ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第11話 狂犬

 暗黒の宇宙空間に浮かぶ衛星軌道基地は、静寂の中にあった。

 地上からの熱波や爆発の閃光すら届かない軌道上で、封鎖機構の監視体制は粛々と機能している。

基地の広大な管制センターには無数のモニターが並び、各所のレーダーとセンサーが地表の異常を探知し続けていた。

 

 その時、あるオペレーターが低く声を上げた。

 

「ルビコン3地表、ベリウス地方ボナ・デア砂丘にて大規模なエネルギーの収束反応を確認……!」

 

 その一言が、基地全体の空気を変えた。

 

 各モニターが即座に解析を開始し、地表に展開している偵察ドローンの映像が拡大される。

 その視界に収められたのは、解放戦線が保有する巨大歩行兵器――武装採掘艦ストライダー。

 

 本来ストライダーは惑星封鎖機構の脅威となるような兵器ではなかった。

 あの巨躯は本来戦闘用ではなく、コーラルを採掘、保管するための移動拠点として設計されたものだったからだ。

 だが、それが現地の技術者集団Radによる大規模改造を経て、戦場に転用され、解放戦線の旗印として運用されるようになってからは、事情が変わっていた。

 

 ストライダーは、巨大な6本の脚でルビコン3の荒廃した大地を踏みしめながら進軍する巨大歩行要塞と成り果てていた。側防火器として幾つもの連装砲塔やミサイル発射装置を備え、背部には巨大な球体型EN兵器、アイボールを背負う。その異形ともいえる巨躯は、解放戦線の運用する最大の兵器だった。

 

 解放戦線が唯一、封鎖機構と対等に戦えると信じる兵器――だが、実際はその戦力をもってしてもLC部隊に正面から挑むことはできない。

 ゆえに彼らは、ゲリラ戦術と攪乱を駆使し、機会を窺っていたのだ。

 

 そのストライダーが、今、軌道上の基地を狙って主砲たるアイボールを発射しようとしている。

 

 封鎖機構の指令室に、低く緊張した声が響く。

 

「レーザー収束率100%を超えて更に上昇中……これは、この衛星軌道基地に届きうる出力です」

 

 これまで、解放戦線の砲撃が軌道上にまで届いた例はない。

 通常の運用では、そのエネルギーは大気圏で拡散し、宇宙に届くことはない。

 そもそもが、アイボールは対地砲撃を目的とした地上運用兵器に過ぎない。それを空に、まして、衛星軌道上の基地に向けて放つなぞ到底あり得ない事だ。

 

 無理に出力と収束率を上昇させて衛星軌道に到達させたとしても、そんな無茶な使用が出来るのは一度きり……精度も威力も心許なく非効率この上ない運用法。

 

 だが、ルビコン解放戦線は何を血迷ったのか、その無謀な運用を実際に行おうとしている。

 

「ストライダーがエネルギーの照射を開始!」

 

 モニターが白く光に包まれた。

 次の瞬間、衛星軌道基地の外壁をかすめる形で、ストライダーのアイボールが放った超高出力レーザーが通過した。

 

 轟音が宇宙には響かない。

しかし、その光が衛星軌道基地のセンサーを一時的に狂わせ、金属外壁に焼け焦げた跡を残した。

 

 衝撃はなかった――被害も、ない。

 例え直撃したとしても、分厚い装甲を貫通する事はなかっただろう。

 

 しかし、これで良かった。

 衛星軌道基地が危機に襲われる、その状況が、彼らの目的だったのだ。

 

「直撃は避けた……が、コース計算とエネルギー収束のパターンが不自然です」

 

「迎撃の必要は……ない。これは攻撃ではない……!」

 

 惑星封鎖機構の士官たちはすぐに状況を理解した。

ストライダーのレーザーは本来、衛星軌道基地を脅かせるほどの兵器ではない。それがオーバーチャージによる一撃のみで軌道基地に達したのは偶然ではなく、意図的な示威行動だった。

 

 これは攻撃ではなく、口実を作るための一撃。

 

 そして、それに即座に反応する者たちがいた。

 

「ベイラム交渉団、条約第6条に基づく『自衛権の行使』を宣言!」

 

「G5イグアス及びG13、その他レッドガンAC部隊が降下準備を開始!」

 

 グレイ執行上尉は静かに目を閉じ、手元の端末を操作した。

 ホログラフィックスクリーンには、降下作戦のデータが映し出される。

 

