ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第10話 緊張

 スーツに身を包んだ技術部門主任、財務調整官、そして秘書──彼らの振る舞いは一見洗練され、礼節を保っているように見える。

 

 だが、その背後に控えるレッドガン部隊の二人が、この場の空気を完全に変えていた。

 

 そして、迎え撃つ惑星封鎖機構──その最前線に立つのはグレイ執行上尉。

 

 鋭い視線を交わす両陣営。

 彼らの間には、まだ一発の銃弾も交わされていない。

 それでも、この場の緊張感は既に極限に達していた。

 

「コーラルの特性は周知の通り」

 

 グレイの瞳が冷たく光る。

 

「極少量であろうと、現物の譲渡は、断じて認めない」

 

 封鎖機構にとって、コーラルの現物譲渡は一切の妥協を許されない問題だ。

 コーラルは自己増殖する。「微量」だろうが「極小」だろうが、管理が破綻すれば、封鎖の意味は完全に崩壊する。

 

 惑星封鎖機構の最終判断を担うシステムに意見を仰ぐまでもなく、答えは明らかだった。

 

「これは決定事項だ」

 

 システムの決定を遵守し、惑星封鎖という崇高な使命を全うする執行隊員の意思が揺らぐ事は決してあり得ない。

 

 ひりつく緊張感の最中、交渉団の奥からくつくつと笑う声が響いた。

 

 G5──イグアスが、面白がるように肩を揺らしながら歩み寄る。

 

「へぇ、強情なもんだな」

 

 彼は鋭い笑みを浮かべ、腕を組んだ。

 

「こっちはちょっとした研究用のサンプルを頼んでるだけだぜ? 何をそんなに怖がってんだ、封鎖機構さんよ」

 

 その挑発に、封鎖機構のパイロットたちが静かに身構える。

 無意識に手が武器に伸びかける者もいた。

 

 イグアスはそれを見て、さらに愉快そうに笑う。

 

「おいおい、そんなに警戒すんなよ。まさか、こんなところで撃ち合いでもするつもりか?」

 

「そのつもりはない」

 

 グレイは静かに答えた。

 

「が、必要であれば排除する」

 

 その冷徹な言葉に、場の空気が凍りつく。

 

「……へぇ」

 

 イグアスの笑みが、獣のように鋭くなる。

 

「やってみるか?」

 

 イグアスの一言が、決定的な「火種」となる──そう思われたその時。

 

「G5イグアス。やめてください」

 

 静かながらも、確固たる声が響いた。

 

 青年パイロット、G13が一歩前に出てイグアスの肩を止める。

 

 彼の顔には明確な警戒と、「無駄な衝突は避けるべき」という理性があった。

 

「これはあくまで交渉任務です。あなたのようなエースが前に出れば、余計な緊張を招くだけです」

 

 その一言に、イグアスは少し意外そうな顔をした。

 そして、次の瞬間、彼は肩をすくめ笑う。

 

「はは、ひよっこ、そうかよ」

 

 彼は一歩退く。

 

 だが、その目はまだ爛々と光を宿していた。

 まるで、いつでも飛びかかる準備ができているかのように。

 

 封鎖機構側のパイロットたちは、ハンガー奥にあるLC待機エリアに視線を移す。

 全機体は今すぐにでも戦闘態勢に移行できる体制が、整えられていた。

 

 もし戦闘が始まれば──ベイラムの交渉団は即座に壊滅する。

 G5やG13がいたとしても、彼らはたった二人。

 レッドガン部隊とはいえ、生身で、たった2人で、この戦場を制することは難しい。

 

 それを理解していたからこそ、技術主任は苦笑いしながら、静かに言葉を選んだ。

 

 LC部隊は、ただの量産兵器ではない。

 ACを凌駕する性能を持ち、企業のエースパイロットすら抑え込む戦力として設計された機体群。

 

「分かりました、執行上尉殿。我々はデータのみを受け取る」

 

「賢明な判断だ」

 

 グレイは静かに言った。

 

「交渉は、以上だ」

 

 ──こうして、惑星封鎖機構とベイラム・インダストリーの緊張は、一時的に収束を迎えた。

 

 しかし、それは単なる小休止にすぎない。

 

 イグアスは、最後にもう一度LC部隊を見渡し、不敵な笑みを浮かべる。

 

「この借りは、そのうち返させてもらうぜ?」

 

 LC部隊のパイロットたちは、彼の言葉を無視した。

 

 だが、彼らの戦場での再会が、決して平和なものにならないことは、誰の目にも明らかだった。 

 

 

 

 

 

 数日後、衛星軌道基地──

 

 張り詰めた交渉が終わって、一時の平和が訪れた。しかし、基地内には未だ緊張が残っている。

 

 ベイラム・インダストリーの交渉団は、基地の管制区の一部に一時的な滞在を許可された。彼らは表向き、封鎖機構との技術的協議を進めるための準備を整えているという立場を貫いていた。

 

 だが、それはあくまで表向きの話に過ぎない。

 

 G5イグアスとG13、二人のレッドガン部隊のパイロットもまた、交渉団の護衛という名目で基地内に留まっていた。

 

