味もないだろう。今勝っているだけでまだ終わっていない。」
全員が静かに俺を見ている。温く緩んだ空気が無くなった。戦術の細かい修正点や後半の相手の戦い方や此方の戦い方の話しをする。監督からもそれでいい。気合いを入れて戦い、勝ってこいとエールをもらう。
「行くぞ!ワン、ツー、スリー!!」
『『『『『『『『『オオオォォォ〜〜〜!!!』』』』』』』』』
あと残り45分、さあ行こう!
次はSEEDです。
続き気になる方もいると思いますが、その後に銀英伝かアオのハコになります。
どっちも良い所で区切ったから拙作の読者に申し訳ないです。