「……そう来たか」

 

 交渉の名目で滞在していたベイラム・インダストリーの交渉団は、最初からこの筋書きを描いていたのだ。

 ルビコン3への護衛部隊降下という名の実質的な戦力投入――

 それを条約上の正当性を持って実行するために、ストライダーを使ったのだ。

 

「……クソッ、解放戦線と企業の共謀か!」

 

 エリオットが低く舌打ちする。

 

 621は無言で端末を操作し、最新の降下データを確認する。

 レッドガンの部隊は、解放戦線のストライダーが展開しているエリアに直接降下。

 その後、独自に行動を開始する可能性が高い。

 

「グレイ執行上尉!降下を今すぐ辞めさせましょう!こんなの、あからさまな口実作りだ!」

 

 グレイは無表情から微かに眉を顰め、降下作戦の概要を睨み付ける。そして重く口を開いた。

 

「それは出来ない。自衛権の行使は条約に則った行為だ。システムからの返答は、問題なし、と来ている」

 

「そんな……我々の対応は?」

 

「条約違反にならない範囲で、準備を進める。LC・HCの出撃準備を整えろ」

 

 

 

 

 

 衛星軌道基地のハンガーには、二つの異なる動きがあった。

 

 一方は、整然と出撃準備を進める惑星封鎖機構のLC部隊。

 もう一方は、まるで戦争とは無縁であるかのように悠然と振る舞うベイラム交渉団の一行。

 

 ハンガーでは封鎖機構の整備兵たちがLC機体へと次々に武装を搭載し、エンジンの調整を行っていた。

各パイロットたちはコックピットへ向かい、システムチェックを開始する。

 封鎖機構のLC部隊にとって、出撃命令が下ることは日常茶飯事だ。

 だが、今回は「条約違反にならない範囲での出撃準備」

 すぐに出撃するわけではなく、あくまで「抑止力」としての示威行動だった。

 

「機体システムチェック、異常なし」

 

「冷却ユニット正常作動」

 

「武装装填完了、随時発進可能」

 

 整然と行われる準備作業の中、LCパイロットたちは不機嫌そうな表情を隠さずにいた。

 ストライダーの砲撃が掠めた程度で、ベイラムが堂々と「自衛権の行使」を名目に地上へ降下する。

 そんなあからさまな策略を前にしても、封鎖機構はそれを阻止する権限を持たない。

 

 エリオットは、忌々しげにヘルメットを手にしながら、隣に立つ621へと目を向けた。

 

「……まったく、気に食わねえな」

 

 彼は愚痴るように言いながら、自らのLC機体へと向かう。

 621もまた、何も言わずに機体のコックピットへ乗り込むための昇降リフトへと車椅子を進めた。

 

 そんな緊迫した雰囲気の中、まるで戦争などどこ吹く風といった様子で、悠々とシャトルへと向かう集団がいた。

 

 ベイラム交渉団――そして、レッドガン部隊の二名。

 

 彼らの動きは、まるでこの戦場の中心にいるのが自分たちであるかのように優雅で、無遠慮だった。

 

 交渉団のスーツに身を包んだ人々は、余裕の笑みを浮かべながら封鎖機構の士官たちに軽く会釈をする。

だが、その笑みは「お前たちはもう負けている」とでも言いたげな、挑発に近いものだった。

 

 特に、技術部門主任は、封鎖機構のパイロットたちの視線を一身に受けながら、まるで何も感じていないように歩く。

 その背後では、G5イグアスがニヤニヤと笑いながら同行し、G13は無言のまま歩いていた。

 

 エリオットがコックピットへと向かう途中、忌々しげに呟く。

 

「……アイツら、好き勝手しやがって」

 

 621もまた、静かに彼らの姿を見つめた。

 封鎖機構のパイロットたちが、すでに戦闘準備を整えた状態で待機している中、彼らは「これからルビコン3へ降りる」という確信を持って、悠然と歩いている。

 

 彼らの態度は、まるで「この場に封鎖機構のLC部隊など存在しない」と言わんばかりだった。

 

 その様子に、グレイ執行上尉もまた、冷ややかな目を向ける。

 

「技術主任殿」

 

 技術主任は立ち止まり、余裕の笑みを浮かべながら振り返る。

 

「……執行上尉殿、何か?」

 