 彼らの滞在に対し、惑星封鎖機構の執行部隊は一様に警戒を強めている。

 

 彼らは交渉のためにここにいる。だが、戦場に立てば、確実に敵となる存在でもある。

 執行上尉グレイの指示により、LC部隊は交渉団の監視を兼ねた基地内警備に当たっていた。

 

 621とエリオットも、LCパイロットとして基地の各所に配置され、交渉団の行動を記録し、不審な動きがあれば即座に報告する任務を負っていた。

 

「まったく、気が休まらねぇな……」

 

 エリオットは、腕を組みながらハンガーエリアに立ち、遠くの交渉団を眺めていた。

 

 彼の視線の先には、ベイラムの技術者たちが、提供されたコーラル研究データを端末で分析している様子が映っている。

 

「データだけで満足するとは思えねぇ。お前もそう思うだろ?」

 

 エリオットは隣で電子雑誌を読み込む621に問いかけた。

 

 621は無言で端末を操作し、簡潔に「了解」の信号を送る。エリオットは苦笑しながらも、その端末の画面を覗き込む。

 

「なになに……『あの灼けた空が呼んでいる〜シュナイダーの空力変態職人〜』……お前な、封鎖機構の基地でACの雑誌なんか読むな。それより、こっちを監視しろ」

 

 呆れたエリオットが621の端末を操作し、衛星軌道基地の監視システムにログインする。

 そこには、G5イグアスとG13が、どのエリアに出入りしているのかを示す監視データが記録されていた。

 

「ほら見ろ。イグアスの動き、明らかに怪しい。昨日は技術エリアをウロついてたが、今日はハンガーに入り浸ってる」

 

 G5イグアスは交渉団の一員としては明らかに場違いな動きを見せていた。

 彼は護衛任務とは名ばかりに、LC機体や封鎖機構の技術部門に興味を示し、機密区画の近くを頻繁に訪れていた。

 

「LCの機体性能を探ってるつもりか? ……いや、単に面白そうだから動いてるだけかもしれねぇな」

 

 エリオットは肩をすくめながら、ため息をつく。

 

「まぁ、G5が何か仕掛けるなら、こっちも準備しておくべきだろうな」

 

 621は無表情のまま、監視システムを見つめて「了解」と短く信号を返す。

 確かにレッドガン2人の行動は怪しいものだったが、立ち入りが禁止されている区画に強引に立ち入ったり職員から情報を引き出そうとしている素振りもない。

 

 決定的な敵対の証拠もないまま、ただ時間だけが過ぎていくようだった。

 

 ──同時刻、衛生軌道基地・技術棟にて。

 

 G5イグアスは、封鎖機構の技術エリアで展示されていたLC機体の戦術シミュレーション映像を眺めながら、口元を歪めて笑っていた。

 

「なかなか興味深いモンを作ってるじゃねぇか。見せもんとしてなら悪くねえ」

 

 イグアスは、封鎖機構の技術エリアで展示されていたLC機体の戦術シミュレーション映像を眺めながら、口元を歪めて笑っていた。

 

 隣にはG13が控えていたが、彼の表情は硬い。

 

「G5イグアス。無断で技術エリアに入り込むのは問題があります」

 

 G13が慎重に言葉を選びながら諫める。

 

「封鎖機構の機体技術に干渉する意図があると判断されれば、それこそ戦闘が起こりかねません」

 

「あぁ?」

 

 イグアスは振り返りながら、不機嫌そうに唸る。

 

「オレはただ『観察』してるだけだぜ? 別に盗みを働くつもりもねぇよ。それにここは展示スペースだ、見られて困るもんはもっと奥。こんな物、本当の意味で見せ物でしかねえよ」

 

「……しかし、封鎖機構はあなたを監視しています」

 

 G13は、彼の動向を記録しているであろう監視カメラの存在を示唆するように視線を巡らせた。

 

 イグアスはその言葉を聞いても、気にする様子はない。

 むしろ、彼はLC機体のデータを眺めながら、愉快そうに笑みを深めた。

 

「ま、いざとなりゃ戦えばいいだけの話だ」

 

 その無造作な言葉に、G13は眉を寄せた。

 

「……貴方なら執行部隊相手に、戦えると?」

 

 イグアスはその問いに、しばらく沈黙した。

 

「ひよっこ、一つ覚えておけ」

 

 彼は不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。

 

「レッドガンは無敵の部隊だ、いつでも必勝の心構えと準備をしておかなくちゃいけねぇ」

 

 G13はその言葉の意味を噛み締めながら、無言で視線を落とした。

 

「くそ、あのオヤジみたいな事言っちまったな」

 

 イグアスは苦虫を噛み潰した様に表情を歪め、展示スペースから離れた。

 特に目的もなく、直接は咎められないのを良い事に基地の中をフラフラと歩き回る。

 

「まぁ、そろそろ事態が動く頃だ。でかい花火が打ち上がるのを待ってようぜ」

 

 鋭い犬歯を剥き出しにして、イグアスは異名に違わぬ獰猛な笑みでそう呟いた、

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