 グレイは淡々とした声で言葉を紡ぐ。

 

「条約の範囲内であれば、貴様らの行動は許容される。だが、一歩でも越えれば、容赦はしない」

 

 技術主任は、その言葉に「困ったな」とでも言いたげに微笑んだ。

 

「もちろん、我々はあくまで『合法的な範囲』で動くだけですとも。解放戦線に対し、自衛を行うだけです」

 

 その背後で、イグアスが肩をすくめた。

 

「おいおい!何度も言ってるだろ、そんなに疑われたら悲しくなるぜ」

 

 彼は封鎖機構のパイロットたちをぐるりと見回し、軽く鼻を鳴らした。

 

「……ま、地上で再会するのが楽しみだな?」

 

 一通り周囲を見渡したイグアスの視線が、LC機体へと乗り込もうとする621へと向けられた。

 

 一瞬、ふたりの視線が交錯する。

 

 傍らに立つG13が「どうしました?」と目で問いかけるが、イグアスはニヤリと笑うだけだった。

 

「ちょっと待ってろよ。気になるもんを見つけた」

 

 そう言い残すと、彼はシャトルから踵を返し、悠然とした足取りで衛星軌道基地のハンガーへと戻り、出撃準備を進める621の元に歩み寄った。

 

「よぉ、お前——」

 

 イグアスのラフな声が響く。

 

 621は無表情のまま、その赤い瞳で彼を見上げる。

返答はない。

 

「……ったく、無視かよ」

 

 イグアスは口の端を吊り上げる。

 彼は軽く顎をしゃくって、621の全身を品定めするように眺めた。

 

「随分と華奢だな。強化手術受けてんのに、そのザマか?」

 

 その言葉に、LC部隊のパイロットたちが一瞬だけ視線を向ける。

 だが、621は相変わらず無反応。

 

 無視されることには慣れていたが、それでもイグアスは挑発を続ける

 

「なんつーか、無機質すぎるんだよな。まるで工場から出てきたばっかの新品みてぇな顔しやがって」

 

 イグアスは腕を組み、じっくりと621の目を見つめる。それに対し、621は、まるでイグアスがそこにいないかのように、ただ無言で立ち尽くしていた。

 

 だが、イグアスは確信していた。

 この無言は、ただの無関心ではない。

 

 彼女の沈黙は、「会話する価値なし」という意思表示に近かった。

 

 それを理解したイグアスは、ニヤリと笑う。

 

 

「——おい、なんだその目は。俺を”価値なし”だとでも思ってんのか?」

 

 挑発の色を帯びた声色。

 だが、621はやはり無言のまま、端末を操作しようとした。

 

 次の瞬間——

 

 イグアスが、621の手首を掴んだ。

 

 空気が張り詰める。

 

「……なあ、お前、もうちょっと人間らしくしろよ。いけすかねえやつだ」

 

 イグアスはわざと力を込めずに、だが逃れられない程度の強さで621の手を抑えたまま、その手首の細さを確かめるように親指を動かす。

 

「顔はそこそこいいのに、痩せ過ぎだな」

 

 621の赤い瞳が、一瞬だけわずかに細められた。

 

その変化に気づいた瞬間、イグアスの笑みが深くなる。

 

「お? なんだ? 反応したじゃねぇか」

 

 その時、低い声が割って入った。

 

「……G5。そこまでにしてもらおうか」

 

 声の主はエリオットだった。

 

 彼はLCのコックピットに乗り込む途中だったが、イグアスの行動を見て動いたのだろう。

 

 イグアスは、わずかに肩をすくめる。

 

「チッ、バディのお出ましか」

 

 彼は呆れたように手を離した。

 

 621は何事もなかったかのように端末の操作を再開し、再び昇降リフトへ向かう。

 

 イグアスはそれを見て、クツクツと喉を鳴らした。

 

「ま、いいぜ。今はこれくらいにしといてやる」

 

 彼はエリオットの横を通り過ぎる際、耳元で囁く。

 

「——でもよ、次はもう少し可愛い反応をしてくれるといいな?」

 

 その挑発的な言葉を残し、イグアスは悠々とシャトルへと戻っていった。

 

 彼の背後で、エリオットが溜息をつく。

 

「……面倒なのに目を付けられたな、621」

 

 だが、621は何も答えない。

 

 ただ、無表情のまま、黙々と出撃準備を続けるだけだった。

 

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